北海道言語文化研究 No. 13, 15-24, 2015. 北海道言語研究会 発話形式による音声的特徴の相違 ―構文構造とポーズの関係から― * 高村 めぐみ Difference of Features by Speech Style: From Relationship between Syntactic Structure and Pauses Megumi TAKAMURA 要旨:昨今、モノローグにおける口頭表現能力の育成が盛んに行われている。だが、内容 や発話形式によって聞きやすいと評価される韻律が異なる可能性についての議論は進んで いない。本稿では、韻律の中から聞きやすさに影響を与える要因の一つであるポーズを取 り上げ、スピーチとプレゼンテーションとではどのような共通点、相違点があるのかを明 らかにし、 「 ポ ー ズ の 規 範 」を 作 成 す る こ と を 目 的 に 研 究 を 行 っ た 。そ の 結 果 、両 者 と も ① 活用語の後には中央値程度以上のポーズが、非活用語の後には中央値程度以下のポーズが 出現する、という共通点があるが、②非常に長いポーズが出現するのは、スピーチは「言 い 切 り 」の 後 で 、プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン は「 話 題 転 換 」 「 フ ォ ー カ ス 語 の 前 」で あ る 、③ 短 い ポ ー ズ が 出 現 す る の は 、 ス ピ ー チ は 「 順 接 」「 逆 接 」「 取 立 」「 動 詞 修 飾 」「 場 所 」 の 後 で 、 プレゼンテーションは「逆接」の後である、という相違点があることが示唆された。 キーワード:構文構造、発話形式、ポーズ、音声指導、モノローグ 1. はじめに 話しことばは、その形式によって大きく二つに分けられる。一つは、内容の伝達や話 題 の 共 有 な ど を 目 的 に 、 複 数 の 人 間 が こ と ば の や り 取 り を 行 う 「 ダ イ ア ロ ー グ 」( 対 話 ) で、もう一つは、一人の人間が主に話し手となって、ある一定の時間、話し続けること が 期 待 さ れ る 「 モ ノ ロ ー グ 」( 独 話 ) で あ る 。 昨 今 、 大 学 の 初 年 次 教 育 等 で は 、「 効 果 的 なプレゼンテーション」や「説得力のあるスピーチ」など、口頭表現能力育成を目的と し た 科 目 が 開 講 さ れ て い る 。こ れ ら の 科 目 で は 、ス ピ ー チ や プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 内 容 、 構成、語彙選択、表現方法などを指導することが多く、説得力があり、かつ聞き手をひ きつける口頭表現能力の育成を目指した教育が行われている。 だが、素晴らしい内容の口頭発表であっても、それを伝える手段である音声に問題が 15 発話形式による音声的特徴の相違 ―構文構造とポーズの関係から― 高村めぐみ あっては、聞き手の記憶に残る発表にはなりえない。日本で生まれ育った人であれば、 ダイアローグでもモノローグでも、日本語を使ってコミュニケーションをすることに殊 更困ることがないため、義務教育などで「聞きやすい発声法」や「相手に伝わりやすい 間の取り方」というような、日本母語話者のための日本語の音声教育というものはほと んど行われていない。しかし、アナウンサーや役者が発声法の練習をすることで、人々 に伝わりやすいと認識される発音の生成ができるようになることを考えると、教育機関 でも音声の指導と練習をすることで、聞きやすい発声の習得は可能だと考える。今より 充実した口頭表現能力の科目を展開することができる可能性があると言えよう。 音声指導をする際に気を付けなければならないことは、形式や内容によって聞きやす いと認識される音声が異なる可能性が高いということである。例えばスピーチとプレゼ ンテーションは、指導では両者とも「モノローグ」として同じものとして扱われること も あ る が 、ス ピ ー チ は「( 2)1 読 ん で は い な い が 、頭 の 中 に 書 か れ た も の が あ っ て 、あ た かもそれを読むように話す場合。スポーツ放送のある場合やお芝居のせりふなど」に該 当 し 、 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン は 「( 3) 話 す 内 容 は あ ら か じ め 決 め て あ っ て も 、 ど う 言 語 表 現するかは、その場その場で判断する。