日本人で初めて「米国歯周病学会賞」を受賞

−発表資料−
2011年9月20日
「歯周病とメタボリックシンドロームとの関連性」研究実績により
日本人で初めて「米国歯周病学会賞」を受賞
と
よ
こ
公益財団法人ライオン歯科衛生研究所(理事長・藤重 貞慶、以下LDH)の森田十 誉子 研
究員ら ※ 1 は、日本大学歯学部衛生学教室 前野正夫教授と共同で行った「歯周病とメタボ
リックシンドロームとの関連性」を示した研究 ※ 2 により、このたび2011年 American
Academy of Periodontology(米国歯周病学会)の Clinical Research Award(臨床研究賞)
を受賞しました。本研究は、歯周病を予防することが、メタボリックシンドロームの予防
につながることを独自の手法で解明したものです。今回の受賞は、日本人初の受賞であり、
本研究内容の新規性、独創性および社会的重要性などが高く評価されたものと考えており
ます。受賞式は、2011年11月14日、米国歯周病学会年次総会(米国マイアミ市、
マイアミビーチコンベンションセンター)にて執り行われます。
※1
※2
(公財)ライオン歯科衛生 研究所
森田十 誉子、山崎洋治 、三田理絵、高 田康二
ライオン(株)健 康管理室
瀬 戸美才、西埜植 規秀
東京医科歯科大 学大学院医歯学 総合研究科 佐 々木好幸
日本大学歯学部 衛生学教室
本 橋正史、前野正 夫
対象論文:Journal of Periodontology. 81: 512-519. 2010
タイトル:A cohort Study on the association between periodontal disease and the development of metabolic
syndrome(歯周病とメタボリッ クシンドローム 発症との関連性 に関するコホー ト研究)
LDHの概要と今回の受賞について
ライオンは、「企業活動で得た利益を社会に還元する」という理念の基に、1913 年からオ
ーラルケアの普及・啓発活動を行ってまいりました。1964 年に財団法人ライオン歯科衛生
研究所が設立され、口腔保健の研究と普及を推進し、2010 年 10 月からは公益財団法人とし
て新たにスタートいたしました。LDHは、「すべての健康は口から始まる」という考えに
基づき、乳幼児から高齢者まで、すべてのライフステージに対して予防意識を高め、良い習
慣を提案し、その実践と定着に努めています。口腔保健活動では、それぞれのライフステー
ジにおける口腔保健のテーマに応じた普及啓発を行い、調査研究活動では口腔保健活動、診
療活動から得られた成果を専門家や生活者に情報発信しています。
今回の研究は、2002 年から 2006 年にわたり、東京に本社がある企業の協力のもと、従業
員を対象に、メタボリックシンドロームの指標となる肥満(BMI)・血圧・脂質・血糖値と、
歯周病の判定基準となるCPIを調査し、統計学的解析を行いました。その結果、「歯周病」
と「メタボリックシンドローム」には関連性があることを明らかにするとともに、歯周病の
予防がメタボリックシンドローム発症の予防につながる可能性を見出しました(詳細は参考
資料参照)
<米国歯周病学会・臨床研究賞について>
米国歯周病学会は、1914 年に設立され、8,000 人以上の歯周病の専門
家が所属する世界的権威をもつ学会です。学会賞は、6つの部門によ
って構成されており、その中で「臨床研究賞」は、毎年その年に発表
された歯周病関連の主な学術雑誌の中から、最も優秀と認められた研
究論文に対して与えられる権威ある賞です。
(公財)ライオン歯科衛生研究所は、今後も“口腔から全身の健康を科学する研究”を続けて
まいります。
以上
<問い合わせ窓口>
(公財)ライオン歯科衛生研究所 統括部 03−3626−6490
(参考資料) 研究結果概要
「歯周病とメタボリックシンドロームとの関連性」
調査は、24∼60 歳の有職者の男性 2028 名、女性 450 名、計 2,478 名を対象とし、メタ
ボリックシンドローム指標となる肥満 * 1 ・血圧 * 1 ・脂質 * 1 ・血糖値 * 1 の各項目と、歯
周病の判定基準となるCPI * 2 を測定し、相互の関連性を解析しました。
*1 本研究でメタボリックシ ンドローム項目 が陽性に該当す る数値は、肥満 ;BMI(body mass index) 25 以上、血
圧;収縮期血圧 130 mmHg 以上/または拡張期血圧 85 mmHg 以上、脂質;ト リグリセリド 150 mg/dL 以上/ま
たは HDL コレステロール 40 mg/dL 未満、血糖値;空腹時血糖 値 110 mg/dL 以上
*2 CPI(community periodontal index)は、歯周疾患状態を 示す指標。“歯周ポケットあり ”とするのは、 CPI の
診査基準で、代 表歯(10 歯)において歯周ポケ ット 4mm 以上が 1 本以上
この結果、メタボリックシンドローム指標が陽性になっている人は、歯周ポケットあり
の人の割合が明らかに高いことがわかりました。
(Morita T et al: J Public Health Dent. 69: 248-253, 2009)
「歯周病予防がメタボリックシンドローム発症の予防につながる」
(受賞対象論文)
さらに、初回健診でメタボリックシンドローム指標が全て基準値内と診断された 20∼56
歳の有職者の男性 727 名、女性 296 名、計 1,023 名を対象とし、4年後の健診結果を追
跡調査して、歯周病の有無とメタボリックシンドローム発症との関連性について解析し
ました。
4 年後のメタボリックシンドローム指標の状況と初年度の歯周病の状況との関連性
4年後の状況(オッズ比 ★ )
初年度の歯周病の状況
歯周ポケット
なし
あり
陽性数
1
陽性数
2以上
1
1.4
1
2.2*
肥満
1
1.7
高血圧
1
1.5*
脂質
異常
1
1.9*
高血糖
1
1.4
注:年齢 、性別および生 活習慣で調整
*印の項目は 危険率5%未満 で有意
★「オッズ比」 について
オ ッ ズ 比 と は 、「 歯 周 ポ ケ ッ ト な し 」 の グ ル ー プ に お け る 、 各 指 標 の 陽 性 該 当 者 の 割 合 を 1 と し た と き に 、「歯
周ポケットあり 」のグループの 各指標の陽性該 当者の割合が何 倍になるかを示 した値です。
その結果、以下の2点が確認できました。
・初年度に「歯周ポケットあり」とされたグループは、「歯周ポケットなし」のグループ
に比べて、4年後にメタボリックシンドローム指標が2項目以上、陽性になっている
人の割合が有意に高い
・各メタボリックシンドローム指標の中では、「歯周ポケットあり」のグループは、4
年後に「高血圧」と「脂質異常」に該当する割合が、「歯周ポケットなし」のグルー
プに比較して有意に高い
これらのことから、歯周ポケットを持つ人は、現在は健康でも数年後にメタボリックシ
ンドロームを発症するリスクが高いと考えられること、すなわち「歯周病予防」が「メ
タボリックシンドローム発症予防」につながる可能性があることが示唆されました。
(Morita T et al: J Periodontol. 81: 512-519, 2010)