精神分析療法の立場から - 臨床心理職の国家資格化について考える場

13 年度東海開業臨床心理士協会 発表スライド [13 年 4 月 21 日 於名古屋]
今、改めて考える、臨床心理士の職業的専門性とその資格
精神分析療法の立場から
御池心理療法センター
NPO法人子どもの心理療法支援会
平井正三
開業精神分析的心理療法士として
思うこと
精神分析的心理療法に必要な力とは?
・一定の知的能力:精神分析理論や技法の理
解のためだけでなく、クライエントの混乱した
世界を把握し、一定の洞察を得るための基盤。
・「行間」「雰囲気」「背後にある感情」「非言語的
表現」を読み取る力
・自分自身の感情を把握できる力、イマジネー
ション、夢を見る力
精神分析的心理療法を行うために
必要な訓練
知的学習
・精神分析理論と技法の学習
体験的学習
・観察訓練(タビストック方式乳児観察)
・スーパービジョン
・個人分析・セラピー
つまり・・・
・精神分析的心理療法を行うために必要な力
や知識、訓練の中に必ずしも心理学や臨床
心理学の知識や訓練が含まれている必要は
ない。
・臨床心理士は、精神分析的心理療法士にな
るための資格条件ではあり得ない。
歴史的流れ
フロイトの『非医師による分析の問題』論文
(1926)
・非医師が精神分析を行えるのか?という批判
に対して、精神分析を行うのに医学は必須で
はあり得ないと論じる。
「タビストック・モデル」
ロンドンのタビストック・クリニックでマーサ・ハ
リスを中心に展開した精神分析のモデル
・精神分析的心理療法の訓練コースに入る要
件:心理学や医学は必須ではない(学部卒)。
・精神分析は広く臨床活動に応用しうる、アカデ
ミック心理学や医学とは異なる臨床実践の知
(の方法)である。
・その中核は、観察と内省である。
観察と内省の基礎訓練としての
タビストック方式乳児観察訓練
「タビストック方式乳児観察」1948年タビストッ
ク・クリニックのエスター・ビックが児童青年心
理療法の訓練に導入
以来、英国の心理療法、ソーシャルワーク、
音楽療法など心理臨床関連分野の訓練とし
て普及
赤ちゃんと母親とのやりとりを毎週1時間観察
理論フリーな心理臨床基礎訓練
乳児観察訓練の構成要素
①観察=感受性訓練:非言語的表現、コミュニ
ケーションへの感性、関係性への感受性、原
始的情動への感受性、逆転移の吟味(内省)
②記録=言語表現訓練:観察して受け止めた
経験を言葉で表現すること
③討議=複線思考、開かれた思考訓練:別の
視点に開かれていくこと
心理臨床の基礎としての精神分析
精神分析=観察と内省
・クライエントをよく見ること、クライエントと自分
との間で起こっていることをよく見ること、そし
て自分自身の心を振り返りつつ、何が起こっ
ているか考えていくことでクライエントを共感
的に理解していくこと。
・以上は、心理臨床の基礎訓練と考えられるの
では。 特に乳児観察訓練で培われるもの。
臨床心理士の職業的専門性について
ーーー私論(妄想)ーーー
基礎資格としての臨床
心理士資格モデル
臨床心理士
認知行動療法士
精神分析的心理療法士
来談者中心療法士
スクールカウンセラー
心理査定士
基礎資格としての臨床心理士資格
心理臨床の知と実践力を包括的に広く浅く修
得している職業的専門性、generalist
アカデミック心理学を唯一の基盤とするイギリ
ス・モデルを踏襲する必要はない。それは心
理臨床の現実に必ずしも即していないから。
*観察と内省を基盤とする精神分析のような
「非アカデミック心理学」の果たす役割の認知
の必要性
資格取得後の専門性のキャリア・デベ
ロップメントとしての「高度な」専門性
より「高度な」専門性は、資格取得後訓練で
身につける---精神分析的心理療法、ス
クールカウンセリング、認知行動療法、心理
査定…
Generalistとしての臨床心理士のキャリア―を
全うする人もあり、では。
指導者、スーパーバイザー資格の明確化
このモデルの実現のために必要なこと
心理臨床学会の中で「心理臨床に必要な知
識と実践力は何か」ということに対する包括
的なモデルを作り上げること。
修士課程=基礎資格。しかし、研修医制度の
ように例えば2年間の見習い期間を設け、実
践力に関してより高いハードルを設けること。
その見習い経験の中身について合意を得る
こと。
修士課程である必然性
専門性の質の担保=知の新陳代謝・成長能
力の担保=修士レベルの「研究」能力
安売りはしない。デフレ思考からの脱却
専門性に必要な知の体系の整備
アカデミック心理学と非アカデミック心理学の統合
*「実証科学」の知としての合意
*伝統的アカデミック心理学=量的研究
非アカデミック心理学(精神分析など)=質的研究、
事例研究法として位置づけるとともに、後者の実証
科学の知としての側面を強化(近代化:脱権威主義、
脱「カリスマ」文化)
*心理臨床学会の質の向上(近代化:脱主従関係、
民主化、説明責任)
「包括的基礎資格モデル」の利点
社会に対して「臨床心理士」が何を提供でき
るかより明確になる。
専門性の訓練の整理と明確化ーーー>より
効果的な訓練が可能
上記と関連して、指導体制の明確化と見直し
が可能。(指導者に必要な経験・能力の明確
化)
訓練生に明確なキャリア・デベロップメントの
見通しを与えることで、訓練動機が上がる。
「包括的基礎資格モデル」と精神分析
心理臨床基礎訓練として「乳児観察モデル」
の導入:観察と内省の訓練
非アカデミック心理療法の実証研究のモデル
の提供:「面接室」=「実験室」としての知の蓄
積の伝統(M.ラスティン)
「臨床心理士」ができる、「短期力動的心理療
法」の共通モデルの構築
さらに、
より「高度な」専門訓練のための大学院博士
課程を設けること。
*心理療法コース
精神分析、ユング心理学、来談者中心療法..
*心理査定コース
*スクールカウンセリング・コース
*認知行動療法コース
追記:
*「包括的基礎資格」=臨床心理士訓練の整備と「高度な専門資格」
(心理療法、CBT、心
理アセスメント、SC)との有機的な統合
・例えば、認定大学院の教員は、
「高度な専門資格」を持つか、その「スーパーバイザー」
資格を持つことを必須とする。
・
「高度な専門資格」は、各学会で認定する。心理臨床学会、精神分析学会、ユング心理学
会、CBT の学会、心理テストの学会、SC の学会など
・
「包括的基礎資格」の臨床実践のスーパービジョンの規程の明確化:時間数、スーパーバ
イザー資格(
「高度な専門資格」保持者にすべき)
*「包括的基礎資格」の修得技量の明確化(+卒後研修の目標の明確化)
・「心理療法」もしくは CBT の修得技量の明確化:一つの技法の一定の修得を重視し、2
年間の修士課程で達成可能な目標を明確化する。修士卒業後、資格取得後の目標も明確に
する。
・修得すべき、心理アセスメントの技量の明確化
*本発表では、精神分析は、大学の外の Institute で訓練することが望ましいと示唆しなが
ら、大学博士課程での精神分析的心理療法の訓練・資格コースの設立の必要性を提起して
いる。
私は、
精神分析的心理療法は、
精神分析的心理療法は、民間の Independent な Institute
での訓練と大学院での訓練の両輪があって実り豊かな展開が起こると考える。
・ドイツ・モデルの「心理療法資格」
(CBT との共同資格?)の創設 医師+非医師(包括
的基礎資格保持者?)