日本の証券市場の活性化について

平成 26 年度
証券ゼミナール大会
日本の証券市場の活性化について
関西学院大学 阿萬ゼミナール 杉田班
1
目次
序章
5
第一章:日本の証券市場
10
第一節
活性化の定義
第二節
証券市場
第三節
証券市場の現状
第四節
活性化の理想像
第二章:企業における証券市場の利用
第一節
クラウドファンディング
第二節
クラウドファンディングの普及に向けて
15
第三章:家計における証券市場の利用
20
第一節
金融教育
第二節
実践的な投資に向けて
第一項
NISA
第二項
証券の訪問販売
終章
2
序章
我々日本人は証券市場に対してどの程度の知識があるのだろうか。また、一
体どの程度の人・企業が証券市場を利用しているのだろうか。2003 年の「金
融に関する消費者アンケート」では、十分に知識がある人はわずか 5%にも満
5
たないという結果が出た。20 人に 1 人しか十分な知識がないという事だ。で
は、証券市場は我々日本人にとって重要でないものなのだろうか。少子高齢化
の社会では、益々社会保障が重要視されている。それは国に任せておくのでは
なく、国民一人ひとりが当事者意識を持って必要なお金を確保することが求め
られているのだ。
10
日本の証券市場のあり方が、いま問われている。日本の証券市場は、経済と
共に発展し、日本全体の経済において非常に大きな役割を果たしてきた。日本
ではバブル崩壊後経済が低迷している中、1996 年、当時の橋本内閣の下「日
本版ビッグバン」が行われた1。これは個人投資家による市場投資を活発化させ
るためにおこなわれた金融システム改革であった。しかしながら、日本版金融
15
ビッグバンが完了した後も、個人金融資産の半分以上を依然として預貯金が占
めているなど、ビッグバンが目指した金融構造の転換は進んでいない。むし
ろ、米国発のサブプライムローンやリーマンショックといった金融危機の影響
から、国民は消費を抑え、株式投資に不安感や不信感を抱き、間接金融優位に
拍車がかかっているのが現状である。経済環境・社会環境の変化に伴いさらに
20
証券市場への期待が高まる中で、現在の日本の証券市場は、はたしてそうした
期待に十分に応えていけるのであろうか。すぐ目の前の市場取引の活発化とい
った視点にとどまらず、今後の将来全体に目を向けた中長期的な視点に立った
証券市場全般の改革が、いま求められている。そこで私たちは「いま現在の証
券市場の問題点・改善点」をまず洗い出し、それを踏まえて「証券市場活性化
25
のための提言、問題の解決策」を学生ならではの視点で述べていきたいと考え
る。
1
金融広報中央委員会の実施したアンケートで、「株式・債券等の証券投資について」の質
問。十分に知識があると回答した人はわずか 4.4%であった。詳しくは本稿第三章の第一節
に記載している。
3
第一章
第一節
日本の証券市場の現状
活性化の定義
「日本の証券市場の活性化」を考えていく上で、まず「活性化」という言葉
5
の意味を考えてみる。「活性化」という言葉のそもそもの意味は「沈滞してい
た機能が活発に働くようになること、また、そのようにすること」である2。辞
書の意味から解釈すると、現在の沈滞・停滞している証券市場の機能を活発に
働くようにさせること、つまり証券市場の利用を促進する、ということにな
る。また、主旨文における活性化の定義は「企業の資金調達における更なる証
10
券の利用と、家計の『貯蓄から投資へ』という動きを促進させること」である
3。主旨文の定義から判断すると、少なくとも「企業」と「家計」という二つの
側面から証券市場の利用促進が必要ということになる。
15
第二節
証券市場
まず「証券」とは、基本的に有価証券のことを指す。この有価証券とは、①
譲渡性の付与されている「流通する証券」であるということ、②配当や利子な
どの定期的な所得を生み出す「資本証券」であるということ、という 2 つの条
件を満たしているもののことである。日本の証券市場の活性化を考えていくに
20
あたり、このような有価証券を本稿では取り扱う。では、この「証券」をどこ
で利用するのか。それは、証券の売買取引を行うために日本国内に数か所存在
している証券取引所である。証券取引所とは、投資家や企業、さらに証券会社
自身の株式や債券などの証券の売買注文を、自ら開設する市場に集中させるこ
とにより大量の需給を統合させ、証券の市場流通性を高めるとともに公正な価
25
格形成を図るという役割を担う。また証券取引所には、新規に発行される証券
の出資者(投資家)を募集する場である「発行市場」と、②既に発行された証
券の売買を行う場である「流通市場」の二つの市場が存在する。証券発行によ
る資金調達、その後の証券保有者による転売は、証券取引所における取引を行
2
3
広辞苑より引用
平成 26 年証券ゼミナール大会主旨文より引用
4
う仲介業者によって行われるのが一般的である。これが証券会社にあたる。
第三節
5
証券市場の現状
ここで、「企業」と「家計」それぞれの面から現在の証券市場利用の現状を
見ていく。企業では、資金調達の内訳において「株式・出資金」の割合が「借
入金」の割合よりはるかに少なくなっている。また家計では、証券が関連する
項目である「株式・出資金」の割合が米国に比べ極端に少ないことが分かる。
10
〔図 1〕資金調達の内訳
(出典:日本銀行「資金循環統計」より)
〔図 2〕家計の資産構成
日米比較
5
(出典:日本銀行「資金循環の日米比較(2014 年)」より筆者作成)
どちらとも「株式・出資金」の割合は低く、証券市場の現状は大変厳しいもの
5
であると言える。
第四節
活性化の理想像
日本では過去今までに、証券市場活性化のための具体策として「金融ビッグ
10
バン」を実施した4。これは 1996 年に提唱された金融制度改革のことで、金融
制度の規制を緩和・撤廃を行うことで金融市場・証券市場の活性化を図るとい
う名目の下実施された。内容として一部例をあげると、投資信託の商品多様
