市民映画制作プログラム オープンシネマコンソーシアムの活動 溝上智奈美*1・小野原友樹*2・中村隆敏*3・江原由裕*4・穗屋下茂*5 Email: 09237077.edu.cc.saga-u.ac.jp *1: 佐賀大学 理工学部 都市工学科 *2: 佐賀大学 文化教育学部 人間環境過程 *3: 佐賀大学 文化教育学部 *4: 九州龍谷短期大学 人間コミュニティー学科 *5: 佐賀大学 高等教育開発センター ◎Key Words 市民映画,オープンシネマコンソーシアム, 1. オープンシネマコンソーシアムとは 大学コンソーシアム佐賀加盟大学の学生を中心に, 一般市民,映画自主制作作家と共に映画制作を経験す る。それにより問題解決能力,協調学習,地域連携, キャリアデザインを学び,プレゼンテーション能力の 向上を図る。 映画を制作するというプロセスにおいて,自身の役 割を全うする忍耐力と責任感,話す/聞く/書く/読 む力,絵コンテの作成や構成・編集といった表現力な どが挙げられる。 2 章においては,1 年間の流れ(図 1)を時系列で解説し ていく。 2.2 セミナーおよび講習会 1) シナリオセミナー (自主制作映画 監督 灰谷煙平氏) 灰谷氏からは,過去の自主制作映画を交えながら 「自主制作映画を撮ってきた実体験」から,灰谷監督 最新作「ぺっちゃん」の制作過程をもとに映像制作者 の心構えなどを講義。 2) ドキュメンタリーセミナー (NHK 佐賀放送局 番組制作デスク 福山剛氏) 付箋紙を使ったシーンの構成方法を講義された。積 極的に学生に質問や意見を聞き,物理的/心理的に距 離の近い講義だった。 (有田工業高校教諭・放送部顧問 吉永伸裕氏) 『映像編集のキモ』というテーマで,絵コンテの描 き方や場面ごとの撮影方法を説明された。作品の尺が 長く,スタッフの人数も多いため,シーンの内容を絵 コンテにしてイメージの統一を図る必要がある。 図 1 一年間の活動の流れ 2. 制作から上映まで 2.1 実行委員会の結成 第一回実行委員会で大まかな説明が行われ,最終 的に佐賀大学は 4 年生 1 名,2 年生 7 名,1 年生 4 名, 九州龍谷短期大学は 2 年生 3 名,1 年生 2 名の計 17 名 が参加した。 学生の中から実行委員長 1 名(佐賀大学) ,副実行委 員長 2 名(佐賀大学・九州龍谷短期大学)が選出され た。 3) 音響セミナー(図2) (有限会社写童団代表 末次三希雄氏) 音響機材の操作方法について,実際に学生が機材に 触れながらの説明が行われた。ほとんどの学生が音響 機材の操作は初めてで,マイクの向け方やミキシング のテクニックなど,現場で必要なる技能や応用も講義 された。映画のアマチュア制作ではあまり意識しない 音声収録に関してもプロの機材を用いながら集音マイ クの特性,フィールドミキサーの使用法,カメラマン との連携術など実践的な内容のセミナーを行った。 4) 照明セミナー (九州龍谷短期大学非常勤講師 野元智氏) 『光の三原色』などの理論的なことから始まり,照 明が映像に与える効果・影響が説明された。また,照 明に関しては三灯ライティングの基礎,レフ板の使 用法,屋外での光の遮断法など現場に応じた活用判 断が重要であるということを学んだ。 ・ 撮影機材/特殊機材練習 (図 3) 2.3 シナリオ会議 学生メンバーからシナリオ志望者を募り,6 月 29 日 からシナリオ会議を開始した。主に放課後に佐賀大学 で行われた。 映画はナラティブなコンテンツであり,物語性を重 2.5 ロケーションハンティング・香盤表 シナリオをもとに,8 月上旬からロケーションハンテ ィング(ロケハン)を開始した。デジタル表現技術者 養成プログラムの修了研究として参加している学生 2 名を中心に,作業を進めた。 道路や公園,駅などは許可が下りるのに時間がかか った。特に,特殊機材を用いた大掛かりな撮影では条 件がつくこともあった。 ロケ地は佐賀市内が中心となっている。市民が観て 「懐かしい」 「ここは知ってるぞ」と思うような場所で, かつ他県の人が見てもいいなと思っていただけるよう な場所を選んだ(魅力の発見/再発見) 。