「英国の対アフリカ援助政策」(原稿作成日:2005/2/22)

2005 年 2 月 22 日
FASID 事務局長兼研究部長
八木正典
最新開発援助動向レポート No.16
「英国の対アフリカ援助戦略」
2005 年は、英国が G8サミットをホストし、7 月から EU 議長国に就任する。さらに 9
月には国連総会でミレニアム開発目標(MDGs)のハイレベル中間レビューも実施されるこ
とから、国際社会の関心がアフリカに注がれることが予想されている。この中で、英国の
動きが特に注目されている。この関連で英国国際開発省(DFID)を中心とした英国の対ア
フリカ援助戦略を観察することは興味深い。二月上旬に筆者は DFID アフリカ部関係者に
インタビューを行い、入手資料も踏まえて次のとおり報告する1。
1.
DFID の戦略目標と英国の全般的動き
DFID は、MDGs と省としての政策目標・実行計画を連動させている世界でも稀有な省
庁である。ブレア政権発足後の 98 年から導入された、予算に連動した3年間の政策目標策
定・評価システムである公的サービス協定(Public Service Agreement:PSA)2において、
SR2002PSA3より、戦略目標(Aim)として「MDGs の 2015 年までの達成を通じて、特に
より貧しい国々における貧困を排除する」ことが掲げられた。そして、MDGs の達成を目
指して、2つの白書、PSA、SDA4、さらにそれらを実施するための各部、各チーム、個人
にいたるまでの活動計画が MDGs 実現に向けてすべて系統的に位置づけられることとなっ
た。この関連で、貧困削減とならぶキャッチフレーズである「持続的開発」は、2000 年の
SR・PSA では主要目標であったものが、2002 年の SR では、PSA から外れ、SDA に移行
し、その後 2004 年の SR・PSA では、DFID 目標から外れ、英国外務省(FCO)の一目標
としてかろうじて残存することとなった。総じて、現在 DFID は、
「貧困削減省」あるいは
「MDGs 達成省」といっても過言ではない様相を呈している。この動きを加速しているの
は、英国財務省ならびにゴードン・ブラウン蔵相である。通常、予算を厳しく切り込む側
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DFID アフリカ部は、MDGs とそれに関連する後述の PSA 目標達成のため、アフリカ部としての 2005
年 4 月から 3 年間の詳細な事業計画を作成しており、近く実施に移される予定である。その中で MDGs
達成に向けての各ターゲットの進捗状況をアフリカの対象 16 カ国全体で認識できるよう赤(軌道を外れ
ている)
、オレンジ(時期尚早にして判断不可能)
、緑(軌道上にある)で色分けし、さらに 90 年から
2001 年までの長期トレンドを矢印で示して図表化している。
英国では、各省庁が PSA 制度の下で、3 年間の政策目標を財務省と合意し、予算を得る仕組みになって
いる。
SR は Spending Review の略であり、財務省が 2 年おきに発行する各省向けに確定した次年度から3年
間の予算についての説明書。98 年度から導入。PSA 制度と一体のものとして運用されている。例えば
SR2002 は 2003 年度から 05 年度をカバーするが、
最後の1年は次の SR2004 の開始の1年と重複する。
Service Delivery Agreement の略。PSA を如何に実行するかについての各省と財務省との合意文書。た
だし、事務が煩雑になるとして SR2004 から廃止された。
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の財務省は、MDGs 達成を全面的に支援し、とりわけアフリカ支援に手厚い予算を割り当
てている。ブラウン蔵相は、世界の貧困者の救済は富裕国の道徳上の義務であると言い切
っている。また、ブレア首相は、アフリカ委員会(Commission for Africa)という枠組み
を 04 年 2 月から立ち上げて別途国際社会の様々な分野の有識者・オピニオン・リーダーの
意見をまとめ5アフリカへの支援に対する提言を発表しようとしている。
2.