化・銀行業務と証券業務の相互参入など、資金調達手段を「間接金融」から
「直接金融」へと移行させるものである。実際の成果としては、様々な規制の
15
緩和や撤廃、また、バブル崩壊後の不良債権処理問題による金融機関の破綻も
相まって、「企業」の資金調達手段は「株式」の割合が 19.8%から 33.7%まで
増加した。しかし「家計」の金融資産割合は、金融ビッグバンが実施されて以
降も「株式」の割合は依然として低い数値のままであり、「現金・預金」の割
4
英国の証券制度改革を模範とし、これ日本では過去今までに、証券市場活性化のための
具体策として「金と区別するという意味で『日本版金融ビッグバン』とも呼ばれている。
6
合がやはり大多数を占めている5。このような、過去の活性化策では実現できな
かった部分を中心に改善案を提案していこうと私たちは考えた。これを実現で
きれば、証券市場が活性化するだけでなく日本の経済全体が上向きになると考
えられる。
5
〔図 3〕経済の好循環図
(筆者作成)
10
①証券市場活性化によって莫大な資金が世に出回り、法人はより手軽に資金を
調達できる。
②調達した資金を新たな事業に投資
③雇用が増え失業率が減少する。
④国民の消費・投資が増加する。
15
⑤②へ
以上をまとめると、活性化の理想像として、企業においては資金調達の手段を
5
『投資銀行の基本と仕組みがよ~くわかる本』著:野澤澄人 版:秀和システムより
7
銀行借り入れから株式発行による調達、いわば「間接金融から直接金融」へと
移行させること、また家計においては、「現金・預金」をいかに利用して金融
資産における「株式」の割合を増やすかが、更なる証券市場活性化に向けての
課題であると考える。この課題を克服するための私たち独自の提案を、以下第
5
二章、第三章で「企業」と「家計」の両面から述べていきたいと思う。
第二章
第一節
企業における証券市場の利用
クラウドファンディング
〔図 4〕からもわかるように、近年ネット取引は拡大傾向にある。特に証券
10
投資の経験のなかった初心者層や小口取引の投資家層は、従来型の対面取引よ
りも敷居の低いネット株取引を好む傾向がある。口座数の拡大とともに、手数
料が安く利便性も高いネット株取引が個人投資家の人気を集め、有力な取引手
段として今後も一段と浸透していくことが伺える6。
15
〔図 4〕
インターネット取引口座数
(出典:日本証券業界「インターネット取引に関する調査結果(平成 26 年 3
月)について」より筆者作成)
6
「Q&A 株式投資100の常識」より引用
8
そこで、さらなるネット取引の拡大に伴う企業の証券市場の利用について提言
していく。現在、企業における証券市場の利用とは、主に株式発行など、直接
金融での資金調達の際に一番利用される。その資金調達においてより株式発行
5
割合を高めるためにはどうすればよいのかということを私たちは考察した。そ
こで、〔図 5〕からも分かるように、現在米国を中心として新しい資金調達の場
となりつつあるクラウドファンディングに着目した。
〔図 5〕世界のクラウドファンディングにおける資金調達市場の推移
10
(出典:米国 Crowd sourcing 社の記事より筆者作成、単位:百万ドル)
クラウドファンディングとは、企業や個人が成し遂げたい事業やプロジェクト
などを公開し、目標とする金額分を、インターネットなどを利用して不特定多
15
数の人々に比較的低額な資金提供を呼びかけるもので、crowd(群衆)と
funding(資金調達)とを組み合わせた造語である。既存の金融機関ではカバ
ーできない資金の調達手段として今日関心を集めており、このシステムをうま
く利用すれば、証券市場の活性化に繋がるのではないかと私たちは考えた。ま
ずクラウドファンディングは大きく 3 つのタイプに分類することができる。
20
①寄付型
9
クラウドファンディングのルーツとも言われており、インターネット上にプロ
ジェクトを掲げて広く寄付を募る方法。寄付のリターンは何もなく、出資者は
「共感」「直接の援助」「参加」などの思いで投資を行う。
②購入型
5
寄付型の「共感」に加え、出資者は商品やサービスなどをリターンとして受け
取ることが出来る。
③投資型
出資者はリスクなどを把握した上で出資を行い、配当だけでなくキャピタルゲ
インも受け取ることが出来る。
10
今までは、上記のように一番多くのリターンを受け取ることができると考えら
れる「投資型」が、金融商品取引法の厳しい規制により「寄付型」「購入型」
に比べ普及していなかった。その金融商品取引法が、2014 年 5 月 23 日に改正
金融商品取引法として参議院本会議で可決・成立した。この法改正で特に注目
15
すべきなのが、「株式型」クラウドファンディングの実質的解禁である。さら
に、参入要件も緩和され、今後多くの事業者の参入が見込まれている。
〔図 6〕クラウドファンディングの仕組み
10
(出典:日経産業新聞「企業マネジメント最新トレンド」より)
私たちはクラウドファンディングの中でも、特にこの「株式型」が証券市場
5
活性化の鍵を握っていると考えた。株式型クラウドファンディングとは、未公
開企業がインターネットなどを活用して広く株主を募ることである。金商法が
改正される以前は、例えば起業するにあたってウェブサイトやブログなどで株
主を募集するなど、事業者が不特定多数の人に対して未公開株への出資を呼び
かけることは禁止されていた。それが金商法の改正により、①一人の投資家が
10
一つの企業に投資できる金額が 50 万円以下であること、②資金調達を行う企
業側が 1 年間に募集できる資金が 1 億円未満であること、という一定の条件の
下で可能となった。企業側のメリットとしては、上限 1 億円までの資金調達を
インターネットから行えるようになったため、資金調達の選択肢が大きく広が
るということ、反対に投資家側のメリットとしては、自分の好きな商品やサー
15
ビスを提供している企業に上限 50 万円まで投資を行え、またそれによる配当
金やキャピタルゲインを得ることができるということが挙げられる。しかし、
