Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 31, No. 5 中国新疆ウイグル ウイグル自治区 自治区における における経済 経済・ エネルギー・ 環境の 中国新疆 ウイグル 自治区 における 経済 ・エネルギー ・環境 の 長期展望に 長期展望に関する計量経済分析 する計量経済分析 Econometric study on long-term outlook of economy, energy and environment in Xinjiang Uygur Autonomous Region of China グ リ ナ ・ カ ミ ル * ・ 李 志 東 Gulina Kamili * * Li Zhidong (原稿受付日 2010 年 3 月 25 日,受理日 2010 年 8 月 5 日) This paper conducted quantitative study on the outlook of economy, energy and environment to 2030 of China Xinjiang Uygur Autonomous Region by using econometric method. GDP growth will be over 7% annually between 2006 and 2030, and total primary energy consumption will double by 2030. The continuation of rapid economic growth could result in a lot of difficulties for energy development, environment protection, and CO2 emissions reductions. For the sustainable development, more comprehensive strategies should be adopted, including development of renewable energy with highest priority, improvement in energy efficiency and automobile fuel efficiency, etc. However, substantial governmental involvements and support, as well as the establishment of a regulatory framework are necessary. Keywords: Energy, Econometric model, environment, Xinjiang 1. .はじめに 2. .統合型計量経済モデル 統合型計量経済モデル 中国の西北部に位置する新疆ウイグル自治区には,豊富 2.1 モデルの構造 モデルの構造 3) なエネルギー資源が賦存されている.石油と天然ガスの地 マクロ経済モデルでは,人口や労働力,政府支出,原油 質埋蔵量はそれぞれ全国の 20.0%,25.3%を占め1),開発可 価格と為替レートなどを外生変数として与え,GDP 関連指 能な風力資源は 8000 万 kW に上ると推定される 2).経済発 標,経常収支,産業活動指標と産業構造,各種物価指数な 展に伴い,エネルギー需給が逼迫し,海外依存度が高まっ どを内生変数として求める.エネルギーモデルでは,マクロ ている中国にとって,新疆ウイグル自治区(以下,新疆と 経済モデルの結果に加え,電源別発電効率,一次エネルギ 略す)は重要な位置を占めると考えられる. ー生産量などを外生変数として与え,部門別エネルギー源 中国は 1978 年から改革開放政策を実行し,高度経済成長 別の最終エネルギー需要,発電用燃料需要,一次エネルギ 期に突入した.新疆も例外ではなく,1978~2006 年におけ ー需要,一次エネルギー需給バランスが内生変数として推 る経済成長率が 10.3%に達した.それに伴い,一次エネルギ 定される.環境モデルでは,エネルギー需要に各種汚染物質 ー消費は 2006 年までの 20 年間で年平均 7.0%の伸び率で増 の発生係数や排出係数を掛けて,汚染物質の発生量や排出 加し,大気汚染や CO2 排出量の急増など深刻な環境問題を 量を推定する(図1を参照されたい).