阿波学会紀要 第54号(pp.205-216) 2008.7 美馬市木屋平の方言 * 仙波 光明 要旨:発音の面では,高齢者層で合拗音や鼻濁音の衰退傾向が観察されたが,アクセントには一部徳島市式と異なる ものがあるものの,注意すべき変化は見られないようである。また,語彙等について新居熊太氏のメモをみると,高 知や祖谷地方と共通のものが現在よりも多かったことを伺わせる。 新居熊太氏の方言メモは,明治末∼昭和期の言葉を反映していると思われるが,この稿では,792項目のうち250項 目弱を取り上げた。この項目の中には,木屋平の言葉が,古くは今よりもっと高知方言と共通する要素があったので はないかと思わせるものがいくつか見られる。 キーワード:合拗音,濁音,アクセント,ツロー,イヌル を略す。) 1.木屋平の方言区画上の位置づけ 1)サ行のセの発音 木屋平の地理的位置は他の報告書で述べられるで 『日本言語地図』によると,徳島県は一部の例外 あろうから,ここでは,方言区画上の位置づけのみ を除いて,ほぼ全域で「背中」の「せ」が[シェ] について記す。森 重幸(森,1982)に従えば,木 と発音されるという報告がされている。また,森 しも ごおり なか ぶん 屋平は,下 郡 中 分 に属する。下郡中分は,神山 町・旧美郷村,そして木屋平である。 [ e]・[ e]になりやすい」と報告されているので い や やま なお,徳島県は方言区画上,①山分(祖 谷 ・山 しろ いち う き とう き さわ かみ な か あるが,現在では,[シェ]の発音は消えつつあり, かみ ごおり 城・一宇・木頭・木沢・上那賀),②上 郡 (三好・ お 重幸(1982)によると,「うわて・下郡の地方で, 県南で比較的多く[シェ]が残っているようである。 え 美馬),③下郡(阿波・麻植・板野・鳴門・徳島・ 2)カ行合拗音(クヮ[kwa] ) 名西),④うわて(勝浦・那賀・小松島・阿南),⑤ 上坂の発音では,一回が[イックヮイ]となって かい ふ 灘(海部)の五つに大きく分けられ,これに中分, いる。 里分の区別を重ねることができる。里分は,吉野川 3)ダ行の前の鼻音(ンの音) 流域の平地部,および海に面する平野部の地域であ 上坂は「この冬で終わる」を[コノ フユ ン デ るが,中分は,山分と里分の中間山地をさして呼ん でいる。 [Φujun de] オワル]のように発音している。他 に,「鎌で」をカマ ンデ[kamande],「井戸」をイン ド[indo]のように発音している。母音イの後で鼻 2.発音の特徴 音が現れやすい傾向があるようである。 発音に関しては,浦 陽一・峰子御夫妻と上坂芳 このような発音は,徳島県では,比較的高齢者に 一氏の録音資料に基づいて分析した。(以下,敬称 多い発音の特徴であって,古い日本語の特徴を残し * 徳島大学総合科学部 205 美馬市木屋平の方言/方言班 ているものと見られ,鳴門,神山,相生などでも同 様の事実が観察されている(金沢他,2000・2001・ 2002 小野,1999)。 している。 上一段活用動詞については,調査票に「落ちる, 閉じる,伸びる」の3語しか含まれていなかった。 4)ガ行鼻濁音 そのため,充分なことは分からないが,上坂は全て 上坂の発音には,ガ行鼻濁音が比較的明瞭に聞か ●○○(徳島市式)だが,浦は「閉じる」が○○● れることが多い。しかし,鼻濁音にならない発音が に発音されている。これは徳島市の場合,若い世代 現れることもあった。 に多く見られる型である(上野他,1993)。 「歌が(ウタガ)」→[uta n a], 下一段活用動詞の場合,「当てる,入れる,植え 「動く(ウゴク)」→[u oku] , る」の3語は二人とも●●●であった。これに対し 「空が(ソラガ)」→[sora n a],などが鼻濁音 の例である。 て,「覚める,建てる,食べる,なめる,吠える, 見える,生える」の場合,上坂は●○○だが,浦は 5)アクセント ○○●,また「つける,逃げる」の2語は,二人と 木屋平のアクセント体系は,全体として徳島市と も●○○(徳島市式)であった。 同様に京阪式である。 これらの変化,すなわち五段活用で●○○が●● (1)2拍名詞のアクセント ●に,一段活用で●○○が○○●に変化しているの 2拍名詞のアクセントは,徳島市とほとんど同じ は,京都や大阪ですでに完了した変化が,現在進行 であった。ただし,第1類の「皮」が,第2/3類 (●○),または第4類(○○)と同じに発音され, 第2類の「肝(きも)」が,第5類に発音された (上坂・浦)。 中であることを意味している(上野他,1993)。 その他,印象に残った現象には,以下のようなも のがあった。 「咲いた」が3人とも○○●(低低高)と発音さ れたことである。徳島市式や池田式なら●○○(高 2拍名詞 語例 徳島式 池田式 第1類 庭・鳥・牛 ニワガ ●●蜷 ●●蜷 第2類 石・川・歌 イシガ ●○蜴 ●○蜴 第3類 山・犬・泡 ヤマガ ●○蜴 ●●蜷 第4類 松・笠・喉 マツガ ○○蜴 ○○蜴 第5類 猿・婿・雨 サルガ ○●蜴 ○●蜴 低低)と発音されるところである。また,「あがる」 の場合,「(雨が)あがる」のときは,●●●である が,「(腕が)上がる」の「あがる」は,三人共に○ ○●(低低高)であった。これは徳島市式ならどち らの場合も●○○,または●●●が期待されるとこ ろである。 (2)3拍動詞のアクセント 3拍動詞のアクセントで,徳島市式から池田式へ の変化と思われる例が,いくつか確認できた。 3.新居熊太メモにみる木屋平方言 新居綱男氏宅に保存されてきた新居熊太氏(明治 上坂のアクセントでは●○○(高低低)が,浦の 23年生まれ)の残された方言メモを拝借できた。こ アクセントでは○○●(低低高)または●●●(高 のメモは,熊太氏が晩年に作られたもので,方言集 高高)になるものがあった。 