11
このように非常にポテンシャルの高い「株式型」クラウドファンディングだ
が、課題も山積なのが現状である。上記のメリットに対しての企業側のデメリ
ットとしては、画面の向こうの不特定多数の株主の管理に手間がかかること、
また投資家一人あたり 50 万円までの投資であるため多数の株主が存在し、そ
5
れに比例して質問や要望なども多く発生する。投資家側のデメリットとして
は、未公開企業の株であるためリスクが高い、ということが挙げられる。
〔図 7〕「株式型」クラウドファンディングのメリット・デメリット
10
(筆者作成)
第二節
クラウドファンディングの普及に向けて
ここで、今後実際に導入される株式型クラウドファンディングのさらなる活性
15
化に向けて、2 つの点から提言していく。
1 つ目は、株式型クラウドファンディングの施行前に認知度を上昇させるこ
とである。数あるクラウドファンディングのプラットフォームが主体となり、
PR 活動を行う。クラウドファンディングはネット上の取引であるため、PR 活
動も同様に Facebook などの SNS を利用したネット上でおこなう。また、関心
20
のある人を集めたセミナーを開催する。来年から開始される株式型クラウドフ
12
ァンディングであるが、これらの事前の PR 活動によって開始後の利用率を高
める。
2 つ目は、投資家の保護である。新規の成長企業は創設後の存続率は低く、
非上場企業は上場企業と比較して公開されている情報は少ない。これらの企業
5
への投資はリスクをともなうため、投資に関する規制を緩和するにあたって投
資家保護策をとることは必要不可欠である。そこで、仲介者における規制を行
う。仲介者はクラウドファンディング制度において中核的な役割を担うため、
仲介者が提供する情報の正確性が重要である。投資型クラウドファンディング
が詐欺的な行為に悪用されたり、反社会勢力に利用されることを防ぎ、投資家
10
が安全に利用できるよう整備しなければならない。仲介者自身に関する情報の
提供を義務付けるとともに、当該情報の提供を怠った場合等における罰則を整
備することを提言する。また、例として投資家側のデメリットである「投資の
リスクが高い」という点に関して、段階を踏んだ格付けをおこなう。リスクヘ
ッジするためには、株を購入する選択基準として企業情報を知る必要がある。
15
現在、非上場企業では、会社法により決算公告を作成しなければならないとな
っているが、有価証券報告書の作成や財務情報の公開など、しっかりとした情
報開示は義務付けられていない7。そこでクラウドファンディングに参入して 3
年目のまでの企業は 1 年ごとに決算報告をおこなう。3~5 年目の企業は半年ご
と、3 年目以降の企業は四半期決算の報告をおこなう。企業にとって情報開示
20
は手間のかかるものであため段階を踏むことで利用しやすくなると考えられ
る。また、投資家にとってはこの情報開示が一種の格付けとなり、株式投資の
判断基準となる。このようにして、株式型クラウドファンディングの利用を促
進する。
25
私たちが以上で述べた提案を実行することにより、まず、クラウドファンデ
ィングはよりたくさんの人々に認知されると考えられる。さらに、利用しやす
くなることでますます多くの企業の資金調達手段が証券を利用するものへと変
わることで、証券市場の活性化に繋がるのではなかろうか。
7
MORGAN McKINLEY 公式ホームページより http://www.morganmckinley.co.jp/ja
13
第三章
第一節
5
家計における証券市場の利用
金融教育
次に、資産運用主体である家計について考察していく。投資を促進する前段
階として、それを包括する金融に関しての教育を行っていく必要がある。しか
し、下の〔図 8〕が示すように金融全般に関しても「ほとんど知識がないと思
う」と回答する人が多い。預貯金についてすら 24.4%と、4 人に 1 人はほとん
ど知識がなく、また株式・債権等の証券投資についてでは 70.5%と 10 人中 7
10
人が「ほとんど知識がない」と回答し、十分に知識があると思うと答えた人は
たったの 4.4%である。20 人に 1 人知識を持つ人がいるかどうかという状態で
証券市場を扱っていては、パイは限定される。より多くの人に金融に関する知
識、証券に関する知識をつけてもらうことが金融教育の命題である。
15
〔図 8〕金融全般に関する知識について
(出典:金融広報中央委員会「金融に関する消費者アンケート(2003 年)」よ
り筆者作成)
20
金融庁の進める金融教育とは各学校段階を貫いて求められる「生きる力」(す
なわち、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決
する資質や能力等)を養う上で有効な手段を提供できる教育である。そこでま
14
ず、金融庁がおこなう金融経済教育についてみていく。身につけるべき金融リ
テラシーとして、以下の 3 点があげられる。
①行動面の重視
5
知識の習得に加え、健全な家計管理・生活設計の習慣化、金融商品の適切な利
用選択に必要な着眼等の習得、必要な場合のアドバイスの活用など行動面を重
視する。
②最低限習得すべき金融リテラシーの共有
金融経済教育の効率的・効果的な推進のため、最低限習得すべき金融リテラシ
10
ーを関係者で共有する。
③体系的な教育内容のスタンダードの確立
年齢別、分野別の教育内容について、体系的にとりまとめた、より詳細なスタ
ンダードを確立する。
15
また、学校段階における取り組みの推進としては、小・中・高等学校では、社
会科・公民科での教育に加え、家庭科における家計管理・生活設計の教育を充
実させる。大学では、金融経済教育の推進の検討があげられる。以上の点を踏
まえて、独自の提言を述べていく。
20
日本人の投資の利用率が低いことは第一章の第三節で確認したとおり、簡潔
に述べると日本人の国民性・安全志向に原因があると考えられる。その保守的
