開発イメージ伝達のための 感性指向プレゼンテーションテンプレート選択

情報処理学会第 75 回全国大会
3ZB-1
開発イメージ伝達のための
感性指向プレゼンテーションテンプレート選択の検討
伊勢 蕉子 †
長岡技術科学大学
中平 勝子 †
長岡技術科学大学
二日目の被験者 10 名をグループ B とした.グループ A には
はじめに
1
北島 宗雄 †
長岡技術科学大学
「P,A,B」
,グループ B には「P,B,A」の動画をそれぞれ用
近年ユーザとの共同開発などユーザ―開発者間の交流が盛
いた.被験者にはスクリーンの正面に座り,投影された調査サ
んになりつつある.良い製品はユーザと開発者の意思疎通によ
ンプルを 16 秒間見た後,それぞれのサンプルから受ける印象
る製品についての適切な相互理解によって生まれ,その手段に
に対して両極性形容詞対を 7 段階で評価するよう教示した.動
はプレゼンテーションを用いることが多い.
画はアンケート記入の際は一時停止し,被験者全員が記入を終
プレゼンテーションは伝えたいことを素早く理解させ,聞き
えた後に再生を再開した.使用した形容詞対には,宮本ら [1]
手を説得させることを目的として行われる.特にユーザとの意
の研究から引用した 14 対に新たにテンプレートの評価として
思疎通にはいかに伝えたいイメージを効果的に伝えるかが重要
適当であると判断した形容詞対 3 対を追加した計 17 対を用い
となってくる.しかし開発者の意図伝達法は言葉や図による伝
た (表 1).
達に特化する場合が多く開発のイメージはなかなかユーザに伝
わりにくい.その原因として全体の印象といった非言語コミュ
表1
ニケーションを有効活用できていないことがあげられる.
感性語 1
ごみごみ
暖かい
やわらかい
かっこいい
まとまっている
暗い
男性的
便利
悪意的
現在では様々なデザインのテンプレートが簡単に手に入る
が,それらの選択は完全に個人の感性に依るものとなる.そこ
で,既存のテンプレートから聞き手の反応を考慮し,かつユー
ザのイメージに合致した資料テンプレートの選択を支援するた
めに工学部の学生を対象にテンプレートの印象評価を定量的
感性語 2
すっきり
寒々しい
かたい
ぶさいく
ばらばら
明るい
女性的
不便
好意的
感性語
感性語 1
信頼できそう
新しい
楽しい
インパクトのない
派手な*
可愛い*
美しい*
嫌い
感性語 2
信頼できなそう
古い
つまらない
インパクトのある
地味な*
可愛くない*
醜い*
好き
に行い,感性語によってテンプレートを類別することで目的に
あったテンプレートの選択を支援する.
3
結果と分析
実験:感性語によるスライドテンプレート評価
2
本節では,感性語とプレゼンテーション用スライドとの関係
の調査を目的としたSD法を用いた調査サンプルの印象評価実
験について述べる.被験者に対しプレゼンテーション用のスラ
イドをプロジェクターを用いてスクリーンに投影し,サンプル
から受ける印象を評価させた.実験には長岡技術科学大学の学
生男性 18 名,女性 2 名が参加した.
図1
テンプレートのデンドログラム
呈示刺激としてプレゼンテーション用のスライドを Mi-
crosoft 社の PowerPoint2010 を用いて作成した.各スライド
の内容をタイトル,目的,概要,詳細としこれら 4 枚一組を一
つのサンプルとした.作成したスライドにそれぞれ Microsoft
のサイトから無料で提供されているデザインテンプレートの中
から 15 種類と練習用に既存のテンプレート 3 種類を適用した.
作成したサンプルのうち練習用 P を抜いたものをランダム
に A,B 二つのグループに分けた.その後すべてのスライドを
jpeg 形式で保存し,grass valley 社の EDIUS Pro 5 を用いて
「P,A,B」と「P,B,A」の呈示順で 2 種類の動画にまとめた.
図2
クラスタ別平均プロファイル
動画の最初には練習用のサンプル 3 種を呈示し黒画面 4 秒,サ
ンプルの各スライド 4 秒を一式の刺激とした.
実験は二日間行った.一日目の被験者 10 名をグループ A,
†
A study on Kansei-oriented presentation templates selection for
the purpose of smooth communication of development concept
Shoko Ise, Katsuko T. Nakahira, Muneo Kitajima
Nagaoka University of Technology
(i) クラスター分析: 平方距離を用いてウォード法によるクラ
スター分析を行った結果を図 1 に示す.図 1 から 15 個のサン
プルは「1,5,10」
,
「2,3」
,
「4,6,7,12,14,15」
,
「8,9,11,13」の 4 つ
のグループに類別された.これらをグループ A,B,C,D とする.
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*新たに追加した感性語
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情報処理学会第 75 回全国大会
表2
標準
偏差
NSD ≤ 4
大きい値が少ない
テンプレート番号と特徴の数.セル内の上段はサムネイルとテンプレート番号,下段は所見.
