タコマ港 タコマ港

特 集 3 タコマ港
特集 3
タコマ港
だし、西岸平均で約 8 %のマイナスとなっ
西岸各港の取扱量減少
高効率インターモーダル施設で船社誘致
川崎汽船寄港開始から 20 周年迎える
ている点を考慮すれば善戦しているといえ
よう。
西岸各港の 2007 年コンテナ取扱量は、
アジア/米国東航荷動きの減速を受けて
タコマ港の最大のトレード相手国・地域
(金額ベース)
は、中国・香港が最大で 130
ほとんどの港が減少ないし横ばいとなっ
億 6000 万米㌦(約 1 兆 2200 億円)、以下、
た。サブプライムローン問題を背景に、米
日本(103 億 9000 万米㌦= 1 兆 2200 億
国の住宅関連貨物やその他消費財の輸
円)、アラスカ
(35 億米㌦=約 3 億 2600 万
入が昨年第 2 四半期から急激した。この
円)、台湾(34 億米㌦=約 3 億 1700 万円)
ため、南西岸地域(PSW)、PNWとも、西
―と続く。
貨物の取り扱いを開始した 80 年代には)
タ
岸全体で取扱量が伸び悩んだ。7 港合計
の取扱量は 06 年実績をわずかながら下回
80 年代からコンテナ取り扱い本格化
08 年上半期コンテナ取扱量は、アジア発
タコマ港が開港したのは 1918 年。今年
近くまでに成長した。ハスキーターミナルの
米国向け東航荷動きの低迷により、カナダ・
で 90 周年を迎える。コンテナ貨物の取り扱
取扱量も83 年の開業当初から3 倍に増え
バンクーバー港を除く米国 6 港すべてが減
いがスタートしたのは 60 年代までさかのぼ
た」
と強調。
少した。07 年同様、米国の住宅市況の低
るが、定航船社が専用のターミナルを設け
川崎汽船の前川弘幸社長は「過去 25 年
迷、消費鈍化を背景に輸入貨物が減少し
て、本格的に寄港を開始したのは 80 年代
の間、川崎汽船は太平洋航路におけるコ
た。一方、バルク市況の高騰で米国発アジ
に入ってから。
ンテナ取扱量を着々と伸ばしてきた。タコ
ア向けの穀物やヘイ、製材など在来貨物
邦船社の中で、最初にタコマ港の先見性
のコンテナ化が進み、さらにドル安と相まっ
に目を付け、同港の利用をスタートした川
モーダル貨物を取り扱う主要拠点であり、
て輸出貨物の取扱量は港によって 20 ∼
崎汽船は、寄港開始から今年で 20 周年を
ハスキーターミナルで取り扱うインターモー
迎えた。ちなみに、同社の米国ターミナル
ダル貨物の量は全貨物の 70 ∼ 80 %に達
の高まりで、各港とも空コンテナの取扱量が
事 業 会 社 、ITS( International Trans-
する」
と指摘。さらに「タコマ港でわが社の
急減している。
portation Service)がクーパー・T・スミス
サービスはアドバンテージを有している。そ
05 年以降、タコマ港では、年間のコンテ
社と折半出資で、タコマ港で専用ターミナ
れは、タコマ港湾局の運営する効率的で迅
ナ取扱量が 200 万 TEU を突破していた。
ルを運営するハスキー社を設立してから、
速な鉄道サービスによるところが大きい」
と
しかし、昨年は 06 年実績を 5.2 %割り込
25 周年の節目の年となる。これを記念し、
述べた。
み、195 万 9000TEUと200 万 TEUを若干
9 月下旬に、タコマ市内のホテルでパーテ
ながらも下回った。08 年も1 ∼ 8 月までの
ィーが開催された。
の鉄道施設整備をはじめインターモーダル施設の充実を挙げる。また、今年は川崎汽船が同港への寄
港を開始してから 20 周年、専用ターミナルを運営する合弁会社、ハスキーターミナル・アンド・ステベ
ドアリング(ハスキー社)の設立 25 周年という節目を迎えた。
(西 拓也)
主要なコンテナターミナルは、前述のハス
キーターミナルのほか、マースクラインが寄
(約 13.4ha)
に拡張された後、05 年
エーカー
港するAPMターミナル、エバーグリーンラ
4,000
に現在のターミナル 4に移転。ターミナル面
インのピアース・カウンティ
・ターミナル
(PCT)
、
3,500
まで拡大してい
(約 37.6ha)
積も93 エーカー
現代商船のワシントン・ユナイテッド・ターミ
る」
と振り返った。同氏はまた、
「タコマ港湾
ナル
(WUT)
、ヤンミンのオリンピック・コンテ
2,000
局による協力、
(タコマ鉄道など)効率的な
ナ・ターミナル(OCT)の 5 つ。特に、95 年
1,500
インターモーダル施設の供与を受け、顧客