な日本人の国民性を踏まえ、投資のハードルを下げること、環境を整えること
で日本人が投資を行い、日本の証券市場の活性化を図るために、私たちはまず
国民を 4 つの世代に分け、それぞれの世代に相応しい改善策を独自の視点で考
25
察した。
〔図 9〕
15
(筆者作成)
A…高校生以下の子どもたち
5
B…大学生・専門学生
C…社会人
D…高齢者
A:高校生以下の子どもたち
10
最初に、0 歳~18 歳の高校生以下の子どもたちに焦点をあててみる。
〔図 10〕20 歳以下の投資へのイメージ
(出典:日本証券業業界「証券投資についてのアンケート」より筆者作成)
15
〔図 10〕からも分かるように、子どもの投資に対するイメージはマイナスなも
のがほとんどであり、「投資」という言葉自体を知らない子どももたくさんい
るはずである。子どもにはじめから「投資」を教え込み、実際にやらせてみる
16
のは非常に難しい問題である。そこでわたしたちは、投資に関しての「意識」
改革を、A への提案として述べていきたいと思う。投資に関しての「意識」改
革というのは、マイナスである投資へのイメージをできる限りプラスに覆す、
ということであり、その後の人生に投資を行いやすくするための準備期間であ
5
る。いわば土台作りである。
①「金融」科目の必修化
私たちのアイデアの 1 つ目に、「金融」科目の必修化がある。現在の小・中
学生期では、国語・算数(数学)・英語・理科・社会の 5 つが必修の科目であ
10
るが、そこにもう 1 つ、「金融」という科目を加えようというアイデアであ
る。高校も同様である。具体的な内容は下の図に載せているが、基本的には金
融庁の定めた「金融教育の目標と内容等」を元に、私たちは投資を促進する為
にテーマを付け加えた。まず各人の金融リテラシーの向上が必要とされる。そ
の上で金融にはどのようなリスクがあるのかということを個人がきちんと判断
15
し、適切な行動を選択できるようにならなければならない。そのように個人が
主体的に行動できるようになるには、段階を踏んだ金融教育を行う。小学校で
は、道徳の授業のように月に 1 回程度で授業時間を設ける。お小遣い帳を作る
などをして、お金の大切さ・重要さや計画的な使い方を理解することを目的と
する。中学校からは週に 1 回程度で授業時間を設ける。中学校では、基礎的な
20
金融・経済の仕組みを理解すること、簿記知識を得て貰う。高校では社会人に
なるための必要な知識を身につける時期であり、お金や金融・経済の機能・役
割を把握するとともに、様々な金融商品の内容を理解することを目的とした授
業、企業に関してや将来に渡る生活設計を行う授業を行っていく。
25
〔図 11〕金融教育の内容
小学生-低学年
小学生-中学年
17
小学生-高学年
現状の
・物を大切に使う
・節度ある使い方を知る
・暮らしを通じてお金の
内容
・お金には限界があ
・困ったときの相談方法
様々な役割を理解する
る
を知る
・他の人の考えを知った
・約束は守る
・欲しいものと必要なも
うえで、自分なりの考え
・効果と紙幣を理解
のを区別する
方に基づき支出などを行
する
・お小遣い帳を付ける
う態度を身につける
提言
保険・年金を理解する
中学生
高校生
規定の
・家計の収入と支出を知る
・長期的な資金管理について考える
内容
・契約の基本を知る
・生活設計に関して取り組む
・環境や社会に配慮した消費を理解す
・将来設計してみる
る
・多重債務問題について知る
・悪質商法を知る
・働く人の権利と義務を理解する
・投資を知る
・ローンを知る
・クレジットカードについて理解する
・単利と福利について知る
・マクロ経済知識について学ぶ
・起業について知る
・株式会社の特徴と役割について知る
・中央銀行の特徴と役割について知る
提言
簿記基礎を学ぶ
金融科目の必修化
株式投資を学ぶ
Financial Planning 基礎知識を学ぶ
(出典:「金融広報中央委員会」の内容より筆者作成)
5
こうした各段階で成長に合わせた金融教育を行うことで、金融リテラシーの向
18
上を図ることができるのではないか。また、子どもたちが自発的に投資を勉強
するのではなく、必修化させることで全小・中学生に今後のさらなる金融教育
への意欲となるきっかけを提供することが可能になり、投資に興味をもつ子ど
もも増加すると考えられる。
5
②PISA 金融リテラシー調査の導入
各国の国際的な学力を測る指標の一つのなっているのが PISA である8。現在
日本では数学、国語(読解力)、科学の分野において PISA 調査を導入してお
り、それにより国際的な視座を持って教育内容を策定している。その為、私た
10
ちは金融に関しても PISA 調査における問題、順位を参考にして教育を行って
いくことが大切であると考えた。
〔図 12〕PISA 2012 年度の調査結果(上位 10 カ国)
順位
数学的リテラシー
平均
読解力
平均
科学的リテラシー
平均
1
上海
613
上海
570
上海
580
2
シンガポール
573
香港
545
香港
555
3
香港
561
シンガポール
542
シンガポール
551
4
台湾
560
日本
538
日本
547
5
韓国
554
韓国
536
フィンランド
545
6
マカオ
538
フィンランド
524
エストニア
541
7
日本
536
アイルランド
523
韓国
538
PISA(Program for International Student Assessment)とは、経済協力開発機構
(OECD)が行う、15 歳の学生を対象とした国際的な学習到達度に関する調査のことで、
2012 年の調査には 65 の国と地域が参加した。この調査において、新たに金融リテラシー
調査(PISA2012 Financial Literacy Assessment)が実施されているが、日本は読解力、
数学的リテラシー、科学的リテラシーの 3 分野の調査には参加しているが、金融リテラシ
ー分野については不参加だった。
8
19
8
