アマゴOncorhynchus masou ishikawae

アマゴ Oncorhynchus masou ishikawae における
マイクロサテライトDNAマーカーの遺伝様式とマッピング
野村健治
水産増養殖技術の発達により、現在では、サケ・マス類、マダイ、ヒラメ、クルマエ
ビなどの主要な水産生物の種苗生産技術は確立され、大量生産が可能となった(坂本
2001)。一方、養殖産業では、 高成長、高水温耐性、耐病性と いった経済性を考慮した品
種改良が求められている。これらの形質を決定ずづけるメカニズムは環境要因強く影響す
ることから極めて複雑であり、今だ明らかにされていないことが多い(森島,2004)。魚類
では、高成長のニジマスやマダイの例を除き、有用遺伝形質を備えた品種として固定され
たものは少く、養殖種苗には、野生集団とほぼ同じ遺伝的性質をもつ集団が飼育されてい
るのが現状である(坂本,2001)。
アルビノや性などの形質は、その形質に関する遺伝子の有無や組合せにより決定される
が、一般に、魚類養殖において重要である成長、抗病性などの経済的形質は量的遺伝子と
呼ばれる複数の遺伝子が関与すると考えられている(森島,2004)。量的遺伝子は、染色体
上の量的形質遺伝子座(QTL;Quantitative Trait Loci)にあるが、このような遺伝子あるい
は遺伝子 座を確定したり、解析したりす るためには、DNA マ ーカーを用いた連鎖地図の
作成が必要である。そのためには、高感度な DNA マーカーが求められる。
マイクロサテライト DNA は、2 ∼ 4 つの塩基を単位を基準とした繰り返し配列のこと
をいい、核ゲノムに多く散在しており、繰り返し回数の変異性が高く、両親から遺伝する
ことから、優れた DNA マーカーになる(野口ら,2003)。
そこで本研究では、アマゴ Oncorhynchus masou ishikawae を材料に、DNA Data Bank of Japan
(略称 DDBJ)に登録されているアマゴのマイクロサテライト DNA について、実際に交
配を行って遺伝様式を確認すること、また、染色体操作により作出した第二極体放出阻止
型の雌性発生二倍体子孫におけるヘテロ接合体率から染色体上のマイクロサテライト遺伝
子座と動原体間の組換え率を検出することによりマーカー座の距離を推定し、遺伝子地図
作(マッピング)を行った。
材料および方法
交配と雌性発生二倍体作出 材料として、佐藤アマゴ養殖場(愛媛県西予市明間)で養殖
されている通常体色魚の雌 2 尾(W1 と W2)と雄 2 尾(W3 と W4)およびアルビノ魚(薄
葉,2001)の雌 2 尾(A1 と A2)と雄 2 尾(A3 と A4)を使用した。切開法により採取した
卵は各々 2 分し、一方は W1 と W3(W1 × W3)、W2 と W4(W2 × W4)の通常体色魚同
士の交配および A1 と A3(A1 × A3)、A2 と A4(A2 × A4)のアルビノ魚同士の交配を行
った。残りの卵は、各々の雌親魚毎に、下述の雌性発生二倍体作出に用いた。すなわち、
通常体色魚 W3 の精子を人工精漿(高橋ら,1987)で 100 倍に希釈後、高橋(2001)の方
法に従って、3600erg/mm2 の紫外線を照射した精子で媒精して、高水温処理(8 分後 27 ℃
で 23 分間)を行った。
各交配区における受精卵は、縦型孵化水槽内の孵化盆に収容し、水温 14-16 ℃で培養し
た。積算水温が約 300 ℃・日で検卵を行った。
PCRとマイクロサテライト分析 交配親魚の脂鰭と各々の交配区の発眼胚体は、400 μ L
TNES-Urea buffer (10mM Tris-HCl, 125mM NaCl, 10mM EDTA, 0.5%SDS, 4M Urea, pH7.5)で
保存し、DNA 抽出用の試料とした。2mg/mL プロテアーゼ K を 10 μ L を加えて、37 ℃で 12
時間のタンパク質消化後、河村(1999)の方法に従って、フェノール・クロロフォルム法
によりゲノム DNA を抽出した。波長 260nm と 280nm の吸光度から各試料毎に DNA を定
量し、濃度が 100ng/μ L となるよう TE buffer で希釈して、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)
