平成 23 年度事業報告

平成 23 年度事業報告
1.研究に関する業務
1)育種業務
果菜類4品目について下記のとおり育種を継続した。また夏期の高温、冬期の省エネルギ
ー、年間を通じた気候変動の激化に対応するための検討を行った。
トマト:施設栽培に適応した普通種及び小玉種の育成、及び病害抵抗性台木品種の育成を
継続した。単為結果性、雄性不稔性等を利用し、栽培面・採種面での省力化を検討しながら、
高品質、多収、耐裂果性で葉かび病、黄化葉巻病をはじめ各種病虫害抵抗性を有する品種
の育成を行った。食味に関しては果実糖度以外に硬度や食感等を調査に加え選抜した。効
率的な選抜のため栽培調査の改良やDNAマーカーの利用を検討した。その結果小玉種に
おいて有望な系統を得ることができた。葉かび病抵抗性普通・小玉種、黄化葉巻病抵抗性
中玉種の試交F1 の採種及び試作を行った。配布品種の原々種採種を行った。
ピーマン:完熟果収穫(カラー)品種は、既発表品種「L3 シグナル」の生育初期の奇形を減ら
すことを目標とし、親系統の改良を行った。この結果、黄色品種については、その奇形が比
較的低頻度で軽微な系統を得ることができた。土壌伝染性病害抵抗性台木品種は、青枯病
高知須崎株抵抗性と PMMoV(P1.2.3)抵抗性(L4)を持つことを目標とした。この結果、両抵抗
性を持った有望な系統を得ることができた。また試交 F1 の採種および試作を行った。配布中
品種の原々種採種を行った。
メロン:一般的な栽培技術で安定した収量と品質が得られることを、また果実形質としてはこ
れまでの高品質を保ちながら、果色部分の厚さ、可食期間の長さ、特徴的な外観などを、巻
きひげの無い品種、赤肉品種、土壌病害に複合抵抗性を有する品種などにおいて検討した。
巻きひげの無い品種の育成では、有望な系統を得ることができた。土壌病害に複合抵抗性
を有する台木品種の育成では、各種土壌病害に抵抗性(耐病性)を有する有望な組合せを
得ることができ、品種発表に向けてテスト採種および抵抗性検定を行いその経済性や実用
性を確認した。配布中品種の原々種の更新、増殖を行った。
カボチャ:黒皮系及び赤皮系において、集約栽培及び粗放栽培にそれぞれ適応した品種の
育成を行った。果実特性としては低温寡日照下でも雌花着生および花粉活性が安定して着
果が良いこと、収穫後貯蔵しても果皮色が変わりにくく、肉質が安定していること。また栽培
面では、多湿環境下でも発芽が安定し、うどんこ病に罹病しにくいことなどについて検討した。
また、採種量と種子品質についても検討し、試交 F1 の採種および試作を行い結果は良好だ
った。配布中品種の原種採種、導入素材の継代採種を行った。
2)研究開発に関する業務
(1) ピーマンの種子伝染性ウイルス病に関する研究
ピーマンの種子伝染ウイルス病について、種子成熟過程および汚染種子から発芽した実
生におけるウイルスの局在性を免疫組織学的方法で調査した。その結果、ウイルスは種子
成熟に伴って種子親の胎座から種皮および柔組織に感染するが内胚乳および胚には感染
しないこと、ウイルスに感染した種子から実生への伝染経路の一つは子葉であることを、視
覚的に世界で初めて明らにした。
(2) メロンの果実内発芽に関する研究
メロンの果実内発芽と施肥の関係を調査し、硝酸態窒素施肥量の増加またはカリウム施
肥量の減少により、果汁中のアブシジン酸(ABA)含量が減少し、その結果として果実内発
芽が増加することを明らかにした。また、果実内発芽し易い系統の果汁中の ABA 含量が低
いこと、果実内発芽し難い系統は、低い ABA 濃度閾値で発芽抑制があらわれることを明ら
かにした。
(3) 低濃度エタノールによる新規土壌消毒法に関する研究
土壌還元消毒の作用機作を解明する目的で、処理過程で生じる金属イオンや有機 酸等
の濃度の推移を調査するとともに、それらがトマト萎凋病菌、かいよう病菌、青枯病菌の生
存に与える影響を評価した。その結果、Fe2+および Mn2+では実際の処理土壌で検出される
濃度帯において、対象とした病原菌に対して高い生存抑制効を示すことを発見した。本成果
は、還元消毒の作用機作の解明に大きく貢献するものである。
(4) シシトウ果皮細胞の倍数性に関する研究
2、3、4 倍体シシトウの果実サイズと果皮細胞の核内倍加の頻度を調査した。3、4 倍体シ
シトウの果実は、2 倍体と比較し、果実サイズが小さく、また、果皮細胞の核内倍加の頻度
は倍数体にかかわらず一定であった。シシトウ果皮細胞の核内倍加の頻度は、果実サイズ
や倍数体にかかわらず遺伝的に制御されている可能性があることが示唆された。
2.普及に関する業務
1)種子の生産・配布
品種改良に関する研究の成果として育成された品種を普及するため、前年の結果をふまえて、
種子の生産・配布を継続事業として実施した。生産した種子は、5 種(トマト、メロン、ピーマン、カ
ボチャ、エンドウ)テスト採種 1 品種を含め 23 品種の生産を計画し、所内外において実施した。メ
