#9602 カルロス・ゴーン社長の 改革にみるコスト削減のヒント 目次 1.日産自動車復活の軌跡 1 2.カルロス・ゴーン社長の改革にみるコスト削減のヒント 3 1.日産自動車復活の軌跡 1)復活を遂げた日産自動車 99年10月、新たに日産自動車の社長に就任したカルロス・ゴーン氏は経営再建計画と して「日産リバイバル・プラン(NRP)」を発表した。このNRPの中で経営陣は3つの大胆 なコミットメント(必達目標)を掲げて、これらのコミットメントのいずれか一つでも 達成できない場合には経営陣全員が辞任すると公約し、確固たる決意を示した。 そして、NRPは2000年4月から実行に移され、打ち出されたコミットメントはすべて1年 前倒しで達成された。 【日産リバイバルプラン(NRP)で掲げられた主なコミットメント】 ○2000年度に、連結当期利益の黒字化を達成 ○2002年度に、連結売上高営業利益率4.5%以上を達成 ○2002年度末までに、自動車事業の連結実質有利子負債を7000億円以下に削減 NRPの成功とその後の日産自動車の復活ぶりは、数字の面からも明らかだ。 連結当期純利益(損失)は、巨額の赤字を記録した99年度からわずか1年で黒字化し、 2002年度には過去最高益となる4950億円を計上。また、98年度に2兆1000億円あった連結 自動車事業実質有利子負債も完全に解消され、2002年度末には80億円のキャッシュポジ ションとなった(同一会計基準に基づく)。 【連結当期純利益(損失)の推移】 21,000 4,950 5,000 3,311 3,723 19,000 3,000 1,000 -1,000 【連結自動車事業実質有利子負債の推移】 (億円) 24,000 (億円) 7,000 13,490 14,000 -277 9,530 9,000 -3,000 4,320 -5,000 4,000 -7,000 -6,844 -9,000 98 99 2000 2001 2002 (年度) -1,000 98 99 2000 2001 -80 2002 (年度) (出所:日産自動車) (注)2002年度は2003年4月23日に公表された暫定値であり、修正の可能性がある。 -1- 2)コスト削減が復活要因 日産自動車復活の最大の要因といえるのが“コスト削減”である。豊富な経験に裏づ けられたその経営手腕からコストカッターと呼ばれたゴーン社長の本領が発揮された形 だ。 中でも日産自動車の業績回復に大きく貢献したのは、全コストの60%を占める購買コ ストの削減であった。 コスト削減は、技術開発部門と購買部門が一体となって取り組んだ。取引先であるサ プライヤー(部品メーカー)から具体的な原価低減策を募り、7万件にも及ぶ提案を集め た。集められた提案は精査され、実現可能なものから順次採用された。 また、従来のサプライヤーとの取引関係の見直しも行われた。部品・素材の集中購買 化を進めるために、取引するサプライヤーの数を99年の1145社から、2002年には600社へ とほぼ半減させた。 こうした活動の結果、日産自動車は目標である「3年間で20%のコスト削減」を上回る ペースで、購買コストの削減に成功したのだ。 【日産リバイバルプラン(NRP)における購買戦略】 目標:3年間で20%のコスト削減(およびその早期実現) 活動: ○部品・素材の集中購買化 ○グローバル購買戦略にサービスを含める ○サプライヤー数の削減 ○競争力のあるグローバルサプライヤーとのパートナーシップ ○仕様削減と標準化への挑戦 ○ルノーとの提携 【購買コスト削減の推移】 (%) 0.0 0.0 -5.0 -8.0 -10.0 目標 -11.0 実績 -14.5 -15.0 -20.0 -20.0 99年度 2000年度 2001年度 -20.0 2002年度 (出所:日産自動車) (注)99年度を基準に計算。 -2- 2.カルロス・ゴーン社長の改革にみるコスト削減のヒント 日産自動車のコスト削減は、外国人でありコストカッターと呼ばれたゴーン社長だか らこそできたともいえる。 一連の改革の中では、村山工場をはじめとする5工場の閉鎖、2万人を超える人員削減、 500社を超えるサプライヤーとの取引停止など、痛みを伴なうものも多かった。