モデルの基本構造は もたらした.新疆の経済・エネルギー・環境に関する未来像 李(2003)に従うが,輸出と輸入に相当する移出移入のデー を適切に把握し,関連問題と解決策を検討することは,新 タがないため,純移出入として処理した. 疆だけではなく,中国及び世界の持続可能な発展にとって 2.2 データ も有意義である.一方,新疆に関する従来の研究では,定性 マクロ関係のデータは主に[新疆統計年鑑] 的分析が多く,定量的分析が少ない.経済・エネルギー・環 5) 4) ,「新疆 50 6) 年」 ,「中国統計年鑑」 ,「中国固定資産投資年鑑 1950 境を整合的に取り扱う研究はほとんど見られない. ~1999」7)「 ,中国工業交通能源 50 年統計資料編 1949~1999」 本研究では,新疆におけるマクロ経済モデルとエネルギ 8) 等から,エネルギー需給関係のデータは「中国能源統計」 ー需給モデルおよび環境モデルからなる統合型計量経済モ 9) から収集した.エネルギー消費起因の SO2 発生量と CO2 デルを構築し,2030 年までのシミュレーション分析を通じ 排出量は次のように推定した 10). て,持続可能なエネルギー需給戦略の検討と政策提言を試 CO2(t-c)=1.080(t-c/toe)*石炭(toe)+0.837(t-c/toe)*石油(toe) みる. +0.641(t-c/toe)*天然ガス(toe) * 長岡技術科学大学大学院工学研究科博士後期課程 エネルギー・環境工学専攻 〒940-2188 新潟県長岡市上富岡町 1603-1 新疆財経大学統計信息学院 E-mail:[email protected] ** 長岡技術科学大学経営情報系 〒940-2188 新潟県長岡市上富岡町 1603-1 SO2(t)=石炭(toe)*2(原炭 t/toe)*1.15%(硫黄含有率)*0.8*2+地 第 25 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンスの 内容をもとに作成されたもの 6 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 31, No. 5 区産原油(toe)*0.3%(硫黄含有率)*2+天然ガス(toe) 水準は全国より相対的に低いことによるものだと考えられ *0.046%(硫黄含有率)*2 る. 2.3 モデルの規模 モデルの規模と 規模と推定期間 <生産関数の推定結果> 統合型モデルはマクロ経済モデル 73 本,エネルギー需 LOG(GDP.XJ/L.XJ)=-108.054+0.241838*(LOG((ROMAS * 給モデルと環境モデル 180 本,計 253 本の方程式によって K.XJ)/L.XJ)) +0.051813*(TIME) 構成される.推定期間は原則としてマクロについては 1979 (t-value) ~2006 年,エネルギーと環境については 1986~2006 年と 推定期間:1986-2006 した.定義式を除いて,すべての方程式が基本的に最小二乗 SD= 0.013855 法(OLS)を用いて推定された.線形関数と対数関数の適合 GDP.XJ:実質域内総生産; L.XJ:従業者数; ROMAS: 性テストを実行し,連立方程式モデルについては,パーシャ 推定稼働率;K.XJ:社会資本ストック;TIME:タイム (-10.20) (4.89) (9.72) 決定係数:0.999 DW 値: 1.75 ルテスト,トータルテスト,およびファイナルテストを実施 し,モデルの信頼性が評価された. <人口要因> 人口及びその構成 表1 経済成長会計の推定結果に関する比較 <政府要因> 投資、消費、政策制度、等 新疆ウイグル自治区 中国に関する に関する推定結果 る推定結果 <海外要因> 為替レート、等 経済成長(%) 資本ストックによる成長率 労働投入による成長率 全要素生産性(残差) マクロ経済モデル <各種活動指標> GDP関連指標、経常収支、 産業構造、主要製品生産量、 自動車保有量、各種輸送量、など <各種効率指標> 電源別熱効率、 自動車総合燃費 <各種価格指標> GDP関連デフレーター、 WPI、CPIなど一般物価指数、 エネルギー関連価格指標、など <エネルギー生産量> 化石燃料生産量、各種 再生可能エネルギー開 発量 経済成長への寄与率(%) 資本ストックによる寄与率 労働投入による寄与率 全要素生産性による寄与率 <汚染係数> SO2含有率と発生 係数、排出係数、 CO2排出係数 3) 本研究 1986-2006 9.8 3 1.3 李(2003) 1980-1999 9.8 3.2 1.9 5.5 100 30.4 13.2 56.5 4.8 100 32.3 18.9 48.8 (2) エネルギー需要の所得弾力性と価格弾力性 エネルギー需要は主に所得や生産水準とエネルギー価 エネルギー需要モデル、環境モデル 格の関数として推定された.