を作るための準備であったと思われる。広告やカレ 五段活用動詞の「泳ぐ,閉まる,叩く,作る,通 ンダーの裏を利用して,約9cm×20cmの短冊にし る,走る」は,上坂が●○○,浦は●●●で発音し たものにボールペンで記入されている。81枚の短冊 ている。なお,浦の「作る」については,3回の内 には,950項目が記入されているが,それらのうち 2回は上坂さんと同じ●○○であった。 削除されたものが122項目,重複するものが36項目 同じく五段活用の「洗う,祈る,終わる,暮らす, あり,実質的には792項目が残る。削除は,重複の 違う,除く,祀る,渡る」については,上坂,浦の ために行われたものもあるが,方言ではないという 両人ともに●●●であった。「滑る」は,浦夫人を 判断,あるいはその他の何らかの理由でなされたも 含む三人ともに●○○のやや古いアクセント型を残 のもあると思われる。しかし,削除された項目の中 206 阿波学会紀要 にも興味深い項目が含まれている。 第54号(pp.205-216) 2008.7 河内』=〔佐〕,『羽ノ浦町誌 民俗編』=〔羽〕,『稿本 また,『木屋平村史』(1996)に収録されている語 宝田村誌略』=〔宝〕,『西方村誌』=〔西〕,『阿波希ん と共通するのは,792項目のうち148項目にすぎない。 奴』=〔希〕,『鷲敷町史』=〔鷲〕,『相生町誌』=〔相〕, 新居メモには,すでにもう失われた語も記録されて 「相生町の方言」=〔相AG〕,『上那賀町誌』=〔那〕, いるのであろう。なお,紙幅の関係もあり,その全 『木沢村誌』 =〔沢〕, 「木頭地方々言語集」=〔頭〕, 『き てを示すことはできないし,また取り上げた語のい えさりゆく大里言葉』=〔里〕,『牟岐の方言』=〔牟〕 ちいちに解説を加える余裕はないが,県下の方言集 や『日本方言大辞典』などを利用して,それぞれの アシダイ 主として医者 語の出現状況を見ると,方言の分布や他地域とのつ アレミサッシャレ ながりのありさまが想像できるであろう。 【「足代」】 【〔脇〕と〔半〕に「∼サッシ ャレ」。〔言〕に「シャル【補助動詞】せられる ここには,興味深い項目を取り上げ,それに関す させられる(古)(稀)(山分)(老)(祖谷)行カ る考察を加えることとする。熊太氏のメモに書かれ ッシャル 来サッシャル 為サッシャル」と。ま ている部分は太字で示し,その全てをあげるが,項 た,〔法〕には「山分全部と阿波,麻植の古老の 目のあとに[削除]とあるのは,メモにおいて,そ 間に保存されている古風の敬語であって,この言 の項目が抹消されていることを示す。なお,『木屋 葉を使うということで,何か文化的に一線をひい 平村史』(1996)に収録されている語は,新居メモ ているように感じられる」p.141。森(1982)は, で意味の注記がある場合を除いて省略する。 山分,中分の形式に分類する。】 おそらく,このメモに反映されているのは,明治 末期から昭和戦前期あたりの木屋平方言であろうと 思われる。一部,興味深い語を指摘しておくと,ク ダガレ,ニョーニョサン,ホーニンのように土佐と 共通すると考えられる語,テグツのようにもう死語 であろうが,意外な広がりがあったと思われる語, 昭和30年代にすでに古い言い回しと考えられていた ツロー(金沢 治,1961)などがある。また,タッ チスルのように英語起源の外来語が見られること も,どんな語を方言と意識したかを考える上で貴重 【〔言〕に,「アンジナ,アンゼ ナ」とともに挙げる。あだ名。】 イイタイザッポ 【言いたい放題。〔言〕に「シタ イザッポー したいほうだい」がある。】 イオ 【〔言〕には「イオ 魚(漁師語)(海部)」 とするが, 〔三〕 〔祖〕 (魚,イオ釣りにイカンコ), 〔脇〕〔鴨〕にもある。〉 イガムシ 【子供が無理を言うこと。〔希〕に「い がむし=小児ナドノ無理ヲ云フヲ――ト云フ。」 〔日国〕〔日方〕にも出ていない。】 イタワリ[削除] 【「養生」のことか。〔言〕に である。 以下,調査結果や考察は【 アンジャナ 別名 】内に示し,考察に 「イタワル【動ラ五】養生する」がある。】 当たって使用した各種資料は,下記の要領で略号で イッキョイ あの家はいっきょい 示す。 イッケ 『日本国語大辞典 第二版』=〔日国〕,『日本方言 大辞典』=〔日方〕,『阿波の國言葉』=〔国〕,『阿波言 葉の辞典』=〔言〕『阿波言葉の語法』=〔法〕,『たの 【〔屋〕には「親戚以上の付き合いをして いる近所の家」とする。〔言〕には「親類,一家 (下郡)」】 イツロー 【〔た〕には(祖谷山村の特殊方言)の しい阿波の方言』=〔た〕,『三名村誌』=〔三〕, 『ひが 項で「イツロー(イッツロー) しいやの民俗』=〔祖〕『阿波半田の方言』=〔半〕, を示す。〔法〕には,「「ツル」も山分古老に古い 「半田町の方言」=〔半AG〕 ,『一宇村誌』=〔一〕,『古 行っただろう。」 言葉の名残をとどめている。いまは未然形だけが 宮村誌』=〔古〕,『美馬郡木屋平村の方言』=〔屋〕, 残っている」「……現在の話語としては推量の意 『脇町の方言と語詞』=〔脇〕,『鴨島読本』=〔鴨〕, 味だけに生きているから……」と述べる。p.149】 『藍住町史』=〔藍〕,『上分上山村誌』=〔上〕,『鬼篭 野村誌』=〔鬼〕,『神領村誌』=〔神〕,『ふるさと佐那 イデル 【〔言〕に「【他動下一】煮るの時だけに用 いる。」】 207 美馬市木屋平の方言/方言班 イドス 【〔法〕に「イドス 肛門<卑山分>」。 〔祖〕】 ウドム 【〔屋〕に「うなる。苦しむ」,〔言〕に 「ウドム ①病気でうなること ②うなる」とあ イニガケ 【〔言〕に「イニガケ ①帰ろうとした るほか,ほぼ県下一円で言う。】 ところ(山分・祖谷)」とあるが,〔西〕(現阿南 ウナメ 雌牛 【〔言〕 「ウナメ 雌牛(山分) (古)」】 市の一部)にもある。】 