法によるマイクロサテライト DNA 分析用の鋳型溶液とした。
1サンプル当たりの PCR 反応液は、鋳型 DNA 溶液 1 μ L、10 × PCR buffer( Takara 社)2.5
μ L 、dNTP Mixture(Takara 社)2 μ L、rTaq polymerare(Takara 社)0.25 μ L、プライマー
(0.3pmol/μ L) 1 μ L、純水 18.25 μ L の計 25 μ L とした。アマゴのマイクロサテライ
ト増幅のためのプライマーは、DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html )に登録され
ている中から、増幅 DNA 断片長が 100-200bp の範囲となる 6 種を選択した(表 1)。
表 1 . ア マ ゴ マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト DNA分 析 用 プ ラ イ マ ー
( マ ー カ ー 座 ) の 塩 基 配 列
マ ー カ ー 座
omi20 omi43 omi109 omi112
omi161
omi187
DDBJ
方 向
F
R
F
R
F
R
F
R
F
R
F
R
塩
GCC
GAT
CCA
GCG
AGA
CTT
TTC
GAT
GCG
TAT
AAT
GAA
基 配
AGT
CAT
ACT
TGT
GGT
ATT
CAG
GGG
CAT
GAC
AGA
CTC
列 GAC
GTG
GTC
TTG
AGT
TGA
CAG
CTG
AAC
CCT
CCT
TGA
(5'-3')
GGG TAG
TCG CAT
CCT AGA
TAG AAG
CTG GGA
CCA ACA
TTT CGG
CTG ACA
TTT TCA
CTC TCA
GCT GTG
TTC CGC
反 復 配 列
TCC
GTG
GAA
CTC
GAT
CGC
GAG
CAG
TTG
CCA
CTG
GTC
T
TG
(CA)n
(CA)n
GGC
GA
TA
CA
TGG
TT
TC
(CA)n
(CA)n
(CA)n
(CA)n
( http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html
)
PCR は Gene Amp PCR Systm 2400 (PERKIN ELMER 社)を用い、94 ℃で 2 分間プレヒー
ト後、94 ℃ 30 秒の熱変性、58 ℃で 1 分間のアニーリング、72 ℃で 1 分間の伸長反応を 1
サイクルとして 35 回繰り返し、4 ℃で保存した。PCR 増幅産物は 15%ポリアクリルアミ
ドゲルで電気泳動法を行った。電気泳動は、縦型電気泳動槽 ( AE-6530M; アトー社 ) を用
い、1 × TBE buffer を緩衝液として、110V の定電圧で 10 時間行った。泳動後、ゲルを臭
化エチジュウムブロマイドで染色し、UV イルミネーターの下で増幅 DNA 断片を検出し
て、デジタルカメラ( EXILIM EX-Z55; CASIO 社)で撮影した。
増幅 DNA 断片長は、Image J(Image processing and Analysis in Java )により、撮影画像の
分析を行って、20bp DNA サイズマーカーの泳動距離を元に、長さ面積測定 Ⅱ(Ver 2.00)
により算出した。そして、各々のマイクロサテライト DNA マーカー座における遺伝子型
を増幅 DNA 断片長により表した。
遺伝子座のマッピング あるマイクロサテライト DNA マーカー座について、ヘテロ接合
型の雌親魚卵より作出した第二極体放出阻止型雌性発生子孫中に見られる 2 種類のホモ接
合体型(非組換え型)とヘテロ接合体型(組換え型)の頻度を調査した。そして、マイク
ロサテライト DNA マーカー座と動原体間の組換え率(y)は、全分析子孫中のヘテロ接合
体型子孫の割合(%)として求めた。組換え率は、染色体の動原体からの距離に比例して
いると考えられていることから、各々のマイクロサテライト DNA マーカー座(G)と動
原体間( C)の距離(cM:センチモル ガン)を以下の式で算出し、G-C マ ッピングを行っ
た。
G-C distance(cM)= 100 × y/ 2
結
果
親魚 本実験に供した通常 体色魚 4 個体( W1-4)およびアルビノ魚4個 体(A1-4)にお
