1. 研究課題名:脆弱な海洋等をモデルとした外来種の生物多様性へ の

資料3
1.
研究課題名:脆弱な海洋等をモデルとした外来種の生物多様性へ
の影響とその緩和に関する研究
2.
研究代表者氏名および所属:
大河内 勇 (森林総合研究所)
3.
研究実施期間:平成17年度∼19年度
(森林総研)
4.研究の趣旨・概要
ガラパゴスやハワイのように各島で生物が独自の進化を遂げた太平洋・インド洋の海
洋島は、固有の希少種の宝庫である。しかし島の面積が小さく、大陸のような厳しい生
物間の競争がなかったことなどから、生態系は脆弱で微妙なバランスの上に成り立って
きた。近年このような海洋島では、外来種の侵入によって固有種や固有の生態系の存続
が危機にさらされている。日本の小笠原は典型的な海洋島であり、外来種問題の最先端
地域の一つとなっている。
本研究では、小笠原における外来種管理戦略を構築するために、1)外来生物の侵略
メカニズムの解明、2)固有生物の遺伝情報の保存と生物相の回復手法の開発、3)外
来種根絶手法の開発を目標に研究を行う。外来種が固有種に与える直接的影響は明らか
になってきたが、本研究では花粉媒介等の生物間相互作用を通じて多くの生物や生態系
に関わる間接的影響についても、実態を明らかにする。また固有陸産貝類や昆虫類のよ
うに、絶滅の原因となる外来生物の根絶が難しい生物では、遺伝情報の保存や室内飼育
の開発によって代替的に存続を図る。また、外来生物問題の根本的な解決につながる根
絶手法にむけた生態情報の蓄積を行う。
これにより、共通の外来種問題を抱える太平洋・インド洋の海洋島の生物多様性の保
全に資すると共に、我が国の外来種法・自然再生法の実行に貢献する。あわせて小笠原
の世界遺産登録にも寄与するものとなるだろう。外来種には共通種が多いことから、国
際的な保全プログラムや条約等への貢献度も高いと考える。
5. 研究項目および実施体制
① 小笠原諸島における侵略外来植物の影響メカニズムの解明と、その手法に関する研
究(東京都立大学)
② 小笠原諸島における侵略外来動物の影響メカニズムの解明と、その管理戦略に関す
る研究(森林総合研究所)
③ 固有陸産貝類の系統保存に関する研究(東北大学)
④ 侵略外来種グリーンアノールの食害により破壊された昆虫相の回復に関する研究
(神奈川県立生命の星・地球博物館)
⑤ グリーンアノールの生息実態と地域的根絶手法に関する研究(財団法人自然環境研
究センター)
⑥ 侵入哺乳類が小型海鳥類の繁殖に与える影響評価(NPO 小笠原自然文化研究所)
6. 研究のイメージ
脆弱な海洋島をモデルとした外来種の生物多様性への影響とその緩和に関する研究
グリーンアノール
ニューギニアヤリガタウズムシ
モデル地域:小笠原
トクサバモクマオウ
ノネコ
世界共通の外来種
激減する固有種への緊急影響
緩和手法の開発
外来種の生態系への影響解明
サブテーマ1:小笠原諸島における侵略的外来植物の影響メカニズムの解明とその管理手法に
関する研究
除去実験
固有種の宝庫乾性低木林
への驚異
緊急の影響緩和技術
サブテーマ6. 侵入哺乳
類が小型海鳥類の繁殖に
与える影響評価
成果
花粉媒介を通じた
チェーンリアクション
生態系管理戦略
サブテーマ2. 小笠原諸島
における侵略的外来動物の
影響メカニズムの解明と
その管理戦略に関する研究
サブテーマ3. 固有陸産貝類の系
統保存に関する研究
飼育と遺伝子保全
サブテーマ4. 侵略的外来種グリーン
アノールの食害により破壊された昆虫
相の回復に関する研究
自然再生法
外来種法
飼育と離島管理
世界遺産
サブテーマ5. グリーンアノールの生息実
態と地域的根絶手法に関する研究
太平洋・イン
ド洋諸国へ
技術移転
海洋生態系との接点
地域的根絶に必要な条件
外来生物の根絶
クマネズミ
無人島
全島駆除
アカギ
有人島
地域的排除
根絶の方法(モデルに基づく手法とその改善)
根絶後の植物相・動物相の回復過程
根絶が生態系に与える影響
1
アカギ根絶と影響評価の手法開発(主に母島)
駆除事業
アダプティブ・マネジメントによる最適化
森林復元
GISを用いた植生変化
天然更新と埋土種子・鳥散布種子の役割
天然更新における樹木の特性
絶滅危惧種・固有種の動態
2
ヤギ・ネズミ根絶後の回復過程(西島)
駆除後の
生態系変化
植物の結実率
遺伝子流動
植生回復
鳥類相・昆虫相
生物間相互作用(送粉系・食物連鎖)
3
西島の現状
ヤギはほぼ根絶したが、ネズミ害深刻
兄
西島
面積:約1平方
Km
ネズミ食害痕跡(タコノキ)
父
ネズミ穴
侵入ネズミを根絶した例
Monito Island(西インド諸島)
Campbell Is., Putauhinu Is.,
etc. (ニュージーランド)
Barrow Is. (オーストラリア)
など....
