サルモネラ属菌(食中毒)

公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
【サルモネラ属菌(食中毒)】Ver.1.00
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保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
サルモネラ属菌(食中毒)
1.概要
感染進入型食中毒原因菌である(1)。経口摂取された菌が腸管内に入り定着増殖
し、さらに腸管上皮細胞や組織内に進入して食中毒を引き起こす(1)(2)。菌はほと
んどの動物が保菌し(3)、自然環境に広く分布する(1)。頻度の高い感染源は日本で
は鶏卵および鶏肉、ブタ肉等の畜産物である(4)。水による集団発生例もある(4)。
近年では感染力が強く鶏卵(卵殻内)を汚染しやすい Salmonella enteritidis によ
る感染が多発流行し死亡例も報告され注目を集めている。サルモネラ属菌はここ数
年、腸炎ビブリオと一、二を争う代表的食中毒原因菌である。1998 年の食中毒統計
によると、事件数は 757 件、患者数は 11,471 人と、細菌性食中毒の中ではともに 2
位であり、死亡例は 1 人報告されている(5)。
潜伏期間は多くが 12~36 時間で、悪心、嘔吐、下痢(しぶり腹を伴う)を主症
状とする(1)。多くは数日で自然回復するが、ときに脱水症状が著明で虚脱状態と
なることや、敗血症、意識障害、痙攣、多臓器不全などを起こすことがある(1) 。
菌は熱に弱く、加熱調理で死滅する。
2.毒性
1989 年~1998 年における食中毒統計によると患者数は 105,051 人、死者
数は 8 人 (死亡率 0.008 %)報告されている(5)
Salmonella enteritidis
・1936 年浜松市での大福餅中毒事件での患者数は 2,201 人、死者数は
45 人(死亡率 2.0 %)であった(2)
Salmonella oranienburg
・1998 末~1999 年 5 月乾燥イカの加工品(駄菓子、全国流通)での患者
数は 1,505 人で、死亡例はなかったが、後腹膜膿瘍形成や、化膿性脊
椎炎の症例が報告されている(Salmonella Chester も一部検出)(6)
死亡率は 0.1~0.2 %という報告もある(4)
発症菌数:一般には 100 万個以上必要といわれてきたが、100~1,000 個
でも発症する(4)
小児および老齢者は感受性が高く数個から十数個の感染でも発
症する。10 個内外の菌数で発症した水系感染事例もある(4)
菌が腸管内に入り定着増殖し腸管上皮細胞や組織内に進入し発症する(1)(2)
3.症状
潜伏期間は多くが 12~36 時間である(1)。3 時間~7 日まで報告がある
(1)(4)(7)
発熱または腹痛で急激に発症し、さらに悪心、嘔吐、下痢(しぶり腹を伴
う)を主症状とし、発熱は 38℃前後のことが多く、便は主に水様でとき
に粘血便となる(1)
重症では、ときに脱水症状が著明で虚脱状態となることや、敗血症を併発
することがある(1)。意識障害、痙攣、多臓器不全などを起こすことが
ある(1)
小児では症状がより重症で、敗血症を併発しやすい(4)。また老齢者や基
礎疾患のある成人では病巣感染を起こしやすい(4)
多くは数日で自然回復する(1)
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4.処置
家庭で可能な処置
なし
医療機関での処置
1) 体液、電解質の補正を行う。軽症例では安静と食事療法でよく、大
量の下痢では輸液を行う(1)(7)
2) 止しゃ剤の感染性下痢症への使用はかえって病態を悪化させること
がある(1)
3) 抗菌剤は軽症例では原則として使用しない。抗菌剤は菌の薬剤耐性
を誘導し、排菌期間を長期化する傾向があるといわれる(1)(4)。高
熱、激しい下痢の例、基礎疾患のある場合などに限り抗菌剤を使用
する(1)(抗菌剤使用上の注意は「治療上の注意点 5)」参照)
5.確認事項
1) 摂取した食品を確認する。
鶏卵、食肉などの畜産物が原因食品といわれる
2) 摂取時刻、症状発現時間、同じ食事を摂取した人の症状の有無
3) 患者の状態:腹痛、下痢、発熱、嘔吐の有無。その他の症状など
6.情報提供時の要点
1) 症状がある場合はすぐに受診を指示
2) 食品が残っていれば、冷所に保管する(1)
7.病態
経口摂取された菌が腸管内に入り定着増殖し、さらに腸管上皮細胞や組織内
