4つの視点の活用と

〈高崎特別研修 領域 B〉
思考力・判断力・表現力の育成を図る指導法の研究
∼言語活動の充実に着目して∼
共通研究主題「自分の思いや考えをもち 伝え合い
深める国語科の指導の工夫」
研究員
中澤 麻紀子
林
髙槗
靖子
賀奈子
主題設定の理由
学習指導要領の総則や PISA 調査、全国学力・学習状況調査報告書などから、児童の思考力・判断力・
表現力をはぐくむために、言語活動を充実させることが求められている。言語活動とは、各教科など
の目標を達成させたり、内容を充実させたりするための手段であり、言語活動の充実を図ることは、
自らの力で課題を解決する能力の育成につながるものである。高崎特別研修 B 領域では、過去2年間
に渡り、本主題を共通課題として継続して研究を行っている。
これまでの研究で明らかになったことは、以下の通りである。
・魅力ある課題、子どもたちが追及したくなる課題を設定すること
・伝え合いや、学び合いの場面を入れた単元を構想すること
・基礎基本や、既習事項を、確実に指導する時間を設定すること
・児童生徒の学び合いの積み重ねを教室に掲示するなどして、学びの見える環境づくりを行うこと
我々は、以上の成果を基に、さらなる言語活動の充実を目ざす。今年度は、国語科を中心にして研
究を行うため、共通研究主題を「自分の思いや考えをもち 伝え合い 深める国語科の指導の工夫」
とする。研究を進めるにあたり、それぞれが担任している児童から、思考力・判断力・表現力に関す
る児童の実態を明らかにした上で、次の3点を共通の課題とした。
○自分の考えをもたせる手だてをとる。
○相手に分かりやすく話したり、自分の考えと比べながら聞いたりする指導の工夫を行う。
○話したり聞いたりしたことを基に、考えを深められる指導法を打ち出す。
「自分の思いや考えをもつ」とは、文章に書かれた内容を理解し、叙述を基に自分の考えをもつこ
とである。
「伝え合う」とは、相手に分かりやすく話したり、自分の考えと比べながら聞いたりするこ
とである。
「考えを深める」とは、伝え合いによって、新たに知ったり気づいたりしたことを自分の言
葉でまとめることができることである。
上記の共通研究主題のもと、小学校5年生で「モニタータイムを取り入れた伝え合い活動の工夫」
「意欲的に学ぶための課題設定と話し合い活動の形態の工夫」小学校2年生では「文学的な文章の学
習における4つの視点の活用と表現したくなる言語活動」をそれぞれのテーマとして指導法の研究を
行った。以上のような実践を通して、自分の思いや考えをもち、生き生きと伝え合い、深めることで、
思考力・判断力・表現力を育成できると考える。
<高崎特別研修
自分の思いや考えをもち
伝え合い
領域 B
国語>
深める国語科の指導の工夫
∼文学的な文章の学習に、4つの視点の活用と、自分の思いや考えを表現したくなる言語活
動を取り入れて∼
研究員
髙槗賀奈子
本研究は、国語科『読むこと』の文学的な文章において、「4つの視点」を活用して児童同士の
思いや考えの「交流」を図り、「表現したくなる言語活動」を取り入れることにより、読みを深め
ることと、自分の思いや考えを伝えたくなることをねらいとしている。これらの活動を通して、自
分の思いや考えを生き生きと伝えあう児童を育成することを目指す。
【キーワード:4つの視点、交流、表現したくなる言語活動】
Ⅰ
主題設定の理由
目の前の児童(2年生)は、明るく元気で、意欲的に学習に取り組もうとする児童が多く、発言
に意欲的な児童も多い。しかし、自信をもって発言できる児童となると、限られてくる。また、自分
の考えや意見はもっていても、全体の前で発表となると、一言も言えずぽろぽろ泣いてしまう児童も
いる。友だちの発言を集中して聞ける児童は少なく、最後まで内容をよく理解して聞く力がまだ不十
分といえる。これが自分のクラスの現状である。そこで、全員が思いや考えを最後まで話し、自分の
思いや考えを友達の思いや考えと比較して聞き、深められる児童を育てることを目指したい。
児童の実態について分析すると、主に2つある。1つめは、相手の思いや考えを聞くことへの意欲