ウナメヅラ イヌル 【〔言〕に「イヌル 【動ラ下一】上郡イ ヌル 去る 帰る」。また〔頭〕には「帰る(稀) (イヌ)ンヌ,シヌル,併用。海岸地方はイヌ, シヌのみ」と。なお,今回の調査では,このナ行 変格活用を確認できなかった。】 イマキ 那賀川流域にもある。】 ウレル 熟レタ事 ウワフキ スイモノ杯ノ一番上ニオクモノ 【〔日 一番上に盛るもの。野菜の上にのせた魚など。」】 【〔神〕に「イロウ 弄ぶ」。〔言〕「【動 五】イラウに同じ」,〔脇〕にも。〔言〕に「イラ ウ【動ワ五】触れる 弄る 手を触れて弄ぶ」〉 イワエル さしい容貌であって,心はきつい人」。 〔脇〕ほか, 国〕「うわぶき【上葺】」方言の項に,「平わんの 【〔言〕に「イマキ 腰巻」】 イロウナ 【〔言〕「オナメヅラ 女のように,や 【〔言〕に「イワウ【動五】紐や縄を結 ぶこと・イワエル【他】」。その他,〔羽〕〔宝〕 ウンウ イヤトノ返事 ウンジイル 考え込んでる 【〔言〕に「ウンジイ ル 考えこむ ウンズリイルに同じ」。〔半〕】 ウンスケ 沢山 【〔言〕「ウンスケ【副】思い存分 沢山」。その他,〔脇〕,那賀川流域。】 ウンダモノトモツブレタトモ[削除] 【〔日国〕 「膿 〔牟〕〉 インニャ 【〔屋〕に「インニャ いいや 違う」と む」の項に「うんだものが[=とも]潰れたとも ある。〔言〕に「【感】いいえ(返事)」とあるほ 言わない(膿んだはれものがつぶれたとも言わな か,『上那賀』『木沢』にも。】 いの意から)何も言わない。黙っている。また, ウサギネイリ 【タヌキネイリと同義か。未詳。】 ウシガコエスル 発情すること ウシニスーコータヨーナカオ[削除] オイ 人ヲ呼ブ 【「牛に酢 を飼うたような顔」であろうか。】 ウシネル ナクスル 【〔言〕「ウシネル【動下一】 【〔言〕「ハゴ ①牛馬の飼料 (美馬・三好)」,〔祖〕〔半〕〔脇〕】 「牛小屋の堆肥」,〔脇〕】 ウチネヅミ 【〔上〕「オイヤシ 飲み食いにいやしい 人」,〔半〕に「食いしん坊」。】 オーフ[削除] 【〔言〕 「オーフ 誇大にいうこと」, うジャナイカ」等を示す。〔羽〕には「大風」を オーフゴ 家の内ばか り居る人をいふ」】 【〔羽〕に「フゴ わら製の編袋。オオ フゴ(一石フゴ)は,もみや,麦粒を一時入れる もので二人でカク。コフゴは六尺棒を使って一人 ウックイ 【〔宝〕に「うっくい 美シイ」】 ウッチャ 【〔屋〕「ウッチャ 私(女性)」】 ウデタ 濡れた オイヤシ 宛てる。】 ナクナッタコト 【〔宝〕に「ウチネズミ あ 「オーフウ 大きなこと,お前オーフウなこと言 【〔言〕「ウッシャゴエ 厩肥」,〔半〕 ウセモノ[削除] 【〔言〕「オイデナハレ 【感】 〔羽〕 「オーフ ①誇大に言う ②自慢する」 , 〔祖〕 ウシノマエ 牛に飼料を与える ウシヤゴエ オイデナハレ いさつ語,来客に対し家人の対応語」】 失う 紛失する(沢谷・美馬・三好)」】 ウシノハゴ 牛飼料 なんの音さたもない。」とある。】 でカタグ。」と】 オコトーイ 【〔言〕〔半〕〔神〕など「オコトイ」。 【〔宝〕に「ンデル ぬれる」,ま 〔羽〕に「オコトイ〈お事多い〉お忙しい。「オコ た〔羽〕に「ンデル・ンダス【動】ぬれる・ぬら トイノニオ世話ニナリマス」手伝いのお礼のあい す。「イツデモ着物ンダッショル子ジャ」」。】 さつ。」】 ウデタチ 仕事能率家 【〔言〕「ウデタチ 一人前 以上の仕事の出来る人」。〔半〕「腕利き」 】 208 オジリ 【〔言〕 「オジリ ①山の裾 ②麻を作った 跡 所有地中の良畑(山村では尾が日あたりがよ 阿波学会紀要 いからであろう(端山・八千代)」ほか。〔祖〕で は,「家の近く」。】 オタタ 2008.7 〔羽〕には「②柿(童)」とあり,〔た〕には「カ ッカスル(コッカスル)腰を掛ける」も。】 【〔祖〕「オタタサン お母さん」。その他 カップクガヨイ 男の身なり 〔祖〕〔一〕〔半〕〔脇〕〔頭〕などで「タタ」。また ク 外見の堂々たること」】 カブラ 焼残 タッツァンとも。】 オナゲ 第54号(pp.205-216) 子供の髪 【未詳】 【〔言〕「カブラ ①木の燃えがら ②十分炭化していない木炭 スミカブラ」。〔上〕 カオヤク 自分地位・多数ノ前デ悪口を言 【〔た〕 に「カオヤク 顔役勢力。名望のある者。クチキ キともいう。」とある。】 カカノフンドシ[削除] 【〔法〕に「カップ にも。】 カマケタ 【〔言〕「カマケル【動下一】拘泥するこ と」,〔半〕】 【〔羽〕に「フンドシニ カモコダ 差支ナイ【かもたか(句)「構うものか」 マカレル 女房天下。「カカノフンドシニマカレ と仲間同士,禁じられていることを強行しようと ル」」。〔言〕に「フンドシニツツム 女房天下」】 いうときのことば。カモタカ ヤレヤレ。(構う カカマ 【〔言〕「カカマ 嚊天下 嚊巻かれ」,ま カライ 味付食品塩ノ少ナイ た〔上〕〔宝〕にも。】 カク 射的 【〔日国〕「かく【角】」に「⑩鉄砲の 的の中心部。角形に作る。*翁問答(1650)下・ 末「いとなみはうつごとにきりもみにあたり,初 心の人はかくをもうちはづすばかりなり」など。】 カケガヨイ ものか。やれやれ。小男→同」〔相AG〕 】 【交通の便がよい。〔言〕に「カケ 商売するのに交通の便利がよい カケガヨイ,ワ 【塩が少ないことに ついて,カライと表現している。】 ガラク コイシワラ 【〔言〕「ガラク 砂礫地」。 コイシワラは小石原か】 ガラクワラ 【瓦礫原か】 ガン 棺 カンカ 【〔言〕「カンカ【童】外 戸外(徳島・美 ルイ」,〔佐〕には「かけ=道すじ。経路(A地点 馬),【童】下駄(美馬)」。美馬郡では,下駄の意 へ行くのに,山の手のコースではかけ悪いので, 味で,神山上分,那賀川流域などでは戸外の意味 海岸線のコースにした)」とある。】 が主か?】 カゴセン 医者払の旅費 カンノオデケリャ カジタ カジル 腐った ガンマタ カセタ カス キガセ 子供の頭しらみの卵 【〔言〕に「カセル【動下一】①栄 【未詳】 【〔羽〕に「ガンマタ がにまた。」】 