バリアフリー生活用具支援ものづくり大学プロジェクト

第9章
バリアフリー生活用具支援ものづくり大学プロジェクト
文部科学省地域貢献特別支援事業の第6事業であるバリアフリー生活用具支援ものづ
くり大学プロジェクトは、通称を「佐賀ものづくり大学」と称し、公開講座である定期授
業型と実際にものづくりの一端を経験する選択型に分けて実行した。以下、バリアフリー
生活用具支援ものづくり大学プロジェクトという名称を「佐賀ものづくり大学」と記述す
る。また、今年度の事業については、次の流れで報告する。
9.1 本事業の目的と期待される効果
9.1.1
佐賀ものづくり大学の目的
9.1.2
期待される効果
9.2 佐賀ものづくり大学の連携組織
9.2.1
佐賀ものづくり大学実行委員
9.2.2
佐賀ものづくり大学
9.2.3
佐賀ものづくり大学組織図
地域貢献に係る連携組織
9.3 佐賀ものづくり大学の活動
9.3.1
講座の日程と内容
9.3.2 実際の活動
−内容とアンケート報告−
9.3.3 福祉用具の活用と住宅改修により自立度が向上した事例
9.4 平成 15 年度事業の成果と課題
9.4.1
当事業の位置づけと当事業の目標
9.4.2
当事業の自治体や企業、市民との関係
9.4.3
事業実施による具体的な成果等
9.5 今後の取り組みについて
9.1 第6事業の目的と期待される効果
9.1.1
佐賀ものづくり大学の目的
高齢社会の到来により住環境の整備や各種福祉用具の必要性が高まっている。佐賀県に
おいても、各種地場産業が新たな市場としてこの分野に着目し、商品開発や研究の体制が
整いつつある。一方、医療・福祉の現場では限られたマンパワーの中、高齢者や障害のあ
る方の生活を支援するために、一人ひとりの生活環境や身体状況に適した住環境の整備、
福祉用具の適切な活用が不可欠となっている。
このような状況において、たくさんの福祉用具が作られているが、殆どが介助を楽にす
る用具として介護者の支援を視点に作られ、自分でできるように使う用具と言った、本人
の自立支援の視点が欠けたまま、作る側の思い込みで用具が出来上がり、本人にとって使
いにくい用具が市場に出回ることとなる。そのことによって、本人が自ら使う用具は「危
険なもの」となり、介護者が介護する時に使いやすい用具が出回り、介護者(ヘルパー)
がいなければ生活ができない人となり、介護者中心の生活が組み立てられる事となる。
−1−
本事業では、住環境やものづくりに従事する方々や医療と福祉従事者およびそれに関連
する方々を対象に、福祉用具を活用する機会が多い高齢者や障害のある方々の身体・精神
機能について理解し、道具の選び方や使い方だけでなく環境によって、日常の動作は制限
される事を意識した上で、佐賀の優れた地場産業の技術および地域の医療・福祉などの生
活支援に関する専門技術、佐賀大学における広範囲で深い学術研究と先進情報などの資源
の向上を図り、新しいネットワークを構築する意義と方法を学ぶことで、高齢者や障害の
ある方の生活改善に結びつく新しいものづくりの基本について習得することを目的とする。
9.1.2
期待される効果
・高齢社会を迎えすべての人にやさしいものづくりをするには、どのような視点が求めら
れるのかが明確になる。
人に優しいものづくり技
術を習得・開発
佐賀ものづくり大学
工学
福祉学
地場産業
技術
行政
医学・看護学
生活支援・社会生活行動支
援技術習得とグレードアップ
・ 行政や研究分野が一緒になって新しいものを発想する力が生まれる。
・ ものをつくる事を起点に、保健・医療・福祉の分野のネットワークが出来上がる。
・ 佐賀県が福祉産業の起点となる。
・ 身体に障害を持っている方々の自立を目指した生活用具の工夫や開発につながること
で、彼らのQOLの向上を目指すことができる。また、そのことによって、施設で生活
する場合の国や地方自治体の負担も大幅に削減することができる。
・ 産学官民の協力のもとで、新たな産業を生み出す可能性が高くなる。
・ 高齢者や障害者、障害児の生活において、安全性が高まるばかりでなく、全ての人にと
って住みやすい生活環境が創られていくことにつながる。
・ この手法によって構築された新しいネットワークによって、縦割りの関係から、横のつ
ながりが生まれ、様々な点において無駄を少なくしていくことができる。
・ ものづくりに於いて、高齢者や障害者と共に設計・開発できる環境が整うと、障害者や
高齢者の生活は、介護中心の生活から自律(自立)を目指した生活と変わっていく可能
性が高くなる。
−2−
9.2
9.2.1
佐賀ものづくり大学の連携組織
佐賀ものづくり大学実行委員
佐賀ものづくり大学学長
佐賀ものづくり大学副学長
プログラム実施委員長
プログラム実施副委員長
プログラム実施係り
修了認定審査委員長
修了認定審査副委員長
修了認定審査委員
事務局長
事務局
渡邉 照男
木本 雅夫
斉場 三十四
辛川 洋介
三根 哲子
下村 康司
山本 幸三
寺内 信二
渕野 和弘
山口 誠二
倉富 高鋭
権藤 昭雄
溝上 昭宏
野方 徳浩
片渕 宏輔
有賀 透仁
北島 栄二
斉藤 健治
百武 康介
本田 耕一郎
石川 照茂
福市 知子
小池 邦春
杉町 晃
川原田 知章
菊池 伊津子
古賀 通雄
山口 洋一
北村 奈美
石橋 智子
森 真里子
松尾 明美
長尾 哲男
斉場 三十四
松尾 清美
檀 哲雄
東内 順子
松尾 清美
井手 将文
林 ちづる
−3−
佐賀大学 医学部
佐賀大学 医学部
佐賀大学 医学部
佐賀県諸富デザインセンター
佐賀大学 医学部
佐賀県総合福祉センター
山忠(バリアフリーデザイン研究会)
李荘窯業所(バリ研)
渕野陶土(バリ研)
山口新建木材センター(バリ研)
(有)くらどみ(バリ研)
九州ホームケアサービス(バリ研)
河畔病院(佐賀県理学療法士会)
済生会唐津病院(理学療法士会)
佐賀県立病院好生館(理学療法士会)
百武整形外科病院(理学療法士会)
佐賀県介護実習普及センター
佐賀大学 理工学部
百武整形外科病院
佐賀市議会議員
障害者自立サポートセンター
肢体不自由児親の会
佐賀市役所
佐賀市役所
多久市役所
多久市役所
多久市役所
白石共立病院
佐賀大学 医学部看護学科
佐賀大学 医学部大学院
佐賀整肢学園(佐賀県作業療法士会)
介護老人保健施設きりん
長崎大学 医学部
佐賀大学 医学部
佐賀大学 医学部
佐賀県障害福祉室
佐賀県介護実習普及センター
佐賀大学 医学部
NPO法人ひこばい
佐賀大学 医学部大学院
小沼 真理子
堤 奉昭
大坪 芳美
白井 由美
9.2.2
佐賀ものづくり大学