が十分高まっていないことである。児童が自分の思いや考えを言いたくなる、聞きたくなる学習活動
を設定しなければ、生き生きと伝え合わないだろう。2つめは、全体の前で発表することに抵抗感が
あることである。5月上旬に行ったアンケートから、算数のような決まった答えを発表することに対
する抵抗感は少ないが、自分の思いや考えを発表するとなると、恥ずかしい、こんなことを言ったら
笑われるのではないかという不安感から、発表をためらう気持ちが見てとれた。
そこで本研究では、2つの手だてを講じていく。1つめの手だては、文学的な文章の学習の、登場
人物の気持ちの変化を読みとる交流の場面で、自分の考えと比較するための「4つの視点」をもたせ
ることである。「4つの視点」は、「自分と同じ」「ちがう」「なるほど」「聞きたいな」で、聞き方が
定まり、相手の思いや考えを聞きたくなると考えた。加えて、相手に分かるように伝えたいという話
す意欲も高められると考えた。さらに、全体での発表が苦手な児童でも取り組めるよう、ペアで交流
し、お互いのワークシートに、4つの視点のシールを貼るという手だてをとることにした。
2つ目の手だては、単元の第3次に、学習したことから考えを発展させ、児童が自分の思いや考え
を言いたくなる、書きたくなる言語活動を取り入れることである。この2つの手だてに加え、安心し
て表現できる環境づくりのために、ペア、グループ、全体と学習形態を変える。このような学習を行
うことで、自分の思いや考えを伝え合い、考えを深めることができるのではないかと考えた。
Ⅱ
研究のねらい
文学的な文章の指導で、「4つの視点」を活用して考えの交流を図り、「表現したくなる言語活動」
を取り入れて読みを深めることは、自分の思いや考えを生き生きと伝え合い、考えを深める力を育て
ることに有効であることを実践を通して明らかにする。
Ⅲ
研究の仮説
1
「4つの視点」を活用し、児童同士の思いや考えを伝え合うことにより、自分の思いや考えを
広げ、深めていくことができるであろう。
2
自分の思いや考えを「表現したくなる言語活動」を取り入れることにより、表現への意欲が高
まり、自分の思いや考えを深めることができるであろう。
Ⅳ
研究の計画
研
月
究
の
国語科(教材名)
内
言語活動の工夫
容
その他(交流・話し合い)
4
児童の実態調査
研究の計画作成
5
研究主題の検討
学級活動「学級目標を作ろう」
6
話すレベル・聞くレベルの掲示
(話合い)
7
授業実践①『いなばのしろうさぎ』
生活「町探検のまとめ」(交
流)
9
授業実践②
『きつねのおきゃくさま』
11 授業実践③
『変身ボック スを作ろ 国語・生活「グループのマー
う』
クを作ろう」(話合い)
『ペープサー ト劇をし 学級活動「お楽しみ会の計画
『わにのおじいさんのたからもの』 よう』
を立てよう」
12 研究のまとめ
Ⅴ
1
研究の内容
研究に関する基本的な考え方
(1)「自分の思いや考えを生き生きと伝え合う」児童について
①
校内研修と本研究との関連
本校の校内研修のテーマは「自分の思いや考えを伝え合うことができる児童の育成∼話す・聞く活
動の充実を目指した指導法の工夫∼」である。目指す児童像として、低学年では「自分の思いや考え
を最後まで話すことができる児童」「友達の思いや考えを自分の思いや考えと比べながら聞くことが
できる児童」を目指している。「最後まで話す」とは、途中で話をやめたり語尾を濁したりすること
なく、最後の「です」「ます」まで言うこと、主語・述語をはっきりさせて言うことである。「比べ
ながら聞く」とは、相手の思いや考えが自分のものと同じか、違っているか、自分には考えつかなか
った良い考えか、相手に質問したいところは何かなどを考えながら聞くことである。
②
具体化した評価規準
目指す児童像に対して、具体的な評価規準が必要なため、4月の話す・聞く実態を0のレベルとし
て、聞くレベル、話すレベルを作成し掲示した。(図1)段階を踏んで目指す児童像に迫ることがで
きるよう、授業では、毎時間このレベルを意識させ、今どのレベルにいるのか自己評価する。
話すレベル
聞くレベル
5 さいごまで、はっきり言う
くらべながら聞く
