科学の社会史(科学技術史 A)

講義メモ
科学の社会史(科学技術史 A)
第8回 「科学者」の誕生
教育と研究の制度化
本日 の テー マ
・「科学者」はどのようにして誕生したか?
・科学の専門化
・科学の専門教育の制度化(学校)
→科学者の就職先の確立(職業化)
・科学の専門研究の制度化(学会)
「科学 者」とは
・今日の「科学者(Scientist)」:科学を自らの専門および職
業としている人
「科学(Science)」が他の分野から独立。また,職業となっ
ている
・「Scientist(科学者)」という言葉
1834 年頃ヒューエルがつくった
自然科学の各分野の研究者の総称
それ以前は,natural philosopher, man of science
・19 世紀前半に「科学者」が誕生
「エン ジニア」 の起 源(1)
ルネサンス期
職人の一部がエンジニア(技師)となる
→パトロンのもと
「エンジニア」の語源:軍事機械を製作・操作する人
・エンジニア:軍事技師 兼 土木技師 兼 芸術家
典型:レオナルド・ダ・ヴィンチ
「エン ジニア」 の起 源(2)
・17世紀以降のフランス
国家のための技師団(コール,Corps)が組織される
砲兵隊(1671 年)
→ 砲兵学校(1679 年)
工兵隊(1676 年)
→ 工兵学校(1748 年)
土木技師団(1716 年) → 土木学校(1747 年)
鉱山技師団(1783 年) → 鉱山学校(1783 年)
エンジニア:国家のための軍事・土木技師
・エンジニアは将校で,ほとんどが貴族出身
→フランス革命後は逃亡
フラン ス革 命
1789年:フランス革命勃発
1793∼94年:ジャコバン派の恐怖政治
旧体制(アンシャン・レジーム)の破壊
王立科学アカデミー,大学,地方アカデミーの廃止
1794年:ジャコバン派解散,恐怖政治終了
エリート主義復活
1795年:国立学士院設立
旧科学アカデミーが第1部門として復活
1795年:エコール・ポリテクニク設立
ビデオ
「祖国・科学・栄光∼理工科大学校のエリートたち∼」
(NHK 衛星第1,1994.4.3 放送)
2010.6.9
田中浩朗
エコー ル・ポリ テクニク
世界初の高等科学技術者養成機関
1794年:「公共事業中央学校」設立(パリ)
1795年:「エコール・ポリテクニク」(総合技術学校)と改称
軍事・土木エンジニアを養成
基礎科学教育(数学・物理学・化学・図学)を徹底
→ 今日の工学教育の原型
第一級の科学者を教授に
ラグランジュ,フーリエ,ラプラス,ベルトレ,モンジュ
ナポレ オン の 改革
・ナポレオン・ボナパルト
1799年∼第一統領,1804年∼15年皇帝
・ナポレオンの改革
エコール・ポリテクニク
修業年限短縮(3年→2年)
基礎科学中心に(応用技術は各専門学校で)
専門学校:砲兵学校,工兵学校,土木学校,鉱山学校
軍事教育機関化
ドイ ツ大 学改 革 の背 景
・ナポレオン軍に対するプロイセンの敗北
→ ドイツ・ナショナリズムの高揚,反フランス
・18世紀の大学の衰退
学生数の減少
旧態依然とした教育(職業学校)
19世紀初頭には多数閉鎖(20大学)
ベルリ ン大 学 の創 設
・ベルリン大学の創設(1810 年)・・・一つの象徴
・大学の理念:
人間形成(Bildung,教養)のための学問(Wissenschaft)
教育と研究の統一
孤独と自由
・哲学部の地位向上
哲学部=学芸学部(文学部+理学部)
役割:ギムナジウム(中等学校)教員養成,研究者養成
新し い教 育制 度
・ゼミナール
古典文献学から
1812 年,ベルリン大学に古典文献学ゼミナール
少人数の演習(報告と討論)
研究指導
・学生実験
ギーセン大学,リービッヒの化学実験室(1825 年)
フランスに留学し,ゲイ=リュサックの下で実験
有機化学の定性・定量分析
オリジナルな研究 →学位,研究雑誌投稿
留学生多数
ギー セン大 学 の学 生実 験 室
(図,古川参考書 121 頁)
ドイ ツ科 学の 興 隆
19 世紀後半∼20 世紀初頭=ドイツ科学の黄金時代
世界中からドイツの大学へ留学
明治期日本からも多数
ビデオ
その時歴史が動いた「伝染病から日本を守れ 細菌学者
北里柴三郎の闘い 」(NHK 総合,2006.2.22 放送)
・日本人のドイツ留学
講義メモ
TH ( テー ハ ー)の 台頭
1820 年代∼,ドイツ各地に
総合技術学校(Polytechnische Schule)
仏エコール・ポリテクニクがモデル
ただし,中等レベル
1870 年代∼
工科大学(Technische Hochschule, TH)と改称
高等教育レベルに
科学 者・技 術者 教育 の 制度 化
大学・THにおける科学教育・技術教育の整備
→ 科学者・技術者を大量に養成
ドイツが科学研究・教育の世界的中心に
科学と技術を融合させた新しい工業が発展
(化学工業,電気工業)
→ 科学者の就職先=大学・THの教授職
大学等に就職できなくても,ギムナジウム教師に
専門 学会 の 誕生
・18世紀までの学会
ロンドン王立協会,パリ王立科学アカデミー,
地方学会など
科学のすべての分野をカバー
研究の発展,高度化に対応できない
科学者人口の増大に対応できない
・19世紀以降の専門学会
専門分野ごとに組織
さらに,学会内にも,細分化された分科会
学会ごとに,また分野ごとに,専門雑誌を発行
例:19 世紀 フ ラン スで 創 設された 科学 の専 門学 会
1801 50 年:
パリ薬学アカデミー,地理学会,パリ自然史学会,フラン
ス園芸学会,フランス地質学会,フランス昆虫学会,外科
医学会,生物学会
1851 1900 年:
フランス気象学会,順応動物学会,フランス植物学会,
パリ化学会,パリ人類学会,パリ統計学会,フランス物理
学会,フランス数学会,フランス動物学会,フランス鉱物
学・結晶学会,フランス菌類学会,フランス天文学会,フラ
ンス海洋学会
科学 の制 度 化の 背景
産業革命以降の工業化の進展
→エンジニアの需要増大
→商工業者の子弟のための中等教育
=自然科学教育を重視
(古典教育の代わり)
【学習 の手 引 き】
別紙の「第8回参考資料」を読んで,次の問いに答えて
みよう。(参照すべき段落をかっこ内に段落番号で示しま
した。)
1. 古川によれば,19 世紀に進行した科学の専門分化
(specialization)はどのようなことをもたらしたか?([1][2]
参照)
2. 古川によれば,新たに設立されたエコール・ポリテクニ
クの教育の特徴は何か?([3] [5]参照)
3. 古川によれば,19 世紀ドイツの大学ではどのような新
しい教育が行われたか?([6] [9]参照)
4. 古川によれば,19 世紀において,科学者に対する社
会的ニーズはどこにあったか?([10]参照)
2010.6.9
田中浩朗