に進入して食中毒を引き起こす(1)(2)
8.治療上の注意点
1) 診断予測(臨床症状より)
下痢が 24 時間以上続き、37.7℃以上の発熱があり、血便または嘔気・嘔
吐を伴う腹痛がある場合は、サルモネラ食中毒(便の菌培養で陽性とな
る)である可能性が高い(7)
2) 吐物、下痢便があれば、冷所に保存する
3) 確実な診断は菌の分離によらなければならない(4)。糞便、血液、原因食品
の菌培養を行う(7)
4) 下痢等の腸内感染にとどまらず、敗血症等の全身感染に移行し死亡する場
合もある(6)。症状の変化には十分注意を払う(6)
5) 保険適応がある抗菌剤は、ニューキノロン系(トスフロキサシン、レボフ
ロキサシン、ノルフロキサシン)、ホスホマイシン、クロラムフェニコー
ルなどである(8) 。また、アンピシリンが有効との文献もある(1)
6) 他の食中毒菌に比べて排菌期間が一般に長く(1)、排菌は、約 50 %の患者で
は回復後 2~4 週間、10~20 %の患者では数ヵ月におよぶ(4)。特に、抗菌剤
投与患者では回復後も長期にわたって排菌が続く傾向があるといわれる(4)
7) 中毒患者等の届け出
食品、添加物、器具若しくは容器包装に起因して中毒した患者若しくはそ
の疑いのある者を診断し、またはその死体を検案した医師は、直ちに最寄の
保健所長にその旨を届け出なければならない(食品衛生法 第 58 条)(4)
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9.予防・その他
1) 予防:特に食肉、鶏卵の低温保存管理、汚染防止が基本である
<1>食肉類取り扱いやペット(小動物)の汚染に注意し手洗いを励行し(1)、
<2>食品の中心部分が 75℃、1 分以上火が通るよう加熱し(3)、<3>新鮮な
鶏卵を使用し、小児、老齢者および病人は生または半熟のものは避ける(4)
2) 性状等:通性嫌気性菌で、乾燥によく抵抗する(4)。最低発育温度は 5~7℃で
あり、菌は 65℃、3 分の加熱で死滅する(3)
3) サルモネラは感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律で 4
類感染症(定点把握疾患、小児科定点)と規定される感染性胃腸炎の起因病原
体の 1 つであり、指定届出機関管理者は発生数を都道府県知事に届け出る(9)
10.参考文献
(1)三輪谷俊夫監修:食中毒の正しい知識改訂版,菜根出版,東京,1993.
(2)坂崎利一編:食中毒,中央法規出版,東京,1981.
(3)東京都衛生局生活環境部編:こうしておこった食中毒改訂版,1996.
(4)厚生省生活衛生局監修:食中毒予防必携,(社)日本食品衛生協会,1998.
(5)厚生省生活衛生局食品保健課編:平成 10 年食中毒統計,2000.
(6)感染症情報センター:病原微生物検出情報,21(8):162-163,2000.
(7)POISINDEX:FOOD POISONING-SALMONELLA, Micromedex Inc., 2001.
(8)日本医薬情報センター編:医療薬日本医薬品集,薬業時報社,東京,1999.
(9)厚生労働省ホームページ 法令等データベースシステム,2001 年 7 月.
11.原因菌
Salmonella は腸内細菌科の 1 菌属で、2,500 種類の血清型に分けられる(4)。法
定伝染病として指定されているチフス菌、パラチフス菌を除くサルモネラは
食中毒原因菌として扱われる(1)
原因菌として多いのは、Salmonella enteritidis, Salmonella typhimurium,
Salmonella infantis, Salmonella oranienburg, Salmonella thompson,
Salmonella hadar, Salmonella corvallis, Salmonella litchfield,
Salmonella montevideo, Salmonella agona などである
検出数では、1988 年までは Salmonella typhimurium が、1989 年以降は
Salmonella enteritidis が第一位(1996~1998 年では 2 位以下の 10 倍以上
にあたる)である(6)
12.作成日
20010813 Ver.1.00
ID M70315_0100_2
新規作成
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