非製造施設における環境・労働安全コンプライアンス

システム認証事業本部
非製造施設における環境・労働安全衛生コンプライアンスリスク
2012年よりビューローベリタスとパートナーシップを結ぶEnhesa(エンヘサ)社が執筆する、「海外における
法規制」に関する記事を連載しています。
通常、企業の環境・労働安全衛生 (EHS) リスクというと、工場など製造現場でのオペレーションやマネジメント
を思い浮かべることが多いと思います。しかし近年EHS規制先進国においては、事務所や倉庫、店舗といった、
従来はEHSリスクが小さいと見なされていた非製造施設におけるEHSマネジメントが企業の課題になりつつあり
ます。そこで今回は、主に米国とヨーロッパにおける工場以外の施設に対するEHS規制の動向やその対応につ
いて、具体例を挙げながらご紹介します。
1. 非製造施設におけるEHS事故
従来、事務所、倉庫、店舗などは、工場や建設現場などにおけるオペレーションと比較して、環境や労働安全衛
生に関して遵守すべき法的要求事項は少なくそのレベルも高くない、また実際のリスクも小さいと見なされてきま
した。確かに、製造や建設現場などでは環境負荷や労働安全に緻密な管理が必要とされることに、疑問の余地
はありません。しかし事務所等の非製造施設においても、エネルギー利用や空調機器等に含まれるオゾン層破
壊物質などの環境問題、そこで働く従業員や建物に出入りする一般市民の安全や健康の問題があり、それらの
リスクは決して小さいと言えるものではありません。米国労働省労働統計局の資料によると、事務所・店舗・サー
ビス業など非生産部門における労働者10,000 人当りの疾病傷害数は、生産部門における疾病傷害数に匹敵
しています。具体的には、不適切な作業姿勢などエルゴノミクス関連で生じる疾病傷害が多く、米国と欧州連合
(EU) の両統計において、全業界における死亡事故以外の労働災害の事由の上位を、エルゴノミクスに関する
ものが占めています。非製造施設ではこの他にも、以下の例ような課題が存在しています。
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省エネ対策
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空調機器・冷蔵設備等に含まれるオゾン層破壊物質の漏洩・不適切な廃棄
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防火・防災上の不備
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土壌汚染や地中から放出されるラドンガスによる建物利用者への健康被害
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建材に含まれるアスベストや揮発性物質、鉛塗料などによる健康被害
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建物・設備の危険性(転倒・落下、電気保安、エレベーター等昇降設備など)
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冷却水・貯水槽などの衛生管理、地下水等の利用に関する許可・管理
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店舗や設備のメンテナンスで取り扱われる有害物質の管理及び廃棄
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廃棄物の分類と保管、廃棄
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委託業者による作業の安全性の確認・管理
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従業員の通勤・商用時の安全運転、通勤時の安全対策
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多様な働き方の採用が増えることに伴って発生している、ホームオフィスの安全対策
しかしながら、多くの事務所では、このようなEHS課題について十分な知識を有し対応できる社内スタッフや専任
者が配置されていることは少なく、思わぬところでリスクが現実の事故となったり、法令違反が発覚して処罰の対
象となったりするケースが見られます。
2.欧米において強まる監視の目
米国やヨーロッパでは、近年、事務所や店舗等におけるEHS遵法状況の監視が強化される傾向にあり、厳しい
処罰が課される例が報告されています。2013年5月には、米国の大手小売チェーンに対して、全米店舗におけ
る違法な有害物質の取扱・廃棄を理由として80億円以上の罰金と環境コンプライアンス管理の強化義務が課せ
られました。また同企業では、当局による2011年以降の店舗査察の結果、労働安全上の問題も指摘されており、
全米の2,857店舗における労働安全管理の改善命令が下されました。その内容にはごみ圧縮機のロックアウト・
タグアウトなど適切な管理と運用、化学洗剤の適切な使用と従業員へのハザードコミュニケーション・教育の実
施などが含まれます。
また、別の米系大手電気電子機器小売チェーンでは、特定の店舗に対する当局の査察で改善指導が繰り返さ
れたにも関らず、安全を優先事項として対応しなかったとして、およそ1,500万円の罰金が請求されました。指摘
事項には、避難経路の確保、電気コードの不適切な配線、電気保安管理の改善などがあり、特に可燃性液体の
運搬時の取り扱いが、接地の不備により引火の危険性が高いとして指摘されています。
また英国では、石油・ガス企業の事務所で発生した2件の火災後の査察により、避難手順に不備があり長年更
新されていなかったとして、約5,000万円の罰金が科されました。この企業は以後同建物を使用することができ
なくなり、ビジネスを継続するうえでも大きな影響が出ました。
このように執行当局の厳しい監視の対象が従来の製造施設から拡大していることを、欧米企業のEHS担当者は
敏感に察知しています。Enhesaは2013年11月に、非製造施設におけるEHS管理をテーマとしたオンラインセミ
ナーを実施しました。その際のアンケートでは、参加した欧米企業EHS担当者のおよそ4人に1人が、法令違反
に伴う費用 (罰金や訴訟費用など) の増加または執行当局の取締りの厳しさを理由に、工場以外の施設におけ