佐賀市役所
E&Eえぐち
佐賀大学 医学部
佐賀大学 医学部
地域貢献に係る連携組織
佐賀ものづくり大学の趣旨と計画について、佐賀県、佐賀市、多久市、佐賀県作業療法
士・理学療法士会、建築設計士、工務店、家具組合、窯業組合、佐賀県介護実習普及セン
ター、および身体に障害のある方々と数回にわたり打ち合わせをもった。この打ち合わせ
を通して、地域のニーズを知ることに努めた。また、バリアフリー環境の構築に取り組む
自治体の今後の計画などを考慮して進めると共に、実行委員や参加者に対して、様々な職
種が協力してものづくりすることが重要であることを伝達し、その実現のためにネットワ
ーク構築が重要であることを強調した。
佐賀ものづくり大学で、貴方の技術を更に円熟させましょう
佐賀県
その他
ものづくりパワー
市町村
地場産業技術力、開発
諸富家具
家具・建具
工業
建築
住宅・匠
有田焼き
食具
産業
医学・工学・福祉・社会生活行動支援など
佐賀大学
実行委員会の状況1
実行委員会の状況2
−4−
9.2.3
佐賀ものづくり大学組織図
9.3.佐賀ものづくり大学の活動
9.3.1
講座の日程と内容
№
日 付 区 分
1 平成 15 年
公開
9 月 21 日
公開
2
平成 15 年
10 月 12 日
公開
3
平成 15 年
11 月 16 日
公開
4
平成 15 年
12 月 6 日
選択
5
平成 15 年
12 月 7 日
平成 16 年
2 月 21 日
公開
6
選択
内
容
開校式
佐賀ものづくり大学 副学長 木本雅夫
①身体構造と骨−骨・関節の疾患と加齢変化−
佐賀大学 医学部 整形外科 佛淵 孝夫
②身体障害者の生活と道具の理解
佐賀大学医学部 地域医療科学教育研究センター
松尾清美
③脳の働きと障害
佐賀大学医学部 脳神経外科 白石哲也
④高齢者福祉概論
佐賀市役所 社会福祉課 小沼真理子
⑤医療保険制度概論(モデルケースを通した社会保障)
大牟田天領病院 MSW 梅田正嗣
⑥寝る・座る・立つ・移動する
∼姿勢と移動のバリアフリー∼
クラーク病院 整形外科 桂律也
⑦障害者・高齢者に優しい社会の創造
−物づくりから見る当事者感欠落社会を見る−
佐賀大学医学部 地域医療科学教育研究センター 斉場三十四
選択① 車いすの理解
(移乗・移動・姿勢、環境との関係)
佐賀大学医学部 地域医療科学教育研究センター 松尾清美
⑧メーカーとユーザー(中間ユーザー)の情報交換
佐賀大学医学部 地域医療科学教育研究センター 松尾清美
選択② ものづくり演習 椅子
佐賀県工業技術センター分室 諸富デザインセンター
選択③ ものづくり演習 食器
佐賀県窯業技術センター
−5−
7
平成 16 年
2 月 22 日
公開
8
平成 16 年
3 月 14 日
公開
シンポ
ジウム
公開
9.3.2
⑨佐賀県バリアフリーデザイン研究会とその歩み
佐賀県工業技術センター分室
諸富デザインセンター 辛川洋介
⑩自立を目指した福祉用具の活用の仕方
佐賀県介護実習普及センター 専門指導員 北島栄二
⑪生活支援のための電子技術 1
−コミュニケーション支援を中心に−
星城大学 リハビリテーション学部 畠山卓朗
⑫生活支援のための電子技術 2
−ジョイスティックって何?−
NPO法人 ひこばえ 井手将文
⑬高齢者や障害者の生活改善に結びつくものづくり
厚生労働省老健局 渡邉愼一(福祉用具・住宅改修専門官)
琉球大学
高嶺 豊(アジアの障害者の状況)
佐賀大学医学部 地域医療科学教育研究センター
斉場三十四(バリアフリーの考え方)
コーディネーター 松尾清美
修了証授与式および閉校式
佐賀ものづくり大学学長 渡邉 照男
実際の活動(内容とアンケート報告)
■13 の公開講座と選択講座を 3 クラス準備
8 回に分け 13 の公開講座及び 3 クラスの選択講座を開講し実施した。選択講座は、大雪
の影響などで、1 回だけの開講となったが、受講生は公開講座に出席率良く参加している
方々に絞って、椅子つくりかマグカップの取っ手つくりを選択する方法で行った。実際に
製作する実習講座であるため、従来の公開講座のように一方的に受講するだけでなく受講
者同士の意見交換も活発であった。以下、開校式から公開講座の状況を報告する。
■開校式
佐賀ものづくり大学
木本副学長の挨拶
佐賀ものづくり大学副学長で佐賀大学医学部地域医療科学教育研究センター長の木本先
生からは、本事業が文部科学省から地域貢献事業の一環として受託した研究事業であるこ
と、この事業を推進する福祉健康科学部門は、障害者や高齢者の社会生活行動支援の方法
論を研究する部門であり、国内の医学部では初めて設置された部門である事などが報告さ
れた。また、佐賀ものづくり大学プログラム実施委員長の斉場先生からは、佐賀ものづく
り大学開設までの経緯やそのねらいについて報告が行われた。介護保険のこの 4 年間の状
況は介護を中心とした制度になっており、身体に障害があっても道具や環境を整えると、
自立度の高い生活を目指すことができることや地場産業の活性化をバリアフリーのものづ
くりから始めることなどが提案された。
−6−
木本副学長の開会式での挨拶
斉場実行委員長による目的などの説明
①身体構造と骨−骨・関節の疾患と加齢変化−
佐賀大学
医学部
整形外科
佛淵
孝夫
高齢者の身体能力を考える上でその基本となる骨や関節の講義が行われた。ものづくり
のキーワードとしては、
「高齢者・障害者のニーズに応える」が挙げられ、整形外科医から
見た人体の仕組みとその機能、老化からくる身体の変化などの解説と共に、人工関節など
の研究開発事例等も含めた報告がなされた。
講義風景
講義内容の一例
座位姿勢の改善例
立位姿勢の改善例
−7−
講座後のアンケートより
・広い意味の〝再生医療〟の中には、遺伝子の再生医療からリハ装具までと幅広い医療があり、そ
の中で各々の患者さんに満足の行く医療、環境づくりが大切だと感じました。その中で、自分が関
わっていくことで多くの人々に笑顔が戻られるように頑張っていきたいと思いました。
・医学の専門分野は非常に難しく考えていたが、わかりやすく講演され、バリアフリー商品の開発
に、医の分野からの取り組み方について、もう一度原点に戻り進めなければならない事を考えさせ
られました。
・講話を聞いて、今まで骨や移植などかかわりがなくてわからなかったことが少しでも知れたので
よかったと思います。移植、再生医療が身近に感じられるようになりました。
②身体障害者の生活と道具の理解
佐賀大学医学部
地域医療科学研究センター
松尾清美
生活環境という視点から、
