6. 分子栄養学 - 親鴨会野洲支部

寺さんのもっと健康セミナー
(その6)
分子栄養学
今年4月に開かれた親鴨会野洲支部の総会で、セミナーに対する感想を聞いたところ、少し難し
いけれども何とか理解できるという人が大半でした。
問では誰も変えていませんでした。
しかし読んでから食事を変えたかという質
参考にしているという意見はありましたが。
そこで今回は分子栄養学というものを説明することにします。
私たちが昔習った栄養学という
ものは、栄養素には炭水化物、タン白質、脂肪、ビタミン、ミネラル
白質は1g当たり4kcal、脂肪は9kcal ということ。
があって、炭水化物とタン
それからビタミン A が不足すれば鳥目にな
り、ビタミン B が不足すれば脚気になるといった程度のものでした。 小学校や中学校ではそれほ
ど詳しいことは教えられないので、私たちの頭はその程度で止まっていました。
実は私自信がそ
うだったのです。
分子栄養学というのは 1970 年頃米国のライナス・ポーリング博士が考えついた学問です。 現在
では各種の栄養素の分子生物学的解明が進み、疾病との関係づけも行われて栄養療法という地位を
確立しつつあります。
ただ医学会はこれに取り残されており、ここ数年前から勉強を始める医者
が出てきている程度です。
なおいつもお願いしていますが、本稿を読む時は資源の無駄になるようですが、プリントアウト
して何回も見返せるようにしてください。
いいでしょう。
そして一連のセミナーをまとめてファイルしておくと
本セミナーではこれから何回も見返すことになりますよ。
1.生化学反応
生体内では無数の化学反応が起こっています。
でも基本的な反応は A と B を組み合わせて C を
作ったり、D を分解して E と F を作るという2
種類しかない。
生体内で扱う物質はすべて物理的な形で認識
されます。 化学式で判断されるわけではありま
せん。 たとえば物質 A と B から C ができる
図1
合成のパターン
反応では図1のようになります。
実際には物質 A と B は図2のようにばらばらに動いているた
め、A と B がうまくかみあう機会はまれになります。 つま
り反応が遅いということになります。
図2
1
生体内にある物質 A と B
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分子栄養学
試験管内なら反応が遅くてもいいけれども、生体
内では速くなくてはなりません。 そこでおこなわ
れているのは図3のような酵素を仲介して反応を
促進することです。
今までに約 2500 種の酵素が生体内から見つかって
いますが、すべてに共通する構造上の性質は、いず
れの酵素もその表面に特定の化学物質がすっぽり
とおさまる隙間を持っているという点です。
物質 A と B は酵素の隙間に容易に入り、A と B
が向き合うようになると C が合成される。
酵素は A と B の残りかすを吐き出して次の反応を
行う。 このスピードは1分間に 100 から 4 億と
図3 酵素の隙間に A と B が入る
非常に速い。
酵素はすべて各種アミノ酸を組み合わせたタン
白質で、さまざまな臓器で合成されている。
酵素は必要な時だけ働くようにしないと、体力を
消耗してしまう。 これを可能にするのが補酵素と
いうものである。 図4のように補酵素がくっつく
と A と B が酵素のくぼみに収まって反応が始まる
のである。
この補酵素がビタミンとかミネラルで、必須栄養素
となっている。
化学反応が終わると補酵素は酵素から離れていく
が、使われなくなった補酵素は排泄されるのでは
なく再利用される。 そのため人体に必要な量は
図4
補酵素が酵素の隙間に入る
わずかでいいことになる。
しかしそのわずかな量でも不足があると化学反応が
十分行われず、弊害がでてくることになる。
酵素は 1 種類の反応にしか携わらないため、反応の数だけ(2500)種類がある。
補酵素はすべての酵素反応で必要とは限らないが、一連の反応のどこかに使われるため、体外から
摂取する補酵素がないと反応が進まなくなってしまう。
これが各種疾病の原因となる。
原因を見つけられないため、難病と言い逃れしているものが多い。
2
医者が
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分子栄養学
余談だが反応を妨げるにはどうしたらい
いのだろうか?
