演習問題の解答PDFファイル

(2013 年 9 月 26 日版)
第 53 回真空夏季大学
演習 I, II, III 問題
および解答
重要な定数
記号 値
名称
ボルツマン定数
気体定数
アボガドロ数
k
R
NA
1.381 × 10−23 J K−1
8.314 J mol−1 K−1
6.022 × 1023 個 mol−1
2013年
日本真空学会
真空夏季大学演習
演習 I
I - 1. 気体の質量:基礎講座「気体分子運動論の基礎」問題 2
¨
1 気圧 0 ℃の空気 1 m3 の質量はいくらか.空気の mol 質量を 29 g mol−1 とする.
§
[解]
1 気圧 0 ℃で 1 mol の気体の体積は 22.4 L なので,
1 m3
× 29 g mol−1 = 1.3 kg
22.4 L mol−1
または,pV = νRT より,
ν × 29 g mol−1 =
1.013 × 105 Pa × 1 m3
pV
× 29 g mol−1 =
× 29 g mol−1 = 1.3 kg
RT
8.314 J K−1 mol−1 × 273 K
1
¥
¦
真空夏季大学演習
演習 I
I - 2. 気体分子の速度:基礎講座「気体分子運動論の基礎」問題 4
¨
空気の主成分である窒素の 300 K における分子の平均速度を求めよ.
§
[解]
窒素の mol 質量を 28 g mol−1 として,窒素分子の質量 m は,
m=
28 g mol−1
= 4.65 × 10−26 kg
6.02 × 1023 mol−1
なので,
√
v=
√
8kT
=
πm
8 × 1.38 × 10−23 J K−1 × 300 K
= 4.76 × 102 m s−1
π × 4.65 × 10−26 kg
2
¥
¦
真空夏季大学演習
演習 I
3
I - 3. 体積入射頻度:基礎講座「気体分子運動論の基礎」問題 5
¨
25 ℃の水素の体積入射頻度を求めよ.
§
[解]
水素分子の質量 m は,
m=
2 g mol−1
= 3.32 × 10−27 kg
6.02 × 1023 mol−1
なので,
1
ΓV = v =
4
√
√
kT
=
2πm
1.38 × 10−23 J K−1 × 298 K
= 4.4 × 102 m3 s−1 m−2
2 × π × 3.32 × 10−27 kg
¥
¦
真空夏季大学演習
演習 I
I - 4. 平均自由行程:基礎講座「気体分子運動論の基礎」問題 6
¨
25 ℃の空気の平均自由行程が次の寸法よりも小さくなる圧力をそれぞれ求めよ.
4
¥
( a ) 研究用の真空容器の代表的な直径 30 cm
( b ) ガス導入に用いるステンレススチール配管の内径 3 mm
( c ) 真空フランジのシール部に発生する漏れ傷の幅の想定値 3 µm
§
( d ) ハードディスクのヘッドとディスク距離の典型値 30 nm
[解]
25 ℃の空気の圧力 p での平均自由行程 λ は,
λ=
6.6 mm Pa
p
なので,平均自由行程がそれぞれの寸法より小さくなる圧力 p は,
( a ) p > 2.2 × 10−2 Pa
( b ) p > 2.2 Pa
( c ) p > 2.2 × 103 Pa
( d ) p > 2.2 × 105 Pa
¦
真空夏季大学演習
演習 I
5
I - 5. 気体分子数:真空基礎講座「真空と表面」問題 1
¨
¥
3
−4
内容積 V = 0.1 m の真空容器内の圧力が p = 1 × 10 Pa,温度 T = 300 K としよう.容器内の空間にいる気
体分子の数 NV を求めよ.
§
[解]
NV =
pV
1 × 10−4 Pa × 0.1 m3
=
= 2.4 × 1015
kT
1.38 × 10−23 J K−1 × 300 K
¦
真空夏季大学演習
演習 I
6
I - 6. 吸着分子数:真空基礎講座「真空と表面」問題 2
¨
¥
2
内表面積 A = 1 m の真空容器の内表面に気体分子が一分子層の厚さで付いているとする.分子の大きさを
0.32 nm として,分子は規則正しく密接して正方格子状に吸着しているとする.容器表面に存在する分子の数
NS を求めよ.
