平成20年度 精度管理調査報告 - 公益社団法人 愛知県臨床検査技師会

平成20年度
平成20年度
愛知県臨床検査精度管理調査報告
愛知県臨床検査精度管理調査報告
アミロイド染色
アミロイド染色
愛知県臨床衛生検査技師会
愛知県臨床衛生検査技師会 病理研究班
病理研究班
田中浩一
田中浩一, ,柴田伸一
柴田伸一, ,黒木雅子
黒木雅子, ,梅村寿男
梅村寿男, ,中村広基
中村広基
水嶋祥栄
水嶋祥栄, ,加藤
加藤 浩
浩, ,山本
山本 司
司
平成21年4月18日(土)愛知県臨床衛生検査技師会
平成21年4月18日(土)愛知県臨床衛生検査技師会 病理検査研究班
病理検査研究班 例会
例会
アミロイドとは?
アミロイドーシスは特定疾患(難病)に指定されている123疾患の
うちの1疾患であり、アミロイドと呼ばれる線維状の異常蛋白が沈着し
て臓器の機能障害をおこす病気の総称である。
Virchow(1854)はこの糖タンパクをヨウ素と反応させるとデンプン
と類似した反応(ヨウ素デンプン反応により赤褐色を呈す)を示すこと
より、アミロイドAmyloid(デンプンの主成分のアミロースAmylose +
ギリシャ語で類似体を意味する接尾語-oid)と名づけた。
アミロイドは幅8-10nmの枝分かれの無い細線維が
集積した構造を有する。アミロイド線維を形成する蛋
白質は、生体内では本来、別の重要な機能もっている
が、その際、蛋白質は正常な折れたたみ構造を形成す
る。一方、病気に関与するアミロイド線維は、正常な
折れたたみ構造から、別の「秩序だった」立体構造へ
と構造転移することによって形成される。
アミロイドーシスの分類
アミロイド-シスの新分類(厚生省アミロイド-シス調査研究班)
アミロイド-シスの病型
Ⅰ全身性アミロイド-シス
1. 免疫細胞性アミロイド-シス
1) ALアミロイド-シス
2) AHアミロイド-シス
2. 反応性AAアミロイド-シス
3. 家族性アミロイド-シス
1) FAPⅠ
2) FAPⅡ
3) FAPⅢ
4) FAP Ⅳ
5) 家族性地中海熱(FMF)
6) Muckle-Wells症候群
7) 家族性腎アミロイド-シス
8) 家族性腎アミロイド-シス
(ペルー)
4. 透析アミロイド-シス
5. 老人性TTRアミロイド-シス
アミロイド蛋白 前駆体蛋白
AL
AH
AA
L鎖(κ、λ)
IgG1(γ1)
アポSAA
ATTR
トランス
サイレチン
トランス
サイレチン
アポAⅠ
ゲルゾリン
アポSAA
アポSAA
リゾチーム
フィブ
ノーゲンAα
β2ミクロ
グロブリン
トランス
サイレチン
ATTR
AApoAⅠ
AGel
AA
AA
Aβ2M
ATTR
Ⅱ 限局性アミロイド-シス
1. 脳アミロイド-シス
1) アルツハイマー型痴呆
(ダウン症候群)
2) 脳血管アミロイド-シス
3) 遺伝性アミロイド性脳出血
(オランダ型)
4) 遺伝性アミロイド性脳出血
(アイスランド型)
5) クロイツフェルト・ヤコブ病
ゲルストマン・ストロイスラ
-・シャインカー症候群
2. 内分泌アミロイド-シス
1) 甲状腺髄様癌
Aβ
β前駆体蛋白
Aβ
Aβ
β前駆体蛋白
β前駆体蛋白
Acys
シスタチンC
AScr
スクレイピー
前駆体蛋白
(プリオン)
ACal
(プロ)カルシ
トニン
IAPP(アミリン
心房ナトリウ
利尿ペプチド
ケラチン?
