欧州司法裁判所の裁定「SVHC含有率0.1%は各

■ システム認証事業本部
REACH規則 - 欧州司法裁判所の裁定「SVHC含有率0.1%は各部品に適用」のインパクト
2012年よりビューローベリタスとパートナーシップを結ぶEnhesa (エンヘサ) 社が執筆する、「海外における
法規制」に関する記事を連載しています。
Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング
会社であり、企業のEHS (環境、労働安全衛生) 及び製品の遵法を支援しています。
2015年10月には日本法人として日本エンヘサ株式会社を設立、日系企業のお客様に対して、よりきめ細か
な支援をお届けする体制を整えました。
欧州司法裁判所は、EU条約や法令が適切に解釈され、EU域内を通じて各法令が公正に適用されることを担保
する、EUにおける最高裁判所にあたります。2015年9月10日、この欧州司法裁判所が、REACH規則の解釈に
ついて重要な裁定を下しました。
多くの読者がご存知のように、REACH規則第7(2)条により、EU域内に輸入又は域内で製造される成形品中に
SVHC (高懸念物質) が0.1%を超えて、かつ輸入者又は製造者あたり年間1トンを超えて存在する場合には、
ECHA (欧州化学品庁) への届出が必要です。さらに、第33条により、成形品中にSVHCが0.1%を超えて含有
される場合には、当該物質名を含む、成形品を安全に使用できるのに十分な情報をサプライチェーン川下の受
領者に伝達しなければなりません。加えて、消費者からの要求があれば、45日以内に、当該成形品を安全に使
用できるのに十分な情報を無償で提供しなければなりません。
2006年のREACH規則の採択当初から、この0.1%ルールが何に対して適用されるのか議論の的でした。特に
複数の部品で構成される複雑な製品 (complex products) について、0.1% が製品全体 (例:パソコン) に対
する含有率なのか、各部品 (例:コネクタ) に対するものなのかで、輸入者や製造者、またそれらのサプライチェ
ーンに含まれる全ての企業がとるべき対応の負担が異なってきます。2015年9月の裁定は、この議論に終止符
を打ち、0.1%は各部品 (components) に対しても用いられるべきであるとの判断を下すものでした。
■ 経緯
2008年6月にECHAが公表したガイダンスにおいて、0.1%は、接続又は組立てられた成形品全体に対するもの
であるとの解釈が示されました。これに対し、フランス、ドイツ、デンマーク、ベルギー、オーストリア、スウェーデ
ン、ノルウェイが反論を示しましたが、2011年4月に公表されたガイダンス第2版、また欧州委員会から加盟国に
送られた通知においても、委員会とECHAの解釈は従前と同様、0.1%ルールは成形品全体に適用されるものと
していました。
この件についてはフランスがオピニオンリーダーであり続けました。2011年6月、加盟国としては初めて、フラン
ス政府がECHAガイダンスに反対の立場であることを、「一度成形品となったものはずっと成形品であり続ける」
という表現で公的に表明しました。フランスと欧州委員会・ECHAの間での解釈の相違は続き、2014年2月、フラ
ンスが欧州司法裁判所での審議を依頼する事態となりました。そして2015年9月10日、フランスの解釈を支持す
る裁定が下されたのです。
欧州司法裁判所の裁定の根拠は、「成形品」の解釈にあたっては、REACH規則第3(3)条の定義 (製造の過程
において形状、構造、表面が機能を決定した物体) が適用されること、環境や人の健康に影響を及ぼす化学物
質に関するリスクを予防的に管理するというREACH規則の目的に照らして、一旦成形品となった物について部
品や (最終) 製品であるといった区別を設けることは、ECHAがリスクのある物質に関して適切に知らされること
を妨げる、というものでした。
■ 企業へのインパクト
本件で重要な事実は、ECHAのガイダンスが法的根拠を持たず、企業がこのガイダンスに従って法令を解釈す
ることに実は法的な裏づけが伴わないことです。また、今回の欧州司法裁判所の裁定は、法令を改変するもの
ではなく、その解釈を明らかにしたものですので、REACH規則の施行当初から、企業としては今回の裁判所の
裁定に基づいた運用をしていなければならなかった、ということとなります。端的にいえば、ECHAの解釈が間違