レポーターのレポートや学校の講義など」に該 当 す る ( 柴 田 1995)。 さ ら に 、 視 覚 情 報 ( パ ワ ー ポ イ ン ト や レ ジ ュ メ ) や フ ィ ラ ー の 有 無 な ど 、 様 々 な 相 違 が あ る ( 表 1) こ と を 考 え る と 、 ス ピ ー チ と プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン と では、聞き手が聞きやすいと評価する音声は異なることが予測される。 表 1: モ ノ ロ ー グ の 下 位 分 類 スピーチ プレゼンテーション 内 容 ( 村 松 1997) 自分の意見 説明 視覚情報 基本的になし PPT、 レ ジ ュ メ 可 暗記 有 丸暗記はなし フ ィ ラ ー ( 神 吉 1995) 0% 表れにくい 音声を構成する要素には、大きく分けて分節音と韻律(声の高さ、大きさ、速さ、間 (ま)=ポーズなど)がある。特にポーズは、聞き手にとっても話の内容を記憶し理解 す る う え で 欠 く こ と が で き な い 時 間 で あ る( 杉 藤 1987)た め 、聞 き 手 の 評 価 に 大 き な 影 響を与えると考えられる。内容や形式によって、聞き手から高評価が得られる規範的な ポーズの時間長、出現位置は様々だろう。つまり、指導の際、内容、形式別のポーズの 規範があれば、役に立つと考えられる。 本稿では、数多く考えられる音声的要因の中から、ポーズを取り上げた。そして、教 育機関で取り上げられることの多い「スピーチ」と「プレゼンテーション」に絞って、 1 ( 2)、( 3) の 他 、( 1)「 す で に 書 か れ た も の が あ っ て そ れ を 読 む 場 合 ( ニ ュ ー ス 原 稿 の 読 み あ げ )。書 き こ と ば の 音 声 化 」、 ( 4) 「 一 対 一 、顔 を 見 合 わ せ て の 会 話 。当 意 即 妙 の お し ゃ べ り 。 インタビューはその一例」がある。 16 北海道言語文化研究 No. 13, 15-24, 2015. 北海道言語研究会 両者の共通点、相違点を明らかにし、それぞれの「ポーズの規範」を作成することを目 的に研究を行った。 2. スピーチのポーズ規範(先行研究) 高 村( 2013) 2 を 参 考 に 、聞 き や す い と 評 価 さ れ た 日 本 語 母 語 話 者( JM、JO)2 名のスピーチ暗唱を資料にポーズの出現する位置と時間長を調べた。 規 範 は 、3 段 階 の 階 層 か ら 成 る 。ま ず 、第 1 段 階 で 、全 て の 発 話 節 3 を 末 尾 の 語 に よ り 「 述 語 的 成 分 」 と 「 補 足 的 成 分 」 の 2 つ に 分 け て い る 。「 述 語 的 成 分 」 は 動 詞 、 形 容 詞 、 コ ピ ュ ラ で 終 わ る 発 話 節 、「 補 足 的 成 分 」 は 名 詞 、 副 詞 な ど 活 用 を し な い 語 で 終 わ る 発 話 節 4と い う 基 準 で 分 類 を し て い る 。 ま ず 、 第 1 段 階 で は 「 述 語 的 成 分 の 後 に は 中 央 値 程 度 の ポ ー ズ 5、 長 い ポ ー ズ 、 ま た は 非 常 に 長 い ポ ー ズ が 出 現 す る 。そ し て 、補 足 的 成 分 の 後 に は 中 央 値 程 度 の ポーズか短いポーズが出現する」という仮説のもと分類している。その結果、2 つ の 資 料 で 仮 説 が 成 立 す る 確 率 は 、JM の み 有 意 傾 向 で 、他 の 資 料 で は 1/2 よ り 有 意 に 大 き い ( 二 項 検 定 、 p<.05) と 述 べ て い る 。 第 2 段 階 で は 、 述 語 的 成 分 を さ ら に 2 つ に 分 類 し 、「 述 語 的 成 分 の 中 で 、 言 い 切 り で 終 わ る 発 話 節 の 後 に は 非 常 に 長 い ポ ー ズ が 現 れ 、そ れ 以 外 は 中 央 値 程 度 ∼ 長 い ポ ー ズ が 現 れ る 」 と い う 仮 説 の も と 分 類 し て い る 。 そ の 結 果 、 一 致 率 は 86 ∼ 100% だ っ た と 述 べ て い る 。 第 3 段 階 で は 、補 足 的 成 分 の 中 で 、出 現 す る 可 能 性 が あ る が 出 現 し て い な い ポ ー ズ の 位 置 も 含 め 、短 い ポ ー ズ が 出 現 す る( し や す い )位 置 を 分 析 し て い る 。