§
[解]
NS =
1 m2
= 9.8 × 1018
(0.32 nm)2
¦
真空夏季大学演習
演習 I
7
I - 7. 熱的適応係数:真空基礎講座「真空と表面」問題 3, 4
¨
¥
( a ) 温度 Ti = 500 K の気体が,温度 Ts = 300 K の固体表面に入射した.散乱された後の気体の温度 Tf が
450 K のときと 350 K のときの熱的適応係数 α を求めよ.
§
( b ) α が前問で求めた値のとき,入射分子の温度がそのままで,表面の温度を 700 K に変化させた.Tf を求
めよ.
[解]
( a ) Tf = 450 K のときは,
α=
450 K − 500 K
Tf − Ti
=
= 0.25
Ts − Ti
300 K − 500 K
Tf = 350 K のときも同様に,
α=
350 K − 500 K
= 0.75
300 K − 500 K
( b ) 式を変形すると,
Tf = α(Ts − Ti ) + Ti
となるので,α = 0.25 のときは,
Tf = 0.25 × (700 K − 500 K) + 500 K = 550 K
α = 0.75 のときは,
Tf = 0.75 × (700 K − 500 K) + 500 K = 650 K
¦
真空夏季大学演習
演習 I
8
I - 8. 実効排気速度:真空基礎講座「排気と真空ポンプ」問題 2
¨
¥
3 −1
3 −1
真空容器に,コンダクタンス C = 0.05 m s の配管を介して,排気速度 S = 0.3 m s の真空ポンプを取り
付けたときの,真空容器に対する実効排気速度 Seff を求めよ.
§
[解]
Seff =
SC
0.3 m3 s−1 × 0.05 m3 s−1
= 0.043 m3 s−1
=
S+C
0.3 m3 s−1 + 0.05 m3 s−1
¦
真空夏季大学演習
演習 I
9
I - 9. コンダクタンスの合成:真空基礎講座「排気と真空ポンプ」問題 3
¨
¥
3 −1
3 −1
コンダクタンスが C1 = 0.1 m s の配管と C2 = 0.01 m s の配管を,直列に接続したときと,並列に接続
したときの合成コンダクタンスをそれぞれ求めよ.
§
[解]
直列接続のとき
C=
C1 C2
0.1 m3 s−1 × 0.01 m3 s−1
=
= 0.0091 m3 s−1
C1 + C2
0.1 m3 s−1 + 0.01 m3 s−1
並列接続のとき
C = C1 + C2 = 0.1 m3 s−1 + 0.01 m3 s−1 = 0.11 m3 s−1
¦
真空夏季大学演習
演習 II
10
II - 1. 水銀柱:真空基礎講座「種々の真空計とそれぞれの測定原理」問題 1
¨
¥
5
−2
1 気圧は,1.01325 × 10 Pa (N m ) と定義されている.1 気圧が単位面積に加える力は,水銀柱が単位面積に
加える力に換算するとどのくらいの高さになるか.水銀の密度を ρ = 13.6 g cm−3 ,重力加速度を g = 9.8 m s−2
とする.
§
¦
[解]
1 気圧と釣り合う水銀柱の高さを h とすると,
ρgh = 1.01325 × 105 N m−2
なので,
h=
1.01325 × 105 N m−2
= 0.76 m
13.6 g cm−3 × 9.8 m s−2
真空夏季大学演習
演習 II
11
II - 2. コンダクタンスと圧力分布
¨
¥
チャンバーに長さ L = 1 m,直径 2a = 3 cm の管 A と,長さ L/4,直径 2a = 3 cm の管 B が取り付けられてい
る.それぞれの管の先端から流量 QA ,QB のガスが放出されており,先端の圧力はそれぞれ pA ,pB ,チャン
バー本体内の圧力は p であるとする.
( a ) それぞれの管のコンダクタンスを求めよ.ただし分子流領域で,気体は 20 ℃の空気を考える.また,管
は直径に比べて十分長いと考える.
( b ) QA = QB のとき p,pA および pB の関係を示しなさい.
§
¦
[解]
( a ) 分子流コンダクタンスから,C =
2πa3 v̄
.