技術的には可能
生態系の復元までフォ
ローした研究はまれ
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小笠原諸島における帰化生物の根絶とそれに伴う生態系の回復過程の研究 環境庁委託費 17∼21年度
背景
小笠原は我が国唯一の海洋島であり、固有種率が非常に高いことで知られるが、その反面、多
数の外来種が帰化したため、生態系が深刻な影響を受けている。外来種問題は、最近その深刻さ
が理解され、外来生物規制法案ができるなど、重要な課題となってきた。また小笠原は世界遺産
の候補地でもあり、外来種対策無しには指定は難しい。小笠原の森林の大部分を占める国有林で
も、主要な外来植物アカギの駆除事業を行うなど、外来種への取り組みが行われている。
これまで、小笠原森林生態系の修復技術の開発(現プロジェクト)ではアカギ駆除を柱とした湿性
高木林とそこに生息する鳥類の保護手法を開発し、その成果は上記のアカギ駆除事業に反映され
ている。しかし、アカギ駆除方法となっている駆除マニュアルは暫定的ものであり、生態系の変化に
伴うリスクを常に負っているため、事業地のモニタリング結果に基づき方法を改善していく順応的
管理が必要である。本プロジェクトでは根絶過程にあるアカギと在来種の変化をモニタリングすると
ともに、アカギ駆除手法の効果と影響を評価し、駆除技術の改善に資することを1つめの目的とす
る。
また、現プロジェクトの植生の回復だけでは、小型の外来天敵による昆虫顛、陸産貝類などの無脊
椎動物の回復は望めないことが明らかとなった。それら無脊椎動物相の保全のためには移入種の
影響が少ない周辺属島での保護対策が有効である。そこで、グリーンアノールとニューギニアヤリ
ガタウズムシのいない周辺属島に残る小型外来生物クマネズミの根絶を行い、サンクチュアリを作
成して生態系の回復を図ることを、二つ目の目的とする。
研究内容
1.アカギの地域的根絶が生態系に与える影響評価と手法の改善
1)アカギ駆除手法の改善とその影響
国有林がアカギ駆除マニュアルに基づき駆除事業を2002年から実行している。アカギ駆除地に
おける在来種の再生を調べ、在来種に与える影響を評価するとともに、鳥類の種子散布への貢
献度を評価する。アカギ駆除の効果と影響の評価を行い、駆除技術の改善に資する。
参加予定研究室:森林総合研究所 植物生態研究領域、森林植生研究領域、多摩森林科学園
2)多様性保全のための森林モニタリング手法の開発
今後の駆除事業の拡大を見据えた上、アカギの分布域の変化を高精度で、島全体スケールで
把握するモニタリング手法を開発する。保護区において個体識別によるモニタリング手法を開発し、
固有種や外来種の変化過程を評価する。
参加予定研究室:森林総合研究所 植物生態研究領域、森林植生研究領域、多摩森林科学園
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2.クマネズミ等の駆除が生態系に及ぼす影響の評価
1)植生回復過程の解明
父島の属島である西島から殺鼠剤等によりクマネズミを駆除し、その前後で植生をモニタリ
ングすることにより回復過程を明らかにする。島外からのジーンフローの測定による遺伝的
多様性回復過程を評価する。
参加予定研究室:森林総合研究所 森林植生研究領域 森林遺伝研究領域
2)植生回復に伴う動物相の変化
西島ではそれまで植生破壊の大きな原因であった外来生物のヤギがすでに根絶されてお
り、さらにクマネズミを駆除することによって、植生回復が進行すると予想される。植生の回
復および昆虫相や鳥類相の回復過程を調べ、外来動物の影響を明らかにする。
参加予定研究室:森林総合研究所 森林植生研究領域 多摩森林科学園 森林昆虫研究
領域
3)陸産貝類再導入とその評価
父母の有人島ではプラナリアの捕食で固有陸産貝類が絶滅過程に向かっている。捕食者と
して重要なクマネズミが根絶した西島にこれらの陸産貝類の再導入を行い、その過程をモ
ニタリングすることにより個体群を再確立する方法を開発する。
参加予定研究室:森林総合研究所 森林昆虫研究領域
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