いて、6 種のマーカー座について PCR を行ったところ、全個体において、増幅 DNA 断片
が観察できた(表 2)。
マーカー座 omi20 では、増幅 DNA 断片長が 101、108、140、148、161 、 および 163 の 6
対立遺伝子が検出された。各親魚の遺伝子型は、W1 と W3 が 108/140、W4 が 108/148、A1
が 108/163 のヘテロ接合体型、W2 が 108/108、A3 が 163/163 、 A2 が 161/161 のホモ接合体
型であった(図 1)。
マーカー座 omi43 では、DNA 断片長が 83、85、115、117、145、167、169、205 および 208
の 9 対立遺伝子が検出された。各親魚の遺伝子型は、W1 が 115/145、W2 が 117/145、W4
が 85/145、A1 と A3 が 83/167、A2 が 85/169、A4 が 85/205 のヘテロ接合体型であったが、W3
が 208/208 のホモ接合体型であった。
マーカー座 omi109 では、DNA 断片長が 91、95、97、99、108、130、165 および 167 の 8
対立遺伝子が検出された。各親魚の遺伝子型は、W2 が 95/108、W3 が 91/130、W4 が 99/108、
A1 と A3 が 99/167、A2 が 97/165 のヘテロ接合体型、W1 が 91/91 および A4 が 97/97 のホモ
接合体型を示した。
マーカー座 omi112 では、DNA 断片長が 87、89、91、93、97、106、108、110 および 159
の 9 対立遺伝子が検出された。各親魚の遺伝子型は、W3 が 87/106、W4 が 93/159、A2 が
91/110、A3 が 89/108、A4 が 91/97 のヘテロ接合体型であったが、W1 が 87/87、W2 が 93/93、A1
が 89/89 のホモ接合体型であった。
マーカー座 omi161 では、DNA 断片長が 108、110、112、146、148、152、185、190、192
および 220 の 10 対立遺伝子が検出された。各親魚の遺伝子型は、全てヘテロ接合体型を
示し、W1 が 146/185、W2 が 148/192、W3 が 108/146、W4 が 148/192、A1 が 110/152、A2 が
190/220、A3 が 110/192、A4 が 112/190 であった。
マーカー座 omi187 では、DNA 断片長が 138、159、166、168、171、191、198、226 およ
び 258 の 9 対立遺伝子が検出された。各親魚の遺伝子型は、W2 が 138/191、W3 が 171/198、
W4 が 138/191、A1 と A3 が 166/258、A2 が 167/226 のヘテロ接合体型であったが、W1 が
159/159、A4 が 168/168 のホモ接合体型を示した。
図1
アマゴ親魚(通常体色 W1-4, アルビノ魚 A1-A4)におけるマイクロサテライト
DNA マーカー座 omi43 の電気泳動像
表 2. 6種のマイクロサテライトDNAマーカー座におけるアマゴ親魚の推定遺伝子型
通常体色魚
アルビノ魚
マーカー
遺伝子
座
数
W1
W2
W3
W4
A1
A2
A3
A4
omi20
108 /140 108 /108 108 /140 108 /148 108 /163 161 /161 163 /163 101 /101
6
omi43
115 /145 117 /145 208 /208 85 /145
83 /167 85 /169 83 /167 85 /205
9
omi109
91 /91
95 /108 91 /130 99 /108
99 /167 97 /165 99 /167 97 /97
8
omi112
87 /87
93 /93
87 /106 93 /159
89 /89
91 /110 89 /108 91 /97
9
omi161
146 /185 148 /192 108 /146 148 /192 110 /152 190 /220 110 /192 112 /190
10
omi187
159 /159 138 /191 171 /198 138 /191 166 /258 168 /226 166 /258 168 /168