3L
CA = 3.27 × 10−3 m3 s−1
CB = 1.308 × 10−2 m3 s−1
( b ) QA = CA (pA − p),QB = CB (pB − p) より
CA (pA − p) = CB (pB − p).
CB
= 4 なので,
CA
pA − p = 4(pB − p).
真空夏季大学演習
演習 II
12
II - 3. 吸着平衡:真空基礎講座「真空と表面」問題 5
¨
¥
真空容器内に,ガラス板がおかれている.分子はいずれも吸着確率 c = 1 で表面に吸着し,平均滞在時間の計
算に必要な τ0 は 1 × 10−13 s とする.
( a ) Xe ガスを導入して容器の圧力を 1 × 10−3 Pa,温度を 300 K に保った.Xe 分子のガラス板での吸着エネル
ギーを W = 4 × 10−20 J 個−1 とする.吸着平衡が成立しているときのガラス板上の Xe 吸着量 σ [個 m−2 ]
を求めよ.
§
( b ) Xe 分子の代わりに,水分子を導入し,温度を 400 K にしたところ,吸着平衡が成り立ち,表面の吸着量
が σ = 2 × 1018 個 m−2 となった.水分子のガラス板での吸着エネルギーを W = 1.5 × 10−19 J 個−1 と
して,この時の容器内の水の圧力を求めよ.
[解]
( a ) Xe 分子の質量 m は,
m=
131 g mol−1
= 2.18 × 10−25 kg.
6.02 × 1023 mol−1
cτ0
p exp
σ=√
2πmkT
=√
2π × 2.18 ×
(
)
W
kT
1 × 1 × 10−13 s
10−25
kg × 1.38 ×
(
× exp
10−23
K−1
× 1 × 10−3 Pa
J
× 300 K
)
−20
4 × 10
J 個−1
= 2.1 × 1010 個 m−2 .
1.38 × 10−23 J K−1 × 300 K
( b ) 水分子の質量 m は,
m=
18 g mol−1
= 2.99 × 10−26 kg.
6.02 × 1023 mol−1
前の式を変形して,
√
(
)
2πmkT
W
p=σ
exp −
cτ0
kT
√
2π × 2.99 × 10−26 kg × 1.38 × 10−23 J K−1 × 400 K
= 2 × 1018 個 m−2
1 × 1 × 10−13 s
(
)
1.5 × 10−19 J 個−1
× exp −
= 1.02 × 10−3 Pa.
1.38 × 10−23 J K−1 × 400 K
¦
真空夏季大学演習
演習 II
13
II - 4. 吸着気体の脱離速度
¨
1次の脱離の脱離速度は,次の式で表される.
(
)
dσ
Edes
−
= σν1 exp −
dt
RT
¥
ここで,σ は吸着密度,ν1 は定数,Edes は脱離の活性化エネルギー,R は気体定数,T は温度である.
( a ) 上の微分方程式を解くと吸着密度の時間変化 σ(t) が得られる.T = 一定,Edes = 一定,時刻 t = 0 での
初期吸着密度を σ0 として σ(t) を求めよ.
( b ) 時刻 t での脱離速度 −
dσ
を σ0 を用いて表せ.
dt
( c ) 三つの異なる脱離の活性化エネルギー Edes = 95, 105, 130 kJ mol−1 について,ν1 = 1 × 1013 s−1 ,
T = 300 K,σ0 = 1 × 1019 m−2 として,それぞれ 0 秒後,1 時間後,50 時間後の吸着密度 σ と脱離速
dσ
度−
を求め,下の表を埋めよ.
dt
dσ
( d ) 求めた脱離速度 −
を 1 m2 あたりから脱離する pV 値で表した気体の流量 q [Pa m3 s−1 m−2 ] に変換
dt
し,下の表を埋めよ.
§
Edes [kJ mol−1 ]
σ0 [m−2 ]
dσ
t=0s
−
[m−2 s−1 ]
dt
q [Pa m3 s−1 m−2 ]
σ [m−2 ]
dσ
t=1h
−
[m−2 s−1 ]
dt
q [Pa m3 s−1 m−2 ]
σ [m−2 ]
dσ
t = 50 h
−
[m−2 s−1 ]
dt
q [Pa m3 s−1 m−2 ]
95
1 × 1019
105
1 × 1019
130
1 × 1019
¦
[解]
( a ) 変数分離して積分する.