に開業した PCT のターミナル面積は 141 エ
1,000
に質の高いサービスを提供できている」
と
ーカー(約 57.1ha)
に達し、専用ターミナル
謝意を示した。
の中で最大の規模を誇り、さらなる拡張オ
3,000
2,500
500
0
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
(年)
注:08 年以降は見通し
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CARGO NOVEMBER 2008
ITS の河又史社長は「タコマのハスキー
面積でスタートした。それから3 倍弱の 33
(千TEU)
4,500
社の数は、米国内航船 2 社を含め 9 社に増える。同港利用の理由について、各社は効率的なオンドック
邦船 3 社がタコマ利用開始へ
ターミナルは当初、13 エーカー
(約 5.3ha)
の
グラフ タコマ港におけるコンテナ取扱量推移
年に専用ターミナルの稼働を予定する日本郵船が同港への寄港を開始すれば、同港へ寄港する定航船
マ港は、
(米内陸部などに向かう)
インター
25 %増と急増した。また、輸出貨物の需要
実績で前年同期を1.7 %下回っている。た
今年に入り、商船三井が同じアライアンスのメンバー、現代商船の専用ターミナルへの寄港を開始。2012
コマ港のコンテナ取扱量は年間 13 万 TEU
程度だったのに対し、現在は 200 万 TEU
った。
米国北西岸地域(PNW)を代表する港の 1 つ、タコマ港に寄港する定期コンテナ船社が拡大している。
記念パーティにて、右から川崎汽船・前川社長、タコマ
港湾局・ファレル局長、ITS・河又社長。
河又氏に続き、あいさつしたタコマ港湾
プションを持つ。同ターミナルを運営するポ
局のティモシー・ファレル局長は「
(コンテナ
ーツアメリカのマーク・ミラー・ターミナルマネ
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特 集 3 タコマ港
Special
SpecialInterview
Interview
ITS
河又史社長
以前からタコマ港の将来性に注目
川崎汽船の米国ターミナル会社、ITS(International Transportation Service)の河又史(かわま
た・ふみと)社長は本誌のインタビューに応じ、米国におけるコンテナターミナル事業、また、今年で
開業 25 周年を迎えたタコマ港の専用ターミナル運営会社、ハスキーターミナル社などについて語っ
た。今後、米国でターミナル事業を展開していく上で、東岸にも専用ターミナルを確保したいとの考
えを明らかにした。タコマ港については、
「コンテナの創成期から北ではタコマのコンテナ港として
の将来性を高く買っていた」とし、その理由を「天然の良港であると同時に中西部へつながる鉄道の
ネットワークに目を付けていたからだ」と説明した。インタビューの内容は下記のとおり。
効率的なインターモーダル施設は同港の大きな武器
ージャーは「最新鋭の荷役機器と、ヤード
ンミンがそれぞれ利用している。その後、
5000 回で翌年が 4 万 5000 回、その後は毎
に隣接するオンドック鉄道施設のピアーズ・
整備された「サウス・インターモーダル・ヤー
年 5 %ずつ引き上げる。
インターモーダル・ヤードを組み合わせるこ
ド」は現在、APMT の利用者、マースクが
とにより、特に米国内陸部に向かうインター
活用している。さらに、現代商船の WUT
モーダル貨物の取り扱いで、強みを発揮す
に隣接するヒュンダイ・インターモーダル・ヤ
る」
と説明する。
ード、前述のエバーグリーンのピアーズ・イ
米国内陸部発着のインターモーダル貨物
なお、昨年 7 月には、日本郵船がタコマ
ンターモーダル・ヤードなど、各ターミナルに
が大部分を占める同港において、今後の
港のブレア水道東側に自営のコンテナター
隣接するオンドックの鉄道施設が用意され
ミナルを確保すると発表した。米国タコマ
ている。
ローカル貨物の取り扱い拡大を
─本誌 ITS にとってタコマ港、および自営
かな雰囲気の集まりになりました。外資系ターミナ
たのが実態です。ターミナルは船と違って動かす
ターミナル、ハスキーターミナルはどのように
ルとしての開業にあたっては私どもの先輩たちの大
ことができないため、コンソーシアムと全く同じ手
位置付けられていますか。
変な苦労があったのですが、それがここまで大きく