表2は主なエネルギー需要関 ①部門別・エネルギー源別最終消費 ②電源別エネルギー投入量 ③熱源別エネルギー投入量 ④一次エネルギー源別消費量 数の長期弾力性を示すものである.以下の傾向が読み取れ ①部門別・電源別・エネルギ ー 源別SO2発生量、排出量 ②部門別・電源別・エネルギ ー源別CO2排出量 る. 第 1 に,所得弾力性が価格弾力性より高い.世界や中国 (凡例) 外生変数 モデル 全体のエネルギー需要の共通傾向が新疆にも当てはまる. 内生変数 第 2 に,エネルギー源別にみると,電力の所得弾力性がそ 図1 モデル構造図 の他エネルギーより高い.クリーンで便利なエネルギーと 2.4 推定結果の 推定結果の意味 しての電力がより好まれるという共通傾向が新疆でも確 (1) 成長会計から見る高成長の要因 認された.第 3 に,部門別みると,家庭と業務部門の所得弾 経済成長の要因を把握するために,新古典派経済成長理 力性がその他部門より高い.中国全体と同様に,家庭電器や 論(ソロー=スワン・モデル)に従い,労働,資本とタイ OA 機器,冷暖房設備などが新疆でも急速に普及している ムトレンド(技術進歩の代理変数)を説明変数とするコブ ことがその背景である.一方,新疆のエネルギー需要の所得 =ダグラス型GDP生産関数をマクロモデルに組み入れた 弾力性も価格弾力性も中国全体の同弾力性より低いとなっ ている. 11) .資本分配率は 0.24,労働分配率は 0.76,技術進歩率は 5.2%と推定した.成長会計を試算すると,1986~2006 年の 3. . 新疆 2030 年までのマクロ経済 までのマクロ経済の 経済の展望 平均経済成長率 9.8%のうち,資本ストックの寄与は 3%, 労働投入の寄与は 1.3%,全要素生産性(残差)の寄与は 上記の統合型計量経済モデルに基づくシミュレーション 5.5%である.表1は経済成長会計の推定結果に関する比較 分析を通じて,2030 年までの新疆の未来像を展望したい. を示すものである.高成長を支える主な要因は技術進歩と まず,マクロ経済について検討する. 設備投資であり,中国全体の結果とほぼ一致することがわ 3.1 かる.ただし,全要素生産性の貢献は中国全体より高く,技術 シミュレーションの前提条件 シミュレーションの前提条件 新疆の総人口は 2006 年に 2050 万人であり,2030 年には, 7 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 31, No. 5 3054 万人,高齢化率は 10.3%になると仮定した.原油価格 2030 年までは 6.5%へ鈍化していく.2030 年までに年率 7% 12) は IEA(2007) に基づいて 2030 年に 108 ドル(名目,2006 台の成長が維持されるという結果である.高成長がさらに 年実質 62 ドル)になると設定した.政府消費は 1980~2006 20 年近く続くことになろう. 年に年率 12.2%で推定してきたが,伸びが鈍化する可能性 表 4 に示される成長会計をみると,資本投入の寄与は が大きい.ここでは 2010 年までに 8.0%,以降 2030 年まで 2006 年までの 3%から 2030 年の 2.4%へ,労働投入の寄与 に年率 7.0~6.0%で推移すると設定した.一方,政府投資は は 1.3%から 1.1%へ, 全要素生産性の寄与は 5.5%から 3.4% 1980 年~2006 年に年率 11.1%(GDP 弾性値は1)増大し へ低下する.経済成長の原動力は技術進歩に起因する全要 てきたが,インフラ整備を中心とする公共事業をさらに行 素生産性の向上であり,その寄与率はこれまでの 56.5%か う必要があることから, 今後 GDP 成長率とほぼ同率で増 ら 2030 年代 52.4%へ低下する.高成長を維持する技術進歩 i) は不可欠の条件であろう. 大すると想定した(表 3) . 