平成21年度 高等学校授業力向上研修 実践記録 広告媒体を活用した自発的思考の育成 -ワークシートで行う広告効果の発見- 第3学年 商業科学習指導案 平成21年11月9日 第5校時 指導者 新潟県立新発田商業高等学校 教諭 犬飼 創 1 単元名(題材名) 科目「マーケティング」 題材「販売促進における広告活動」 指導目標 ・企業広告・意見広告・クーポン広告が増加していることなど、広告の新しい動向に気づいてい るか。(関心・意欲・態度) ・広告に関する様々な分類基準をしっかり認識しているか。(思考・判断) ・広告の計画と実施の手順を順序よく説明することができるか。(技能・表現) ・各種広告の特性を理解しているか。(知識・理解) 3 本単元における「研究テーマ」に迫るための視点 本単元は広告の種類や特性に関する知識の詰め込み部分が多いため、教師側としては一方的な授 業になりやすい。それだけでは実際の広告作成に携わるときにはその知識を有効に活用することは できない。そのため、その知識を活用し、自ら新しい内容や改善点を導き出すために思考力を育成 する方策が必要となる。 そのため、この単元内では広告に関する題材を先に示し、生徒から意見を出してもらった後で、 その題材の意味や効果を伝えることとし、生徒に思考する機会を多く与えることを視点において授 業を進めた。 4 時 限 指導と評価の計画 1・2時間目 2 :(本時3/5時間目) 学習内容 学習活動 ・広告の意義について知 ・販売促進の有効な手段だけではなく、社会的 る。 な影響を含めた広告の意義を学ぶ。 ・広告の種類の内容によ ・広告の内容による分類について商品広告・企 る分類について知る。 ・広告の種類のメディア による分類について 知る。 評価と方法 広告に関する基本的な 用語が理解できている か。【知識・理解】 業広告・案内広告・意見広告があることを理 解する。 ・広告はメディアによって活字広告・放送広 この時間内では評価せ ず、定期テストで行う。 告・ニューメディア広告・直接広告があるこ 3 4・5時間目 とを理解する。 6参照 ・PR活動とパブリシテ ・広告とPR活動やパブリシティの違いを認識 ィ戦略について学ぶ。 する。 ・広告の計画と実施につ ・広告の計画、実施の手順を理解し、効果測定 いて知る。 広告の計画と実施の手 順を順序良く説明でき るか。【技能・表現】 の必要性を知る。 ワークシートに記入さ せ、それを評価する。 5.単元の評価規準 Ⅰ 関心・意欲・態度 ①企業広告・意見広告・ク ーポン広告が増加してい 評 ることなど、広告の新しい 動向に気づいている。 価 ②職業としての広告業の 存在、就職先としての広告 代理店の存在にきづいて いる。 Ⅱ 思考・判断 Ⅲ 技能・表現 Ⅳ 知識・理解 ①広告に対する様々 ①状況によって適切 ①各種広告の特性を な分類基準をしっか な広告を選択し、活用 理解している。 り認識している。 することができる。 ②広告・PR活動・パ ②日常生活に目にす ②広告の計画と実施 ブリシティの違いを る広告に対して、消費 の手順を順序よく説 理解している。 者の視点から善し悪 明することができる。 しを判断している。 導入 6 本 時 の 計 画 (3/5時 間 ) ( 1 ) ねらい 生 徒 が比 較 的 興 味 を持 ちやすい広 告 媒 体 を利 用 し、その広 告 が持 つ意 味 や効 果 を生 徒 自 らが思 考 し、それを他 者 に的 確 に表 現 することができる。 (2)本時における「研究テーマ」に迫るための指導の構想 以前に学んだ広告に対する意味や効果を生徒に問う際に、生徒自ら多面的に深く思考してもらいた いと考えた。そのため以下の点に注意し、指導を進めることとした。 ① 個人で深く思考させるために題材について予備知識を与えない。 ② 個人で考えた内容に責任を持たせるため少人数グループ内で発表させる機会を作る。 ③ 自らの意見をより良いものにするために他者の発表を聞き、自分の意見との相違点 を見つけ出させる。 ④ 他者の意見を参考に自らの意見を再考する。 ⑤ 自らの考えをフィードバックし易くさせること、思考の過程を教員が把握しやすく また評価に結び付けやすくするためにワークシートに記入させる。 (3)展開 指導上の留意点 学習活動 教師の働きかけと予想される反応 評価の観点 前時までに学習した広告 ・用意した教材をプロジェクターで投影し、 ・この時間に評価の の種類について実際の写 その写真や映像を生徒に見せ、1つひと 観点を簡単に説明 真や映像を見ながら振り つ質問しながら広告の種類を確認してい する。 返る。 く。 ・広告の種類については大体の生徒が答え られると予想できる。 ・質問に答えられない生徒がいた場合は教 科書を開いて確認させてから答えさせ る。 1(0分 ) 展開1 教員の示した教材につい ・用意した教材をプロジェクターで見せ、 ・質問事項にはより てシート(別紙)にある質 1つにつき5分程度の時間を取り、質問 具体的に記入する 問事項にそって個人が記 事項にそってシート(別紙)へ記入させ よう指示する。 入する。 る。それを3つの教材について行う。 (テレビを見ている ・広告の効果など記入できない生徒もいる 誰をターゲットとし 1(5分 かもしれないが、理解度を図るためにも ているか等) 教科書は見せないままにする。 ・前時までに学習し た内容をシートに ) 書き込む事ができ るかで知識・理解 の観点を見る。 個人で記入した内容をグ ・5~6人程度のグループを作り、リーダ ループ内で発表しあい、自 ーを決めるよう指示する。 ・意見交換が順番に 発表するだけにな 展開2 分が考えた以外のものや ・リーダーを司会として意見交換を行わせ らないよう机間指 新しく発見したものがあ る。その際全員が発言をするように指示 導し、他人の意見 する。 について疑問点が った場合、それをシートに 記入する。 1(0分 ・自分以外の考えや新しく発見した事柄、 あれば、質問をす 他者の評価をシートに記入するよう指示 るよう指示する。 する。 ・自分の意見を述べ ・机間指導をして特徴的な意見が無いか探 ) す。 ることができてい るかで技能・表現 ・意見の交換があまりできないと予想され の観点を見る。 るので少しグループの中に入り、教員か ら質問してみる。 展開3 1(0分 個人に戻り、グループでの ・それぞれの広告をさらに工夫したり、別 前時までに学習した 話し合いをふまえてこの な広告方法で行った方が効率が良いとい 知識を利用し、改善 広告の改善点を考え、シー う可能性がある事を伝え、改善点をシー 点や別な広告方法を トに記入する。 トに記入させる。 見つけ出し、記入で ・改善点を質問のかたちで生徒に聞き、そ ) れを板書する。 を見る。 まとめ(5分) 教師の話を聞くことによ ・生徒が発表した内容を振り返り、特徴あ って本時の学習内容を振 るものをもう一度生徒に伝え、広告の効 り返る。 果を確認させる。 教師の予告により、次回の きるかで思考・判断 ・次回の学習内容を予告する。 学習内容を把握する。 (4) 評価 ① 本時の評価規準 Ⅰ 評 価 関心・意欲・態度 Ⅱ 思考・判断 Ⅲ 技能・表現 Ⅳ 知識・理解 全員が意欲的に参加す 実際の広告例について グループの中で、広告 例示された広告素材に ると予想されるので本 改善点や別な広告方法 の種類や効果について ついて、ワークシート 時では評価しない。 を見つけることができ 分かりやすく意見を述 にある質問内容に答え る。 べることができる。 ることができる。 ② 本時の評価基準 【思考・判断】 【技能・表現】 【知識・理解】 (ワークシート個人2) (話し合いの様子、他者の評価欄) (ワークシート個人1) ・改善点や新たな提案を思考し ・意見を述べることができるか。 たか。 ているか。 評 A評価 A評価 価 B評価 適切な改善点を提案す 分かりやすく発言するこ とができた。 A評価 十分理解している。 理解している。 ることができた。 B評価 発言することができた。 B評価 改善点を提案すること C評価 発言が不十分である。 C評価 ができた。 C評価 ・広告の効果について理解し 提案が不十分である。 もう少し理解が必 要である。 7 実践の考察 (1) テーマの設定理由 ① 現状 本校の生徒は授業に真剣に取り組み、努力を怠らない実直な生徒が多い。しかし、全体的な傾 向として、「積極的に授業に参加する」「建設的な発言ができる」といった部分が不足しているよ うに感じられる。授業の中でも教科書に載っているものについては良いが、社会的事象などにつ いて質問した場合には答えられない場合が多い。