11 月 5 日から 7 日まで、パリで恒例の Cartes が開かれました

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0223
Cartes 2002 & IT Security
先週、11 月 5 日から 7 日まで、パリで恒例の Cartes が開かれました。 今年か
らは会場を空港近くの見本市会場に移し、今までよりも大分ゆったりした雰囲気
となっています。 今回から名称が 「Cartes 2002 & IT Security」 と変
更されています。
そのせいかとも思われますが、カードやシステムのテストと、EMV や セキュ
リティなどの評価機関が目立ったように思われます。 EMV や Common
Criteria、ITSEC、そしてセキュリティ・コンサルティング などの言葉が、い
よいよ市民権を得た - その認証取得がデファクト・スタンダードになりつつ
あるといえるのかもしれません。
技術的にはやはりコンタクトレス・カードないしチップとバイオメタリクスが、
アプリケーションでは地元フランスが進めている Moneo 関連のものがかなり
目立ちました。
Moneo
Cartes に合わせ、11 月 5 日からパリとその周辺でもいよいよ Moneo のサービ
スが開始されました。 Moneo はドイツの GeldKarte をベースにしたフランス
の電子マネーです。 CB とは別に Moneo の推進団体 bms が設立されてお
り、大手銀行、国鉄、RATP(パリ近郊の公共交通機関)
、Post などが加盟して
います。
当初フランスでは、Mondex、 Moneo、 Modeus の 3 つの実証実験がなされてい
たのですが、Mondex は一国一代理店制度のため銀行が反発し、その間に
Moneo と Modeus (RATP などが開発していた交通決済用) が合併したた
め、かなり早い段階で、Moneo の普及が確実視されていました。
Moneo にロードできる金額は 100Euro までとなっており、GeldKarte の半分
です。 また、1 回当たりの最大支払額は 30Euro となっています。
(GeldKarte では、ロードされている金額まで可能です)
Moneo の特徴を幾つかあげると
* ハンドラーのターミナルでもロードできる
カード残高が 10Euro 以下になると、ハンドラーのターミナルが自動的にロー
ドするかどうかの質問をする。 顧客は PIN を入力することにより、ターミ
ナルはオンラインになり、1 回 30Euro だけ(その前後はなく、1ロード・ユ
ニットが 30Euro)ロードできる。
* カードは 2 種類、CB カードと兼用か、ホワイトカード(これはまだほとんど流
通していない)
。
* 銀行の Moneo 専用ターミナル(まだほとんど設置されていない)では、1
回で最高 100Euro までロードできる。
* ハンドラー用の Moneo 専用ターミナルは最低価格が 150Euro
* CB カード (デビットカードとクレジットカード) も使える兼用ターミナ
ルは 300Euro から
* Moneo 専用のハンドラー・ターミナルでは、GeldKarte のような確認ボタ
ンは押さない(トランスアクションが GeldKarte より早い)
これらの特徴は、簡単に言えば GeldKarte の頑丈な作りをフランス風に改め
た、もしくは本国における(昨年までの)不人気の原因をほとんど排除した、と
いうことができるかもしれません。 カードにロードするのに一々銀行にいかな
くても良い、これはイギリスの Switch (デビットカード)が行っていた、レ
ジでのキャッシュバック (1000 円の買い物で、2000 円払ったことにして、差額
の 1000 円を店のレジからもらう) に相当します。 そして一々ロードする金額
を押す必要がない - ターミナルにテンキーがいらないというのは、素晴らし
い知恵ではないかと思います。
またターミナルの値段、特に、小銭を取り扱う機会が多いパン屋やキオスク、肉
屋、カフェなど、所謂生活に密着した店は、小型のものが多く、150Euro の
Moneo ターミナルは、当初の GeldKarte ターミナル (1997 年)の 1/2 近く
の値段です。 さらに、ターミナルの裏蓋をはずすと、チップのスロットが 4-6
個ついており、チップを入れ替えたり、新たに装着することにより、複数のアプ
リケーションや異なるセキュリティ・レベルが実行できるようになっています。
このチップスロットは、一般的な GSM 携帯電話のチップとほぼ同じ大きさで
す。 ハンドラーに取って、そしてユーザーにとっても、非常によくできた仕組
みと言えます。
Moneo の係員によれば、まだそのカードの普及がフランスの人口の半分に遠く
及ばないのに、既に月間のトランスアクション回数は 200 万回を越えていると
のことです。 今回、パリ地域が入ることにより、Moneo はさらに大きな発展
を遂げる可能性があります。
因みに、新しい CB の Moneo 兼用キャッシュカードは、EMV を満たしてお
り、また Common Criteria の EAL4 も達成されています。
0223
Calypso / RATP
この春、JICSAP で訪問したパリの公共交通機関 RATP が、 Calypso (EU
加盟国を中心とした交通機関のコンタクトレスカード推進組織) として、大き
なブースを出していました。 これは、 RATP の役員が Calypso のチーフ
を勤めているためです。 RATP によれば既に 60 万枚のコンタクトレス年間定
期券が発行されているとのことです。
夕方 5 時すぎにパリ北駅の RATP の改札口で、実際どの程度コンタクトレス
定期券が使われているのか、チェックしてみました。 以前、4 月と 7 月に来たと
きは、時間帯のせいもあったためか、ほとんど見かけなかったのですが、今回は
確かに全体の 1-2 割近くのユーザーが、その定期券を使っているのを確認しま
した。
改札口を見ていると飽きることがありません。 新しいカード型定期券を財布か
ら出して、ポイントに何度もこすりつける人、タッチが早すぎて(音ではなくラ
ンプで認証するため)ターンバーが回らずぶつかる人、荷物を持って苦労する人
