曲り角のさき 千古高風 5 いよいよ2学期が始まりました。 この夏、いま表彰された弓道部だけではなく、運動部・文化部ともに少人数 ながらも大健闘したという報告を受け、たいへん嬉しく思います。 また、ボランティア活動に熱心に励む姿や挨拶・交通マナー等が、町の小・ 中学生にいい影響を与えているという声も聞いています。 しかし、皆さんにとって、この夏はいいことばかりではなく、さまざまな失 敗や、苦しいこと・悔しいことがあったことと思います。それでも、この場に 元気な顔を見せてくれたことを、とても嬉しく思います。 この夏も、県内外で事故や事件に巻き込まれ、若い命を落とすという痛まし い報道がありました。 1学期にも言いましたが、皆さんは次の時代を担うかけがえのない存在です。 改めて安全ということをしっかりと心がけ、豊かな高校生活を送ってほしいと 思います。 ……◇…… さて、昨年、NHKの朝の連続テレビ小説「花子とアン」のモデルとなった、 『赤毛のアン』の翻訳者・村岡花子(1893 ~ 1968・山梨県)の話をし、次の 言葉を紹介しました。覚えていますか? いま曲り角に来たのよ。曲り角を曲がったさきに何があるのか は、わからないの。でも、きっといちばんよいものにちがいない と思うの。 これは、赤毛のアンが進路決定という〈人生の分かれ道〉で、自分の進む道 を堂々と表明した時の言葉です。アンは、孤児であった自分を育ててくれた養 父・養母の家・グリーンゲイブルズ(緑の切り妻)を守るために、大学進学で はなく地元で教師をする道を選んだのです。 この本を村岡花子が翻訳したのは、多くの人々が命を落とし街が廃墟と化し た悲惨な太平洋戦争のさ中でした。 『赤毛のアン』は、戦争へと向かう「困難極まる時勢」に母国カナダに帰る 女性宣教師から託された 1 冊(原題:Anne of Green Gables)でした。「いつ かまたきっと、平和が訪れます。その時、この本をあなたの手で、日本の少女 たちに紹介してください」 村岡花子は、アンが夢をもとめて前に進む不屈の精神に励まされ、平和な時 代はきっとやってくると信じて翻訳を完成させたのです。 さて、厳しい夏を経て、季節はこれから実りの秋へと向かいます。 曲り角を曲がったさきに何があるのかは、わからないの。でも、 きっといちばんよいものにちがいないと思うの。 このアンの言葉のように、さまざまな分かれ道や困難に不屈の精神でしっか りと立ち向かい、〈まだ見ぬ自分〉を発見し、豊かな実りの秋を迎えることを 願い、2学期始業式の式辞とします。 (2学期始業式式辞に加筆・修正) ○参考 村岡恵理『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』(新潮文庫)
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