文 中 の ど の よ う な 条 件 下 で ポ ー ズ が 出 現 し や す い か( あ る い は 出 現 し に く い か )を 調 べ る た め に 、① 全 て の 発 話 を 文 節 で 区 切 る 、② 短 い ポ ー ズ の 出 現 の 有 無 を 調 べ 語 類 別 6 に す る 、③ 構 文 構 造( 枝 分 か れ 構 造 )と の 関 連 を 探 る 、と い う 手 順 で 解 析 を し て い る 。 分 析 の 結 果 、「 順 接 、 逆 接 、 取 立 、 動 詞 修 飾 、 並 列 」 の 意 味 を 持 つ 2 高 村 ( 2013) で は 、 日 本 語 教 育 へ の 寄 与 貢 献 を 目 的 と し て い る た め 、 聞 き や す い と 評 価 さ れ た 韓 国 人 上 級 日 本 語 学 習 者 の 資 料 も 含 め て い る が 、本 稿 で は 、日 本 語 教 育 よ り む し ろ 日 本 人 大 学 生 へ の 初 年 次教育を視野に入れているため、韓国人日本語学習者の資料は除いて分析をした。 3 発 話 節 と い う 術 語 は 杉 藤 ( 1987) に よ る も の で 「 発 話 に お け る 有 声 区 間 、 つ ま り ポ ー ズ 以 外 の 音 響 的有声区間に一致する」と述べられている。 4 助詞、助動詞は分類の基準には含まれない。また、形容動詞については、様々な定義があるが、こ こ で は 名 詞 の 一 種 で あ る と 考 え 、「 補 足 的 成 分 」 に 入 れ て い る 。 5 高 村 他( 2010)を 参 考 に 、ポ ー ズ の 中 央 値 か ら 相 対 ポ ー ズ 値 で ±1 拍 分 の 時 間 長 の ポ ー ズ を「 中 央 値 程 度 の ポ ー ズ 」と し 、中 央 値 程 度 の ポ ー ズ よ り 短 い も の を「 短 い ポ ー ズ 」、長 い も の を「 長 い ポ ー ズ 」 と し て い る 。さ ら に 、相 対 ポ ー ズ 値 4 拍 分 以 上 を「 非 常 に 長 い ポ ー ズ 」と し 、時 間 長 に よ り ポ ー ズ を 4 分 類 し て い る 。 な お 、 相 対 ポ ー ズ 値 と は 大 野 他 ( 1996) が 提 唱 し た 用 語 で 、 ポ ー ズ の 時 間 長 を 発 話 節内の 1 拍の時間長で割り、ポーズを拍で表したものである。 6 ② 語 類 分 類 は 、 文 節 の 持 つ 意 味 的 役 割 を 基 準 に 「 1.順 接 ( 例 : で す か ら / 学 校 で ∼ ) 、2.逆 接 ( し か し / 学 校 に ∼ ) 、 3.並 列 ( 交 流 や / 行 動 観 察 を ∼ )、 4.主 体 ( 私 が / 高 齢 者 を ∼ ) 、 5.取 立 ( 今 回 は / こ れ を ∼ )、6.場 所( 日 本 に / 来 て か ら ∼ )、7.動 詞 修 飾( 実 際 / 韓 国 に ∼ あ り ま せ ん )、8.限 定( 高 齢 者 の / 役 割 に ∼ ) 、 9.引 用 (「 ∼ ど こ で す か 」 と / 聞 か れ る と ∼ ) 、 10.対 象 ( 改 善 策 に つ い て / 述 べ ま す ) 」 の 10 項 目 を 立 て て い る 。 17 発話形式による音声的特徴の相違 ―構文構造とポーズの関係から― 高村めぐみ 発 話 節 の 後 で は 中 央 値 程 度 ∼ 短 い ポ ー ズ が 50%以 上 の 割 合 で 出 現 し 、並 列 以 外 は 右 枝 分 か れ 境 界 に 該 当 す る こ と が 多 い 。 そ し て 、「 状 態 、 程 度 、 主 体 、 場 所 、 修 飾 、対 象 」の 意 味 を 持 つ 発 話 節 の 後 で は ポ ー ズ が 50%以 下 の 割 合 で し か 出 現 せ ず 、 それは左枝分かれ境界に該当することが多い、と述べている。 以上の結果を「スピーチにおけるポーズの規範」としてまとめている。 第 1 段階:述語的成分の後には、中央値程度以上のポーズが出現する。 第 2 段 階:述 語 的 成 分 の 中 で「 言 い 切 り 」の 後 に は 、非 常 に 長 い ポ ー ズ が 出 現する。 第 3 段 階:補 足 的 成 分 に は 、基 本 的 に 右 枝 分 か れ 境 界 で 中 央 値 程 度 以 下 の ポ ー ズ が 出 現 す る 7 。