[
(
)]
Edes
σ(t) = σ0 exp −ν1 t exp −
RT
( b ) 前問で求めた式を時間で微分する.
(
)
[
(
)]
dσ
Edes
Edes
−
= σ0 ν1 exp −
exp −ν1 t exp −
dt
RT
RT
( c ) 以下の表の通り.
( d ) 求めた脱離速度 −
dσ
に,それぞれ kT = 1.38 × 10−23 J K−1 × 300 K をかける.結果は以下の表.
dt
真空夏季大学演習
演習 II
14
Edes [kJ mol−1 ]
−2
t=0s
t=1h
t = 50 h
σ0 [m ]
dσ
−
[m−2 s−1 ]
dt
q [Pa m3 s−1 m−2 ]
σ [m−2 ]
dσ
−
[m−2 s−1 ]
dt
q [Pa m3 s−1 m−2 ]
σ [m−2 ]
dσ
−
[m−2 s−1 ]
dt
q [Pa m3 s−1 m−2 ]
95
105
1 × 10
19
1 × 10
130
19
1 × 1019
2.82 × 1015
5.11 × 1013
2.26 × 109
1.17 × 10−5
2.11 × 10−7
9.36 × 10−12
3.62 × 1018
9.82 × 1018
1 × 1019
1.02 × 1015
5.02 × 1013
2.26 × 109
4.22 × 10−6
2.08 × 10−7
9.36 × 10−12
8.79 × 10−4
3.99 × 1018
1 × 1019
2.48 × 10−7
2.04 × 1013
2.26 × 109
1.03 × 10−27
8.44 × 10−8
9.36 × 10−12
補足
( a ) 吸着密度が初期吸着密度の半分になるまでの時間 t1/2 は,
t1/2
1
= ln 2
exp
ν1
(
Edes
RT
)
なので,それぞれの吸着エネルギーでの値は次の様になる.
95 kJ mol−1 ・
・
・2.4×103 s = 40 分
105 kJ mol−1 ・
・
・1.3×105 s = 37 時間
130 kJ mol−1 ・
・
・3.0×109 s = 95 年
( b ) 例えば真空容器の内表面積を A = 1 m2 とし,排気速度 S = 0.1 m3 s−1 の真空ポンプで排気する.
ここで与えた脱離の活性化エネルギーを持つ気体が内面に吸着している場合,それぞれの気体の
qA
圧力に対する寄与を考えよう.それぞれの気体の圧力は,p =
なので簡単に計算できる.その
S
圧力の時間変化を見ると次のことが言える.
• 脱離の活性化エネルギー 95 kJ mol−1 の気体は,排気当初の圧力が高いが,脱離速度が大き
いので,50 h 後には吸着している分子数が少なく,脱離速度も非常に小さくなり,真空系内
にはほとんどいなくなる.
• 105 kJ mol−1 の気体は,0∼50 h の間,脱離速度に大きな変化は無く,10−6 Pa 前後の圧力
を維持する.
• 130 kJ mol−1 の気体は脱離速度が小さいため,数十時間の排気時間では殆ど吸着量が変化せ
ず,この気体の圧力は排気当初から 10−10 Pa 以下の低い値を保つ.
真空夏季大学演習
演習 II
15
II - 5. 真空計の校正
¨
¥
下記のような真空容器にアルゴンガスと窒素ガスを導入する装置がある.各ガスの導入量はマスフローコント
ローラー(MFC)で調整することができ,真空容器内の圧力は電離真空計で測定することができる.真空容器
内に窒素ガスを 10.0 sccm 入れたときの真空計の値は 5.60 × 10−2 Pa であった.その後,窒素ガスを止め,ア
ルゴンガスを 2.0 sccm 入れたとき,真空計の値は 1.46 × 10−2 Pa であった.この電離真空計のアルゴンの比感
度係数を求めよ.但し,容器の温度は 27 ℃,ポンプの排気速度はガス種に依らず一定とし,電離真空計は窒素
で校正されているとする.また,体積流量の単位 sccm は,cc/min を 0 ℃,1 atm で規格化したものである.