【〔半〕「キガセ シ 養不良で発育せぬこと コノ子ハカセゴニナッテ ラミの卵」,〔言〕「キガシ 頭髪につく虱の卵 大豆ガカ (徳島市)」,その他,キガシは羽ノ浦,宝田,相 シモタ ②水に浸って柔かになること セタラヤリコーニフクレル」】 カタグ 擔うこと 生。徳島で,ケガシ,カガシとも。】 【〔言〕に「カタグ【動力五】 キコン[削除] 【〔屋〕「キコン きのむくまま」。 担ぐ 婦女を誘拐する」,また「カク【動五】二 〔言〕に「キコン 随意 ドーゾゴキコンニシテ 人して棒で荷物をかつぐこと(カタグ)」と。 〔た〕 ツカハレ(注意)来客などを接待する時に畏まら 〔半〕〔脇〕〔神〕〔羽〕】 カタズル ないで身心をゆっくりしてくれという時に便う。 【〔言〕に「カタヅル【動(主)】荷物が あいさつ語」】 〈ママ〉 片重なこと」。ヘボンの『和英語林集成』(1886年 東京丸善)にも「KATAZURI,−RU ギスイ 【〔言〕に「ギスイ 【 待 】①酷薄な ア カタズル ノ人ハギスイ顔シトル ②かどかどしい アンマ 片重」と出ている。『広辞苑』には,同意語のカ リギスイ事言ウ卜人ガヨリツカン ③人情味がな タズムを載せるがカタズルはない。方言としては, いこと アノ人ハギスイ人ジャ ④塩からい(木 岡山,香川,愛媛に記録がある。 】 屋平)」】 カタナゲ 子供 カッカ 【未詳】 【〔言〕「カッカ【童】雨傘」,〔た〕にも。 キズミクサイ 【〔言〕に「キズミガクサイ 焦く さい(沢谷)」】 209 美馬市木屋平の方言/方言班 キツイ[削除] 味 【味についてキツイを挙げる クワル 徳島県の方言集は未見。】 木デ鼻カム 【〔佐〕「杵(きね)で鼻かむ=ぶっき らぼう。無愛想」。】 キバル ぱつする(美馬)」。〔頭〕では「凌ぐ」。】 【〔言〕に「ナガタン 料理用の庖丁に 対して野菜を切るのに用いるきれもの(菜刀)」。】 クエ 杭 【〔言〕に「クイ ①刺 手や足に刺が つきささることを「クイ」が立ったという ② 杭・クエ」。】 クスボッタ 【〔言〕「クワル【動五】①腹や胸の疼くこ と ハラガクワル ②肩がこること カタグクワ 足ガクワル」〉 グヮンゴメ 【願籠め】 クヮンジョヨリ グヮンホドキ 【觀世縒り こより】 【願ほどき 神仏にかけた願がかな ったとき,そのお礼参りをすること。(広辞苑)】 ゲシナル ネルコト 【〔言〕「ゲシナル 【動五】 寝るの敬語(臥床する)御寝なる」。】 【〔言〕「クスボル【動自五】燻る ① ケシボー 見ツキノ姿 薪などの不燃焼なこと ②いじけて日かげの生活 ケシャナ をすること フスボルニ同じ クスブルの訛」。】 ゲヤ クソビイ 【「官員さん」であろうか。】 ル(頭や歯にはいわぬ) ③手足のだるいこと 【〔言〕「キバル ①精出して働く ②ふん キレモノ クヮインサン 【〔言〕「クソベイ【形】嬰児のよく肥っ 【未詳】 【キャシャナ(華奢な)の訛りか。】 【〔祖〕に「オシコミ 押入れ,家の隅にあ った,多くは穀物をカマスに入れて収納していた, て発育よろしく体重の多いもの(嬰児の肥ってい 戸はマイラドである,これをゲヤとも言ってい るのを〔オモイ〕というのは禁忌」。他に〔た〕 た」】 ケン モエヒノ先 〔祖〕。】 クダガレ 細イ木ノ折レ/\ 【〔日方〕には『土 コイネリ 【未詳】 【辞書類には出てこないが,「粉湯練り」 佐方言記』に「出水で付近の川から流出した木片, であろうか。この語の隣に「ソバイネリ[削除]」 枯れ枝の類が海浜に流れついたもの。流木。」と が書かれている。イネリが共通の要素。〔一〕に 記されていることを示す。次項と合わせて,散乱 「そばいねり(いねり) そば粉の湯ねり(塩湯 している細い枯れ枝などをさすものと思われる。 ねり)」とあるのは,蕎麦掻きのことであろう。 クダはクダモノ(果物)のクダ(「木の」の意)。】 コイネリは,ハッタイコ,オチラシのことであろ クダガレ[削除] 纏マツテナイ細木 クニューシ やりくり上手 【〔言〕に「クニュー シ クニューする人,又はその職業,周旋業」, うか。すなわち,麦焦がし。】 コエ 山草乾燥したもの ゴーシイモ 【〔言〕「ゴーシイモ 江州薯 馬鈴 また「クニュー 主に銭土地家屋などの売買の世 薯=ゴーシュイモ=ゴーシュウ=フドイモ,ゴシ 話をする」。】 ョイモ ゴシュイモ=ゴショイモ=ニドイモ コ クマガイ(盃) 【〔日方〕に「くまがいさかずき 【熊谷杯】濁り酒を飲む大きな杯。岩手県。」文献 例として新内『まさゆめ血染抱柏』を示す。】 グルボーズ 【蟻地獄,またはカタツムリのことか。 中国地方で,これらをグルモージなどと言う。 ーシュウイモ」,〔祖〕〔半〕。】 コーシャナ キヨーナ 【「巧者な」。〔日方〕には 「①器用なこと。また,そのさま,その人。佐渡, 岡山県苫田郡,広島県比婆郡,香川県など。」と する。】 〔日方〕,『全国方言集覧』には,蟻地獄を愛媛県 コーネツ[削除] 【〔言〕に「コーネツ 高熱 ① 各地でグルモージ等という。同書によれば木屋平 威張る ②故意に学問などをみせびらかせる ③ ではオイトコツンボと言った。 】 うるさくよくしゃべる人」。】 クロクワ 土方 【〔言〕「クロクワ 土方」,『神山 の方言』には「石垣つみをする人」,〔鴨〕では 「山畑の石」,〔た〕は「久六鍬(柄が短く先との 角度が鋭角で,堅い土を掘る具) 」を示す。】 210 コーボオ ヌクイトコロ 【〔た〕に祖谷地方の方 言として「コーボ 暖かい所」と。〔日方〕には 「徳島県美馬郡」の記録も示す。】 ゴーモク 汚物 【〔言〕に「ゴーモク ①塵芥 阿波学会紀要 第54号(pp.205-216) 2008.7 ②五目ずし/・ゴモク(徳島市)」,塵芥,ゴミの サス 【〔言〕 「サス【連語】使役をあらわす語「さ」 ことをゴモク系の語で表現するところは日本各地 動詞「す」助動詞 (注意)当地方では使役の助 に広がる。】 