博物館における保存学の実践と展望 速報

国際シンポジウム
International Symposium
博物館における保存学の実践と展望
―臨床保存学と 21 世紀の博物館―
Practice of Conservation in Museums
− Defining a Vision for the Practice of Conservation in
Museums in the 21st Century −
速報
2006 年
独立行政法人 国立博物館 東京国立博物館
Independent Administrative Institution,National Museum
Tokyo National Museum
プロ グラム
9:00− 9:50
9:50−10:00
10:00−12:00
報
告
参加登録
開会挨拶
セッション1
サンドラ・スミス(英国 V&A 博物館)
リチャード・ニューマン(米国ボストン美術館)
姜 炯台(韓国国立中央博物館)
(休
憩)
13:00−15:10
セッション2
基調講演
三輪嘉六(九州国立博物館)
報
告
久芳正和(国立国会図書館)
園田直子(国立民族学博物館)
神庭信幸(東京国立博物館)
(休
憩)
15:30−16:10
パネルディスカッション パート1(座長 高橋裕次)
姜 炯台、サンドラ・スミス、リチャードニューマン
16:10−17:30
パネルディスカッション パート2(座長 神庭信幸)
園田直子、久芳正和
三浦定俊(東京文化財研究所)
森田稔(京都国立博物館)
梶谷亮治(奈良国立博物館)
本田光子(九州国立博物館)
閉会挨拶
17:30−17:40
Program
9:00− 9:50 Registration
9:50−10:00 Opening address
10:00−12:00 Session 1
Case studies Sandra Smith (Victoria & Albert Museum, UK)
Richard Newman (Museum of Fine Arts, Boston, USA)
Kang Hyung-tae (National Museum of Korea)
(break)
13:00−15:10 Session 2
Keynote speech
Karoku Miwa (Kyushu National Museum)
Case studies Masakazu Kuba (National Diet Library)
Naoko Sonoda (National Museum of Ethnology)
Nobuyuki Kamba (Tokyo National Museum)
(break)
15:30−16:10 Panel Discussion Part 1 (moderator: Yuji Takahashi)
Kang Hyung-tae, Sandra Smith, Richard Newman
16:10−17:30 Panel Discussion Part 2 (moderator: Nobuyuki Kamba)
Naoko Sonoda , Masakazu Kuba
Sadatoshi Miura (National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo)
Minoru Morita (Kyoto National Museum)
Ryoji Kajitani (Nara National Museum)
Mitsuko Honda (Kyushu National Museum)
17:30−17:40 Closing address
講演要旨集
講師紹介
サンドラ・スミス
英国 ヴィクトリア&アルバート博物館 保存部長
契約職員を入れると 55 名の職員を擁する保存部の責任者。紙、本、絵画、家具、染織、
彫刻、金工、陶磁、ガラス、科学分析、管理などから構成される。専門は陶磁器、ガラ
ス、金属製品などの保存修復。
リチャード・ニューマン
米国 ボストン美術館 保存科学室長
収蔵品あるいは委託品の科学的調査、制作技術の研究、保存修理材料の研究、保存環境
の調査など、博物館活動を科学的な面で支える。専門は保存科学。
姜
炯台
韓国 国立中央博物館 保存科学室長
2005 年に新館を開館したばかりの韓国国立博物館の中央館。絵画、工芸、出土遺物等多
様な館蔵品の保存修理、科学的調査、博物館環境の保全などを統括。専門は考古科学。
三輪嘉六
九州国立博物館長
アジアと日本の文化交流をテーマに 2005 年開館した第4番目の国立博物館。様々な最新
設備を擁した国立博物館を運営。専門は考古学、博物館学、文化財学。
久芳正和
国立国会図書館 収集部資料保存課課長補佐
資料保存の分野における図書館協力活動の促進のために、「保存協力プログラム」を策
定し、保存についての情報の提供、研修、技術援助等を実施。専門は資料保存。
園田直子
国立民族学博物館 文化資源研究センター助教授
多種多様な民族文化財の保存のために、包材の安全性検査、環境保全、紙素材資料の修
理技術の開発など多様な取り組みを行う。専門は保存科学、特に合成素材。
三浦定俊
東京文化財研究所 企画情報部長
奈良文化財研究所との連携の下にキトラ古墳や高松塚古墳壁画保存への対応など、行政
的課題に対して保存科学的な観点から取り組む。専門は保存科学、特に物理計測。
森田稔
京都国立博物館 学芸課長
京都に根ざした、日本的文化芸術と関わりの深い文化財の寄託、収集、保存、公開、調
査・研究を統括。専門は考古学、特に窯業史、金工史、文化財学。
梶谷亮治
奈良国立博物館 学芸課長
仏教と関わりの深い古美術品、考古遺品などの寄託、収集、保存、公開、調査・研究を
統括。専門は美術史、特に仏教絵画史。
本田光子
九州国立博物館 学芸部博物館科学課長
統合的有害生物防除管理(IPM)、ボランティア活動の積極的な導入など、新たな試みを実
施し、保存修復分野を統括する。専門は文化財保存学、考古学。
神庭信幸
東京国立博物館 文化財部保存修復課長
環境保全計画、臨床保存学などの導入により、11万件の東京国立博物館コレクション
の保存と公開の両立を目指す。専門は保存科学。
Invited speakers and panelists
Sandra Smith: Head of Conservation Department, Victoria and Albert Museum, UK
Responsible for Conservation Department, which consists of 55 staff, including contract employees.
The Departments has following sections: Conservation of Paper, Books & Paintings, Furniture, Textiles
& Frames, Sculpture, Metals, Ceramics & Glass, as well as Science section and Management &
Administration. Specialization: Conservation of ceramics, glass, metal and stone.
Richard Newman: Head of Scientific Research Laboratory, Museum of Fine Arts, Boston, USA
Scientific support for Museum activities in areas such as scientific research of works from Museum
collection or in custody, production technology and technological research, preservation and restoration
materials research, and preservation environment studies. Specialization: Conservation science.
Kang Hyung-tae: Chief of Conservation Science Laboratory, National Museum of Korea, Korea
Central institute of National Museum of Korea, opened 2005. Overall coordination of preservation and
restoration of the Museum's diverse range of its own works such as paintings, industrial art and
excavated artifacts, as well as scientific research and museum environment maintenance. Specialization:
Archaeological science
Karoku Miwa: Executive Director, Kyushu National Museum, Japan
Expressing the concept of cultural exchange between Asia and Japan, Kyushu National Museum opened
in 2005. With state-of-the-art equipment and facilities, it is the fourth national museum under his
administration. Specialization: Archaeology, Museology, Cultural Property Studies.
Masakazu Kuba: Assistant Chief of Preservation Division, National Diet Library, Japan
Formulated Conservation Cooperation Program to promote inter-library cooperation in the field of record
materials conservation and active in areas such as provision of conservation-related information, study
training and technical support. Specialization: Record materials conservation.
Naoko Sonoda: Associate Professor, Research Center for Cultural Resources, National Museum of
Ethnology, Osaka, Japan
Promotes various measures such as packing material safety inspections, environmental preservation and
development of paper and record materials restoration methods to conserve diverse varieties of ethnic
cultural properties. Specialization: Conservation science, particularly in synthetic materials.
Sadatoshi Miura: Head of Department of Research Programming, National Research Institute for
Cultural Properties, Tokyo, Japan
In collaboration with the National Research Institute for Cultural Properties, Nara, promotes responses to
various public administration initiatives from a conservation science perspective in relation to issues
such as preserving painted walls of the Kitora and Takamatsuzuka tombs. Specialization: Conservation
science, particularly geophysical surveying.
Minoru Morita: Head of Curatorial Division, Kyoto National Museum, Japan
Overall coordination of the custody, collection, conservation, public display, research and study of
cultural properties closely associated with Japanese culture and art which took root in Kyoto.
Specialization: Archaeology, in particular, ceramics industry and metalworking history, cultural property
studies.
Ryoji Kajitani: Head of Curatorial Division, Nara National Museum, Japan
Overall coordination of the custody, collection, conservation, public display, fieldwork and research of
antiques and archaeological relics closely associated with Buddhism. Specialization: Art history, in
particular, Buddhist painting history.
Mitsuko Honda: Head of Museum Science Division, Kyushu National Museum, Japan
Overall coordination of restoration areas and the implementation of new initiatives such as Integrated
Pest Management and effective introduction of volunteer activities. Specialization: Cultural property
conservation studies, archaeology.
Nobuyuki Kamba: Head of Conservation and Restoration Division, Tokyo National Museum, Japan
Through adoption of environmental preservation planning and practice of conservation, is aiming to
strike a balance between conservation and public display of the Tokyo National Museum's 110,000-item
collection. Specialization: Conservation science.
基調講演
博物館における保存科学機能の設定
九州国立博物館長
三輪
嘉六
はじめに
この国際シンポジウムのタイトルに保存学の実践、そして臨床保存学という用語が用いられ
ています。わたくしの講演ではそれと同義語という意識で、従前から使い馴らされている用語
として保存科学を使います。
日本の博物館が制度的に整備されるのは1951年(昭26)の「博物館法」からです。こ
の制度は戦後の新しい市民社会思想を取り入れて、社会教育的な意義づけの中で成立しました。
一方、多分野にわたる文化財保存のほか博物館の中身を構成する文化財、つまり博物館資料等
についての保存や活用のあり方も位置づけている文化財保護法は、この博物館法ができた前年
の1950年(昭和25)に成立しております。大局的にみて日本の博物館が制度的な諸規則
の中に位置づくのは、この両方の制度が相俟ってのことといえましょう。
その点では、博物館を運営し、展開していくための基本的な考えはこの制度に依存している
わけです。しかし、博物館のもつ大事な役割の一つである「文化財を正しく後世に継承してい
く」という取り組みについては、この制度では殆ど果たしていくことは不可能な状況にありま
す。そのために、多くの博物館は何をしてゆく必要があるのか、また新しい取り組みについて
どのように対処してゆくべきか等々、多くの問題を抱えて今日に到っております。
とくに今回のシンポジウムのテーマである博物館に保存科学を、という課題はこれまでの博
物館論の中心におかれることのなかったテーマということができます。
博物館と保存科学の現状
日本の博物館は、日本博物館協会の調査によると約5000館以上になりますが、歴史・文
化系のいわゆる人文系を対象にしてみると、今日約2000館ほどが文化財の保存と継承を課
題に入れた博物館活動に従事しております。この中で各館において博物館の資料や環境を科学
的に検証する理念、つまり保存科学分野はどちらかといえば学芸員の業務の中に組み入れられ
ております。この業務に従事する学芸員の多くは大学等の博物館教育の中で考古学、歴史学、
美術史学を学び、大学で学芸員資格を得るために必要な博物館学単位を履修していることが一
般的です。従って、保存科学については、大学等でカリキュラムの中にさえ組み入れられてい
ることはなく、博物館の一般常識業務として保存的業務を実施しているに過ぎず、そこには博
物館がもつ本来の保存についての基本プランを計画的に構築し、実行する方向づけにまでは到
っていないのが、学芸員の現状といってよいでしょう。
日本では2000年頃から、博物館に保存科学分野の専門家を設置し始めますが、それは単
発的であり、また組織的な体制をもったものではありませんでした。「博物館法」が示した現
行の規準の「公立博物館の設置及び運営に関する基準」は保存に関し、
「資料を保存するため、
必要に応じて、耐火、耐震、防虫害、防塵、防音、温度及び湿度の調節、日光の遮断又は調節、
通風の調節並びに汚損、破壊及び盗難の防止に必要な設備をするよう努めるものとする」とし
ておりますが、細かな指針が示されているわけではありません。通常、ここにあげられている
ことは保存科学の枠の中で取り扱うべきことに相当しますが、そこまでは及ばず、これまでの
実情は通有の学芸員の中で処理・対応することで終始してきたといえましょう。
保存と活用に対する保存科学の役割
わが国で「保存科学」の用語が広く使われはじめるのは1972年(昭和47)の高松塚古
墳の発見に伴っての展開となりますが、実際にはそれよりずっと前から始まっております。岡
倉天心が創設した美術院国宝修理所での仏像彫刻などの修理、絵画の顔料剥落止めや1934
年(昭和9)に始まる法隆寺の組織的な修理事業などは保存科学を活用した初期の例です。
文化財世界での保存科学の意義を改めて確認すると、自然科学的研究のあり方として文化財
資料としての学術的価値の評価を確認、そして保存修理に関わる材質の調査や劣化機構の解明
と、この二つの大きな組立ての中で保存科学は極めて有効な意味をもって存在しているわけで
す。それと同時に、今日のように文化財の保存・活用のあり方が拡がるほど、保存科学の重要
性がますます増すことになるのは当然のことでしょう。
日本の文化財の保存は、制度的には明治30年(1897)から始まりますが、それから今
日までどのように保存するかという課題を巡って100余年間が過ぎたといっても過言でな
いでしょう。これまでの文化財の保存を指定制度で行うことを継承した昭和25年(1950)
の文化財保護法でも、実務面では文化財の保存を中心としたものです。しかしこの制度で用い
られた 保護 の文字は保存のみでなく、活用を含んで 保護 の用語を用いております。そ
のことはつまり 保護 とは保存と活用の両方を表したものであるわけです。この活用につい
ては、文化財を保存していく上では保存と相反する行為であるだけに、活用を進めることは相
当のリスクを生じることを覚悟しなければなりません。文化財の保存における保存科学の存在
は、このリスクをいかに小さく、収斂していくかということであろうと考えます。これまでの
文化財の保存から活用という流れは、この保存科学の必要性を強化していくことでもあること
は当然です。そうした視点をもって保存・活用に取り組むことが、博物館世界における保存科
学の設定と連動することになると思っております。
文化財を活用する最も具体的な場であるわが国の博物館や美術館における保存科学の組織
的な体制は、実に寒く、貧困な状況にあります。欧米では当たり前のこととして大きな保存科
学体制を組織化しています。日本の諸制度は欧米をモデルに進めてきましたが、博物館等にお
ける保存科学の組織化は図ってこなかった訳です。
文化財の活用について制度面から触れてみましょう。文化財保護法では所有者以外のものが
指定文化財を公開しようとするとき、つまり国宝や重要文化財を用いて展覧会を実施すること
ですが、この場合、文化庁長官の許可を必要としています。1998年の法改正でこれを改め
て、許可から届出制に改めております。これには前提条件がありますが、博物館組織やとくに
展示・陳列などの保存環境が整っている施設であるならば、その博物館等は公開承認施設とし
て認定し、文化財の公開を届出制に改めるというものでした。施設の保存環境など保存科学的
調査は東京文化財研究所などに委ね、そこが指導することになっているわけです。これは博物
館等における保存科学の必要性や重要性を制度面からも認めたものと理解して良いと思われ
ますが、博物館等における保存科学の組織体制の強化充実にまでは触れた制度の改正ではあり
ませんでした。承認館となった博物館等はこれを契機として保存科学的な体制づくりが行われ
ない限り、博物館としての良好な保存や展示環境の持続はできないと考えます。この公開承認
施設許可を刺激として保存科学体制の組織づくりが期待されたかも知れませんが、残念ながら
制度の改正はそこへの道のりとはなっていません。
次に、博物館での文化財修理の視点から保存科学体制の必要性を探ってみましょう。博物館
における文化財の修理は、これまでの多くの場合、外部の専門業者に註文しているのが一般的
です。彫刻、表具、漆等の修理は極めて伝統性を背景にした修復の世界を構築しております。
こうした修理が組織的な形で博物館と関わりをもつようになるのは京都国立博物館における
国宝修理所 の設置からであります。その頃から博物館との連携の中で、修理と保存科学と
の一体化が始まってきます。いま、各博物館が館内に修理のラボを持つことは現実的ではあり
ませんが、拠点的に設置していく中で保存科学との関わりが博物館と修理現場を結ぶ大きなき
ずなになることは間違いないでしょう。
結び
さて、こうして博物館における保存科学分野の設置の必要性を説いてきましたが、もう一つ
忘れてならないことがあります。それは大学等における教育現場で文化財学を中心に保存科学
関係の組織的な教育が実施されていることです。いま30校程の大学や大学院で文化財の専門
的コースが設定され、多くの学生達がそれを専攻し、研究しております。これら学生達はいわ
ば将来の文化財保存を支える資源でもあるわけですが、現在の博物館世界ではそれを受容する
だけの組織化がなされているわけではありません。彼らの活動を可能にするような博物館行政
や文化財行政の施策は今後の大きな、そして深刻な課題といえるでしょう。専門化される学芸
員の中に保存科学を分野とする人の配置の方法などを含めて考えいく必要があるのではない
でしょうか。とくにこれからの博物館の展開が保存科学に期待する方向にあることを考えれば
尚更のことです。
博物館が真に文化財の保存活用の場であるとするならば、保存科学の組織・体制と連動する
ことが真の博物館活動を果たすものであると結論づけて話を終えます。
Keynote speech
Establishment of Field of Conservation Science in Museum
Karoku Miwa
Executive Director
Kyushu National Museum,Japan
Methodology and Management of the Practice of Conservation and Science within the V&A
Sandra Smith
Head of Conservation Department
Victoria and Albert Museum, UK
Caring for collections
Introduction to the Museum and its Collections
The V&A consists of three museums, The V&A, The Museum of Childhood and two London–based Stores
The Theatre Museum. There are approximately 7 million objects, which range from 11th century enamelled
metal caskets to contemporary modern design. The collections are divided curatorially into material types
for Furniture Textiles and Fashion, Sculpture Metalwork Ceramics and Glass, Word and Image (Books
Paintings and Paper). The Asian Department which is a geographically based collection.
Structure of the Conservation Department
The Department has 55 members of staff. It has a mixed economy of permanent staff (c 43) and project
funded contract conservators (12).There are 5 scientists, 5 administrators, 1.5 educators (tutors on the
RCA/V&A Conservation Course) and c 32 conservators.
The conservators specialise in the care of particular material types reflecting the collections held at the V&A
and the material-based curatorial departments. There are 11 studios; Ceramics &Glass, Stained Glass,
Metals, Sculpture, Furniture, Textiles, Frames, Paper, Books, Paintings and Preservation Conservators. This
structure enables curators and conservators to work closely together to gain a deep knowledge of the
collections. Material from the Asian Department, and the two smaller museums are worked on by all
conservation sections.
Conservators must have a relevant qualification in conservation to join the department and are encouraged
to become Accredited members of The Institute of Conservation as they progress through their career.
The Science Section works with both conservation and the curatorial departments. The 5 scientists come
from pure sciences and apply this to the work of the museum. A preventive conservator forms part of the
team. The scientists are responsible for advising the Museum on environmental issues.
Departmental Purpose and Mission
The Conservation Department is responsible for;
Preservation; ie control of the ambient environment, mounting and packing.
Conservation; at its most basic level this involves ensuring that the collections are stable. When objects
are to be displayed additional work is undertaken to ensure they are visually interpretable. Treatment
includes dismantling, cleaning, reconstruction, in filling and painting.
Investigating original technology; this involves detailed visual examination, and scientific analysis to
understand what the collections are made from, the method of construction and surface finishes.
Identification of restoration and historical treatments forms part of this work.
Research; Research is undertaken to; understand how the collections deteriorate and interact with the
environment, to determine rates of decay and improved methods of treatment or preservation. Analysis of
materials to understand original technology is also part of research.
Fully understanding the collections is a team activity; curators provide historical context, conservators
interpret the decorative surfaces and construction methods, scientists identify the materials from which
the collections are made.
Standards of Work
The Museum prepares its collections for permanent galleries, short term exhibitions, loans and touring
exhibitions. It also provides access to the collections through students rooms and publication.
Levels and standards of conservation differ depending on how the object is to be used. Objects on loan may
be made stable and fit for travel whilst those in a gallery may be more extensively treated. Different levels
of work will also be carried out within a gallery according to the positioning and importance of the object
within the display.
Planning
The Conservation Department is involved in all collections-based activities undertaken by the museum.
Planning of conservation work is undertaken at a strategic and project level. As many museum activities
occur simultaneously, or overlap, a single museum-wide plan is used to record activities. . An estimator is
used to predict resource implications of activities at a concept stage. The time constraints for conservation
can influence the timing and scale of proposed activities.