4
ライオンの声で言う
さいごまで、聞く
3
「∼です。」と言う
話す人を見る
2
「はい」とへんじをする
だまって、聞く
1
だまって、手をあげる
手は、ひざにおく
図1
(2)
①
話すレベル
聞くレベル
4つの視点の活用について
4つの視点とは
4つの視点とは、「同じ」「ちがう」「なるほど」「聞きたいな」の4つの視点である。「同じ」は自
分の考えと同じ・もしくは似ている、「ちがう」は自分の考えと異なっている、「なるほど」は自分
にはない考えが相手の考えにあり、納得もしくは共感・感心する、「聞きたいな」は相手に質問して
みたいの4つである。
②
4つの視点を活用する利点
4つの視点の活用は、話すこと聞くことに対して次の6つの利点がある。(表1)図1のレベルと
の関連も示す。
4つの視点の活用の利点
ア
期待されるレベル
自分の思いや考えを理解するように伝えなければ、相手からシールをもらえないため、相 話す
レベル5
手に分かるように伝えるという意欲が高まること。
イ
相手の思いや考えを最後まで聞いて、自分の判断に合ったシールを貼るため、相手が思い 聞く
レベル4
や考えを十分に聞こうとする意欲が高まること。
ウ
相手と自分の思いや考えの相違は、よく聞いて判断するため、比べて聞こうとする態度が 聞く
レベル5
身に付くこと。
エ
複数の友だちの考えを聞くことにより、自分にはない考えを知って、考えを直して、深い 聞く
レベル5
考えに発展する可能性が期待できること。
オ
「聞きたいな」の視点により、相手の思いや考えに対して、質問しようとする気持ちを喚 聞く
レベル5
起できること。
カ
貼られたシールから、教師が伝え合いの様子を見取り児童に声かけや支援ができること。
表1
③
4つの視点の活用の利点
実際の指導の流れ
授業では、指導の流れを一定にして、児童がスムーズに学習できるように指導する。下の表は、実
際の授業の流れである。(表2)
①学習課題について、ワークシートに自分の考えを書く。
②どの視点で友達の考えを聞いたらよいか、黒板で説明する。
②
シールを貼るときには、「いい考えだね」「私も同じ考えだよ」
など、一言言ってから貼るように指示する。
③1回目の交流を行う。
④交流終了後、「聞きたいな」シールが貼られていた児童に、友
達の質問を聞き、全体で質問の仕方を指導する。特に「∼につ ③
いてどう思いますか。」と質問をした児童を褒めて良い例を示
す。
⑤2回目の交流の前に、「前より上手に伝えましょう」と、声か
けをして、伝える意欲を高める。
⑥4回の交流後、全体での伝え合いを行い、様々な考えにふれる
ことができるよう、挙手した児童及び意図的に指名する。また、 ⑥
比べて話すことができるよう、発言者に「○○くんと違い」「○
○さんと同じで」等、つなげて発言するように指導する。
⑦全体での伝え合いで発表した児童の考えを板書する。
⑧板書したことを基に、ワークシートに自分の考えを書く。
表2
④
⑧
4つの視点を使った授業の流れ
4つの視点シールを貼る
交流後の考えを書く
図2
(3)
① 自分の考えを書く
ワークシートの活用
表現したくなる言語活動について
表現したくなる言語活動とは、意欲的に取り組み、自分の思いや考えを友達に伝えたくなる言語活
動のことである。自分が考えたことを相手に伝えたくてたまらないという気持ちで、楽しく取り組め
る言語活動にしたい。しかし、ただ楽しいだけでなく、言語の能力を確実に身に付けることもねらわ
なければならない。ねらいを確実に実現するためには、言語活動を開発することが必要である。文部
科学省水戸部教科調査官は、国語科における言語活動の充実のポイントとして、「当該単元でどのよ
うな力を付けたいのかを見極めること」「付けたい力にぴったりの言語活動の選定」をあげている。
第1・2学年の文学的な文章の解釈に関する指導事項は、「場面の様子について、登場人物の行動を
中心に想像を広げながら読むこと」である。具体的な読む能力として、登場人物の行動から場面の様
子を想像して読むこと、登場人物の独白や会話から場面の様子を想像して読むことなどが考えられる。
