プロローグ私は小さいころから、ぼんやりと考え事をしている子どもで

プロローグ
出会う人はみんな大切になるということ
12
12
出会いが人生を宝物にするということ
にっこり笑って生きていきたいということ
優しいことは強いこと
どんな思いも大切ということ
苦しみや痛みがあるから救いがあるということ
12
人は信じるに値するということ
心を揺さぶられるとき、愛があるということ
宇宙のひとつということ
エピローグ
プロローグ
12
12
12
12
本当のことは、みんな同じだということ
12
私もいつしかできないことを背伸びしながらお友達と遊ぶより、一人で考え事をす
あ﹂って思われてしまうこともあったのじゃないかなと思います。
ぐ泣くし迷子になっちゃうし、溝や階段からしょっちゅう落ちるし、めんどくさいな
そういうわけで、本当に無理もないことですが、お友達からも﹁かっこちゃんはす
ぼをしていたことすら忘れてしまうのです。
たり、葉っぱや虫たちがまるで語りかけてくれるように感じて、いつしか、かくれん
かくれんぼをすれば、隠れるより探すより、枝から漏れるお日様の光に心を奪われ
ました。
血を出したり、溝に頭から突っ込んでドロドロになって、わあわあ泣き出してしまい
なると、もう誰のことも捕まえることができなくて、しまいには、転んで膝小僧から
鬼ごっこをしていても、足の遅い私は、すぐに鬼に捕まってしまい、いったん鬼に
私は小さいころから、ぼんやりと考え事をしている子どもでした。
12
るほうが楽しいなあと思うようになりました。
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12
5
プロローグ
私は、自然の景色や周囲の人々をぼんやり眺めながら、水も空気も、草木も動物も、
そして人も、この世に存在しているもののすべてに、秘密というか、決まり事のよう
なものがあるんだと感じるようになりました。
大人になった私は、自分の中で、その決まり事を﹁宇宙の約束﹂と呼んで、今でも、
その約束事についてぼんやり考えるのが大好きです。
宇宙の何もかもがこの﹁宇宙の約束﹂でできていて、人々はその約束をずっと知り
たいと思っている。それが、科学や、哲学や、量子力学や、心理学や、考古学や宗教
を生み出したのかなと思っています。
そして、宇宙自身も、その法則をみんなに知ってもらいたかったから、聖書や般若
心経などが書き表されたのだろうかと、そんなことも思っています。
﹂
﹂と子どもたちに質問しました。子どもたち
私は今、特別支援学校で理科の教員をしています。
ある日、理科の授業で宇宙の話を子どもたちにしていました。
﹁地球は何を中心に回っているのかな
は﹁太陽だよ﹂と教えてくれました。
﹁じゃあ、太陽は何を中心に回っているのかな
﹂
?
銀河系宇宙も何かを中心に回っているのもしかして、その何かもま
﹁えー
た、何かを中心に回っているの
どんどん大きくなっていっても全部同じなの﹂
私はあみちゃんが、素敵なことに気がついてくれてうれしくなりました。
私がそう尋ねると、あみちゃんが目を輝かせて言いました。
﹁それじゃあ、銀河系宇宙はどうなんだろう
﹁銀河の中心を軸にして回ってるよ﹂と答えてくれました。
うずをつくって回っていることも知っています。
宇宙が大好きな子どもたちは、銀河系宇宙の中に太陽があり、銀河のような星雲も
?
?
?
?
そういうと、また子どもたちの目がキラキラと輝きました。
だよ﹂
﹁そうだよ。どんどん大きくなっても、それから、どんどん小さくなっても同じなん
?
﹂
﹁かっこちゃん、﹃小さくなっても﹄ってどういうこと月が地球の周りを回るっ
ていうこと
?
?
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7
!?
プロローグ
﹁そうそう、そうだよね、月は地球の周りを回っているね。でもね、それだけじゃな
いの。みんなの身体の中も同じなんだよ。身体の細胞をどんどん細かくすると何にな
るか知ってる身体だけでなくて、すべてのものをどんどん細かくして、もうこれ
以上細かくできないくらいにすると何になるんだろう﹂
?