それは図5のように酵素阻害物質を酵素
にくっつければ A と B が酵素にくっつけな
いことになり、反応が進まない。
この阻害剤が薬品である。
抗生物質、抗ウイルス薬品、抗腫瘍薬品など
が酵素の働きを妨げる原理で役立っている。
図5
酵素阻害物質
2.一連の生化学反応の例
各栄養素の役割に入る前に一連の反応がどのようになっているかを、エネルギーを作る反応を例
にとって説明します。
食事からとった炭水化物が基本要素のブドウ糖として吸収されたあと、
血液により細胞まで運ばれた後の反応を簡略化したものです。
図6
解糖系と TCA 回路
(四角枠内は補酵素のビタミン)
ブドウ糖からピルビン酸までの縦の道を解糖系と呼んでいます。
そしてピルビン酸からアセチ
ル CoA を経由して円環状になった一連の反応をクエン酸回路(TCA 回路)といいます。 ブドウ糖
3
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がグリセルアルデヒド3P に進んだ時、ナイアシンというビタミン B の一つが補酵素として必要に
なります。 ナイアシンが十分にないと脂肪のほうに進みます。
つまり炭水化物がビタミン B 群
不足で脂肪に変わるわけです。 この脂肪は飢餓に備えて蓄えるという生物のメカニズムです。 ナ
イアシンが十分あれば下のピルビン酸に移行し、細胞内のミトコンドリアに入ってアセチル CoA と
いうものに変わります。
それからは時計周りに反応が順次すすんで水と二酸化炭素を出しながら
再びアセチル CoA にもどります。 このサイクルで作られる酵素(FAD、NAD)がアデノシン三リ
ン酸を作り出し、このアデノシン三リン酸が熱や運動エネルギー源となります。
しかしクエン酸
回路を一巡するにはさまざまなビタミン B 群(下注)とビタミン C という補酵素が必要です。 ビタ
ミンがないと体力が出ないというのはここのことです。
(注:
B1、B2、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン
はすべてビタミン B 群)
このようにビタミンやミネラルは至るところの生化学反応で補酵素として使われているのです。
難しい用語がいっぱい出てきましたが、用語の説明が本質ではないのであえて説明はしません。
3.栄養素の役割
ここでは栄養素の働きをおおざっぱにまとめてみます。 誰でも一通りは知っているものですが、
それよりちょっとだけ学問的な話を書きましょう。
3.1 タン白質
タン白質は 20 種類のアミノ酸が 50 個以上結合したもので、人体の臓器やそこで作られる酵素、
ホルモンなどの材料となっています。
れております。
動物性食品だけでなく穀物や野菜などすべての食材に含ま
健康な体をつくるにはすべてのアミノ酸が必要で、これらをまんべんなくとるに
は、多数の食材を食べる必要があります。
東日本大震災の配給食品はおにぎり程度なので、真っ
先にタン白質とビタミン不足に陥ります。
タン白質が不足すれば免疫力が落ち、精神が不安定に
なり、安眠はできません。
ビタミンが不足すれば内臓の動きが悪くなります。
大災害時は例外としても「ガン」になれば真っ先にタン白質不足になります。
動物性タン白質はいいのですが、脂肪も一緒にとることになり、どうしても脂肪過多になってしま
います。 霜降り牛肉はやわらかくておいしいのですが、毎日食べないようにしてください。
卵、大豆製品がベストな食材ですね。
3.2 脂肪
脂肪はグリセロールという物質に脂肪酸が3つぶら下がったもので、消化で脂肪酸になって吸収
される。 脂肪は燃料だけでなく細胞膜の基本材料となっているため、なくてはならないものであ
る。 元素としては炭素(C)
、酸素(O)、水素(H)だけで出来ており、炭素同志の結合が一本だ
4
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けのものを飽和脂肪酸、二本あるものを不飽和脂肪酸と呼んでいる。
分子栄養学
飽和脂肪酸は動物の肉に多
く含まれており、常温では固体となっているため、人の血液中では粘度を高めてしまう。
め赤血球が毛細血管を通りにくくなり、栄養素が末端に届かなくなってしまう。
は人より高いため飽和脂肪酸は固まらない)
このた
(牛や豚の体温
一方不飽和脂肪酸は常温で液体であり、魚に多く含
まれている。 EPA とか DHA などと言ういわゆるω3系脂肪酸は細胞膜の性質を向上させるため
特に勧められる食品である。
同じ不飽和脂肪酸でもサラダ油などのω6系脂肪酸は量が多いと動
脈硬化を引き起こすため、なるべく少なくすべきでしょうね。
(ωに関しては脚注参照)
マーガリンやケーキに含まれているトランス型脂肪酸も活性酸素を作りやすいので控える方がいい
でしょう。 この辺の話は本セミナー(その4)「脳の老化」に詳しく書いてあります。
上記によると魚以外の動物性食品は体に悪いということになりますが、ビタミン B 群は動物性食
品から摂るので、やはりある程度は食べるのがいいということになります。
3.3 ビタミン A
網膜の視細胞にはビタミン A が含まれる物質があって、光が当たると物質の伝導度が変化して、
明暗と色を感知する仕組みになっている。 またビタミン A は細胞の分化・増殖を調節しているた
め、A 不足では粘膜機能が低下する。
つまり小腸の吸収能低下や生殖機能の低下、眼球乾燥、ア
トピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などの症状をあらわす。
また体内でビタミン A に変わるカロチノイドというものもある。 βカロチンが最も有名だが、