At project level conservators are part of the Development team, providing advice on environment, methods
of display and mounting. They work with designers and engineers to achieve the ambience of the gallery
whilst ensuring the care of collections. Conservators act as couriers for loans and touring exhibitions.
All objects within a project are assessed and detailed time estimates culminate a total time. The conservation
managers of the studios then determine how much time can be allocated to the project, and together with the
curators determine priorities.
Future Plans
The specialisation of the staffing is appropriate for the care of such a Nationally and Internationally
important collection, but this specialisation can limit flexibility. In the future it would be beneficial to
reinforce the generic skills of a conservator and to create a team who are able to work across material.
For science, there are gaps in professional expertise. Ideally additional staff with expertise in biology,
particularly the identification of organic materials would help the organisation.
Attribution to conservation research
There are several kinds of research that are undertaken in the V&A;
Questions relating to an object.
Analysis of materials in order to understand the object, or influence its conservation is a reactive, day to day
activity. Results assist conservators (to conserve or preserve the collections) and curators (to understand the
object and present information to the public).
Questions relating to groups of objects.
In gallery refurbishments curators and conservators identify in advance the research questions to be explored.
For example extensive research into the decorative surfaces of medieval material is required to authenticate
them for the forthcoming Medieval and Renaissance Gallery. Time is allocated within the work programme
and additional project-based funding is used to secure external assistance where expertise or equipment is
not available in-house.
Research into the long term care of collections
Each scientist, depending on their expertise, is involved with specific areas of research. Time is allocated to
this as part of their work programme. These projects, such as developing a storage regime for cellulose
nitrate negative, looking at the long term care of plastics, identifying the presence of mercury in hats improve
the care of collections.
Understanding the museum environment and how the objects react with it, either on display or in storage is a
core part of the scientist work. External funding through research councils is sought to deliver phases of
this on-going , long-term research.
Conservation Treatments
The Mazarin Chest project is an example of conservation-treatment focussed research. Core staff bring
their expertise to the project and co-operation with universities and research institutions provide access to
specific expertise and knowledge. Focussed planning and research aims allows external sponsorship to be
secured and, where the project extends over 3 years or more to use PhD and research assistants to explore
particular issues in depth.
External Collaborative Projects
The Department is a partner in externally funded research projects such as European Union 6th Framework
projects. The department contributes an agreed level of resource ( its skills, expertise or its collections) to
the project which is centrally co-ordinated. Full economic costings at the proposal stage ensures this
research is cost neutral for the V&A. These projects can be an invaluable networking opportunity and allow
access to expertise and equipment. The results of these research projects have wider benefits for care of
collections in a range of institutions and enhance the reputation of the V&A.
Research by Conservators
Conservators also undertake research on the collections; for example one conservator has been trained to a
high level in gemmology. This enables her to identify, authenticate and provenance gems found in the
jewellery collections of the V&A. This information advances the study of jewellery history and ensures
information presented to the public, is accurate and up-to date. The work is undertaken during the
conservation process.
Conservators also undertake research into conservation treatments and methods, within the museum and in
collaboration with other conservation departments throughout the world. By sharing ideas and practice the
profession of conservation is advanced.
Function as a National Centre
All National Museum Conservation departments have a particular and individual group of skills and
expertise to offer to collaborative projects.
The V&A has 7 million objects in its collections. The Conservation department and scientific expertise
reflects the needs of these collections and staff have a deep and extensive knowledge of them. As a fine
and decorative art museum the staff understand and can interpret original technology and decorative
surfaces. As a Design museum, we have experience of caring for collections made of modern materials ;
plastics, photographic negatives, synthetic textiles etc. The world famous textile and costume collection
gives us expertise in the understanding of textiles, their manufacture, history, conservation, mounting and
long term care.
There is no central research centre in the UK, and only the National Museums have in-house science
facilities, and extensive, material-based conservation studios. The Department therefore has a role in
providing advice (free of charge) to smaller institutions who house similar collections. Staff provide advice
to the public and other professional, occasionally undertake consultancy work for other institutions.
Scientists and conservators within the National Museums meet regularly, either formally or informally and
share expertise, knowledge and equipment.
We contribute to the development of the conservation profession by hosting internships for traineeconservators and placements for practicing conservators who wish to extend their expertise. The V&A, in
partnership with the Royal College of Art runs the RCA/V&A Conservation MA Course.
Knowledge and research is disseminated through conferences, Conservation, Science and Heritage
publication and via the V&A web site and the V&A Conservation Journal.
ヴィクトリア&アルバート博物館における保存学と科学の実践についての方法論と運営
サンドラ・スミス
英国ヴィクトリア&アルバート博物館 保存部長
収蔵品の保全
V&A 博物館と収蔵品の概要
V&A 博物館は、3つの博物館で構成されています。V&A 博物館のほか、ロンドンに2つの博物館(子
供博物館 、劇場博物館)があります。収蔵品は約 700 万点におよび、11 世紀のエナメル細工の金
属製小箱から、現代のモダンなデザインのものまで含まれています。収蔵品を素材に応じて、
「家具・
テキスタイルとファッション」
「彫刻・金属工芸・陶磁器・ガラス工芸」
「言葉とイメージ(書籍・
絵画・文書)
」のように分類して管理しています。アジア部門の収蔵品は、アジア地域としてまとめ
られています。
保存部の組織
保存部には 55 人のスタッフがいます。常勤スタッフ(43 人)と、プロジェクトの資金で雇用契
約をしている保存修復管理士(12 人)が混成する組織です。職種の内訳は、科学者 5 人、事務官 5
人、教育担当 1.5 人(RCA/V&A 保存修復コースの指導者)
、保存修復管理士 32 人となっています。
保存修復管理士は、V&A 博物館の収蔵品に用いられたり素材別の修復部に持ち込まれる特定の素
材の保存修復処置に対する専門技術を有します。修復部として、11 の工房があります;陶磁器とガ
ラス、ステンドグラス、金属製品、彫刻、家具、テキスタイル、額、紙、書物、絵画、予防保存。
この組織構成のお陰で、学芸員と保存修復管理士は協力して仕事をすることができ、収蔵品につい
ての知識を深めます。アジア部門と小規模の 2 つの博物館の収蔵品の素材については、すべての保
存部門で取り扱われます。
この部署の保存修復管理士になるためには、保存に関する適切な資格の取得が必須であり、職務
経験を通して実績を積み、保存学会の公認会員になることが奨励されています。
科学部は、保存管理部と学芸部に協力して仕事をします。5 人の科学者は純粋科学を修めた者た
ちであり、博物館の業務に専門知識を生かします。予防保存管理士も、科学部の一員です。この科
学者たちは、収蔵品の環境の問題に関して博物館に助言する責任を負います。
部門別の目的と使命
保存修復部は次のことを担当します:
予防:すなわち、周囲の環境、展示、包装の管理を行うことです。
保存修復:最も基本的なレベルで、この業務は、収蔵品の安定性を確保することを担います。
作品の展示に際しては、必ず視覚的に鑑賞できるように、追加の作業が行われます。処置とて、
分解、クリーンニング、復元、充填、彩色などがあります。
使われた元の技術の調査:収蔵品の素材、製造法、表面の仕上げを知るために、視覚による綿密
な調査および科学的分析が行われます。修復ならびに過去に行われた処置を特定することも、
この作業に含まれます。
研究:目的は、環境によって収蔵品がどのように劣化したり影響を受けたりするかを知ることで
す。腐食の度合いを判定して処置方法や保存方法の改良を決定します。使われた元の技術を知
るために、素材を分析することも研究の役割です。
共同作業による収蔵品の十分な理解:学芸員が歴史的背景を提示し、保存修復管理士が装飾的な
表面や製造法について提言し、科学者が収蔵品の素材を特定します。
作業基準
当博物館は、常設展示や短期間の展示、貸し出し、巡回展示のために収蔵品の準備をします。ま
た研究室や出版物を通じ鑑賞の機会を提供します。
保存のレベルや基準は、対象作品がどのように利用されることになるかに応じて異なります。貸
し出し作品については、輸送に耐えられるように、頑丈に適切に処置されるでしょう。一方、展示
室に置く作品は、もっと包括的に扱われるはずです。展示する上で、その作品の占める位置や重要
性によって、さまざまなレベルの作業が館内で行われることになります。
立案
保存部は、収蔵品を基に博物館が行うすべての活動にかかわります。保存部が提示する立案は戦
略的および企画レベルのものです。多くの博物館の活動が、同時に発生したり重なり合ったりする
ときは、1つの博物館の企画として活動を記録するのが普通です。企画のコンセプトを考える段階
で、1人の鑑定者がその活動の含み資産を予測することになります。保存部にとっての時間的制約
が、提示された活動の時期と規模に影響を与えます。
企画段階では、保存修復管理士も開発チームの一員であり、環境や陳列および展示方法について
の助言を与えます。デザイナーや技術者と共に、収蔵品の保全を確保しながら最適な展示室の環境
を得るために仕事をします。保存修復管理士は、貸し出しと巡回展についてはクーリエとしての役
割を担っています。
1つの企画で扱うすべての対象作品について査定を行い、細部の時間から全体の所要時間を割り
出します。そうして保存部長が、その企画にかけることのできる時間数を決定し、学芸員と協力し
て優先順位を決めるのです。
将来の計画
スタッフが専門集団であることが、こうした全国的もしくは国際的に重要な収蔵品の保全には適
切です。しかし、専門化が柔軟性を制限することもあります。将来においては、保存修復士の基本
的な技術を強化すること、そして素材を超えて作業にあたることのできるチームを創り出すことが
有益なものになるでしょう。
科学については、専門的知識に差があるものです。理想的には、生物学(バイオロジー)特に有
機物質の識別を専門とするスタッフを追加できれば、博物館に寄与することになります。
保存学研究の特性
V&A 博物館で採用されている研究にはいくつか種類があります。
1つの対象作品に対しての課題
対象作品を理解し、その保存の影響を知るために行う素材成分の分析は毎日繰り返される作業で
す。その結果は、保存修復士にとって収蔵品を保存したり維持するのに役立ち、学芸員にとって対
象作品を理解し観客に情報を提示するのに役立ちます。
作品群に対しての課題
展示室を入れ替えで一新するときは、学芸員や保存修復管理士は前もって検討すべき研究課題を
特定します。たとえば、新たに中世とルネッサンスの展示室にするときには、真正のものとするた
めに、中世風な素材による装飾的外表面についてより深い研究を行うことが求められます。時間が
作業プログラムに割り当てられ、館内では調達できない専門技術もしくは装置については外部の助
力を確保するために、企画用の追加資金が使われることになります。
収蔵品の長期にわたる保全の研究
それぞれの科学者は、各自の専門に従って特定分野の研究に携わります。それぞれの作業プログ
ラムにそのための時間が組み込まれます。ラッカーの劣化を防ぐ保存体制の改良や、プラスチック
の長期にわたる保全の研究、水銀の有無の特定といったような企画は、作業プログラムによって収
蔵品の保全が改善されることになります。
博物館の環境と、対象作品が、展示であれ保管においてであれ、その博物館にどのように作用し
ているのかを理解することが、科学者の仕事にとって重要な部分です。学術審議会を通じて調達す
る外部資金が、進行中の長期にわたる研究を成し遂げるために必要とされます。
保存の処置
マザラン基金プロジェクトは、保存処置の研究に焦点があてられた一例です。中心となるスタッ
フが、各自の専門技術をそのプロジェクトに生かし、また、大学や研究機関と協力することで、特
殊な専門性と知識を生み出しています。立案と研究に的を絞った目標が、外部におけるスポンサー
の確保につながり、それにより、プロジェクトは 3 年もしくはそれ以上にわたって、PhD(博士号所
有者)や研究助手を使って特別な問題を徹底的に調査することができているのです。
対外協力プロジェクト
保存部は、外部から資金を供給された研究プロジェクト、たとえば ヨーロッパ・ユニオン・第
6 回フレームワーク・プロジェクト のようなプロジェクトのパートナーになっています。保存部
は、中核的に連携しているプロジェクトに対し、その技能、専門技術や収蔵品で、求められた研究
レベルを達成できるように貢献します。企画段階では、V&A 博物館としては、その研究を支える経
費が十分採算のとれる原価計算になっているのか明確ではありません。これらのプロジェクトは、
非常に貴重なネットワークを形成する機会にもなり、
専門技術や装置につながる可能性もあります。
研究プロジェクトの結果は、博物館の収蔵品の保全に多大な利益をもたらすものであり、V&A 博物
館の評判をも高めるものです。
保存修復管理士による研究
保存修復管理士もまた、収蔵品について研究を行います。たとえば、1人の保存修復管理士が宝
石学において高レベルまでの訓練を受けた場合、それによってその者は、V&A 博物館のジュエリー
コレクションに所蔵する宝石を鑑定し、本物であることを証明し由来を解明します。その情報によ
って、宝石についての歴史の研究が深められ、観客に提示される資料が正確で最新のものになるこ
とも保証されます。この仕事は、保存修復の過程で行われるものです。
保存修復管理士はまた、保存修復の処置と方法について研究を行います。これは、博物館内およ
び世界中の保存部と共同して行います。アイデアと臨床を共有することにより、保存の専門域が広
げられます。
ナショナル・センターとしての役割
すべての国立博物館の保存部は、技能と専門技術を持つ特別な専任のグループを抱え、共同研究
プロジェクトに役立てています。
V&A 博物館は、700 万点におよぶ収蔵品を有しています。保存部および科学的専門技術はこれらの
収蔵品の必要性を反映したものになります。スタッフはこれについて広範囲にわたる深い知識を持
っています。華やかで装飾的な美術館だとスタッフが理解することで、独自の技術と装飾的な表面
を学ぶことができるのです。デザイン美術館としては、現代の素材でできた収蔵品の保全に経験を
持っています。プラスチック、写真のネガ、合成繊維の織物などです。世界の有名な織物や衣装の
収蔵品を持つことで、私たちは、織物の理解、その製造法、歴史、保存、展示および長期の保全と
いう面で、専門技術を得ています。
イギリスには、中央研究センターがありません。唯一、国立博物館が館内に科学設備を備え、外
部に素材単位の保存工房を持っているだけです。そういうわけで、保存部は同様の作品を収蔵する
より小さな施設に対し、無料で助言を与える役割を担っています。スタッフは、公衆をはじめ他の
専門家に助言を与え、
また時には、
他の施設に対するコンサルタント的な業務も行っているのです。
国立博物館内の科学者と保存修復管理士は、正規であれ私的であれ、定期的に会合を持ち、専門的
技術と知識や設備を共有します。
私たちは、保存修復管理士の研修生をインターンシップとして受け入れたり、それぞれの専門技
術を深めたいと望む保存修復管理士に臨床を実践させることで、保存修復管理の専門職域の発展に
寄与しています。また、V&A 博物館は、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートと共同で、RCA/V&A 保
存マスターコースを運営しています。
知識と研究は、会議、出版物 保存と科学と遺産 、V&A ウェブサイト、および V&A 保存ジャーナ
ルで普及が図られています。
Conservation and Preservation at the Museum of Fine Arts, Boston
Richard Newman
Head of Scientific Research Laboratory
Museum of Fine Arts, Boston, USA
As in most large art museums in the United States, conservation treatments of works of art at the
Museum of Fine Arts, Boston, have been carried out for nearly as long as the museum has existed,
which is now over 100 years, and the evolution of conservation and preservation of collections
within the museum has paralleled the development of conservation as a profession. The Museum
has six conservation facilities, with specialist conservators who treat different categories of works
of art: Western paintings (mainly easel paintings); textiles and costumes; furniture; works of art on
paper (prints, drawings, watercolor paintings on paper, photographs); three-dimensional objects and
sculpture; and Asian screen and scroll paintings. The museum also has a scientific research lab that
carries out analytical research on works of art associated with conservation projects and provides
scientific information on materials and techniques in association with broader research on the
Museum’s collections. For many years, most of the conservation labs were associated from an
administrative point of view with the individual curatorial departments whose collections they
served. The major exception was the objects conservation lab, which carried out projects on works
of art from many different curatorial departments. Objects Conservation and the Scientific
Research Lab, which also carried out projects for many different departments within the museum,
constituted a separate department for many years that was not a part of a curatorial department. In
1998, all of the conservation labs and the scientific research lab were combined to form a separate
department. In the last several years, this department, now called ‘Conservations and Collections
Management,’ has also come to include the Museum’s Registrar’s office and administration of the
Museum-wide computer-based collections database.
In 1992, the Museum added its first ‘collections care’ staff, and the Collections Care division is
now a major part of the overall department. The American Institute for Conservation (AIC) defines
a collections care specialist as ‘an individual who is trained and experienced in specific preventive
care activities and who works in conjunction with…a conservator.’ At the MFA, collections care
specialists are responsible for movement of works of art within the museum and its art storage
facilities, as well as the making of mounts for exhibitions. The MFA also has a ‘Collections Care
Scientific Research Assistant,’ who is a part of the Scientific Research Lab staff. He oversees the
museum’s integrated pest management program, carries out testing of materials being considered
for use in exhibition display cases and art storage facilities, and works with the Museum’s facilities
department to monitor relative humidity and temperature in storage and display areas. He monitors
light levels (visible and ultraviolet) in association with exhibitions and gallery design, and has
worked with the museum’s art packers and transportation staff to monitor shock and vibrations in
crates used to ship works of art.
As in the museum profession as a whole, the MFA now recognizes the importance of preventive
care of its collections as a very crucial function in its overall conservation efforts. The AIC defines
‘preventive care’ as ‘the mitigation of deterioration and damage to cultural property through the
formulation and implementation of policies and procedures for the following: appropriate
environmental conditions, handling and maintenance procedures for storage, exhibition, packing
transport and use; integrated pest management; emergency preparedness and response…’
Conservation and collections care staff work with other departments in the museum to improve the
art storage facilities, add climate control or improve existing control in parts of the building, and
improve policies related to the physical well-being of the collections. Preventive conservation
activities, which could be called proactive, are balanced against a workload driven to a great extent
by exhibitions, loans, and for the next few years by a planned addition of a new wing to the
Museum; many of these latter activities are more ‘reactive’ than ‘proactive’ in nature.
Because of the overall staff size and institutional responsibilities, the MFA’s conservators and
scientists do not generally undertake ‘fundamental’ research projects that address general
preservation issues. The focus is on specific questions triggered by preservation problems faced by
individual works of art in the collections, such as the recent addition of laser cleaning equipment in
the objects conservation lab which was initially purchased to assist in the cleaning of an ancient
marble artifact. Work in the realm of preventive conservation, and innovations in treatments of
works of art, generally are adaptations of more fundamental research carried out elsewhere. In the
realm of scientific research, the MFA’s lab’s specialization is in technical studies of works of art,
rather than fundamental research, for example, on materials for conservation or deterioration
processes.
The conservation activities at the MFA are almost exclusively focused on its own collections, as
is also the case at most other American museums. The scientific research lab at the MFA, one of
only about half a dozen such labs housed in American museums, also mainly focuses on research
related to the MFA’s collections. The MFA’s scientific research lab also provides services to, and
collaborates with, other museums on projects not directly associated with objects in its own
institution’s collections. We recognize that this is a valuable service that should be made available
in particular to institutions that do not have in-house analytical facilities. Staff members in the
conservation labs regularly exchange information with colleagues, drawing on sharing of
experiences with others to improve the care of museum artifacts in our own collections.
In the United States, there are no national, government-financed centers for conservation, or
scientific research related to conservation or preservation issues. There are some non-profit
regional conservation centers that provide conservation services to smaller museums that do not
have in-house conservation facilities, and many states have state-funded preservation organizations.
Museums and other institutions, such as historic houses, can apply to federal grant programs (such
as the Institute for Museum and Library Services, IMLS; and the National Endowment for the Arts,
NEH) for funds to support discrete projects related to conservation or preservation. Heritage
Preservation, which receives funding from the National Park Service and IMLS, supports
preservation activities throughout the United States and recently published the ‘Heritage Health
Index,’ a comprehensive survey of the state of preservation of cultural artifacts in many types of
collections throughout the United States.
