1 日本社会を再構築する 労働運動を 「働け ば 、貧し す ぎ る 生活を 強い ら れ る こ と は な い 」 そ ん な 社会を め ざ し て 羽 室 武 業の実態を明らかにするところから始めるべき 郵政事業の 民営化で であった。郵政事業の実態を明らかにすべく、 見捨て ら れ た の は 国会で論陣をはっていた民主党は、総選挙にな ると作られた世論に迎合するかのように対案を JRの尼崎事故が起る以前は、電電公社ととも 出すのであった。結果、民主党案では、10万人 に旧国鉄が民営化の成功事例として宣伝されて の郵政労働者が余ってくるなど、自公の攻撃と きた。特徴的なのは、① 民営化以降一度も運 指摘に十分に対応することができず、特別国会 賃を引き上げていない、② JR3社は上場し国 での成立にいたったのである。不良債権を優良 鉄時代の借金が返せている、である。しかし、 な債権とみなすのはそもそもおかしな話だが、 実態は幹線と非幹線の2本立ての運賃体系であ そのことを度外視しても、民間企業として成り り、赤字路線やJRバスの切り捨てであった。ま 立つかどうか疑わしい。このことは解明すべき た、負債の返済についても、2分して、JRが返 大きな課題である。 すものと国が返すものに分けたけれども、国が 郵政3事業のうち郵便事業は明確に債務超過 返済すべき借金は30兆円に膨れあがっているよ におちいっている。これまでも人件費の削減努 うである。従業員の労働条件にもいろいろ問題 力が行われてきた。その一つが常勤的なアルバ があることが尼崎事故で指摘されだしたが、こ イト職員の増加であり、もう一つは超勤手当の こでは触れない。 いらない末端管理職の酷使である。民営化され 鉄道公団に隠すように引き継がせた国の借金 た段階でますます職員の非典型雇用化が進めら 額は、利子分だけ増え続けている。国が保障す れていくことになる。郵政事業に携わる正規職 るだけで利息さえ払えない30兆円にのぼる旧国 員の賃金水準は、特定郵便局の局長やキャリア 鉄の借金、本四架橋や青函トンネル、道路公団 を除けば極めて低い。これは国家公務員の現業 の28兆円におよぶ借入金、まだまだたくさんの 職俸給表に準じたところから出発していること 借金を郵便貯金や簡易保険からしているのであ に由来しているのだろう。おそらく、一般の公 る。あきらかに不良債権であるにもかかわらず、 務員と比べて、年間100万円から150万円程度、 政府が保証するというだけで優良な債権という 平均賃金は低いと思われる。国会での議論が、 わけだ。 郵政の現場を熟知したうえでのものとは、とて 郵政事業の民営化にあたっては、まず郵政事 もじゃないが思えなかった。 2 日 本 社 会 を 再 構 築 する 労 働 運 動 を 連合内部の 状況は ど う な の か 製造業と サ ー ビ ス ・流通業の 対立 バブル崩壊以降、日本の労働組合は貴重な経 高度経済成長期からバブルへ、そしてバブル 験を積み重ねてきた。戦後、企業による従業員 の崩壊過程で、企業は、ようやく根づいた日本 の囲い込みのもとで出来上がった終身雇用と年 型賃金体系と雇用体系を捨てさり、アメリカ型 功賃金体系に象徴される日本型雇用の崩壊過程 の、極めて少数の成功者が、より豊かになる雇 である。くりかえされるリストラで、常勤従業 用と賃金システムの導入をめざすようになった。 員は減り続け、かわりに派遣社員や期限つきの 派遣労働者や契約社員制度の下で、もちろんこ 従業員が社内にあふれるという事態になってい れを可能にする法律の改定を必要とはするが、 る。その結果、正規の従業員を対象に組織する 日本経済は浮上することになった。 労働組合の組合員は減り続けている。戦後、50 人件費がドラスチックに下げられた例として %をはるかに超えていた組織率も、今や20%を は、飛行機の客室乗務員の例がわかりやすい。 割り込み、毎年、減り続けている。もちろん連 30歳程度で700万円程度と言われていた正規雇 合や全労連などが、労働者の組織化にむけて努 用者が、200万円∼300万円にしかならない、2 力していないわけではない。 