(H26第1回) (PDF:451KB) - 生涯学習ほっかいどう

道民カレッジ「ほっかいどう学」大学インターネット講座
「格差社会の中の生活困窮者支援の現状~北海道における暮らしから~」
講師:北海道医療大学 看護福祉学部
大友芳恵 教授
◆講座の内容◆
・北海道における生活困窮の現状を理解し、今後のあり方を考えていくための問題を提起する。
・その問題を自分たちの課題として打開していくためにはどうするべきかを考える。
◆日本は貧困大国!?
・アフリカの国々などで飢餓に苦しむ人々の生活と比べると、日本が貧困であるという主張は受け
入れがたいかもしれない。
・それぞれの国の中での所得格差という側面からみると、日本は貧困大国とみられてもしかたがな
い。
◆相対的な貧困率の国際比較(2010 年)
・OECD 加盟 34 か国の相対的貧困率を示したもの。
・相対的貧困率とは、それぞれの国で、所得中央値の半分
未満の所得しか得ていない人の割合のこと。
・日本は、先進国の中でも所得格差の大きい国と言える。
◆日本の相対的貧困率の年次推移
・日本の相対的貧困率が増加している。
・子供の貧困率に絞ってみると、貧困率の増加の割合が大
きい。
◆相対的貧困率が増える背景
・大きな要因は雇用の変化。
・1990 年代半ば以降、それまでの日本の伝統的な終身雇用や年功序列が崩れてきて、安定した雇
用が大きく減少。
・その傾向はリーマンショック以降さらに加速し、今は年収 200 万円以下の勤労者が3割近いと
も言われている。
・子供に関しても、最近では給食費の未納や就学援助率の増加などが問題視されるようになり、
家庭の経済問題がクローズアップされている。
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◆生活保護の受給者
・生活保護の受給者は、2014 年 2 月の時点で、およそ 216
万人。158 万世帯となっている。
・保護率は、北海道は全国で2番目に高くなっている。(お
よそ 32 人に 1 人という計算)
◆政令指定都市別に見た保護率
・全国20の政令指定都市のなかで、札幌が2番目。
(最も低い浜松市の4倍にあたる。
)
◆保護率中核市別上位10
・全国の中核市において、函館が全国で最も高く、旭川が4
番目となっている。
・都道府県別にみても、政令指定都市や中核市別にみても、
北海道は経済的に困窮している人たちが多いことがわか
る。
◆道内の保護率がなぜ高いのか?
・経済の低迷が背景にある。
・北海道は第1次産業の構成比が高いという特徴がある。例えば、漁業については、かつて 200
カイリ問題で大きな打撃を受けたが、この時期をさかいに生活保護の受給者が大きく増えたと
いう歴史もある。
・保護率には、地域経済や雇用情勢などが反映している。
生活保護はお願いすれば受給できると思いますか?
◆生活保護とは?
・病気や失業で生活に行き詰った時、最後の支えとなるのが生活保護である。
・「国で定める最低生活費を下回る場合に、足りない部分について保障する」という制度。
・仕事の給与、年金、各種福祉手当などを合わせても最低生活費に満たない場合に、その足りない
部分が保護費として支給される。
・持ち家など資産の処分、身内の援助、生活保護以外の制度の利用などを行ったうえで初めて
受給することができる。
生活保護はどん底の生活だと思いますか?
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◆生活保護とは?