「本人」
「介助者」
「機器具」
「住環境」の 4 つの要素を分析し、
その適用や住環境の改善が寝たきりを防ぎ介護負担を軽減し、ご本人の自立度を高められ
ることが示された。
大車輪を外して移動する方法の説明
4 つの要素と専門職種について説明
車いすの選択と調整機能の重要性を説明
−8−
本人と家族を支援する専門職種
講座後のアンケートより
・道具を使うことにより、その人が出来ることを最大に実現できることがすごく分ったし、
人の生活に少しく工夫を加えたりすることで、介助を必要最低ですることもできる。
車いすなどに対する、特にレンタル分などには、今の現状でやっている事は、ただ会社の
利益の事しか考えてないなと思う。まずは自分達がレンタルなどに対する選定の考えをも
っと勉強し伝えていかないといけないと思いました。
・今までは、障害があると出来ないと思い込んでいた面が多かったと思います。住宅と道具の使い
方で不自由なく生活が出来るのだと思いました。
*講師より
同感です。住宅と道具の工夫や設計次第で、人の自立や介護負担の軽減、生きがいなどは導き出
せるのかもしれません。そういう意味で、ものづくり大学を開講する計画をたてました。
その成就のためには、地域でのネットワークづくりが大切と考えています。どうぞ一緒にやって
いきましょう!
・建築の仕事をしている者として、住環境をもっとより良い物とするために参加しましたが、以前
は本人の為にと思っていましたが、これからは「本人と家族の支援」と主に考えていきたいと思い
ます。
・重度重複障害をもつ子どもと生活しています。これほど具体的に車イスなどの話をきかせていた
だいたのは初めてでした。自立すること、生活を楽しむこと、健康を維持することなど、様々な視
点から具体的に理論的に考えていくことが大切だと感じました。
「目からウロコ…」と講義でした。
様々な道具を利用する立場の人が、気軽に相談できる、これほど専門的な情報、知識を提供しても
らえる場所を、是非身近に作ってほしいと思います。
・自立した生活を送る為に、福祉用具の活用が重要であると思いますが、介護保険制度の中、支給
限度額の問題で、母体の在宅サービスを優先されたり、住環境の整備においても限度額を超えない
工事をと依頼される事が多々あります。費用を自責にて負担しても必要ではないかと思う事が現在
の課題でもあります。
*講師より
人間としての生活を確保することは、人の権利ですから、介護保険の枠の中で介護で生活するこ
とも選択方法の一つではあると思います。しかし、道具や住宅を改造することで、もっと自立でき
る動作を増やせることを知らないで、介護でしか生きられないと思っている方があまりにも多い気
がします。あくまでも保険は保険です。生活は自分のものですから、保険はできる限り活用して、
あとは自分の責任の範囲で、自立を目指すことの重要性と生きがいの獲得を伝達していきたいもの
です。
③脳の働きと障害
佐賀大学医学部
脳神経外科
白石哲也
「脳ほど再生するものはない」ということで、「本物に触れていくことが大切」「適切な
運動を考える習慣といきいきとした生活が脳の再生につながる」「共感する事が大切であ
−9−
る」ということをわかりやすく講義。ものづくりのキーワードは「運動」
「学習(学んで)
」
「いきいき生活」を支えるモノを考えることが重要である。
白石先生の講義風景
熱心に聞き入る受講生
講義資料から
講義資料から
講座後のアンケートより
・臨床から離れている為とても参考になりまいた。ウマイ生き方は自分の生き方に参考に
なりました。Y=aXのaである人格とウマイの「イ」いきいき人生についてどうしてい
っていいか聞けたらと思いました。
*講師より
よりよいaを作るためには、本物に触れることです。イキイキ人生は自分が自分の人生
を切り開いているんだという実感を持つことです。
・脳のつくり、機能が私たちの日々の生活の行動や感情の働きを納得できるようにそれな
りにつくられている、機能していることに感動してしまいました。
*講師より
我々の脳は数百万年間の知恵の塊でできています。
・脳の再生についてはリハビリ関係職種にとっては重要なテーマである。また、高次脳機
−10−
能障害についても最近一般的なとりあげ方が多くなってきていて話題にあがっている。そ
れらについてわかりやすい内容の話をしていただいて皆が興味を持ってとりくんでいけれ
ばいいと思います。また、より深く内容を勉強する必要性もあるとあらためて感じた。
*講師より
私の今回の講演は脳に対して興味を持っていただくための橋渡しと考えております。脳
の生理とその障害については本当に深いものがあります。今回の講演が勉強を深められる
きっかけとなったとすれば望外の喜びです。
④高齢者福祉概論
佐賀市役所
社会福祉課
小沼真理子
ケアマネージャの実務経験をとおして、介護保険制度について概論的な講義後、要介護
状態区分が決まりケアプランを立てると現状の介護保険では、環境因子が考慮されないた
めにどうしても介護依存、介護者中心のケアプランが出来上がってしまうというケアマネ
ジメントの話は興味深いものであった。
小沼先生の講義風景
受講生の受講状況
講義資料の例
講義資料の例
−11−
講座後のアンケートより
・自分自身、介護保険の認定調査員をした事がありますが、調査報告の特記事項が、その
人によりさまざまですが、W/C 自走なのか介助なのか、歩行は T 字杖使用で時間がかかる
のか、ふらつきはないのか、など細かいところが記載されていない事が多かったように思
われました。今後介護保険に関する人々は、仕事と思うので個人を想う家族のような気持
ちで行動できれば、また、よりよい活動ができていくのではないかと思いました。
・マニュアルとして作成された介護保険のケアプラン作成のための聞きとり、ケアマネー
ジャという人が入るのであれば、そこに人と人の対応をプラスする事で個人差のある老齢
者、障害者への対応が補われていくのではなでしょうか!ものづくりをする人と同じくら
い人とものづくりをつなぐ人は必要ですね。ケアマネージャと様々な人とのネットワーク
賛成です。
* 講師より
単に個人的な付き合いの広がりではなく、利用者の方を中心に専門職同士ががっちりと
スクラムが組めるようになりたいですね。
・ケアマネ、言われるとおり、介護の視点しか持っていなかったなーと、勉強になりまし
た。自律支援、環境の整備等々まで、取り組んでいければいいんですが・・・。
*講師より
なかなか難しいですが、ケアマネ全員が「そうだよね」と声をあげると大きく変わると
思います。でも、難しいのでしょうか?