9
通常交配子孫の遺伝子型 通常体色魚 W1 と W3 を交配した区の正常発眼卵は1個体と、
生残率は極めて低かった(0.2%, 1/ 530)。一方、W2 と W4 の通常体色魚同士の交配、A1×A3
および A2×A4 のアルビノ魚同士の交配では、良好な生残率(68.5~85.0%, 10/130~10/286)を
示したことから、これらの 3 つの区では、10 個体の胚体につて調査を行った。各交配子
孫におけるマーカー座毎の遺伝子型を表 3 に示す。
1 W1×W3 生存 し た 1 個体 の 遺伝 子 型は 、 マー カ ー座 omi20 で は 108/140、 omi43 では
145/208、omi109 では 91/130、omi112 では 87/87、omi161 では 108/146 を示した。これらのマ
ーカー座において出現した子孫の遺伝子型は両親の遺伝子型から予想される組み合わせの
遺伝子型であった。一方、マーカー座 omi187 では、両親の遺伝子型 159/159×171/198 の交
配からは、出現が期待されない遺伝子型 171/171 のホモ接合体型が見られた。これは、null
対立遺伝子を仮定し、雌親の遺伝子型が 159/null であると仮定すると、子孫の遺伝子型は
171/null と、見かけ上ホモ接合体型となって、矛盾しない。
2 W2×W4 マーカー座 omi20 では、遺伝子型 108/145 が 6 個体、108/108 が 3 個体であっ
たが 1 個体は不明であった。マーカー座 omi43 では、遺伝子型 85/117 が 4 個体、85/145 が 3
個体、117/145 が 2 個体、不明が 1 個体であった。マーカー座 omi109 では、遺伝子型 99/167
が 4 個体、99/99 が 6 個体であった。マーカー座 omi112 では、遺伝子型 93/93 が 3 個体、93/159
が 6 個体、不明が 1 個体であった。マーカー座 omi161 では、遺伝子型 148/192 が 7 個体、
192/192 が 2 個体であった。マーカー座 omi187 では、遺伝子型 138/191 が 6 個体であった
が、残り 4 個体は不明であった。これらのマーカー座において、子孫に見られた遺伝子型
は、両親の遺伝子型から予想される組み合わせの遺伝子型であった。
3 A1×A3 マーカー座 omi20 では、遺伝子型 108/163 が 6 個体、163/163 が 4 個体であった。
omi43 では、遺伝子型 83/167 が 7 個体、83/83 が 1 個体、167/167 が 2 個体であった。マー
カー座 omi109 では、遺伝子型 99/117 が 4 個体、99/99 が 6 個体であった。マーカー座 omi161
では、遺伝子型 110/152 が 4 個体、110/192 が 5 個体、および不明が 1 個体であった。マー
カー座 omi187 では、遺伝子型 166/258 が 7 個体、および 166/166 が 3 個体であった。これ
らのマーカー座において出現した子孫の遺伝子型は両親の遺伝子型から予想される組み合
わせの遺伝子型であった。一方、omi112 では、遺伝子型 89/89 が 4 個体、108/108 が 4 個体、
89/108 が 1 個体、および不明が 1 個体であった。両親の遺伝子型 89/89×89/108 の交配から
は、出現が期待されない遺伝子型 108/108 のホモ接合体型が見られた。これは、null 対立
遺伝子を仮定し、雌親の遺伝子型が 89/null であると仮定すると、子孫の遺伝子型は 108/null
と見かけ上ホモ接合体型となって、矛盾しない。
4 A2×A4 マーカー座 omi43 では、遺伝子型 85/169 が 5 個体、85/205 が 3 個体、および 85/85
が 2 個体であった(図 2)。マーカー座 omi109 では、遺伝子型 97/97 が 8 個体、97/165 が 2
個体であった。マーカー座 omi112 では、遺伝子型 91/91 が 2 個体、91/110 が 5 個体、91/97
が 2 および不明が 1 個体であった。マーカー座 omi161 では、遺伝子型 190/220 が 5 個体、
