2006年10月28日 福井大学教育地域科学部 シンポジウム補足資料 埼玉大学教育学部 大友秀明 市民社会組織との協働によるシティズンシップ教育の実践 ‐桶川市立加納中学校3年選択社会「桶川のまちづくり」の実践‐ 1.協働・プロジェクトのねらい ○まちづくりとローカル・マニフェスト 私たちは、まちづくりを学ぶツールのひとつとして、ローカル・マニフェストを活用しようと考えました。 まちの目指すべき姿、現在の到達点を明らかにする。為政者にそれを託し、それを評価する。そしてまた、新 しい為政者へと受け渡す。このような一連のサイクルを学習することによって、子どもたちは、より具体的に 地方自治を学習し、理解を深めることでしょう。 これらを机上の学習に止まらず、実際にまちに出かけ、インタビューや調査をして、仲間どうしで議論を重 ねながらまとめる。まちのひとと意見交換をする。そして政策決定者に提言をする。このようなダイナミック な学びこそ、社会参加のスキルを育みます。 このような学習をとおして身に付けたスキルや考え方が、今度はマニフェスト・サイクルの循環をより良い ものにしていきます。 ○ マニフェスト・サイクルを有効に回すための「市民性」の育成 ・市民性・シティズンシップを育み、自治の担い手・まちづくりの主体としての意識を醸成し、市民の政策形 成力を高めるための教育・生涯学習プログラムを実施します。 ・とりわけ、子どもの政治教育を重視し、ローカル・マニフェストを活用することで、地域に根ざし実感をも って政治や政策を学べる機会、対話・ディベートを通じて合意形成を図ることを学べる機会を拡充します。 本プロジェクトの実現にむけて、シティズンシップ教育推進ネット(NPO)、埼玉大学教育学部(公民教 育)、桶川市加納中学校、埼玉ローカル・マニフェスト推進ネットワーク(政策研究・市民活動団体)をはじ めとする様々な団体が連携・協働し、「埼玉ローカル・マニフェスト/シティズンシップ教育研究会」を結成 しています。 各団体の持ち味をうまく組み合わせることによって、「シティズンシップ教育」、「公民教育」、「ローカ ル・マニフェスト」の3つの視点から、教材、指導計画等の検討を重ねています。 2.桶川市立加納中学校の授業実践 -1- ○授業のねらい ・ 情報収集(まち探検など) → 解決策立案 → 市長や市民への提案、といった一連の活動を通して、実感 を伴った市民性(シティズンシップ)を生徒に学び取ってもらうこと。 ・また、実践授業の経験をもとに、市民性(シティズンシップ)教育の教材を開発し、各地の教育委会などと 連携しながら、その普及を図る。 ・ 情報収集にあたって、資料調査にとどまらず、実際に現場の人の声を聞く、主体的に集めることを重視し ている。 ・ 解決策の立案にあたり、マニフェスト の考え方を取り入れ、「聞く人に とって」「具体的で」「わかり やすい」 まちづくりの提案を目指しています。 ・ 授業は現在、解決策立案の段階に入り、10月中の政策提言を目指しています。 (http://www.citizenship.jp/ws/localmanifest/) ○平成 18 年 選択社会 3 年「桶川のまちづくり」の授業展開過程 ・授業者:桶川市立加納中学校 宮澤 好春 教諭 ・授業日:金曜日第 3 校時(30 名) 第 4 校時(34 名) 学習テーマ(日付) 1.ガイダンス(4/21) 学習活動と内容 ○これからの学習の流れを確認する ○これからの学習の主体となるグループ分け をする 2.桶川ってどんなまち (4/28) ○桶川のいいところと課題をグループごとに 話し合う ○資料を基に桶川のまちづくりの取組みを知 る 教材・資料・留意点 ・資料「シティズンシップ 教育」と「その実践例」 ・一グループ 4∼6 名 ・ワークシート ・資料①「中心市街地活性 化基本計画」②「マスター プラン」 3.桶川のまちづくり (5/12) ○桶川市のまちづくりの取組みや商店街の取 組みの様子を調べる ・資料②「マスタープラン」 ③「広報誌」④「議会だよ り」⑤市のHP 4.まち探検の計画 (5/15) ○地図を基にまち探検の際の見るポイントや インタビューの内容を話し合う ・ワークシート ・地図 ・商店街の店舗数、業種、 客足、空き店舗数、空き地 や駐車場、町屋風の建物な どに着目 -2- 5.まち探検(5/24) ○中山道商店街や桶川駅東口駅前商店街をグ ループごとにまち探検する ○桶川の「お宝くん」と「困ったくん」を探す ○気になった場所をカメラで撮影し、また、イ ンタビューを行ない、その様子を付箋紙に記入 する ・自転車で移動 ・探検範囲:下木戸跡から 上木戸跡までの商店街、駅 東口駅前商店街 ・デジタルカメラ ・地図、付箋紙 ・聞き取りシート 《埼玉大学の学生が参加し、生徒にアドバイ スをしながら探検・インタビューを実施した》 6.