動詞は「さす」だけで「させる」は使わない。例 コーロク 手間替 【〔言〕に「コーロク 合力 共同作業(祖谷) 死者,病人のある家,その他 災厄をうけた家を助ける為に部落民が一緒に労力 奉仕をすること」。〔た〕では「手伝い」とのみ。】 コギノ 【〔言〕「コギノ 作業用の麻布(祖谷) 古着のことも(祖谷)」。「小衣(こぎぬ)」の変化 「行かす」「食わす」であって「行かせる」「食わ せる」とは使用せぬ」】 サデヤキ 焼畑焼残リヤク きだめなどを焼くこと」。サデルについて,〔祖〕 には「寄せ集める,かき集める,そこの落葉をサ デエヤ」とある。】 サナ 焼畑ノ土止メノ横木 か。】 コク 稲ヤ麦コク 【〔言〕「コク【動五】①穂を抜 【〔言〕「サデヤキ は 【〔神〕には「木馬道 の枕木」とする。】 ザレ 【〔言〕 「ザレ 崩壊した崖 動詞(ザレル)」】 く」。】 ココシタ[削除] コジョッコラ 子供大便シタ 【〔言〕「コジョッコラ【副】こじん ザワテコ マゼサガシテ ザワテコ 【〔言〕「ザワ 混乱しただけで結局徒労であったこと/・ザワテ まりしていること コノ家コジョッコラトシテエ コ」,〔た〕「ザワ(ザワテコ) エナー」。島根県でも。また,「コジョッコリ」の なったもの。「仕事の最中に子供にまぜられてザ 形で,山梨県南巨摩,兵庫県,岡山県川上郡,長 ワテコになった」」,〔脇〕〔神〕】 シケ 崎県対馬でも。】 コジリトリ 言葉ジリヲトル 【〔言〕に「コジリ ヲトル 【句】人の欠点をひろう」。〔日方〕によ ると,「言葉尻」の意味では,宮崎県東諸縣郡で も。】 コズリ めちゃくちゃに 【〔法〕に「袂や畳の間などにたまる綿の様 なごみ」とあり,〔言〕に「シケ 毛立つこと 綿じけ」,また〔半〕には「塵 糸くず」とある。】 ジヤケニ 【理由を表す接続助詞は,この地域では 古くからキン・キニではなく,ケン・ケニであっ 【鳥取県八頭郡では,「樹氷。霧氷。また 樹枝からなだれ落ちる雪。」を言う〔日方〕。】 コッパチ 【〔半〕に「コッパチ ひとさし指で弾 たと思われる。】 ショイショイ 〔言〕に「ショイ 醤油」とある。】 ショーサン くこと」。】 コデクロ 小供 【〔言〕には「コドクロ 小さい 【「醤油」を意味する幼児語か? 死産 【未詳】 ショーベンニナッタ 破約 子供(卑語)」,他に〔半〕〔脇〕。コデクロは,香 ショグヮツゴ 正月ゴ 川県木田郡にも〔日方〕。】 シラゲル 穀物ヲ精白スル ゴムシン 借用ノ事 【〔言〕に「ゴムシン 金や 品物を借して貰うこと=ゴモシン」。】 サア 話ノ時 不確実ノ返事 サカイキ カミヲソリオトス 月代,頭髪を剃刀で丸剃りすること さかやきの 訛」。〔羽〕〔神〕では,単に「理髪,散髪」の意 にも。】 精白する。宇津保物語吹上上「よね―・げたり」】 【〔言〕「シリコスバイ【形】うしろ ぐらい」,〔た〕「悪事をしたとき発覚をおそれて いる。」,〔宝〕】 シリコブタ 【〔言〕 「シリコブタ 尻っぺた」, 〔半〕 〔上〕〔羽〕〔宝〕】 サカシイ 乳呑子 【賢しい】 サキラ 向 【『広辞苑』しら・げ る【精げる・白げる】①玄米を搗ついて白くする。 シリコスバイ 【〔言〕「サカイキ 【正月用の着物】 【サキラ「先。先方。向こう。京都市 和歌山市 高知県」〔日方〕。なお,徳島県の資料 では,〔半〕「ムコーテ 向こう側」,〔里〕「むこ て(向こう側・相手)」。】 ジルクソ 【〔日方〕によると,島根県鹿足郡で 「下痢便」のこと。この意味か?】 シンシャク 【〔言〕 「シンシャク 辞退 遠慮(斟 酌から発した語)」】 シンダイ タイクツナ 【〔言〕「シンダイ【形】シ 211 美馬市木屋平の方言/方言班 ンドイ ③退屈なこと――コノ頃ハ日ガ長ウテシ (海部・出羽)」, 〔神〕 「スラ 木馬の下の滑り木」。 ンダイナ」。シンドイもメモにはある。】 『広辞苑』に「しゅら【修羅】(スラとも)」。】 シンマク 【〔国〕に「真莫デ整頓ノヨイコト」。近 スリスリ 【〔国〕に「接触スル」。】 県では,兵庫県加古郡,淡路島,香川県,愛媛県, ズル 穀物荒川 島根県で「実直なさま。まじめなさま。熱心なさ スレガラス ま」〔日方〕。『広辞苑』「しんまく【慎莫】①よく ズンベンダラリ 物事の始末をすること。よく身のまわりの処置を すること。みじんまく。誹風柳多留3「小姓よく ―をする袈裟衣」」。】 スガリ 【磨りガラスか。】 【「のんべんだらり」に同じであ ろうか。】 セイトースル モノヲマトメル 【〔言〕に「セイ トウ 整理 征伐 片付ける 子供ノ遊ンダアト 【〔言〕「スガリ 物の盛りが過ぎること= スガレ末期」。】 スガル 【未詳】 ヲセイトウスル」。セイトーはセイトン(整頓) の訛りであろう。】 【〔言〕に「スガル【動ラ五】ぶら下るこ セガノエル 【〔屋〕「ノエル 育つ」 。〔言〕「ノエル と 縋る」。あるいは,名詞スガリの動詞形であ 【動下一】植物の成育すること(美馬)」,他に ろうか。とすれば,富山県の「しぼむ「菊の花が 〔半〕〔鬼〕〔上〕〔沢〕にも。 〉 すがった」,『日葡辞書』の「Sugari, ru, atta.スガ セコ 猟師手伝 リ,ル,ッタ.ある果実の時期が終わりになる. ゾーツケナイ Vriga sugaru.(ウリガ スガル)」。】 スゴ 炭入レルモノ 【〔言〕「スゴ 炭俵」,〔祖〕 「炭スゴ,萱で編んだ炭俵」,〔半〕。】 スゴスゴ 気嫌ヨク 【共通語のスゴスゴとは逆の 【〔言〕 「ゾーツケナイ 【形】大き すぎて無格好な。」,〔羽〕〔西〕 】 ソバイネリ 【〔一〕に「そばいねり(いねり) そば粉の湯ねり(塩湯ねり) 」。】 ソブツ 節季杯ニアゲル被服料 スズラシイ モースコシヨイノ 【未詳】 に与える衣類。お仕着せ。」とし,文献例には宇 【〔た〕に井川町辻の方言 治拾遺物語集を示し,方言として山口県,愛媛県 として,「スッチョ 横着」。