§
¦
[解]
• 窒素ガスの導入量: QN2 [Pa m3 s−1 ]
• 窒素ガスを入れたときの圧力: pN2 [Pa]
• 実効排気速度: Seff [m3 s−1 ]
とすると,ガス導入量と排気量は等しくなるので,QN2 = pN2 Seff より
Seff =
QN2
.
pN2
容器の温度は 27 ℃なので(補足参照),
QN2 = 10.0 sccm × 1.86 × 10−3 Pa m3 s−1 sccm−1 = 1.86 × 10−2 Pa m3 s−1
となり,この真空ポンプの実効排気速度は
Seff =
QN2
1.86 × 10−2 Pa m3 s−1
= 0.33 m3 s−1
=
pN2
5.60 × 10−2 Pa
となる.また,
• アルゴンガスの導入量: QAr [Pa m3 s−1 ]
• アルゴンガスを入れたときの圧力: pAr [Pa]
• アルゴンガスの圧力の窒素換算値: pN2eqAr [Pa] SAr
• アルゴンの比感度係数: SN2
とすると,窒素換算値の定義より
pN2eqAr = pAr
SAr
SN2
(1)
真空夏季大学演習
演習 II
16
一方,導入量と排気量は等しくなるので,
QAr = pAr Seff
(2)
(1) 式,(2) 式よりアルゴンの比感度係数は
pN2eqAr
SAr
=
Seff
SN2
QAr
となる.この式に,
pN2eqAr = 1.46 × 10−2 Pa,
QAr = 2.0 sccm × 1.86 × 10−3 Pa m3 s−1 sccm−1 = 3.72 × 10−3 Pa m3 s−1 ,
Seff = 0.33 m3 s−1
を代入して,
1.46 × 10−2 Pa
SAr
=
× 0.33 m3 s−1 = 1.3
SN2
3.72 × 10−3 Pa m3 s−1
を得る.
[補足]体積流量の単位変換(sccm から Pa m3 s−1 へ)流し込む容器の温度が 0 ℃ = 273 K のときは,
1 sccm =
1 × 10−6 m3 × 1.0133 × 105 Pa
= 1.69 × 10−3 Pa m3 s−1
60 s
であり,容器の温度が 27 ℃ = 300 K のときには,同じ圧力で体積が
300
倍になるので,
273
1 sccm = 1.86 × 10−3 Pa m3 s−1 .
[別解]真空容器内に窒素ガスを 2.0 sccm 入れたときを考えると,真空容器内の圧力は
5.60 × 10−2 Pa ×
2.0 sccm
= 1.12 × 10−2 Pa
10.0 sccm
となるはず.同じく,アルゴンガスを 2.0 sccm 入れたときの真空容器内の真の圧力は 1.12 × 10−2 Pa で
あるのに対し,真空計の読み値は 1.46 × 10−2 Pa であったので,アルゴンの比感度係数は,
1.46 × 10−2 Pa
= 1.3 となる.
1.12 × 10−2 Pa
真空夏季大学演習
演習 II
17
II - 6. 真空計測に関する問題
¨
¥
以下の真空計の中で,気体種依存性があるものには ⃝,無いものには × をつけよ.また,その理由を述べよ.
§
真空計
ブルドン管真空計
隔膜真空計
ピラニゲージ
液柱差真空計
スピニングロータ真空計
熱陰極電離真空計
冷陰極電離真空計
四極子形質量分析計
気体種依存性
理由
¦
[解]
真空計
ブルドン管真空計
隔膜真空計
ピラニゲージ
液柱差真空計
スピニングロータ真空計
熱陰極電離真空計
冷陰極電離真空計
四極子形質量分析計
気体種依存性
理由
×
×
⃝
壁面を押す力は気体の種類に依存しない.
×
⃝
液面を押す力は気体の種類に依存しない.
⃝
⃝
⃝
イオン化断面積には気体種依存性がある.
隔膜を押す力は気体の種類に依存しない.
分子の比熱と熱的適応係数には気体種依存性
がある.
ローター球の回転周波数の減衰率には質量数
と粘性係数による気体種依存性がある.
イオン化断面積には気体種依存性がある.
イオン化断面積,四極子の透過確率,二次電
子増倍管の増倍率には気体種依存性がある.
(電離真空計と異なることに注意.