⑤医療保険制度概論(モデルケースを通した社会保障)
大牟田天領病院
MSW
梅田正嗣
医療施設でケースワーカーをされている梅田先生からは、医療制度に関するモデルケー
スを提示(以下の内容)しながらフロアに意見を求めるという、エキサイティングな講義
が展開した。モデルケースは、下記のとおり、
Aさん(一家の主)は、専業主婦の妻、高校2年生の長男、中学3年生の長女の4人暮
らしで、家計はスーパーの主任をしているAさんの収入のみで賄われていました。経済的
には決して裕福ではありませんでしたが、5年前に新築した住宅ローンが借金としてあり
ました。
平成13年11月6日、45歳のAさんは仕事中に突然意識がなくなり、病院に救急車
で搬送されました。医師からは、脳梗塞という診断で右上下の麻痺と失語症があり入院治
療が必要という説明を受けました。
もうすぐ6ヶ月経過。12ヶ月経過。1年6ヶ月経過。状況を追いながらどのような制
度が適用され日常生活を送るのかについて講義が行われた。受講者の職種は、様々で慣れ
ていない方が多かった。質疑においては、さまざまな意見が出ていたが、考え方や法制度
について、懇切丁寧に指導されていた。
−12−
梅田先生の講義風景
講座後のアンケートより
・心疾患、脳血管疾患では労災が下りづらいというのは知りませんでした。保険制度のこ
とはまだまだ全然知らないのですが、少しでも知識にふれたのでよかったと思います。
・医療保険制度をまったく知らなかったので、大変参考になりました。
「病気になるのも大
変だ」と感じました。
・疾病や受傷の治療の為には、経済的な要因が問題となってくるので今回の話は我々医療
従事者としてではなく被保険者としても大変有益でした。
⑥寝る・座る・立つ・移動する∼姿勢と移動のバリアフリー∼
クラーク病院
整形外科
桂律也
個人に合わせた車いすづくり、障害を持つ子供たちの椅子づくりを永年実践されてきた
整形外科医の桂先生からは、主として座位における姿勢保持の話をしていただいた。座位
の安定を図るために内在力を利用したり、姿勢を変えて対応しようとすると耐久性の低下、
ストレス、圧の集中、変形、過緊張などを招くため、外部からのサポートを行う必要があ
ること、外部サポートの実際例としてシート角度の調整、バックレスト下部の調整、バッ
クレストの角度の影響等について講義が行われた。
桂先生の講義風景
講義資料(座位の不安定性)
−13−
円背の方の座位姿勢のとり方(左:頭部が下を向く、右:頭部は前を向いている)
講座後のアンケートより
・姿勢保持ということを考えると、やはりモジュール式で人の体に合った車いすなど考え
なければいけないという事を感じました。
*講師より
必ずしも、モジュールがいいとは思っていません。エンドユーザーに車いすを提供する
私たちのような中間ユーザーが、どれだけ姿勢について理解しているかによって、物があ
っても使いこなせないかもしれません。物を良くしていく努力と併せて、使い方(使わせ
方)を良くする努力を今後とも続けて生きたいと思います。
・骨盤の後傾により前すべりが多いと思いますが、イスを選ぶことで、長時間座ることが
できるということが理解できました。自分が座りやすいイスは、車のシートが長時間座っ
てもつらくない気がします。
*講師より
車のシートや映画館の椅子などは、この 10 年くらいでずいぶんと進歩しています。そ
れでも、私たちは無意識に姿勢を変えて長時間の座位を自ら可能とするように努めていま
す。また、車の場合は、シートだけではなく、サスペンションなどの全体の乗り心地も座
りやすさや座位の耐久性に影響しますので、椅子だけの問題とは言えません。車や運転が
好きか嫌いか?景色、天気などによっても違ってきます。
・仕事でダイニングチェアーやソファー等も作っています。色々な体型の人、どんな人に
でも合うようなイスを作れたらと思っていましたが、今日の先生の話を聞いて、基本的な
取り組み方を再検討すべきかと思いました。
*講師より
既製品の福祉用具も含めた工業製品では、コスト/価格のためにもある程度の規格化が
必要です。そのため、100 人に 100 点の製品は存在しません。調節機構をつけることなど
で多くの方に会うものができると思います。高齢者施設では、高齢者に合うダイニングチ
ェアやソファーがなくて困っているのも現状ですから、その開発も必要だと思います。
−14−
⑦障害者・高齢者に優しい社会の創造−物づくりから見る当事者感欠落社会を見る−
佐賀大学医学部
地域医療科学教育研究センター
斉場三十四
福祉制度や社会施策が専門分野であり、自身も両松葉杖を使い国内を移動している当事
者の立場から、本当に障害者・高齢者に優しい社会は創られているのか、との問いかけが
なされた。障害者用とされる機器や設備は作り手の自己満足ではないのか、当事者の声が
本当に反映されているいのか、幾多の例を示しながら、多くの指摘がなされた。キーワー
ドは、当事者の視点、自己実現、データの過信に注意、ユーザーニーズを鵜呑みにしない、
ローテク・アナログ感覚を大切になど、たくさんのメッセージの詰まった講義であった。
講義の状況
CTPとGPという 2 つの立場
偏見や差別を生む原因のひとつ
間違った介護と親切の行き所
講座後のアンケートより
・すべての人に共用できる福祉用具を作ることは本当に難しく思いました。確かにアナロ
グ、ハイテクだけをとっても、健常者でもつかえる人とつかえない人が分かれてくると思
います。障害者や高齢者にとっても同じで、使えるもの使えないものがあると思います。
その辺は、みんながもっと意見を出していかなければならないのかもしれませんね。
−15−
*講師より
その通りです。真の universal 化を考え、もう少し人に優しいデザインが主流になるべき
だと思います。
・ものづくりのスタートをやっと見つけることができました、ありがとうございました。
・身をのりだして聞き入りましたが笑えない内容が多く、複雑な気持ちです。話にはうな
ずきながら、
どう言うわけかため息がでてきている自分に気づきました。
「ものづくり大学」
の意味が確かに今わかったような気がしています。
・斉場先生の話を聞きまして、初めて気づくことが多く、自分が障害者になったという立
場になって物づくりという事を考えなければいけないという事を思いました。ベッドが低