法を適用するには限界がありますが、資本提携ま
北米西岸の 2 大ゲ−トポートの 1 つ、という位置
なり無事に四半世紀の節目を迎えることができ、み
でを視野に入れればいろいろな協調のあり方が考
付けはいささかも変わっていません。当社はコンテ
なさんにそれなりの感懐がおありだったろうと思い
えられます。ターミナル間の新しい提携関係を構
ナサービスの創成期から北ではタコマのコンテナ
ます。先輩たちのタコマを選択した慧眼とその後の
築するようかじの方向を変えるときに来ていると認
港としての将来性を高く買っていました。天然の良
努力に敬服しています。
識しています。
けいがん
港であると同時に中西部へつながる鉄道のネット
タコマ港とはこの 25 年の歴史の中で、極めて親
─本誌 世界経済不況が米国におけるター
ワークに目を付けていたからです。もう一方のカリ
密な信頼関係を築くことができました。タコマ港は
ミナル事業に与える影響、今後の見通しをうか
フォルニアは、ご承知のように開発余地がほとんど
18 年の開港で今年が 90 年の節目に当たります。
がいたい。
限界に来ていて、環境問題がたいへんに厳しくな
私どもの母体である川崎汽船はそれより1 年遅い
今年、北米のコンテナ輸入(東航)量は通年で2
って来ています。どんなに優れたタ−ミナルであっ
19 年の創立で来年 90 周年を迎えます。気心が通
ケタのマイナス成長を記録することは間違いない
課題の 1 つはローカル貨物の取り扱い強化
ても、荷主さんが求めるサ−ビスの多様性という意
じているのは 1 年違いの兄弟のように育った時代
でしょう。北米に入って来るコンテナ貨物の大体
である。人口増加予測の数字、タコマ近郊
味でも、あるいは物流のリスクマネジメントという意
が同じせいであることも預かっているのかなと思っ
20 %は住宅に関連するもので、北米の住宅問題が
味でも、一局集中というわけには行きません。タコ
ています。
底を打って反転に向かい、物量の本格的な回復に
タコマ港に隣接するBNSF 鉄道、ユニオ
からアジア向けに穀物輸出が拡大している
マ港は大きな市街地に近接していないので、地元
─本誌 ITSが今後、米国でターミナル事業
至るまでには時間がかかると見ています。現在北米
借り受ける契約をタコマ港湾局と結んだ。
ン・パシフィック
(UP)鉄道の鉄道基地と、各
点で、ローカル貨物の取り扱いは今後、拡
の住民のみなさんの生活環境に大きな影響を与え
を展開していく上での課題または新たに取り組
の住宅価格はピークのときから約 20 %下落してい
自営 CTは総面積 68 万㎡(168 エーカー)
、
オンドック鉄道施設との間は、タコマ鉄道で
大する可能性が高い。
ることなく、メガポ−トとしてコンテナ物流を担うこ
もうと考えているビジネスについて聞かせてく
ますが、さらにもっと下がってからでないと底を打た
とができる米国の最良の港の 1 つだと思います。
ださい。
ないのではないでしょうか。住宅資金を供給する金
で 12 年に開業を予定する新 CTを25 年間
岸壁延長 731.5m(約 2400 フィート)、水深
結ばれる。
さらに、タコマ近郊に大手小売業者らを
15.5m(約 51フィート)。新 CT にはオンドッ
今年 10 月、タコマ港湾局は、UP 鉄道に
中心に物流施設を開設する動きが加速し
ハスキータ−ミナルは ITSにとって、というより川
北米西岸は現在ある3 つの拠点を質量ともに拡
融機関の信用不安問題が沈静化するための時間
崎汽船グループ全体にとっての北米コンテナ物流
充して行きたいですね。メキシコが米国の大型ゲー
も考えると09 年が底で 10 年から徐々に戻ってい
ク鉄道施設を設ける予定で、ターミナル総
対して同港のインターモーダルヤードの一部
ている。関係者によると、これまでこうした
の重要な戦略拠点であり続けています。作業の生
トポートとして機能するまでには、ターミナル施設だ
くのでしょう。北米のターミナル事業の業績は米国
産性が高く、隣接しているオンドックのレイルヤ−
けではなく、鉄道や道路というインフラの整備が必
に来るコンテナの物量に連動すると言って良いの
ド(ノース・インターモーダル・ヤード)との連携もう
要で、それにはまだまだ時間が掛かるだろうとみて
で今年、来年とも厳しい年回りになるだと思います。
まく行っています。コンテナの荷動きは短期的には
います。
面積のうち、9.7 万㎡(24 エーカー)が同施
をリースする方針を明らかにした。UP 鉄道
物流施設は、シアトル近郊で開設する例が