In the realm of more basic research, the Andrew W. Mellon Foundation has long supported
fundamental research programs related to cultural artifact preservation. The privately-endowed
Getty Conservation Institute (GCI) develops and collaborates on many preservation and
conservation research projects and fundamental research programs throughout the world, partnering
with many organizations including museums. Long-term fundamental research on preservation
issues related to cultural artifacts is difficult to undertake within most museums such as the MFA,
where funding is often limited and priorities of the institution are understandably mainly related to
their own needs. In recognition of this, several researchers have begun to explore the possibility of
developing conservation research programs through grants from federal agencies such as the
National Science Foundation. Such projects could involve multiple museums as well as university
laboratories.
ボストン美術館における保存と保全
リチャード・ニューマン
米国ボストン美術館 保存科学室長
米国の多くの大規模な美術館がそうであるように、ボストン美術館においても、美術作品の
保存処理は、美術館の歴史と同じくらいの年月にわたって行われており、これは 100 年以上に
およぶ。そして、美術館の収蔵品の保存と保全の発展は、専門職としての保存の発達と並行し
ている。当美術館には、6 つの保存施設があり、異なる分野の美術品を扱う専門の保存修復管
理士がいる。西洋絵画(おもにイーゼル画)、テキスタイルと服飾、家具、紙を使用した芸術
作品(印刷物、ドローイング、紙に描かれた水彩画、写真)、立体オブジェと彫刻、アジアの
屏風と絵巻物である。当美術館には科学研究室もあり、保存プロジェクトに関連する美術品の
分析研究が行われ、当美術館の収蔵品のより幅広い研究のために、材料と技術に関する科学的
な情報を提供している。長年にわたって、保存研究室の大部分は、管理上の観点から、個々の
管理部門の管理する収蔵品と関連付けられている。大きな例外は、異なるさまざまな管理部門
が収蔵する芸術品のプロジェクトを運営する、オブジェ保存研究室である。当美術館内で数多
くの異なる部門のプロジェクトの実行も行うオブジェ保存科学研究室は、長年にわたって、管
理部門に属さない、別の部門を構成した。1998 年に、すべての保存研究室と科学研究室が合併
され、別の部門が形成された。この数年、今は「保存および収蔵品管理」と呼ばれるこの部門
には、美術館の登録事務所と、コンピュータを使用した美術館全体の収蔵品データベースの管
理も含まれるようになった。
1992 年、当美術館は、初めて「収蔵品ケア」スタッフをむかえた。今では、収蔵品ケア部は、
部門全体でも重要な地位を占めている。アメリカ保存協会(AIC)は、収蔵品ケアの専門家を、
「特定の予防ケア活動において訓練を受け、経験を積み、保存修復管理士[注 5]とともに作業す
る人物」と定義している。MFA(ボストン美術館)では、美術館内部と作品保管施設の芸術品の
移動、ならびに展覧会のための固定において、収蔵品ケアの専門家は責任を負う。また、MFA
には、科学研究室スタッフの一員としての、「収蔵品ケア科学研究アシスタント」というポジ
ションがある。このポジションは、当美術館の統合害虫管理プログラムを監督し、展覧会の展
示用ケースや作品保管施設への使用が考えられている素材のテストを行い、当美術館の施設部
門とともに、保管および展示エリアの、相対的な湿度と温度を監視している。展覧会やギャラ
リーのデザインと関連して、光の強さ(可視光線と紫外線)を監視し、当美術館の作品梱包者
と運搬スタッフとともに、作品の運搬に使用される木枠の衝撃と振動を監視する作業にあたる。
当美術館の職業全体として、MFA は現在、その収蔵品の予防ケアを、保存に関する試み全体
における非常に重要な機能として、その重要性を認識している。AIC は「予防ケア」を、この
ように定義している。「適切な環境条件と、保管・展示・梱包・運搬・使用に際しての取り扱
いと保守について、処置および手順の定式化と実行による、文化財の劣化と損傷の緩和。統合
害虫管理。非常事態に対する準備と反応……」保存と収蔵品ケアを担当するスタッフは、作品
保管施設を改良し、環境コントロールを追加するか、または建物の一部に適用されている既存
のコントロールを改良し、収蔵品を物理的に満足のいく状態にするのに関連する処置を、改良
するために、当美術館の他部門と共同で作業にあたる。環境保全の作業は、予防的とも呼べる
ものであり、展覧会や貸出しの、この数年で予定されている当美術館の新たな翼の追加といっ
た、大規模な拡大にともなう作業負荷に対して、均衡を保っている。後者の活動の多くは、本
来「予防的」というより「受動的」性質のものである。
スタッフ全体の規模と組織としての責務のため、MFA の保存修復管理士と科学者は、概して、
一般的な保全の問題を対象とした「基礎的な」研究プロジェクトは行わない。収蔵品の個々の
芸術作品が、保全に際して直面した問題をきっかけとする特定の疑問に対し、焦点が定められ
る。たとえば、オブジェ保存研究室に最近追加された、古代の大理石製美術品の洗浄を補助す
る目的で購入された、レーザーを使用した洗浄装置である。環境保全の領域での作業と、芸術
作品の取り扱いにおける革新は、一般的に、他所で行われた、より基礎的な研究を適合させた
ものである。科学的研究の領域で MFA の研究室が専門としているのは、基礎的な研究ではな
く、たとえば保全や劣化の過程におけるマテリアルといった、芸術作品の技術的な研究である。
MFA における保存活動は、ほぼ、当美術館の収蔵品のみを対象としていると言える。これは、
アメリカの美術館の大部分についても言えることである。MFA の科学研究室は、アメリカ国内
の全美術館のうち、半ダースほどしか所有しない研究室であり、主に MFA の収蔵品に関連す
る調査に焦点を当てている。同時に MFA の科学研究室は、当美術館の収蔵品と直接関係のな
い、他の美術館が行うプロジェクトに対しても、サービスを提供したり、協力したりしている。
われわれは、特に、内部に分析設備を持たない機関が受けることを可能にするべき、貴重なサ
ービスであると認識している。保存研究室のスタッフは、定期的に同僚と情報交換し、当美術
館が収蔵する芸術作品のケアを向上させるために、他者の経験を収集し、共有している。
合衆国内には、政府が資金を出す国立の保存センターは、存在しない。保存や保全に関する
問題を扱う科学研究も、行われていない。非営利の地域的な保存センターはいくつか存在し、
自前の分析設備を持たない小規模な美術館に対して、保存サービスを提供している。そして多
くの州が資金を出して、州立の保全機関を作っている。美術館や、歴史的建造物に代表される
その他の組織は、連邦の補助プログラム(たとえば博物館・図書館サービス機構、IMLS や、
国立芸術基金、NEH)に、保存や保全に関する個々のプロジェクトの助成を求めて、応募する
ことができる。国立公園局と IMLS から資金援助を受けているヘリテージ・プリザヴェーショ
ンは、合衆国全土で行われる保全活動を支援している。最近では、合衆国全土のさまざまな種
類のコレクションにおける、文化的な人工物の保全状態を包括的に調査した、『ヘリテージ・
ヘルス・インデックス』を出版した。
より基本的な調査の領域では、メロン財団は長年にわたって、文化的な人工物の保全に関連
する基礎的な研究プログラムを支援している。個人の寄付によって設立されたゲティ保存研究
所(GCI)は、美術館を含む多くの組織と組み、保全や保存に関する多数の研究と、全世界で
行われる基礎的な研究プログラムを展開、また、共同で行っている。文化的な人工物の保存に
関連する、長期の基礎的な研究を、MFA をはじめとする多くの美術館内で行うことは、困難が
ともなう。しばしば資金援助が限定され、その団体の優先事項が、無理からぬことではあるが、
主にその団体自身のニーズに関するものになるからだ。これを認めて、何人かの研究者が、米
国科学財団のような連邦政府機関の助成金による、保存研究プログラムの開発の可能性を模索
している。このようなプロジェクトは、大学の研究室も含め、複数の美術館の参加が可能であ
る。
Present and Future of Conservation Science in the National Museum of Korea
Kang Hyung-tae
Head of Conservation Science Laboratory
National Museum of Korea
I. Introduction
The Imperial Household Museum, first established at Changgyeonggung Palace by King Sunjong in 1909, was reopened in 1945 as the National Museum of Korea. Following several moves over the next sixty years, on October
28, 2005, the Museum finally settled into its new facilities in the Yongsan area of Seoul. The roles and obligations
of the National Museum of Korea include collection, conservation, research, exhibition, education and exchange
of museum data, as well as supporting provincial museums and local National Museum branches as the Museum
that represents the country. Until now, such roles and tasks of the National Museum of Korea have been at the
domestic service level. However, as a twenty-first century museum striving for world-class status, the National
Museum of Korea is given the new assignment to heighten the awareness of Korean culture within the world.
These responsibilities of the National Museum of Korea must be reflected in the context of conservation science
in order for the Museum to fulfill its overall mission. Namely, the tasks and role of conservation science in the
Museum are to undertake the diversified businesses of conservation and its support and publicity activities, while
maintaining the basic framework of scientific conservation of the collections. These outcomes would structure the
preventive and scientific conservation basis of cultural heritage as the Cultural Property Conservation Center on a
national level, and encourage the conservation science network of Asian museums and facilitate human exchange
on a global level.
II. Human Resources and Budget of Conservation Science
The Conservation Science Laboratory of the National Museum of Korea was established in 1975, and is now
completing thirty years of conservation science history. As late as the end of the 1990s, the Laboratory had three
to four persons working in the conservation field, but, with the construction and opening of the new building for
the National Museum of Korea in 2005, the issues of comprehensive conservation treatment and the conservation
environment of the collection had emerged for the opening exhibition.
In early 2002, for the successful opening exhibition of the National Museum of Korea, a total of thirteen regular
staff members were secured for conservation, restoration, environmental survey and scientific analysis for each
material of the collection. In addition, in the later part of 2002, an additional thirteen staff were assigned to work
in conservation science at the eleven local National Museums. As shown on Table 1, this museum system is
largely divided into four regions (capital region, Chungcheong region, Yeongnam region and Honam region), each
with two to three museums designed with the idea of mutual support.
The budget related to conservation science of the National Museum of Korea is shown in Table 2, and is mainly
used for the conservation treatment of objects in the collection, and, when needed, for the preparation of
reproductions and imitative materials. In addition, a part of the budget is allocated for the conservation of the
collection and equipment support of the regional National Museums of Korea.
III. Status of Affairs for Conservation Science
1. Conservation and Restoration of Collections
In the present decade, the Conservation Science Laboratory of the National Museum of Korea has heightened the
historic dignity and value of the cultural properties through the conservation treatment of the existing Museum
collection, and, on the other hand, the Laboratory undertakes the conservation treatment of the cultural properties
that each year enter the collection, whether by purchase, donation or reversion.
Table 1. Human resource assignment by region and material (May 2006)
Region
Museum
Jungang
Chuncheon
Gongju
Chungcheong Buyeo
Cheongju
Daegu
Gyeongju
Yeongnam
Gimhae
Jinju
Gwangju
Honam
Jeonju
Jeju
Total
Capital
Metal Wood
4
1
Wooden
Earthenware Wall painting
Paintings
Environ
Lacquer
Reprinting Clothing
Analysis Total
/ ceramics / Stone works
/ writings
ment
ware
2
1
1
1
1
1
2
1
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
11
4
2
2
1
1
1
1
1
13
1
1
2
1
1
2
1
1
1
1
1
26
Table 2. Yearly budget for Conservation Science of the National Museum of Korea
(Unit; 1 million won, approximately $1,000)
Each year
Budget
(USD)
2001
948
(945)
2002
955
(950)
2003
1,142
(1,140)
2004
1,259
(1,250)
2005
1,275
(1,270)
2006
901
(900)
The total number of objects that the National Museum of Korea has conserved and restored from 1976 to 2005 is
approximately 14,000. Among them, conservation treatment has been done for 4,600 pieces for the opening
exhibit of the new National Museum of Korea during the past five years (2001-2005). Of these 4,600 pieces,
approximately 900 to 1,000 pieces were fully conserved and restored a year.
2. Management of the Museum Environment
It is important to maintain and manage an appropriate environment for the new National Museum of Korea, with
21 storage rooms and 45 exhibition rooms. The focus is on managing the optimal conservation environment for
the material characteristics of each cultural property, as a way of maintaining the perpetual conservation
environment.
At the new National Museum of Korea in Yongsan, this policy is implemented through periodic inspections of the
display site and exhibition hall. In addition, in order to prevent damage to the relics by the environmental
elements, air quality analysis is routinely performed.
In addition, any organic cultural properties are highly likely to have damage by harmful insects and
microorganisms. As a result, the biological conservation science issue is undertaken not just for temporary
preventive action but as a system of integrated project management (IPM).
3. Scientific Analysis of the Collection
For the cultural properties that are kept in the storage rooms of the National Museum of Korea, non-destructive
scientific measurement and analysis survey are done on the important cultural properties to acquire the scientific
information contained in the cultural properties, and to structure the database from it.
There are several levels of concern within the analysis field. First, when a nationally-designated cultural property
is named and registered, non-destructive component analysis must be done in order to designate and confirm an
accurate material composition. Second, in order to produce any reproduction and imitation products that are to be
used for exhibition, further material analysis of the original cultural property in the collection is implemented.
Third, through the analytical investigation for each kind and each era of the cultural properties in possession,
archeological scientific studies are performed for learning the component ingredients, organization and structure.
In addition, we obtain data for restoring the traditional production techniques, and studying the sources and
possible mixtures of the raw materials.
IV. Development Plan of Conservation Science
1. Strengthening of Human Resources
After the opening of the new National Museum of Korea, the ordinary exhibitions and special exhibitions have
been very active. With the special exhibition and overseas exchange exhibitions, held around ten times a year,
along with periodic replacement of exhibition works, the need for scientific conservation management is
continually increasing. In addition, the Conservation Science Laboratory supports the conservation treatment for
local National Museums, as well as for private and public institutions and university museums. There is a limit to
what the current conservation science staff members of the National Museum of Korea are able to accomplish,
and we have requested supplemental human resources from both the National Museum of Korea and from the
regional National Museums.
2. Facilitation of Scientific Analysis of Collections
Museum collections are an important repository of data to understand and restore our culture and history.
Therefore, the collections require the humanities information, such as archeology and art history, as well as the
scientific information on manufacturing technique, material, structure and composition. In addition, it is important
to have the fundamental scientific data for the assessment of purchased and donated cultural properties. For the
present, the National Museum of Korea is building up a database for analytical data from the non-destruction
investigation of the paintings and writings in the Museum’s possession. By undertaking non-destructive survey
analysis (X-ray, ultra-violet ray, microscopy, X-ray fluorescece analysis and image analyzer), the Conservation
Laboratory staff gather data on the materials of painting and writing, and on the characteristics of each artist
(pigment, seal and writing style) to use as a base for studies and appraisal of writings and paintings.
3. Strengthening the Identity of the National Museum of Korea as the National Representative Museum
1) Support of the local National Museums
The eleven local National Museums have one or two staff members working on conservation, but, when necessary,
the Conservation Science Laboratory of the National Museum of Korea supports the conservation treatment of
important cultural properties, and helps with the conservation environmental survey of storage rooms and
exhibition rooms. In addition, the Conservation Science Laboratory supports the budget for purchasing basic
equipment for conservation.
2) Support for private and public institutions and university museums
The current conservation facilities, conservation level and budget for the private and public institutions and
university museums are very poor. From 2007, we plan to establish a support plan for conservation in these
important collections (“emergency conservation SOS” System).
3) Operation of internship program
The National Museum of Korea provides practical work experience in conservation science for graduating
university students and persons engaged in the field by facilitating an internship system and seeking to develop
additional human resources in the future. Currently, the conservation students at each university take one to two
months of training during vacation periods, and, upon graduation, may gain an additional six months to one year
of work experience arranged through the Conservation Science Laboratory of the National Museum of Korea.
4. Strengthening of International Exchange
1) Promotion of exchange for South Korean and North Korean museums
Recently, as a part of the joint research on cultural heritage with the representative museum of North Korea,
Joseon Jungang History Museum, a number of cultural properties from North Korea will be exhibited at the
National Museum of Korea in June, 2006. In addition, for the conservation of the collection of the North Korean
Museum, those in charge of conservation science plan to set up a support plan following the implementation of
surveys on the collection. By strengthening the ties of exchange and cooperation with the persons in charge of
conservation science in North Korea, the Conservation Science Laboratory would contribute to the consistent and
effective conservation of the national heritages.
2) Agreement for international joint research
In order to optimize the conservation and restoration of the National Museum of Korea collections in more
systematic and scientific ways, we must look closely at the experiences of each country that has already
completed the conservation of similar materials, in order to compare strengths and weaknesses for undertaking
efficient conservation treatment.
From this point of view, for the successful conservation process of the wall paintings from Central Asia in the
collection of the National Museum of Korea, we sought joint research with the Tokyo National Cultural Property
Research Institute that had experience in the conservation of wall paintings. Therefore, with such a joint
agreement, the conservation process technology could be shared with the resulting major exhibition to come. We
look forward to continuing such joint research agreements in the future.
3) Structuring the conservation network of Asian museums
The network of the conservation science in Asian museums is structured to secure a channel for conservation
science exchange with other Asian countries. This network supports the conservation treatment for each material
of the cultural properties, for environmental survey and for scientific analysis in applicable countries and in Korea,
and facilitates the important exchange of human resources. In 2007, the conservators of National Museums in
Asia are invited to seek areas of mutual interest as a part of the “Asian Culture Partnership Project” of the Korean
Ministry of Culture and Tourism.
5. Cooperation with the National Research Institute of Cultural Heritage
The National Research Institute of Cultural Heritage is a chartered agency under the Korean government Cultural
Heritage Administration. The major activities are the development of repair materials for outstanding cultural
properties, preventive research for biological damage to the wooden buildings and development of insect
preventive substances, while the archeological research includes DNA analysis, radiocarbon (C-14) and thermoluminescence (TL) dating. As such, the National Research Institute of Cultural Heritage plays a mutually
supporting role with the National Museum of Korea.
V. Conclusion
With its new home and greatly expanded facilities in Yongsan, the National Museum of Korea is striving to
develop into a world class institution, actively responding to the new museum environment while meeting all of
the roles and obligations of a twenty-first century museum. As an integral and essential part of the National
Museum, the Conservation Science Laboratory must play an increasingly active part in supporting the overall
Museum strategy. The great challenge for the National Museum of Korea Conservation Science Laboratory will
be to continue to respond to all of our current responsibilities, as well as to initiate and pursue opportunities for
future outreach and international cooperation.