しかし、教師がゆっくり身近な例を取り出しな がら質問していけば、最終的には答えることができる。 ② 原因 以上のような生徒の現状や分析の結果、授業自体に講義的なものが多いため、自然に受け身に なってしまい、深くまで思考する機会が少ないことが原因と考えられる。 ③ 工夫と取り組み それらを改善するため、生徒が主体的に授業に参加できるように商品開発をさせる機会を作っ た。地元の特産物であるアスパラガスを利用し、オリジナルパンをパン業者と共に開発した。実 際に販売する予定の商品について、ターゲット・商品の内容・ネーミングなどを生徒たちに考え させた。その結果として生徒たちは授業に積極的に参加するようになり、活発な意見交換の中か ら多くのアイディアを生み出してくれた。販売に関しても初めての経験ながら、すばやく順応し、 地元の方からも高い評価をいただいた。 このことで生徒に筋道を指導し、思考する機会を与えれば、大きな成果を生み出すことが発見 できた。また、その能力はまだ多くが秘められたままであることが分かった。そのため、さらに その力を高めるべく、次の工夫を行うこととした。 ④ 次の段階の工夫 科目「マーケティング」の中で行われる「広告」の場面で、その広告における販売促進の効果 を把握し、作成者が込めたメッセージを読み取ることから生徒に思考させる機会を作り、それを 他者と意見交換することができるような授業を行う。 ⑤ 期待する効果 自らの思考によって得られた考えを、他者と意見交換することによって、さらに深めることが できる。また、意見交換の中で他者に説明する能力を高める効果が期待できる。 (2) 授業に臨むにあたって ① ワークシートの活用 今回の授業をイメージしたときに、まず考えたことが評価方法である。本校で行っている文 部科学省の「学力の把握に関する研究指定校事業」のプロジェクトチームに私自身が所属して いることもあり、授業を行う際にどのように評価を行うかが常に頭について回っていた。その ため、生徒が自分の思考の過程を振り返りやすく、なおかつ評価し易い授業にできるようワー クシートを用いることとした。授業の順を追ってワークシートに記入していくことで、生徒は 自分がどのように考え、誰の意見を取り入れ、どのような改善点を導き出したかを振り返るこ とができる。また教員としても、記録として残るため、生徒の思考の過程が見え、評価をその 場で行わずとも授業後でしっかり見ることができると考えた。 また、ワークシートにグループ内の発表を評価する「他者の評価」欄を設けた。これは複数 グループに分かれて発表するため、教員が全員をその場で評価できないことが予想されるため、 それを補うためにグループの中で特に参考になった生徒の名前を記入するものである。 ② 素材の設定 今回の授業で最も苦労したことが素材選びであった。まずは素材を探すことから始めた。イ ンターネットから検索して捜すことが多かったが、看板・店頭・新聞やTVにも気を配り素材 集めを行った。素材は多く集まったが、どれを授業に用いるかでかなり苦労した。生徒が考え やすい内容や意味を感じ取りにくい内容をバランスよく選ぶことや、広告の種類(企業広告、 商品広告)や媒体(ポスター、映像、建物)のバランスにも気を配るのが大変だった。 i ii iii ③ 生徒の活動の予想 比較的興味を持ちやすい単元であることから、生徒は積極的に授業に参加すると予想した。 前時までに行った授業で、広告の分類などの個人でワークシートに記入する部分もほぼ記入で きると考えた。気になっていたのはグループ発表の際に順番に意見を言うだけで終わってしま い、意見交換にならない可能性があるという点であった。一応生徒に対しては発表のみで終わ らず、質問をするように指導をする予定である。 (3) 授業の反省および改善点 ・授業後の反省としてはまず時間不足があげられる。生徒が個人で記入する部分は問題なかっ たが、グループの発表の際に予想以上に時間がかかった。これは生徒一人一人の発表が意外 に細かく、またそれを他の生徒が記入することにも時間がかかったためであった。 ・時間が無くなった弊害として、最後に素材とした広告が持つ意味や効果を全体に伝えること ができなかった。これによって疑問が残ったまま授業が終了してしまう結果となった。後日 の授業でそれについてはフォローできたが、大きな反省点であった。 ・最近の広告ははっきり分類できるものが少なく、企業広告でもあり商品広告であるものが多 い。そのため、生徒が教科書で得た知識をうまく活用できない部分があった。 ・教師一人の素材集めは内容に偏りが出る場合が多いため、生徒にも素材探しをさせ、その中 から適切なものを他の生徒に見せるなど、視点が偏らない工夫が必要である。 ・広告素材を生徒に示す際にプロジェクターを利用した。しかし、細かい部分が見られない可 能性があるため、プリントアウトしたものをグループごとに配布した。詳細を見たい場合を 考えると、コンピュータ室などで個人に素材を配布したほうが見やすくなると思われる。 ・生徒の発表時間をもう少し確保する必要がある。時間配分の中で前回の復習に費やす最初の 導入を 10 分から 5 分程度に短縮し、生徒の発表の時間を確保すべきであった。 ・お互いの話し合いの様子を見ると、生徒同士で考える時間をもう少し長く設定するとさらに 深い考えが生まれる可能性があると感じた。 (4)確認できた成果 ・グループ発表の評価のために各グループを回っていたが、予想通り全員を把握することは難 しかった。しかし、他者評価の欄を設けることでそれを補うことができた。 ・ワークシートを利用することによって、生徒の思考の過程が見えたことや評価をするときに 記録として残るので授業後の評価の見直しが可能となることが分かった。 ・少人数のグループを作ることで生徒が発表しやすくなっていた。 ・個人で考え、他者の意見を参考にし、さらに新しいアイディアや改善点を見つける流れによ って、生徒が思考している様子が伺えた。教員側が導かなくても自分たちでいろいろな発想 をしていたので、思考させるという目的は達成できたと思われる。 8 i ii iii 研修を振り返って 自分で考えたものを実践する前に他者に見てもらい、授業上の留意点を指摘してもらえたこと は大切な過程だった。一度作成した指導案やワークシートも他者の指摘を受け、もう一度考え直 したことによって、授業内容のポイントが絞られ、ワークシート自体も生徒が書きやすいものに 改善できた。 今までも生徒に興味を持ってもらえるような授業内容を工夫して行っていたが、そのような取 り組みについて指導案の作成や、評価を視野に入れて授業を行うことは少なかったので良い経験 となった。自分の中で思いつきの授業だったものが、問題点や留意点を明らかにしてから授業に 臨むことができた。イメージをして授業に臨むのは当然であるが、指導案を作成し、他者に見て いただくことで、細部まで配慮した授業を計画することができた。このような経験はこの研修に 参加しなければ得られなかった部分であり、充実感を持つことができた。 新学習指導要領において教科「商業」は基礎を学び、それを応用する体験学習を多く取り入れ るべきだとされている。今回行った授業は実際に広告を作成する初歩の段階を考えることを体験 したものである。しかし、今後は広告の意味や効果を推測するだけでなく、広告会社の方に制作 の意図を直接聞いてみる、自分で広告をデザインしてみるなど、より深い実体験をさせたいと考 えている。 そのためにも、教師自らが様々な企画を考え、実行することによって多くの人脈を生みだし、 その人脈を教員間で共有することが必要である。この体験的学習であれば「○○会社の△△様に 依頼すれば具体的な話を聞ける。体験をさせてもらえる。」という情報をネットワーク化すれば、 生徒に多くの体験的学習をさせることができる。また、今まで教員が行ってきた体験的学習を冊 子にまとめることができれば、その中から各学校の実態に合わせた体験内容を選択し、学習を進 めることができるのである。 今回の研修で得た経験と知識を新学習指導要領の中でどう位置付け、発展させていくかを今後 の課題としてさらに研修を深めていきたい。 味の素 hp より http://www.ajinomoto.co.jp/cm/newspaper/index.html 日刊・世界の広告クリエイティブ hp より http://mochikaz.blogspot.com/ AC ジャパン hp より http://www.ad-c.or.jp/campaign/self_all/
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