〔日方〕には,「①悪 の資料を示す。】 賢いさま。こうかつなさま。岡山県。香川県。② ソブリガ 風テイ 【風体】 おうちゃくなさま。岡山県苫田郡。徳島県三好郡。 ソン 筋 ③高慢で無愛想なさま。岡山県苫田郡。徳島県三 好郡。広島県比婆郡。愛媛県北宇和郡。高知県幡 【〔言〕に「コブル【動五】かじる オヤノスネコブリジャ」とあり,すねかじりのこ 〔頭〕「ソン 血統」】 スバイ 住宅焼跡ノ灰 【〔言〕に「スバイ 藁を やいた灰」。『広辞苑』には「消炭などのまじらな 【〔屋〕「タイゲン ほらふき ほんな話 タイゲンにしないよ」。〔言〕「タイゲン ①ほら ふき ②ほらをふく 大言言ウナ」,〔上〕にも。】 タイホー と。】 【〔国〕に「そん 遺伝,血統」,〔言〕 に「ソン 血統,血縁 彼の家ハ犬神ノソンジャ」 , タイゲン 多郡。」など。】 スネコブリ 【『日本方言大辞 典』に「【衣物】①盆暮れなどに主人から奉公人 意味である。】 スッチョナ 横着な人 【勢子】 【〔言〕「タイホー 嘘つき ほらふき アノ人ハタイホージャ」】 タシナイ 少イコト 【〔言〕「タシナイ【形】稀少 い灰。ただの灰。」とあり,浮世風呂の例を挙げ ②稀少の品である為尊重すべき意 マア コノタ る。】 シナイ オ湯ヲ大事ニセー 千円札モ一ペンクダ スボキマラ 【〔日方〕「すぼけ」の項に「⑤包茎。 滋賀県蒲生郡 大阪府泉北郡 兵庫県淡路島 《すぼきまら》香川県」とある。】 スラ 材木ヲ辷ベラス台 【〔言〕「スラ ①舟の下 にしく木 ②材木を搬出する為に列べる丸太の木 212 イタラタシナイモンジャ」,〔祖〕「少なくて大切 なもの」,〔羽〕〔宝〕】 タッチスル 相談事加ハル 子供ガタテル 【始め の方は,英語「タッチ(touch)」であろう。後の は,「立つ」の幼児語。〔言〕「タッチスル【童】」。 阿波学会紀要 タテルは「立つ」の方言形である。】 タッツァン 【〔た〕「タッツァン 母親。他人の母 親はオタッツァンと呼ぶ。」】 テグツ 第54号(pp.205-216) 2008.7 【〔脇〕に「テグツ【てぶくろ(手袋)】」。 〔日方〕に,「①獣皮の手袋。山言葉。福島県南会 津郡 ②手袋。奈良県吉野郡。 ◇てずつ・てつ タネンナ人 注意シテ仕事ノヨイ 万事注意スル つ 奈良県南大和 高市郡」とある。日本手袋工 タノキネイリ 業組合のホームページには,「当時の手袋はてぐ 【〔言〕に「オラア タノキニ ヤ ラレタガ 〔俺は狸に化かされたよ〕(男―男, つ(手靴)といわれた指無し手袋」と書かれてい 目下)」,タノキは,〔た〕〔半〕〔脇〕〔相〕〔上〕 る。当時とは明治中期のことである。】 に。タノキネイリを項目として立てる方言集はな い。】 【〔祖〕に「テナワ 手 綱」】 タモレ 下サイ 【〔言〕「タモレ【補助動詞】下さ い(古,山分,稀)」,〔祖〕も「古語」とする。】 タルカタギ テナワ[削除]牛追ヒ縄 【「カタグ」は「担ぐ」】 チカゴスイ 【〔半〕に「チカゴスイ 狡賢い」, 〔言〕にも,コスイの同義語として示す。】 ヂコナシ 傾斜地土揚 【傾斜地で,平らな土地を 作るために土を揚げることか。】 ヂャラヂャラ タワムル 【〔言〕「ジャラジャラト 【副】①しまりなくそのくせ執拗なこと ジャラ ジャラスルナ ②冗談に 人をなぶるように ジ ャラジャラトナニ言ウンナラ」,〔祖〕「ジャリァ ふざける,ジャラジャラとも言う」,〔半〕〔脇〕〉 チョーゴリ 帳面入レ 【帳付けであろうが,語構 成は未詳】 テモト 富裕ナ テンゴ タワムル 【〔た〕 「テンゴ 冗談をいう。」, 〔祖〕「冗話,ソンゲナテンゴ言うなホンケにする ジャないか」,〔言〕「ヒョーゲル 【動下一】お どける ・ジャラ ・テンゴ ・イイグサ」,ま た「テンゴ ①余計な干渉 ②無駄なこと ③駄 目(海部)」,〔鬼〕〔鷲〕〔相〕〔那〕に「冗談,無 駄」と。】 トエル ヨブコト 【〔屋〕「トエル 叫ぶ」。〔言〕 「トエル【動下一】①泣くこと(吉野川海岸 卑 罵) ②叫ぶこと(海部)(普通やや古)」。〔た〕 〔脇〕〔鬼〕〔神〕〔羽〕〔宝〕〔西〕は「泣く」を含 む。〔半〕〔上〕〔鷲〕〔相〕〔頭〕〔沢〕では,「叫 ぶ,呼ぶ」。】 ツーンセー 乳 子供の鼻水とるとき トーコト 【〔た〕「トーコト たわいもないこと。 ツギ 着物修理用 たわ言。」,〔羽〕「分からぬ事。中風ニナッテ ト ツギコノキモノ ーコト言ウヨウニナッタ 戯言(たわごと)の転 ツギッコ 着物修理シテアルモノ か。」,〔神〕「たわ言」,〔上〕「うわ言」。〔日方〕 ツクライゴト 【ツクロイか。「繕い」がツクライ 「たーこと【戯言】」の項に,「①つまらないむだ の形になっているのは,山形,茨城,新潟。〔日 言。冗談。でたらめ。」とし,文献例に1805年刊 方〕】 《滑稽本・旧観帖》を引く。】 ツケル 牛ノ交尾 ツヅクロ ゴジャ トシガイモナイ 年齢ニモアワヌ 【『ツヅクロウ【動五】間違い (三名)』〔上〕「ツヅクロウ 間違い」】 ツラガシコ ドシタッチャ ドーシタト言フカ トックラ ユックリ 【〔言〕「トックリ【別】おち 【〔言〕「ツラガシコ ①口さきだけの ついて,ゆっくり トックラ」「ゴトックラト お上手 ②さし出口 知ったかぶりのことを言 【句】熟睡するように 夜の辞去する時のあいさ う」,〔半〕「皮肉 出しゃばり」】 ツラクセガワルイ 【〔言〕「ツラクセ 面相(わる い時だけに用う)面癖」「顔つき コノ犬ハツラ クセガワルイ」 ,〔脇〕に「ドツラクセガワルイ」】 ツレコッテ 一緒ニ行 【〔言〕「ツレコル【動五】 友人達相連れて ツレコツテオイデヤ(祖谷)」】 つ語」,〔半〕〔脇〕〔藍〕】 トンクラオヤスミ[削除] 【トックラお休み=ゆ っくりとお休み】 トンスル 【〔言〕「トンスル 【句】①落ちること 【童】②きちんと坐ること(トンチスル)」】 ドンタク 休 【〔言〕 「ドンタク 日曜(古) (稀)」。 