これらの能力の育成のため、『きつねのおきゃくさま』『わにのおじいさんのたからもの』の単元の
最後に、以下の二つの表現したくなる言語活動を設定した。
①
変身ボックス
場面ごと、きつねの気持ちを文章と絵で表す「変身ボックス」を作成する。
「変身ボックス」とは、
国立教育政策研究所指定校の熊本県宇城市立松橋小学校が開発した事例である。物語を紹介するため、
登場人物の気持ちが変化する前、きっかけの出来事、気持ちが変化した後を文章と絵で表す。この事
例を参考にした「変身ボックス」を作成することにより、登場人物の気持ちを考えてセリフや独白を
付け加えるといった活動を通して、児童自ら「登場人物の独白や会話から、場面の様子を想像して」
読む学習を位置付けることができる。つまり、叙述をもとにきつねの気持ちを想像し、独白に付け加
えることで、想像を広げながら読み、考えを深めることができる。また、作品を見てもらう相手を意
識して作成することにより、分かりやすく書いたり、伝えたいという表現の意欲が高まる。
②
ペープサート劇
物語の続きを考えてペープサートで演じる。ペープサート劇を取り入れることにより、人物の行動
に気を付けて読む、登場人物の会話等に気を付けてセリフや動きを考えるといった活動を通して、児
童自ら「場面の様子について、登場人物の行動を中心にして」叙述をくり返し読む学習を位置付ける
ことができる。また、ペープサート劇をすることにより、相手に伝わるように話したり、相手の台詞
に耳を傾けて聞こうとする意欲が高まると考える。
以上、二つの言語活動は、児童が喜んで取り組む活動であり、その前段階としての学習課題と関連
しているので、児童の学習意欲を高めることもできるだろう。
(4)検証計画
研究の仮説
1
検証の観点
検証方法
文学的な文章の学習において、「4つの視 「4つの視点」を活用し、児童同士の考えの ・ 学 習活 動 の
点」を活用して、児童同士の考えの交流を図 交流を図ることは、自分の思いや考えを言い 観察
ることにより、自分の思いや考えを伝え合い、 たい、聞きたいという気持ちを高め、自分の ・ ワ ーク シ ー
深めることができるであろう。
2
思いや考えを見つめ直すことができたか。
トの記述
「表現したくなる言語活動」を取り入れ 「表現したくなる言語活動」を取り入れるこ ・ 変 身ボ ッ ク
ることにより、表現への意欲が高まり、自分 とは、それ以前の学習と比べて表現の質が高 スの考察
の思いや考えを深めることができるであろう。 まったり、量が増えたか。
・ ペ ープ サ ー
ト劇の考察
2
具体的な実践
(1)
①
授業実践①「いなばのしろうさぎ」(全7時間)
単元目標
古くから伝わっている話に興味をもち、楽しく読み合う。
<研究とのかかわり>
この実践では、「しろうさぎは、どんな人物だと思いますか。」を中心課題とし、それに対する考
えを「4つの視点」を活用してペアで交流した後、交流したことをもとに再考する活動で考えを深め
た。「いなばのしろうさぎ」は、だましてやろうとした主人公が逆にだまされてしまうという物語で
あり、主人公しろうさぎの性格を的確に捉えることが内容を把握する上で重要である。そこで、「4
つの視点」で、主人公の性格について考えを交流する。
②
児童の様子
・シールを貼るという活動が新鮮で楽しく、児童は喜んで取り組んでいた。
・相手に伝わるよう言い直したり、相手の言ったことを聞き返したりといった様子が教室のあちこ
ちで見られた。
・相手の言うことを集中して聞こうとする態度が見られた。
③
実践授業①について考察
児童にとって参加しやすい活動であり、シールという手段を用いたことにより、分かるように伝え
たい、相手の言うことを聞きたいという話す・聞く意欲の高まりが見られた。しかし、話す・聞く意
欲は高まっていたが、読みの深まりがあったとは言えない。その原因として、グループでの交流のみ
でとどまり、他のグループの意見を聞けないという課題が考えられる。
そこで、次の授業では、全体での交流を授業に入れることにした。
(2)
①
授業実践②「きつねのおきゃくさま」(全 16 時間)
単元目標
場面の様子や人物の行動をもとに、きつねの気持ちの動きを読む。
