全地連「技術フォーラム2013」長野 【7】 盛土地の不同沈下の原因調査 ㈱東京ソイルリサーチ ○中野 洋平 1. はじめに 台地と開析部にまたがって造成された盛土地盤上の共 同住宅において,竣工後数年の間に,床スラブ下および 床スラブ下に25cm 程度の空隙 庭・外構に空隙や段差が認められた。対策として,空隙 への土の補充等の対策を施したとのことであるが,変状 は収束していない。そのため,変状の原因を究明するこ とを目的として今回の地盤調査を実施した。 写真-1 変状状況(床スラブ下) 本報文では,調査の結果から明らかになった変状の原 因究明および調査結果から適していると考えられる対策 工の提案について発表する。 2. 概要 (1) 地形概要 対象地は東京都内に所在し,地形区分上は台地上に位 置しているが,図-1に示すとおり,旧河川などにより台 庭の沈下により段差が 地を開析した凹地があり,急斜面を介して東側に谷底平 生じたフェンス 野が接している。対象地は台地・急斜面・谷埋平野とま たがっていることから,旧斜面である東側を盛土により 平坦化した土地ということがわかる。 急斜面 写真-2 変状状況(庭部) 谷底平野 台地 写真-2 0 ボーリング地点 200m 図-1 対象地周辺の土地条件図 写真-1 1) (2) 変状状況 0 10m 写真-1のように床スラブ下に25cm 程度の空隙が生じ, 最大45cm 程度の空隙も確認されている。この空隙は,東 側の床スラブ下に連続して生じていた。 また,写真-2のように庭部では,建物に固定されてい るフェンスと庭に直置きのフェンスとの高さに段差が認 められており,庭全体の凸凹が一目でわかるほどであっ た。 建物本体は杭基礎を用いて支持されていることから, 空隙や段差などの変状原因として,敷地内地盤の沈下現 象が考えられた。これらの空隙は,敷地の東側の床スラ ブ下および庭部・外構に顕著に表れているため,対象地 内に不同沈下が生じていると判断できる。 (図-2) 図-2 調査位置図 (3) 変状原因を推定するための調査内容 ①前述したように,当該建物は杭基礎により支えら れており,建物自体への変状による損傷は確認さ れていない。 ②図-1の土地条件図から判読すると,傾斜地に盛土 が厚く造成された平坦化地である。加えて,谷底 平野に近接する敷地の東側での変状が顕著であ る。 ③既存ボーリング調査結果では,凹部に堆積してい 全地連「技術フォーラム2013」長野 る地層の内,圧密沈下を生じる可能性が考えられ 縮性の大きい材料といえる。これらの木材屑が盛土材と る粘性土層の層厚は概して薄い。 して多量に投棄され,雨水等による地下水の影響により 以上のことより,対象地の不同沈下は,主に盛土が原 腐食し,スポンジ状になり空隙が生じることにより,圧 因と考えた。 縮性を増すことが考えられる。以上のことから,対象地 これらの事象を踏まえて,盛土材の種類,硬さ,締ま で生じている変状の原因は廃棄物層の圧縮に伴った沈下 り具合および盛土厚さの確認のために,変状が顕著に表 と判断した。 れている敷地東側に標準貫入試験ならびに目視による試 また,オールコア試料より,現状において腐食しきれ 料の確認が可能なオールコアボーリングを行うことにし ていない木材(木材屑・伐採屑)も確認されているため, た。 腐食の進行に伴い,今後も引き続き沈下が進む可能性が 3. 沈下原因の推定 極めて高いと判断した。 4. 対策案 オールコアボーリングの結果から明らかになった対象 以上のことから,これまで行ってきたようなスラブ下 地東側の土層構成は,下記に示す4種類に分類される(図 の空隙への土の補充は上載荷重を増やし,沈下を促進す -3) 。 る恐れがある。また,盛土の層厚は10m以上あるため, ①廃棄物層の上位に覆土したローム主体の比較的良 廃棄物を取り除き,良質土により盛土を行う置換工法に 質な盛土層(盛土 1) は莫大な費用がかかり不適当と判断した。 ②木材切り屑,伐採屑,銅線等々を多量に混入した 経済性も考慮した対策案としては,固化材系を使用し 産廃を主体とする層(廃棄物層) た薬液注入工法を1案として提案した。使用する機械が ③廃棄物層の 1 層あたりの厚さを薄くするための遮 比較的軽量で,施工も簡便であるため,対象地のように 断層(盛土 2) 限られた施工エリアの場合に適していると判断した。 ④地山(N 値4~12の洪積粘性土層) ①および③の盛土層は一般的に盛土として用いるロー また,一般的な粘性土の圧密沈下現象とは異なり,定 ムが主体であるため変状の原因となっているとは考えに 量的な沈下量予測は困難であると考えられるため,不同 くい。しかし,②の廃棄物層は,木材の削り屑が多く混 沈下が生じることに対しては許容し,ある一定の基準を 入した廃棄物である。調査地に造成された盛土層のうち 定め,その基準量を越えた時点で軽量盛土材やエアーモ 大部分がこの廃棄物であり,廃棄物内にはほとんど土の ルタルなどを用いて空隙部を埋めることも提案した。そ 混入していない区間も認められた(図-4) 。 れと同時に,現在の段階では建物自体に損傷はないが, 廃棄物には杭の水平抵抗力は認められないため,地震の ±0 盛土1 横揺れに杭基礎が耐えられない危険性があるという注意 -2 も促した。 -4 廃棄物 5. おわりに 盛土2 -6 対象地のような凹地を埋めて平坦地化した盛土地に -8 は,盛土基礎地盤の圧密沈下のみならず,今回の事例よ 廃棄物 地山 -10 うに盛土自体に沈下が生じる危険性があることを痛感し -12 た。今回の建物は杭基礎により支えられているため,建 -14 物自体には損傷は確認されていないため,建物の修繕工 事とまでには至ってはないが,複数回の土の補充や今回 の調査などを含め,本来は不要である費用がかかってい 図-3 対象地東側の断面想定図 ることになる。この費用は,事前に十分な地盤調査を行 -5 -6 木片 粘土(5.50~5.57m) 繊維 れない。 -6 -7 ビニール プラスチック -8 プラスチック 金属板 セメント 綿 -9 回の事例をとおして改めて実感した。 -10 《引用・参考文献》 木片 -9 繊維 ることは勿論であるが,宅地地盤の品質の観点からも 我々の仕事が大きな役割を担っているということが,今 木片 -8 瓦礫 建造物を施工する前には,十分な地盤調査が必要であ プラスチック -7 瓦礫 い対応しておけば,より低価な負担で済んでいたかもし 銅線 図-4 オールコア観察 廃棄物は木材の削り屑あるいは伐採屑であるため,圧 1)国土地理院:1/25,000土地条件図 1981.2. 東京西南部,
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