設に充てられる。荷役機器は、22 列対応
が、現在シアトルのインターモーダルヤード
多かった。しかし、最近ではシアトル近郊
のガントリークレーン8 基を配備する。同社
で取り扱っている国内貨物をタコマ港のサ
における交通渋滞の発生、地価の高騰な
の 100 %出資で設立する「Yusen Termi-
ウス・インターモーダル・ヤードに移転、年内
どを受け、ワシントン州南部、タコマ港の近
nal Tacoma Inc.」 がターミナルを運営。
に稼働させる、という内容だ。
郊にこうした物流拠点が開設されるケース
郵船の進出決定により、邦船 3 社がタコマ
港の利用を開始することになる。
全ターミナルにオンドック鉄道施設
イナス成長を記録する見込みで、北米西岸のタ−
太平洋経由で北米東岸に寄港を始めるのは時間
たるものなので、市況が悪化した場合には現在の
ミナルのキャパシティーが不足するというこれまで
の問題になっています。またカーゴソースも徐々に
ような設備投資リスクが発生しますが、北米西岸タ
ーミナルの需給は中長期的には必ず均衡します。
あった懸念は一段落しています。景気が回復し物
が目立つようになった。ホームデポやター
量が戻ってくる時までに受け入れ側として何をして
エズ運河を経由する北米向けの物流は成長を続
むしろ、ほんの 2 年程前までは、北米西岸ターミナ
ヤードの施設稼働率を高めることができ、
ゲットストア、ピア・ワン・インポートなど大手
おくべきかが喫緊の課題でしょうね。
けて行くでしょうから、北米東岸にも拠点を設けた
ルの処理能力不足が目の前の最大の問題であっ
一方で UP 鉄道はシアトルでインターモーダ
小売業者が物流拠点を開設済みで、今年
─本誌 25 周年を迎えたハスキーターミナ
いですね。現在大まかに言うと北米西岸 7に対し
たことを忘れるべきではありません。
ル、およびタコマ港に対してコメントをいただけ
て北米東岸は 3くらいですが、この利用比重が早
ル貨物を取り扱うスペースを拡大すること
9 月には、スウェーデンの大手家具店イケア
ますか。
晩変わっていき多様化していくのだと思います。北
これにより、タコマ港はインターモーダル
がタコマ港湾局の所有するフレデリクソン
同港の最大の特徴は、オンドックの鉄道
リース契約は 5 年間プラス1 年間の延長
工業団地に 100 万平方フィート
(約 9.3ha)
に
施設の整備が進んでいる点。81 年に米国
オプションで、UP 鉄道は当初は 10 エーカ
で最初のオンドック鉄道施設、
「ノース・イン
ー(約 4ha)、最終的には 25 エーカー(約
おかげさまでハスキーターミナルはこの7月15日
に開業 25 周年を迎えることができました。北米西
米東岸は拡張・開発計画が目白押しですからチャ
ンスは十分あると思っています。
およぶ最新鋭のディストリビューション・セン
岸の北部では外国系のコンテナターミナルとしては
コンテナ船社はご存知のようにコンソーシアム
ハスキーが第 1 号になるんです。この 9 月にはタコ
を組む戦略が一般化して十数年を経過しましたが、
ターを開設した。これら大手荷主の物流セ
マでささやかながら25 周年開業記念式典を開きま
今後もその形態が残るのでしょう。これまで北米西
ンター向けに中国などから商品の出荷が
した。幸い開業に携わったわれわれの先輩たちや、
岸のコンテナターミナルには、専業会社系に加え
当時からご縁のある方々を合わせて100 人以上の
船社系が進出してきましたが、船社系は基本的に
来賓にお越しいただき、まるで同窓会のような和や
は 1 船社 1ターミナルという色付きで営業をして来
ターモーダル・ヤード」が整備された。同鉄
を借り受ける。貨物取扱量につい
10.1ha)
道施設はハスキーターミナルを利用する川
てはあらかじめミニマムギャランティーが設
拡大すれば、ローカル貨物は今後、拡大す
崎汽船、OCT にサービス船を寄港するヤ
定されており、最初の 1 年間は年間 3 万
る公算が大きい。
CARGO NOVEMBER 2008
浮き沈みがあり、ご存知のとおり今年は通年でマ
ではありません。ターミナル事業は装置産業の最
中国から、もっと南や西に拡大しつつ移って行きス
が可能となり、双方の思惑が一致した。
70
とはいっても、いたずらに悲観ばかりしているわけ
パナマ運河の拡張計画も進んでいて大型船が
ハスキー社の外観
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