そ れ は「 順 接 、逆 接 、取 立 、動 詞 修 飾 」の 意 味 的 役 割 と 一 致 す る こ と が 多 い 。そ し て 、基 本 的 に 左 枝 分 か れ 境 界 で は ポ ー ズ が 出 現 し な い こ と が 多 い 8 。 但 し 、「 並 列 」 は 左 枝 分 か れ 境 界 で あ っ て も 、 ポ ー ズ が出現することが多い。 3. プレゼンテーションの規範 3.1. 研究方法 スピーチの規範を参考に、プレゼンテーションの規範の作成を試みた。 まず、聞きやすいと評価された日本語母語話者のプレゼンテーション資料を採取した。 資 料 は 男 性 ア ナ ウ ン サ ー ( JI) と 女 性 ア ナ ウ ン サ ー ( JO) の も の で あ る 。 ど ち ら も 複 数 の タ レ ン ト に 時 事 問 題 等 を 説 明 し た も の で あ る 。柴 田 の 4 分 類 で は 前 述( 3)に 該 当 す る 。 JI の 資 料 は 2012 年 1 月 12 日 に フ ジ テ レ ビ 系 列 で 放 映 さ れ た「 池 上 彰 ス ペ シ ャ ル 宗 教 が わ か れ ば ニ ュ ー ス の ナ ゾ が 解 け る ! 」、 JO の 資 料 は 2012 年 6 月 6 日 に NHK 放 送 局 で 放 映 さ れ た 「 た め し て ガ ッ テ ン 」 を HD レ コ ー ダ ー に 録 画 し た も の で あ る 。 JI、 JO の 音 声 資料を日本語母語話者 3 名に聞いてもらったが、日本語のプレゼンテーションとして聞 きやすく、規範的であると評価された。 次に、ポーズの画定について述べる。まず、音声資料を日本語母語話者 3 名に聞いて もらい、ポーズであると判定される「認知的ポーズ」の画定をした。その後、認知的ポ ー ズ を 計 測 し 、発 話 節 で 1 拍 以 上 の 無 音 区 間 が あ る 箇 所 を「 物 理 的 ポ ー ズ 」と 画 定 し た 。 さらに、両方の条件を満たしたものを本稿での「ポーズ」と定義した。以上の結果、画 定 し た ポ ー ズ を 時 間 長 に よ り 4 分 類 し た ( 表 3 参 照 )。 7 例 外 と し て 、① 直 前 の 発 話 節 も 右 枝 分 か れ 文 で ポ ー ズ が 出 現 し て い る 、② 直 後 の 発 話 節 の 後 も 右 枝 分 か れ 文 で ポ ー ズ が 出 現 し て い る 、③ 左 枝 分 か れ 文 で の 解 釈 可 、④ 発 話 節 が 短 い( ポ ー ズ 無 し で も 約 15 拍 以 内 ) の 時 に は ポ ー ズ が 出 現 し な い 。 8 例外として、①フォーカス語の前、②引用の「と」の前、③トピックの「は」の後、④右枝分かれ 文 で の 解 釈 可 、⑤ 発 話 節 が 長 い( ポ ー ズ 無 し だ と 約 30 拍 以 上 )、⑥ 述 語 的 成 分 で 終 わ る 、⑦ 並 列( 特 に助詞が省略され句が並列するとき)の時には中央値程度以下のポーズが出現する。 18 北海道言語文化研究 No. 13, 15-24, 2015. 北海道言語研究会 表 2: 発 話 節 ・ ポ ー ズ の 基 本 統 計 量 全長 1 拍長さ 全長 平均 中央 最小 最大 発話速度 調音速度 JI 52801ms 118.8ms 発話 P9 43626ms 9175ms 82.6% 17.4% 1559.5ms 402.8ms 1447.5ms 308.0ms 407ms 140ms 3374ms 785ms 7.0 拍 /秒 8.5 拍 /秒 JO 60471ms 12704ms 発話 P 45368ms 15103ms 75.0% 25.0% 1163.3ms 457.7ms 904.0ms 410.0ms 249ms 143ms 3225ms 1000ms 6.4 拍 /秒 8.6 拍 /秒 表 3: ポ ー ズ の 4 分 類 (単 位 = ms) JI JO 発話節1拍平均 119 127 中央値 308 410 ∼ 189 ∼ 282 中央値付近ポーズ 190∼ 427 283∼ 537 長いポーズ 428∼ 783 538∼ 919 784∼ 920∼ 短いポーズ 非常に長いポーズ 最後に、プレゼンテーションに共通するポーズの出現位置と時間長を調べ、ポーズの 規 範 を 作 成 し た 。ス ピ ー チ と の 共 通 点 、相 違 点 が 比 較 し や す い よ う に 、ス ピ ー チ と 同 様 、 3 段階からなる規範の作成を試みた。 