まちなかに介 入して映画を通してまちを盛り上げることも本活動の 目的の一つであった。まちの PR ビデオで終わらせない ために,市民という視点での美しさや面白さだけでな く,普遍的な魅力が必要であった。 キャストが決定し撮影場所も確定すればスタッフ全 要とする。そのため,全体のプロットと配役を検討し 員の情報共有の基となる香盤表を作成する。香盤表は シナリオを作成する。当初は若者中心のネガティブな 撮影スケジュールや進行表のことを指す。撮影に必要 プロットが多かったが,市民映画という観客層を視野 な項目, 「集合時間」 「撮影場所」 「撮影内容」 「出演者」 に入れ,徐々にテーマが決まっていった。その間,軌 「衣装」 「小道具」 「必要な機材」 「音声の有無」 「車両 道修正を行いながら何回も修正を行った。 初めて書く 1 時間枠のシナリオの困難さに直面する。 短い尺を経験しているものは数名いた。だが,1 時間と なると,物語の起伏や展開などを綿密に練り上げ,そ れから細部を詰めていく必要がある。個人の発想だけ では限界があり,多数の意見を取り入れることで完成 を目指すことを学んだ。 7 月中にシナリオの第 1 稿を作成する目標だったが, 完成は 8 月 24 日になった。撮影に至るまでに 16 回の シナリオ会議を開いた。さらに,撮影期間にもシナリ オの修正の為に 5 回の会議を重ねた。 の有無」 「その他(注意事項など) 」を書き込んでいく。 映画制作において撮影技術はカメラ操作,照明操 作,音声収録が重要となる。家庭用ビデオカメラと違 い,業務用ビデオカメラはマニュアル操作が必須であ る。そのため,露出,ピントなど光学的な知識,レイ アウト,アングルなど映像文法的な知識に加え,スイ ッチ類の操作方法の理解が必要となる。 また,クレーンやドリーといった業務用器材の練習 を行った。慣れない機材に悪戦苦闘する姿が見られた。 なかなか学生が集まる時間がなかったため,撮影中に 実際に体で覚えたというのが大きかった。 2.4 キャスティング 出演者は主に佐賀大学と龍谷短期大学の学生である。 加えて佐賀市を拠点に活動している劇団「ティーンズ ミュージカル SAGA」や「SAGA パーフェクトシアタ ー」を訪問し、出演協力を要請した。他にも,白山・ 呉服元町両商店街の方にも出演していただいた。 出演者・エキストラは全て無料で協力いただいた。 最終的に出演者はキャスト 23 名,エキストラ 34 名の 計 57 名となった。 図 2 音響セミナー この表を共有することで効率の良い撮影計画が組め, 内容の把握等が可能となる。担当の学生は大学生のみ の空き時間だけではなく,社会人にも合わせるため綿 密な計画を必要とされた。 2.6 撮影 9 月 1 日,撮影を開始した。表 1 は今回の撮影に使用 した主な機材である。 監督,助監督,カメラ,照明などそれぞれの担当を 固定した。監督が各シーンの撮影前にスタッフに対し てシーンの説明を行い,カメラマンや音声などのスタ ッフと時には意見交換しながら撮影を進めた。 撮影期間は 9 月 1 日から 12 月 18 日まで行った。実 質の撮影日数は 29 日間であった。 中でも,シアターシエマで行われた撮影は,1 シーン に登場する出演者の数が最も多かった撮影で,通常の 撮影に増して入念な準備を行った。(図 3) 図 3 シエマでの撮影 表1 使用した主な機材一覧 機材 メーカー 型番 DVカメラ 三脚 ガンマイク ブーム ソニー リーベック ロード ダイワ アツデン リーベック HVR‐Z5J RS―450 NTG2 MB264B FMX‐42 B-30 HD パッケージ TR-320 フィールドミキサー ジブアーム トラッキング レールシステム ドリー リーベック VF Gadgets CMX-The Shooter Scooter 2.7 広報 撮影も終盤となってきた 11 月から 12 月にかけて, ポスター・チラシを制作した。チラシは何パターンも のフォントやカラーバリエーションを試みた。 撮影と同時並行で公式ブログサイトを立ち上げ,会 議の様子や撮影の進捗情報などを更新した。上映会に 向け,Flash ベースの公式ホームページを作成した。