韓国国立中央博物館における保存科学の現在と将来
姜 炯台
韓国国立中央博物館 保存科学室長
Ⅰ. はじめに
1909 年に純宗王によって昌慶宮の敷地内に設立された帝国王室博物館は、
1945 年に韓国国立中央博物館として
改めて開館された。続く 60 年間に数度の移転を経て、同博物館は最終的に 2005 年 10 月 28 日にソウルの龍山地
区に新築された施設に居を構えた。韓国国立中央博物館の役割と義務は、収蔵、保存、研究、展示、教育および
博物館データの交換、さらに、この国を代表する博物館として、地方の博物館や地方都市の国立博物館の支援を
行うことにある。韓国国立中央博物館のこれらの役割と業務は、これまでは国内を対象としたものであったが、
ワールドクラスの博物館をめざして努力する 21 世紀の博物館の 1 つとして、今後は、世界において韓国文化の認
知度を高めるという新しい課題が同博物館に与えられている。
同博物館がその総合的使命を全うするためには、その責任を保存科学という文脈の中に反映させなければなら
ない。すなわち、収蔵品の科学的保存という基本的枠組みを維持しつつ、保存およびその支援と広報に関連する
さまざまな活動を行うことが、同博物館の保存科学の業務と役割ということになる。これらがもたらす成果は、
国内においては、文化遺産の予防的・科学的保存学の基盤を文化財保存センターという形で構築し、国際的には、
アジアの各博物館の保存科学ネットワークの推進と人材交換の奨励につながるであろう。
Ⅱ. 保存科学のための人材と予算
1975 年に設立された韓国国立中央博物館保存科学室は、いまや保存科学において 30 年の歴史を持つ。1990
年代末に至るまで、保存科学の分野に働く職員は 3、4 名であったが、しかし、2005 年の新築博物館の開館に際
して、収蔵品の包括的保存処置と保存環境という問題が開館時の展示を前に浮上した。
2002 年早々に、新設韓国国立中央博物館開館時の展示を成功させるべく、各収蔵品の保存と修復、環境調査お
よび科学分析のために、合計 13 名の常勤職員が確保された。さらに、2002 年後半には、合計 13 名のスタッフが
地方にある 11 の国立博物館の保存科学要員に配置された。表 1 にみられるように、これらの博物館の所在地は大
きく 4 つの地方(首都圏、忠清地方、嶺南地方、湖南地方)に分かれており、2、3 の博物館が互いに支援しあう
ようになっている。
韓国国立中央博物館の保存科学に関連する予算は、表 2 に示されている。この予算は主として収蔵品の保存処
置に使われており、必要に応じて、複製材料や模造材料の入手にも使われている。一部はさらに、地方の国立博
物館の収蔵品保存支援や設備支援に割り当てられている。
Ⅲ. 保存科学の現況
1. 収蔵品の保存と修復
2000 年代に入り、韓国国立中央博物館保存科学室は、同博物館既存の収蔵品の保存処置を通してその歴史的地
位と価値の強化を図る一方で、購入、寄贈または返還などで毎年その収蔵品に加わる文化財の保存処置を行って
きた。
1976 年から 2005 年にかけて韓国国立中央博物館が保存・修復を行った収蔵品の数は、合計で約 14,000 点にな
る。このうち、新しい韓国国立中央博物館の開館時の展示に向けて、過去 5 年間(2001∼2005 年)に 4,600 点に
対して保存処置が行われた。すなわち、年間 900∼1,000 点に対して完全な保存・修復が行われたことになる。
表 1. 地方別、材料別、人材配置(2006 年現在)
地方
博物館 金属製 木製
首都圏
中央
4
春川
1
陶器/ 壁画/
漆器
陶磁器 石造物
2
1
扶余
1
清州
1
環境
分析
合計
1
2
13
1
1
1
2
1
1
1
慶州
1
金海
1
1
晋州
1
1
光州
湖南地方
織物
1
大邸
嶺南地方
1
復刻
1
公州
忠清地方
1
書画
1
2
1
全州
1
1
1
済州
1
合計
11
4
2
2
1
1
1
1
1
1
2
26
表 2. 韓国国立中央博物館の保存科学に関する年間予算(単位:100 万ウォン、約 1,000 米ドル)
年度
2001
2002
2003
2004
2005
2006
予算
(米ドル)
948
(945)
955
(950)
1,142
(1,140)
1,259
(1,250)
1,275
(1,270)
901
(900)
2. 博物館環境の管理
保管室21室と展示室45室を持つ新しい韓国国立中央博物館にとって、適切な環境を維持・管理は、重要な問題
である。焦点は、恒久的保存環境を維持する1つの方法として、それぞれの材料特性にとって最適な環境を管理す
ることにある。
龍山に新築された韓国国立中央博物館では、陳列場と展示ホールの定期的検査を通してこの方針が実施されて
いる。また、環境による遺物への損傷を防ぐために、大気分析も日常的に行っている。
加えて、有機文化財は有害な昆虫や微生物によって損傷を受ける可能性が高い。したがって、生物学的保存科
学処置を、
単に一時的予防活動という形ではなく、
総合的プロジェクト管理(IPM)という形で体系的に行っている。
3. 収蔵品の科学分析
韓国国立中央博物館の保管室に保管されている文化財のために、重要な文化財に対して非破壊科学測定と分
析調査を行い、これらの文化財に収められている科学情報を入手し、それらの情報を用いてデータベースを構築
している。
分析にはいくつかのジャンルがある。まず、国家指定文化財に名称を与えて登録する際に、非破壊成因分析を
行い、正確な材料成因を識別し確認する。次に、展示に使う複製品や模造品を作る際に、所有している原作文化
財の材料分析を再度行う。3番目に、所有している各時代各種の文化財に関する分析調査を用いた考古科学的研究
を行い、成分成因、組織および構造を引き出す。さらに、伝統的な作成技術を復元するためのデータや、原材料
の産地と考えうる混合比率を引き出すためのデータも入手する。
Ⅳ. 保存科学開発計画
1. 人材強化
新しい韓国国立中央博物館の開館後、常設展示と特別展示を活発に行ってきた。年に10回ほど開かれる特別
展示会と海外との交換展示会、それに定期的に行われる展示作品の入れ替えによって、科学的保存管理の必要性
がますます高まっている。韓国国立中央博物館はまた、地方の国立博物館や民間や政府の団体、および大学の博
物館に対する支援も行っている。
したがって、
同博物館の現在の保存科学要員が達成できることには限界があり、
我々は、同博物館と地方の博物館の両方へ人材の補充を要請してきた。
2. 収蔵品の科学分析の簡便化
博物館の収蔵品は、我々の文化と歴史を理解し復元する上での貴重な宝庫である。したがって、収蔵品には、
製造技術、材料、構造および成因などの科学的情報とともに、考古学や美術史などの人文科学的情報も必要とな
る。さらに、購入した文化財や寄贈された文化財を評価するためには、基本的科学データの入手も大切である。
現在、韓国国立中央博物館では、所有する書画の非破壊調査によって引き出された分析データ用のデータベース
の構築を行っている。保存科学室職員は、非破壊調査による分析(X線、紫外線、顕微鏡およびX線蛍光分析、お
よび画像解析)を行って、書画の材料とそれぞれの作家の特徴(顔料、紋章および作風)に関するデータを収集
し、これを書画の研究と評価における基本データとして活用しようとしている。
3. 国家を代表する博物館としての韓国国立中央博物館の知名度の強化
1) 地方の国立博物館に対する支援
地方の11の博物館には、保存に携わるスタッフが1名か2名いるが、しかし、韓国国立中央博物館は、必要に応
じて、重要文化財の保存処置と保管室および展示室の保存環境の調査を支援している。さらに、保存のための基
本装置の購入予算への援助も行っている。
2) 民間および政府団体と大学博物館に対する支援
民間および政府団体と大学博物館の現在の保存施設、保存情況および予算は、きわめて乏しい。2007年より、
これら博物館の重要収蔵品の保存に向けた支援計画が実施されることになっている(
「緊急保存SOS制度」
)
。
3) インターンシップ・プログラムの実施
韓国国立中央博物館は、インターンシップを容易にすることによって、保存科学における臨床的作業を新卒者
とこの分野に従事する人々に提供し、将来的に人材を開発する道を模索している。現在、各大学で保存を学ぶ学
生たちは休暇中に1、2ヵ月の訓練を受けており、卒業と同時に、韓国国立中央博物館保存科学室が手配する6ヵ月
から1年間の作業経験を、さらに得ることもできる。
4. 国際交流の強化
1) 韓国と北朝鮮の交流活動の推進
現在行われている北朝鮮の代表的博物館である朝鮮中央歴史博物館との文化遺産に関する共同研究の一環と
して、6月に韓国国立中央博物館において、北朝鮮の所有する数々の文化財を展示することが予定されている。さ
らに、北朝鮮の博物館にある収蔵品の保存に関して、保存科学に従事する人々が、収蔵品に関する調査実施に続
く支援計画の策定を計画している。北朝鮮において保存科学に従事している人々との一連の交流および協力計画
を通じて、保存科学室は、民族的遺産の調和の取れた効果的保存に貢献しようとしている。
2) 国際的共同研究事業
韓国国立中央博物館の収蔵品の保存と修復をより科学的かつ体系的方法で行うためには、類似材料の保存がす
でに完了している各国の経験を綿密に調査し、その長所と欠点を比較したうえで、能率の良い保存処置を行う必
要があるだろう。
こうした観点から、韓国国立中央博物館が保存している中央アジアの壁画の保存処理を成功させるために、こ
れらの壁画の保存作業に経験を持つ、東京文化財研究所との共同研究が模索された。このような共同事業を通し
て、保存処理技術の共有が可能になり、その結果、大々的な展示も実現されるであろう。将来においても、この
ような共同研究事業が展開されることを期待している。
3) アジアの博物館の間のネットワーク構築
保存科学に関する情報をアジア各国と交換するチャンネルを確保するために、アジアの博物館の間で保存科学
のネットワークが構築されている。このネットワークは、必要とする国々と韓国における、文化財の各種材料の
保存処置、環境調査、および科学分析に支援を提供するとともに、貴重な人材の交換の簡便化につながる。2007
年には、文化観光省の「アジア文化パートナーシップ・プロジェクト」の一環として、アジア各国の国立博物館
のコンサヴァタを招き、互いの関心事を話し合うことになっている。
4) 国立文化遺産研究所との協力関係
国立文化遺産研究所は、文化遺産管理局の管轄下にある機関であり、その主要な活動は、顕著な文化財を修復
するための材料の開発、木造建築への生物学的損傷に対する予防的研究、および防虫物質の開発にあるが、一方
で、その考古学研究には、DNA分析、放射性炭素(C-14)および熱ルミネセンス(TL)年代決定が含まれる。した
がって、同研究所と韓国国立中央博物館とは相互補完的な役割を担っている。
Ⅴ. 結論
大幅に拡張され新築された龍山の施設に移転された韓国国立中央博物館は、
新しい博物館環境に積極的に対応
し、一方で 21 世紀の博物館の持つ役割と義務のすべて満たしつつ、ワールドクラスの組織に発展しようと懸命な
努力を行っている。この博物館の中核の 1 つである保存科学室は、博物館の総合的戦略を支えるためにますます
積極的な役割を演じなければならない。韓国国立中央博物館保存科学室にとって大きなチャレンジは、現在の責
任のすべてを今後も担いつつ、将来の活動と国際協力に向けて、新たな機会を追い求め遂行することにある。
国立国会図書館における保存修復活動の現状と今後の展望
久芳正和
国立国会図書館 収集部資料保存課課長補佐
製本から資料保存へ
国立国会図書館の資料保存担当組織は、帝国図書館時代の 1934 年に設置された製本室がその端緒
である。以降、製本係、製本課と名前の変遷はあったが、破損した資料を修復し、散逸の恐れのあ
る資料を合冊製本して利用と保存に備えることが主たる業務であった。
1980 年代に入り、酸性紙問題やそれを契機とする IFLA の資料保存の原則が日本に紹介され、日
本における資料保存の考え方は国立国会図書館を含め、基本的な転換を迫られた。
その結果、資料保存の基本的な考え方は、個々の破損した資料の修復・補修を中心とした「保存
のための治療」から、
「治療より予防へ」
、
「受身の保存から積極的な保存へ」と変化した。コレクシ
ョン全体を見通した上での資料保存の重要性が強く認識されるようになり、蔵書全体あるいは資料
群を適切な方法を用いて保存することによって「現在と未来の利用を保証する」という考え方が、
日本の図書館界全体に急速に行渡る状況になった。
国立国会図書館の資料保存業務も、1986 年の新館完成時に実施された機構改革において、組織が
それまでの「製本課」から「資料保存課」に変わり、大幅な業務の拡大が図られた。
資料保存業務を図書館の基本業務である収集、整理、閲覧と同じ基本業務と位置づけ、資料保存
課は、従来の製本・修復業務のほかに保存関連情報の収集、製本・修復技術の調査研究等を行い、
資料所管部局課と協力して館全体の資料保存計画の具体化により深く係わることになった。
現在の資料保存課の体制は、課長のほか技術職 12 名、事務職 9 名の 19 名からなる。このほかに、
スタッフ管理職も1名おかれている。
1. 図書館資料(収蔵品)と「人」
(職員)への対応
図書館・文書館資料の特徴は、展示主体の博物館、美術館の収蔵品とは違い、利用者が閲覧、複
写時に直接資料に触れ、動かされ続けることである。また博物館、美術館にとって日常的な展示は、
多くが紙素材の図書館資料にとっては、非日常的な姿勢を強要される過酷な状態といえる。
国立国会図書館の資料の全ては、日本の出版文化を形づくる文化財として、
「情報と物」の永久保
存を目指している。そして、保存は将来に渡って利用を保証するための前提条件であり、利用され
てこそ価値のある「利用のための資料保存」という認識である。
図書館資料の劣化要因には、資料の特性(素材、経年等)、物理的環境(保管環境、災害等)、人的
環境(製本、利用頻度等)など様々なことが考えられる。資料の劣化は多くの場合、単独ではなく複
数の劣化原因に起因する。
その対策として、傷んだ資料に対しては補修などの治療的な保存処置、痛まないようにするため
には保管環境の改善、職員・利用者への教育などの予防的な保存処置を行っている。
常に利用され続ける図書館資料が破損した時には、迅速かつ適切な対応(補修)が望まれる。原資
料を尊重し、資料に優しい技術・材料を用いることは言うまでもないが、資料の利用方法に見合っ
た耐用性も求められる。
予防的な保存としては、職員が日頃から図書館資料に対し資料保存の視点から関心をもち、
「目通
し、風通し」を行うことが大事である。そして、常に自館資料の状態に気を配っている資料保存を
専門に行う部署があり、相談窓口が近くにあることで細やかな対応が可能になる。
当館では、資料を所管している部署の職員に、簡易補修手当などの基本技術研修を定期的に実施
することで資料保存への関心を高め、例えば「資料を補修する、しない」
「資料を利用させる、させ
ない」などを判断する力を養っている。また、資料所管課の協力を得て資料の保存調査も行ってい
る。
その他にも、保存関係職員から提案されたテーマにより、専門家を招いて行われる「説明聴取会」
に、他部署の職員が参加することによる波及効果も期待される。
日常的にこの様な行為を積み重ねることで、組織全体の資料保存に対する意識を喚起し、底上げ
することで、文化財としての図書館資料を保存するという使命感を培うことができる。
資料保存の必要性、方向性は、日頃資料と接しいろいろな問題に遭遇し悩んだ中から生まれてく
るように思われる。そのためには、四六時中、資料保存と向き合い、専門に考える部署が不可欠で
ある。また、国立国会図書館の政策、方針、計画等に資料保存の視点からのアプローチも多く行わ
れている。資料保存業務に従事する職員が、図書館・文書館では司書・アーキビスト、博物館・美
術館においてはキュレーターと対等に議論ができる環境が求められる。
資料保存は言うまでもなく、
片手間に出来る仕事ではなく、
一時的なブームであってはならない。
恒常的に一定の保存レベルを維持してこそ未来の利用者へ遺産として届けることが可能となる。
2. ナショナルセンターとしての役割
国立国会図書館は、1989 年に国際図書館連盟資料保存プログラム(IFLA/PAC)アジア地域センター
に指定された。
PAC アジア地域センターでは、これまでに地域内各国からの研修生の受け入れ(2005 年までに 13
回)
、資料保存専門家の派遣(同、12 回)、資料保存シンポジュウムの開催などの活動を展開してき
た。
国内に関しては、従来から実施してきた図書館員を対象とした国立国会図書館資料保存研修、資
料保存の専門家との保存フォーラム等を継続していく予定である。
3. 連携により生み出されるもの
図書館、文書館、博物館、美術館と館種はさまざまであるが、文化財を保存していくことに関し
て、多くの部分で共有できる知識、技術がある。紙の劣化対策、災害対策などは、日本のみならず
世界共通の課題であり、様々な人類の遺産を後世に伝えることは、館種のみならず、国を超えた世
界規模での協力が不可欠である。
国立国会図書館では、図書館だけでなく公文書館、博物館など資料保存活動を行っている日本国
内の類縁機関との情報交換、連携強化を目的に 2003 年度から紙資料の保存を軸に据えた「資料保存
懇話会」を組織しており、今後とも人類共通のかけがえのない知的遺産である資料の永続的利用を
保証すべく全国的な保存協力活動をいっそう推進していく所存である。
本日は、こうした館種を超えた保存の実践をテーマにした国際シンポジウムにお招きいただき有
難うございました。これを機に、館種を超えた実践的な保存協力がより一層推進されることを期待
しております。
Present state and future prospects for preservation and restoration activities
of the National Diet Library
Masakazu Kuba
Assistant Chief of Preservation Division
National Diet Library, Japan
From book binding to resource preservation
The organization in charge of resource preservation in the National Diet Library originated with the book binding room established in
1934, when the library was called the Imperial Library. Since then, the name of the organization has been changed to the book
binder and book binding section, however, the main mission has always been the restoration of damaged materials and the binding of
materials that are in danger of becoming scattered and lost in order to ensure their continued availability for use and their preservation.
In the 1980s, the acid paper problem and IFLA’s principle of resource preservation triggered by this problem were introduced in Japan,
and fundamental changes were made in the concept of resource preservation in Japan, even in the National Diet Library.
As a result of that, the fundamental concept of resource preservation changed from ”remedy for preservation” focusing on repairing
and mending of individual damaged materials to “prevention rather than remedy” and “from passive preservation to active
preservation”. The significance of resource preservation from the viewpoint of the overall collection began to be recognized strongly,
and the idea of “securing present and future usage” through preservation of book stocks as a whole or material groups using
appropriate methods spread rapidly throughout the library industry in Japan.
Resource preservation work in the National Diet Library was changed under the institutional reforms carried out in 1986 when a new
building was completed, and the organization was changed from the former “book binding section” to the “preservation and
conservation division” and operations were expanded significantly.
The resource preservation activity has been positioned as a fundamental activity on the same level as other fundamental activities of
the library such as collecting, collating and inspection, and the resource preservation section started to carry out the collection of
information regarding preservation as well as research/study on bookbinding and restoration techniques in addition to the original
bookbinding and restoration activity, and to be more involved in the resource preservation plan of the library as a whole in cooperation
with the bureaus and sections responsible for resources.
The present preservation and conservation division is run by a total of 19 staff consisting of 1 division manager, 12 technical personnel
and 9 clerical personnel. In addition to these staff, one staff supervisor is appointed.
1. Handling of library materials (stored items) and “people” (library staff)
The main feature of materials in libraries or archives is that they are directly handled and moved around constantly by users for
viewing and copying, which is very different from the items kept in museums and art galleries where the items are usually just
exhibited. What are considered to be ordinary handling measures in exhibitions held at museums and art galleries would represent
an extraordinary attitude for the handling of library materials, which are often paper based, imposing very severe conditions.
We are aiming at permanent preservation of “information and actual items” with regard to all materials held by the National Diet
Library as cultural assets that form the publishing culture of Japan. We have a perception that preservation is a prerequisite for
guaranteeing future usage and we “preserve resources for the purpose of usage”, where resources have a value only if they are used.
As the causes of deterioration of library resources, various factors can be considered including the intrinsic properties of the resources
themselves (material, aging, etc.), physical environment (storage environment, disaster, etc.) and human environment (bookbinding,
usage frequency, etc.). In many instances, the deterioration of resources occurs due to multiple causes rather than one single cause.
As a countermeasure for deterioration, we use a remedial preservative treatment such as repair of damaged materials, improve the
storage environment in order to avoid damage and take preventive preservation treatment such as education of staff and users.
When library materials that are constantly utilized are damaged, prompt and appropriate handling (restoration) is required. Needless
to say we have to respect the original resources and use resource friendly technology, but also these resources must have durability
appropriate to the use for which they are intended.
For preventive preservation, it is important for library staff to take an interest in library resources from the point of view of
preservation in order to perform “visual inspection and ventilation” on a regular basis. Furthermore, when there is a section that
specializes in resource preservation and cares constantly for the state of library resources and an inquiry counter nearby, careful
handling becomes possible.
In this library, fundamental technical training is given on a regular basis to staff of the section that is responsible for resources
including simple repair methods and so on in order to enhance their interest in preservation of resources and to foster the ability to
judge, for example “whether or not to repair resources” or “whether or not to allow people to use resources”. Moreover, we carry out
preservation research on resources with cooperation from the sections responsible for resources.
We also hold “explanatory hearing meetings” with participation from experts according to the themes proposed by staff concerned
with preservation, and a knock-on effect can be expected if the staff of other divisions participate in these meetings.