L鎖(κ、λ)
2) Ⅱ型糖尿病・インスリノーマ
3) 限局性心房性アミロイド
AIAPP
AANF
3. 皮膚アミロイド-シス
4. 限局性結節性アミロイド-シス
AD
AL
透析アミロイドーシスの発症メカニズム
β 2 ミクログロブリンが形成するアミロイド線維の沈着である。β
2 ミクログロブリンは,生体が自己非自己の区別を行う際に作用する
クラスⅠ主要組織適合性抗原の一成分であり,免疫系を中心に全身の
細胞表面に存在する。β 2 ミクログロブリンは定常的に代謝され,
血液中に排出された後,腎臓に集まり,分解される。血液透析患者で
はこの分解ができず,さらに透析膜を透過せず,血液透析で除去でき
ない。このためβ 2 ミクログロブリンの血中濃度が50 mg/l に上昇
する。この状態が10 年,20 年と続く。その結果,多くの患者でβ
2 ミクログロブリンはアミロイド線維となって沈着する。
平成20年度 病理検査部門 精度管理調査
調査項目
調査項目 アミロイド染色
アミロイド染色
参加施設
参加施設 55施設
55施設
使用検体
使用検体 アミロイドーシスの腎臓(剖検)
アミロイドーシスの腎臓(剖検)
評価ポイント
1.アミロイド物質の染色性
点数
判定
判定基準
5点
アミロイド物質が極めて明瞭に染め出されている
病理診断に全く支障がない
4点
3点
アミロイド物質が明瞭に染め出されている
若干の問題はあるが判定可能
1点
アミロイド物質の染め分けが若干弱い、あるいは強い(アミロイドの確認は可能)
アミロイド物質の染め分けが極めて弱い、あるいは極めて強い(アミロイドの確認が困難)
病理診断に影響を及ぼす
0点
アミロイド物質が染まっていない、あるいは共染のためアミロイドの確認が困難
2.アミロイドの共染の有無
点数
判定
3点
判定基準
アミロイド染色に伴う共染が全くない
病理診断に全く支障がない
2点
1点
アミロイド染色に伴う共染を若干認める
問題はあるが判定可能
アミロイド染色に伴う共染を強く認める(又は、アミロイド染色そのものが薄い)
3.ヘマトキシリンの染色性(コントラスト)
点数
判定
判定基準
2点
アミロイド物質の判定に影響なし
1点
アミロイド物質の判定に若干影響あり ヘマトキシリンの染色性(濃淡)は不適切である
ヘマトキシリンの染色性(濃淡)は適切である
評
価
判 定
施 設 数
A 判 定
45
B 判 定
7
C 判 定
3
合 計
55
染色方法
染 色 方 法
施 設 数
コ ン ゴ ー レ ッ ド
28
D FS
27
合 計
55
各染色方法別の評価
A判定
染色法
施設数
コンゴーレッド
28
1
19
7
11
6
3
DFS
27
14
26
8
4
1
0
A判定
AⅠ群 AⅡ群 AⅢ群
B判定 C判定
AⅠ群・・・総得点数 1位から15位
AⅡ群・・・総得点数16位から30位
AⅢ群・・・総得点数31位から45位
各種染色方法と総得点数・順位の関係
160
140
総得点
120
100
DFS
コンゴーレッド
DFS
80
60
コンゴーレッド
40
20
0
0
20
40
順位
60
各種コンゴーレッド染色法と評価
染色液の組成
A判定
施設数
3
AⅡ群
AⅢ群
1
3
2
3
1
12
Bennhold 法
7
4
2
Phenol Congo red 法
4
1
3
その他
5
28
C判定
AⅠ群
Puchtler-Sweat 法
計
B判定
1
8
3
2
10
6
3
アミロイド染色の変遷
1922 年:Bennhold法の原法が発表されるが共染が強くあまり
実用的ではなかった
1946 年:Highmanの変法はCongo redをアルコール溶媒とした
事で共染を減らす事が可能となった
1962 年:Puchtlerらのアルカリ Congo red染色は溶媒をアルカ
リ性にすることで染色性の向上が図られた
今の染色法の基礎となった方法
1970 年:Pyridine congo red染色として山下らのPyridine
congo red による新しいアミロイド染色法
1977 年:森、柳原らが pagoda red を用いて、アミロイドのた
めのダイロン染色として発表