くなったという事は電動で高さ調節が出来るので身長が低い人から高い人まで幅広く選択
が出来るので、よくなったと思いますけど。
*講師より
必要がない機能や便利さを付加されていても良いのですが、誰に便利なのか、利用者が
どうしてその便利さを使うかという哲学が必要なのです。どんな生活をするかを考えずし
て、安易に便利さに目を奪われてはいけないことを述べたのです。物を多機能化する時に
は必ず原点に立ち返り、必要な機能はなにかを考えていかねばなりません。思い込みで作
った便利さを安易に評価してはならないと思います。
選択①
車いすの理解(移乗・移動・姿勢、環境との関係)
佐賀大学医学部
地域医療科学教育研究センター
松尾清美
前半の座学では、
「移乗しやすい車いすとは」
「移動しやすい車いすとは」
「座りやすい車
いすとは」という 3 つの視点から車いすを考え、各々において車いすを適合してことの意
味を明らかにしていった。後半の演習は、4∼5 人でグループを構成し、8 つのグループで
各 1 台ずつモジュラー型車いすを使って、キャスター軸を傾けたり、シートの張りを調節
したりしながら、実際の「適合」の体験を行った。
個々に合わせた車いす各部の調整と調整後の乗り比べを行った
−16−
講座後のアンケートより
・移乗:いかに介護者に「フタン」がかからない事が重要かわかった。
姿勢:車いすでの姿勢、特にアームレストの高さが重要かが分かった。子どももいろん
な車いすに乗って、車いすの違いが分かったとの事で良かったと思う。
・移乗は社会参加の第一歩だとお聞きし、今まで気が付かなかった事も気付かせて頂きま
した。
・調整できる機能はその全ての機能を把握できていないと、他の問題を引き起こすという
事を痛感しました。
*講師より
車いすの種類や選択方法そして調整できる車いすの調整方法を知っていることが、車い
すユーザに適合する場合の最低条件です。その支援は、専門的になりますので、車いすの
メーカーやディーラー、PTやOTという職種の方々へ伝達する努力をしています。しか
し、1度の講習会で受講できる方々は、多くても60名程度であり、実際の調整方法を伝
達するには、2日∼3日かかるものです。佐賀において、そのシステム作りをしていきた
いと考えています。
⑧メーカーとユーザー(中間ユーザー)の情報交換
コーディネーター:佐賀大学医学部
地域医療科学研究センター
松尾清美
1)企業からのプレゼンテーション
展示に先立ち講義室で各社持ち時間を 10 分使い、それぞれの展示製品の説明を行った。
紹介いただいた会社は、以下のとおり、
・ラックヘルスケア
モジュラー車いす(REVO)
・佐賀プラント
褥創用洗浄装置
・山忠
有田焼、軽量磁器利用食器
・東洋ゴム
滑り止め機能付き織物
・アトリエ彩暮楽
シックハウスとならない安全な塗装剤
・岡インテリア工業
居室用水回り家具
・三電
リフト/段差解消機
2)展示&体験
受講生は 3 班に分かれ 3 会場を順にまわり展示製品を実際に試す事を行った。
第一会場
・佐賀プラント
褥創用洗浄装置
・山忠
有田焼、軽量磁器利用食器
・東洋ゴム
滑り止め機能付き織物
・アトリエ彩暮楽
シックハウスとならない安全な塗装剤
・岡インテリア工業
居室用水回り家具
第二会場
−17−
・ラックヘルスケア
モジュラー車いす(REVO)
・三電
リフト/段差解消機
第三会場
・地域医療科学研究センター
社会生活行動支援部門
実験室
起立補助機、立位移動機、体位変換ベッド、車いすなど。
企業プレゼンテーションの状況
−18−
受講生は 3 班に分かれ 3 会場を順にまわり展示製品を実際に触れて試した
講座後のアンケートより
・日頃、あまり関係のない分野の方々のお話が聞けて新鮮でした。自分達の欲しいものを
きちんとメーカーさんに伝える。そして、そこからいいものがうまれてくる。そうなった
らいいなと思います。意見交換は改めて大切だと思いました。
・陶器を見せていただいた時に、現場の声(マグカップのことですが、一日水分摂取量を
制限されている方がいるそうで、その目安になる絵でもあれば・・・)を聞き、私達の生活で
は考えつかない事も視点が違うということも気付けるのだと感心しました。
・どのメーカーさんも一生懸命商品開発に取り組まれていると思いました。介護福祉用品、
特に生活に密着しているものは、デザイン etc に不満を持っていました。私は使いたくな
いと正直思っていました。しかし、このような高い志をもたれているメーカーさんがいて
感動しました。QOL、顧客に対しての細部なまでの思い、それらのことを話されてびっくり
しました。介護福祉用品は進化していますね。企業さんに頑張ってもらいたい。
選択②
ものづくり演習
椅子
佐賀県工業技術センター分室
諸富デザインセンター
「木製椅子をより使いやすくする為の改良について考える」をテーマに前半の座学では
「Ⅰ椅子に腰掛ける、Ⅱ椅子から立つ、Ⅲ椅子でくつろぐ」という 3 つの視点から椅子に
ついて考えた。後半の演習は、3班に別れて、1班は、使用者を足腰が弱った高齢者とい
う利用者を想定した。他の2班は参加者の中から車椅子を利用されている方を使用対象者
として、部屋でくつろげる椅子についての検討作業を行った。時間的に形にする段階まで
は至らなかったが、具体的な配慮対策等のアイデアはたくさん出て、作る側・使う側相互
の意見交換は画期的なことであった。
一つの班について、ある程度具体的な対応策が整理されたので、3月の最終回に、プレ
ゼンテーションを行う予定である。
今回はバリアフリーデザイン研究会の協力を頂いた。
−19−
椅子作り実習の様子
選択③
ものづくり演習
食器
指導:佐賀県窯業技術センター
納富
悟
部長
協力:食具研究会
コーディネーター:佐賀大学医学部 地域医療科学教育研究センター
佐賀市役所
松尾清美
小沼真理子
「使いやすい食器について考える」をテーマに、前半は佐賀県窯業技術センターの納富
部長より有田の歴史についてと使いやすい食器を作る視点として、食器の重さ、手触り、
色、形等色々あるが、食器をとおして使う人をイメージするのではなく、使う人をとおし
て食器を作ることが有田焼の特徴と考えている。実際に、有田ではそれが可能であると言
うことが製造工程の講義で理解できた。後半の演習は、参加者全員で、腕や指に障害を持
