07 行動の自由・意思決定の自由

刑法各論の基礎
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memo/notes
個人的法益に対する罪
人の自由に対する罪(1)
07 行動の自由・意思決定の自由
法益主体 = 個 人 ⇒ 人の生命・身体に対する罪
人の自由に対する罪
生活の平穏に対する罪(プライバシーに対する罪)
名誉・信用に対する罪
財産に対する罪
到 達 目 標
□逮捕監禁罪の保護法益は何か。どういう事例において保護法益が問題となるのか。
□逮捕監禁罪は、状態犯か、それとも継続犯か。また、逮捕行為と監禁行為は、どのような関係に立つのか。
□被害者に行動能力・意思能力は必要か。
□被害者に身体活動を拘束されていることについての認識が必要か。
□逮捕監禁罪における被害者の承諾は、犯罪の成立にどのような影響を与えるのか。
□脅迫罪・強要罪の保護法益は何か。
□脅迫の対象は、自己または親族に限定されるのか。
□法人に対して、脅迫罪の成立が認められるか。
□略取誘拐罪の保護法益は何だと考えられるのか。
□略取行為の意義、誘拐行為の意義を整理しなさい。
1.自由に対する罪の類型
自由:人間としての自然的・社会的生活にとって不可欠な要素。
①移動の自由:逮捕監禁罪(刑法 220 条-221 条)
②意思の自由:脅迫罪(刑法 222 条)、強要罪(刑法 223 条)
③行動の自由:略取、誘拐及び人身売買の罪(第 33 章:刑法 224 条-229 条)
④性的自由:強制わいせつ罪(刑法 176 条)、強姦罪(刑法 177 条)ほか
⑤社会活動の自由:信用毀損・業務妨害罪(刑法 233 条・234 条の 2)
2.逮捕監禁罪(刑法 220 条-221 条)
【設例】Xは、13 歳の少女Aを姦淫しようと考え、入院中であるAの母親Bのところへ連れて行って
やると騙してAを自動車に乗せた。途中で、病院とは別の方向へ進んでいることに気付いた
Aが、車を止めて降ろしてくれと再三にわたりXに頼んだが、Xはその要求を無視して自動
車を疾走させた。しばらくして、目撃者の通報により行われていた検問でXの運転する自動
車は停車させられ、Aは救助された。
Xの行為について何罪が成立すると考えられるか(なお、特別法違反の関係を除く。)。
2.1.保護法益(自由の意義)
人の身体活動の自由。人の身体的移動・行動の自由を保護。
(a)現実的自由説:
(b)可能的自由説(判例・通説)
:
2.2.法的性質
継続犯。逮捕監禁行為が確実に人の身体の自由を拘束したと認
められる程度の時間の継続を必要とする(大判昭和 7 年 2 月 29
日・刑集 11 巻 141 頁)
。
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2.3.客体
人=行為者以外の自然人。
(1)行動能力(行為能力の要否)
【設例】Xは、生後 2 か月の乳児Aが寝ている部屋をそっと施錠して、Aを閉じ込めてしまった。X
の行為は逮捕監禁罪を構成するか。
行動能力(行為能力)=単純に行為する能力
≠民法上の行為能力。
事実上の行動能力があれば本罪の客体となる。
(2)意思能力の要否
【設例】Yは、熟睡しているBが寝ている部屋を外から施錠して出られなくしてしまった。しばらく
してBが目を覚まし、部屋から出られなくなっているのを知って、「出してくれ」と大声で
叫んでドアを叩いた。Yの行為は、どの時点から逮捕監禁罪を構成するか。
(a)意思能力不要説(判例・通説:曽根威彦)
:
被害者に意思能力は不要(京都地判昭和 45 年 10 月 12 日・
刑月 2 巻 10 号 1104 頁)
。
(b)意思能力必要説(有力説:川端博・前田雅英)
:
被害者には意思能力が必要。
(3)身体活動を拘束されていることについての認識の要否
【設例】行為者Xは、13 歳になるAを母親Bのところへ連れて行ってやると騙して車に乗せ、途中で
様子が変なことに気づいたAが停止を要求したにも関らず、これを無視して疾走した。Xの
罪責はどうか。
(最二小決昭和 33 年 3 月 19 日・刑集 12 巻 4 号 636 頁参照)
(a)認識不要説(判例・通説)
:
最二小決昭和 33 年 3 月 19 日・刑集 12 巻 4 号 636 頁
(b)認識必要説(有力説:西田典之・前田雅英)
:
2.4.逮捕監禁罪(刑法 220 条)
(1)逮捕・監禁の意義
逮捕:人の身体を直接に拘束して自由を奪うことをいい、その
方法の如何を問わない。自由の束縛は、多少の時間継続
することが必要である。
①有形的方法:
②無形的方法:
監禁:人の身体を間接的に拘束してその身体活動を奪うことで
あり、人が一定の区画された場所から脱出することを不