3.2. 結果 第 1 段 階 の 仮 説 10 を 検 証 し た 結 果 、 全 て の 資 料 に お い て 有 意 差 が あ っ た ( 二 項 検 定 、 p<.05)。 仮 説 に 違 反 し た の は 、 述 語 的 成 分 で は JI「 で 一 か 月 間 な ん で す が / 11 〜 」、「 教 え を 守 っ て / 〜 」の 2 か 所 で 、時 間 長 の 短 い ポ ー ズ が 出 現 す る と い う 違 反 が あ っ た 。補 足 的 成 分 で は JO「 但 し / / 12 但 し で す 」に 長 い ポ ー ズ が 出 現 す る 違 反 が あ っ た 。こ の こ と か ら 、述 語 的 成 分 で も「 継 起 」 「 接 続 」を 表 現 す る 発 話 節 の 時 は 、短 い ポ ー ズ が 現 れ る ことがあり、また、補足的成分でも「フォーカス語」の前には長いポーズが現れること がある、という結果となった。 9 表 中 の 「 P」 は ポ ー ズ を 表 す 。 「 述 語 的 成 分 の 後 に は 中 央 値 程 度 の ポ ー ズ 、長 い ポ ー ズ 、ま た は 非 常 に 長 い ポ ー ズ が 出 現 す る 。そ して、補足的成分の後には中央値程度のポーズか短いポーズが出現する」という仮説である。 11 ス ラ ッ シ ュ 1 つ は 、 時 間 長 の 短 い ポ ー ズ を 表 す 。 12 ス ラ ッ シ ュ 2 つ は 、 時 間 長 の 長 い ポ ー ズ を 表 す 。 10 19 発話形式による音声的特徴の相違 ―構文構造とポーズの関係から― 高村めぐみ 表 4: 規 範 ・ 第 一 段 階 の 照 合 長 P+述 語 JI JO 14 14 短 P+述 語 (= 違反) 2 0 一致率 短 P+補 足 88% 100% 10 20 長 P+補 足 (= 違反) 0 1 一致率 100% 95% 次 に 、第 2 段 階 で は 、 「 述 語 的 成 分 の 中 で 、話 題 転 換 と フ ォ ー カ ス 語 の 前 に は 非 常 に 長 いポーズが現れ、それ以外は中央値程度∼長いポーズが現れる」という仮説のもと分類 し た 。 そ の 結 果 、 一 致 率 は 100% だ っ た 。 JI JO 表 5: 規 範 ・ 第 二 段 階 の 照 合 「話題転換」のポーズ 「フォーカス」のポーズ 非 常 に 長 P+ 非 常 に 長 P + 長 P +述 語 長 P +述 語 一致率 一致率 述語 述語 (= 違反) (= 違反) 1 0 100% 0 0 ― 2 0 100% 1 0 100% 第 3 段階では、補足的成分の中で、中央値程度以下のポーズが出現しやすい位置を分 析 し た 。 語 類 に つ い て は 、 1.逆 接 、 2.並 列 、 3.取 立 、 4.順 接 、 5.主 体 、 6.時 間 、 7.引 用 、 8.動 詞 修 飾 、9.対 象 、10.限 定 、11.範 囲( 準 決 勝 ま で / 進 出 す る ∼ )、12.付 加( 名 前 も / 変 わ り ま す )の 12 項 目 を 立 て 、こ れ ら の 項 目 の 後 に ポ ー ズ が 出 現 す る か 否 か を 調 べ た 。 なお、 「 文 節 以 外 」、 「 フ ィ ラ ー の 後 」に も ポ ー ズ が 出 現 し て い た 。そ し て 、ポ ー ズ と 構 文 構 造 と の 関 連 を 探 っ た 結 果 、「 逆 接 、 並 列 」 の 意 味 的 役 割 を 持 つ 2 項 目 の 文 節 の 後 に は 、 中 央 値 程 度 ∼ 短 い ポ ー ズ が 50% 以 上 の 割 合 で 出 現 す る と い う 結 果 に な っ た 13 。一 方 、 「取 立、順接、主体、時間、引用、動詞修飾、対象、限定、範囲」の 9 項目の後には、ポー ズ が 50%以 下 の 割 合 で し か 出 現 し な い と い う 結 果 に な っ た 。ス ピ ー チ と は 異 な り「 フ ィ ラー」の出現も 9 か所あり、フィラーの後にはポーズが出現しないことの方がやや多い ( ポ ー ズ あ り : 3 か 所 、 42.9% 、 ポ ー ズ な し : 4 か 所 57.1%)。 ま た 、 文 節 の 区 切 り 以 外 で ポ ー ズ が 出 現 し て い る 箇 所 も あ っ た ( コ ピ ュ ラ の 前 、 助 詞 の 前 、 助 動 詞 の 前 )。 