)
真空夏季大学演習
演習 III
18
III - 1. 水の蒸発速度と排気
¨
( a ) 温度 T の水面の単位面積から単位時間に蒸発する水分子の数 Γev [個 m
蒸気圧 p0 の下で表面に入射する水分子の数と等しいので,
Γev = √
−2
s
−1
¥
] は,その温度の水の飽和
p0
2πmkT
となる.ここで m は水分子 1 個の質量,k = 1.38 × 10−23 J K−1 はボルツマン定数である.T = 41 ℃
= 314 K での水の飽和蒸気圧を p0 = 7.7 kPa とする.
( i ) Γev を求めよ.
( ii ) 面積 A = 1 m2 の水面から蒸発する水蒸気の流量 Qev を pV 値で求めよ.
(iii) 面積 A = 1 m2 の水面から毎秒蒸発する水の質量 Mev を求めよ.
( b ) 現実には,風呂を思い浮かべれば分かるように,上で求めたような大きな速さで水は蒸発しない.それ
は,湯面の上に水蒸気が漂っていて,いわば蓋をしているからである.溶液の濃縮や素材の乾燥を速く行
うためには,水面の上の空間を真空ポンプで排気して水蒸気を除去しなければならない.以下では,真
空ポンプを取り付けたタンクの中に水溶液をいれ,蒸発した水を排気して溶液を濃縮する工程を考える.
タンクの温度 T = 41 ℃ = 314 K,水の飽和蒸気圧を p0 = 7.7 kPa,液面の面積 A = 1 m2 ,液面での実
効排気速度 S = 300 L min−1 とする.水の蒸発潜熱を ∆Hev = 4.3 × 104 J mol−1 とする.
( i ) 排気される水蒸気の流量 Q を pV 値で求めよ.
( ii ) 毎秒排気・除去される水の質量 M を求めよ.
§
(iii) 水の蒸発を維持するのに必要な毎秒の熱量 W を求めよ.
[解]
( a ) ( i ) 水分子の質量は m = 18 g mol−1 /6.02 × 1023 mol−1 = 3.0 × 10−26 kg なので,
Γev = √
7.7 × 103 Pa
2π × 3.0 × 10−26 kg × 1.38 × 10−23 JK−1 × 314 K
= 2.7 × 1026 個 m−2 s−1
( ii ) pV 値にするには kT と面積を掛ければよいので.
Qev = Γev kT A
= 2.7 × 1026 個 m−2 s−1 × 1.38 × 10−23 J K−1 × 314K × 1 m2
= 1.2 × 106 Pa m3 s−1
(iii) Mev = Γev mA = 2.7 × 1026 個 m−2 s−1 × 3.0 × 10−26 kg × 1 m2 = 8.1 kg s−1
( b ) ( i ) Q = pS = 7.7 × 103 Pa × 300 L min−1 = 3.9 × 101 Pa m3 s−1
( ii )
3.9 × 101 Pa m3 s−1 × 3.0 × 10−26 kg
Q
m=
kT
1.38 × 10−23 J K−1 × 314 K
= 2.7 × 10−4 kg s−1
M=
(iii)
W =
2.7 × 10−4 kg s−1
M
∆H
=
× 4.3 × 104 J mol−1
ev
18 g mol−1
18 g mol−1
= 6.5 × 102 J s−1 = 650 W
¦
真空夏季大学演習
演習 III
19
III - 2. 熱遷移
¨
¥
3
下図のような開孔(直径 10 mm)で結合されている 2 つの真空容器 I と II(共に内容積は 1.0 m )がある.2
つの真空容器の温度が 25 °C であるとき,真空容器内の圧力は p [Pa] であった(状態 A,左図).真空容器 II
のみを 50 °C まで加熱したとき(状態 B,右図),各真空容器内の圧力と分子密度はそれぞれ状態 A の何倍に
なるか.次の 2 つの場合で考えよ.ただし,真空容器内の気体は空気であるとし,真空容器内表面からのガス
放出は無視できるとする.
( a ) p = 1.0 × 102 Pa の場合
( b ) p = 1.0 × 10−5 Pa の場合
§
¦
[解]
状態 A,B での真空容器 I,II の圧力,気体分子密度,温度,体積をそれぞれ以下の記号で表す.