リヒテンシュタイン
535
台湾
523
ベトナム
528
9
スイス
531
カナダ
523
ポーランド
526
10
オランダ
523
ポーランド
518
カナダ
525
順位
金融リテラシー
平均
1
上海
603
2
ベルギー(フラマン語圏)
541
3
エストニア
529
4
オーストラリア
526
5
ニュージーランド
520
6
チェコ
513
7
ポーランド
510
8
ラトビア
501
9
アメリカ
492
10
ロシア
486
(出典:OECD の調査報告より筆者作成)
5
PISA 2012 年金融リテラシー調査を受けて、日本証券業協会では以下のように
まとめている。
『2012 年金融リテラシー調査の問題は、一部公開されている。これをみる
と、
「どのような内容を学ばせるのが、金融教育のグローバル・スタンダード
20
なのか」を検討する参考となる。ここでの検討とは、「経済生活への参加を可
能にする」力を育てる金融教育の学習内容に関わる検討を指す。次回の金融リ
テラシー調査は、2015 年に予定されている。国際会議において、「我々は
APEC エコノミーに,2015 年の PISA の金融リテラシー測定への参加を検討
5
することを慫慂する」(「APEC 財務大臣会合政策文書」2012 年)という合意
もなされていることから、日本はこの求めに応じる必要がある。」』9
2012 年金融リテラシー調査に参加したのはアジア諸国の中では上海のみであ
ったが、このように APEC での合意もあることから今後金融リテラシーにおい
10
てもこの指標がグローバル・スタンダードとして定着することが予見される。
以上より、高校 1 年生において PISA 調査を実施することが金融教育において
必要であると考えられる。
B:大学生・専門学生
15
次に、大学生・専門学生に焦点をあてる。4 年の在学中に商学部・経済学
部・経営学部などの学生はある程度の本格的な基礎知識を身につけることがで
きるが、その知識を実際に活用するとなれば、尻込みをする学生は大勢いるで
あろう。また、投資に興味を持っていてもお金がなく投資をすることが難しか
ったり、上記以外の学部に所属していることで、十分な基礎知識を身につける
20
ことができない学生もいるであろう。そこで私たちはビジネススクールの建設
を、B への提言として述べていきたいと思う。
そもそもビジネススクールとは、経営学に関連した科目の大学院のことであ
り、修了者には大学側から修士を授与されることがもっぱらである。世界各国
の著名な経営大学による非営利教育団体で、6,000 以上の大学院経営学過程で
25
使われている GMAT 試験運営機関のオーナーである GMAC(Graduate
Management Admission Council)の調査によると、2 年制 MBA プログラム
の出願者数が、過去 3 年連続で世界的に増加していることが明らかになった。
米国のビジネススクールは 2009 年当時、金融危機に見舞われた初期の段階に
9
PISA 2012 金融リテラシー調査の結果公表を受けて日本証券業協会掲載文より引用
21
あり、上級の資格を取得しようと社会人が押し寄せた時期であった。その後出
願者数は若干減少したが、今は新興企業やテクノロジー企業、さらには金融機
関の間でも雇用が伸びており、MBA の関心が再び高まっている。また世界的
にも現在ビジネススクールが重要視されている。下の図のように特に金融、コ
5
ンサルティング企業が MBA 取得者の採用を増やしている。
〔図 13〕MBA ホルダーの需要
(出典:ビジネス・パラダイム HP における MBA ホルダーの需要数値より筆
10
者作成)
次に、ビジネススクールを単独なもの、大学とつながっているものに分ける。
単独なビジネススクールとしてグロービス経営大学院大学をあげると、入学者
数は以下のように大幅に増加していることが分かる。一方、大学とつながって
15
いるものとして京都大学経営管理大学院をあげると、入学者数はほぼ横ばいで
あるものの受験者数が増えており、倍率が高まっていることがわかる。
〔図 14〕グロービス経営大学院大学入学者の推移
22
(出典:グロービス経営大学院大学 HP 情報より筆者作成)
〔図 15〕京都大学経営管理大学院受験者/入学者の推移
5
(出典:京都大学経営管理大学院 HP 情報より筆者作成)
ここで私たちが大学生向けに提案するのは、大学付属のビジネススクールの
一部受講制度である。これにより大学生のうちからその大学の大学院授業を受
10
講することにより大学院進学というキャリアを考えてもらうことが出来るので
はないか。授業で社会人と触れることもより MBA 取得への意識に向かうと考
23
えている。具体的には大学院生、大学生を含んだ少人数授業をいくつか開講し
ていくこと等を提案する。社会人向けに提案するのは私立の、特にグロービス
のように単独で MBA ホルダーを増やすビジネススクールの増設である。理由
は単独でのビジネススクールの方がカリキュラムの自由度があり、何より上で
5
あげたように入学者数を多く獲得できるからである。証券業協会、経団連とい
った業界団体と金融庁、文部科学省の官僚が協議しある程度のビジネススクー
ルの地域別の成長見込みを立て、企業誘致を行うことで実現に進むのではない
かと考える。
10
〔図 16〕ビジネススクール改造案のまとめ
(筆者作成)
具体的な内容としては、金融を切り口として経済の基礎から応用まで幅広く学
15
ぶことができる。そうすることで、大学在学時に異なる分野を選考していた人
は一から学ぶことができ、既に学んでいた人は復習をしながらより専門的な知
識を身につけることができる。知識のインプットにとどまらず、それらを今後
24
の生活や仕事に直接生かせる、より実践的な内容にする。知識のアウトプット
の場としては、投資ゲームなどの模擬投資を行い、さらには授業の中で指導を
受けながら実際に投資を行うことで経験を積むことができるのではないかと考