抗酸化効果があり白内障や皮膚のしみ、動脈硬化を防止する。
また白血球を増加させるため、免
疫力向上によりガンを予防する効果がある。
3.4 ビタミン B 群
ビタミン B には B1、B2、ナイアシン、パントテン酸、B6、B12、葉酸、ビオチンの8種類もあ
る。 B1 は糖の代謝や神経の働きを正常に保つ役目を持ち、B2 は脂肪の代謝や成長ホルモンの合
成をおこなう。 ナイアシンは神経伝達アミノ酸の合成に使われたり、免疫機能の維持を司る。 パ
ントテン酸は糖代謝に使われる。 B6 はアミノ酸や脂質の代謝を司る。 B12 は糖・アミノ酸・脂
肪代謝に使われる。 葉酸は DNA 合成に使われ、ビオチンはインスリン分泌を助ける。 ビタミン
B は個々にとるのではなく一括してとるのが望ましい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
注:
ω3とω6
脂肪酸は CH2 と COOH の間に炭素鎖がつながったもので、炭素結合に二重結合があるものを不飽和脂肪酸といい
ます。 二重結合の位置によって性質がちがっており、CH2 から3番目の結合が二重結合のものをω3系不飽和脂肪
酸、二重結合が 6 番目にあるものをω6系不飽和脂肪酸とよんでいます。
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3.5 ビタミン C
コロンブス時代の船乗りが壊血病で皮膚から血を出しながら死んだのは、ビタミン C 不足からき
たものである。 ビタミン C の働きは活性酸素の消去、コラーゲン合成の促進、酸化されたビタミ
ン E の再生を始めとして実に多種の働きをもっている。
ガンは壊血病の一種とも言えるため、ビ
タミン C を十分にとれば抗ガン剤などは不要となる。
3.6 ビタミン D
カルシウムが骨に沈着するのを助ける役目を果たす以外に、小腸でカルシウムの吸収を助けたり
腎尿細管でカルシウムの再吸収を助けたりする。
3.7 ビタミン E
細胞膜の間に入り込んで抗酸化をおこない、細胞膜の流動性を維持しています。
具体的には赤
血球膜を安定化したり、ホルモンを活性化したり、血行促進作用があります。
3.8 カルシウム
骨の主原料になるとともに、筋肉を動かしたり、神経伝達物質を出すトリガーとしての働きをし
ます。 心臓の筋肉はカルシウムが心細胞に入るときに縮みます。
3.9 マグネシウム
300 種以上の酵素反応の補酵素となっています。
カルシウムが細胞内に入る制御をおこなって
おり、不足すると血管が収縮して高血圧や不整脈、精神神経症状の原因となります。
3.10 鉄
これは赤血球の中心に入り込み酸素を運んだり、二酸化炭素を運んだりします。
鉄は動物性食
品に含まれるヘム鉄の方が、植物性食品に含まれる非ヘム鉄より腸での吸収率が数倍高い。
それ以外の亜鉛、カリウム、セレンといった微少金属の説明は省略します。
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4.栄養素の必要量
この第4章が本稿の最も重要なところです。
前回まで症状に合わせて栄養素の摂取量を書いてきましたが、栄養素(ビタミン)の摂取量と効果
を表したのが図7です。 この図から言えることは、効果は摂取量に比例して上がっていくわけで
はないということです。 不足しているとほとんど効果はあり
ません。
一日に必要な栄養素の量は示適量といいますが、これは
厚生労働省が出している所要量よりずっと多い量です。
なぜなら示適量というのは生命を維持できる生体恒常性が
発揮できる量を指しているのに対し、所要量というのは病気
にならない程度の量だからです。
示適量をとってやっと
治療効果が出てきます。 あなたが日常の食事でとっている
栄養素は示適量に達しているでしょうか?
自覚症状がなけ
れば示適量をとっていると思われますが、実は血液検査(脚注)
でしか判断できません。
同じものを食べていても栄養素の吸収率や酵素を作る能力
図7 栄養素の量と効果
が違うという個体差(体質)があるため、人によって示適量が
違います。 健康診断の血液検査は貧弱すぎて役に立ちません。
つまり自分の栄養摂取量の目標と現状がわからないということになります。
本セミナーは栄養素の質と量を扱います。
ょうね。
質だけ参考にされていてもそれほど効果はないでし
しかも栄養素はそれぞれにからみあっているため、一種類だけたくさんとってもだめで
す。 複数の栄養素を同時にバランスよくとる必要があります。 TV や新聞、ダイレクトメールな
どで、健康と栄養の関係がよくとりあげられていますが、断片的すぎて優先順位がつけられません。
その点分子栄養学は個々人の目標と現状を明らかにするため、重要なものが見えてきます。
を取り入れれば間違いなく老化を防止したり、疾患を取り去ることができます。
これ
これが未来の医
療で、皆さんが今やっているのは何もせず異常が出たら薬で急場をしのぐという古典的健康法と言
えます。
さて未来型か古典型か、あなたはどちらを選びますか?
分子生物学が発達した現代で
は、あなたの判断次第で、未来型の健康法を取り入れることができます。
5.参考資料
豊かさの栄養学
丸元淑生
著
分子整合栄養医学講演会資料
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
血液検査:
ここでいう血液検査は健康診断で行われている項目だけでなく、臓器別の検査になります。
検査結果を解読できる人は特別に学んだ人だけで、医学部を出ただけの医者ではできません。
7
さらに