作 品の紹介やあらすじだけでなく,オープンシネマコン ソーシアムの活動も紹介した。 図 4 は広報に用いたロゴマークである。実行委員の 溝上が提案した図案を他の学生によって選んでもらっ た。 また,上映会告知動画を作成し,動画共有サイト YouTube にアップロードした。 放送メディアにおいては,1 月 6 日に佐賀市内のケー ブルテレビ ぶんぶんテレビにて宣伝を行った。 2.8 編集 実際の撮影に入るまでにシナリオや香盤表作成等準 備期間として3ヶ月を費やした。撮影は夏季休業中を中 心に行いセミナーを受講した成果もあり,ほぼスケジ ュール通りに終了した。作品の撮影素材ビデオテープ 図 4 OCC のロゴマーク は100本程度であった。これを約50分の作品に編集した。 小野原友樹実行委員長を中心に編集が行われた。 撮影フォーマットはHDV(High-Definition Video) であり,このような長尺の編集を行う場合は編集機器 のPCにおいて高い処理能力を要求される。今回用いた のはApple社のMac ProとAdobe社のAdobe CS4 Premiere Proを主に用いた。 配布メディアはDVD(Digital Versatile Disc)のた め,解像度を標準画質(SD:Standard Definition)に ダウンコンバートした。 DVDは関係者と教育機関,マスコミ等に無償配布し, なるべく上映会を開いてもらうよう依頼した。 2.9 上映会 1月8日,完成上映会は実行委員会が企画し,佐賀市 図 5 ホームページの画面 内にある佐賀県生涯学習センター アバンセのホール で行った。出演した市民や関係者が詰めかけ,ほぼ席 が満席になり,大盛況となった。(図6) 2月。撮影が行われた呉服元町商店街のほど近くにあ るシアター シエマにて2回目上映会を開催した。1月の 上映会には来場できなかった方にも参加いただいた。 3. 作品に対する反響 アンケート 図 6 上映会の様子 アバンセで行われた第一回上映会にて,来場者を対 象にアンケートを行った。来場者約 250 名中,アンケ ートの回答数は 136 であった。 このアンケートをもとに本作品に対する考察を行う。 ①年齢層 年齢層は偏り無く各世代に散布していた。職業の 内訳としては,社会人が 44%で約半分,次いで大学 生など学生が 22%であった。 ②上映会を知った理由 広報の方法は以下の通りである。 ・ ホームページやブログなどのウェブ関係 ・ テレビ,ラジオなどのメディア ・ 新聞,フリーペーパーなどの紙媒体 ・ チラシ,ポスターの掲示 この結果を見ると,撮影関係者やその家族/友人が 多いことがわかる。 図 7 グラフ:年齢層 ③感想 感想の内訳から,好評であることがわかった。具体 的感想として次のものが多く見られた。 「継続して,地域活性化につながればよいかと」 「またこのような機会があれば是非参加したい」 「エキストラ参加者として,今まで見た映画と違う楽 しみ方が出来た」 「佐賀で映画がこんな風につくられているのをはじめ て知った」 「佐賀の映像文化が高いことに驚いた」 「知っている町並みがでてきたらそれだけで嬉しくな る不思議」 「佐賀の土地,風景などいままで気づかなかった佐賀 の良さ感じ愛着をもった」 図 8 グラフ:上映会を知った理由 本活動の狙いの一つとして上げていた, 「佐賀の魅力 の発見/再発見」という目的は達成できたと言える。 4. おわりに 平成 23 年度もデジタル表現技術者養成プラグラムの 修了研究を行う学生を含めて,ドキュメンタリーまた はオムニバス形式のドラマを計画している。 今後もこの活動が引き継がれて行くよう,私も努め て行こうと思う。 5. 謝辞 出演者,商店街の皆様をはじめ,本作品に関わっ たすべての方々,上映会に来ていただいた方々にこ の場をお借りして感謝の意を示す。また,本取り組 みは文部科学省「戦略的大学連携支援事業」及び「質 の高い大学教育推進プログラム」の支援を得て実践 した。 図 9 グラフ:感想
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