たれている方を想定して、素焼きのマグカップに取っ手を付けて「飲みやすいカップ」を
作るという演習をおこなった。参加者一人一人が、何故このような取っ手なのかについて
プレゼンテーションを行い、納富部長から「取っ手を見ただけでは、何故このような取っ
手なのか理解できなかったが、説明を聞くと納得できる。甲乙付け難い。
」との講評を頂い
た。そこで、3 月の最終回に参加者の投票で、作品の評価を得る事となった。
−20−
作品例
⑨佐賀県バリアフリーデザイン研究会とその歩み
佐賀県工業技術センター分室
諸富デザインセンター
辛川洋介
佐賀県バリアフリーデザイン研究会について、発足の経緯、活動内容について報告が行
われた。活動を続ける中で「異業種間の交流に対する期待と誤解について」や自動車のシ
ートを再利用して椅子を作る過程は興味深いものであった。
−21−
講座後のアンケートより
・
「異業種間交流に対する期待と誤解」確かに…と思いました。私は、元医療従事者として、
具体的に数字で(サイズなど)説明する事を求められることも多かったのですが、結局使
用者さんに実際に合わせてみないと…というところで困っていたのです。人それぞれの体
の動きの違いと変化に応じたものづくりは理想的ですが、コストや採算で考えると…大変
だなと本当に思います。
・よい商品を作るというのは人と一緒でいろいろな人、物に出会い伝達しながらしていか
ないと出来にくいもの。というのがわかったような気がします。
・異業種交流をする上での注意を教えていただきましたが、本当によくわかりました。
⑩自立を目指した福祉用具の活用の仕方
佐賀県介護実習普及センター
専門指導員
北島栄二
福祉用具には 2 つの目的があり「モノとヒトの関係」によるモノ選び(支援プラン)に
ついて講義いただいた。モノから考える支援プラン、制度の対象になる・ならないで考え
る支援プランの結果と、ヒト(身体機能、精神機能、住環境、介助者の状況を含んだ)か
ら考える支援プランの結果について、なぜそう考えることが重要なのかについて大変わか
りやすい講義であった。下記の写真は、その講義風景である。
−22−
北島先生の講演内容の例
講座後のアンケートより
・仕事上、知っているはずの内容も、新しい感覚で聞けました。
“もの”って関わり方を使
い方次第でいろいろだと感じました。
・モノをみて「この人に」というやり方はよくあり反省させられました。個別性が大事な
ことは訪問にいき痛感しています。用具を知らないので勉強になりました。
・人からのものづくりがいかに完成度が高いか、わかりやすい説明で理解出来たように思
われます。
・ヒトの動作は単純なものではなく、場面によっても異なり複雑なものですが、その動作
をきちんと分析・理解しその人にあった福祉用具を提供することが大切であるということ
がよくわかりました。ヒトに用具を合わせるのは大変なことであるとは思いますが、そう
することによって利用者さんの暮らしやすさが確保でき、より充実した生活を送れるのだ
と感じました。
⑪生活支援のための電子技術 1
星城大学
−コミュニケーション支援を中心に−
リハビリテーション学部
畠山卓朗
数多くの障害者や言葉の表出が難しい人とのコミュニケーションをリハビリ工学の専門
−23−
家としての立場から支援技術、支援の実際、支援のポイント、利用者を捉える 3 つの視点
について講義が行われた。ALSの症状が進行し眼球を動かす事も不可能になったご主人
と介護する奥様のコミュニケーションのとり方から、コミュニケーションの原点を教えら
れたという話から、健常者やケアスタッフが障害を持つ人や言葉の表出が難しい人とコミ
ュニケーションをとる場合、文字盤で「会話」をしているつもりでも、実は相手の言うこ
とに耳を傾けるよりも、一方的に伝えていることが多いのかもしれない。例えば、夏の暑
い日に、果物で何が好きかと尋ねられた人が、
「す」の文字を押そうとすると、
「あ、スイ
カでしょ」と先読みして、次の「会話」に進もうとする。
「ある青年は、
『先読みされると、
僕の自己表現を途中で奪われてしまった気がする』と話している」と言うことから、コミ
ュニケーションの本質について考えさせられた。
講演の流れは下記のとおりであった。
13:30-13:50
プロローグ
・支援技術(Assistive Technology)
13:50-14:30
コミュニケーション支援の実際
・広義のコミュニケーション
・操作スイッチ,環境制御装置,コミュニ
ケーションエイド
14:30-14:40
ブレイク
14:40-15:10
支援におけるポイント
畠山先生
・「真のニーズ」と「見かけのニーズ」
・「納得の過程」
・「できない」と「できる」
15:10-15:20
エピローグ
・利用者を捉える3つの視点
15:20-15:30
Q&A
講座後のアンケートより
・支援する際の我々の姿勢を考えさせられた。
・いろいろな事例を見せて頂きありがとうございました。利用者はや
はり「仕方がない」とか「迷惑をかける」といった思いから、あきら
めていることが多いと感じました。先生のように作ってくれる方との
出会いが大切な事なのだなあと感じました。このものづくり大学に参
加できて良かったなあと改めて感じました。
・言葉が話せない方とのコミュニケーションはどうしても逃げがちになってしまうが、観
察→対話→共感できることがあるので、逃げないで努力をしたいと思います。人には生活
の楽しみが大切ですね。
・自分でできることを増やす為の技術なんだ、小さなきっかけが生活を大きくかえること
−24−
があるんだなと、実例をあげて話されたので思いました。
・感動しました。自分の役割を見出せてうれしかったです。初心に戻ります。頑張ります。
・講義の中で納得の「過程(プロセス)」が大切ということでしたが、まさにそのとおりだ
と思いました。たとえ一番最初の形が良かったとしても、もしかしたらもっと良いものが
あるかもしれないし、色々と試してみることで初めてこれが良いのだと思え、スッキリす
るし納得できます。また、利用者を捉える 3 つの視点において、共感者の視点というのは
気づきにくいものですが、とても大切なことだと感じました。共感者の視点でも見えるこ
とで、より利用者さんの気持ちを理解できるのだと思いました。
⑫生活支援のための電子技術 2
NPO法人