3.2 マクロ経済 マクロ経済の 経済の未来像 名目 GDP に占める三次産業シェアをみると,第一次産業 新疆の経済は 2006 年まですでに 20 年間 9.8 %平均成長 は 2006 年現在の 17.3%から 2030 年の 6.2%へ,第二次産業 率を維持してきた.シミュレーションの結果をみると,2010 は 47.9%から 44%へ低下するのに対し,第三次産業は 年以降年平均成長率は約 1.0 ポイント低下し,2020 年から 34.7%から 49.8%へ上昇する.第一次産業と第三次産業の 表2 エネルギー需要 産業部門の石炭需要 産業部門の石油需要 業務部門の電力需要 家庭部門の電力需要 家庭部門の石油需要 主要エネルギー需要の弾性値 所得.活動要因 同弾性値 産業部門生産指数 0.94 産業部門生産指数 0.76 一人当たり実質GDP 1.2 一人当たり実質GDP 1.26 一人当たり実質GDP 0.86 価格要因 石炭価格 石油価格/石炭価格 電力価格/卸売物価指数 電力価格/卸売物価指数 石油価格/卸売物価指数 同弾性値 0.43 0.45 0.11 0.19 0.16 備考 弾力性が一定 弾力性が一定 弾力性が可変、2006年 弾力性が一定 弾力性が一定 表3 モデルの前提条件 総人口 政府消費 政府投資 原油価格 為替レート 単位 万人 億元 億元 $/BBL RMB/$ 1986 2006 2007 2010 2020 2030 1,384 79 92 16.1 3.5 2,050 794 760 64.1 8.0 2,095 945 759 64.9 7.6 2,223 1,191 983 67.5 6.5 2,632 2,343 2,123 84.7 5.3 3,054 4,195 4,176 111.6 4.1 表4 2006/ 1986 2.0 12.2 11.1 7.2 4.3 2010/ 2007 2.0 8.0 9.0 1.3 -5.0 2020/ 2010 1.7 7.0 8.0 2.3 -2.0 2030/ 2020 1.5 6.0 7.0 2.8 -2.5 2030 年までの新疆潜在 GDP,経済成長会計の推移 1986 実質潜在GDP (億元、95年価格) (億元、95年価格) 実質GDP 資本ストック (億元、95年価格) 労働投入量 万人 (成長会計の試算) 実質GDPの成長率 % 資本投入の寄与 % 労働投入の寄与 % % 技術進歩の寄与 実質GDPの成長=100 % 資本投入起因の比率 % % 労働投入起因の比率 技術進歩起因の比率 % 460 329 626 575 2006 2196 2116 6316 812 2010 3164 3136 10151 885 0.24 0.76 8 2020 7470 6469 27741 1054 2030 2006/ 2010/ 2020/ 2030/ 2030/ 1986 2006 2010 2020 2006 16607 8.1 9.6 9 8.3 8.8 12134 9.8 10.3 7.5 6.5 7.5 62261 12.3 12.6 10.6 8.4 10 1214 1.7 2.2 1.8 1.4 1.7 9.8 3 1.3 5.5 100 30.4 13.2 56.5 10.3 3 1.7 5.6 100 29.6 16.2 54.2 7.5 2.6 1.4 3.6 100 34.2 18.2 47.6 6.5 2 1.1 3.4 100 31.3 16.3 52.4 7.5 2.4 1.3 3.8 100 32.2 17.2 50.6 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 31, No. 5 表 5 ケース設定 ケース名 ① 基準ケース 前提条件の特徴 従来の傾向(構造変化と効率向上など)がそのまま続く。 2030 年の火力発電効率は 2006 年より 30%→43.3%。 2030 における非火力発電導入量は 2006 年より増加: 水力は 171.24 万 KW →691.8 万 KW (開発可能量 1567.1 万 KW の 44%)、 風力その他再生は 18.85 万 KW→433.9 万 KW(開発可能量 8000 万 KW の 5.4%) 。 2030 年の自動車総合燃費は 2006 年より改善:5.7→4.3 リットル/100ton.km ② 政策強化ケース 基準ケースと比べて、2030 年は 火力発電効率は 5.4 ポイント向上:43.3%→48.7%。 