表 6: 補 足 的 成 分 の 細 分 類 J1 1 2 3 4 5 13 ポーズの有(短)or無 ラマダンと いうのは 断食 ですよね こちら 見て下さい イスラム教徒が 拍数 5 4 4 4 17 3 6 9 8 一例 逆接 並列 取立 順接 付加 主体 フィラー 時間 引用 V修飾 対象 限定 範囲 文節以外 × ○ ○ × × 「 付 加 」に つ い て は 、デ ー タ 数 が 各 1 の た め 50% と な っ て い る 。そ の た め 、こ こ で は 言 及 し な い 。 20 北海道言語文化研究 No. 13, 15-24, 2015. 北海道言語研究会 表 7: 意 味 的 役 割 と ポ ー ズ ( 左 )、 構 文 構 造 と ポ ー ズ ( 右 ) プレゼン 逆接 並列 取立 順接 主体 フィラー 時間 引用 V 修飾 対象 限定 範囲 文節以外 2 2 6 1 6 3 2 1 1 1 3 0 1 P有 100.0% 66.7% 42.9% 33.3% 46.2% 42.9% 33.3% 33.3% 8.3% 12.5% 10.3% 0.0% 100.0% 0 1 8 2 7 4 4 2 11 7 26 1 0 プレゼン 逆接 並列 取立 順接 主体 フィラー 時間 引用 V 修飾 対象 限定 範囲 文節以外 P無 0.0% 33.3% 57.1% 66.7% 53.8% 57.1% 66.7% 66.7% 91.7% 87.5% 89.7% 100.0% 0.0% 左枝 右枝 0 0.0% 2 100.0% 3 100.0% 0 0.0% 6 42.9% 8 57.1% 0 0.0% 3 100.0% 10 76.9% 3 23.1% ― ― ― ― 3 50.0% 3 50.0% 2 66.7% 1 33.3% 3 25.0% 9 75.0% 8 100.0% 0 0.0% 29 100.0% 0 0.0% 1 100.0% 0 0.0% ― ― ― ― 枝 分 か れ 境 界 と ポ ー ズ の 関 係 に つ い て は 、 ス ピ ー チ の 第 3 段 階 で は 、「 基 本 的 に 右 枝 分かれ境界で中央値程度以下のポーズが出現し、左枝分かれ境界ではポーズが出現しな い 」 と い う 規 範 を 作 っ て い る が 、 い く つ か の 例 外 14 が あ っ た 。 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン で も 同様に、例外がある。右枝分かれ境界であってもポーズが出現しない例外は、 ① 発 話 節 が 短 い ( ポ ー ズ な し で 15∼ 20 拍 以 内 )、 ②直前、直後の発話節にポーズが出現している、 の 2 つである。そして、左枝分かれ境界であってもポーズが出現する例外は、 ①フォーカス語の前、 ②引用の「と」の前、 ③ 15 並 列 ( 特 に 助 詞 が 省 略 さ れ 文 節 が 並 列 す る と き )、 ④取立の「って」の後、 の 4 つである。 3.3. 考察 スピーチの規範とプレゼンテーションの規範を比較した。その結果、第 1 段階は両者 共 通 で あ っ た 。つ ま り 、モ ノ ロ ー グ の 形 式 に よ ら ず 、 「述語的成分の後には中央値程度の ポーズ、長いポーズ、または非常に長いポーズが出現する。そして、補足的成分の後に は中央値程度のポーズか短いポーズが出現する」ように発話すれば、聞きやすいと評価 されると考えられる。 第 2 段階については、スピーチで非常に長いポーズが出現するのは「言い切り」の後 脚 注 7、 8 参 照 。 ス ピ ー チ の 規 範 で は 見 ら れ た 「 ③ 発 話 節 が 長 い ( ポ ー ズ を 挿 入 し な い と 約 30 拍 以 上 続 く ) 、 ④ 述 語 的 成 分 で 終 わ る 発 話 節 、⑤ 右 枝 分 か れ 文 で の 解 釈 が 可 能 」と い う 項 目 は 、プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン で は該当箇所がなかった。 14 15 21 発話形式による音声的特徴の相違 ―構文構造とポーズの関係から― 高村めぐみ だったが、プレゼンテーションで非常に長いポーズが出現するのは「話題転換」と「フ ォーカス語」の前である。これは、スピーチのほうが書きことばを音声化するという面 が強いため、句点を意識し、言い切りの後で非常に長いポーズを出現させているのでは ないかと考える。