ひこばえ
−ジョイスティックって何?−
井手将文
畠山先生と同じく、リハビリ工学の専門家としての立場から、ジョイスティックレバー
という「モノ」をとおして支援の実際について講義いただいた。機器の操作などに支障を
来たす四肢に重度の障害を持つ人々は、その動作パターンに対応したスイッチ(入力装置)
を適切に選択することで可能性が広がる。また、TVゲーム操作のジョイスティックの実
際(映像)は、受講生一同「ハァー」とため息とも驚きとも取れる空気が漂った瞬間であ
った。
講演の流れは下記のとおりであった。
1. ジョイスティックの動作パターン
・on/off 特性
・線形特性
2.操作部位によるジョイスティックの違い
・上肢操作
・顎操作
3. 肢体不自由における動作パターン
機器の操作などに支障を来す四肢に重度の障害を
持つ人々は、その動作パターンを考えると大きく2
つのグループに分類することができる。それぞれの
グループに対応した入力装置(スイッチ)を適切に
選択することが必要となる。
・頸髄損傷,筋神経疾患,その他
・脳性麻痺,その他
4.操作目的によるジョイスティックの違い
・電動車いす操作用ジョイスティック
・PC 操作用ジョイスティック
5. テレビゲーム操作用ジョイスティック
5-1. テレビゲームの持つ特質
5-2. テレビゲームの持つ役割
・身体的役割―
・精神的役割-・社会的役割--
−25−
5-3. テレビゲーム操作に関わる3つの要素
5-4. テレビゲーム操作のためのジョイスティック
・上肢操作
・顎操作
テレビゲーム操作に関わる3つの要素
人間要素
運動/感覚機能 精神機能
・操作力 ,可動域
・理解力
・制御特性 ,不随意運動 ・性格
体位
経験・興味
姿勢保持
テーブル
車椅子
ディスプレイ
配置
自力操作
意欲
可能な
チャンネル数
操作に必要とされる
チャンネル数
奥深さ
意外性
面白さ
知的負担
・記憶
・判断
コントローラ
身体的負担
・操作部形状
プログラム機能
・時間制限
・作動力
・マクロ機能
・操作要チャンネル
・操作感度
・スロー
・耐久力
・フィードバック
機器/環境要素
ゲームソフト
講座後のアンケートより
・電動車いす操作用ジョイスティックとPC操作用ジョイスティックは見た目は似ている
けれども仕組みは全然違うのだということを初めて知りました。同じジョイスティックで
も、目的によって使われ方が違うのだという事を理解し、利用者さんの求めているものを
提供することが大切なのだと感じました。TVゲームに関しては、利用者さんがとても早
くジョイスティックを操作されているのを見てとても驚き感心しました。工夫した使いや
すい機器を提供することで、利用者さんは、楽しめるし、機能回復訓練もできるし、社会
参加も出来るのだということがわかり、これからもっと真のニーズに応えられるような機
器がでるといいなと感じました。
・ジョイスティックの操作方法は手によるものと顎によるものでは異なるのだということ
を知り驚きました。一見、ジョイスティックは単純そうに見えるのですが、使用方法によ
って操作の仕組みが異なるということをきちんと理解することが大切だと思いました。ま
た、ジョイスティックを 2 つの用途と合体させる難しさを感じました。
・ジョイスティックによりゲームが楽しめることを知りませんでした。ゲームできること
で、楽しみや喜びや他の人とも一緒に遊べることで精神的に大きく関与していることを知
ることができました。
−26−
・ワンコントローラの現状について説明がありよかった。
・PCはいまや一般的です。早急な操作治具開発が望まれます。
⑬特別研修
これからの高齢者のリハビリテーションと福祉用具
厚生労働省老健局振興課
渡邉慎一
介護保険が始まって4年
が経過し、福祉用具と住宅
改修の利用件数の変化や現
状について報告された。ま
た、今後の課題についても
示唆された。国の困難な経
済状況の中で、これまでの
ように国がしてくれると思
っていたら何も進まない時
代になってきている。地域
リハビリテーションという
考えが広がってきているが、
市民と自治体が協力して自
主的にこの地域の将来を考
え、勧めていくことが望ま
れている。というお話しで
あった。自分たちの住む町
は自分たちでどのような環
境にし、どのように生活し
ていくか考えていかなけれ
ばならないと感じた。
−27−
⑭特別研修
琉球大学
アジアの事例から学ぶ
高嶺
豊
現在アジア太平洋地域には、4億人の障
害者が存在すると推定される。アジアの多く
の国は今発展途上である。障害の原因の多く
は貧困に起因し、また、半分以上が予防可能
な原因である。障害者の大半は、開発途上国
の農村部に住み、社会の発展から取り残され
−28−
ている。大勢の障害者は、必要な福祉用
具が入手困難で、また地域の社会環境も
物理的バリアが多く移動の自由が奪われ
ている。その
ため、様々な社会活動への参加が制限さ
れている。この様な障害者の社会への完
全参加と平等を図るために、国連障害者
の10年に引き続いて、
「アジア太平洋障
害者の10年」が1993年から200
2年まで実施された。
アクセシブルな環境の整備と福祉用具
の開発・分配は、障害者の基本的な移動
の自由を保障する必要条件である。この
2つの分野は、アジア太平洋の10年を
推進する行動課題の重要な領域に取り上
げられた。この分野に関して、アジア太
平洋の10年における国連の活動を通じ
て検討する。
障害者や高齢者にとって生活し易いア
クセシブルな環境の整備は、アクセス基
準に関するガイドラインの作成や、モデ
ル地域の設定、建築家、政策決定者など
の関係者の研修の実施で、この地域の開
発途上国でも実質的な進展をみた。特に、
タイ、中国、インドの例に注目する。
次に、福祉用具の開発・分配に関して、
アジアの開発途上国での実情を、福祉用
具へのニーズ、入手困難な理由、課題を
検討する。また、幾つかの画期的な取り
組みを紹介する。その取り組みの中には、
地域で入手可能な材料を利用して、途上
国の厳しい環境に耐える用具、また生活
環境に合った福祉用具の開発の例を考察
する。
最後に、これらの事例から何を学ぶか
を検討し、さらにアジアとの国際協力・
交流の可能性を探る。
−29−
⑮特別研修
ものつくりとインフラ整備の課題
佐賀大学医学部