(ターンバーの先にさらに鉄の扉がありそれを押して開けなければなりませ
ん)
、そして二人一緒にターンバーを回す人(キセルです)
、さらには大体 2-30
人に一人ですが、入場口から逆に外に出て行く人(これもキセルです)等々、様
々なパリの風情です。
駅員がいるのですが、不正な入退場をする人に対して、注意もしなければ追いか
けもしません。 新しい定期券がうまく作動しない場合は、カードをちらっと見
て、
(多分その有効期限と本人の顔と写真を確かめている筈)すぐに自分のカー
ドでゲートを開けます。 原因の追求は一切行いません。 ターミナルも強
く、多少のことでは壊れないようです。
また、 パリの南にある Orly 空港とその近くの RATP の Antony 駅で、
ASK 社(この春、やはり JICSAP で訪問) の紙製のコンタクトレス・カードが
使われていると聞き、行ってきました。 この区間は、専用の無人の地下鉄が、
かなりの速度でノンストップで走ります。 しかし、残念ながらコンタクトレ
ス・カードは、使用が中止となっていました。
係員の話では、広報がまずかったため、客が新しいカードの使い方がわからず、
発行枚数の約 40% がトラブルになった、とのことでした。 何枚発行されたの
か不明ですが、すぐに元の切符に戻したそうです。 (このような融通のよさと
いうか、完璧でなくてもよいところがフランスらしい、とも言えます)
Cartes の会場でたまたま RATP の券売機を開けているところに出くわしまし
たが、上段に普通の切符、下段にロール状(1ロール千枚)のコンタクトレス片
道切符が置いてあり、とにかく準備ができていることは確認できました。 説明
によれば、切符をロール状にできるのは、画期的なことだそうです。
0225
Sesam-Vitale フランスの健康保険カード
昨年 JICSAP で Le Mans にある Sesam-Vitale の本部を訪問していま
す。 その時の話では、医師の加入が遅れていることが問題点としてあげられて
いましたが、法律の助けもあったせいか、最近ようやく認知が高まってきたよう
です。 2000 年度では、一般医師の 3 割前後しかカードを持っていなかった模様
ですが、現在では 約 7 割に達しているとのこと。 しかし、専門医の場合は、
加入率がまだ 5 割に達していません。
また、EU の補助金を受け、2 国間での健康保険カードの共通利用実験が行われ
ています。 フランスとベルギー(Transcards、 フランスの北部地方)、 及
びフランスとドイツ (Netlink、 アルザス地方) で、関係者によれば、うま
くいっているとのことです。
Transcards は、ベルギーとの国境地域の複数の病院が指定されており、そこで
は両国の健康保険カードを使えることになっています。
Netlink では、該当地域の糖尿病患者が、ドイツ側の指定された病院でも人工
透析を受けらるというものです。
Sesam-Vitale のシステムでは、医師は自分の持つプロフェッショナルカードと
患者のカードを同時にターミナルに入れ(デュアルスロット)、電子署名をつけ
て、健康保険組合に治療データを送ります。 そのための携帯用・ターミナル
が、多数出展されていました。
0226
Moscow の社会保険カード
モスクワで昨年秋から、主に年金生活者と学生を対象とした社会保険カードが、
実験段階ですが、スタートしています。 現在はまだ磁気ストライプだけです
が、 将来的にはハイブリッドカードに移行することが計画されています。
モスクワでは、年金生活者は国や市からの様々なディスカウントがあるため、
1 ヶ月約 50 ドル程度で生活できようになっており、 実際、年金の支給額もその
程度とのことです。 従って当面磁気カードでも、セキュリティ上の問題はな
い、とされています。つまり犯罪者達は、年金生活のお年寄りや貧乏学生のカー
ドにはタッチしないということが、彼等の間で暗黙の了解事項となっているよう
です。 現在のところ偽造カードなどの被害はまったく無いとのことです。
このカードは、 例えば地下鉄の乗車券の割引や種々の社会保障を受ける際の
ID カード、そして年金を引き出す際の ATM キャッシュカードにもなっています。
モスクワの Rosan 社がカードやシステムを製造・構築しています。
www.rosan.ru
モスクワ市、同市交通局、そして Bank of Moscow などがこのシステムをサ
ポートしています。 現在約 50 万枚の社会保険カード兼市民カードが発行さ
れています。
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Europay / MasterCard
毎年大きな看板を掲げていた Europay がなくなり、今年は MasterCard の
名前だけになりました。 しかし、説明要員は、例年どうりほとんどが
Europay の方でした。 EMV チップカードを (Europay の) 加盟銀行に
使ってもらうわけですが、今回は、かなりインターネット・ペイメント (エレ
クトロニック・コマース) を意識したものでした。
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Sony / Infineon が Sesame Award 受賞
両者の開発によるチップが、今年の Cartes Sesame Award の The Best
Technological Innovation を受賞しました。 Felica のチップです。
EAL5+ と Visa Level 3 の取得が計画されている、と書かれていますの
が、この公約が達成されてから賞をあげてもよかったのではと思われます。
7. ASK 社、 Sesame Award の輸送部門で受賞
先に述べた RATP の Antony 駅と Orly 空港の間で使うコンタクトレスの
紙製の切符 (5 分間の乗車で 7Euro と、地下鉄の市内区間の約 3 倍の高さで
す) が Transportation 部門で Sesame Award を受賞しました。 残念
ながら実物を入手できませんでしたが。 パリで紙のコンタクトレス切符が本
格的に投入されるのは、2005 年の予定です。
以上