圧力 [Pa]
気体分子密度 [m−3 ]
温度 [K]
体積 [m3 ]
状態 A p
n
T
V
状態 B 容器 I p1
n1
T1
V
状態 B 容器 II p2
n2
T2
V
( a ) p = 1.0 × 102 Pa の場合
p = 1.0 × 102 Pa のときの気体分子の平均自由行程 λ [mm] は,
λ=
6.6 mm Pa
6.6 mm Pa
=
= 6.6 × 10−2 mm
p
1.0 × 102 Pa
状態 A では λ ≪ 開孔の直径 (10 mm) で粘性流領域にある.状態 B でもこの条件が成り立つと仮
定して,
p1 = p2
(1)
と考えて解析を進める.気体の状態方程式,
pi = ni kTi
(i = 1, 2)
(2)
を (1) 式に代入して両辺を k で割ると,
n1 T1 = n2 T2 .
(3)
真空夏季大学演習
演習 III
20
一方,真空容器内の気体分子の総数は状態 A と B で変化がない (2nV = n1 V + n2 V ) ので,
2n = n1 + n2 .
(4)
(3) 式と (4) 式より n1 と n2 は,それぞれ,
2T2
n
T1 + T2
2T1
n
n2 =
T1 + T2
n1 =
(5)
(6)
となる.また,(2) 式と状態 A での状態方程式 p = nkT より,状態 B における圧力 p1 は,
p1 = n1 kT1 =
2T2
2T1 T2
nkT1 =
p = p2 ((1) 式より)
T1 + T2
T (T1 + T2 )
(7)
T1 = T = 298 K,T2 = 323 K なので,(5)-(7) 式より,
2T2
n = 1.04 n
T + T2
2T
n2 =
n = 0.96 n
T + T2
2T2
p1 = p2 =
p = 1.04 p
T + T2
n1 =
1.04 倍
0.96 倍
1.04 倍
となる.
(状態 B でも λ ≪ 開孔の直径 (10 mm) の条件は成り立っており,(1) 式の過程に問題ない
ことが確認できた.
)
( b ) p = 1.0 × 10−5 Pa の場合
p = 1.0 × 10−5 Pa のときの気体分子の平均自由行程 λ [mm] は,
λ=
6.6 mm Pa
6.6 mm Pa
=
= 6.6 × 102 m
p
1.0 × 10−5 Pa
状態 A で λ ≫ 開孔の直径 (10 mm) で分子流領域にある.状態 B でもこの条件が成り立つと仮定
して,
√
p1
T1
=
(8)
p2
T2
として解析を進める.気体の状態方程式,
pi = ni kTi
(i = 1, 2)
を (8) 式に代入してすると,
√
n1
T2
=
.
n2
T1
(9)
(10)
一方,真空容器内の気体分子の総数は状態 A と B で変化がない (2nV = n1 V + n2 V ) ので,
2n = n1 + n2 .
(11)
真空夏季大学演習
演習 III
21
(10) 式と (11) 式より n1 と n2 は,それぞれ,
√
2 T2
√ n
n1 = √
T1 + T2
√
2 T1
√
√ n
n2 =
T1 + T2
(12)
となる.状態方程式を使って圧力に変換すると,
√
√
p
T1
2 T2
2 T2
√
√
p1 = n1 kT1 = √
kT1 = √
p
T1 + T2 kT
T1 + T2 T
√
T2
2 T1
√
p
p2 = √
T1 + T2 T
(14)
となり,(12)∼(15) 式に T1 = T = 298 K,T2 = 323 K を代入すると,それぞれ,
√
2 T2
√ n = 1.02 n
n1 = √
1.02 倍
T1 + T2
√
2 T2
√ p = 1.02 p
1.02 倍
p1 = √
T1 + T2
√
2 T1
√ n = 0.98 n
n2 = √
0.98 倍
T1 + T2
√
2 T1
T2
√
p2 = √
p = 1.06 p
1.06 倍
T1 + T2 T1
となる.ここでもはじめに仮定した分子流条件は満足している.
