「トランプラリー」は持続するのか

Global Market Outlook
2016 年 11 月 18 日号
「トランプラリー」は持続するのか
想定外のトランプ候補勝利、そして同じく想定外の株高、ドル高、金利上昇が継続しています。
その背景、及び今後の見通しについて簡単に整理してみました。
1. 選挙後、市場の反応は急転
選挙前、金融市場ではクリントン候補勝利の場
%
グラフ1:大統領候補支持率推移
12
合は株価に追い風、逆にトランプ候補勝利の場
SP500指数(右軸)
10
合は急速にリスク回避が高まる(株安、円高、
長期金利低下)という見方が一般的でした。グ
ラフ1の赤は両候補の支持率差(上方がクリン
トン候補優勢)、黒が米国SP500株価指数
2150
6
2100
4
2050
2
2000
1950
支持率差(左軸)
↑クリントン候補優勢
-2
-4
過去の不適切な発言が暴露され、クリントン候
-6
1900
1850
1800
1月
補の支持率が高まった際、株価は高値圏で底堅
2200
8
0
の推移です。実際、10月初、トランプ候補の
2250
2月 3月
4月 5月
6月 7月
8月
9月 10月 11月
資料:リアル・クリア・ポリティクス、ブルームバーグ
く推移しました。その後10月28日、FBI
がメール問題を再調査すると伝わり、クリントン候補の支持率が急低下した局面で下落し、11月6
日、FBIが問題なしと発表し反発しました。
ところが、トランプ候補勝利のニュースに、アジア市場でこそ株価は急落しましたが、米国時間に
入り反転、その後も力強い上昇が続いています。株価とともに長期金利も急上昇、一方、為替市場で
はドル高円安が進行、6月1日以来となる110円台を回復するに至りました。
%
グラフ2:日米欧10年国債利回り
2.4
2.2
%
米国(左軸)
2
122
120
118
116
114
112
110
108
106
104
102
100
98
0.6
0.4
1.8
0.2
1.6
ドイツ(右軸)
0
日本(右軸) -0.2
1.4
1.2
-0.4
1月
2月 3月
4月
5月
6月
7月
8月
グラフ3:ドル円為替
円/1米ドル
0.8
1月
9月 10月 11月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月
資料:ブルームバーグ
資料:ブルームバーグ
1
2. 「トランプラリー」の背景
それではどうして事前の予想に反し、トランプ候補の勝利で株価、長期金利が上昇し、円安に振れ
たのでしょうか?
最も一般的には、「公約として掲げている大型減税や大規模インフラ投資、規制緩和等が成長率を
押し上げるという期待」とされています。同時にインフレ率も上昇し、財政赤字を拡大させるという
懸念から債券価格は下落(長期金利は上昇)、そして株高と米国金利上昇がドル高を招いたというこ
とです。ただしこのような公約は選挙以前より示されていたわけで、加えて選挙前に懸念された保護
貿易、孤立主義等の不安材料について、市場がそれほど材料視しなくなったことは、いささか奇妙で
不可解です。もし、現在の「トランプラリー」の背景がこのような期待に基づくものであれば、後述
するように実現へのハードルも高いため、早晩反転することも想定されます。
2番目の見方は、「そもそも新興国経済が底打ちし、米国経済へも明るい見方が強まっていたが、
大統領選挙という不安材料が市場を疑心暗鬼にさせていた。勝者がいずれであれ、その不安材料が消
えたため、株価、金利上昇、ドル高が進行した」というものです。この場合は今しばらく現在の基調
が継続することも考えられます。
3番目に、やや陰謀論めいた見方ですが、トランプ候補の規制緩和路線を支持する(クリントン候
補の規制強化に反対していた)投機筋が、次期政権の政策遂行能力を高めることを目論み、選挙後の
市場の急落を回避すべく株を買い上げたという見方です。この場合、現在の流れは短命に終わると思
われます。
3. 共和党は大統領、上院、下院を制したが
米国大統領は、一般的に思われている
図表1:米国政治の座標軸
ほど大きな権限を持っているわけではあ
他国への介入、自由貿易
国際協調主義
りません。法案成立への拒否権は有しま
共和党
ネオコン
すが、予算等の法律を策定する権限は議
会にあります。共和党は上下両院で過半
共和党
主流派
数を獲得したとは言え「トランプ派」の
議員は極めて少数で、「ティーパーティ
ー派」を中心に財政赤字拡大への抵抗は
再配分重視
富裕層への増税
強いと想定されます。極端な保護主義や
規制強化
民主党
主流派
保護主義、
孤立主義への反対
小さな政府、減税
規制緩和
孤立主義には「主流派」が反対するとみ
られます。
民主党
サンダース派
富裕層への
減税反対
共和党
財政赤字拡大反対
共和党
ティーパーティー
米国の大統領交代には4千のポストに
金融規制緩和反対
も及ぶ人事が伴い、容易なことではあり
孤立主義、保護貿易
アメリカ・ファースト
ません。早くも「政権移行チーム」から
資料:各種報道等から弊社作成
有力者の離脱も伝えられています。「ト
ランプ派」、「ティーパーティー派」、「主流派」間での対立が激化する可能性も強いと思われます。
2
一方、民主党は少数派とはいえ、上院では47議席(定数100議席)を占めており議事妨害が可
能です(上院では60議席がなければ議事妨害を阻止できず、採決に持ち込めない)。富裕層も含ん
だ大規模減税や規制緩和には、昨今、左派的色彩を強めている民主党が抵抗を示すことも想定されま
す。いずれにせよ、次期大統領の公約実現へのハードルは高いと思われます。
現在、市場では「ハネムーン」的なムードが感じられます。しかし来年1月20日の就任に向け、
人事や政策を構築する過程で、市場の「夢が覚める」局面も充分考えられます。現在の「トランプラ
リー」の持続性にはやや懐疑的にならざるを得ません。
3
※ 2016年9月以降のレポート
9月
1日号
8月の市場動向と9月の注目点
9月 6日号
米国雇用統計と利上げ観測
9月13日号
長期金利上昇で米国株が下落
9月23日号
日米金融政策決定会合と市場の反応について
10月
4日号
9月の市場動向と10月の注目点
10月11日号
2016年度第2四半期の市場動向と今後の見通し
10月25日号
米国選挙と金融市場
11月 1日号
10月の市場動向と11月の注目点
11月10日号
米国選挙結果と金融市場
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おけるものであり、今後予告なしに変更されることがあります。
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ものではありません。また、掲載されている予測は、本資料の分析結果のみ
をもとに行われたものであり、予測の妥当性や確実性が保証されるものでも
ありません。予測は常に不確実性を伴います。本資料の予測・分析の妥当性
等は、独自にご判断ください。
*なお、資料中の図表は、断りのない限りブルームバーグ収録データをもと
に作成しております。
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