非火力発電導入量は 水力は 691.8 万 KW→ 1084.4 万 KW(開発可能量の 44%→69%)、 風力その他再生は 433.9 万 KW→1005.8 万 KW(開発可能量の 5.4%→13%) 。 自動車総合燃費は改善:4.3→3.0 リットル/100ton.km その他は同基準ケース。 2030 年まで上昇する傾向は中国全体(Li,2010)13)と同じだ 一次エネルギー需要の伸び率を 3.7%に引き抑えるが,所得 が,新疆のほうは中国全体より第三次産業が急激に上昇し 水準の向上と人口増加により,一次エネルギー需要の伸び ていることが分かった,産業構造の近代化が順調に進むこ 率をそれぞれ 5.8%,1.7%に高めることになる(図 2). 一次エネルギー需要の構造をみると,石炭のシェアが ととなる. 2006 年の 56.4%から 2030 年に 39%へ低下する.それに対し, エネルギー多消費産業製品は急速に伸びることとなる. 製造業関連では,セメント生産量 2006 年の 1335 万トンか 石油のシェアは 27.3%から 40.9%へ,天然ガスは 15%から ら 2030 年の 4165 万トンへ,アンモニア生産量は 130 万ト 17%へ,再生可能エネルギーは 1. 3%から 3%へ上昇する. 新疆の発電電力量は 2006 年の 357 億 kWh から 2030 年に ンから 271 万トンへ,それぞれ増加する.また,輸送業では, 自動車保有台数が 2006 年の 72 万台から 2030 年の 504 万台 3.2 倍の 1136 億 kWh に達する.一方,電源構成をみると, へ急増し,普及率は 3.5%から 16.5%前後に達する.高度経 表 7 に示すとおり,発電電力ベースでは,石炭火力の比率 済成長と所得水準の向上に伴って,自動車普及が進展する は 76.7%から 67%へ大幅に低下する.それに対し,水力は ことであろう. 15%から 18.3%へ,風力其の他は 1.3%から 9.6%へ大幅に 上昇する.電源構成は石炭主役から多様化へ転換する. 最終エネルギー需要を部門別にみると(表8),2030 年 4. . 新疆 2030 年までのエネルギー需給 までのエネルギー需給と 環境の展望 需給と環境の 4.1 ケース設定 ケース設定( ) 設定(表 5) 経済成長や産業構造のほか,エネルギー需給と環境に影 響する主な要因はエネルギー需給政策,特に省エネルギー 政策と再生可能エネルギーの開発促進政策である.ここで は,主に電源構成と発電効率および自動車の燃費向上に注 目し,基準ケースと政策強化ケースを設定したⅱ). 4.2 基準ケースの 基準ケースの結果 ) ケースの結果( 結果(表 6) 基準ケースでは,一次エネルギー需要は 2006 年の 5463 万 TCEⅲ)から 2030 年の 12776 万 TCE へ増加し,年平均伸 び率は 3.6%となる.これは,過去 20 年間の年平均伸び率 図2一次エネルギー消費の要因分析 7%を 3.4 ポイントも下回る.要因別では, 原単位が改善し, 9 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 31, No. 5 の産業部門の比率は 2006 年の 66.7%から 66.2%へ 0.5 ポイ トンに達する.また地球温暖化の主因である CO2 の排出量 ント,民生農業部門は 22.2%から 20.8%へ 1.4 ポイントと低 は年平均伸び率 3.3%で増加し,2030 年に 7806 万 T-C(炭 下するのに対し,交通運輸部門の比率は 11%から 13%へ 2 素換算トン)に達する. ポイント上昇する.最終エネルギー消費の部門構造はある このように,従来の変化傾向や対策がそのまま続くこと 程度近代化が進むだろう. を前提とする基準ケースは,エネルギー需要の急増と環境 悪化をもたらすケースであり,避けなければならないケー 新疆は豊富なエネルギー資源を持っており,中国全体に おけるエネルギー供給基地の役割を担っている.しかし,基 スである. 準ケースのままでは,エネルギー需要の急増は中国全体の 4.3 政策強化ケースの 政策強化ケースの結果 ケースの結果 エネルギー安全保障にもマイナスの影響を及ぼすことにな 基準ケースの結果を避けることができるのか.その方向 る.一方,エネルギー起因の SO2 の発生量は年平均伸び率 性を見定めるために,政策強化ケースのシミュレーション 2.9%で増加し,2006 年の 103 万トンから 2030 年の 205 万 を試みた.