MDGs 達成に向けての進捗状況
DFID は、MDGs 達成にむけての国別の進捗状況、ターゲット毎の進捗状況を世銀や国
連機関のデータも活用し綿密にモニターし、分析している。その結果、2002 年 SR・PSA
の第1行動目標(Target 1)で掲げられているサブサハラ・アフリカの対象 16 ヶ国をま
とめた各副目標進捗状況は、①貧困者の割合の削減6、②初等教育入学率7、③紛争予防と管
理、④G8 によるアフリカに対する行動計画、の 4 つの副目標については、順調な進捗が示
されており、⑤初等教育における男子に対する女子就学率の向上、⑥5 歳以下乳幼児死亡率、
⑦専門家の介護を受けた出産の割合向上(母親の出産時の死亡率削減に関連)の3つの副
目標については赤信号がともっている。また、⑧15-24 歳の妊娠した女性の HIV 感染比率
の低下8については黄色信号の状況にあると判断している。以上を総合すれば次のとおりで
ある。
1)アフリカでは一定の進展がみられる。初等教育入学率は上昇し、紛争は沈静化の
傾向にある。政治的安定、民主化も多くの国で根付きはじめている。HIV/エイズ
は安定化しつつあるがより多くの努力が必要である。成長も遅遅としているが改
善している。
2)開発パートナーが成果にコミットし努力すれば成功の見込みはある。アフリカ自
身の主体性も、国レベル、地域レベルで顕れ始めている。
3)他方、脆弱国家におけるリスクは高まっており、とりわけ MDGs の目標達成進路
から乖離し始めている部分への資金面での手当てが必要である。ドナーの対応を
資金量、効果の双方で高める必要がある。
4)英国のアフリカ向け援助額は増えている9。しかし、英国一国では限界があり、そ
れを国際社会のより広範な活動に結び付けるべく最大限のインパクトを試みる。
特に、貧しく人口の多いエチオピアやコンゴ民主共和国やナイジェリアといった
国々に対して一層の努力を払う。
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04 年 11 月東京でも FASID がホストし、在京英国大使主催で委員会を開催した。
貧困者の目標は 48%で現在 49%。
目標は 55%から 72%に改善することであるが、現在 11 カ国については 77%に改善。
目標は 16%で現在は 14%ながら、国別のばらつきが大きいとしている。
04 年度 8.64 億ポンド、05 年度 11 億ポンドで、06 年度、07 年度も更に増加の見通し
る。
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3.
MDGs 達成に向けての英国の具体的動き
現在の英国の対アフリカ援助外交の重点は、G8、EU 議長国の立場ならびにアフリカ委
員会を通じて、富裕国のアフリカ支援に対する政治的コミットメントを最大限引き出すこ
とである。その柱を紹介する。
1)アフリカ委員会(CFA)
ブレア首相の肝いりで発足した CFA は各国で実施した成果をまとめ、3 月中旬に
提言を報告書の形で発表することとなっている。その際の主眼は次のとおりとな
る見込みである。
● インフラ重視:報告書は MDGs を達成するためには経済成長が必要であるとして
貧困削減に果たすインフラの役割を重視。
● 債務救済の必要性:バイ、マルチを問わず追加的な債務救済が重要10。
● 貿易促進:ドーハ・ラウンドの実施、とりわけ先進国の産品保護のための補助金の
削減の重視。
2)IFF(International Finance Facility)
MDGs の期限内達成のため必要となると考えられる今後 10 年間毎年 500 億ドルの
ドナーからの追加的援助資金をドナーの信用保証の下、市場メカニズムを利用し
て前倒しで確保するためのアイデアで、原案は 2001 年のモンテレー会議でブラウ
ン蔵相が提唱したものである。先般の G7 蔵相・中央銀行総裁会議でも改めて同蔵
相から各国に働きかけがあった。仏が支持し、独、イタリアも好意的であるとみ
られる一方、日本は慎重な姿勢を示しており、米国は関心を示していない。
3)アフリカ重点援助
英国政府は今後 10 年間にアフリカへの援助資金を倍増させる考えであり、来年度
予算のうち、11 億ポンド(約 2,200 億円)をアフリカ向けに当てる考えであり、
英国のアフリカ支援の転機になるとみられている。ODA 全体も対 GNI 比 0.5%弱
に達しており、目標の 0.7%も視野に入りつつある。更に、ODA の 90%を低所得
国に割り当てる予定であり、地域的にはアフリカが大幅増、ラテン・アメリカ、