<研究とのかかわり>
この実践では、
「なぜ、きつねは、はずかしそうにわらったのでしょうか。」を中心課題とした。
「4
つの視点」を活用して自分の考えをペアで伝え合い、全体で伝え合い、再考して考えを深めていく。
きつねが恥ずかしそうに笑った2つの理由(1.ひよこたちを守れてよかった。2.自分も最初は食
べるつもりだったので、自分自身が恥ずかしい。)をとらえるのはかなり難しい。様々な考えが出て
きて、意見を交換するには良い課題と考えた。様々な考えにふれることができるよう、今回は、全体
の場で、学級で出た様々な考えを確認し、再度自分の考えを見つめ直す。
言語活動では、場面ごとにきつねの気持ちを文章と絵で表す変身ボックスを作成する。
②
ア
児童の様子
仮説1について
きつねの気持ちの理解
前時に記入した児童の考え、交流後の児童の考えは、以下の通りに変化した。太枠内の回答が、児
童にとらえさせたい考えである。(表3)
課題「なぜ、きつねははずかしそうにわらったのでしょうか」
児童の考え【複数回答】
ひよこたちを守れてよかったと思ったから。
交流前
交流後
4名
12名
最初は自分もひよこたちを食べるつもりだったから、そのことが恥ずかしかったから。
2名
0名
10名
6名
自分が死ぬと、ひよことあひるとうさぎに、笑顔が見せられないから。
1名
0名
ひよこたちから「かみさまみたい」「親切」と言われたから。
6名
2名
たたかいで、こわそうに見えたから。
1名
1名
最後には自分がやさしい人になったから。
1名
0名
みんなにわらわれたから。
0名
1名
自分の考えもいいけれど、友達の考えもいいから、くっつけて書きたいから。
0名
1名
おおかみに負けて、自分が死にそうで恥ずかしかったから。
表3
交流前と後で、考えが変化した人数
「負けて死ぬことが恥ずかしいから笑った」と考えていた児童が 10 名から6名に減り、「ひよこた
ちを守ることができてよかったから笑った」と、とらえることができた児童が4名から 12 名に増え
た。始めは、「おおかみをたおした」と読み取っていた児童が、友達から「自分とちがう」シールを
もらい、「おおかみは強かった」と変更した児童もいた。また、交流後に、「自分の考えもいいけど、
友達の考えもいいから、今度はくっつけて文を書きたいなと思いました」と書いた児童もいた。以上
のように考えが変化したのは、友だちの考えを聞き、再度考え直したためと考えられる。
イ
仮説2について
「言語活動
変身ボックスを作ろう」
場面ごとに、きつねの気持ちをノートに書かせ、第3次の変身ボックスの作成に生かしたところ、
変身ボックス作成の際には、それまでの授業で気持ちを想像したときよりも、文量が倍以上増えた。
「絶対食べさせないぞ」といった「他者を守りたい」という強い気持ちを付け加えるなど、より深く
考えるようになった。
ノートの記述
変身ボックスの記述
A 児 「負けないぞ」
「ひよことあひるとうさぎを守るんだ。ぜったい負けないぞ」
B 児 「うさぎとひよことあひるはもう食べ 「おれのだいじなうさぎとひよことあひるに何するんだ。ゆるせな
ないで、おおかみからにがしたい」
C 児 「まもるために、たたかうぞ」
いぞ。ぜったい食べさせないぞ」
「おれは、うさぎとあひるとひよこを守るためにたたかった。それ
でたたかったけど、まけた。でも、ひよことうさぎとあひるをまも
れてよかった」
表4
ノートの記述と変身ボックスの記述
A 児は、課題に取り組むのが速い。B 児は、普段から深く考えることができ、まじめに学習に取り
組む。C 児は文章を書くことが普段とても苦手な児童である。変身ボックス作成時には、3人とも意
欲的で、特に C 児は書く量が普段の倍以上で、物語を読むのが楽しかったと感想に書くほど、喜ん
で取り組んでいた。図3は D 児の作成した変身ボックスである。
図3 D 児が作成した
こんどは、し
んせつだって
よ~もお、ひ
よこったら、
はずかしいこ
~。
というなあ
変身ボックス
やさしいって、
言われちまった
な~。もう、は
ずかしいな~。
はずかしいし、
やさしくて食べ
られねえなー。
③
考察
実践授業②について