表9にその主な結果を示す. 表6 新疆における 2030 年までのエネルギー・環境(基準ケース) 実績 一次エネルギー需要(万tce) 化石燃料 石炭 石油 天然ガス 水力 風力その他再生 一次エネルギー生産(万tce) 石炭 石油 天然ガス 化石エネルギー需給バランス(万tce) 石炭 石油 天然ガス 化石燃料自給率(%) 石炭 石油 天然ガス CO2排出量 (10kt-c) SO2発生量 (10kt) 見通し 1986 2006 2010 2020 2030 1,422 1,410 995 339 76 12 0 2,056 1,182 5,463 5,392 3,082 1,490 820 66 6 9,018 3,228 6,423 6,311 3,381 1,929 1,000 96 17 15,291 7,000 9,209 9,001 4,145 3,377 1,478 157 51 27,008 12,536 12,776 12,388 4,980 5,230 2,177 255 133 50,695 24,660 786 76 -634 -187 -447 0 3,535 2,184 -3,555 -146 -2,045 -1,364 119 232 100 985 31 105 237 266 3571 103 4,380 7,134 11,621 3,798 7,130 14,026 -8,868 -17,799 -37,919 -3,619 -8,391 -19,680 -2,450 -3,757 -6,391 -2,798 -5,652 -11,849 207 227 380 4135 116 302 211 482 5776 153 495 222 644 7806 205 年平均伸び率 2006 2030 /1986 /2006 7.0 3.6 6.9 3.5 5.8 2 7.7 5.4 12.6 4.2 9.1 5.8 28.8 14 7.7 7.5 5.2 8.8 倍率 2030 /2006 2.3 2.3 1.6 3.5 2.7 3.9 23.0 5.6 7.6 7.8 18.3 9.0 -1.2 7.9 0.0 5.1 8.1 10.4 22.7 4.9 9.4 3.3 6.4 10.7 134.7 3.1 8.7 -0.6 0.1 5.0 6.7 6.2 6.7 -0.3 3.7 3.3 2.9 4.7 0.9 2.4 2.2 2.0 表7 新疆における 2030 年までの総発電力量の推移 実績 1986 発電電力量 (億kwh) 化石エネルギー (億kwh) 石炭 (億kwh) 石油 (億kwh) 天然ガス (億kwh) 水力 (億kwh) 風力其の他 (億kwh) (構成) 発電電力量 % 化石エネルギー % 石炭 % 石油 % % 天然ガス % 水力 風力其の他 % 見通し 2006 2010 2020 43 33 28 3 3 9 0 357 299 274 0 25 53 5 478 387 357 0 29 78 13 756 587 545 0 41 127 42 1136 820 761 0 59 208 108 100.0 77.9 64.7 6.0 7.3 22.0 0.1 100.0 83.7 76.7 0.1 6.9 15.0 1.3 100.0 80.8 74.7 0.1 6.1 16.4 2.8 100.0 77.6 72.1 0.0 5.5 16.9 5.5 100.0 72.2 67.0 0.0 5.2 18.3 9.6 10 2030 年平均伸び率 2006/ 2030/ 1986 2006 11.2 4.9 11.6 4.3 12.1 4.3 -8.0 0.0 10.9 3.7 9.1 5.8 28.8 14.0 倍率 2030 /2006 3.2 2.7 2.8 0.0 2.4 3.9 23.0 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 31, No. 5 5. .結論 政策強化ケースは火力発電効率向上と水力,風力などの 非化石エネルギーの導入促進,自動車総合燃費の向上ケー 新疆は 2030 年までに年率 7%台の高度経済成長が維持す スである.基準ケースと比べて,一次エネルギー需要は る可能性が高く,それに伴ってエネルギー需要の急増と環 7.8%減,化石エネルギー需要は 10.6%減となる.