東欧が減少する見込みである。更に英国は欧州内において、EC の対外援助を貧困
削減のために使用されるよう、PSA ターゲットにおいて、EC の ODA の低所得国
向け供与の割合を 2000 年のベースとなる 38%から 2008 年に 70%にまで上昇す
るよう働きかけを強化している。
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例えば特に多額の IMF 債務延滞を発生させているスーダン等の救済の重視。
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4)債務救済
DFID は 2004 年 SR・PSA において、2005 年末までに貧困削減の決定ポイントに
達した重債務貧困国の 90%が 2008 年末までに最終的な債務削減を受けることが
できるよう目標を設定し、ドナーへの働きかけを活発化している。一方、二国間
の債務救済のみならず、貧困国が世銀やアフリカ開銀といった国際開発金融機関
に負っている債務に関しても肩代わりするようドナーに働きかけを行っている11。
また、IMF 債務は IMF が保有している金の売却によって債務を救済すべきである
としている。
5)脆弱国家対策
米国においてもテロの温床になるという懸念があり USAID は脆弱国家への対策
が優先順位の高い政策課題になっているが、英国においても、過去 2-3 年の間に
MDGs 達成には、脆弱国家対策が重要であるとの認識が急速に広まってきている。
例えば、コンゴ民主共和国、エチオピア、ナイジェリアといった人口の多い国は
リスクがあるものの見捨てるわけにはいかないとの立場を鮮明にしつつある。そ
のための英国のこれら諸国への予算割当ては大幅に増加している12。更にスーダン
やシオラレオネ、ルワンダといった紛争の混乱を切り抜けて復興を進めている国
への支援も重要であるとしている。DFID が脆弱国家に援助を実施する際の目安は
次のとおりである。
● リスクを認識しつつも便益の大きさにより援助実施が正当化されること。
● 援助効果を高めるため、通常と異なるアプローチをとる。たとえば、スーダンのよ
うな国には国内的には、外務省、国防省と一体となって、外交、安全保障、援助を
統合したアプローチをとる。また、効果的であると考えられる場合には NGO や国
際機関を通じての援助提供を試みる。
● どれだけのリスクを負うのかについては、緊急事態対策プランを事前に作成してお
き、例えば対象国で紛争が発生すれば、その時点で資金投入を一旦見合わせ、他の
プログラムに振り分けることを検討する。
● 脆弱国家と優等生国家13への援助の比率は、限られたパイの中で、例えば、エチオ
ピアに重点を置くのか、ガーナに重点を置くのかでは、現在の戦略目標との関連で
はエチオピアに優先順位をおく。脆弱国家と優等生国家への援助量に関しては、ト
レード・オフの状態にあるが、幸い英国の ODA が増加しているため、ガーナをは
じめほとんどの優等生国家は現状維持か微増で対処できる状況にある。
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ブラウン蔵相は、英国は、世銀、アフリカ開銀の一部債務を英国が率先して一方的に実施すること、そ
の比率として途上国債務の 10%を対象とすることを宣言している。ただし、特定の国の分をイヤマーク
するのではない趣である。
英国は、05-07 年度までの 3 年間におけるアフリカ支援の増額のうち、62%を上記 3 カ国に振り当てる
計画である。
タンザニア、ウガンダ、ガーナ、モザンビーク、南アが優等生国家と考えられている。
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6)財政支援
途上国政府の財政管理の中に特定事業にイヤマークしない形で援助を行う財政支
援(Budget Support:BS)は、英国においては政府も議会から BS が有効である
との証拠を示すよう圧力を受けており、大きな実験である。しかし、これまでの
実績をみるかぎりルワンダをはじめ導入国14では援助効率を向上させるという観
点からは非常によい成果を収めている。タンザニアでは財政支援レビューが完了
し、この春からアフリカ諸国において BS の枠組み・モダリティに関して評価を実
施する予定である。プロジェクト・ベースの支援は、必ずしも持続可能な開発に
結びついてこなかったと判断し、BS の拡充をはかる考えである15。他方で、財政
支援実施にあたっては、途上国側の①能力構築、②綿密なモニタリング、③イン
パクト評価、④長期的視野が必要である。
4.