4つの視点を使った交流にも慣れ、自分の考えと比べながら友達の考えを聞くことができていた。
全体での交流では、前の児童の発言とつなげて考えを言うことができた。言語活動に楽しく取り組み、
表現への意欲が高まり、自分の思いや考えを深めることができた。変身ボックスを作成することによ
り、きつねの気持ちを継続的にしかも段階を追って考えられた。言語活動に取り組むにあたり、「物
語を知らない1年生が物語を読みたくなるような変身ボックスを作ろう」と投げかけたことにより、
1年生が読めるよう漢字にふりがなを自発的にふる児童もいた。
課題としては、読みへの思い込みがあり、叙述に即した理解が不十分であった。また、押さえさせ
たい読みを、交流前にもっていた児童が2人しかおらず、全体に広がらなかった。そこで、教師の読
みを深めるための支援として、全体での交流にゆさぶり発問をするなどの、4つの視点では児童が気
付かないところを指導すべきであった。
そこで、次の実践では、全体交流後に教師がゆさぶりをかける発問をすることで、叙述に即して読
みを深められるようにした。
(3)
①
授業実践③「わにのおじいさんのたからもの」(全 12 時間)
単元目標
場面の様子や人物の行動について想像を広げながら読む。
<研究とのかかわり>この実践では、「なぜ、わにのおじいさんはおにの子にたからものをあげよう
と決めたのか」を中心課題とした。「4つの視点」を活用して自分の考えをペアで伝え合い、全体で
伝え合い、再考して考えを深めていく。この実践では以下の2点を重視した。
○予想される児童の考えは5つぐらいに分かれるので、「4つの視点」の活用により、自分の考え
を友だちの考えと比べやすくなり、活発な交流が見られると考えた。
○丁寧に内容を押さえて読まないと、課題をとらえることが難しいので、4つの視点を活用して、
お互いの考えを伝えて、一人ではとらえにくい児童にもとらえることができるようにした。
言語活動は、話の続きを考え、ペアで「ペープサート劇」で演じる活動に取り組む。
②
ア
児童の変容
仮説1について
わにのおじいさんの気持ちの理解
「4つの視点」を活用し、ペアで伝え合う活動を行った。「なぜ、わにのおじいさんは、おにの子
にたからものをあげようときめたのでしょうか。」を中心課題とし、それに対して、前時に記入した
交流前の児童の考え、交流後の児童の考えは、以下の通りに変化した。太枠内の回答が、児童にとら
えさせたい考えである。(表5)
課題「なぜ、わにのおじいさんは、おにの子にたからものをあげようときめたのでしょうか。」
児童の考え【複数回答あり】
交流前
交流後
ほおの木のはっぱをひろってかけてくれたおれい(おにの子のやさしさ)
6名
11 名
おにの子がたからものを知らないから
5名
4名
ころされてしまうから
5名
2名
たからものをとられてしまうから
6名
6名
あのよへ行けるから
3名
0名
目の前におにの子がいたから
0名
1名
表5
交流の前と後で、考えが変化した人数
「4つの視点」を活用して交流したことにより、おにの子のやさしさやおにの子がたからものを知
らないことをとらえることができた児童の数が9名(複数回答あり)から 15 名に増えた。具体的に
児童の考えがどう変化したかは以下の通りである。シールの欄は、ワークシートにどんなシールが貼
られたか、また貼った人数を示している(表6)。
はじめの考え
伝え合いのあとの考え
貼ったシール
考察
おにの子は、ほおの木のはっぱを ちがう 1 人
あのよ=以前住んで
E かまたちがたからものがほしくて
わにのおじいさんの体のまわりに なるほど3人
いた場所、これから
児 ころされてまうから、わたした。
つみあげてくれたから、おれいに
行きたい場所ととら
大事なたからものをあげた。
えていた児童が、交
自分があのよへまた行ったら、な
理由
教科書の、わにのおじいさ
んの会話
流後は、あのよ=死
「きみはたからものというものを
たからものをあげるのは、親切に ちがう1人
後の世界と正しくと
知らいのかい」と言って、たから
してくれたから。たからものをあ なるほど3人
らえていた。わにの
