1C02 超高速時間分解近接場顕微測定による金ナノロッドにおける プラズモン波ダイナミクスの時空間観測 (分子研 1,総研大 2,早大・理工 3)○西山 嘉男 1,成島 哲也 1, 2,井村 考平 3, 岡本 裕巳 1, 2 Spatio-temporal observation of plasmon-wave dynamics in gold nanorods by ultrafast time-resolved near-field optical microscopy (Institute for Molecular Science1, The Graduate Univ. for Advanced Studies2, Waseda Univ., School of Advanced Science and Engineering3) ○ Yoshio Nishiyama1, Tetsuya Narushima1,2, Kohei Imura3, Hiromi Okamoto1,2 [序] 貴金属ナノ構造体は、プラズモンを起源として光をナノスケールに閉じ込めることができる 特異な性質を持ち、様々な分野で注目されている。その性質を理解し利用するためには、プラズ モンの時間的・空間的な特徴を直接観測することが基礎科学的な重要性をもつ。しかしながら、 プラズモンの空間スケールと位相緩和の時間スケールを考慮すると、ナノメートルの空間分解能 と 20 fs を切る時間分解能を必要とし、これを同時に実験的に実現するのは容易ではない。 近接場光学顕微鏡(SNOM)はプラズモンの空間構造を可視化するのに強力な手法であるが、我々 は光パルス整形技術の適用によって、20 fs を切る時間分解能を実現する超高速 SNOM 装置を開発 した[1]。本研究では、超高速時間分解 SNOM 測定を、金ナノロッドにおけるプラズモンのダイナ ミクス観測に適用した。 [実験] 本研究で用いた超高速 SNOM 装置は既報のもの[1]を基本に改良を加えたもので、チタン サファイアレーザー(パルス幅 12 fs, スペクトル幅 80 nm) 、マイケルソン干渉計、分散補償光 学系、SNOM から構成される。SNOM では、約 100 nm の開口を持つ近接場ファイバープロー ブによって回折限界を超えた空間分解能を実現できるが、光ファイバーによる分散のため大幅な パルス幅の広がり(12 fs→数 ps)が生じる。そのため、回折格子対、チャープミラー、可変形鏡 を用いたパルス整形を組み合わせることで分散の前補償を行った。パルス波形の最適化は、プロ ーブ直下で BBO 結晶により発生した第二高調波(SHG)の強度が最大になるようフィードバッ クをかけることで行った。 パルス波形の最適化後に得られた近接場光の SHG 自己相関信号から、 近接場光のパルス幅は約 15 fs と評価された。試料の時間分解測定では金の二光子誘起発光 (TPI-PL)を検出した。プラズモン共鳴は TPI-PL における二光子励起の中間状態となる。近接 場超短パルス対を用いて試料の各位置でポンプ・プローブ測定を行い、時間遅延の関数として TPI-PL 強度を検出することでプラズモンのダイナミクスを観測した。また、プラズモンの空間構 造を観測するために、狭帯域の波長可変 fs レーザー(波長 680-1600 nm, スペクトル幅<5 nm) を用いて TPI-PL を検出する近接場二光子励起イメージング測定を行った。実験試料として長さ の異なる2つの金ナノロッド a, b を電子線描画法により作成した。サイズは試料 a : 長さ 405 nm, 幅 55 nm, 厚さ 20 nm , 試料 b : 長さ 1050 nm, 幅 70 nm, 厚さ 20 nm であった。 [結果・考察] 長さの短い金ナノロッド試料 a は励起光パルスのスペクトル幅内に単一のプラ ズモン共鳴(共鳴波長 ~840 nm)を示した (図 1) 。近接場二光子励起イメージングによりその 空間構造を観測したところ、定在波状のプラズモン波動関数に対応する空間振動パターンが 確認され、3次の縦プラズモンモードであることが分かった(図 2(a))。ナノロッド上で時間分 解信号を観測したところ、装置応答である SHG 自己相関信号に比べてプラズモンの位相緩和 に由来する信号の広がりが明瞭に確認できた(図 2(b))。この広がりから位相緩和時間が 15 fs であると評価した。 一方、より長さの長い試料 b では光パルスのスペクトル幅内に二つのプラズモン共鳴(共鳴 波長 ~805 nm, ~865 nm)が確認され (図 1) 、それぞれの共鳴波長での近接場二光子励起像(図 3(b),(c))から、それらが7次および6次の縦プラズモンモードに対応することがわかった。こ のロッド内部で時間分解信号を測定すると、位置により時間応答の異なる信号が確認され、 例えばロッドの端近傍では信号のリカレンスが観測された(図 3(a))。さらに、各位置での時間 分解信号から時間分解近接場像を再構成すると、像の特徴的な時間変化が観測された。時間 遅延 0 fs での過渡近接場像では、二つの異なるモードが同時に励起されるために空間振動パ ターンが不明瞭であるが、時間遅延が 20 fs 近傍になると6次と7次のモードに対応する明瞭 な空間パターンが交互に出現する変化が観測された (図 3(d), (e))。この空間パターンの交替は プラズモンの振動周期の約 1/2 (1.3 ~ 1.5 fs)で起こっていた。これは二つのプラズモンモード の位相が、二つのモードの同時励起後 20 fs で反転していることを表している。位相の反転は 励起された二つのプラズモンの振動数の違いによって生じ、実際に二つのモードの共鳴振動 数の差から 20 fs 付近で位相が反転することをモデル計算でも再現することができる。即ち、 本研究でプラズモンの波のダイナミクスを空間像の時間変化として観測することに成功した。 [1] H. J. Wu, et al. Appl. Phys. Express, 5, 062002 (2012) . 図 2 図1 試料 a(青線), b(赤線)の近接場 (a) 試料 a の近接場二光子励起像(励起波長 840nm)。破線はロッドの概形。(b) 試料 a の時間分解 消光スペクトルおよび照射超短パルス TPI-PL 信号(赤線)および BBO の SHG 自己相関信号 のスペクトル(黒破線)。 (青線)。 図3 (a) 試料 b の時間分解 TPI-PL 信号。 (b ,c) 励起波長 800 nm (b), 870 nm (c)での試料 b の近 接場二光子励起像。破線はロッドの概形。 (d, e) 遅延時間 18.4 fs (d), 19.7 fs (e)での過渡近接場像。
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