あのダ・バ・ダ・バ・ダーとバッハの音楽をうたった「ジャズ・セバスチャン・バッハ」で一世を 風靡したスウィングル・シンガーズでリード・ヴォーカルをつとめていたのがクリスチャンヌ・ルグ ランである。スウィングル・シンガーズが真にユニークだったのは、単にバッハの音楽をジャズのリ ズムにのせてうたったからではなく、とりあげたのがバッハの、もともとはうたうために作曲されて はいない、器楽曲だったからである。余談ながら、クリスチャンヌはあのミシェル・ルグランの実姉 である。 そのクリスチャンヌ・ルグランがとんでもないことを考えた。スウィングル・シンガーズを脱退し て後の1976年のことである。 ジャズの世界には、これぞ名演奏というべき、ジャズ・ファンであれば誰もが一度は耳にしたこと のある演奏がある。そういった名演奏をクリスチャンヌ・ルグランによって結成されたヴォーカル・ グループ、クワイアは、バッハの音楽をうたった、あの方法でうたってしまった。このアルバムでぼ くらのきくのが、そのような破天荒な試みの、興味つきない結果である。 彼らがこのアルバムでうたっているのは、エロール・ガーナーの「ミスティ」、デューク・エリン トンの「A列車で行こう」、MJQの「ジャンゴ」、ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビー」 といった、いずれもお馴染みのジャズのスタンダード・ナンバーである。しかも、なんということだ、 彼らはそれぞれの歌唱のオリジナルになった演奏を、何年録音の演奏とはっきりいっている。つまり、 彼らはガーナーやエリントン、ビル・エヴァンスがピアノでひいている音を例のダ・バ・ダでうたっ ていることになる。 声楽的に、ほとんど超人的といっていいほどの至難のことをさらりとやってのけたあげく、クワイ アの面々はそれぞれの音楽から、これまで気づきにくかった魅力を浮びあがらせて大いに楽しませて くれる。このアルバムをきいてぼくらがおぼえるのは、超人的なおこないにふれたときに感じる、あ の痛快さである。 「シンギング・ジャズ・クラシックス」クワイア(RCA BVCM-37305) *グリーン・パル
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