F ものってどんなものだか知りたい
げた理由は、ほおの木の大きなは
おじいさんの事情だ
児 んじゃないかと思ってたからもの
っぱをかけてあげたから。あと(お
けを考えていた児童
をあげた。おにの子がほおの木の
にの子が)かけてあげたら、(わに
が、友達からちがう
はっぱをかけてくれたから、おれ
のおじいさんは)「ああ、いい気持
シールを貼られた
いにたからものをあげた。
ちだ。」と言って助かったから、あ
り、友達の意見を聞
げたんじゃないかなと思います。
いたりすることで、
たからものを知らないから。理由 ちがう2人
おにの子のやさしさ
○○くんのがいいと思ったから。
について考えること
わにのおじいさんのたからものを
G おにの子にあげれば、心おきなく
児 あのよへ行けるからあげるときめ
ができた。
た。
表6
なるほど2人
交流の前と後の児童の考え
伝え合いのあと、わにのおじいさんがおにの子にたからものをあげた理由をとらえ直した児童は、23
名中 15 名であった。(交流前は 23 名中9名)
イ
仮説2について
「言語活動」ペープサート劇
物語は、おにの子がきれいな夕日をたからものと思う場面で
あのう、たからもの
は、夕やけでよかっ
たのですよね。
終わっている。そこで、たからものをさがしに行ったおにの子
が、再びわにのおじいさんと出会うときの会話を一人一人考え、
ペアでどちらが作った会話が良いかを相談して選び、ペアでペ
って、はこにはいって
ープサートで演じた(図4)。
いたんだよ。
図4
ウ
ちがうよ、たからもの
ペープサート劇
抽出児から考察
H 児は、普段はおとなしく真面目で、国語に対して自分の考えをもって学習できる児童である。
課題について、交流前と交流後の H 児の考えは、以下の通りであった。
はじめの考え
H
伝え合いのあとの考え
わにのおじいさんは、たからものがおにの子じゃ もうおじいさんだから、しんじゃって、たからものをぬす
ない人にとられちゃうから。あと、これで、心お まれてしまう。おにの子にたからものをあげれば、たから
児 きなくあのよへ行けるって書いてあるから、すん ものをぬすもうとするやつに取られないからです。
でた場所にかえりたいんだと思います。
「4つの視点」を活用した交流前は、あのよ=以前すんでた場所ととらえていたが、交流後は、あ
のよ=死後の世界と正しくとらえていた。物語の続きでは、「もうすぐわしはあのよへ行く。あのよ
へ行く前にたからものをもらってほしいんだ」と、4つの視点を活用した交流を生かした話を作って
いた。また、D 児はお話の続きを次のように作った。(図5)
もうすぐわしはあのよへいく。あ
のよへいくまえに、たからものを
もらってほしいんだ。また、わし
をころしてたからものをぬすもう
とするやつに、ぬすまれてしまう
から、たからものをいますぐ、き
みがもっててくれないか。
図5
H児が作成した物語の続き
H 児は、「4つの視点」を活用して交流した後の考えで「おにの子にたからものをあげれば、たか
らものをぬすもうとするやつに取られないからです」と書いている。それを生かして、物語の続きで
は、「わしをころしてたからものをぬすもうとするやつに、ぬすまれてしまうから、たからものを今
すぐ、きみがもっててくれないか」と、わにのおじいさんが、おにの子に頼む場面を書いている。
「4
つの視点」を活用した交流が、単元の終わりの言語活動につながっていることが見て取れる。
エ
ペープサート劇にみられる児童の考え方の傾向
ペープサート劇を演じたときには、ペアの作品を読み合い、どちらの物語の続きが良いか相談し、
良い方を基に劇を行った。以下4点は、選ばれた物語に見られる傾向である。
・二人が思っていた宝物が違うことに気付き、もう一度おにの子が探しに行くという話。
・わにのおじいさんが「行っておいで」とおにの子に促すところで終わる話が多く、これからまた
どんな旅が始まるのか期待させる話。
・二人が考えていた宝物の違いに気付き、それはそれでよいねと笑い合う話
・宝物は人によって違うんだねと互いを認め合う話
このように、あたたかい心の交流という主題を感じとれる話になった。