It is possible to raise the awareness of the entire organization regarding the preservation of resources by carrying out this kind of action
on a daily basis and to cultivate a sense of responsibility for preserving library resources as cultural assets through this enhancement of
awareness.
It seems that the necessity and direction of resource preservation can be discovered through handling resources everyday, considering
problems and facing them. Therefore, in order to discover them it is crucial to have a division that deals with resource preservation
and considers it from an expert view point at all times. Moreover, approaches from the viewpoint of resource preservation are often
used in making measures, policies and plans for the National Diet Library. It is requested that the environment furnished be one in
which the staff engaged in resource preservation operations are able to discuss matters on the same footing as librarians/archivists in
libraries and archives, and curators in museums and art galleries.
Preservation of resources is, of course, not a side job, and it should not be a sort of temporary fad. It will be possible to hand over
resources to future users as a heritage only if a certain level of preservation is maintained permanently.
2. Role as a national center
The National Diet Library was designated as the Asia Regional Center of International Federation of Library Associations and
Institutions Core Activity on Preservation and Conservation (IFLA/PAC) in 1989.
PAC Asia Regional Center has developed various activities up to now including receiving trainees from various countries in the region
(13 times by 2005), dispatching resource preservation experts (12 times by 2005) and holding resource preservation symposiums.
Inside Japan, we are planning to continue providing National Diet Library resource preservation training targeting library staff and
holding preservation forums with resource preservation experts.
3. What is gained through coalition
Libraries, archives, museums and art galleries, the form of building varies, but a lot of knowledge and technology can be shared in
terms of preservation of cultural assets. Countermeasures against paper deterioration and disaster control are common issues not
only in Japan but throughout the world, and global scale cooperation not only across different forms of building but also across
borders is crucial in order to ensure that the various assets of the human race are passed on for posterity.
The National Diet Library organizes a “Committee on Preservation and Conservation ”focusing on preservation of paper resources
from 2003 for the purpose of information exchange and reinforcement of cooperation with the related institutions in Japan that carry
out resource preservation activities such as libraries, archives and museums. The National Diet Library intends to continue
promoting nationwide cooperative preservation activities further in order to assure the permanent usage of the resources, which are
irreplaceable and common intellectual assets of humankind.
Thank you very much for inviting me to this international symposium with the theme of preservation across different forms of
building. I believe that this symposium represents a wonderful opportunity for the further promotion of practical cooperation for
preservation across different forms of building.
国立民族学博物館における有形文化資源の保存管理体制、そして今後の展望
園田直子
国立民族学博物館 文化資源研究センター助教授
はじめに
国立民族学博物館(以下、民博)は、1974 年、大学共同利用機関として設置された。民族
学・文化人類学および隣接諸分野の調査・研究をおこなう研究センターとしての機能とと
もに、研究成果を展示、公開する博物館の機能を有している。また、民博には大学共同利
用機関を基盤として設置された総合研究大学院大学の文化科学研究科(地域文化学専攻、
比較文化学専攻)が置かれており、研究者養成にも一役を担っている。
民博の組織
2004 年 4 月、民博は大学共同利用機関法人・人間文化研究機構の一員となり、新たな
出発をした。現在、民族社会研究部、民族文化研究部、先端人類科学研究部、研究戦略セ
ンター、文化資源研究センター、管理部および情報管理施設で構成されている。このうち
文化資源の体系的な管理、情報化、その共同利用や社会還元にむけての研究をおこなうの
が文化資源研究センターであり、文化資源に関する開発研究や事業は文化資源プロジェク
トとして運営されている。文化資源プロジェクトは、調査・収集分野、資料管理分野、情
報化分野、社会連携分野、展示分野に大別される。本シンポジウムにとくに関連の深い文
化資源プロジェクトとして、収蔵品への対応では「有形文化資源の保存管理システム構築」
(資料管理分野)、国際協力の一例としては「JICA 集団研修:博物館学集中コース運営」(社
会連携分野)をあげたい。
文化資源プロジェクト
「有形文化資源の保存管理システム構築」は、民博所蔵の有形文化資源を総合的な視点
でとらえたうえで、保存対策の立案、管理方法論の策定、保存環境の整備、さらには関連
の開発研究をおこなうもので、民博の共同研究「国立民族学博物館所蔵資料の総合的保存
管理―システム構築にむけての基礎的研究」と密接に連動している。共同研究では、問題
の解決策を構築するまでの基礎研究を、外部の研究者と共同でおこなっている。一方、文
化資源プロジェクトでは、共同研究の成果をさらに発展させるための大規模な実験や実践
をふくむ開発研究をおこなうとともに、文化資源の管理に携わっている情報管理施設のス
タッフと協力体制をとることで研究成果を直接、実践の場で反映させている。複数の事項
が同時進行しているなか、防虫・殺虫対策の具体的事例を紹介する。
国際協力機構への研修の実施
「JICA 集団研修:博物館学集中コース」は、民博が 2004 年度から国際協力機構(JICA)
から全面的委託を受け、滋賀県立琵琶湖博物館と協働で実施している 4 ヶ月の研修である。
このコースは、途上国の博物館関係者を対象に、博物館の運営に必要な収集・整理・研究・
展示・保存に関する実践的技術の研修をおこなうものであるが、ディスカッションやフォ
ーラムなどを通じて日本の関係者にとっても多くのことが学べる好機になっている。
民博では 1994∼2003 年までの 10 年間、JICA 集団研修「博物館技術(収集、保存、展
示)」研修コースの一環として 3 週間にわたる「博物館学国際協力セミナー」を実施してき
た経緯があり、双方あわせて 130 名にのぼる参加者との間に世界的なネットワークが形成
されている。民博の 55 名あまりの研究者は、それぞれのフィールド活動を通じて参加者
の国を調査・研究で継続的に訪れるため、研修前後のフォロー体制がつくりやすい状況に
ある。たとえば 2005 年 12 月、ザンビアで JICA のかつての研修生たちが自国の国立・私
立の博物館関係者を対象に「博物館学ワークショップ」を開催したときには、民博から 3
名がフォローアップの一環として参加した。
各研究機関との連携
最後に連携の試みをひとつ紹介したい。人間文化研究機構の連携研究「文化資源の高度
活用」の枠内で「有形文化資源の共同利用を推進するための資料管理基盤形成」が 2006
年度から 3 年計画で始まった。本研究は、人間文化研究機構のうち有形文化資源を多く有
する国立民族学博物館、国立歴史民俗博物館、国文学研究資料館、そして、機構外から東
京国立博物館が連携しておこなうものである。各機関では既にさまざまな研究やプロジェ
クトが実行されているが、それらは各機関の所蔵資料を対象とした、いわば各論的な研究
である。それに対し、この連携研究では、所蔵品の性格および運用のあり方を異にする機
関が、有形文化資源という資料群を対象に、総論的な研究をおこなうのが特徴である。各
機関が抱える個々の問題の解決策を検討するのではなく、より広い視点から、保存環境に
関わる情報の解析と評価、有形文化資源の保管・管理方法の最適化の課題に取り組んでい
く。一方、各機関は連携研究の成果を、それぞれの実状にあった解決策の構築に応用し実
践の場に役立てていく。目指しているのはこのような連携関係である。
さらにいえば、このような協力関係が国内のみならず、広く海外の研究機関との間にお
いても発展していくことが望まれる。大切なのは相互に情報や知見を共有しながらも、そ
れらをどのように導入し応用していくかは、各機関がそれぞれの実状、ひいてはその国の
文化、自然環境などをも考慮しながら判断することであり、それこそが臨床保存学の実践
の場にいるわたしたちの責任であろう。
Conservation Management System for Tangible Cultural Resources
at the National Museum of Ethnology, Osaka, Japan
Naoko Sonoda
Associate Professor, Research Center for Cultural Resources
National Museum of Ethnology, Osaka, Japan
The National Museum of Ethnology, Osaka (referred to as "Minpaku") was founded in 1974 as an inter-university research institute. It
has the functions of a research center for conducting surveys and researches in ethnology, cultural anthropology and adjacent disciplines,
as well as the functions of a museum which presents the research findings to the general public in the form of exhibitions, etc. At the same
time, Minpaku is pursuing its role in the training of researchers, for it also houses the School of Cultural and Social Studies (Regional
Cultural Studies, Comparative Cultural Studies) of the Graduate University for Advanced Studies established within the framework of the
Inter-University Research Institutes.
Minpaku marked a new start in April 2004 when it became a member of the National Institutes for the Humanities (Inter-University
Research Institute Corporation). Currently, our museum comprises the Department of Social Research, the Department of Cultural
Research, the Department of Advanced Studies in Anthropology, the Center for Research Development, the Research Center for Cultural
Resources, the Office of Administration, and the Information and Documentation Center. Among them, the Research Center for Cultural
Resources is in charge of the systematic management as well as the documentation and digitization of cultural resources, and of
conducting researches for realizing the shared use of these cultural resources and for their use for the benefit of society, and developmental
research and undertakings related to cultural resources are operated as Cultural Resource Projects. These Cultural Resource Projects can
be broadly categorized into the Survey and Collection Project, the Materials Management Project, the Documentation and Digitization
Project, the Community Alliance Project, and the Exhibition Development Project. I would like to cite here Cultural Resource Projects
deeply relevant to this Symposium, namely, in terms of handling of collections, the "Development of a Storage and Maintenance System
for Tangible Cultural Resources" (Materials Management Project) and, as an example of our international cooperation activities, the
"Organization of the JICA* Group Training Program: Intensive Course on Museology" (Community Alliance Project). *(JICA: the
Japan International Cooperation Agency).
The "Development of a Storage and Maintenance System for Tangible Cultural Resources" which, based upon a comprehensive view of
the tangible cultural resources stored at Minpaku, is a project aimed at drawing up conservation measures, formulating management
methodologies, maintaining environmental conditions in conservation, and furthermore, conducting affiliated development research, and
is closely linked with Minpaku's inter-university joint research project: "Integrated Conservation Management for the Collection of the
National Museum of Ethnology: First Stage". In this inter-university joint research project, we conduct, in collaboration with external
researchers, fundamental research work leading up to the development of solutions for problematic issues. On the other hand, in the
Cultural Resource Projects, we carry out developmental research work including large-scale experiments and practical implementations
with the objective of further developing the fruit borne by the inter-university joint research project, and directly reflect the results of our
researches in the stage of implementation at the worksites in collaboration with the Information and Documentation Center staff who are
engaged in the management of cultural resources. Among the various programs proceeding concurrently, I would like to introduce a
specific case study on insect-proof and insecticidal treatments.
The "JICA Group Training Program: Intensive Course on Museology", which has been fully entrusted upon Minpaku by JICA
since
2004, is a 4-month training course which we organize together with the Lake Biwa Museum, Shiga Prefecture. This course, in which
members working in museums or related professions of developing countries receive training on practical skills in collection,
classification and arrangement, research, display, and conservation which are required in the management of museums, also offers an
excellent occasion for Japanese members working in this field to learn many things through discussions and forums. For 10 years from
1994 to 2003, we at Minpaku were in charge of holding the "International Cooperation Seminar on Museology", lasting 3 weeks, as part
of the training course on "Museum Management Technology (Collection, Conservation, Exhibition)" which was also a JICA Group
Training Program, and through these two training courses, we have been able to form a global network totalling as many as 130
participants. As the approximately 55 Minpaku researchers continue to make regular visits to the countries of the participants for the
purpose of surveys and research through their respective field activities, it is fairly easy for us to provide necessary assistance prior to and
subsequent to the training course. For instance, in December 2005 when a "Workshop on Museology" was organized in Zambia by
former JICA trainees for their fellow countrymen working at national and private museums, 3 members of Minpaku participated as part
of the follow-up system.
Lastly, I would like to introduce a certain attempt at alliance currently undertaken by Minpaku. Within the framework of the collaborative
research of the National Institutes for the Humanities called "Advanced Utilization of Cultural Resources", a research on the "Integrated
Conservation Management for Tangible Cultural Resources" was launched in 2006 as a 3-year program. This is a research carried out
jointly by our National Museum of Ethnology, Osaka, the National Museum of Japanese History, and the National Institute of Japanese
Literature, which are all members of the National Institutes for the Humanities owning numerous tangible cultural resources, and by the
Tokyo National Museum which does not belong to the membership of the National Institutes for the Humanities. All kinds of researches
and projects have already been undertaken at each institute, but these are all so-called specific researches conducted on resources stored
respectively at the institutes. In contrast, this joint research is characterized by its general nature, for the research is carried out on
collections of materials belonging to the category of tangible cultural resources by institutes which have collections of a different nature
from one another and which have their own styles of managing the collections. Rather than exploring solutions to each of the problems
with which each institute is faced, this joint research is to be conducted on a broader perspective with the objective of analysing and
evaluating information on environmental conditions in conservation, and of searching for the optimization of the conservation and
management methods for tangible cultural resources. At the same time, each of these institutes is to apply the results of this joint research
in the formulation of solutions suited to the actual conditions of each institute, and thereupon make effective use of the results in practical
implementations. This is the kind of alliance we are aiming at.
Furthermore, it would be ideal for such a collaboration style to eventually take root and develop not only within Japan but also on a more
extensive scale with overseas research institutions. The important thing is that, while mutually sharing information and knowledge, the
manner in which these will be applied should be left up to the discretion of each institute, in light of their own actual conditions, and even
of the culture and natural environment of their countries. The realization of such a collaboration style is, no doubt, the very responsibility
entrusted upon those of us actually involved in the Practice of Conservation.
プ ラ イ マ リ ・ ケ ア と 臨 床 保 存 学
神庭信幸
東京国立博物館 文化財部保存修復課長
はじめに
文化財の保存を担当する専門部署として東京国立博物館に保存修復課が設置されたのは、国立博物
館が独立行政法人化された平成13年であり、それ以前は10年近くにわたって保存修復管理官一人
がその任に当たっていた。現在、常勤、非常勤職員、外部技術者を合わせると15名ほどの専門家が
保存修復課に常駐し、作品の安全確保と未来への継承を目標として保存修復事業に携わっている。そ
こでは、博物館のさまざまな事業と連携し、損傷をもつ作品への対応など、目に見える危険への対処、
輸送の安全確保など、目に見えない危険の回避を通じて、事業の質を文化財にとって安全なレベルへ
転換すること、そして文化財が安定した状態に移行することを支援する取り組みを行っている。現在
こうした取り組みの中で、博物館事業と保存修復事業とは不可分の関係になっている。このように、
博物館で働く保存修復専門家は基礎的な研究事業とは別に、常に文化財に寄り添い、その状態を観察
し、安全と快方に備えている。ここに臨床的対応の必要性が存在し、その確立が必要である。
文化財保存学における術(アート)
文化財保存学(Conservation of Cultural Properties)における使命感(Conservation Mission)とは、
「文化財を保存、継承していくために必要な個々の技術、手段、思想を最大限に生かすために、環境保
全(Preventive Conservation) あるいは保存修理(Curative Conservation)などの具体的な実践のみな
らず、保存に関する開発研究、教育・普及あるいは文化財の保存、継承を促進する社会的環境の改善
を目指す」と言える。この使命を果たすために、保存学の中にはさまざまな専門分野が複合的に配され
ている。保存学の中のサイエンスを担う分野を保存科学(Conservation Science)と言う。サイエンス
とは文化財の構造・材質・技術・年代・産地、あるいは文化財の経年や外的要因による劣化現象など
に存在する普遍的な法則を見出し、これに基づいて文化財の環境保全、調査・診断あるいは保存修理
のための技法を開発して、その運用の技術(Technology)を作り出すことである。保存学の基礎研究を
行う機能を担う。
保存科学に対して、従来保存技術(Conservation Technology)と呼ばれてきた分野は、修理技術ある
いは模写技術という極めて限定的な技術(Technology)を示すものであり、ここで述べる術(アート
Art)とは異なる。保存学における術(アート)とは、文化財の保存を具体的に行う中で、科学技術や伝
統技術などの高度な保存学の知識とさまざまなテクノロジーを組み合わせ、かつ文化財のもつ魅力を
損なうことなく、保存と公開を具現化するためにこれらの技術を適用する技あるいは技能のことを言
う。いかにして最小限の危険に止めるか、文化財に余分のストレスを与えることなく適用できるかを
考えた上で実行する判断力と実行力が術の本体である。
プライマリ・ケア(Primary Care) と 臨床保存学(Practice of Conservation)
初期段階における保存処置の効果的な実施、必要に応じた保存修復処置の確実な保証、文化財の保
存と公開の立場に立った保存、という基本原則をふまえた保存をプライマリ・ケアと呼ぶ。それは、
全体を見通した保存、包括的な保存を意味する。
劣化現象の科学、材質・技法の科学は研究することを使命とするが、術(アート)は劣化した状態に
ある文化財の保存と活用のマネージメントを高い技で行うことを使命とする。科学としての保存学を
実践する専門家が保存科学者で、劣化した文化財の保存活用のためにアートを用いてプライマリ・ケ
アを実践する専門家を保存学の臨床家と呼ぶ。臨床保存学は術を駆使して文化財の保全に当たる。言
葉を替えれば医術に擬えて保存の術(Art of Practice of Conservation)と言うことができる。
プライマリ・ケアの中には、保存修理処置(キュア Cure)も含まれる。修理技術者は保存修理処置(キ
ュア)に重点を置いて活動を行うが、臨床保存学ではキュアも含みつつ、文化財のケア(Care)に重点を
置いて実践に取り組む必要がある。実践の取り組み方をコンサヴェーション・ケア・システムと呼ぶ。
文化財保存修復管理士(Conservator)
このように見てくると、保存科学、保存修理の専門家の他に臨床家としての専門家が必要なことが
わかる。文化財保存を実践する臨床家として、具体的な使命と方法論を身につけた専門家を文化財保
存修復管理士と言う。文化財保存修復管理士は以下のように定義される。
〔臨床保存学の使命〕
1.文化財を保存、継承していくためにプライマリ・ケアの具体的な実践、文化財の保存、継承を
促進する社会的環境の改善を目指す。
〔プライマリ・ケア〕
2.博物館などの最前線の場で、文化財の保存を包括的に実践することをプライマリ・ケアと言う。
〔文化財保存修復管理士〕
3.文化財の保存には、劣化原因や修理処置方法論の探求を目指す専門家の他に、保存と公開のた
めのプライマリ・ケアに対するマネージメントを高度な術で行う臨床家としての専門家が必要で
ある。これを文化財保存修復管理士(コンサヴァタ Conservator)と言う。
4.文化財保存修復管理士はプライマリ・ケアを通じて保存と公開を具現化するために、科学技術
と伝統技術が文化財に安全に適用されるようにしなければならない。プライマリ・ケアはコンサ
ヴェーション・ケア・システムによって具体的な方法論が示される。
〔コンサヴェーション・ケア・システム〕
5.予防保存学および修理保存学をあわせもつ具体的な文化財保存方法論をコンサヴェーション・
ケア・システムという。あらゆる状況下で、両者を適切なバランスで運用しながら文化財の保全
に当たることを文化財に対するケアと言う。
〔予防保存学(Preventive Conservation)〕
6.そのためには、総ての状況(収蔵、展示、移動、調査)において文化財が保全されるように、
環境保全計画に基づいて安全な環境を確保する必要がある。
〔修理保存学(Curative Conservation)〕
7.軽微な損傷を見出した時には対症修理を行い、取り扱い上の安全を図る。処置内容は最小限の
処置(ミニマム・トリートメント)でなければならない。
8.対症修理による対処で困難な損傷の場合には、根治修理により原因を除去し、状態の安定を図
る。
〔インターンシップ〕
9.文化財保存修復管理士の育成は大学等による専門教育によると共に、実践的な場において理念
の把握、判断力および技術の習得に努めることができるように、コンサヴェーション・ケア・シ
ステムの中にインターンシップを導入する。
Primary Care and Practice of Conservation
Nobuyuki Kamba
Head of Conservation and Restoration Division
Tokyo National Museum, Japan
Foreword
It was in 2001, the year when the national museums were reorganized into independent administrative institutions, that a conservation and
restoration division was newly set up in the Tokyo National Museum as a special division in charge of the conservation of cultural
properties. Prior to this, only one conservation officer had been entrusted with this assignment for almost 10 years. Currently, a total of some
15 specialists, comprising full-time, part-time, and also external contract professionals, are assigned in our Conservation and Restoration
Division, and are engaged in conservation projects with the goal of securing the safety of works and of ensuring that these works are handed
over to the future generations. In this division, in liaison with other projects of the museum, we provide skills and knowledge in the process
of adjusting projects to a safe level for the cultural properties, and also in stabilizing the conditions of the cultural properties, specifically
through dealing with visible risks such as treating damaged works, and through preventing invisible risks such as securing safe
transportation. Today, through such activities, the museum projects and conservation projects have become inseparably related. In this
manner, in addition to conducting basic research activities, specialists in conservation working in the museum are constantly by the side of
cultural properties, observing their conditions, and working for their safety and recovery. Here, a practical approach is called for, and there is
the need to define such a practical approach.