いるの
﹂
﹁えーっとねぇ、原子核の周りを電子が ⋮⋮﹂
﹂
そう言いかけて、ひろしくんもあみちゃんも、みんなも、﹁わー
した。
﹁全部同じなの
﹂や﹁すごいなあ﹂という気
教室の子どもたちの頭の上に、なんだか、たくさんの星雲がうずまいていたり、流
﹂や﹁不思議
れ星が突然流れているような気持ちがしました。
私は、子どもたちの中の﹁どうして
持ちが膨らんでいく瞬間が大好きです。
?
僕はここにいるけれど
宇宙を思えば宇宙へ行ける
ここにいても
どこへもいける
大ちゃんは宇宙の詩もいくつも書いています。
大ちゃんこと原田大助くんは、詩を書くのがとても上手です。
以前、ある特別支援学校で出会った大ちゃんという男の子がいました。
!
大きな宇宙も小さな小さなミクロの世界も。それを﹃入れ子構造﹄って言うんだよ﹂
﹁うんそう。全部同じなんだよ。宇宙は全部、同じ法則で成り立っているの。大きな
あみちゃんが言いました。
﹂と声をあげま
﹁うわぁ、ひろしくん、すごいね。そうだよね。では、原子はどんな仕組みでできて
﹁かっこちゃん、それは原子だよ。原子が最小単位だよ﹂
今度はひろしくんが答えてくれました。
?
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9
?
!
?
プロローグ
僕の手の上に宇宙がある
僕の体の中にも宇宙がある
小さなアリの体の中にも
いくつもいくつも宇宙がある
私は大ちゃんが、宇宙が入れ子構造にあるということを、誰に教わらなくても、感
覚として知っていたのかなと思っています。
学校には、不思議な力を持っている子どもたちがたくさんいます。初めて聞いた曲
を譜面は読めないけれど、すらすらと弾けたり、初めて聞く外国語の意味がわかった
り、まるで心を空に飛ばせるように、航空写真のような正確な絵を、その場にいなが
ら描けたりと、まるで魔法のようにも見えます。またそばにいるだけで、人を優しく、
幸せな気持ちにさせてくれる子どもたちもたくさんいます。
そうした力を持っている子どもたちは、私たち大人よりずっと、宇宙とつながるこ
とが上手だなあと思うのです。そして、動物や草木などもまた、宇宙とつながるのが
上手です。
だから、子どもたちや自然の風景を眺めていると、宇宙とつながる方法を教えてく
れているような気がするのです。
?
ど
足の裏とか背中にあったら、ごはんが食べられな
?
冒頭でお話ししたように、小さいころからずっとぼんやりと考え事ばかりしていた
﹂と聞いて回っていました。
私は、わからないことや不思議なことがあると、周囲の人にすぐに﹁どうして
うして
﹂
そんな私についたあだ名は﹁どうしてちゃん﹂でした。
﹁どうして昼と夜があるの
﹁どうして、口はここにあるの
いよ﹂
?
?
﹁どうして
どうして ⋮⋮﹂
﹁どうしてちゃん﹂の私が知りたかったことは結局の所はただ一つ。
?
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?