える。特に社会人にとっては、投資の知識・技能だけについて学ぶのではな
5
く、保険・年金・資産管理のための知識や金融トラブルの回避法を含むこと
で、個々人の実生活で生かすことのできる、ライフスタイルに合った教育が必
要であると考える。このようにビジネススクールの受講者を増やすことによっ
て、より多くの人に金融教育の場を提供することが可能になる。
10
第二節
実践的な投資に向けて
C:社会人
次に、社会人に焦点をあてる。
15
第一項
NISA
NISA とは少額投資非課税制度の愛称である。イギリスの ISA(Individual
Saving Account)〈個人貯蓄口座〉を参考にして導入された制度で、イギリス
では国民の約 4 割が ISA を利用し、広く国民の資産形成・貯蓄の手段として定
着している。NISA は 2014 年 1 月から始まった制度であり、証券会社や銀
20
行、郵便局などの金融機関で NISA 講座を開設して上場企業や株式投資信託等
を購入すると、本来 20%課税される配当金や売買益等が非課税となる制度であ
る。購入できる金額は年間 100 万円までで、非課税期間は 5 年間である。つま
り NISA 口座で取引すると、税額面での大きな利点がある。
25
〔図 17〕NISA 制度概要イメージ
25
(出典:政府広報オンラインより)
NISA の現状としては、図 18 を見れば分かるとおり、60 代以上の人の割合が
5
59.8%と半数以上を占めている。それとは対象的に、20 代、30 代の人の割合
は一桁になっており、若年層の利用率が低いことがわかる。NISA 制度はまだ
開始して間もなく認知度も低い。しかし普及率は増加しており、今後の利用促
進の可能性のある制度である。
10
〔図 18〕年代別 NISA 講座の開設者比率
26
(出典:金融庁「NISA 口座の利用状況等について(2014 年 1 月)
」より筆者
作成)
5
加えて NISA にはいくつかの問題点がある。投資家にとって NISA の制度上で
の最大のデメリットは、NISA 口座で発生した損失は他の口座で得た利益と損
益通算できないという点である。通常の口座なら、損失が出ると他の投資商品
で得た利益と相殺して税金を減らすことができる。だが NISA の損失は損益通
算の対象外であり、通常の口座で利益が出る一方で、NISA 口座内での損失が
10
大きく、トータルでマイナスであった場合でも課税されることとなる。次に、
前述した若年層の NISA 利用率が低いという点がある。若年層の投資を促すこ
とで NISA の利用率をさらに上昇させることが可能となるであろう。この 2 つ
の問題点の克服のために、以下の 2 つの改善案を提案する。
15
①NISA の恒久化
NISA を恒久化すると毎年非課税枠を利用でき、将来の資産形成が可能とな
る。売買のタイミングが計りやすくなり長くロールオーバーできるようになる
ため、配当と分配金を非課税で長期間受け取ることができる10。NISA が期間
限定になった理由としては、税収が減る・富裕層を優遇する結果にならないな
20
どが挙げられる。しかし NISA によって「貯蓄から投資」の動きが進むことで
10
株式数比例配分方式の場合
27
経済成長が期待され、また非課税枠の拡大を図るという案よりも期間を延ばし
て恒久化することで、所得や貯蓄が少ない人にとって投資をおこないやすい環
境になるのではないかと考えられる。
②投資タイムの導入
5
社会人がなぜ投資活動を行わないかをわたしたちはまず考察した。1 番大き
な原因として「時間がない」ということが考えられる。近年株が流行っている
とは言っても、時間的余裕のある自営業者や専業主婦、あるいは専業デイトレ
ーダーなどが増加している傾向が高く、一般のサラリーマンには時間的制約が
あるため、あまり広まっていないとされる。なぜかというと、実際に株取引を
10
行うことができる時間帯は、前場と呼ばれる 9 時~11 時 30 分と、後場と呼ば
れる 12 時 30 分~15 時の短い間だけで、かつ平日のみだからである。その時
間はほとんどの社会人は働きに出ており、もちろん株取引に参加することはで
きない。
15
〔図 19〕株式の取引時間
(筆者作成)
現在、そのような株取引に参加することのできない社会人にも対応した PTS
20
という制度がある。PTS とは私設取引システムのことである。PTS には SBI
ジャパンネクスト証券株式会社が運営するジャパンネクスト PTS と野村証券
傘下のチャイエックス・ジャパンが運営するチャイエックス・ジャパンの 2 種
類がある。PTS 国内証券取引所に上場されている普通株式及び ETF 並びに
28
REIT 等のほぼすべて11を取引できる市場であり、8 時 20 分~16 時までのデイ
タイム・セッションと 19 時~23 時 59 分までのナイトタイム・セッションが
設けられている。デイタイム・セッションは取引所における取引時間がオーバ
ーラップしており、投資家にとってもう一つの流動性としての取引機会を与え
5
る。なお、デイタイム・セッションにおける呼値の刻みは取引所よりも小さい
ため、投資家は取引価格を向上させる機会を生むことができる。ナイトタイ
ム・セッションは取引所の引け後の市場として投資家に対して取引機会を提供
し、これにより取引の引け後の材料にあった銘柄に対する取引や欧米の株式市
場の動向を見ながら取引を行うことが可能となる。この点については PTS の
10
取引シェアは日本証券クリアリング機構による清算取扱いの対象となったこと
や取引所市場とは異なる呼び値の刻みの設定が機関投資家に評価されたことな
どから 2010 年下半期以降、徐々に拡大している。それでも取引シェアは 5%
前後にとどまっており、既存の取引所の地位を脅かすまでに成長した欧米市場
とは大きく異なる。また PTS のデメリットとしては、価格変動型(オークシ
15
ョン型)の PTS 取引では出来高が少ないことによる値段がつきにくい、価格