The Art of Conservation of Cultural Properties
The mission of the Conservation of Cultural Properties can be described as follows: "Not only to actually practise preventive conservation
or curative conservation, but also to aim to bring improvements in the social environment for promoting conservation-related research and
development as well as education and diffusion, and also the conservation and the transmission of cultural properties, in order to put to
maximum use individual techniques, means and concepts necessary for conserving and handing over cultural properties." It is with the end
to accomplishing this mission that Conservation is made up of diverse specialized fields.
The field in charge of the science within Conservation is called Conservation Science. The role of this science is to identify universal laws
that exist within the structures, materials, original techniques, age, place of origin, or within the deterioration phenomena caused by aging of
the cultural properties or by external factors, and based on these universal laws, to develop methodologies for preventive conservation,
survey and diagnosis, or for curative conservation of cultural properties, and to create technologies for implementing these methodologies.
This science has the functions of conducting basic research within Conservation.
In contrast to Conservation Science, the conventional field known as Conservation Technology refers to exclusive technologies such as
restoration techniques and copy technology in Japan, and differs from the Art of Conservation here at issue. As for Art within Conservation,
this refers to the skills and expertise for combining high-level conservation knowledge such as scientific technology and traditional
techniques with various other technologies, and also for applying these technologies for the purpose of conserving and realizing the public
display of cultural properties, while making sure that their charms are not blemished in the process, within the actual practice of conserving
cultural properties. The essence of this Art lies in the judgement for taking action and the power of execution, upon giving due consideration
as to how to minimize the risks and how these technologies can be applied to the cultural properties without inflicting excessive stress on the
works.
Primary Care and Practice of Conservation
Primary Care signifies conservation activities based upon the fundamental principles of effective implementation of conservation treatments
in the initial stage, absolute warranty of cure as required, and conservation of cultural properties and their conservation in view of their
public display. It refers to foresighted conservation as well as comprehensive conservation.
While the science on deterioration phenomena and the science on materials and techniques have the mission of conducting research, the Art
of Conservation has the mission of performing management of conservation and utilization of cultural properties in deteriorated conditions
with high expertise. Specialists practising Conservation as a science are known as conservation scientists whereas those practising Primary
Care by applying the Art of Conservation for the conservation and utilization of deteriorated cultural properties are called practitioners of
Conservation. In the Practice of Conservation, cultural properties are preserved by making effective use of Art. In other words, the Practice
of Conservation can be described as the Art of Practice of Conservation, in analogy with medical practices.
Primary Care includes cure. Specialists of curative conservation perform their activities focused on cure, but in the Practice of Conservation,
there is the need to practise conservation by focusing on the care of cultural properties including their cure. The manner in which this task
should be practised is called the Conservation Care System.
Conservator
Thus, it is evident that, in addition to experts on Conservation Science and cure, there is the need for professionals working as practitioners
of Conservation. A professional who has concrete missions and has mastered methodologies as a practitioner of conservation of cultural
properties is called a Conservator of Cultural Properties (hereunder to be referred to as "Conservator"). The role of the Conservator is
defined as follows:
[Mission of Practice of Conservation]
1. To practise Primary Care and to aim for the improvement of the social environment for promoting the conservation and transmission
of cultural properties, with the end to conserving and handing over cultural properties.
[Primary Care]
2. Primary Care refers to the act of comprehensively practising conservation of cultural properties on the front lines of museums, etc.
[Conservator of Cultural Properties]
3. For the conservation of cultural properties, in addition to specialists who devote themselves to pursuing the deterioration causes and
methodologies for curative conservation, there is the need for a professional serving as a practitioner in charge of the management
related to preservation and public display with high level of Art. Such a professional is called a Conservator.
4. The Conservator, in order to realize preservation and public display through Primary Care, must ensure that scientific technology and
traditional techniques are applied safely to cultural properties. The specific methodologies for Primary Care are prescribed by the
Conservation Care System.
[Conservation Care System]
5. Concrete methodologies for conserving cultural properties, combining Preventive Conservation and Curative Conservation
methodologies, are referred to as the Conservation Care System. Care of cultural properties involves the preservation of cultural
properties by applying the two types of methodologies in an appropriate balance under all conditions.
[Preventive Conservation]
6. In order to carry out the above, there is the need to secure a safe environment based upon a programme for the preservation of the
environment surrounding cultural properties, with the end to ensuring the preservation of cultural properties under all circumstances
(storage, exhibition, transportation and handling, survey).
[Curative Conservation]
7. Curative Conservation involves performing symptomatic treatment and ensuring safety of treatment in the event that a slight damage is
identified in a cultural property. The treatment performed must be within the range of minimum treatment.
8. In the event that it is deemed difficult to cure the identified damage by symptomatic treatment, the cause of the damage must be
recovered by radical treatment, with the goal of stabilizing the conditions of the cultural property.
[Internship]
9. The training of Conservators is entrusted to specialty education at universities, etc., and in order to provide the trainees with on-the-job
training for mastering the theory in practical situations and acquiring judgement as well as skills, an internship is introduced into the
Conservation Care System.
博物館・美術館等における資料の保存に対して東京文化財研究所の果たしている役割
三浦定俊
東京文化財研究所 企画情報部長
東京文化財研究所は、その前身である美術研究所の創設者の黒田清輝により寄贈された作品をの
ぞいて博物館・美術館のように所蔵品を持たず、常設展示を行う機関でもないが、全国の博物館・
美術館等における資料の保存に果たしている役割は大きい。研究所には 1952 年に、国の機関として
我が国で初めて文化財を科学的手法で総合的に調査する研究部が設置され、以来、文化財の分析、
保存、修復に関わる科学的研究の中心としての役割を務めてきた。特に温湿度、光、空気汚染など
博物館・美術館の保存環境に対する研究は設立の初期から行われ、研究室内での研究だけでなく、
全国各地の館からの相談も受けて現場と密接に結びついた研究を行ってきた。
現在、研究所が行っている業務の中で、日本全国の博物館・美術館等に対して関わりの深い仕事
の一つは、国指定文化財の展示のための保存環境調査である。国指定文化財を他の都道府県から借
用して展示する場合は、一般に文化庁長官の許可を要するが、中でも国指定文化財を初めて展示す
る館に対しては、研究所は文化庁美術学芸課に協力して、温湿度、照明、空気環境などについての
館内環境調査を行っている。毎年、25 館前後の数の施設について調査を行う他、それをはるかに超
える数の相談を個別に、博物館・美術館だけでなく文書館、図書館からも受けている。
国指定文化財の展示に関わる調査は国の文化財行政と密接に関わった仕事で、研究所はナショナ
ルセンターとしての役割を担っているが、単に各館で温湿度、照明、空気環境などの測定をするだ
けではない。調査の過程で明らかになってくる様々な保存上の問題について、問題点を改善するた
めにはどのようにすればよいか、担当の学芸員と相談しながら調査を進めている。特に新設施設に
ついては、できるだけ設計段階から関与して、あらかじめ予想される問題を回避するためにはどの
ようにすればよいかなど、コンサルタントとしての役割も果たしている。また調査結果は館の規模
や施工時期などについて、定まったフォーマットに従って整理をしているので、それらの結果を解
析することにより、文化財展示施設の保存環境に関する毎年の動向、全体の流れなどが明らかにな
る。
研究所がナショナルセンターとしての役割を担った業務としてはもう一つ、臭化メチルの全廃に
よる生物被害対策の見直しがある。
我が国では 1970 年頃から臭化メチルが殺虫燻蒸剤として文化財
にも広く使用されてきた。しかし 1997 年のモントリオール議定書締約国会議で、臭化メチルはオゾ
ン層破壊物質として、2004 年末に使用が全廃されることが決まった。そこで研究所は文化庁と協力
して、1997 年から代替法の開発と普及に努め、2001 年には文化庁から「文化財の生物被害防止に関
する日常管理の手引き」を配布し、同じ年に現場での害虫の同定や防除に役立てるため『文化財害
虫事典』を公刊した。またこれからの生物被害防止法として、総合的有害生物管理(IPM)について
のガイドブックや DVD も公刊した。
以上述べたように、研究所の活動は国の文化財行政と連携して行われ、研究所はナショナルセン
ターとしての役割を果たしている。しかし、全国の博物館・美術館等の実情を反映して研究が行わ
れなければならないのは当然のことである。そのために我々は、毎日の保存環境調査・相談や毎年
夏に開いている保存担当学芸員研修等、全国各地の学芸員と接することのできる機会をこれからも
大事にして、常に各地の館と連携を図っていきたいと考えている。
The Role Played by the National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo
in the Conservation of Resources within Museums and Art Museums
Sadatoshi Miura
Head of Department of Research Programming
National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo, Japan
The National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo, which was originally founded as the Art Research Institute by Seiki
Kuroda, does not have its own collections as in museums and art museums, with the exception of works donated by Kuroda himself, and
is not an institute for holding permanent exhibitions. Yet, our Institute plays a vital role in the conservation of resources within museums,
art museums, etc., throughout the country. In 1952, our Institute was the first national organ in Japan to establish a research department for
conducting integrated surveys on cultural heritage by scientific methods, and has since continued to play the leading role in scientific
researches related to the analysis, conservation and restoration of cultural properties. In particular, research on environmental conditions in
conservation inside museums and art museums, such as temperature, humidity, light, air pollutants, etc., has been carried out continuously
ever since the initial stage of the creation of the research department, and our research activities have not merely been confined in-house
but we have also been conducting research in close liaison with the worksites upon consultation requested from museums and art
museums all over the country.
Among the services currently undertaken by our Institute, one which is deeply associated with museums and art museums throughout
Japan is to conduct surveys on the environmental conditions in conservation in light of the display of state-designated cultural properties.
Generally, when borrowing state-designated cultural properties from other prefectures and exhibiting them, permission must be obtained
from the Commissioner of the Agency of Cultural Affairs. And especially when the museum concerned is planning to exhibit
state-designated cultural properties for the first time, our Institute cooperates with the Art Curation Section of the Agency for Cultural
Affairs in carrying out surveys on the in-house environment such as temperature, humidity, light, indoor air quality, etc. In addition to
these surveys which we carry out at more or less 25 institutions every year, we receive a far greater number of other requests for
consultation not only from museums and art museums but also from archives and libraries.
Conducting surveys related to the exhibit of state-designated cultural heritage is an assignment intricately linked with the administration of
cultural properties of the country, which we pursue at the Institute as part of the role entrusted upon us as a national centre, but our
activities are not merely limited to the measurement of temperature, humidity, light, indoor air quality, etc., in each of the museums and
art museums. When carrying out our surveys, we also hold discussions with the curators in charge on various issues on conservation
which become evident in the process of the survey and try to find solutions for improving the situation. Especially in the case of facilities
to be newly established, we also play the role of a consultant, becoming involved from the stage of design as far as possible so that we can
provide advice on how to prevent problems that can be predicted in advance. Moreover, the findings of the surveys, such as the scale and
construction period of each facility, are sorted out and compiled according to a specified format, which means that we can easily identify
the annual trend and overall flow related to the environmental conditions in conservation at facilities exhibiting cultural properties by
analysing these results.
Another of the roles of our Institute as a national centre is the re-examination of the pest management strategies following the total
abolition of the use of methyl bromide. In our country, from around 1970, methyl bromide came to be extensively used as an insect
fumigant for treating cultural properties. However, in the 1997 Meeting of Montreal Protocol Parties, it was decided that utilization of
methyl bromide, defined as a substance that depletes the ozone layer, should be entirely abolished by the end of the year 2004. Thereupon,
our Institute, in cooperation with the Agency for Cultural Affairs, embarked on efforts to develop and diffuse alternative methods since
1997, and in 2001, the Agency for Cultural Affairs distributed a "Manual on Daily Management of Cultural Properties against
Biodeterioration", and in the same year, published the "Encyclopaedia of Insects Harmful to Cultural Properties" which would be helpful
in the identification and control of insect pests at worksites. Moreover, the Agency for Cultural Affairs published a guidebook as well as a
DVD on Integrated Pest Management (IPM) as a new style for preventing damages caused by pests.
As explained above, our Institute is serving our role as a national centre through our activities conducted in coordination with the
administration of cultural properties of the nation. It goes without saying, however, that the actual conditions of the museums and art
museums nationwide must be reflected in the research work that we carry out. In order to do so, we hope to continue to value
opportunities of coming in contact with the curators of all parts of Japan, namely the surveys and consultations on the environmental
conditions in conservation carried out on a daily basis as well as the training courses for curators in charge of conservation which we
organize every summer, and to always work in close alliance with the museums throughout our country.
京都国立博物館と文化財修理
森田 稔
京都国立博物館 学芸課長
京都国立博物館(以下「京博」)は明治 30 年(1897)5 月に、
「帝国京都博物館」として開館した。こ
の年は日本が近代国家として文化財保護に取り組む最初の法律である「古社寺保存法」が制定され
た年であり、京博はその土地柄故に、その歴史はまさにこの古社寺保存法の精神を生かす場でもあ
ったわけである。そのため開館当初から基本的な運営方針として社寺の什宝の受託があり、受託す
ることにより貴重な文化財の散逸、焼失等から守ることが重要は役割であった。そのため「受託規
則」第 2 条には「帝国京都博物館へ寄託したる社寺什宝の修繕費は該館に於いて之を負担すべし」
という規定が定められていたため、修理を条件に受託したことが記録にも見られ、さらに毎年修理
された文化財の目録が館の年次報告にも記載されていること、さらに館が修理に関しても直接寄託
を受けるなど、館の主体的事業として修理が位置づけられていたことがわかる。また、これらの修
理は特殊な場合を除き、館内で実施されることになっていたため、現在の京博における文化財修理
が開館当初から形作られていた。
修理所に関しては戦前の記録がないことから、館内のどの施設を使用して実施されていたかにつ
いては不明であるが、恩賜京都博物館時代の昭和 26 年(1961)には明治 24 年(1891)に京都府からの
寄贈品を納めるために建築された土蔵を改装して「修理所」としていたが、昭和 40 年(1965)に新
館(現在の平常展示館)の開館に伴い、その地下に彫刻修理の(財)美術院と装潢の工房が移転し、
同時に南倉も改装されて美術院の工房と模写室がおかれた。この時代になると新たな文化財保護法
の規定による国宝・重要文化財修理の補助事業が定着していたが、工房の多くが市中にあり、常に
火災・盗難等の危険にさらされていたため、敷地内に独立した修理所の建築が求まられ、こうした
要望に添う形で現在の文化財保存修理所が昭和 55 年(1980)に開所した。
この文化財保存修理所は国や地方公共団体が所有又は指定した文化財の修理、模写等を行い、よ
り実践的な調査・研究に資することを目的として設置されたもので、延床面積が 2856 ㎡あり、現
在 5 工房が入って、120 人ほどの修理技術者が文化財修理を行っている。特に国指定文化財修理の
補助事業の 6 割強をこの修理所で実施しており、まさに国の行う文化財保護施策の一環をこの文化
財保存修理所が果たしているわけである。
ここで注目されるのは、修理工房は財団法人 1 団体と株式会社 4 団体であるが、これは日本の文
化財が100 年単位で実施される大修理を繰り返すことで保存されてきた歴史を基礎としているため、
修理技術が民間によって継承されてきたことによるもので、欧米の状況とはその背景が異なってい
ることに注意されたい。
とはいえ京博が修理寄託を得て修理を実施しているため、学芸課に保存修理指導室を設置し、2
名の研究員と 2 名の非常勤職員を配置して、工房の指導を行っている。さらにこれらの事業につい
て外部の有識者の意見を聴取する「文化財保存修理所運営委員会」を設置している。また修理の際
に発見された銘文については館の紀要である『学叢』に集成して公刊、あるいは修理後の特別展覧
によって公開するなど、学会や来館者にも貢献している。
Kyoto National Museum and Restoration of Cultural Properties
Minoru Morita
Head of Curatorial Division
Kyoto National Museum, Japan
The Kyoto National Museum (referred to below as "the Museum") first opened in May 1897 as the Imperial Kyoto Museum.
That year the Japanese government took the country's first step as a modern state to protect its cultural properties by enacting
the Law for the Preservation of Ancient Shrines and Temples. Reflecting the long history of Kyoto, the Museum was also a
place where, due to the nature of its locality, it truly embodied the spirit of the Law for the Preservation of Ancient Shrines and
Temples. Consequently, the Museum's basic administrative policy since it opened has been to take treasured objects from
shrines and temples into custody. By taking important cultural properties into custody, it has played an important role in
protecting them from dispersal, loss or destruction by fire. Article 2 of the Law, Custody Regulations set out a provision
specifying that the cost of repairs to any treasured object taken into custody by the Imperial Kyoto Museum from shrines and
temples be borne by the Museum, so some records also show that custody was conditional on restoration. Moreover, the
Museum's annual report contains an inventory of all cultural properties restored each year and as it directly takes objects into
custody for restoration, it is clear that conservation is considered one of its primary activities. In addition, all restoration work
has been conducted inside the Museum, except in some special cases, so the conservation work on cultural properties now
being done at the Museum has been formed by restorations done since the Museum first opened.
No pre-war records of restoration facilities exist, so it is unclear which facilities were then used within the Museum for
restoration work. However, the Museum storehouse constructed in 1891 to store donations from Kyoto Prefecture was
converted into a restoration depot in 1961 when the Museum was known as the Imperial Gift Museum of Kyoto. But when the
new hall (now the Collections Hall) was opened in 1965, the Japan Art Institute and conservation studios then underground and
used for sculpture restoration were moved, and the Art Institute studios together with replication facilities were located to the
Nanso repository, which was remodeled at the same time. At that time, grant-aided projects for the restoration of national
treasures and important cultural properties based on provisions of the new Law for the Protection of Cultural Properties were
expanding. However many conservation studios were located in the city and were regularly exposed to dangers, such as fire or
theft, so there were calls for an independent conservation center to be constructed within the Museum grounds. Complying
with such wishes, the present Conservation Center for Cultural Properties opened in 1980.
The Conservation Center for Cultural Properties was established with a mandate to restore or replicate cultural properties
owned or designated by the nation and local public organizations and contribute to conservation-related survey studies in more
practical ways. With a total floor area of 2,856m2, it houses five conservation studios at present, where almost 120 conservators
work to restore cultural properties. As more than 60% of the conservation work on grant-aided projects for the restoration of
nationally designated cultural properties is conducted at the Conservation Center, it has clearly become an integral part of the
government's cultural property protection policy.
Worth noting is the fact that restoration technology has now been taken over by the private sector, with the conservation studios
consisting of one judicial foundation and four private corporations. This has come about because it is based on history
preserved through large-scale repairs of Japan's cultural properties repeated every 100 years, and is why the situation in Japan is
different compared to Europe and the U.S.
Nonetheless, conservation work is only carried out after cultural properties are taken into custody by the Museum for
restoration, so it has set up a department of Conservation and Restoration in its Curatorial Division staffed by two researchers
and two part-time employees to supervise the studios. The Museum has also established a Conservation Center for Cultural
Properties Committee to seek the views of outside experts on these operations. Other activities include publication of the
Museum's annual research journal, The Kyoto National Museum Bulletin, which often contains details of inscriptions
uncovered during the restoration process, special exhibitions held after restoration and others in which academic group and
Museum visitors also contribute.