一方、プレゼンテーションで話題転換の時に長いポーズが出現するの は、書きことばでは改行にあたる役目を、話しことばではポーズが担っているからだと 考えられる。書きことばの場合、改行が新たな段落の始まりを表すが、話しことばで新 たな段落の始まりを示すのは、ポーズとイントネーションである。そのため、段落、つ まり談話のまとまりを意識してポーズを出現させているのだと推測する。また、フォー カス語の前の非常に長いポーズは、聴取者を意識しているからだと考える。例えば、左 枝分かれ境界であるにも関わらずポーズが出現した例外の箇所がその一例である(左枝 分 か れ 境 界 の 例 外 ① 、1 件 該 当 )。プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 場 合 は 、注 目 し て ほ し い 語 の 前 に非常に長いポーズを挿入することで、聴取者を惹き付ける効果があると推測できる。 第 3 段 階 の 短 い ポ ー ズ の 出 現 位 置 に つ い て は 、ス ピ ー チ で は 右 枝 分 か れ 境 界 の 後(「 順 接 、逆 接 、取 立 、動 詞 修 飾 」)に ポ ー ズ が 出 現 し て い た 。一 方 、プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン で は 右 枝 分 か れ 境 で も ポ ー ズ が 出 現 し な い ケ ー ス が 多 く 見 ら れ た(「 取 立 、順 接 、時 間 、動 詞 修 飾 」の 後 )。右 枝 分 か れ 境 界 で 、か つ ポ ー ズ が 出 現 し や す い の は「 逆 接 」の み で あ っ た 。 これは、スピーチは音声のみで情報を伝える形式であるため、右枝分かれ境界でしっか りポーズを入れ、聴取者に理解しやすいように話すのに対し、プレゼンテーションは、 視 覚 情 報( パ ワ ー ポ イ ン ト や レ ジ ュ メ )も 使 い な が ら 情 報 を 伝 え る と い う 形 式 の 相 違 が 、 ポ ー ズ の 出 現 に 影 響 を 及 ぼ し て い る と 考 え る 。プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン で は 、 「 逆 接 」と い う 聴取者が今までの考えを新たにしなければならない箇所でポーズを入れ、聞き手の理解 を助けようとしているのだと考える。また、プレゼンテーションでは、文節の切れ目で はない位置にポーズが出現することもあるが、それが即座にマイナス評価には繋がらな いことも示唆された。 要するに、スピーチとプレゼンテーションでポーズの出現位置が異なるのは、それぞ れの発話の目的が異なるからだ。スピーチは、暗記したものを音声化し、内的構造を優 先して発話する行為であるが、プレゼンテーションは、発表の最中に聴取者(対話者) の様子を見ながら、ことばを補足したり省いたりすることが可能で、それが聞きやすさ に必要なことでもある。この違いが聞きやすいと評価されるポーズの相違に関係してい ると推論できる。なお、これは補足だが、スピーチのときよりもプレゼンテーションの ときの方が、 「 聞 き や す さ 」の 評 価 が 分 か れ た の は 興 味 深 い 。こ れ も 、プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ンは話しことばに近いため、母語話者の評価基準に幅があることを示唆しているのでは ないかと考える。 以上の結果と考察をふまえ、 「 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン に お け る ポ ー ズ の 規 範 」と し て 、以 下のようにまとめた。 第 1 段階:スピーチのポーズ規範と同様、述語的成分の後には中央値程度以上のポ 22 北海道言語文化研究 No. 13, 15-24, 2015. 北海道言語研究会 ーズが出現し、補足的成分の後には中央値程度以下のポーズが出現する(二項 検 定 、 p<.05)。 第 2 段 階 :「 話 題 転 換 」、「 フ ォ ー カ ス 語 」 の 前 で 非 常 に 長 い ポ ー ズ が 出 現 す る 。 第 3 段階:補足的成分は、基本的には右枝分かれ境界で中央値程度以下のポーズが 出現する。それは、意味的役割で言うと「逆接」にあたる。但し、①発話節が 短 い ( ポ ー ズ な し で 15∼ 20 拍 以 内 )、 ② 直 前 、 直 後 の 発 話 節 に ポ ー ズ が 出 現 し て い る 、と い う 条 件 下 で は 、右 枝 分 か れ 境 界 で あ っ て も ポ ー ズ が 出 現 し な い 16 。 