が変動しやすいという点である。価格固定型ではない PTS 取引の場合は出来
高が少ないと、大口注文が出た場合に価格が変動しやすいということや、注文
が少ないと取引自体ができないという点がある。一部の PTS 取引では、複数
のネット証券が共同でサービスを行うことで出来高の確保に勤めている12。
20
PTS はデイトレーダーなどにとっては、より取引機会が増え便利なものになっ
てはいるが、一般の社会人にはなかなか馴染みのないものである。そこで新た
に株取引を行う人を拡大させるために私たちが提案するのが、「投資タイム」
の導入である。
まず、投資タイムとは何か、という説明から行う。小・中・高校では朝最初
25
の授業前に 20~30 分間の「読書タイム」というものを導入しているところも
少なくない。これは、短い時間でも毎日こつこつ読書をすることで、子どもた
ちに読書の習慣を身につけさせることができるというものである。それと同じ
ようなものを企業が導入すれば、社会人に投資を行う習慣が身につくのではな
11
12
約 3600 銘柄
NRI financial Solution 公式ホームページより
29
いかとわたしたちは考えた。「読書タイム」の投資版、それが「投資タイム」
である。具体的には、午前、もしくは午後に 30 分間の株取引を行うことので
きる自由な時間を設ける。まずは、投資タイムの時間に外部の金融機関の人を
招いた講習会を実施する。そこで投資についての基礎や、第一節でも述べたよ
5
うな NISA のついての説明をおこなう。その後社会人たちは投資タイムに取引
を行う。その代わりに昼休みの時間を短くしたり、朝少しだけ早く出社したり
と、業務(企業側)に支障が出ないようにする。とはいったものの、安易に実
施するのは難しい問題である。そこで、この投資タイムを実現し浸透させるた
めにも大企業の社員に対して義務化が必要であると考える。〔図 20〕を見ると
10
わかるように、企業規模によって賃金の格差があることから、比較的余裕のあ
る大企業を対象とすることで少額からでもはじめてもらうことが可能になる。
この投資タイムの導入により、より投資に興味を持つ人が増え若年層の NISA
の利用率の拡大につながるであろう。また、投資タイムで投資を行う習慣がで
きることでさらなる投資意欲が湧き、上述した PTS の利用や、NISA にとどま
15
らず投資を行う人が拡大していくであろう。
〔図 20〕企業規模別賃金比較
(出典:厚生労働省「平成25年賃金構造基本統計調査(全国)結果」より筆
20
者作成)
第二項
証券の訪問販売
30
D:高齢者
最後に、高齢者に焦点をあてる。
〔図 21〕世帯主年齢階級別の貯蓄・負債残高(一世代あたり平均)
5
(出典:総務省「家計調査報告(2011 年)」より筆者作成)
〔図 22〕金融資産の世代別分布(推計)
10
(出典:総務省「全国消費実態調査(2009 年)」より作成)
31
〔図 21〕、〔図 22〕をみると、高齢者になるにつれて貯蓄現在高は非常に高く
なっており、60~69 歳は 2363 万円となっている。負債現在高に関しては住宅
ローンなども払い終えた高齢者は低い値となっている。これにより、高齢者は
5
貯蓄高が高く負債額が低いため、投資をするための金銭的な余裕があるといえ
る。この高齢者世代の資産運用は国全体の成長マネー供給の観点から見ても重
要であり、証券市場の活性化にとって必須である。次に、株式の保有状況に関
して考察する。50 代以上の男性の株式保有率は約 2 割を超えており、なかでも
65~69 歳が 29.3%と特に保有率が高いという結果になっている。つまり高齢
10
者になるにつれ株式の保有率は高いことがわかる。
〔図 23〕株式保有率(男性)
(出典:日本証券業協会「証券投資に関するアンケート」平成 24 年度より筆者
15
作成)
よって、高齢者は投資をする上でのある程度の知識は兼ね備えている人が多い
のではないかと考えられる。また退職後の高齢者には、時間的ゆとりがある。以
上の点から、高齢者は「時間がある・お金がある・知識がある」ため、他の世代
20
に比べて投資のしやすい環境にあると考えられる。現在、ネット証券など、イン
ターネットを利用したオンライン取引が主流になりつつあるが、機械に疎い高
32
齢者たちにとっては利用しにくいものであると考えられる。そこで高齢者向け
の「証券の訪問販売」の実施について考察した。
証券の訪問販売とは、証券会社の社員が実際に一軒一軒の家庭を訪問して、証
券を販売するシステムである。現状では強引な勧誘などもあり、消費生活センタ
5
ーへの苦情も後を絶たない。主な被害の特徴は、契約金額が高額になる場合が多
い・投資経験のない高齢者が被害に遭う場合が多い・過去に投資被害に遭った経
験のある高齢者が被害に遭う(二次被害)場合が多い、などがあげられる。被害
が減らない背景には、①金融機関のノルマ販売という営業体制、②説明義務や適
合性の原則等に従った販売方法がノルマ至上主義の下では評価されないなどが
10
挙げられる。投資勧誘には①投資者の信頼に応えること、②合理的な根拠がある
と判断した場合金融商品について投資勧誘を行うこと、③投資者の投資経験・投
資目的・投資力などに適合した投資勧誘を行うこと、といった 3 つの基本原則
がある。よって今一度、この基本原則に基づいた適切な証券の訪問販売を見直し
ていく必要があると考えられる。以上より、改善策として 2 つの案を提案する。
15
①証券会社の営業マンのノルマ制度の廃止
昨今、他の業界でもノルマ制度の廃止の動きが見られる。ノルマ制度は①目標
を明確にする、②人事管理を行いやすい、③従業員間での競争意識が高まる、と
いった点で有効であった。しかし、ノルマ制度には弊害も存在する。数字を重要
20
視するあまり顧客のニーズへの対応がおろそかになり、従業員の人間性が犠牲
になることも少なくはない。証券マンはノルマを達成するために強引な勧誘を
行う。そこで、ノルマ制度を廃止して顧客のニーズに沿った対応をおこなうこと