奈良国立博物館における文化財の修理と保存
梶谷亮治
奈良国立博物館 学芸課長
(1)修理所紹介とその事業
①文化財保存修理所の成立
奈良国立博物館の前身は、明治22年(1889)に設置され明治28年(1895)に開館した。その後の長い
年月を経て、構内に文化財保存修理所が竣工したのは平成12年(2000)であり、その事業が動き出し
たのは平成14年(2002)2月のことである。地上環境の影響を受けにくい半地下式の建物で、併せて
空調も24時間施している。延べ面積は約1,000㎡で、彫刻部門と装潢部門が使用している。当館に
は以上のほかに東新館内に漆工修理室がある。
修理所において修理をする文化財は、国や独立行政法人国立博物館、及び地方公共団体などが所
有する文化財、国や地方公共団体が指定する文化財やそれに準じると判断される文化財である。平
成17年度の修復文化財は、彫刻16件、工芸12件、絵画17件、書跡・文書16件、歴史資料4件の合計6
5件、769点であった。
文化財保存修理所は奈良国立博物館に所属する施設であり、当館はこれを運営管理するために文
化財保存修理所運営委員会を設置している。したがって文化財は修理するに当たって一時的に当館
に寄託するという手続きをとっていて、モノ及びモノに施される修理という事業は博物館が運営管
理するという体制になっている。
②文化財保存修理所の運営
奈良国立博物館は修理事業を進めるために、学芸課内に文化財保存・修理指導室を置いている。
保存・修理指導室では毎月一度の修理所巡回や、専門家の見学受け入れ、修理指導などの日常的な
仕事のほかに、修理所の現状をお互いに理解するために修理所と博物館の現場同士の修理所協議会
を定期的に開き、修理文化財の修理上の問題点や新たな知見を共有するために、修理所と学芸課研
究員合同の研修会も催している。先年は、奈良・千体寺の重要文化財紫檀塗螺鈿厨子の修理完成と
特陳での展示を機に、施工者と学芸課研究員が見解を発表した。当館の修理に関する情報は、紀要
『鹿園雜集』に「修理報告」「調査報告」(銘文、彫刻材質等)などについて掲載している。
修理事業のうち、国指定文化財については文化庁が指導を行っている。従って、当館の研究員に
よる関与は、それ以外の文化財に限られる。しかし実際、仕事を進める上で得られる知見には多く
の有用なものがあり、研究員同士でこれらをいかに共有していのかが今後の課題である。今後はシ
ステムか運用かいずれかの方法で、こうした課題が解決されて行くのが望まれる。
(2)文化財の保存
博物館における文化財の保存は、保存科学の応用と保存環境の維持の両輪が必要だと思われる。
当館には残念ながら保存科学の分野を担当する専門の人材はいない。また環境科学についても同様
である。学芸課の研究員が、研修や経験などを経てそうした知識を得ているというのが現状である。
実際に温湿度管理などは、研究員の分掌である。当館では毎年秋に正倉院展を開催するが、そうし
た場合には正倉院寺務所の保存科学担当の研究員の協力を得て、環境の管理を行っている。収蔵庫
及び展示室ともに24時間空調を施しているが、それでも季節や、入館者の多寡、特定の場所、ある
いはケースの特性によって環境は微妙に異なる。保存環境についてもこまかい配慮が必要であり、
今後はより精密に環境コントロールができる能力が必要であろう。
Restoration and Conservation of Cultural Properties at Nara National Museum
Ryoji Kajitani
Head of Curatorial Division
Nara National Museum, Japan
(1) Introduction to Conservation Centre and its Related Activities
① Establishment of Conservation Centre for Cultural Properties
The original Nara National Museum was established in 1889 and opened in 1895. After the passage of many
years, its Conservation Centre for Cultural Properties was completed within the Museum grounds in 2000 and
began undertaking conservation activities in February 2002. To reduce the impact of the terrestrial environment,
the building itself is semisubterranian and is air-conditioned 24 hours per day. It occupies a total area of 1,000
square metres, which is utilised by its Sculpture Department and its Asian Paintings and Calligraphic Art
Department. The Museum's new East Wing also houses a Lacquer Restoration Room.
Cultural properties conserved by the Museum include cultural properties owned by the nation, independent
administrative institution national museums and local public organisations, as well as those designated by the
nation and local public organizations and others determined to be of a similar nature. In 2005 the Conservation
Centre restored a total of 769 objects comprising 65 sets of cultural properties, namely 16 sets of sculpture, 12
sets of industrial art, 17 sets of paintings, 16 sets of calligraphy and 4 sets of historical records.
The Conservation Centre for Cultural Properties is a facility attached to the Nara National Museum so the
Museum set up a Cultural Properties Conservation Administration Committee to manage its activities. Therefore
the Museum put in place an administrative system for its treatment or restoration activities and adopted
procedures under which cultural properties are temporarily entrusted to the Museum for restoration.
② Administration of Conservation Centre for Cultural Properties
The Nara National Museum has set up a Cultural Properties Conservation and Restoration Guidance Office
within its Curatorial Division to promote its restoration activities. Usual duties include monthly tours of the
Conservation Center, reception of inspection visits of experts and provision of restoration guidance. In addition,
regular meetings are held at the Conservation Centre between Museum and Conservation Centre staff to gain
mutual understanding of current conditions in the Conservation Centre. Joint training sessions with researchers
from the Centre and the Curatorial Division are also conducted to share new information and discuss problems
which occur during restoration work on cultural properties. A few years ago, restoration staff and researchers
from the Curatorial Division gave their views on the restoration work conducted on the Rosewood Mother of
Pearl-coated Cabinet Shrine of Sentaiji Temple in Nara, an important cultural property, when a special exhibition
was held after it had been completed. Details of the Museum's restoration projects (inscriptions, sculpture
materials, etc.,) can be found in restoration and study reports published in the Museum's Bulletin, "Rokuon
Zasshu."
The Agency for Cultural Affairs provides guidance on the restoration of nationally designated cultural properties.
As a result, the Museum's research staff is only involved in the restoration of other cultural properties. In reality
however, much valuable information is gained as restoration work progresses, and how the researchers should
best share this information will be a topic for the future. So looking ahead, it is hoped that such matters can be
resolved through either a systemised or management approach.
(2) Conservation of Cultural Properties
We believe that the application of conservation science and maintenance of the preservation environment are
mutual requirements for the conservation of cultural properties at the Museum. Unfortunately, we do not have
any specialists responsible for the fields of conservation science or environmental science. Our Curatorial
Division researchers gain such expertise through training and experience, and their actual duties involve
hygrothermal control. The Nara National Museum conducts the Shoso-in Temple Exhibition each autumn, and
we are able to manage the environment with the cooperation of those researcher responsible for conservation
science at the Shoso-in Temple office. Both the repository and exhibition rooms are air-conditioned 24 hours per
day, however the environment may change slightly depending on the season, visitor numbers, designated
locations and even the nature of the display cases. The preservation environment requires delicate consideration
as well, and we will probably have to acquire the capability to finely control the environment in the future.
九州国立博物館の博物館科学
本田光子
九州国立博物館 学芸部博物館科学課長
九州国立博物館(以下「九博」)は、昨年10月に開館したが、その準備段階から、博物館科学部門
をおき、収蔵品の保存と管理に適切な施設設備の環境を整え、展示資料の修理修復を進めてきた。
博物館は収蔵品についての「収集保管・公開活用・調査研究・教育普及」を行う場所であるが、
これらの機能を全うするためには、文化財の保存と修理修復による継承が基本である。日本の文化
財は「取り扱い・環境・修理の伝統」により保存継承されてきたが、これらを現代社会でシステム
的に行うところが博物館であり、
この基本的な仕組みの一つを運用するのが博物館科学部門である。
21 世紀に開館した九博は、この「保存継承」の成果を社会的に還元できるように充実すると共に、
その仕組みや姿そのものを現代社会へ発信する窓口であることを目指している。
そのために、次の三つのコラボレーションを具体的な目標として活動をスタートさせた。①社会性
の高い技術者集団と研究員の協同、②博物館内外の異分野の研究者による協同、③IPM 活動による
文化財保存の市民との協同。これらのコラボレーションは、博物館が文化財の保存と修復について
その技術の継承の場であることを実現するとともに、地球規模での環境配慮に基づくボランティア
や NPO 法人との IPM 活動を通してこの博物館のコンセプトである「自然共生型、市民協同型」を実
践することに通じる。
博物館科学部門は、環境保全室と保存修復室の 2 係からなり、研究員 5 名、補助員5名の職員が
従事している。修理事業、環境調査の一部(空気質精密分析、有害生物鑑定など)、IPM 関連事業(有
害生物処理、収蔵準備作業など)は業務委託である。また、IPM 運用のための温湿度データー収集、
除塵防黴のためのメンテナンスや生物生息モニタリング等は市民の環境ボランテイアによる協力を
得ながら開始した。
環境保全室では、展示・収蔵環境(温湿度・空気・光)の整備、有害生物対処、文化財科学関連機
器整備、展示資料の保存科学的調査や処置などを行う。保存修復室では学芸各部門担当者と協力し
ながら調書の作成と修理方針の決定、修理の監督を行う。また、当館の修理事業の大半が行われる
文化財保存修復施設(以下「修復施設」)について、外部有識者及び各国立博物館の学芸責任者によ
る委員会の指導助言を受け運営を行う。修復施設では、各部門の研究員と修理技術者が共同して調
査・研究・普及事業を実施し、その研究成果や修理によって得られた知見を広く展示・公開する。
また、展示に係わる小修理、修復に係わる調査、専門家・一般向け保存修復普及事業、修復技術者
の育成、修理技術に係わる研究事業等も、館の事業として研究員と修理技術者が共同して実施し、
博物館が伝統的保存技術の継承の場であるという社会的役割を果たすことを目指している。
修復施設では、伝統的修理技術と科学的保存技術の一体的実施、多様な分野の博物館研
究員と修理技術者との相互協力により調査・記録の充実を図り、その成果が修理・保存・学術研究
そして展示公開に資することを目的とする。博物館が文化財保存とその技術の継承の場であると共
に、
科学的調査を併せて実施することで、
充実した修復の場としての一端を担うことを願っている。
こうした考えに基づき、
修復施設内での修理事業についても、
民間の一特定工房への委託ではなく、
社会性の高い技術者集団との協同を実施している。
Museum Science at Kyushu National Museum, Japan
Mitsuko Honda
Head of Museum Science Division
Kyushu National Museum, Japan
The Kyushu National Museum, Japan (to be referred hereunder as "Kyuhaku") opened in October 2005. It was still in its preparatory
stage that the Museum Science Division was established, and we worked on creating an environment for the facilities and equipments
suited to the conservation and management of our collections, and have been carrying out cure and restoration of exhibition materials.
A museum is an institution for performing the tasks of "gathering & storage, utilization in public exhibitions, survey & research,
education & diffusion" with regard to its collections, and in order to accomplish these functions, the conservation of cultural properties
and their transmission by means of cure and restoration form museum basics. The cultural properties of Japan have traditionally been
conserved and handed down owing to "handling methods, environmental conditions, repair work", and today, in contemporary society,
these traditions are systematically carried out in the museum, and the Museum Science Division is in charge of operating part of this
fundamental system.
Founded in the 21st Century, Kyuhaku aims to develop into a museum that can contribute to society through the fruits of our efforts in the
"conservation and transmission" of cultural heritage, and also to act as a key station for providing information on the system and style of
"conservation and transmission" to contemporary society. In order to fulfil this mission, we have embarked on the following three
collaboration activities as concrete targets: ①collaboration between researchers and groups of technicians acknowledged highly in
society, ②collaboration between researchers of different fields within and without the museum, and ③collaboration with citizens on the
conservation of cultural heritage through IPM (integrated pest management) activities. These collaborations will lead to the
accomplishment of the Museum's mission as an institution responsible for handing down technologies on conservation and restoration of
cultural properties, and furthermore, through IPM activities carried out jointly with volunteers and incorporated NPOs working on the
principle of environment-friendliness on a global scale, we will be able to realize "symbiosis with nature & citizen participation system"
which form the museum concepts of Kyuhaku.
Our Museum Science Division is made up of the 2 sections of the Preventive Conservation Section and the Curative Conservation
Section, where the staff consisting of 5 researchers and 5 assistants are engaged in their duties. Curative projects, part of environmental
surveys (air quality probe assay, pest identification, etc.), IPM-related projects (pest control, storage preparation works, etc.) are
outsourced. Moreover, we have commenced collection of data on temperature and humidity for administering the IPM programme,
maintenance work for dust removal and mould and mildew prevention, insect population monitoring, and so on, with the cooperation of
citizen volunteers in environmental monitoring.
The Preventive Conservation Section undertakes maintenance of conditions of exhibition and storage environments (temperature,
humidity, air quality, light), pest treatment, maintenance of mechanical equipment related to Cultural Asset Science, surveys and
treatments of exhibition materials from the perspective of Conservation Science, and so on. The Curative Conservation Section is
responsible for the documentation of records and making decisions on policies for cure, and for supervising the process of cure, in
conjunction with the members responsible for each field in the curatorial section. Moreover, as for the Centre for Curative Conservation
of Cultural Properties (hereunder to be referred to as the "Curative Conservation Centre") where the majority of our Museum's curative
projects are carried out, these projects are administered with the guidance and advice of knowledgeable persons outside the Museum and
of the Committee formed by the Head Curators of each national museum. At this Curative Conservation Centre, researchers of each field
and technicians of curative conservation jointly conduct surveys, researches, and diffusion projects, and the research findings as well as
the knowledge acquired through these curative works are displayed to the public on an extensive scale. Furthermore, minor repairs,
surveys related to restoration, projects to diffuse curative conservation among the public at large, training of technicians of curative
conservation, research projects related to curative conservation technology, and so on, are also carried out as projects of the Museum
jointly by researchers and technicians of curative conservation, with the objective of pursuing the social role of the Museum as an
institution that hands down traditional conservation technologies.
The Curative Conservation Centre aims at the integrated implementation of traditional repair techniques and scientific conservation
technology, and at a higher quality of surveys and records through the mutual cooperation between museum researchers and technicians
of curative conservation, in the hope that these results will contribute to cure, conservation, academic research, and also to public
exhibitions. It is our sincere wish that our Museum will not only serve as an institution for conserving cultural properties and for handing
down conservation technologies, but also to pursue the role of performing high-level curative conservation by carrying out scientific
surveys simultaneously. Based on this concept, as for curative conservation projects conducted within the Curative Conservation Centre ,
we work in alliance with groups of technicians acknowledged highly in society, instead of outsourcing to any specific private workshop.