プロローグ
それは、すべてをうまく動かしている﹁宇宙の約束﹂のことでした。
ある日、授業中に土砂降りの雨が降りました。
私は空を見上げながら、こんなにたくさんの水分を空はどうやって蓄えていたのだ
ろう。そして、雨が降って、植物や動物を育てて、また空に上がっていく繰り返しの
中で、どうして雨が無くなってしまったりしないのだろうと思ったのです。
そして、保育園の先生がして下さった孫悟空の紙芝居のことを思い出しました。そ
れは孫悟空が三日三晩飛び続けても、お釈迦様の手のひらの上から出ることはできな
かったというお話でした。私たちはいつも、大きな手のひらの上で生かされているの
だ、すべてのことがそうなのだと思いました。
そのときに、急にすごく幸せなきもちになって、授業中だったけれど、涙が止まら
なくなりました。
私は特別な宗教だけを信仰しているわけではありません。
けれど、あの日、神様か仏様か、何か目には見えない大きな力があって、私たちが、
すべて、一番いいようにつくってくださっているということ、だからこそ、宇宙の何
もかも全部うまくいくようにできているのに違いないと、あの日、自分の中で確信し
たのだと思います。
一つの物がそれだけであるのではなくて、何もかもが関わり合って、支え合って、
しっかりとつながりあって、まるでひとつの命のようにうまくできている、そして、
私もその一部なのだということを子どもだったので、しっかり言葉にすることはでき
なかったかもしれないけど、感じたのだと思います。
いつも迷子になったり、物をなくしたり、階段から落ちたり、いろんなことが、少
しもうまくできない私も、全部がうまくできている宇宙の一部なら、私もやっぱり、
それでいいんだと思えて、涙が止まらなかったのです。
この本には、﹁どうしてちゃん﹂の私が、知りたくてたまらなかったことが書かれ
ています。
学校のみんなから教えてもらったこと。
旅先での出会いのなかでわかったこと。
日々の暮らしの中ではっとさせられたこと。
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そして、痛みをともなう人間の歴史にふれて感じたこと。
今、この瞬間、この場所にも働いている約束事、その﹁宇宙の約束﹂を知りたいと
いう﹁どうしてちゃん﹂の想いは、今もまだ、私の中に残っています。
私がぼんやりと考えていることを聞いてください。
あなたが
痛いと
わたしも
痛い
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14
なぜ、相手の痛みを
自分の痛みのように
感じてしまうのだろう
赤い血が流れれば、
みんな痛いということを
本当はだれもが知ってるんだよ
あなたが
青は、つながる色だということ
小さいころから、私は、青い色が好きでした。
空が晴れた日の夜に部屋の灯りを消すと、天井の大きな窓からたくさんの星が輝い
ているのが見えました。
月の大きな日には、ベッドが四角い窓の形に照らされていることに気がつきまし
た。
ベッドに横になって、星や月や、そして濃紺の宇宙のことを考えていると、目をつ
ぶっていても、そこにはひんやりとした宇宙があり、私のからだの周りにも、たくさ
んの星がきらめいているのが見えるような気がしたのです。
紺色の宇宙は、私の心の中を同じ色でいっぱいにしました。私のからだはやがて、
宇宙に溶けていって、私は宇宙の一部なんだと感じるのです。
眠りに入るときには、寄せては返す海の波のことをよく考えました。
ゆりかごに揺られているような思いがして、いつしか私は波の一部になり、海に抱
かれ、青の中に溶けていくような気がしました。
そして、私は、何かわからない、大きな大きなどこまでも青くて、どこまでも素敵
で温かな何かの一部だと感じたのです。
いったいその大きなものは何なんだろう。私はずっとそのことを考えていた気がし
ます。
私が子どものころ住んでいた家のトイレは、汲み取り式でした。
私は双子で、私たちは母にとっての初めての子どもでした。
ある日、私たちは、祖母と留守番をしていました。
祖母は、ふと、私がいなくなったことに気がつきました。
祖母は、私がトイレに落ちてしまったに違いないと思って、いそいでトイレに見に
行ったそうです。
ところが、そこにいた私は、二時間もトイレのすみに座って中をのぞき込んで、考
﹂と聞いたそうです。
﹂と尋ねた祖母に、私は﹁トイレの中、ウンチでいっぱいだった
え事をしていたのだそうです。
﹁何をしているの
のに、今はどうしてなくなったの
﹁汲み取りの車が来て取っていってくださったんだよ﹂と祖母が答えたところ、﹁ど
?
?