112/190 が 2 個体および 112/220 が 3 個体であった。マーカー座 omi187 では、遺伝子型
168/226 が 6 個体、168/168 が 1 個体および不明が 3 個体であった。これらのマーカー座に
おいて出現した子孫の遺伝子型は、すべて両親の遺伝子型から予想される組み合わせの遺
伝子型であった。一方、マーカー座 omi20 では、遺伝子型 101/161 が 3 個体、161/161 が 5
個体と不明 2 個体であった(図 3)。両親の遺伝子型 161/161×101/101 の交配からは、出現
が期待されない遺伝子型 161/161 のホモ接合体型が見られた。これは、null 対立遺伝子を
仮 定 し 、 親 魚 の 遺 伝 子 型 が 、 161/null×101/null で あ る と 仮 定 す る と 、 子 孫 に は 遺 伝 子 型
161/null と null/null が出現すると期待される。従って、101/101 のホモ接合体型は 101/null、
遺伝子型が不明であった 2 個体は null/null と考えれることも可能である。
図2
図3
通常交配(A2 × A4)におけるマーカー座 omi43 の電気泳動像
null 対立遺伝子を想定した通常交配同士の交配(A2 × A4)子孫における
マーカー座 omi20 の電気泳動像
雌性発生二倍体子孫の遺伝子型とマーカー座組換え率 通常体色雌 2 個体(W1 と W2)
およびアルビノ雌 2 個体(A1 と A2)の卵から誘起した雌性発生二倍体区において、W2
と A2 の卵に由来する区においてのみ、それぞれ、生残率 27.4%(10/288)と 3.3%(8/244)
の正常発眼卵が得られたことから、各々の区から 10 個体と 8 個体の胚体について調査を
行った。W2 の雌性発生二倍体子孫におけるマーカー座 omi161 電気泳動像を図 4 に示す。
W2 および A2 の雌性発生二倍体子孫からは、マーカー座 omi20 における雌親と雄親に
共通の遺伝子 108 を除き、すべてのマーカー座において、雄親の遺伝子は認められなかっ
た。このことは、この区における正常胚体が雌性発生二倍体であることを示す。
マーカー座 omi20 では、親魚 W2 および A2 の雌性発生二倍体子孫は、全てホモ接合体
型を示した。W2 は 108/108 のホモ接合体型、A2 は 161/161 のホモ接合体あるいは 161/null
と推定されることから遺伝子の組換えがあったかどうかは、明らかにできなっかた。
マーカー座 omi43 では、W2 および A2 におけるヘテロ接合体型子孫の出現率は、それ
ぞれ、100%(10/10)と 87.5%(7/8)であった。マーカー座 omi109 では、W2 と A2 におけ
るヘテロ接合体型子孫の出現率は、それぞれ 60.0%(6/10)と 62.5%(5/8)であった。マ
ーカー座 omi112 では A2 におけるヘテロ接合体型子孫の出現率は、62.5%(5/8)であった。
マーカー座 omi161 および omi187 では W2 および A2 におけるヘテロ接合体型子孫の出現率
は、いずれも 100%であった(10/10, 8/8)。
図4
通常体色魚 W2 の雌性発生二倍体子孫におけるマーカー座 omi161 の電気泳動像
表 4 . 6種 の マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト DNAマ ー カ ー 座 の 雌 性 発 生 子
推定遺伝子型および組換え率
雌親の推定
n(調 査
子孫の遺伝子型 組換え
マーカー座
ホ モ 型 ヘ テ ロ 型 率 (%)
遺伝子型
個体数)
omi20
10
10
0
W2 (108 /108 )
8
8
0
A2 (161 /null )
omi43
10
0
10
100.0
W2 (117 /145 )
8
1
7
87.5
A2 (85 /169 )
omi109
10
4
6
60.0
W2 (95 /108 )
8
3
5
62.5
A2 (97 /165 )
omi112
W2 (93 /93 )
10
10
0
8
3
5
62.5
A2 (91 /110 )
omi161
10
0
10
100.0
W2 (148 /192 )
A2 (190 /220 )
8
0
8
100.0
omi187
10
0
10
100.0
