コミュニケーションと主体性 ~NHK連続テレビ小説「花子とアン」の人物像

主体的に生きるということ
~「花子とアン」と現代~
2015年度東洋英和女学院大学
新入生オリエンテーション合宿
学長講演 池田明史
女子高等教育の先駆:村岡花子
• ドラマ 安東はな
• オリジナル 安中はな
女子生涯教育の先駆:柳原燁子
• ドラマ 葉山蓮子
• オリジナル 柳原白蓮
東洋英和女学院の成り立ち
英和の高等教育:四大創設前史
• 1884年 東洋英和女学校設立
• 1899年 東洋英和女学校補充科設置
• 1902年 東洋英和女学校高等科に改称(1919年まで存続、
卒業生総数55名、東京女子大創設により廃止)
• 1905年 上田保母伝習所開設
• 1919年 付属保母養成所開設
• 1921年 付属幼稚園師範科設置
• 1944年 東洋永和保母養成所に改称
• 1946年 東洋英和女学院保育専攻部
• 1950年 東洋英和女学院短期大学保育科
• 1986年 短期大学横浜校地へ移転
• 1989年 東洋英和女学院大学創設(横浜校地)
花子とその時代
• 村岡花子:1893年(明治26年)~1968年(昭
和43年) 前近代から近代へ
• 明治・大正・昭和:近代化=西洋化、「脱亜入
欧」「追いつけ・追い越せ」
• 舶来品=高品質 国産品=低品質
• 科学技術の進歩に対する素朴な肯定
重ね合わせる「現代」
• 科学技術の加速度的進展
• 国際化からグローバリゼーションへ
「国際化」と「グローバリゼーション」の狭間
• ヒト・モノ・カネの国際的移動:流動性の拡大
• 国際化:情報・知識・経験を海外から輸入⇔加
工・補修して輸出 平面的 加減的
• 国際化を支える教育:「輸入した学問」を「輸
入したシステム」によって伝える⇒単一・均質
・一元的
• グローバリゼーション:立体的・複雑錯綜・多
方向性⇒多様・異質・多元的
情報化時代の陥穽
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思考能力の形成過程:試行錯誤の繰り返し
「情報化」は試行錯誤の機会を奪う
カーナビ状態:頭の空白、人間の人形化
結果・結論が所与とされる
情報と知識との混同・混乱と、相対的な価値
低下
• 外部記憶装置への依存による創造性の欠落
• 若年世代の「三重苦」(読めない、書けない、
話せない)
思考のマニュアル化
• 情報の収集・選択・評価・序列化・統合という
プロセス化がないままにいきなり結果・結論
から始まる
• その結果・結論は自分固有のものではなく、
既存で流通済み
• ショートカットに至る手続きを省略して、ショー
トカットされた成果のみを手にする
• 環境・条件が違った際に適宜変化修正させる
ことができない
人間関係のマニュアル化
• SNS(Facebook、Twitter、Line etc.)の功罪
• バーチャル世界とリアル世界との混同・混乱
• バーチャル世界でどれほど活発な活動が行
われようと、それがバーチャル世界で閉じて
いる限りリアル世界で生きる人々にほとんど
影響を及ぼさない
• 「いいね!」ボタンとブログ「炎上」
「コミュニケーション」の虚実
• StaticなイメージとDynamicな内実
• コミュニケーションとは他者との不断の応答
のプロセスであって、常に現在進行形
• 「自分」と「相手」という場合に、両者ともに実
体概念として捉えるべきではなく、関係概念と
して認識する必要
• 自分はこうである、相手はこうであると実体的
に規定してしまったときにコミュニケーション
は断絶する
情報化社会の弊害
• 思考停止・判断放棄が蔓延:「わかる」「わか
らない」ではなく「あってる」「あってない」が判
定基準
• 理由・根拠を問うことなく、既存の答えを鵜呑
みにする:他者が提示する「解答」のなかから
人気投票的に「正解」を選ぶ
• 直観ではなく、直感に依存⇒論理的に説明す
ることが不能
• 限りなく主体性の放棄に傾斜しやすい社会
結び
• 村岡花子の時代に東洋英和女学校の校長を
務めたミス・ブラックモア(ドラマではミス・ブラ
ックバーンとして登場)の言葉:「この飛行機を
人間は何に使おうとしているのか。平和か、
あるいは戦争をもっと悲惨にするか、どちら
かです。それは私たち人間の大変な問題だ
から、覚えておきなさい」
• コミュニケーションの道具を駆使することと、
主体的にコミュニケーションを展開することと
の間には、決定的な距離が存在する
実在モデル
ミス・ブラックモア(ドラマではミス・ブラックバーン、右端)
と加茂令子(ドラマでは茂木のり子、右から三番目)
花子の時代の外人教師
左端が第10代校長ブラックモア