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痛いと
わたしも
痛い
1
あなたが
﹂
うして、地球には象がいて、キリンがいて、パンダがいて、もっともっといろんなも
のが毎日ウンチをして、汲み取りもしないのに、地球上ウンチだらけにならないの
と私がまた聞いたのだそうです。
した、大切な大好きな人の身近な死でした。
その大好きな祖母は、私が小さいときに亡くなりました。それは、私が初めて経験
言っていたそうです。
祖母はそんな突拍子もないことばかり考えている私のことが、とても心配だったと
?
その日のことを、私はそれから何年も経ってから、詩とも言えない短い文章で書い
ています。
お葬式のあと、おばあちゃんは海の近くにある火葬場へ連れて行かれた。
私はおばあちゃんが燃やされるところを見たくなくて、外に出た。
火葬場は小高い丘の上にあって、すぐ向こうに青い青い海が見えた。
私はときどき、その海の青さを思い出す。
そして空の青さを思い出す。
私はそんなとき、自分が透明になって、空にとけていく気がする。
あの日、見た海の青
あの青はあの日だけの青
あの日、見上げた空の青
あの青もあの日だけの青
青い色
空も、海も
青い色
そして心も
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痛いと
わたしも
痛い
1
あなたが
みんなみんな青い色
青い色はつながる色だ。
今日もまた、青い空を見上げます。
この青で、私たちはみんなつながっているに違いないと思えるからなのです。
象のウンチと﹁設計図﹂のこと
大人になり、アフリカを旅したときのことです。
そこで見た象はとても大きくて、そして優しい目をしていました。
旅の途中に、歩いて森を見るというツアーがあって、森の中の象の食事場所に連れ
て行っていただいたのです。
そこは、ものすごいことになっていました。地面はドロドロの沼のようになってい
て、大きな木は皮をめくられていたり、倒されたり。
私には、森が荒らされているように見えました。
﹂と尋ねました。
私は、優しい象が、実は森を壊してしまう存在なのだろうかと心配になりました。
それで、ガイドのキュリさんという方に、﹁象は森を壊してしまう
アリ塚のアリを食べる小さな肉食動物もいました。
小さな草を食べていました。
カモシカやガゼルやヌーやシマウマなどの草食動物は、象のウンチから生えてきた
また、象のウンチは、シロアリのアリ塚にもなっていました。
して、象のウンチが、ウンチの形のまま半分土になっているのも見ました。
ツアーの中では、実際に、ウンチから芽が出ているのをたくさん目にしました。そ
きくなります。
象は食べてすぐ、未消化のままのウンチをするのだそうです。
堅い種までは消化されることなく残り、ウンチを栄養にして、どんどんどんどん大
キュリさんは﹁ノー﹂と言いました。そして、﹁象は森をつくるよ﹂と言ったのです。
?
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痛いと
わたしも
痛い
1
あなたが
本によると、草原の草さえ、広い葉の部分、茎の部分、根の部分と食べ分けがなさ
れているのだそうです。
すべての動物たちが、本当に鎖のように、結びつきながら生きているのですね。
そしてそのもとになっているのが、象のウンチだということでした。
象のウンチだけではありません。
落ち葉なども土になります。動物の死体も、ハイエナなどが食べたあと、分解され
て、土になります。
死んでしまった動物も、みんな土に変わります。そして、また草を生やし、命の
源となる ⋮⋮。森の葉っぱも、秋が来て、枯れ葉になり、それが腐って、土になります。
動物や人や虫、植物、もし、命というものに終わりがなければ、すぐにこの地球は