ペアごとに発表したが、すべてのペアが楽しく発表できた。見ている児童たちもどんな話になる
か、関心をもってみていた。低学年の児童にとって、絵を使ってのペープサートは、演じやすく、
見ている人に伝えたいという気持ちを起こすことができた。
③
実践授業③について考察
ペアで「4つの視点」を活用でき、活発な意見交流がなされていた。相手の考えを受け、「どうし
て∼と考えたのですか」と質問する児童が多くなり、話す・聞く活動への意欲の高まりを感じた。ま
た、おにの子が、わにのおじいさんに親切にしてあげた部分の叙述をもとに、理由をあげる児童が増
えたり、わにのおじいさんの抱えている事情だけに着目していた児童が、おにの子の優しさにも着目
するようになったことから、児童の考えの深まりが見て取れた。「4つの視点」を活用した交流で考
えたことを、言語活動でさらに生かしていた児童もいて、二つの学習のつながり、深まりを感じるこ
とができた。
Ⅵ
1
研究のまとめと今後の課題
研究のまとめ
(1)研究仮説1(「4つの視点」の有効性について)
「4つの視点」の有効性として、次のことが挙げられる。
○話す・聞く意欲が高まる
相手に分かるように伝えたい、相手が話すことをしっかり聞きたいという意欲を高めるために、
シールという手だては低学年の児童に有効であった。また、比べながら聞こうとする態度が身に付
く。「自分と同じ」「ちがう」の視点が与えられることにより、聞き方が定まり、比べながら聞こ
うとする態度が見られた。
○質問しやすい
月
教材名
「聞きたいな」の視点があるので、相手の考 7 いなばの白うさぎ
4つの視点 人数
聞きたいな
4人
えを聞いてみようとする気もちを起こすことが 9 きつねのおきゃくさま
聞きたいな 10 人
できた。「∼についてどう思いますか」と相手
聞きたいな 14 人
11 わにのおじいさんのたからもの
に質問しやすくなるという利点があげられる。
図7
視点「聞きたいな」の人数の増加
○考えが深まる
自分の考えを見つめ直し、より深い考えをもつことができた。複数の友達と「4つの視点」を使
って交流することにより、自分にはない考えを知って、自分の考えを再度考え直すことができた。
しかも、交流前と交流後の考えがワークシートの右側と左側に書かれているので、考えの比較が
容易にできた。
○評価に生かせる
ペア学習のとき、貼られたシールの状態により、児童の思考が分かり、評価を指導に生かせる。
○学習者同士の関係が深まる
8人1組で、友だち4人と交流することができるので、様々な友だちと伝え合いができる。この
点は、研究を行っていくうちに気付いた点である。
(2)研究仮説2(表現したくなる言語活動について)
言語活動を取り入れたことにより、同じ課題に対して書いた文章の量が増えたり、内容が深まった
りした。児童にとって意欲的に取り組めて、自分の思いや考えを表現したくなる言語活動の要素とし
て、低学年の児童の特性から、文章を書くだけでなく絵を描いたり、登場人物の動きを考えたり、叙
述から気持ちを想像してセリフを考えたり、生き生きと素直に表現できるよう動物が出てくる物語を
用いたり、伝える相手意識をもたせたりすることが必要だと分かった。また、それまでの学習と比べ
文量が増えたり、文章の質が高まったことから、表現したくなる言語活動を取り入れることは、自分
の考えを広げ深めることに有効であると言える。
2
今後の課題
全体での伝え合いの場面の「4つの視点」は、まだ工夫できると考える。
「4つの視点」を使って、
ペアでの伝え合いは上手にできるようになったので、全体で伝え合う際に、聞いている児童をどう巻
き込むかが必要になる。他の視点も加えて改良したい。
また、文学的な文章の読み取りの際には、「4つの視点」だけでなく、教師の投げかけも必要であ
る。今後は、「4つの視点」の活用と、その単元により様々な言語活動の工夫をして、3、4年生の
特性からどんな言語活動が有効であるか研究したい。
Ⅶ
参考文献
『初等教育資料』平成 25 年6月号
『新国語科
東洋館出版社
特集Ⅰ言語活動の充実を通した授業の改善①
「言語活動例」の授業モデル』明治図書
小森茂
松野洋人=編著
2001 年