っており、その解釈を信頼して行動していた企業は、厳密に言えば法令違反状態にあった可能性があるというこ
とになります。
これは企業にとって相当混乱を来たす状況と言えます。そこで、ECHAは2段階でのガイダンス改編計画を立て
ました。まず応急措置として、ガイダンス第3.1版を2015年12月17日に公開し、0.1%ルールのこれまでのECHA
の解釈が欧州司法裁判所の裁定と異なることを明記しました。次に、ガイダンス全体を通して包括的な改編を実
施し、2016年終わりから2017年始めにかけて公表する予定であるとしています。この改編には、今般の裁判所
の判断に沿った具体的な例も含まれるということです。
企業としては、これまでより詳細なレベルでの含有の有無の確認、含有していた場合の含有率の確認が必要と
なります。複雑な製品を最小単位の成形品 (部品) に分解し、各部品について、各SVHCの含有率を確認しな
ければなりません。何が「最小単位の成形品」となるか、現時点では明確なガイダンスや例が提供されていない
ことから、各社自ら知恵を絞る必要があります。
また、この作業は直ちに実行されなければなりません。前述のように、今回の判断は解釈を明らかにしたもので
すので、過去に遡って (施行の当初から) 既に適用されているべきことなのです。すると、次々に疑問が生じま
す。例えば、第33条に基づく川下受領者への情報伝達を、2011年以降の全ての受領者に戻って伝達しなけれ
ばならないのでしょうか?これについては、ECHAや各国政府で一貫した答はないようです。REACH規則本来
の目的であるリスクマネジメントの観点からすれば、相当なリソースを費やして過去に遡ることにあまり意味があ
るようには見受けられませんが、特に、フランスやドイツなど、当初からECHAガイダンスの解釈に反論していた
国では、立場が異なるかもしれません。
たとえば、フランス行政当局は、2011年当初から今回の解釈どおりの運用を実施し、対外的にもその立場を明
らかにしていたのであり、今回の裁判所の裁定を受けて、国内での法の運用が変わることはないとしています。
EUにおける法執行は加盟国単位で実施されており、現在のところ、この点に関して域内で一貫した執行方針や
具体的な執行計画は公表されていないようです。ECHAは各加盟国代表者で構成する「執行に関する情報交換
フォーラム」を運営しており、REACH規則とCLP規則の域内における公平で統一的な執行を促しています。この
フォーラムでは、特定のトピックについて、机上評価や現場査察を通じて具体的な違反ケースを摘発するパイロ
ットプロジェクトを実施しています。2017年のパイロットでは、成形品に含有される物質が優先順位に上げられる
とのことですので、注意が必要です。
ECHAガイダンスの包括改編版が公表されるまでの1年ほどの間、企業としては、自らの知恵と予防的対応、ま
た業界との協力により、自社を守っていくしかありません。まずは自社製品のどこにどの物質がいくら含有されて
いるかインベントリを作成すること、同時に、製品を最小単位の成形品に分解することが必要です。更新される
SVHC候補物質一覧を確認することはもちろんですが、届出免除条件を満たすかどうかも仔細に分析しなけれ
ばなりません。そして、製品仕様・計量証明、サプライヤー適合証明、契約書、サプライヤー監査結果、試験分析
結果、法令適合証明等、全てのプロセスにおいてできる限りの情報を記録し文書に残しておくことが、将来直面
する可能性のある法執行への対策の一助となるでしょう。
著者:宮田祐子(Enhesaシニアプロジェクトマネジャー)
※本稿の著作権は著者個人に帰属します
【お問い合わせ】
日本エンヘサ株式会社
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http://www.enhesa.com/
Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境・
労働安全衛生)法令遵守を支援しています。2015年10月には東京八重洲に日本法人を開設し、日系企業のお客様に応対しております。ビ
ューローベリタスジャパン株式会社との緊密な連携により、EHS法規制動向のモニタリング、遵法監査ツールの提供、遵法監査代行、製品
規制調査等、日本企業の国内及びグローバル市場における事業展開・事業運営、輸出に関する法令遵守を支援しています。