動物や植物でいっぱいになりすぎて、大変なことになる。けれど、ウンチも、木も、
そして、動物もみんな命の源である土に変わるというのは、本当になんて不思議なこ
とでしょう。
小さいときに、二時間も汲み取り式のトイレに座り込んで考えていた問いの答え
が、何十年もたって、やっと心に染みいるように私の中に広がってきたのです。
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痛いと
わたしも
痛い
1
サバンナに立っていたとき、私は、こうしたたくさんの不思議と、たくさんの偶然
に、心が震えるほどでした。
象が未消化でウンチをしてやがて森をつくるということ、ウンチがアリ塚に変わる
こと、みんなが食べ分けを行っていること、どのひとつだって、誰かが設計図を書か
なければありえないことのように、私には思えてきたのでした。
人のからだの中で起こっていることが、
宇宙でも起こっているということ
中学生になったころだったと思います。
細胞分裂について理科の授業で勉強しました。
人間ができるとき、最初はたった一個の受精卵で、受精卵の中には、その人が将来、
どんな姿かたちになるか、髪の色や目の色はどんなで、どんなことが得意な人になる
の配列で書かれているのです。その受精卵はやがて、
を持つ二つの細胞に分裂し、それがさらに四つに分裂するという
かというような設計図が
まったく同じ
ふうに、どんどん分裂して、人のからだになるのです。
その仕組みが、私には不思議で不思議でなりませんでした。
それで先生に質問をしました。
﹂
﹁一つの細胞がどんどん分裂して、からだ中、すべて同じ細胞でできているのに、な
ぜできあがったものが、爪になったり、手になったり口になったりするのですか
先生は﹁そんなことは考えなくていいよ﹂と言われました。
でも当時はそれで仕方がなかったのです。
られるかわかっていなかったからです。
そのころはまだ、科学が進んでいなくて、どうやって一個の細胞から人間が形づく
?
︵設計図︶を持っており、
けれど今は、科学が進んで、細胞の分化の仕組みが明らかになりました。
であとの部分が
で、あとの部分が
すべての細胞は、その人固有の遺伝子配列である
その設計図の口の部分が
に、手の指は、その部分が
のときに口になり、同じよう
D
N
A
になってできているということ
O
F
F
O
F
F
あなたが
D
N
A
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D
N
A
O
N
O
N
痛いと
わたしも
痛い
1
あなたが
です。
本当になんという不思議で見事な仕組みでしょう。
私の大好きな生命学者の村上和雄さんは、本の中でこんなふうに書いておられま
す。
﹁ヒトの遺伝情報を読んでいて、不思議な気持ちにさせられることが少なくありませ
ん。これだけ精巧な生命の設計図を、いったいだれがどのようにして書いたのか。も
し何の目的もなく自然にできあがったのだとしたら、これだけ意味のある情報にはな
りえない。まさに奇跡というしかなく、人間業をはるかに越えている、そうなると、
どうしても人間を越えた存在を想定しないわけにはいかない。そういう存在を私は﹃偉
大なる何者か﹄という意味で十年くらい前からサムシング・グレートと呼んできまし
た。︵途中省略︶サムシング・グレートとは﹃こういうものである﹄とはっきり断言
できる存在ではありません。大自然の偉大な力ともいえますが、ある人は神様といい、
別の人は仏様というかもしれません。どのように思われても、それは自由です。ただ、
あなたの遺伝子が目覚
私たちの大もとには何か不思議な力がはたらいていて私たちは生かされている、とい
︱
う気持ちを忘れてはいけないと思うのです﹂﹃生命の暗号
めるとき﹄村上和雄著︵サンマーク出版︶