・生活保護は憲法25条の生存権に基づいて国家が示した最低ラインの金額である。
・最低賃金の金額とも関係する。
・支給額は、住んでいる地域や受給者の年齢、世帯の構成などによって異なる。当別町を例にとると、
20 歳から 39 歳の方で公営住宅に一人暮らしの場合、生活扶助、住宅扶助を合わせて、月額基本お
よそ 7 万 3000 円が支給される。
◆生活困窮者を支援するための対策
・生活保護を受ける人が増え続け、このまま手を打たなければ制度を維持できなくなるという危機
感の中、生活保護に至る前に生活困窮者の自立を支援しようという新しい取り組みがある。
・「生活困窮者自立支援法」は、2013 年に成立し、2015 年 4 月から施行される。
◆生活困窮者対策の全体像イメージ
・社会保障のセーフティーネットを 3 段階に分けて表示し
ている。
・第 1 のネットが社会保険(医療や年金、雇用保険など)。
雇用保険に加入している人は失業した際、失業給付を受
けることができる。
・第 3 のネットに生活保護がある。
・新たにスタートする「生活困窮者対策」は、その中間に
位置する第 2 のセーフティーネットとなる。生活保護を受けていないもののギリギリの生活をし
ている、いわば生活保護予備軍ともいえる人たちの自立を支援する対策である。
・自治体ごとに相談窓口を設けて、困窮者の自立に向けた支援プランを作り、家賃を補助する住宅
支援や就労支援、子供たちの教育支援などを行う。
・生活困窮者への支援を充実する一方、生活保護不正受給への対策を強化するなど総合的な取り組
みが図られる。
生活困窮者自立支援法の 2015 年からの実施に先駆けて、全国でモデル事業が行われています。
【事例1】札幌市厚別区社会福祉協議会(取材 VTR)
働ける世代の就労が大きな問題のひとつです。
【ある家族の事例】
(VTR)
・仕事を探し、就職につなげることが求められるが、一方で、年老いた両親の年金と生活保護がなければ
実際の生活が成り立たないという現実がある。
・生活困窮の問題は働く世代の人たちの問題でもあるが、高齢者の問題も内に含んでいると言える。
働く意欲があっても求人数が少なく、就労支援をしてもなかなか「就職」に至らないのが現状・・・
◆釧路市における先進的な就労支援
・釧路市は石炭や漁業、製紙業などの衰退に伴い地域経済が低迷し、生活保護の受給率も高くなっ
ている。
・そうした中、釧路市では、生活保護受給者を対象に、本格的な就労に向けた中間的就労として、
独自のプログラムを実施している。
・プログラムは一般的な就労に向けて、いくつかのステップに分かれている。
・まずは、日常生活できちんと自立したうえで、ボランティア、就労体験、就労支援へとステップアップしていく。
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・動物園や公園の清掃、介護職員の業務補助、農業体験などを
通じ「やりがい」や「希望」を育み、このシステムを始めて
から、生活保護費を一部受給しながらパートなどで就労す
る人の割合が増え、保護費が下がってきている状況がある。
・社会参加することで、自分に自信が持てるようになってい
くメリットが大きい。
・釧路にはユニークなスタイルで困窮している人たちを支援
するNPO法人がある。
・生活保護受給者のほか、子育て中の親、学生、高齢者など
福祉を必要とする人もしない人も一緒に集い、生活の中
での課題解決に向けて活動している。
・子育て中の母親による食事会や塾に通うことができない
中学生の無料勉強会なども行われている。
・ここで学んだ中学生が、卒業後、今度は講師役に回ること
もある。こうした活動が社会参加の機会をつくるきっか
けとなっている。
◆高齢者への支援
・高齢者については、経済的な困窮ばかりではなく、医療や日常生活などの問題を複合的にはら
んでいることが多く、幅広い支援が必要。
・地域で暮らす高齢者の中心的な支援機関が「地域包括支援センター」である。市町村が設置し、
さまざまな生活課題について継続的、かつ包括的に支援している。
札幌市には地域包括支援センターが27か所あります。
【事例】清田区第2地域包括支援センター(取材 VTR)
◆まとめ
・従来、福祉においては「困ったら相談においで」というスタイルで、本当に困っていても声をだせ
ない人を見つけることがなかなかできなかった
・しかし、「生活困窮者自立支援法」により、これからは困っている人たちのもとに出向いていく支
援が広がることを期待したい。
・地域で発生するさまざまな福祉課題を、行政や一部の専門機関だけで発見することは困難である。
・高齢化が進み、単身世帯が増える中、孤立や認知症などに伴う潜在的な問題が数多くある。
・身近な地域の中で「気づいて」
「受け止めて」
「つないで」いかなければ、豊かで安心できるまちづ
くりはできない。
・安定した雇用が少なくなり、家族のありようも変わる中、生活に困窮する人、孤立してしまう
人たちをどう支えていくのか。単なる生活困窮政策の実施だけでなく、私たち一人一人が生活
困窮をめぐって潜在化しているさまざまな課題に目を向けて考える必要がある。
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