一方,SO2 境悪化の可能性が大きい.それを避けるために,発電効率と 発生量と CO2 排出量はそれぞれ 8.6%,12%削減される.こ 自動車総合燃費の向上,再生可能エネルギーの拡大などの れらは火力発電効率向上,非化石エネルギー導入促進,自 対策が有効である.特に,再生可能エネルギーの導入拡大の 動車総合燃費の向上の効果である.さらなる効果を求める 効果が大きい. には,開発可能量の拡大と変換技術の向上をもたらす技術 新疆は,従来から中国における化石エネルギーの供給基 革新を促進しなければならない. 地として発展してきたが,風力や太陽エネルギー資源も豊 また,対策別の削減効果をみると,表 10 のとおり,化石エ 富にあるため,再生可能エネルギー基地と位置付けて,開 ネルギー消費量は 1317 万 TCE 削減できる.そのうち,発電効 発を促進する必要がある.本研究では,域内消費を目的に風 率向上の貢献は 246 万 TCE,自動車燃費改善の貢献は 315 万 力発電の導入を考えたため,2030 年でも導入量は最大 1006 TCE,再生可能エネルギー拡大の貢献は 756 万 TCE である. 万 kW としている.これは開発可能量の僅か 13%程度でし 再生可能エネルギー導入の効果が最も高く,化石エネルギ かない.域外地域への電力移出の潜在力が十分に大きい. ー消費量の減少分の 57%,SO2 の発生量の減少分の 75%, 中国では,2005 年に再生可能エネルギー法を制定し,風 CO2 排出削減量の 59%をそれぞれ占める. 力など再生可能エネルギーによる発電量のグリッド連携義 表8 新疆における 2030 年までの最終エネルギー需要の推移(部門別) 実績 最終エネルギー消費計 産業部門 交通運輸部門 民生農業部門 (構成) 最終エネルギー消費 産業部門 交通運輸部門 民生農業部門 表9 見通し 1986 2006 2010 2020 2030 万TCE 万TCE 万TCE 万TCE 1,214 570 73 571 4,060 2,707 450 902 4,959 3,312 611 1,036 7,373 4,934 948 1,491 10,630 7,038 1,381 2,211 % % % % 100.0 47.0 6.0 47.1 100.0 66.7 11.1 22.2 100.0 66.8 12.3 20.9 100.0 66.9 12.9 20.2 100.0 66.2 13.0 20.8 万tce 5,463 2030年の結果 ケース比較 ケース① ケース② 12,776 11,779 構成比:石炭 % 石油 56.4 27.3 39.0 40.9 34 41.9 天然ガス 15.0 17.0 18.2 水力 風力など 1.2 0.1 2.0 1.0 3.4 2.6 化石エネルギー需要 一次エネルギー生産 倍率 2030 /2006 2.6 2.6 3.1 2.4 2030 年のシミュレーション結果に関するケース間比較 2006年実質 一次エネルギー需要 年平均伸び率 2006/ 2030/ 1986 2006 6.2 4.1 8.1 4.1 9.5 4.8 2.3 3.8 万tce 万tce 5,392 9,018 12,388 50,695 11,070 51,016 89.4 100.6 2.7 4.2 3.8 90.5 2.6 165.1 1.1 396.8 1.0 509.3 88.2 128.4 103.3 3,570.6 205.0 7,806.0 187.4 6,872.0 91.4 88.0 一人当たり一次エネルギー消費 tce/人 GDP原単位 一次エネルギー自給率 tce/万元 % SO2発生量 CO2排出量 万トン 万t-c ①=100 92.2 11 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 31, No. 5 表 10 2030 年における対策別削減効果の構成 削減量 (10ktce) 化石エネルギー消費量(合計) -1317 発電効率向上の貢献 -246 自動車燃費改善の貢献 -315 再生可能エネルギー拡大の貢献 -756 SO2発生量の削減 CO2排出量の削減 (10kt) % (10t-c) % -24 100 -933 100 -5 20 -198 21 -1 5 -180 20 -18 75 -555 59 % 100 19 24 57 局,「中国能源統計」,各年版, 中国統計出版社. 