村上先生のサムシング・グレートのお話を本で読んだときの驚きと胸の高鳴りを
今でもずっと覚えています。
私が小さいときからなんとなく感じて考えていた、なんと言ったらいいのかわから
ないけれど、宇宙の力や神様というような、大きな力が確かに存在しているんだと思
いました。
そして、その力︵サムシング・グレート︶が、ミクロほどの小さなものから、宇宙
全体に渡るまで、そして、過去から現在そして未来にいたるまで、お互いの関わりの
中で、全部を必要な形に、ちゃんと設計しているのだと思いました。
私が中学生のときに、からだのすべての細胞が同じ遺伝子をもっているのに、なぜ、
口になったり手になったりするのだろうと不思議に思ったことの答えはこれだったん
だと思いました。
と
の仕組みがあるからなのです。
私たちがこの世界に存在しているのは、設計図を目的のものにつくりあげる、すな
わち、設計図を再生する
O
F
F
そして私が﹁宇宙の約束﹂のことを考えるときに、いつも思うことの一つが、この
O
N
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痛いと
わたしも
痛い
1
あなたが
と
のスイッチの仕組みなのです。
O
F
F
村上先生は、﹁地球上のすべての生物は同じ
と
と
T
と
C
の
G
つの遺伝子暗号を
4
人間の最初の一点である受精卵の
に、どんな人になっていくかの設計図が書
るんだよ。そしてこの宇宙もまた一点から始まっているんだよ﹂とおっしゃいました。
持っている。それは、すべての生物がただ一点から始まっているということの証にな
A
るこの宇宙の始まりも同じことが言えるのではないかと思うのです。
だとすれば、私たちの体が一点の受精卵から始まっているのなら、私たちの存在す
小さい世界で起きていることが、大きな世界でも起きているということ。
書きました。
プロローグでは、この宇宙はすべて﹁入れ子構造﹂でできているんだということを
O
N
くっていくかという設計図が書かれてあったに違いないと思いました。
かれてあるのなら、この宇宙の最初の一点には、神様が、この宇宙をどんなふうにつ
D
N
A
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痛いと
わたしも
痛い
1
あなたが
聖書には﹁最初に約束があって
すべてをつくっている﹂
と書いてあるということ。
新約聖書の﹁はじめにことばがあった﹂という部分について考えたことがあります。
新約聖書には以下のように書かれてあります。
はじめにことばがあった
ことばは神と共にあった
ことばは神であった
このことばははじめに神と共にあった
すべてのものはこれによってできた
できたもののうち一つとして
これによらないものはなかった
最初は﹁ことば﹂という単語にとらわれて、﹁ことば﹂ってなんだろう、何かの単
語だろうか
それとも、私たちがおしゃべりなどで使う言語のことを﹁ことば﹂と
して訳したのだろうか
と思いました。
それで、ここでいう﹁ことば﹂が、どういう単語のものを訳したのかなと調べたら、﹁ロ
?
次に、﹁ことばは神であった﹂と書かれてあることについて考えました。
うまくいくように書かれてあるのだ思いました。
ても、何もかもがすべてうまくいくように、私たちの周りで起きることも何もかもが、
ていくかという設計図があったのだ。そして、その設計図には、全体としても個とし
﹁はじめにことばがあった﹂つまり、最初の一点には、この宇宙がどんなふうにでき
あぁ、やっぱりそうなんだと思いました。
からです。
辞書には﹁この宇宙の成り立ち。法則。万物の秩序の根本原理﹂と書かれてあった
さらに﹁ロゴス﹂とは何かを辞書で調べたら、すごくびっくりしました。
た。
ゴス﹂というギリシャ語を日本語の﹁ことば﹂というふうに訳したのだとわかりまし
?