輸送機関のバリアフリーとまちづくり
地域医療科学教育研究センター
斉場三十四
近年、交通バリアフリー法やハートビル法などの整備が進んでいる。その反面、不合理
な思い込みによる概念が強まることで、過親切やサービスが蔓延し、尊厳を傷つけ、自立
しようとする意欲を引き下げ、親切に甘んじ、欲求水準を引き下げて適応することが強要
される結果を招き、新しい形のバリアがうまれているかもしれない。そのような現状を事
例をあげてお話しされた。
新しく生まれるバリアの数々
−30−
バリアフリーの事例
9.3.3
佐賀ものづくり大学を通して、福祉用具と住宅改修によりQOLが向上した事例
① 車いすの適合支援で姿勢や生活動作が改善した事例
佐賀ものづくり大学の公開講座を開講してから、新聞などで講座のことを知った施設の
職員や本人、あるいは家族の方々から、様々な道具に関する相談を受けてきた。ここでは、
車いすの相談で、姿勢や移動、移乗動作の改善を行った例を示す。
−31−
座位姿勢の改善
姿勢と駆動の改善
姿勢と足駆動の実現
② 電動車いすの適合と住宅改修で、自立移動と生活範囲が拡大した事例
移動補助器具である車いすを本人の生活方法や身体機能に適合させ、住宅を改造するこ
とで、日常生活動作の自立度を向上させることができ、介護負担を軽減することができる。
その事例を以下に記述する。本人の身体機能は、第4頸髄損傷による四肢麻痺である。
−32−
電動車いすで自立走行し、机についてトラックボールでPCを操作
ベッドと車いす間の移乗介助の負担をリフトで軽減し、移乗の機会を増やしている
9.4
平成 15 年度事業の成果と課題
9.4.1
当事業の位置づけと当事業の目標
公開講座や開発事例検討、ネットワーク構築を進めることで、高齢社会を迎えた現在
において、すべての人にやさしいものづくりをするための視点や高齢者や障害者が求め
ているものを探求し、佐賀県およびその周辺地域における産・学・官・民の協力による
産業育成や創出を目指す。また、高齢者や障害者の住宅内や社会における生活行動支援
に関する事例検討を行うことで、彼らの生活の質を向上させる。ひいては、地域で生活
し易い、元気の良い佐賀県、福祉産業の起点を目指している。
9.4.2
当事業の自治体や企業、市民との関係
①自治体のニーズにどのように応えているか、また大学側の知見がどのように反映され
ているか
・ この公開講座を開催するための実行委員会を組織し、構築された新しいネットワークに
よって、行政のみならず企業や大学内の縦割りの関係を打開し、横のつながりが生まれ、
−33−
様々な点において無駄を少なくしていくことができる。その一つの成果として、高齢者
や障害者など一般市民への的確な情報伝達がある。
佐賀ものづくり大学で、貴方の技術を更に円熟させましょう
佐賀県
その他
ものづくりパワー
市町村
地場産業技術力、開発
諸富家具
家具・建具
工業
建築
住宅・匠
有田焼き
食具
産業
医学・工学・福祉・社会生活行動支援など
佐賀大学
②自治体の反応や評判など
・ 自治体や企業、大学の協力体制を構築し、身体に障害を持っている方々の自立を目指し
た生活用具の工夫や開発につなげることで、彼らの生活の質の向上を目指すことができ
る。また、そのことによって、施設で生活する場合の国や地方自治体の負担も大幅に削
減することができる。
・ 高齢者や障害者、障害児の生活において、安全性が高まるばかりでなく、全ての人にと
って住みやすい生活環境が創られていくことにつながるため、大変良い、協力的な反応
である。また、産業創出にもつながるため、反応は良好である。自治体の関係部署の担
当者もネットワークの一員となっており、今後の協力が不可欠となっている。
③当初の目標・計画の達成状況
・ 行政や研究者が障害者や高齢者と一緒になって、新しいものを発想する力やネットワー
クが生まれつつある。そこに、ニーズを捉えたものづくりの基本が構築され始める予定
である。
・ ものをつくる事を起点に、佐賀県内の企業や技術者の方々を巻き込みながら、保健・医
療・福祉の分野のネットワークを構築した。
・ 実行委員はもとより、様々な職種や身体機能を持った当事者が百数十名参加して頂いた
ことで、今年度のネットワーク構築の目標である、きっかけつくりは達成できた。
−34−
9.4.3
事業実施による具体的な成果等
①本事業により得られた知見及び今後それがどのように活かされるのか
・ 民間の多種多様な職種と産学官のネットワークを構築し、バリアフリーのものづくり
を目指すことによって、地域で生活し易い、元気の良い佐賀県、福祉産業の起点を目
指して行ける。
・ 障害者や高齢者の生活が自宅から地域へ広がり、生活の質の向上と共に、住みたくな
る町へと発展していく。
・ 佐賀県知事の今年度年頭の挨拶における「平成17年度までにテクニカルエイドセン
ターをつくる」という発言につながっており、今後のさらなるネットワークと協力体
制の強化を行っていく。
・ 数名の障害者や障害児の事例を検討し、その生活の質の向上のための検討を行ってい
るが、近未来において自立度の高い生活へと変化する予定である。このような事例が
多くなっていく。
・ この事業を継続し、ネットワークの絆を強いものにしていくことで、ものづくりに際
して、当事者である高齢者や障害者も一緒に参加した設計・試作・評価・改善を行い、
実用化に向かうという流れが、佐賀に構築される。ひいては、佐賀の様々な業種が持
っているすばらしい技術を活かして、バリアフリーのものづくり県と変貌していく可
−35−
能性がある。
②本事業によって得られた成
果等を発表した雑誌論文等
公開講座や定時授業型授業
(ものづくりの実習)は、新
聞によって公表された。
また、この事業で得られた知
見の一部については、学会に
おいて報告した。
9.5 今後の取り組みについて
今年度は、公開講座を中心
にして、大学や企業、自治体
からそれぞれの分野で活躍し
ている先人の経験や最新情報
を伝達して頂いた。
次年度は、もの造りの工夫
や流れ、使用場面について、
佐賀県内およびその周辺地域
の方々を招き情報伝達して頂
くと共に、試作品の製作に力
を入れていく予定である。
次年度の参加者には、講義
を受けるだけでなく、実際の
ものづくりに参加できるよう
に工夫していきたいと考えて
いる。
−36−