複合的要因による 重症呼吸不全の1例 与論徳洲会病院 初期研修医 江良正 熊谷健太 緒言 ○高齢者の病歴聴取はしばしば困難である。 ○治療が進むにつれて明らかになる基礎疾患 も少なくない。 ○臓器の予備能が低下しているため、重症化 しやすく、合併症も伴いやすい。 ○経過が進むに伴って様々な病態を呈すること がある。 症例 【患者】 89歳女性。一人暮らしでADL自立。 【主訴】 発熱・呼吸困難 【既往歴】 慢性心房細動、慢性心不全、高血圧 (喘息治療歴はないが、季節の変わり目にゼイゼイ) 【内服薬】 アムロジン(5)1T1× バイアスピリン(100)1T1× セルベックス(50)3cp3× 酸化マグネシウム3包3× 病歴 【現病歴】 受診1か月前から労作時呼吸困難出現。受診日に 発熱と呼吸困難が出現したため受診(詳細不明)。 【身体所見】 BP140/80 HR108 BT37.4℃ SpO2 84% RR22 HEENT:頭頸部に特記すべき異常所見なし 呼吸音:両側下肺野にCoarse Crackle聴取 心雑音:erb領域に最大の収縮期雑音聴取 腹部:平坦、軟、圧痛なし、腸蠕動音並 四肢:発赤、腫脹、浮腫なし 【検査所見】 Hb 10.6 Ht 32.0 Plt 20.3万 WBC 14400(Neu90.9%) BUN 32.8 Cre 1.0 Na 136 K 4.5 Cl 95 AST 33 ALT 23 ALP 293 CRP 27.4 Glu 153 TP 6.2 Alb 3.2 【喀痰グラム染色】 GPC(+)、GNR(+) WBC多数(貪食像あり) 【胸部レントゲン】 入院時CT 両側下肺野が主病変の肺炎像 入院時治療方針 【臨床診断】 肺炎 【治療】 ABPC/SBT1.5g1日4回点滴 絶飲食+SD3A80ml/hr 経過① ○入院当日、喀痰で窒息して呼吸状態悪化し、 人工呼吸器管理となる。 ○1病日、ARDSと診断し、エラスポール200mg1 日1回、CPFX300mg1日2回点滴開始。 ○5病日、肺炎への治療効果不十分と考え、 MEPM0.5g1日2回点滴開始。 経過② ○8病日、抜管。 右多量の胸水貯留。 →胸水穿刺・排液 喘鳴聴取し、うっ血性心不全と診断。 →ラシックス静注開始。 胸部レントゲン所見の推移 心拡大 2病日 7病日 胸水貯留 4病日 8病日(胸水排液後) 経過② ○11病日、喘鳴持続したため、喘息の診断でソル・コー テフ開始。 ○14病日、喘鳴消失したため、ソル・コーテフ減量。 ○17病日、ソル・コーテフ終了。 ○21病日、意識状態低下し、バックマスクで換気。喘息 再燃と診断し、PSL20mg/日で内服開始。 ○24病日、PSL30mg/日に増量。 ○31病日、呼吸状態改善し、PSL25mgに減量。以後 5mg/weekのペースでPSL漸減。 胸部CT画像の推移 入院日 両下葉の肺炎 16病日 右上葉無気肺、下葉胸水 心拡大 35病日 無気肺、胸水、 炎症像ともに消失 考察 ○高齢者の重篤な肺炎に続発して胸水貯留や 無気肺が生じた。 ○治療歴の詳細が不明確だが、基礎疾患とし て慢性心不全、気管支喘息が存在していた。 ○経過の中で様々な要因が関与して呼吸不全 の病態を形成した。 治療の推移 肺炎+喀痰窒息 うっ血性心不全 胸水 気管支喘息 CRP 挿0病日 管 pCO2 5 ABPC/SBT 抜 管 10 ソル・コーテフ点滴 CPFX 15 20 バック換気 PSL内服 MEPM ラシックス 胸水穿刺 25 32 呼吸不全について ○呼吸不全とはpO2<60mmHg(SpO2<91)の状態 ○低酸素血症になると、頻脈、不整脈、血圧上昇、 脳神経障害、意識障害が生じる。 ○pCO2の貯留によって1型と2型に分類する。2型 はCO2ナルコーシスの危険性があるため、酸素 投与量を制限する必要がある。 1型呼吸不全 ○1型呼吸不全は酸素化障害。換気と循環の 連動ができていない状態。pCO2<45mmHg ○主な病態 *換気血流不均衡・・・下側肺障害 *シャント・・・無気肺 *拡散障害・・・間質性肺炎、肺水腫、ARDS 肺胞 血流 間質 血流 2型呼吸不全 ○2型呼吸不全は換気障害。肺胞での換気が できていない(1回換気量が保てない)。 pCO2>45 ○主な病態 *末梢気道狭窄・・・気管支喘息、気管支炎 *呼吸筋運動低下・・・神経筋疾患、COPD 気流 気流 末梢気管支狭窄 呼吸筋障害 呼吸細気管支 肺のモデル 病態の推移 下肺葉肺炎 青字:1型呼吸不全の要因 赤字:2型呼吸不全の要因 換気血流不均衡 喀痰窒息 末梢気道狭窄 挿 管 0病日 胸水 シャント? 呼吸筋運動低下? 抜 10 5 管 15 20 うっ血性心不全 拡散障害 気管支喘息 末梢気道狭窄 25 32 結語 ○高齢者に肺炎が発症し、経過の進行にとも なって様々な呼吸器疾患の病態を呈した。 ○呼吸器病理の復習をするよい機会となった。
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