るEHS管理が新たな課題であると回答しています。
3.Enhesa顧客の実例:非製造施設におけるEHS遵法監査
Enhesaでは、金融業や製造業の複数の顧客の依頼に基づき、2011年から2013年にかけて、世界約40カ国80
件を超える店舗や事務所においてEHSコンプライアンス (遵法) 監査を実施しました。対象となった事務所・店
舗に適用される法的要求事項は、労働安全衛生分野だけでも1件当り平均255項目ありましたが、平均して1件
あたり13%の法的要求事項に遵法していない (遵法未達成) という結果が出ました。
遵法未達成とされた指摘事項で最も多かったのは、機器設備・施設の安全性に関するもので、以下、防火対応、
有害物質の管理、リスクアセスメント、廃棄物、従業員の教育・周知、委託企業の管理、エルゴノミクスが続きま
す。地域別に見ると、アジアにおける遵法未達成率が最も高く23%で、米国の10%、ヨーロッパの9%と比較し突
出していました。これはアジア地域において、近年、EHSに関する多くの新規法令や法改正が採択されている一
方、これらの国々では、従来EHSリスクが大きいと見なされる製造施設に依然として重きが置かれている現状が
あるためでしょう。
指摘事項の上位である機器設備・施設や防火対策の不備は、その責任が必ずしも建物使用者 (テナント) であ
る企業にある訳ではないため、管理を行う上で大きな課題となることがあります。Enhesaが監査した例では、法
的に義務付けられた回数の避難訓練が設備上の理由によって実施できないケースや、共有部における非常灯
など非常用設備の不備、アスベスト含有が懸念される建材の管理など、建物所有者や管理者側との調整が必
要であるケースが多く確認されました。このようなケースでは、建物所有者、ファシリティ・マネジメント委託業者、
建物管理者、場合によっては他のテナントといった複数のステークホルダーが関わるため、相互コミュニケーショ
ンが非常に重要になります。その一つの方法として、外部専門家による遵法監査結果を客観的な資料として示
すことで、他関係者の理解を求める例もあるようです。
また、賃貸契約を結ぶ以前に、建物・設備のEHSリスクを特定するための厳しいデューディリジェンスを実施する
欧米企業もあります。一例ですが、東京中心部にある大型複合ビルの複数フロアを借り切って日本本社を置くあ
る米系企業は、賃貸契約締結の条件として、建物所有者による同フロアのアスベスト建材対策を要求しました。
実際に大掛かりなアスベスト飛散対策工事が実施され、その内容と結果を社内外のEHS専門家が確認したこと
を受けて、初めてテナントとして入居しました。
4.非製造施設に適用される思いがけないEHS規制
グローバルに展開している企業は、時に思いがけない現地規制に直面するものです。Enhesaは世界200カ国・
地域におけるEHS法令をデータベース化し、改正状況を定常的にトラッキングしていますが、中でも、事務所等
に適用される比較的新しい規制の例をご紹介します。
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フランス:火災時の障がい者保護に関する特別要求事項 (2011年11月)
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イタリア:300人以上が勤務する事務所に対する防火監査 (2011年10月)
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韓国:火災安全管理者制度の新設 (2012年2月)
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EU:休業時間に基づく労災報告義務
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オランダ:全ての傷病休暇の記録義務
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EU:建物の地上1階と地下階におけるラドン対策義務 (2011年9月提案、審議中)
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ベルギー:ラドン地域の商業施設に対するラドン測定義務
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シンガポール:25人以上が勤務する事務所や非製造施設における救急箱の設置義務 (2011年9月)
・ オーストラリア・ニューサウスウェールズ州:ホームオフィスを含む10人以下の作業者が働く場所での救急箱
の設置義務
また、最近は欧米諸国でも日本と同様に、職場におけるハラスメントや従業員のメンタルヘルスを法制度の中で
取り扱う傾向があります。EUでは従業員の仕事上のストレスに関連する疾病についてアセスすることが雇用者
に義務付けられていますし、スロベニアやルクセンブルグといった国では、職場における暴力やハラスメントなど
の社会的心理的リスクに対して企業が対策をとることが明文的に求められています。
Enhesaでは、グローバル企業の非製造施設や製造施設におけるEHSコンプライアンスリスク管理を支援する、
様々なサービスやツールを提供してます。Enhesaの監査ツールや監査サービス、法令情報配信サービスなど
に関するお問い合わせは、下記までお寄せください。
【お問い合わせ】
Enhesa (日本語対応窓口) TEL:050-5534-9789
[email protected] もご利用下さい
http://www.enhesa.com/ja/
Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境、
労働安全衛生)法令遵守を支援しています。日本にもサテライトオフィスを開設しており、日本時間に日本語での対応が可能です。ビューロ
ーベリタスジャパン株式会社との緊密な連携により、法規制動向のモニタリング、コンプライアンス監査ツールの提供、コンプライアンス監査
代行、製品規制調査等、日本企業の国内及びグローバル市場における事業展開・事業運営、輸出に関する法令遵守を支援しています。
ビューローベリタスジャパン㈱ システム認証事業本部 営業部 TEL:045-651-4785
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