そ し て 、基 本 的 に 左 枝 分 か れ 境 界 で は ポ ー ズ が 出 現 し な い こ と が 多 い 17 。但 し 、 「並列」の後は左枝分かれ境界であっても、ポーズが出現する。 表 8: 発 話 形 式 別 ポ ー ズ の 規 範 ( ポ ー ズ の 位 置 と 時 間 長 ) スピーチ 非常に長いポーズ 言い切り プレゼンテ ーション 話題転換、フォーカ ス語の前 4. 長いポーズ ( 左 記 以 外 の )動 詞 、形 容詞、ですの後 ( 左 記 以 外 の )動 詞 、形 容詞、ですの後 短いポーズ 順接、逆接、取立、 動詞修飾、並列の後 逆接、並列の後 まとめ 以 上 、ス ピ ー チ と プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン を 比 較 し 、ポ ー ズ の 出 現 位 置 、時 間 長 の 共 通 点 、 相違点を探った。その結果、両者とも、長いポーズが述語的成分の後に出現するという 点は一致するが、非常に長いポーズと短いポーズの出現位置は異なるという結果になっ た。この結果がモノローグ教育に少しでも寄与貢献できることを望む。 今後の課題として、各評価者が持つ「聞きやすいスピーチ、プレゼンテーションとは 何か」という判断基準に関する調査を行いたい。さらに、今回は発話形式の差異に注目 して研究を行ったが、話の内容や、誰を対象に話すのかなど様々な要因によって、ポー ズの規範が異なる可能性は大いに考えられる。規範のバリエーションを増やしていきた いと考える。 謝辞 * 本 稿 は 2014 年 8 月 2 日 、 専 修 大 学 に お い て 行 わ れ た 日 本 実 験 言 語 学 会 第 7 回 大 会 で の 口 頭 発 表 に 一 部 修 正 を 加 え た も の で あ る 。大 会 で 貴 重 な コ メ ン ト を く だ さ っ た 方 々 に は 、こ の 場 を 借 り て お 礼 を 申し上げたい。 参考文献 大 野 眞 男 ・ 三 輪 譲 二 (1996)「 朗 読 に お け る ポ ー ズ と 発 話 速 度 ― 「 相 対 ポ ー ズ 値 」 の 提 唱 ― 」『 岩 手 大 16 「 取 立 、順 接 、時 間 、動 詞 修 飾 」に つ い て は 、右 枝 分 か れ 境 界 で も ポ ー ズ は 出 現 し な い こ と が 多 い 。 但し、①フォーカス語の前、②引用の「と」の前、③並列(特に助詞が省略され文節が並列する と き )、 ④ 取 立 の 「 っ て 」 の 後 で は 、 左 枝 分 か れ 境 界 で あ っ て も ポ ー ズ が 出 現 し て い る 。 17 23 発話形式による音声的特徴の相違 ―構文構造とポーズの関係から― 高村めぐみ 学 教 育 学 部 附 属 教 育 実 践 研 究 指 導 セ ン タ ー 研 究 紀 要 』 6: 45-58. 神 吉 隆 子 (1995)「 上 級 日 本 語 学 習 者 の 口 頭 発 表 に お け る 問 題 点 と そ の 指 導 」『 流 通 經 濟 大 學 論 集 』 29(4): 73-96. 柴 田 武 (1995)『 日 本 語 を 考 え る 』 博 文 館 新 社 杉 藤 美 代 子 (1987)「 談 話 に お け る ポ ー ズ の 持 続 時 間 と そ の 機 能 」『 音 声 言 語 』 Ⅱ : 53-68. 高 村 め ぐ み (2013)「 日 本 語 の ス ピ ー チ に お け る ポ ー ズ の 規 範 試 案 」『 比 較 文 化 研 究 』 107: 63-73. 高 村 め ぐ み・野 原 ゆ か り (2010)「 学 習 者 が 生 成 す る フ ィ ラ ー と ポ ー ズ の 関 係 」 『 外 国 語 教 育 研 究 』13: 66-77. 村 松 賢 一 (1997)「 談 話 の 構 造 化 を め ざ す 話 こ と ば 指 導 ― パ ラ グ ラ フ 構 成 と メ タ 言 語 表 現 の 習 得 を 中 心 に し て ― 」『 言 語 文 化 と 日 本 語 教 育 』 13: 31-49. 執筆者紹介 氏名:高村めぐみ 所属:大東文化大学 国際交流センター Email: [email protected] 24
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