まち探検のまとめ (5/26)(6/2)(6/9) ○まち探検で得た情報、写真、インタビュー内 容を模造紙にまとめる ○他の班が得た情報内容を比較し、共有化を図 る ○桶川の「お宝くん」と「困ったくん」を分類 し、優先課題を見つける ・付箋紙、模造紙 7.桶川市職員の講演 (6/16) ○桶川市都市計画課の職員から「桶川市のまち づくり」についての講演を聞く ・桶川市の予算 ・首都圏中央連絡道路の建設計画 ・駅前商店街・中央市街地活性化案 ・小学校の跡地利用計画 ○質疑応答 ・聞き取りシート ・各自のまちづくり案を考 えることを宿題にする 8.マニフェストについ てのワークショップ (6/30) ○マニフェスト・ゲームを行なう ○マニフェスト型のまちづくり提案 ・「聞く人にとって」「具体的で」「わかりやす い」提案の作成 ・講義記録用紙 ・感想用紙 ・色紙 《市民社会組織のメンバーによるワークショ ップ》 9.まちづくり案を考え よう(7/7) ○まち探検のまとめを基に自分たちの考える まちづくり案を作成する ○まちづくりのテーマ、骨子、具体案を考える ・市の施策をおさえた上で より具体的な提案になる ように助言する 10.各班のまちづくり 案の発表(9/15) ○各班のまちづくり案を発表し合う 《交流の場》 ○各班の発表を評価用紙の項目に基づいて相 互評価を行なう ・東口の再開発、駅前道路の拡幅、小学校跡地 の利用などのハード面の改善 ・品揃え、若者向けの店舗、空き店舗の活用な どソフト面の改善 ○商工会・商店街関係者に案を発表する ○これからの商店街の活性化に向けて話し合 う 《意見交換の場》 ・各班のまちづくり提案資 料 ・相互評価用紙 11.まちづくり案の発 表報告会(9/22) -3- ・桶川市商工会、駅前通商 店会、中山道商店会、たち ばな商店会の方々(7 名) ・評価用紙 12.マニフェスト型提 案のつくり方(提案資 料の修正)(9/29) ○今までの考えを整理し、提案の具体化を図る ○マニフェスト方提案のつくり方を学ぶ ○提案とりまとめワークシートの構成 ・現状の課題 ・市や商店街の取組みの現状 ・まちづくりの目標を決めよう ・まちづくりの提案を考えよう ・具体策を考えよう ・今後の課題 ・「桶川の東口・商店街の 活性化を目指して」提案と りまとめシート ・5W1Hから提案の具体 化を図る 《市民社会組織のメンバーによるワークショ ップ》 《埼玉大学の学生が各班に入り、意見のとり まとめを行なう》 13.マニフェスト型の まちづくり提案資料の 作成(10/13) ○商工会関係者等からの意見やマニフェスト の作成方法を参考に、マニフェスト型の提案に なるように練り直しをする ○提案作成に必要な予算面、市の政策、商店街 の取組み、利用者の意識などを調査、資料集を 行う ・マニフェスト型提案フォ ーム 14.プレゼン資料の作 成と修正(10/20) ○プレゼン本番に向けての資料の修正を行な う ○プレゼン本番の役割分担を確認する ・マニフェスト型の提案資 料 ・商工関係者、市職員 ○商工会関係者や市職員等に提案を聞いてい 15.まちづくり案のプ ・評価用紙 ただき、講評を受ける レゼンテーション (10/27) ※発表したプレゼン資料を桶川市商工会・観光協会等に掲示し、市民からの感想を寄せてもらう。 ○授業の展開過程の分析 第1次:市政の現状と課題〈3時間〉 第2次:まち探検とまとめ〈5 時間〉 第3次:まちづくり案の作成〈3時間〉 第4次:まちづくり案の発表と意見交換・交流〈2時間〉 第5次:マニフェスト型の提案資料作成とプレゼンテーション〈4時間〉 ○授業の特色 ①身近な地域の公共問題への取組み:商店街の活性化・まちづくり・駅東口開発問題 ②多様な人々・他者とのかかわり:まち探検=商店主へのインタビュー、大学生のアドバイス/市の計画=市 職員のお話/マニフェスト型の提案資料の作成=ローカル・マニフェスト型政策推進研究会会員によるワーク ショップ、大学生の支援/意見交換やプレゼンテーション=仲間、市職員、商工会役員との意見交換・交流 ③提案資料のマニフェスト化:数値目標、期限、財源/ねらいと効果/行政・商店街・子どもそれぞれの立場/ ハード面とソフト面/自分たちにできること 【発表全般に関係する参考文献】 ・拙稿「子どもの社会意識の変化と社会科の課題」 (日社学出版プロジェクト編『新時代を拓く社会科の挑戦』第一学習社、2006 年)/本田由紀『多元化する「能力」と日本社会‐ハイパー・メリトクラシー化のなかで』 (NTT出版、2005 年)/土井隆義『「個 性」を煽られる子どもたち』 (岩波書店、2004 年)/山脇直司『社会福祉思想の革新‐福祉国家・セン・公共哲学』 (かわさき市 民アカデミー出版部、2005 年)/山脇直司『経済の倫理学』(丸善、2002 年) -4-
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