(13)
(15)
真空夏季大学演習
演習 III
22
III - 3. ゲッターポンプ表面の吸着
¨
¥
圧力 p と温度 T に保たれた大きな真空容器の中に,面積 A のゲッター(化学吸着)作用を持つポンプ表面があ
る.時刻 t におけるポンプ表面の吸着密度を σ(t) とし,初期状態 σ(0) = 0 個 m−2 の理想的な清浄表面から時間
とともにポンプ作用が低下して,吸着平衡に近づく過程を考える.ポンプ表面でのガス分子の吸着は Langmuir
の吸着式に従うものとし,空席への付着確率を s,単分子層を形成する吸着密度を σML とする.
( a ) 時刻 t において,微小時間 ∆t の間にポンプ表面に吸着するガス分子数 Nads (t) を,単位面積当たりの入
射頻度 Γimp を用いて表せ.
( b ) 時刻 t において,微小時間 ∆t の間にポンプ表面から脱離するガス分子数 Ndes (t) を,平均滞在時間 τ を
用いて表せ.
( c ) ポンプ表面の吸着密度 σ(t) を時刻 t の関数として表せ.
( d ) ポンプ表面の排気速度 S(t) を時刻 t の関数として表せ.
( e ) ガス種を窒素とし,p = 1 × 10−7 Pa,T = 300 K,A = 0.01 m2 ,s = 1,σML = 1 × 1019 個 m−2 ,
σ(t)
τ = 1 × 105 s である場合,被覆率 θ(t) =
と排気速度 S(t) に関して下の表を完成させ,グラフに
σML
示せ.
時刻 t [s]
被覆率 θ
排気速度 S [m3 s−1 ]
0
2000
4000
6000
8000
10000
Coverage, θ
Pumping speed, S [m3 s-1]
0
2000
4000
6000
8000
10000
Time, t [s]
§
¦
[解]
( a ) 吸着確率 c(t) は,被覆率 θ(t) =
(
c(t) =
σ(t)
1−
σML
σ(t)
と付着確率 s を用いて,
σML
)
s
で表される.したがって,∆t の間にポンプ表面に吸着するガス分子数は
(
)
σ(t)
Nads (t) = c(t)Γimp A∆t = 1 −
sΓimp A∆t
σML
真空夏季大学演習
( b ) 脱離速度は
演習 III
23
σ(t)
であるから,∆t の間にポンプ表面から脱離するガス分子数は
τ
Ndes (t) =
σ(t)
A∆t
τ
( c ) ∆t の間にポンプ表面に排気されるガス分子数 ∆N (t) は,(a) と (b) の結果を用いて
∆N (t) = Nads (t) − Ndes (t)
)
(
σ(t)
σ(t)
sΓimp A∆t −
= 1−
A∆t
σML
τ
{
(
)
}
sΓimp
1
= sΓimp −
+
σ(t) A∆t
σML
τ
である.この排気過程による吸着密度の増加 ∆σ(t) は
a=
sΓimp
1
+
σML
τ
(1)
とおいて,
∆σ(t) =
∆N (t)
= {sΓimp − aσ(t)} ∆t
A
(2)
となり,∆t → 0 で得られる微分方程式を初期条件 σ(0) = 0 の下で解くと
σ(t) =
sΓimp
{1 − exp (−at)}
a
(3)
が得られる.
( d ) ポンプに排気される正味の流量を Q(t) とし,式 (1) および式 (2) を用いると,排気速度の時間変
化式が得られる.
S(t) =
Q(t)
∆σ(t)
1
=
AkT
p
∆t
p
sΓimp AkT
=
exp (−at) = sA
p
√
kT
exp (−at)
2πm
(e) 時刻 t [s]
0
0
1.19*
2000 4000 6000 8000 10000
被覆率 θ
0.433 0.672 0.804 0.877 0.917 3 −1
排気速度 S [m s ]
0.656 0.362 0.200 0.110 0.0608
√
kT
*300 K の窒素の体積入射頻度
= 11.9 L s−1 cm−2 に相当する.
2πm
演習 III
24
1.2
1.2
1.0
1.0
θ
0.8
0.8
0.6
0.6
0.4
0.4
S
0.2
0.2
0.0
0
2000
4000
6000
Time, t [s]
8000
0.0
10000
Pumping speed, S [m3 s-1]
Coverage, θ
真空夏季大学演習