で、信頼関係のとれたよい関係を築くことが可能になる。
②PR 活動
25
広く認知してもらうことを目的として、テレビや新聞での PR 活動をおこなう。
マスメディアを利用することで訪問販売に対する否定的なイメージを払拭し、
顧客も安心して訪問販売を受け入れ利用できるようになるであろう。また、公共
施設でのポスターやビラの設置により、より多くの高齢者への認知度を高める
ことが可能になる。
30
33
〔図 24〕
(筆者作成)
5
この改善策により、証券の訪問販売は図 24 のように「証券の販売」「一人暮ら
しの高齢者などの話し相手」
「投資に関する知識提供」が可能となる。今後さら
なる高齢化が進展するなかで、高齢者のみで暮らす世帯も増加傾向にある。そこ
で、この証券の訪問販売を促進していくことで、高齢者世帯のケアにもつながる
のではないかと考えられる。また販売する商品は限定せず、知識提供を行いなが
10
ら自由に販売を行う。これらを実践することで結果としてより多くの高齢者が
投資を行うようになると考えられる。そして、高齢者世代の預貯金として保有さ
れている資金が証券市場に流れることで、より活性化に繋がる。
以上、第四章で述べた世代ごとの対策により、一生涯を通しての金融教育で投
15
資に対する関心や知識を身につけ、投資をより身近なものに感じることができ、
投資に関しての意識改革を行う。その後、社会人や高齢者世代への実践的な投資
に向けての取り組みの場を提供することで、より家計における投資を実現可能
なものにしていけるのではないか。
34
終章
私たちは「クラウドファンディング」
「金融教育」
「NISA」
「訪問販売」という
4 つを提案した。その為に、まず第一章において証券市場における活性化とは何
5
か・活性化によって目指すべき証券市場とは一体どのようなものかを述べた。実
際に、現在停滞している証券市場が活性化すると、個人や法人がより手軽に資金
を調達できるようになり、その資金を新たな事業に投資し、その結果雇用が増え、
国民の消費・投資が増加するという「経済の好循環」が生じるとわたしたちは結
論付けた。そこで、
「経済の好循環」を生むため証券市場を活性化するにあたり、
10
今回の論文の要となる「企業」
「家計」の 2 つの視点からの活性化への提言を第
二章、第三章にて述べた。近年解禁される株式型クラウドファンディングにおい
て、より企業が利用しやすいような改善案を提案し、金融教育では長い目で、グ
ローバル・スタンダードで教育していくこと、NISA をより多くの人に利用して
もらうためには、訪問販売を販売側と購入側の両者にとって良くしていくため
15
には、といった視点でそれぞれ改善案を提示した。
私たちは証券市場をより多くの人に利用してもらうことを目指し、提言を行
った。私たちの提言により、
「貯蓄から投資へ」の移行、そして「経済の好循環」
が実現し、日本はさらに豊かな国へと発展していくであろう。
35
<参考文献>
『よくわかる金融の仕組み』
三井情報開発(株)総合研究所編
『グリーンシート株式公開実務マニュアル』出版社:中央経済社 編集者:出縄
5
良人
『証券市場論』 編集者:二上季代司・代田純
『最新証券市場 : 基礎から発展』 出版社:財経詳報社
『図説アジアの証券市場』
『新証券市場2012』
10
日本証券経済研究所編
中央経済社日本証券業協会教育広報センター編
『Q&A 株式投資100の常識』
『最新
編集者:川村雄介
日本経済新聞社編
投資銀行の基本と仕組みがよ~くわかる本』
出版社:秀和システム
著者:野澤澄人
『図説日本の証券市場2010年度版』
日本証券経済研究所編
『日本経済新聞』
15
『入門クラウドファンディング
スタートアップ、新規プロジェクト実現のた
めの資金調達法』出版社:日本実業出版社
『ソーシャルファイナンス革命
著:山本純子
世界を変えるお金の集め方』出版社:技術評論
社 著:慎泰俊
『ファンドレイジングが社会を変える』出版社:三一書房
20
著:鵜尾雅隆
論文『米国におけるクラウドファンディングの現状と課題』著:神山哲也
論文『金融ビッグバンによる現代金融システムの変容』著:高原敏夫
<参考資料>
内閣府
25
http://www.cao.go.jp/
日本政策投資銀行
http://www.dbj.jp/
日本銀行
https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_1999/data/ron9911c.pdf
30
我が国証券市場の現状と問題点
36
http://www.fsa.go.jp/p_mof/singikai/shoken/tosin/1a501f2.htm
日本証券業協会
http://www.jsda.or.jp/index.html
東洋経済 Online
5
http://toyokeizai.net/
知るぽると 金融広報中央委員会
http://www.shiruporuto.jp/
野村総合研究所
http://www.nri.com/jp/index.html
10
やさしい株のはじめ方
http://kabukiso.com/idiom/nisa.html
消費者庁
http://www.caa.go.jp/
金融サービス利用者相談室
15
金融庁
http://www.fsa.go.jp/receipt/soudansitu/advice03.html
みずほ総合研究所
http://www.mizuho-ri.co.jp/index.html
OECD(PISA 2012 Results: Students and Money (Volume VI))
http://www.oecd.org/pisa/keyfindings/pisa-2012-results-volume-vi.htm
20
グロービス経営大学
http://gms.globis.co.jp/
京都大学経営管理大学院
http://www.gsm.kyoto-u.ac.jp/ja/
37