1986 年:Phenol Congo red染色が崔らの新しいアミロイド染
色法として発表。
1986 年:Direct Fast Scaretを用いて、皮膚アミロイド染色法
が発表。
コンゴーレッド染色液について(1)
染色性が安定しないBenhold染色に代わり、現在のPuchtlerの方法が広く利
用されているが、Benhold 法では単に1%コンゴーレッド使用液が使用されて
いるのに対し、 Puchtler法はコンゴーレッド染色液に塩化ナトリウムが添加さ
れている。
1つの色素分子中に負(-)の酸性官能基(NaSO3)と正(+)の性質の塩
基性官能基のアミノ基(NH2)をもつコンゴーレッド色素は、水中では色素分
子同士で凝集しコロイドを形成しやすい。そこで塩化ナトリウムのような電解質
を添加することで色素が分散し染色性が高まるのである。コンゴーレッドによる
染色の際に塩化ナトリウムを添加するのはこのためである。しかし、市販のコン
ゴーレッドは製造由来の塩(塩化ナトリウム、他)を含むものが多く、塩を多く
加えると塩析となり色素が沈殿する。
また、溶媒としてエタノールを添加することにより、色素分子同士の凝集が起
こりにくくなると期待される。
コンゴーレッド染色液について(2)
コンゴーレッドは中性から塩基性領域で、アミロイドと水素結合を形成しやす
い。また、弱塩基性領域にすることにより、スルホン酸基を有するコンゴーレッ
ドは負(-)を帯びやすく、塩基性領域で同じ負(-)に荷電しやすい結合組織
とは斥力が働き、その結果結合組織への共染が少なくなると推定される。
コンゴーレッド
《Bennhold法》
【準備試薬】
・1%コンゴーレッド液
・アルカリアルコール液
1%水酸化ナトリウム 1.0ml
50%アルコール
100ml
【染色手順】
1.脱パラフィン
2.核染色
3.流水水洗、色だし
4.コンゴーレッド
5.水洗
6.アルカリアルコール液で分別
7.水洗
8.脱水、透徹、封入
60分
軽く
3~5秒
軽く
Bennhold 法
A判定
A判定
A判定
Puchtler-Sweat 法
【準備試薬】
・NaCl飽和80%エタノール液
(アルカリ貯蔵液)
・アルカリ使用液
(媒染液)
・コンゴー赤貯蔵液
NaCl
80%エタノール
アルカリ貯蔵液
1%NaOH
コンゴー赤
80%エタノール
NaCl
2g
100ml
100ml
1.0ml
0.2g
100ml
2g
※一晩攪拌した後、濾過
・アルカリコンゴー赤液
【染色手順】
1.脱パラフィン
2.核染色
3.流水水洗、色だし
4.アルカリ使用液にて媒染
5.アルカリコンゴー赤液
6.100%エタノールで分別、脱水
7.透徹、封入
コンゴー赤貯蔵液 100ml
1%NaOH
1.0ml
10~20分
20分
30分
5~10回振
Puchtler-Sweat 法(1)
A判定
A判定
A判定
Puchtler-Sweat (2)
A判定
B判定
C判定
Phenol Cngo Red 法
【準備試薬】
・コンゴーレッド液
・コンゴーレッド使用液
【染色手順】
1.脱パラ
2.水洗
3.核染色
4.水洗、色だし
5.コンゴーレッド
6.アルカリアルコールで分別
7.水洗
8.脱水、透徹、封入
コンゴーレッド
0.2g
蒸留水
100ml
(湯せんで10分)
NaCl
9.0g
100%アルコール 100ml
(室温放置一晩後、濾過)
コンゴーレッド液 100ml
フェノール
5ml
酢酸
1ml
5分
60分
Phenol Cngo Red 法
A判定
A判定
A判定
その他の染色法
A判定
A判定
Bennhold 法
Puchtler-Sweat 法
Phenol Cngo Red 法
Bennhold 法
Puchtler-Sweat 法
Phenol Cngo Red 法
コンゴーレッド
染色
コンゴーレッド染色
・媒染液:使用
・媒染液:使用
1)
%エタノール…100ml
1) 80
80%エタノール…100ml
2)
…2.0g
2) NaCl
NaCl…2.0g
3)
%NaOH…1.0ml
3) 0.1
0.1%NaOH…1.0ml
1)
に2)を加え使用前にろ過し3)を加える。