年契約の客室乗務員に入れ替わった。若干、質 連合方針でみると、① 地域協議会における 的に違うのかもしれないが、規制緩和によりタ 専従体制で未組織労働者の組織化に取り組む、 クシーの運転手の平均年収が300万円を切り、 ② 産別方針を踏まえたうえではあるが、大手 経営する側だけが利益を享受している例なども 労働組合の関連・系列労働者の組織化にむけた わかりやすい。 取り組み、③ さらにはパート労働者などの非 企業が国際的な競争に伍するにあたっての、 典型労働者の組織化についても取り組むとして もう一つの条件は、流通にかかわる費用の低減 いる。しかし、これらの取り組みは、大手の企 と、サービス部門にかかる費用の同じく低減 業や産別の利害が一致する場合にのみ行動にな (それは法人税を下げることに集約されるが) るのである。そのこととあわせて、個別の産別 と考えるようになり、実現させてきた。この製 にかけられてきた攻撃に対しては、全体で受け 造業を中心とする財界の動きに呼応するかのよ とめるということが、なかなかしづらい。 うに、金属労協が動きだした。それぞれの企業 今回の郵政民営化法案に対しては、総選挙で で人員整理が提案されるなか、企業の再生のた 脅えて実態の解明を放棄した民主党と、結局は め労働組合としての提言という形をとっていた 同じで、郵政現場で働く全ての労働者を見捨て のかも知れない。 てしまったと言えるのではないだろうか。私は、 金属労協の鈴木勝利議長(当時、東芝出身)は、 今回の郵政民営化をめぐっての民主党の対応や サービス流通部門の経費を削り、金属労協に属 連合を非難しているわけではない。世論操作の する戦略産業の競争力をつけることこそが、日 長けた小泉自民党や財界に対して、うまく対応 本経済の再生の道だと強調し、そのことを実行 しきれていない結果だと思うからである。 しない連合の必要性などない、とまで言うので あった。私が連合京都の会長であったとき、京 3 都で自動車総連の中央委員会が開かれた。私と るを得ない。 鈴木氏が来賓として出席したが、氏の発言の内 容はこの中央委員会と前年の金属労協の旗開き 公務員労働組合と し て 成す べ き こ と での年頭所感の要旨である。官民を問わず、連 携や連帯がいかに難しいかを示しており、不況 労働基本権が制限され、労働協約権さえない 下での活動こそが労働運動の真価を問われるも 労働組合にとって、自治体の行政内容に口を挟 のだが、日本の労働運動は不得意のままである。 むことは許されてはいない。しかし、自治研活 動でいろいろな提言を今日までしてきた。 公務員を め ぐ る 風評に つ い て 国と地方を合わせれば1000兆円にもなる借金 額。みんなみんなその時々の政治家や首長が積 総じて挙げると、多くの官庁では、国民の目 み重ねた借金であり、一般の公務員に責任があ の届かない所で裏金を作って、自分たちで分け るわけではない。ところが、まず公務員の身を ている、ということに尽きるだろう。社会保険 削って、その後に国民の負担を、という流れで 庁の乱脈経営や地方労働局の裏金作りなど、あ ある。たしかに借金額が大きすぎて、すでに破 る程度、労働組合も関与してきたといえる。ま 綻をしていると考えても良いといえる。国債の た、地方公務員では、大阪市役所の空超勤や福 返済期限は最長60年だが、地方債は東京都が最 利厚生事業(いわゆる第二退職金や雇用主負担 近30年債を発行したけれども、通常はもっと短 の実態を含む)に象徴される支給のあり方など、 い。その上で、地方交付税も国の財政事情のも 「民間が血を流して企業再生のために努力して とに削られていく方向である。 きたのに、財政赤字であるにもかかわらず、公 本来、職員や労働組合に責任がないにも関わ 務員はヌクヌクと」ということである。社会保 らず、結果を押し付けられようとしている。理 険庁や労働局の労使関係については、熟知して 不尽だと嘆いても、郵政民営化のように世論は いないので触れない。 作りあげられているのである。自治体のあり様 大阪市役所の問題については、私自身が京都 市役所出身だから述べることができると考える。 