W2 (138 /191 )
8
0
8
100.0
A2 (168 /226 )
G-Cマッピング 雌性発生二倍体子孫におけるヘテロ接合体の出現率から染色体における
マイクロサテライト DNA マーカー遺伝子座と動原体間の距離を推定すると、マーカー座
omi43 が 43.8~50.0cM、マーカー座 omi109 が 30.0~31.3cM、マーカー座 omi112 が 31.3cM、マ
ーカー座 omi161 および omi187 は、それぞれ 50.0cM となった(図 5)。
C 動原体
T テロメア
G 遺伝子座
図5
5 種のマーカー座におけるアマゴの G-C マッピング(遺伝子地図)
考
察
本研究では、DDBJ に登録されているアマゴマイクロサテライト DNA マーカーにおい
て、PCR 増幅 DNA 断片長が 100bp ∼ 200bp となる DNA マーカー 6 種類のプライマーを使
用し、調査を行った。その結果、6 種のプライマーは供試魚のアマゴにおいて、変異が見
られ遺伝子型を識別できた。しかしながら、通常交配では、一部のマーカー座において、
メンデルの遺伝様式に従わない例が 3 例(W1×W3 におけるマーカー座 omi187, A1×A3 に
おけるマーカー座 omi112 および A2×A4 におけるマーカー座 omi20)見られた。しかし、
マイクロサテライトを DNA マーカーとした遺伝子型では、null(ヌル)対立遺伝子の存在
が報告されており(森島,2004)、これを識別しないで集団分析を行うと、遺伝子頻度の推
計に誤りが生じる。メンデルの遺伝様式に従わなかった 3 例においても、null 対立遺伝子
と仮定することにより、通常交配子孫の遺伝子型はすべて説明でき、その分離はメンデル
の遺伝様式に従っていると判断できた。null 対立遺伝子は、PCR の際、プライマーが結合
(アニーリング)する部位において、鋳型 DNA における塩基配列の変異が指摘されてい
る(森島,2004)。また、ホモ接合体型を示した親魚においても、null 対立遺伝子との、ヘ
テロ接合体型の可能性がある。これは、通常交配子孫を数多く調査すれば判別可能である
が本研究では、最高 10 個体しか子孫の遺伝子型を調査することができなかったため、全
てのホモ接合体型について、null 対立遺伝子とのヘテロ接合体型かどうか識別できなかっ
た。
以上のことから、null 対立遺伝子座を含めた各マーカー座の対立遺伝子数は、omi20 が 8
個、omi43 が 9 個、omi109 が 8 個、omi112、omi161 および omi187 がそれぞれ 10 個となり、6
マーカー座において、合計 46 個の対立遺伝子があることが示された。これら 6 マーカー
座において、最も対立遺伝子が多型であったのは、omi112 、 omi161 と omi187 であった。
このマーカー座は、アマゴにおいて、遺伝的近交度を調査する上で良い DNA マーカーと
なり得る。
雌 性発生二倍 体子孫のヘ テロ接合体率 から、動原 体(C)と遺伝子 座(G)間の交叉率
から距離を推定した。一部のマーカー座では、雌親がホモ接合体型であったことから、遺
伝子組換え率を求めることはできなっかたが残りのマーカー座において、雌親がヘテロ接
合体型であったことから、雌性発生二倍体子孫においても、ヘテロ接合体型が見られ、第
1減数分裂時の動原体から遺伝子間において、染色体交叉があったことが示された。マー
カー座 omi43、161 および 187 は、動原体からの距離が、43.8~50.0cM と動原体から遠い位
置にあった。一方、マーカー座 omi109 および 112 は 、 30.0~31.3cM と比較的動原体に近い
位置にあった。
本研究では、調査したマーカー座と調査個体数が少なかったため、アルビノ遺伝子座や
各マーカー座が連鎖しているかどうか推定することができなった。今後、多くのマーカー
座を使用し、検体数を増やすことにより、詳細な遺伝子座マッピングが可能であると考え
られる。
謝
辞
本研究を行うにあたって、供試魚を提供して下さった佐藤アマゴ養殖場の佐藤正治氏、
また、本実験に協力していただいた教諭山木勝氏、本校専攻科生の佐藤隆博氏に感謝いた
します。
引用文献
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