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痛いと
わたしも
痛い
1
あなたが
ことば＝設計図なら、﹁設計図は神様である﹂ということになります。
つまり、すべてをつくった設計図そのものが神様ということ。ところが、その設計
図は、最初の一点から分かれてできたすべてのものが持っています。
つまり、何もかもの中に神様があるということ。それはとても不思議だなあと思い
ました。
私たちが﹁神様がいる﹂というとき、神様がお空にいるように感じたり、どこか遠
くにいるように感じるように思うのです。でも、私は違うような気がします。宇宙を
つくった神様が、宇宙から離れたどこか遠くにいて宇宙をつくったのではないのだと
思うのです。
たとえば、人は最初はたった一つの受精卵です。
その受精卵の中には、手や足や内臓や脳やすべてをつくり出すための設計図があ
り、それだけでなくて、実際につくり出す力もあるといえます。設計図だけでは、家
が建てられないように、どんなものも、設計図をもとに、つくり出すものや力が必要
だからです。
設計図を持っていて、つくり出す力を持つものが、﹁つくり手﹂であるということ。
人間をつくり出した﹁設計図と力﹂︵これを神さまと呼ぶこともできると思います︶
は、最初の受精卵の中にあります。そして、そこから分かれてできたすべてのものに
も同じものがあります。
ですから、すべての生命が神様と同じ﹁設計図と力﹂を持つのなら、すべてが神様
であるとも言えるように思います。
この宇宙をつくり出した最初の一点に設計図があり、そして、設計図だけでなく、
みんなに宇宙をつくり出す力がある。
つまり﹁宇宙をつくり出したのは宇宙自身﹂であるともいえるし、広がった宇宙す
べてに神様があるとも言えるのだなあと思うのです。
そして、こんなことも思いました。
私は﹁神様が全部をうまくいくようにつくったから、何もかもがうまくいくんだ﹂
と書きました。
この宇宙の最初の一点に、何もかもがうまくいくようにという愛でいっぱいの思い
が込められているとしたら、そこから広がる世界はどこもかもが、愛でいっぱいなん
だと思うのです。
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痛いと
わたしも
痛い
1
あなたが
ああ、だとしたらなんて素敵なことでしょう。この宇宙の何もかも、花も月も鳥も
私も山も木も、何もかもが愛でいっぱいということなのですもの。
誰かの痛みに
涙することがあるということ
私は、痛いこと、悲しいことが、子どものときから、ずっと人一倍苦手だった気が
します。
みんな苦手だと思うのですが、私は極端に苦手な気がします。それは今も少しも変
わっていません。とくに自分が痛いときより、他の人の痛いのや血が苦手です。
保育園のころ、友だちが転んで足から血を流すと、いつも泣き出して、動けなくなっ
てしまいました。
手をけがした友だちを見ると、まるで自分の手のように痛くて、自分で自分の親指
をそっと噛んでいました。そうすると痛みがまぎれたのです。
だれかがけがをした話を聞くと、耳をふさいでその場から逃げ出して、カーテンの
隅っこで泣いていました。
きっと保育園の先生も泣いている私をなぐさめようとしてくれたのだと思います。
﹁泣くなんて変だよ。けがをしたのは自分じゃないんだからね﹂
なぐさめようとして言ってくださった言葉なのに、私は、自分がだめなんだという
思いにとらわれてしまいました。
私はなぜ、相手の痛みを自分の痛みのように感じてしまうのだろう。
私は変なんだ。私は変わっているんだ ⋮⋮。
その気持ちは、自分自身を好きになれないという思いに変わっていきました。
それだけでなく、私はできないことだらけでした。
すぐに迷子になったり、いろんな勘違いをしたり、失敗だらけでした。
私は双子の一人として生まれましたが、二卵性双生児で姉である私と違って、妹は
運動もとても上手で、いろいろなことがしっかりできていたように思います。
同じ日に生まれて、大きくなっていく双子。だから、比べる対象がすぐそばにあっ
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痛いと
わたしも
痛い
1
あなたが
ても、父も母も、決して私のことをダメだとは言わずにいてくれました。
﹁かっこはかっこでいいんだよ。それでいいんだよ﹂と両親は私に繰り返し言ってく
れました。
いつも私の不安な思いを抱きしめるように父と母がいてくれたことが、自分自身の
ことを卑屈に感じずにいられた理由のように思います。
けれども、私はいつまでも、父と母の腕の中にはいられないのだということも知っ