務を送配電事業者に課すこと,固定優遇価格で送配電事業 者に買い取らせることなどの措置を導入している.その結 10) 李志東;「中国の環境保護システム」,1999 年 4 月,東 果,中国の風力発電の設備容量は 2005 年の 131 万 kW から 2009 年に 1613 万 kW へ急増してきた 問題も指摘されている 洋経済新報社. 14) .しかし,様々な 11) 中谷厳;入門マクロ経済学第 5 版,第 11 章, (2007 年 3 15) .特に大きな障害要因となってい 月), 日本評論社. るのは,送配電建設の遅れと風力発電の増大による電力供 12) 給の不安定性問題である.これは新疆にも当てはまる.した IEA(International Energy Agency),2007c.World Energy Outlook, China and India Insights, OECD,Paris. がって,遠距離,大量輸送が可能な送配電の整備が新疆の LI ZHIDONG ;「Quantitative analysis of sustainable 13) 風力開発にとって必要不可欠である.また,電気自動車を導 energy strategies in China」ENERGY POLICY,38(2010) 入したり,燃料電池自動車の燃料となる水素の製造に風力 2149-2160. 発電電力を利用したりするなど,域内での風力発電の需要 14) 中国電力企業連合会; 「2009 年全国電力工業統計快報」 を創出する必要もある. (2010 年 1 月 7 日) 最後に,本研究では,産業部門と民生部門の省エネルギ http://tj.cec.org.cn/news/deptnews.asp?id=3406(アクセス ー対策や,公共交通手段の拡大による輸送部門のエネルギ 日 ー消費の抑制などについて論じていない.これらは,再生可 2010 年 3 月 16 日) 15) 国家電力監管委員会; 「我国風電発展状況調研究報告」 能エネルギー発電の域外移出を考慮するシナリオ分析と合 (2009 年 7 月 21 日) わせて,今後の課題としたい. http://www.serc.gov.cn/jgyj/ztbg/200907/t20090721_11739 .htm(アクセス日 参考文献 注: i) 以下の資料と 2007 年実績をベースに筆者が作成. 1) 中国能源研究会他;中国能源五十年,(2002/1),中国電 ①「新疆ウイグル自治区第 11 次五カ年規画」 ,②「新疆 力出版社. ウイグル自治区城鎮体系規画(2000-2020) 第二章 人口 2) 張希良;風能開発利用,(2005/1),化学工業出版社. 3) 2010 年 3 月 16 日) 増長と城鎮化水平予測」③李志東「中国におけるエネル LI ZHIDONG ;「An econometric study on China’s ギー需給の現状,中長期見通しと政策課題」1998 年 4 月 economy ,Energy and environment to the year 2030 」 ④原油価格は「WORLD ENERGY OUTLOOK 2007」64 ENERGY POLICY,31(2003) 1137-1150. ページ. 4) 中国新疆ウイグル自治区統計局;[新疆統計年鑑],各年 ⅱ) 「新疆ウイグル自治区第 11 次五カ年規画」,2007 年「新 版,中国統計出版社. 疆第 11 次五カ年規画及び 2020 年風力発電発展規画報 5) 中国新疆ウイグル自治区統計局;「新疆 50 年 1955~ 告」2007 年,新疆社会科学 2009 年第 4 期(p28)に基づ 2005」, 2005 年 8 月,中国統計出版社. き,設定しました. 6) 中国人民共和国国家統計局;「中国統計年鑑」,各年版, ⅲ) TCE とは石炭換算トンを意味し,1TCE=0.7TOE(石油 中国統計出版社. 換算トン). 7) 国家統計局固定資産投資統計司; 「中国固定資産投資年 鑑 1950~1995」,1997 年 5 月,中国統計出版社. 8) 国家統計局工業交通統計司; 「中国工業交通能源 50 年 統計資料編 1949~1999」, 2000 年 11 月,中国統計出版 社. 9) 国家統計局工業交通統計司;国家発展改革委員会能源 12
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