A(1,5,10)
B(2,3)
C(4,6,7,12,14,15) D(8,9,11,13)
不便,悪意的,信頼できなそう,
見にくい,インパクトのある,派
手な,可愛くない,醜い,嫌い の評点が高い
暖かい,明るい,女性的,可愛い
の評点が高い
見やすい,地味な の評点が高い
かっこいい,男性的,新しい,イ
ンパクトのある,可愛くない,美
しい の評点が高い
(3)
なし
(H)
SD
の多い感性語以外は小さ
普通
5 ≤ NSD ≤ 7
い値をとった.特徴が明白であり
意見が分かれにくい
(5)
(10)
NSD ≥ 8
大きい値が多い
両テンプレートとも評価のばらつ
きの大きい感性語はほぼ一致して
いない.少数の特徴が際立ってお
りそれ以外の評価が困難である
(1)
このテンプレートにおいて標準偏
(H)
差の大きい感性語と SD
の
多い感性語はほぼ一致しなかった
なし
(4)
(7)
い値をとった.統一されたデザイ
ンで意見が分かれにくい
色に暖色系と寒色系両方を用いて
おり,全体的な印象の判断が困難
である
(8)
別段特徴が無くテンプレートのモチーフと
なるような題材もないため評価が困難で
ある
(13)
全体的な印象を形容する感性語に
おいて意見が分かれた.とりわけ
モチーフもなく曖昧な特徴で評価
が困難である
被験者による評点のばらつき具合を示す.平均プロファイルと
標準偏差のマトリックスで今回の結果を見ることの恩恵を議論
する.表 2 では感性語の平均値と評価のばらつきの二つの視点
からテンプレートを類別してあり,類似するテンプレートと人
による印象のとらえ方の傾向が各セルを見ることで一目で分か
るようになっている.
たとえばグループCは表 2 ではクラスタの内 2/3 のテンプ
(H)
測点のうち,被験者によって評価に大きなばらつきが
(H)
SDn
(9)
(H)
の多い感性語以外は小さ
SD
(11)
(14)
(2)
全体的に淡い印象で少数の特徴以
外の評価が困難である
1. SDn を次の様に決める.
(a)(テンプレート, 感性語)の対で測定される全ての観
とする
(b)各テンプレートの評価項目において 1/3 程度は被験者
ごとの評点の標準偏差が大きくなると予測を立てる
(c)評価項目は 17 対あり 1/3 は約 6 対である,テンプレー
トは 15 種類あるので 6 対× 15 種類=90 個となる
(H)
(d)SDn =90 個を評価のばらつきの大きい観測点であ
ると定義する
レートが NSD の少ないセルに属しており,テンプレートに対
する評価の揺れが少ないグループであるといえる.平均プロ
ファイルからは特定の特徴を示す感性語は見られず,被験者の
多くが評価尺度の中間点を評点としたのではないかと考えられ
る.このことから見た人全員に同じ印象を与えることができる
が無難で面白みに欠けるグループであるといえるだろう.
このように表 2 には今回の実験の成果が全て集約されおり,
各セルを見ることで各テンプレートの傾向や特徴と標準偏差の
関係を汲み取ることができる.表 2 から読み取れる情報から考
えた場合,グループ C,NSD ≤ 4 のセル内のテンプレートが
聞き手による評価のばらつきが少なく評点の高い感性語も差し
(H)
観測点を標準偏差の値で上位 SDn =90 位抽出する
さわりの無いものばかりであるので無難ではないかと考えられ
抽出された上位 91 個の観測点を SD (H) とする
る.しかしながら,NSD の多いテンプレートも多感な印象を
各テンプレートにおける SD (H) の数 NSD を求める
「NSD ≤ 4」,「5 ≤ NSD ≤ 7」,「NSD ≥ 8」をそれぞれ
評価のばらつきの「多い」,「普通」,「少ない」テンプレー
トとする
上記の結果を表 2 に平均と標準偏差のマトリックスで表す.
4
(15)
れが見られない
る評価のばらつきからテンプレートの傾向を調べる.
2.
3.
4.
5.
(12)
色は明るいが雰囲気が暗いため全体的な印
象を形容する感性語において意見が分か
れた
(ii) 感性語に対する平均値プロファイル: 実験から感性語に対
する印象を 1∼7 の尺度で得点化し,各サンプルの感性語ごと
の平均値を求めた.その結果を各クラスタ別に図 2 に示す.図
2 からクラスタごとに大きいまたは小さい値を示す感性語を抜
出し表 2 の 1 段目に記す.
(iii) 感性語に対する標準偏差: 各テンプレートの感性語に対す
起きると考えられる数を
(6)
(H)
の多い感性語以外はほぼ評価の揺
SD
与えることができると考えられるため一概に悪いとは言い切れ
ない.よって分類されたセル内のテンプレートの傾向を見極め
用途に合わせて選定する必要がある.
参考文献
[1] 宮本 勝, 大野 健彦 「視線を用いた Web デザインの評価」
情報処理学会研究報告-2006-HI-72, pp. 9-16
考察とまとめ
平均プロファイルは感性語を被験者全員の評点の平均値でま
とめたものである.標準偏差は各テンプレートの感性語ごとの
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