ていたと思います。いつか父と母の腕の中から外へ出るときが来る。﹁どんな私でも
いいよ﹂と言ってもらえない社会があるのだということを子どもながらに知っていた
のだと思います。
けれど、そんなときに助けてくれたのも、また私が知りたいと思っていた﹁宇宙の
約束﹂でした。
もう十年以上も前の特別支援学校でのことです。
授業中につまずいて、転んでしまったのです。
足の指が痛くて痛くて、たまらなくなりました。
その授業はなんとかやりすごすことができたのだけど、痛みがどんどんひどくなっ
てきて、泣きたくなりました。
あとでわかったのですが、私はそのとき、足の指を骨折していたのです。
私の様子を見ていた千夏ちゃんが、私の足を指さして、何度も﹁あーあー﹂︵大丈
夫か︶と聞いてくれました。
次の授業は体育でした。私は体育の受け持ちでなかったので、千夏ちゃんに﹁だい
じょうぶだからね﹂と言って、体育館の方へ行くのを見送ったあと、教室の中にある
着替え用のカーテンの中に入って、そしてそこにあった膝掛けを頭にかけて膝を抱え
て泣いていました。
だって、どうしたらいいかわからないほど、痛かったのですもの。
でも、次の授業が始まるからと泣くのをやめて、カーテンをあけました。
すると、そこに千夏ちゃんが涙をいっぱいためて立っていたのです。そして、私を
抱きしめて、私の頭を小さな手で何度もなでてくれました。
千夏ちゃんは私の足を心配して、体育館から戻ってきてくれたのです。そして、ずっ
と心配して一時間近くもここに立ってくれていたのです。
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痛いと
わたしも
痛い
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あなたが
千夏ちゃんは言葉を話さない生徒さんでした。
声にはならなかったけれど、﹁かっこちゃん痛いよね、痛いよね﹂とそう言ってく
れていたのだと思います。
私の痛みを自分のことのように心配してくれた千夏ちゃんと、幼いころお友だちの
けがを見て泣いていた自分が重なりました。
ある年の夏、私はバリ島へ行きました。
そこでは、ガイドのダルマ・ユダくんに会いました。
体がとても大きくて、日に焼けて、強くて頼りになる、そんな印象のユダくんは、
新しくできたばかりの博物館に私を連れて行ってくれました。
そこには、バリの歴史が、順を追ってジオラマで展示されていました。
銃を持ったオランダの兵隊さんたちに、バリの人たちが弓矢で立ち向かっているジ
オラマの前に来たときに、ユダくんは﹁こういうことは、とてもつらくて悲しくなる﹂
とポロポロと涙をこぼされたのです。
体の大きな強いユダくんの思いがけないその涙を見て、私も胸がいっぱいになって
泣いてしまいました。
ユダくんはそのとき教えてくれました。
﹁バリには、〝あなたと私私とあなた〟という言葉があるよ。それは、〝あなたの痛
みは私の痛み
私が寂しいときはあなたも寂しい
あなたが辛いときは私も辛い〟と
いう意味だけど、そのほかに、生まれた場所も、今いる場所も違っていても、思って
いれば、離れていても心はひとつという意味もあるよ﹂
﹁ユダくん、私は小さいとき、誰かのけがを見て、痛くてたまらなくて泣いてしまう
﹂
ことがあったの。そんな自分が嫌いだったの。でも、バリの人たちはそんな私をそれ
でいいと言ってくれるの
そして﹁あなたが私を思ってくれているとき、私もあなたを思っている。だから、かっ
もが知ってるんだよ﹂
が兄弟。みんなが同じ人間、赤い血が流れれば、みんな痛いということを本当はだれ
の人間の前に、国とか、生まれた場所とかはないよ。ボクも、かっこさんも、みんな
同じように、苦しいことも悲しいこともあるし、血が出ればみんな痛い。一人ひとり
﹁当たり前だよ、かっこさん。けがをしたら、みんな同じ赤い血が出る。同じ人間。
?
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痛いと
わたしも
痛い
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こさん、僕のことを思って。そのとき、僕もかっこさんを思っている。それが〝あな
たと私、私とあなた〟だよ﹂と言いました。
ユダくんは、﹁あなたが痛いと私も痛い﹂と思う、それが人間。そういうふうに人
間はつくられているんだと言ってくれたように思うのです。
ユダくんといて、痛がっている人を見たら痛くなったり、辛い人を見たら辛くな
る自分のことも、それでいいんだと少し思えるようになりました。
心の目を
合わせ、
心の耳を
すませる
2
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