213 美馬市木屋平の方言/方言班 休日。オランダ語 zontag から。 】 トンボ起キ 五】右の「沼をぬりつける」ことが語原でぬりつ 【「急いで起きること」か。トンボヤ ミ参照。】 とあるのを参照。】 トンボガエリ 湯ガ沸騰 【〔脇〕「トンボガエリ 【沸騰】」。】 トンボヤミ ける。それから転じて身をもがいてあばれること」 ノヘートナ 【〔羽〕「ノヘトーナ【形動】 しまり のない。こだわりのない。 」, 〔相〕 〔那〕 「横着な」, 【〔脇〕に「トンボヤミ【原因不明の 不意の急病で,また不意に治る】」〉【〔日方〕に 「蜻蛉病」として,「①急に頭痛や腹痛を起こして 〔宝〕「ノヘトヲナ きちやうめんでない・ぞんざ いな・そりやく」。】 ハカヤリ 【〔日方〕に「はかやり【捗遣】仕事の 寝ること。島根県益田市・那賀郡 ②日射病。名 はかがいく人。仕事じょうず。山形県東置賜郡・ 古屋市,島根県石見 ③島根県浜田市」と記す。 東田川郡」。】 「急」の意味のトンボは共通語のトンボガエリ (――返り)に見られる。】 ナカモチ 取次ギスル人 【〔言〕「ナカモチ 荷担 食べる行事。徳島県三好郡814」。814は,武田明 『祖谷山民族誌』1955年のこと。】 ハットー 通行止 【〔言〕 「ハットー 昔の「法度」 ている労働者」,〔祖〕〔相〕〔那〕〔頭〕】 【〔言〕「ナゴイ 【形】 海上の平穏なこと また人の性格の和やかなこ と」,〔牟〕〔西〕】 から起った語「通行禁止」のこと」。】 パッパ 【〔言〕「パッパ 【童】①煙草 ②子供を おんぶすること」,〔脇〕〔上〕〔羽〕は,「おんぶ」 ニタリハッタリ 似ておる 【ニタリヨッタリのヨ のみ。】 ヒザクム (四)をハチ(八)に換えたものか。】 ニヂル ニジリヨル 【『広辞苑』 「にじ・る【躙る】 【自五】膝をおしつけるようにして,じりじりと 動く。にじくる。狂言,今参「まだ御前を―・り 【〔た〕「ヒザクム あぐらをくむ。」, 〔神〕〔羽〕】 ヒツケ 【〔言〕「ヒツケ 家庭で子供に体罰を加え ること」,〔た〕「しつけ(躾)」など。】 ヒノジ 【〔屋〕に「日当たりの良い斜面」とある。】 も致しませぬ」。「座敷へ―・って入る」」。】 ニバンジャ 【〔日方〕「はたきぞ め【叩初】正月十一日,麦粉を臼でひいて家中で 夫 両村の間を,定時に荷物を担いで,職業とし ナゴイ 暖イ朗ラカナ日 ハタキゾメ 正月始テ粉挽く 【〔祖〕に「ニバンチャ 昼食を二回 ヒャクニチヒャッパイ 【〔言〕「ヒャクニチヒャッ 食べていた当時,二回目の昼食を言う,古くはヤ パイ【副】百日百杯――毎日毎日」。〔日方〕には ツメシとも称していたらしい」,〔た〕には「茶づ 「ひゃくにちひゃっぺー なるようにしかならな け時。」と。なお〔た〕には,「イチバンチャ 午 ヒンズ 余分 前十時頃の食事。(祖谷)」もある。】 ニョーニョサン いこと。京都府竹野郡」とある。】 【〔日方〕によれば,「①読経 長 【ひんず 余分・余計】 フケタ 年よった 夜遅くなった 沼田 【〔脇〕 崎,②僧侶 佐渡,③仏様,または,神様 土佐」 「フケタ【一毛田。泥が深くて二毛作が出来ない などとある。土佐に記録のある「仏様,神様」の 田】」,〔半〕「湿田」,〔言〕「フケタ=フケ 一毛 ことか。】 田」。】 ヌクミガキタ 腫ガキタ 【ムクミをヌクミ。m→ n の子音交替。】 ネギリコギリ 値 切る ネギリコギリヲスルモンガアルカ」。】 【〔言〕「ネショー 卑罵 女 子(女をののしっていう)」。】 ノエクル 【〔羽〕「ノエクル【動】蛇行する。」, 〔那〕「苦しみ,もがく」。〔言〕に「ノタクル【動 214 【〔言〕フドイモの項に「②ホドイモ 自生する 馬鈴薯に似た薯(東祖谷)」とある。 【〔言〕に「コギル【動ラ五】 ネショー 女のコト フド 自生 なお検討が必要。】 フロ 芋貯蔵穴 フンダ 余分 【フンダンか】 ヘン 辺の事,アノヘン,コノヘン,アタリ ヘンコツ 【〔脇〕「ヘンコツ【へんくつ(偏屈)性 質が片寄っていて頑固なこと】」,〔半〕〔羽〕】 阿波学会紀要 第54号(pp.205-216) 2008.7 ホーガンパチ カオノコト カカランナア 注意 辛うじてという時には使わ ホーコベ ぬ」,〔古〕「ヤットシテ 暫くして」。】 【〔脇〕「ホーコベ【はこべ(繁縷)ナデ ヤマコバ 材木集メル シコ科の越年草】」〉 ボートゴヤ 山仕事少さい小屋 ホーニン キトー師 【〔言〕「ホーインサン【古】 神主(法印)(山分)」,〔た〕「ホーインサン 山 伏。法印」。〔日方〕に「ほーいんさま【法印様】 ①山伏。祈祷師。……《ほーにん》高知県土佐 郡」。】 ユルリ 【〔言〕に「ユルリ いろり(山分・海部)」。 〔祖〕,〔半AG〕 〔脇〕〔宝〕に見られる。】 ヨーバレタレ 【〔言〕「・ヨバレタレ 夜尿者」, 〔羽〕〔牟〕。】 ヨグチ 【「いびき」か? 〔言〕に「エグチ いび き(木屋平)」とあり, 〔那〕に「イグチ いびき」 ホタ木 とある。〔日方〕には「《えぐち》高知県幡多郡」 ボタ焼 丸焼 が見られる。】 ホテ 突出した土地 【麻植郡820に, 「山の尾の端」 の意味がある。 〔日方〕】 ヨナイ 一人前割当デナイ 【『木屋平村史』には 「財産を持たぬ家庭」とする。〔言〕「①金品を出 ホロロウツ ¥砂浴 しあって他人を補助すること『仙台・福島』 マツリゴ オマツリ用キモノ 乏シテモ ヨナイ モライニハ イカン〔貧乏し マドーニツケラレル ても補助金をもらいにはいかぬ〕 ②会費を按分 【〔言〕「マドー 子供をかく す化け物。 」】 ミソタレユキ 貧 すること ヨナイニシテ造用ヲ出ス〔各員が均分 【〔た〕に「ミソユキ みぞれ。」, に拠出してその費用を出す〕 ③寄附金 オ宮ノ 〔言〕「ボテユキ 霙 みぞれ(西祖谷)」〉【『大辞 ヨナイヲ モライニイク〔神社の寄附金をもらい 典』「ミソダレ 方言。霙。京都府何鹿郡・与謝 にいく〕」,〔半〕「与内。