一時は 「サプライヤーとの取引見直しは、単なる下請けいじめではないのか」「販売台数は伸 びていないのに、完全な復活といえるのか」など、さまざまな批判もあった。 しかし、ゴーン社長によって行われた一連の改革によって日産自動車は危機を乗り越 え、再生を果たしたことはまぎれもない事実だ。日産自動車の改革から学ぶ点は多い。 こうした点を踏まえ、以下ではコスト削減のヒントを挙げてみる。 (イ)具体的な数値目標を設定する ゴーン社長は「3年間で20%のコスト削減」という明確な数値目標を示した。それに よって、20%という数値が明確な目標として従業員や取引先の間で共有化され、目標の 達成につながった。 単にコスト削減を唱えるのではなく、何%コストを減らすのか、部品1個につき何円原 価を下げればよいのか、といった具体的な数値目標を設定する意義は大きい。 (ロ)達成期限を定める 目標の数値と同様に大切なのが、いつまでに達成するのかという期限を定めることだ。 NRPで掲げられた主なコミットメントには、いずれも“いつまでに”という期限が設定 されていた。期限が3年と短かかったため、スピード感を持って素早くコスト削減に取り 組んだことが、目標の1年前倒しでの達成につながった。 (ハ)責任を明確にする NRPではコミットメントが達成できない場合には経営陣全員が辞任すると公約するな ど、経営責任者としての立場と進退が明確にされた。経営者が責任をとることを明らか にしたため、目標は必ず達成すべきものとなり、従業員の間に危機感が芽生えた。 (ニ)危機感を共有する NRPで、ゴーン社長は日産自動車の置かれている厳しい現状を広く社の内外に語った。 日本語で熱く語りかけるゴーン社長の姿は、テレビなどでも放送され、社内外の人に危 機感を植え付けた。このままではいけない、という危機感が従業員や取引先の間で共有 化されたことにより、改革が断行できた。 (ホ)社の内外から広くアイデアを集める コスト削減を行うのに自社内だけでアイデアを集めていても限界がある。日産自動車 では取引先のサプライヤーから具体的な原価低減策を募り、7万件にも及ぶ提案を集め た。この提案を精査し実践することが、コスト削減策につながった。 -3- (ヘ)過剰品質のムダをなくす かつて日産自動車では他のメーカーでは良品な製品でも不良品にするなど、過剰に品 質にこだわる部分があったともいわれる。この過剰品質というムダを仕様削減と標準化 によってなくすことでコスト削減を行った。 品質を重視するのは大切なことだが、過剰品質はコスト増につながる。過剰品質のム ダとりをし、適切な品質管理を行うことはコスト削減の点からも効果がある。 (ト)グローバルな戦略を実践する 日産自動車はルノーとの提携により、生産や販売の相互補完や、部品の共同購買など が可能になった。海外企業との資本提携を生かし、グローバル戦略を推し進めることが、 同社のコスト削減につながった。 予定より1年早い2002年3月にNRPが完了した後、日産自動車では2002年4月から成長へ の新たな3カ年計画である「日産180」を実施している。「日産180」は、「2001年度比で 100万台の販売台数増」「連結売上高営業利益率8%以上の達成」「連結自動車事業実質 有利子負債をゼロにすること」の3つを新たなコミットメントとしている。 同社が2003年4月23日に発表した業績見通しでは、2002年度の連結売上高営業利益率は 10.8%を達成し、連結自動車事業実質有利子負債は解消されたと発表した。3年計画の 「日産180」は初年度で3つのうち2つのコミットメントを実現したことになる。 ゴーン社長は次のように述べている。「日産の再建は現実のものとなった。3年前、当 社の事業は凋落に歯止めがかかっていなかった。今では、競争に参加しているだけでな く、ペースメーカーの役割も果たしている」 企業再生が求められる現在、日産自動車の復活モデルから学ぶべき点は多い。 以上(2003年6月作成) -4- 本リポートの内容は執筆時点における法令および社会情勢に基づいて 記されています。なお、リポート利用者の経営結果については責を負 いかねますので、ご了承ください。
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