パネルディスカッション
パネルディスカッション Part1
パネリスト:姜
炯台、Sandra Smith、Richard Newman
座長:高橋裕次
座長:午前中にご講演いただいた先生から、もう少し細かいお話をお聞かせいただくこと
にします。すでに皆様より多くのご質問をいただいており、ひとつひとつお答えをお願
いしたいのですが、時間が限られているため、類似の質問はまとめさせていただきます。
座長:まず先生方に、「欧米・韓国において、保存科学、修復の仕事を志す学生は多いの
ですか」という質問です。
姜
炯台:現在、韓国では保存科学を担当する大学が6箇所あります。なかでも保存処理
を希望する学生が多いです。中央博ではインターンシップを受け入れています。
Sandra Smith:学生は多いです。保存修復を希望する学生はかなり多いです。
Richard Newman:3つのプログラムがあり、3年間の修士課程があります。1年間に 10
人×3とその他の保存プログラムがあり、全部で 40 名くらいです。
座長:つぎに、日本の現状とも大きな関わりがありますが、欧米・韓国において、保存科
学の専門家が少ない博物館に対して、どのような対応や助言をされていますか。
Richard Newman:業務の三分の一の時間を分析に費やしております。ボストン以外の小
さな博物館、美術館に対して助言を行っています。
Sandra Smith:博物館は、美術的な雑誌を介して様々な情報を共有しています。ウェブサ
イトでも情報を提供しております。
姜
炯台:中央博は、ほとんどの修理に対して保存処理を担当する専門家がいます。地方
の公立・私立の博物館の作品に対しては、保存処理を行うとともに、管理に対しての助
言を行っています。また、予算支援、保存処理の支援も行っています。緊急の場合など
は、遺跡博物館の遺物に対して保存処理を行っています。また、文化財研究所もこうし
た支援を行っています。
座長:個別に質問がきています。まず、姜
炯台先生、2007 年に行われるアジアパートナ
ーシッププロジェクトについて詳しくお教えください。
姜
炯台:文化観光省が主に行います。文化の各分野にわたって、博物館でも各分野、保
存科学も含まれますが、これらに関係するアジアの研究者を中央博物館に招いて、保存
に対する実質的な問題を解決していこうとするものです。
座長:Sandra Smith 先生、「情報の共有はどのような場で、どのような人々によって行わ
れていますか」という質問です。
Sandra Smith:博物館の中での情報共有は、いろいろな会合の場などでそれぞれ行います。
また資金調達する部門とも直接対話をもって行います。対話にかなりの時間を費やして
います。情報共有は博物館の外とも行っています。博物館は政府の機関でありますから、
情報開示の義務があります。保存処置に対しても情報公開の義務があります。
座長:Richard Newman 先生、改修した収蔵庫で使われていた Stable Form とは具体的に何
を使っていますか。また、どのようにシェーピングしていますか。
Richard Newman:ポリエステル製で、大変安定性のあるものです。保管庫などで使われ
ています。堅牢なもので、それぞれのところでスペシャリストがシェーピングし、物に
合わせて形を削ります。非常にきれいに仕上がります。
座長:各先生ともに、臨床保存学を実践するうえで、保存修復部門と科学者、学芸員が共
同することの重要性を指摘されていますが、これに関して、3つの質問が寄せられてい
ます。1つは、「博物館が行う活動に関して、保存修復部門は、博物館の環境や作品の
展示方法などに、戦略的な意味での様々な助言を行っていますが、その事例について、
具体的に説明していただけませんか?」とあります。韓国中央博物館では、新築、開館
にともなって保存科学の人材と予算が大幅に増強されたように、保存科学に対する期待
の大きさが伺えますが、この事例について姜
姜
炯台先生から順にいかがでしょうか。
炯台:中央博物館では、今年の展示を 10 個くらい予定しています。各展示に対して
は保存処理を必要としている遺物を選び、保存処理期間などの協議を行います。展示に
必要な温度・湿度・照度などをチェックして適切な状態を提案します。展示材料も有害
があるかどうかのテストを行います。
Sandra Smith:温湿度、照度等、どのような作品がオープン展示かケースに収めての展示
かなどを話し合います。
Richard Newman:学芸員などとともに保存のスペシャリストが入って処置や、予算など
をとるようにします。環境が展示にふさわしいかどうかを検討します。
座長:つぎに、「収蔵品の予防ケアについてです。2005 年に臭化メチルが使用禁止になっ
た対策でもある IPM(統合的有害生物管理法)や、展示ケースなどに使用される素材の
テストはどのように行っていますか?また、他の部門と共同で予防ケアを実践する場合、
その役割分担はどのようになっていますか?」との質問です。Sandra Smith 先生より順
にお答えいただけますか。
Sandra Smith:予防ケアは、害虫がいることがわかれば、収蔵品をフリーズします。また、
検疫体勢はしっかりしていますが、作品を貸し出して返却されたときには、キューレー
ターとコンサバターが一緒になって病害虫をチェックします。また、加熱処理を行うこ
ともありますが、これは素材などに気をつけて、外注で行っています。開館前に毎日、
チェックしています。収蔵庫においてもキューレーターが定期的にチェックします。問
題があれば対応処置をとっています。
Richard Newman:害虫に感染した場合、脱酸素法で処理します。その他のものは低温で
の処理を行います。
姜
炯台:IPM を実施しているが、まだ結果については確信を得られていません。今後、
持続的な行いを通じて結果を見ていきたいと考えています。
座長:つぎに、「ナショナルセンターとしての役割を果たすうえで、保存部門はどのよう
な展望をもって活動していけばよろしいでしょうか」という質問です。Richard Newman
先生から順にいかがでしょうか。
Sandra Smith:収蔵品に対して保存活動やリサーチを続けたいと思います。また、環境が
収蔵品にどのような影響を与えるか、また、収蔵品が環境にどのような反応を示すかを
知ることによって、ある程度の情報を得て、教育や出版物等を通して一般に広めていき
たいと思っています。
Richard Newman:AIC は専門家集団としてのコンサバターの専門集団です。これは行動規
範を作成しています。保存修復専門家の役割を定義する取り組みを行っているので、ボ
ストン美術館としても、この専門職としてのスタンダードを満たすことができるように、
鋭意取り組んでいきたいと思っているので、AIC が作った行動規範や基準を遵守してい
きたいと思っております。それが私どもの今後の展望です。専門分野における一番高い
基準を満たしたいと考えております。
姜
炯台:博物館の任務として、保存科学的な側面で遺物とか文化財を見るべき時になっ
てきたと考えております。保存処理の支援等の事業も一緒に行うべきと考えております。
座長:まだお時間がございますので、今後の課題、展望、最重要課題について、一言ずつ
発言をお願いいたします。
姜
炯台:保存科学について、いろいろ討議がなされておりますが、今回のシンポジウム
について国際的な意見を聞くことができました。今回のシンポジウムは、保存科学がど
うあるべきかとうい問題を提示したと考えております。これからの質的成果について討
議するシンポジウムが行われればと考えております。
Sandra Smith:一番大きな課題は、これまで予防修復保存への動きがありました。その結
果として臨床保存が弱くなってきたのではないかという懸念が高まっています。臨床保
存の訓練と教育を強化していかなければならないという課題があります。また、環境を
どのように改善していけばよいかということです。エアコンだけでは炭素排出量が増加
し、温暖化に繋がってしまうので、エアコンをなるべく使わないで保存修復、環境保全
を行っていくことができるのかということを考えております。今回、日本に来て皆様の
お話を聞くことができて大変よかったと思っております。我々は共通の土台に立ってい
るということです。職業倫理とコンセプト、バランスについて皆様と共通項があること
を学び、大変よかったと考えております。
Richard Newman:保存協会から助成金が出ています。しかしまだ十分ではありません。
予防保全に時間を費やしたいと思っております。専門家の皆様と意見交換ができて大変
よかったと思っております。
パネルディスカッション Part2
パネリスト:久芳正和、園田直子、三浦定俊、森田稔、梶谷亮治、本田光子
座長:神庭信幸
座長:パネリストの皆さんを順に紹介します。手前から九州国立博物館学芸部博物館科学
課長の本田光子さん。本田さんは統合的有害生物防除管理法、いわゆる IPM、またボラ
ンティア活動の積極的な導入など新たな試みを実施し、保存修復分を統括する仕事をし
ておられます。専門は文化財保存学、考古学です。
続きまして三浦定俊先生です。三浦先生は東京文化財研究所の企画情報部長です。保
存科学の分野では大変顔なじみの先生です。東京国立博物館で、パリのモナリザを展示
したときには、専用ケースを登石健三先生と設計、空調を実行された方です。
お隣は本日発表された国立国会図書館の久芳先生です。
そのお隣は国立民族学博物館の園田先生です。
続きまして、奈良国立博物館学芸課長の梶谷亮治さんです。奈良国立博物館は仏教と
関わり深い都です。古い古美術品や考古遺物などの寄託・収集・保存・公開、調査・研
究などを統括しておられます。専門は美術史、特に仏教絵画史です。
最後に、京都国立博物館学芸課長の森田稔さんです。京都国立博物館は、日本文化と
芸術に関わりの深い文化財の寄託・収集を積極的に手がけておられます。九州・奈良・
京都の国立博物館には、日本の指定文化財に対する修理の中心的役割があります。その
中でも一番古くからある京都国立博物館修理所を統括しておられます。
座長:博物館は、保存と公開の両方をしなければ成り立たない空間です。ものの例えで、
保存と公開は博物館という装置を未来へ引っ張っていく両輪です。そのどちらも必要な
ものです。研究はその進む方向を位置づける舵取りのようなものです。最近特に事情が
変わってきています。博物館は独立行政法人に変わってからは、事業内容が以前と比べ
て激しく変化しています。そこで博物館の現状についてお聞きしていきたいのですが、
また図書館等の事情も含めてお答えいただきたいと思います。梶谷さん、いかがでしょ
うか。
梶谷:奈良国立博物館の活動、特に外から見て一番見えるのは展示活動ですが、内容・数
に変化をみせたのは独立法人になってからの平成 13 年度からです。展覧会を増やすこ
と、研究の成果を盛り込むことを考えてやってきました。現在大きな問題に直面してい
ます。最近の例として、昨年度の正倉院展で、17 日間で 23 万人のお客様に来ていただ
きました。展示環境について今までとは違ったことをしなければならなくなりました。
奈良博では、保存環境を専門に考える部署がありません。そこで宮内庁の正倉院事務所
の協力を得て、展示環境を調査するため、データロガーを設置しました。
座長:本田さん。新しい博物館を開くことについて、どのようなことが保存的にみて重要
なことでしたか。
本田:新しい博物館は長いこと準備をして開館を迎えました。予測できなかったことの一
つに危機管理の問題があります。予想していた来館者を大きく上回り、1日最大で2万
人いらっしゃいました。新鮮な空気の量、埃が問題になりました。空気の問題は機械的
に管理をしていましたが、現実的な埃に対しては、清掃をいかに計画的にやっていくか
というアナログ的な問題と直面しました。ハードを運用していくとき、もっときめ細か
いことを考えていかなければならないことを痛感しています。
座長:久芳さん。図書館の利用者側の変化にどのようなものがあるか、受け入れ図書の媒
体の変化と図書館の対応について、最近の事情はどのようになっているでしょうか?
久芳:保存は利用を保証するための前提条件という認識をもたれていると思います。最近、
当館の変化は NDL-OPAC(オンライン検索システム)を個人向けに開いたことによる、複
写処理数の激増があげられます。当館の資料は館外貸し出しをしないため、複写による
対応を余儀なくされます。遠隔利用の複写処理は、平成 14 年約 10 万件余りだったもの
が、1年後には約倍、現在では当初の約 10 倍にも上がっています。当館の資料は、館外
貸し出しをしていないため、複写で対応しています。複写作業により、資料が非常に傷
みます。また、今まで見えてこなかった潜在的な劣化資料が、アクセスの激増により多
数掘り起こされ、その対応に追われるのが現状です。国立国会図書館では「いつでも、
どこでも、誰にでも」をモットーに、利用に関しては、どこからでも簡単にアクセスが
可能であるよう目指しています。なお、当館では「利用のためのデジタル化」、「保存
のためのマイクロ化」が基本的な考え方です。
座長:三浦さん。博物館、美術館の環境について、東京文化財研究所の保存科学室が様々
な面でテクニカル的にも理論的にも支援していく体制になっていますが、そういった立
場から、最近の博物館の事情の変化をどのように見ていらっしゃいますか。
三浦:独立行政法人になる前から、国の指定文化財を展示する時に、それを展示できるよ
うな環境をどのように作っていくかなどをお手伝いしましたが、法人になってからは特
に、研究成果を、世の中にどのように還元していくかということが問われてきました。
臭化メチルの全廃(2004 年末)に伴い、代替法が博物館の現場で緊急の課題となって、そ
の開発などの研究が評価されるようになってきたのではないかと思っています。
座長:森田さん。独立行政法人化と情報の公開、どちらも開かれ姿を作っていくというこ
とですが、京都国立博物館の修理所について、公開という観点で最近の動きについて何
かありますか。
森田:京都国立博物館には、文化財修理所が敷地の中にあり、現在、装こう、表具に関わ
る工房が4工房、彫刻を主にする財団が1団体入っています。彫刻は修理の時に像内の
納入品や銘文について、館の紀要である『学叢』に発表しています。国の文化財につい
ては、文化庁の方から修理報告書が出されますが、国指定以外の文化財について、これ
まで報告されていなかったのですが、当館では昨年度に平成 11 年度の修理物件について
は、報告書を刊行するようになり、以降順次刊行を予定しています。また工房によって
は修理物件については、個々にある程度公表されています。
座長:園田さん。民博は国立博物館とは性格がある程度違い、研究を中心とする博物館で
すが、最近の変化の波はありますか。
園田:民博は、もともと博物館としてではなく、大学の共同利用機関として設置されまし
た。2004 年から大学共同利用機関法人・人間文化機構の一員となりましたが、資料の保
存と公開、活用の基盤を作るという傾向がこれまで以上に強くなってきています。法人
化後につくられた文化資源研究センターのなかで、資料管理分野がはっきりと位置づけ
られています。資料の保存と活用の両立が大きな課題です。
座長:最近の博物館等における状況の変化について、皆様からお聞かせいただきました。
そうした変化の中で、保存に関わる仕事をする人間は、状況の変化によって生じる文化
財のリスクの増加をどのように認識し、また、どのように対応していくかという点につ
いて具体的に話を進めていきたいと思います。当然、公開するということは、危険な状
況も起こりえます。公開の回数が増えれば増えるほどリスクも高まってきます。
本田:九州国立博物館は、最初の計画のなかに開かれた博物館という構想がありました。
具体的には、市民とともに歩む博物館というテーゼがあります。博物館の機能としては
展示が前面に出てきますが、本来は、収集・保管・活用・教育普及であり、これらのベ
ースにあるのは、モノを保存、守り伝える所にあります。さらに、21 世紀にはそうした
姿そのものを公開することも機能の一つとしてあるのではないでしょうか。博物館の機
能そのものを、市民に共感を持ってご理解いただきたい。博物館の中で、作業する場所
の一部にガラスの窓をつけました。ラボと収蔵庫に窓をつけたということは、日本の博
物館がどのようにモノを次世代に伝えてゆくかという仕組みを見ていただくためです。
内部の作業、収蔵庫であればどういう機能をもっているかという説明をモニター等で示
し、博物館ボランティアが案内を行うバックヤードツアーを設けました。利用者が非常
に多いので、運用方法を常に検討しながら実施しています。
座長:収蔵庫に窓をつけるということはリスクが伴うが、それをすることによってもっと
大きなリスクを回避する試みだと思われますが、現実には幸を奏しているのでしょうか。
本田:反響の大きさから実感しています。窓を開けたことの物理的影響はすべてクリアー
しています。これまで日本では文化財を環境で守り修理で伝えていく姿をみせる教育は
一般にほとんどなかったように思えます。日本人がどのようにして文化財を守り伝えて
きたか、それらの窓を通して知ることができます。社会教育の授業の中では、重要な位
置を占めています。
座長:特別展で予期せぬ入館者があったが、今後、展示環境の改善を具体的にどのように
考えていらっしゃいますか。
梶谷:正倉院の保存の人の協力を得ながら、少しずつ始めているところです。西新館
(昭
和 47 年度完成)はケースも当初のままです。東新館(平成 9 年度完成)は耐震・免震のケ
ースなので問題はありませんが、西新館の老朽化したケースに対しては、今年度の後半
に新しいケース(密閉ケース)に取り替えて、ケース内の温湿度をコントロールできるよ
うなケースに作り替えたいと考えております。これには3年間位かかると思われます。
座長:エアタイトの展示ケースを設置することは有効ですが、一方では、気密性を高めれ
ば高めるほど、内部に空気が滞留するということが起こります。そうすると、内部に使
われている材料から、有害なガスが発生すれば、より長いこと有毒なガスが内部に閉じ
こめられてしまって、ある意味危険なケースになってしまいます。エアタイトケースは、
湿度の安定化をはかる一方、汚染空気の滞留を招く可能性があります。そのような点
を、研究所的にはどのように博物館へサポートしていくおつもりでしょうか。
三浦:密閉ケースは、モナリザ展を開催したときに最初に作られたケースです。密閉ケー
スは、湿度調節剤を入れておけば湿度はずっと一定していますが、展示ケースに使われ
る材料が粗悪であれば、材料から出る揮発性ガス(ホルムアルデヒドなど)が少しずつ溜
まってきて、作品に影響を与えることになります。この問題に関しては、日本以外でも
多くのレポートが出ていますが、日本は、古い建物を改装して新しい博物館にすること
が多いヨーロッパやアメリカとは違って、新しい建物を建てて使う場合が多いので、こ
のような問題が昔から生じていました。密閉展示ケースの場合、古いケースを使えば中
の材料も枯れていていいわけですが、展覧会の直前に作る新しい展示ケースでは、例え
ば、接着剤が乾く前に作品を入れるといったことが原因になって問題が起こります。特
に最近は、展覧会の回数が多くなり、展覧会と展覧会の間が大変短くなって、準備にか
ける時間が十分にないという状況になってきている点が問題です。対策としては、でき
るだけ良い材料を使って、十分乾かしてから使用することです。
座長:博物館側では、どの材料からどういう有害な物質が発生するかを判断することはで
きない。そのような部分は、基礎的な分野として研究所が担う部分で、それを判断して
使うのが博物館という考え方がありえるのでしょうか。
三浦:文化財研究所が個別に商品テストをすることを背負えるかというと、膨大な数にな
るし、次々に新しい商品も開発されるので、基本的なデータを出すことはできても、細
かなことまではできません。そこで私たちは個別の材料を判定することにより、全体の
空気の環境がどうなっているかを判断して、各施設に応じた対策をとるようにしていま
す。そういう意味では博物館側の担当する「臨床保存学」が重要になってきます。
座長:民博の園田先生、素材についてテストをしていくというプロジェクトを立ち上げて
いると思いますが、どのようなスタンスで研究を立ち上げようとしているのでしょうか。
園田:素材の試験が必要と考えたのは、保存と活用を両立させるには、資料の不必要なハ
ンドリングを避けるとともに、収納保管方法を工夫して資料の安全化をはかりたいとい
うことから始まりました。私たちの目的は、収蔵庫での収納・保管方法を改良すること
によって長期的に調査しやすくすることですが、収蔵庫は必ずしもクローズドな空間で
はないので、欧米でよく利用されている Oddy Test が有効とは限りません。そのため、
実際に使うときに必要な機能を考慮したうえで、日本国内で簡単に手に入る材料ととも
に、欧米で安全だとリストアップされたもののなかから、入手可能なものを集めて、主
成分等を分析する作業を今、試みています。
座長:物事を判断する場合、優先順位をつけて最終的な結論を出していくわけですが、そ
の時に科学的なサポートがあれば、その判断はより迅速、かつ的確にできるということ
です。
座長:今度は少し視点を変えて、博物館の使命について話をしてみたいと思います。東京
国立博物館には、戦後すぐに保存修理課が存在していました。しかし、3・4年後には
解体されてしまいます。森田さんにその頃の事情についてお話しいただけるとありがた
いですが。
森田:京都の話が中心になりますが、東博はある時期まで国の行政の一端を担っていたこ
とがあります。それが今おっしゃった保存修理課で、もう一つは調査課というものがあ
りました。それらが今の文化庁や研究所に移行されました。日本の文化財の場合、装こ
う関係は 100 年から 200 年のオーダーで修理をします。彫刻であれば 400 年∼500 年の
間隔で修理をします。修理には伝統的な技術で行うのが通例であります。伝統的技術は
合理的で無駄がなく、危険性も少ない。どちらかというと防御的な意味合いだけで理解
されていますが、修理をすることで、より長い生命を与えるというのが日本の伝統的な
修理の考え方です。長い歴史の中で培われた考え方です。こうした歴史的経緯の中で日
本の保存技術は、欧米のように国が担うということではなく、民間の工房が担い伝承し
てきたということです。明治維新ののち、廃仏毀釈などがあり、文化財にとっては非常
に辛い歴史が続きました。そののち古社寺保存法の制定によって、文化財の保護を正面
から取り組む法律ができました。このときには今でいう「保存金」という補助金による
修理制度をはじめ、今の文化財保護法の骨格ができています。その年に開館したのが京
都国立博物館です。開館当初から寄託を受ける作品の修理費は館が支出しました。ただ
し、その修理は原則館内で行うという考え方が最初からあったため、敷地内に文化財保
存修理所を国が設置することになったわけです。現在京都国立博物館には寄託品が 6000
件以上ありますが、そういった歴史の中で積み重なってきたものです。三輪館長がおっ
しゃったように、博物館では保存というのは保護と活用を一緒にやってきた歴史があり
ます。その中で当館の文化財保存修理所は、文化財の修理に対して一定の役割を果たし
ております。
座長:日本の場合、古くから大きな意味での保全計画が明確に打ち立てられていました。
そして具体的な実践の場の一つとして、博物館に修理所というものを打ち立てていった。
そこでもう少し進めて、環境的な保全はどうしたらよいか、修理と環境を通じた文化財
の保全を具体的に実践する人たちはどうしたらよいかが進んでいない。そこが残された
大きなテーマです。
座長:まとめに入りたいと思います。このシンポジウムのディスカッションの中身は、臨
床保存学で、今、臨床保存はどういった観点でなされているかを具体的に話していただ
くと同時に、今後、それをどのように構築していくか、どのような連携を深めれば実際
に構築されていくか、博物館等が保存という観点から、ナショナルセンターとしてどう
いった機能を果たし得るのかもう少しだけ話して、終わりにしていきたいと思います。
本田さん、新しい館として、今後これらの点についてどのようにやっていこうとしてお
られるのでしょうか。
本田:九博の使命の一つは、開かれた博物館、市民とともに歩む博物館です。文化財保存
の観点からは、ボランティアによる IPM のプログラムを実践していますが、市民の力を
確実に取り込むことができたことを実感しています。具体的には、展示場の温湿度デー
タ収集、虫の生息調査を、30 名くらいの IPM ボランティアの方々が実施します。市民
の方々が文化財環境の保全に直接的支援をするということで、社会と博物館が繋がると
いうミッションを果たしていきたいと思います。また、修復施設では、研究員と修理技
術者が一体となって研究にあたり修理を行うという形を実現しました。他館のこれまで
の歴史をふまえ、修理技術者の連合体と文化財の修理を共にすすめるという新しいステ
ップを確実なものとしていきたいものです。
座長:園田先生、連携研究では東京国立博物館も加わっていますが、広範な資料群に対し
て規則的な考え方を導き出すという意図と伺っていましたが、これは何時どのような形
で共有化できる成果が得られるのでしょうか。
園田:連携研究においては、保存環境のデータをどのように解析、分析してゆくかという
問題では、まず生物生息調査の解析方法、現在の分析をバージョンアップしていくこと
から始めます。連携研究の成果を公開することで、それぞれの博物館等に還元していく
ことが最終目的ですので、研究期間が終了するのを待つのではなく、ある程度まとまっ
た時点で、何らかの形で公開発表していく形をとりたいと思っています。
座長:最後に久芳さんに。たくさんの図書をどう保存していくかというとき、それの調査
結果がデータとして他館にも共有できるものになりうるという調査をやっていると聞き
ましたが、具体的にどういう形で提供されていくものなのでしょうか。
久芳:現在、「国会図書館における和図書の劣化調査」を行っています。1950 年代以降に
国内で出版された図書を 10 年ごとに調べているうちに、それぞれの時代の特色、例えば、
紙質の酸性度、強度や製本の特徴が見えてきました。まだ、調査は途中ですが、データ
は当館ばかりではなく、同じような資料を所蔵している機関と共有できれば、今後の保
存処理を選択するうえで役に立つのではないかと思っています。
座長:博物館・美術館では、そういった保存に関する共通に適用できるデータについて共
有化が難しいということでこれまで進んできています。何とか共有化できるデータのも
ちかた、取り方、考え方というのを考えていかなければならないと思います。ナショナ
ルセンターとして標榜するならば、そういった点も考える必要があります。十分なまと
めにはなりませんでしたが、この辺で閉じさせていただきたいと思います。
国際シンポジウム
International Symposium
博物館における保存学の実践と展望
―臨床保存学と 21 世紀の博物館―
Practice of Conservation in Museums
− Defining a Vision for the Practice of Conservation in
Museums in the 21st Century −
2006 年 6 月 2 日(金)
独立行政法人 国立博物館 東京国立博物館
Independent Administrative Institution,National Museum
Tokyo National Museum