について、労働組合として描くところから始め ることが必要であろう。 「空超勤の支給など、100%労働組合に非はな い」。労使関係だけからいえば、このように言 ど の よ う な 社会を 望む の か うことも可能である。「給与や手当・労働条件 は、市当局との交渉で決めてきたものである。 現在、アメリカのように、年収が300万円に 不正な支出に結果としてなったのは、当局が条 満たない労働者が増え続けている。このまま進 例で定めなかったためであり、当局側の責任で めば、1世帯当たりの年収が300万円を切る、 ある」と。しかし別の視点で見ると、本来の形 そんな日本社会になって行きそうである。アメ で条例化することが自治省(現在の総務省)な リカ型のたくさんの貧困を生む社会か、ヨーロ どの目もあって、出来ないことを労働組合とし ッパのような一定の規制のもとでの(外国人や ても理解して、超勤手当などで支給させていた 移民住民のおかれている実態には考えさせられ のであるから、そのことの責任はあると言わざ るが)社会をめざすのか。そこのところを考え 4 日 本 社 会 を 再 構 築 する 労 働 運 動 を なければならない。 突入した。別の面から見ると、地方でできるこ 膨大な潜在的失業者の存在する中国との競争 とは地方で、という地方主権の時代の到来のも もあり、単純にヨーロッパ型の雇用はめざせな とで、適正規模の自治体になるための合併とも いけれども、地政学的な条件のもとで、日本社 いえる。 会のあり方と、雇用と賃金について描きなおす べきである。 例外はあるにしても、事実上の破綻かその寸 前の自治体で働いている職員で構成されている 企業の業種により、その下で働く労働者の組 労働組合なんだという観点からの運動を作りあ 合が、自由な競争主義者であったり、そうでな げていくべきだろう。責任のない所で借金だら かったり。民主党も、リトル小泉ではなく日本 けにされたと指摘しても、そこからはなにも始 社会のあり様を示すべきだし、それがなければ、 まらない。住民とともに行政の質と内容を考え、 政権には近づけないだろう。 提言していくべきである。 大きな自治体か、あるいは公務員か関連の労 連合に 期待す る も の 働者かなど、小さな優越感、今日の労働者・労 働組合が陥っている縮図が自治労でもみられ、 連合の会長は、これまで国の産業政策によっ 県職中心の運営がなされてきた。自治労中央の て保護されていた業種から選出されていた。彼 運動を一挙に変えるべきと言っているわけでは らがいかに立派であったとしても、自民党政権 ない。それぞれの自治体や単組の規模に合った のもとで企業が成り立ってきたわけで、働く者 方針のもとでの活動が、今、求められているの の視点に立った政治や政党の発展を望むという である。正規の職員がどんどん減り、アルバイ ことには、本当のところ、なりにくかったので トや嘱託に替わっていく、あるいは、業務がマ はないかと思う。 ルッポ民営化される。こんな事態のなかで、最 久方ぶりに、戦略産業ではないところからの 低限の労働条件について自治体労働組合が責任 高木会長の登場である。歴史観などについて違 をもつ、そんなことが求められていると思う。 和感を持つ人が自治労には多いようだが、労働 働けば、貧しすぎる生活を強いられることは 組合を変えるとしたら、彼こそが適任だと思う。 ない。そんな日本社会を再構築するために、労 中小企業やパート労働者を多く組織している産 働組合は活動すべきであるし、この視点に立っ 別の経験に期待したい。もう少し若ければ、一 た政党と連携すべきである。 定年数かかわれたであろうに。 労働組合の組織率の低下が問題なのではなく、 働く多数派が労働者であり、その多数のために 自治労が ど う 変わ れ る か 何をなすべきかを考えて行動できるようになる ことが、必要なのだろう。 財政の成り立たない自治体の、大合併時代に (はむろ たけし・前 連合京都会長)
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