結び
スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次会合(通称ダボス会議、2005 年 1
月 30 日閉幕)には世界の政治、経済をはじめとする各界のオピニオン・リーダーが一同に
会した。米国からはクリントン前大統領、ティラー財務次官、仏のシラク大統領、独のシ
ュレーダー首相、英国からはブレア首相、ブラウン蔵相らが出席した。この他、ムカパ・
タンザニア大統領、オバサンジョ・ナイジェリア大統領さらにはビル・ゲーツなども議論
に加わった。中心テーマは、津波支援や中東和平であったが、最も関心を集めたテーマの
ひとつは「貧困削減」に向けての国際社会の取り組みについてであった。これらのリーダ
ーはそれぞれの言葉でアフリカ支援に関して熱っぽく訴えた。シラク大統領も英国に対抗
するかのように貧困国支援のための国際税システムを唱えた。その際ムカパ大統領が債務
救済をはじめとするアフリカ支援を強く訴えたのに対して、ハリウッド女優のシャロン・
ストーンが自ら 1 万ドルの寄付を表明するとともに会場で寄付を募り始めるというハプニ
ングも起こり世界中で大々的に報道された。この会合において、アフリカ援助の緊急性・
必要性を訴えたブレア首相、ブラウン蔵相がとりわけ存在感を示していた。世界の人々が
連帯して貧困削減に取り組むべきであるとの強力なメッセージを英国が先頭に立って発信
している印象さえある。このような大きなうねりの中で日本政府がアフリカ支援に対して
如何なるメッセージを発するのか注目されるところであり、開発系シンクタンクの果たす
役割も小さくないと考えられる。
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英国の財政支援はタンザニア、ウガンダ、ルワンダ、モザンビーク、ガーナ、シオラレオネで導入済み。
今後、ザンビア、ケニア、マラウィで実施予定である。
英国のアフリカ向け援助に占める貧困削減財政支援の比率は、04 年度の 45%から 07 年度の 54%に拡
大する計画。
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【参考文献】
1) DFID (2003) Autumn Performance Report DFID PSA 2003-06, November.
[URL] http://www.dfid.gov.uk/pubs/files/autumnperfreport03.pdf
2) DFID Technical Note to 2003-06 PSA
[URL] http://www.dfid.gov.uk/pubs/files/technicalnote03-06.pdf
3) DFID (2005) Why we need to work more effectively in fragile states .January.
[URL] http://www.dfid.gov.uk/pubs/files/fragilestates-paper.pdf
4) Chancellor of the Exchequer Gordon Brown, CAFOD’s 2004 Pole Paul VI memorial
lecture. December 8, 2004.
[URL] http://www.ukun.org/articles_show.asp?SarticleType=17&Article_ID=835
5) “G7 meeting Britain steps up drive to help Africa”Financial Times 2005 年 2 月 3 日。
6) “US Foreign Aid: Meeting the Challenges of the 21st Century” Presentation
delivered by Dr.Charles Aanenson from US Embassy in Tokyo at FASID in
December 8th,2004.
7) Innovations in Development Finance
[URL] http://www.grips.ac.jp/csids/subject/subject03.pdf
8)NHK BS 放送「世界潮流 2005 新たな協調へのうねり」
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