ロン、ピーマン、カボチャは天候に影響で全体的に不作、トマト、エンドウは平年作であった。
また、メロン台木新品種 1 点とカラーピーマン新品種3 点、ミニトマト新品種1 点を配布開始し、
配布取り扱い品種は、キュウリ、エンドウを加え 6 種 56 品種となった。
メロン、カボチャ種子はBFB(果実汚斑細菌病)検査を米国の第三者機関(STA)に依頼して
いる。検査結果はすべて陰性であった。
メロン種子の採種においては、土壌病害対策として引き続き、接木栽培を現地と協力しながら
行い、採種圃場の清浄に努めている。種子の大半は安全性を配慮し、乾熱処理してから配布し
ている。またその他種子伝染性病害についても、原種から一貫した衛生管理に心がけ清浄な種
子生産に努め、検査体制の充実にも努めている。配布取扱い品種は次の 56 品種である。
ト マ ト:ゆうやけB,ゆうばえ,ネネ,ドルチェ,健助,CFネネ,CFドルチェ,プラレ(8 点)
ピーマン:にしき,ちぐさ,下総 S,下総 53,あきの,園研甘長,みはた 2 号,さらら,みおぎ,
L4 みおぎ,TSR みおぎ,みおぎグリーン,台助,L3 シグナル赤,L3 シグナル黄,
L3 シグナル橙(16 点)
メ ロ ン:アムス,台木二号,デリシイ L,グリム,ビレンス,タカミ,ユウカ,FRアムス,アムス2号,
ホノカ,FRユウカ,台木3号,ミイナ,新FRアムス,FR012 アムス,TL タカミ,タカミ A,
ツートンタカミ,タカミレッド,ミドリシマ,EM1016(21 点)
カボチャ:みやこ,赤ずきん二号,よしみ,イーテイ,ケント,イーテイ2号,らいふく(7 点)
キュウリ:せいろう,プリッコ,ポリッシ(3 点)
エンドウ:園研大莢(1 点)
2)講習会、説明会等への講師派遣
当所の扱う園芸作物の栽培技術や当所育成品種の講習説明会に全国各地へ所員を派
遣した。延べ 212 か所で行い、県別の派遣回数、説明参加数は以下の通りである。
県 別 派遣回数 会場数 参加人数 県 別 派遣回数 会場数 参加人数 県 別 派遣回数 会場数 参加人数
北海道
8
61
255 富 山
1
1
40 佐 賀
1
1
16
青 森
3
4
125 静 岡
3
27
29 長 崎
1
1
33
岩 手
2
2
165 滋 賀
1
3
32 熊 本
4
8
72
秋 田
2
4
39 鳥 取
1
7
48 大 分
2
6
100
福 島
4
16
379 島 根
3
10
137 宮 崎
6
13
238
茨 城
3
3
115 広 島
1
4
20 沖 縄
4
17
127
栃 木
3
4
23 愛 媛
2
5
73
千 葉
10
13
433 徳 島
1
2
37
(県別 延べ派遣回数 66 延べ説明会場数 212 延べ参加人数 2,536 名)
3.教育・研修に関する業務
1)学会・研究会への参加
国内で開催された園芸学会、日本植物病理学会、関東東山病害虫研究会、植物学会、植
物生理学会、植物細胞分子生物学会等の学会 40 回に 69 人が参加した。
2)研修会の開催
農業者や一般消費者から問い合わせが多い「放射能と健康」問題について、所員が正し
い知識を習得し対応できるよう、1月 23 日、全職員を対象とした「放射性物質による農地・農
作物の汚染と健康への影響」の講演会と、放射線測定器の取り扱い講習会を実施した。
3)研修生の教育
長期研修生 1 名(滋賀県)(終了)(期間 2010.1.5~2011.2.29)
長期研修生 1 名(沖縄県)(継続)(期間 2011.2.1~2012.5.31)を受け入れ、所内講義・
実習を行った。
4.情報公開・社会活動に関する業務
1)オープンデイの開催 第 9 回
6 月 17 日(金)、18 日(土)の 2 日間開催し、初日(農園芸関係者対象)196 名、2 日目(一
般市民対象)140 名の参加があり、2 日間で 336 名の参加があった。
野菜の品種解説、研究成果の発表、栽培圃場の公開を行った。宇宙カボチャの展示、植
物病原菌や病害虫の観察、サイエンス・パートナーシップ・プログラムに参加した高校生の展
示などが好評であった。同時開催の第 17 回園芸技術講演会には約 100 名の参加があった。
2)園芸技術講演会の開催
第 18 回園芸技術講演会(山陽薬品㈱との共同開催)2 月 22 日(水)13:00~16:00
(1)当研究所 理事 板木利隆氏 「最近の施設園芸・苗生産の話題」
(2)当研究所 常務理事 平林哲夫 「島根県のアムスメロン栽培 40 年の歩み」
対象者 生産者、農業協同組合、県、市等関係者
(参加者 63 名)
5.編集・出版に関する業務
1)平成 22 年度年報の作成と配布
「平成 22 年度研究所年報」を作成し、平成 23 年 5 月に発行・配布した。
2)「蔬菜の新品種」第 18 巻(2012 年版)の出版
「蔬菜の新品種 18 巻」(2012 年版)の編集準備作業を予定していたが、3 月 11 日に発生し
た東日本大震災の影響により、東北ならびに関東地域の農業事情が混乱していることを鑑
み、本年刊行は中止し、翌年度の検討事項とした。