金品を出し合い他人を助 郡・但馬・鳥取県」。】 けること。会費の按分。」】 メオヒ 出合セ酒呑 【「出し合わせ酒を呑む」。 〔言〕に「メオイ ①酒など,共同出金して飲む こと」。】 ンマエル ウマエル 熱湯ニ水ヲ入レル 「ンマエル【動】 【〔羽〕 水を混ぜる。「湯ヲ水デンマエ ル」」,〔言〕ウマエル 【動下一】さし水をする メダイー ニクラシイ 【〔言〕「メダイイ 【形】 (海部・出羽),神山,〔鷲〕〔相〕〔那〕〔牟〕】 人の仕事のはかどらないのが見かねる感じ」, 〔半〕 【以上】 「メダイ 目に付く(悪い方の意味)」,〔羽〕「メ ダイ・メダルイ【形】 見ていてイライラするよ うな。まだるい様子。」】 メッコー 見積 【〔言〕「メッコ 見当 推量の勘 で数量を目算すること」】 メメル 【〔言〕 「メメル 【動下一】にらみつける」, 〔脇〕「メメル【にらみつける】」】 モソロ 【〔半〕「モソロ ごみ」】 モツイ 山の刈草 モンチャクナッタ 【〔神〕「モツイ 秋の刈草」】 方言教授者 今回の調査では,次の方々にご協力いただいた。 いろいろとお教えいただいたことを充分には反映さ せることができなかった点,お詫び申し上げます。 上坂芳一 大正9年(谷口) 浦 陽一 昭和17年(八幡) 浦 峰子 昭和20年(八幡) 奥森町枝 昭和5年(川井) 【モンチャクは「争いごと」 椎本シゲコ 大正5年(櫟木) 『神山の方言』】【悶着なる=争いごとが起きる。 新居綱男 昭和12年(川井) モンチャクにナッタと言わず,ナルが直接名詞に 新居重子 (川井) 続くのは徳島方言の特色であろう。】 端本美夫 昭和15年(川井) ヤットコン ナガラクコン 【〔言〕 「ヤット 【副】 (五十音順) 久しい間(徳島−女)/・エット ヤットオ目ニ 215 美馬市木屋平の方言/方言班 文 献 相生町誌編纂委員会編(1973):『相生町誌』相生町。 藍住町史編集委員会編(1965):『藍住町史』藍住町。 石田祐子・岸江信介(2001):「徳島県諸方言アクセントについ て」『言語文化研究 徳島大学総合科学部 第8巻』 井筒 茂編(1931):『稿本 宝田村誌略 巻九』井筒 茂。 井上一男(1937):「木頭地方々言語集」『郷土阿波 14号 通 巻14』阿波郷土会。 上野和昭・仙波光明(1993):「徳島市における3拍動詞アクセ ントの変化の実態」『徳島大学国語国文学 第6号』徳島大 学国語国文学会 島田泉山(1901頃):『阿波希ん奴』(稿本)。(仙波光明(1995) 「徳島大学方言研究会報告4 資料紹介『阿波希ん奴』」『徳 島大学国語国文学 第8号』徳島大学国語国文学会。) 尚学図書編(1989):『日本方言大辞典』小学館。 神領村誌編集委員会編(1960) : 『神領村誌』神領村誌編集委員会 太平洋資源開発研究所編(2004):『全国方言集覧 中国/四国 編〔下〕』太平洋資源開発研究所。 田村 正編(1968):『三名村誌』山城町。 俵 裕(1990):「祖谷の方言」『ひがしいやの民俗』東祖谷山 村教育委員会。 土壁重信(1976):『消え去りゆく大里言葉』土壁重信 小野米一編(1996):鳴門教育大学国語学(現代語研究)報告 2『徳島県北部方言の談話資料』小野米一 土井忠生他編訳(1980):『邦訳日葡辞書』岩波書店。 鬼篭野村誌編集委員会編(1995):『鬼篭野村誌』鬼篭野村誌編 集委員会。 日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館辞典編集部 (2001):『日本国語大辞典 第二版』小学館。 金沢 治(1961):『阿波言葉の語法』徳島市中央公民館付属図 書館。 橋本亀一(1939):『阿波の國言葉』国書刊行会。 ――(1976):『阿波言葉の辞典』小山助学館。 金沢浩生・仙波光明・岸江信介・石田祐子(2000):「神山町の 方言」『総合学術調査報告 神山町』阿波学会・徳島県立図 書館 金沢浩生・仙波光明・岩佐美紀・石田祐子(2001):「相生町の 方言」『総合学術調査報告 相生町』阿波学会・徳島県立図 書館 上那賀町誌編纂委員会編(1982):『上那賀町誌』上那賀町。 上分上山村誌編集委員会編(1978):『上分上山村誌』上分上山 村誌編集委員会。 神山町成人大学編集部編(1990):『神山の方言と言い伝え』神 山町教育委員会。 鴨島町(1940頃か):『鴨島読本』鴨島町。 川島信夫・森 重幸(1992):「半田町の方言」『総合学術調査 報告 半田町 阿波学会紀要 第38号』阿波学会・徳島県立 図書館。 木沢村誌編纂委員会編(1976) : 『木沢村誌』木沢村誌編纂委員会。 國見慶英(1999):『脇町の方言と語詞』國見慶英。 木屋平村史編集委員会編(1996):『木屋平村史』木屋平村。 216 西方村誌編集委員会(1983) : 『西方村誌』西方村誌編集委員会。 羽ノ浦町誌編纂委員会編(1995):『羽ノ浦町誌 民俗編』羽ノ 浦町。 半田町方言保存会編著(2005):『阿波半田の方言』半田町方言 保存会。 ふるさと佐那河内編集委員会編(1992):『ふるさと佐那河内』 佐那河内村。 森 重幸(1962):「分布図からみた徳島県の方言」阿波学会報 告会資料。 ――(1982):「徳島県の方言」『講座方言学11 方の方言』国書刊行会。 中国四国地 森本安市(1979):『たのしい阿波の方言』(阿波文庫7)南海 ブックス 西内滝三郎(1920):『一宇村誌』一宇村。 三木近太郎(1954):『古宮村誌』(稿本)古宮村郷土研究会 『美馬郡木屋平村の方言』 http://www.tcn.ne.jp/~nankai/hougenn.htm 『牟岐町の方言』 http://www.mugitown.jp/bunkzai/hogen/hogenfr.html 鷲敷町史編纂委員会編(1981):『鷲敷町史』鷲敷町
© Copyright 2024 Paperzz