1)に2)を加え使用前にろ過し3)を加える。
・コンゴーレッド使用液:
・コンゴーレッド使用液:
1)
%エタノール…100ml
1) 80
80%エタノール…100ml
2)
…0.2g
2) コンゴーレッド
コンゴーレッド…0.2g
3)
…1.5g
3) NaCl
NaCl…1.5g
4)
%NaOH…1.0ml
4) 0.1
0.1%NaOH…1.0ml
1)
に2)を加えて完全溶解し、3)を加え一晩
1)に2)を加えて完全溶解し、3)を加え一晩
攪拌する。使用前に濾過し、濾液
100mlに
攪拌する。使用前に濾過し、濾液100mlに
対して
4)を1.0ml加える。
対して4)を1.0ml加える。
・染色手順:
・染色手順:
1)
1) 脱パラ、流水水洗
脱パラ、流水水洗
2)
…10分
2) ヘマトキシリン
ヘマトキシリン…10分
3)
…3回
3) 蒸留水
蒸留水…3回
4)
…20分
4) 媒染液
媒染液…20分
5)
…20分、
5) コンゴーレッド
コンゴーレッド…20分、
6)
6) 脱水・透徹・封入
脱水・透徹・封入
DFS染色液について
わが国では1977年、森、柳原らが Dylon社 市販する家庭用木綿染料
pagoda red (マルチNo,9)を用いて、アミロイドのためのダイロン染色と
して発表した。
発表当初は染色性が良く、特に皮膚科領域のアミロイドは従来のコンゴー
レッド染色よりも安定した染色結果が得られていた。しかし、数年の間にその
染色性が著しく低下した。
本来、pagoda red は家庭用染料で組織学への応用は複次的なものである
ため、pagoda red 中のアミロイドに親和性のある色素成分の科学的分析を
行った。その結果を英国Dylon社に問い合わせたところ Benzo fast scaret
4BS がアミロイドに有効な成分であろうとの返答であった。
その後、各種の検討が行われ現在のDFS染色法が確立された。
ダイロン
マルチNo9
パゴダレッド
DFS染色法と評価(染色液の組成)
A判定
染色液の組成
施設数
DFS・エタノール・蒸留水・NaCl
10
6
4
DFS・イソプロピルアルコール・
蒸留水・無水硫酸ナトリウム
9
3
2
DFS・エタノール・蒸留水・
無水炭酸ナトリウム
7
5
1
DFS・イソプロピルアルコール・
蒸留水・無水硫酸ナトリウム
1
計
27
B判定 C判定
AⅠ群 AⅡ群 AⅢ群
4
1
1
14
8
4
1
0
DFS染色法と評価(染色時間)
A判定
染色時間
施設数
10分
4
2
20分
2
1
30分
8
2
4
50分
2
1
1
60分
10
8
1
120分
1
計
27
AⅠ群 AⅡ群 AⅢ群
1
B判定 C判定
1
1
2
1
1
14
8
4
1
0
DFS染色(1)
A判定
A判定
A判定
DFS染色(2)
A判定
B判定
コンゴーレッド染色(Puchtler-Sweat 法)
DFS染色
DFS染色
DFS染色液
1)
2)
3)
4)
エタノール…20ml
DFS・4BS…1g
塩化ナトリウム…1g
精製水…80ml
2) 3)を 50℃の4)に溶解し1)を加える。
染色手順
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
脱パラ、流水水洗
DFS染色液…60分 50℃
流水水洗
3%硫酸銅…3分
ヘマトキシリン…2分
流水水洗
脱水・透徹・封入
C判定であった施設のアミロイド染色標本
施設 1
施設 3
施設 2
A判定施設
過マンガン酸カリ酸化処理について
偏光レンズ未使用で鏡検したアミロイド
偏光レンズ使用して鏡検したアミロイド
過マンガン酸カリ酸化処理後の標本
(偏光レンズ未使用)
過マンガン酸カリ酸化処理後の標本
(偏光レンズ使用)
まとめ
アミロイド染色は染色法の違いで評価に大きな差を認めた。
すなわち、DFS染色法で評価が高く、コンゴーレッド染色
で評価が低い傾向にあった。
DFS染色法ではアミロイドの染色強度は強く、コンゴー
レッド染色は概ね弱かった。
今後は各染色方法で、様々な検討を実施し「アミロイド染
色標準法」として染色法の確立を目指したい。