能または著しく困難にすることをいう。
①有形的方法:
②無形的方法:
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※逮捕と監禁の関係:逮捕行為後の監禁行為は包括一罪。同一
構成要件内の行為態様の違い。
(2)逮捕監禁行為の違法性(
「不法に」の意義)
(a)違法要素説(通説)
:
違法性の一般原則を注意的に規定したもの。
(b)構成要件要素説(藤木英雄)
:
適法行為による場合には、
「不法」ではないので構成要件該
当性が否定される。
(3)逮捕監禁の承諾
【設例】接客婦として雇い入れた被害者Aが逃げ出したので、行為者Xは、これを連れ戻そうと考え
て、入院中である被害者の母親Bのもとに行くのだと騙して、あらかじめ自宅まで直行する
よう言い含めて雇ったタクシーに乗り込ませ、自分もこれに乗り込んで自動車を疾走させ
た。Xの罪責はどうか。
(最二小決昭和 33 年 3 月 19 日・刑集 12 巻 4 号 636 頁参照)
逮捕監禁行為に対する被害者の承諾に瑕疵がある場合。
行為の適法性を基礎づける事実を誤信した場合には正当化事由
の錯誤の問題。
(a)本質的錯誤説(判例・通説)
:
(b)法益関係的錯誤説:
(4)罪数
人を逮捕し、
引き続いて監禁した場合には単純一罪が成立する。
複数人を逮捕・監禁すれば、被害者各人について犯罪が成立し
観念的競合の関係。
2.5.逮捕監禁致死傷罪(刑法 221 条)
【設例】行為者Xは、海を見に行こうと騙して被害者Aをオートバイの後に乗せて疾走していたが、
途中で様子が変なことに気づいたAが停止を要求して暴れたため、オートバイから転落し、
頭部を強打して死亡した。Xの罪責はどうか。
逮捕監禁罪の結果的加重犯である。死傷結果が、逮捕監禁行為
自体から、または逮捕監禁の手段としての行為から発生したこと
が必要である(手段性説)
。⇔機会説?
3.脅迫罪(刑法 222 条)・強要罪(刑法 223 条)
3.1.保護法益
(1)脅迫罪の保護法益
(a)意思決定の自由に対する危険犯(判例・通説)
:
害悪が相手方に知らされれば既遂に達する。脅迫罪の成立
には、現実に恐怖心が生じたことまでは必要ない。
(b)個人の私生活の平穏または法的安全感(有力説)
:
(2)強要罪の保護法益
意思決定の自由または意思実現の自由。
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3.2.脅迫罪(刑法 222 条)
(1)脅迫の意義
脅迫:一般通常人を畏怖させる程度の害悪を告知する行為。
①脅迫の対象:自己(1 項)または親族(2 項)の生命・身体・
自由・名誉・財産(限定列挙)
。
(a)限定説(判例・通説)
:
自己(被害者本人)と親族に限定される。
(b)拡張説:
内縁関係にある者や法律上の手続を完了していない養
親子関係にある者も「親族」に含まれる。
②害悪の内容:客観的に、人を畏怖させるに足りる程度のもの。
現に恐怖心を生ずることまでは不要(危険犯)
。害悪の発生が
何らかの形で行為者によって可能なものとされうること(告
知者の左右し得る害悪)
。
③告知の方法:言語によるほか、動作で脅すことも含まれる。
(2)脅迫の客体
自然人。法人については、意思決定の自由または意思実現の自
由を認めることができない(大阪高判昭和 61 年 12 月 16 日・高刑
集 39 巻 4 号 592 頁)
。
3.3.強要罪(刑法 223 条)
脅迫または暴行を用いて、他人に義務のないことを行なわせ、
または権利の行使を妨害する行為を内容とする犯罪である(刑法
223 条 1 項・2 項)
。
(1)法的性質
結果犯(⇔危険犯:脅迫罪)
。
∴未遂罪を処罰(刑法 223 条 3 項)
。
(2)強要行為
①脅迫・暴行:脅迫または暴行を手段とする。脅迫行為による
場合が典型。暴行行為も含む(広義の暴行)
。
②「義務なきこと」と「行なうべき権利」:法的義務があって
も脅迫・暴行をもってその履行を強制することは許されない。
(3)未遂罪
①暴行・脅迫が未遂の場合を含む(判例・通説)
。
②脅迫罪との区別。故意が強要罪であれば、強要罪。
③脅迫を加えたところ、被害者が哀れに思って義務なき事を行な
った場合。
(4)罪数関係
逮捕や監禁、強制わいせつ、強姦、恐喝、強盗などの犯罪が成
立する場合に、その過程で強要行為が行なわれても、強要罪は独
立に成立しない(法条競合)
。
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4.略取誘拐罪(刑法 224 条-229 条)
略取誘拐罪(拐取罪)は、暴行・脅迫または欺罔・誘惑を手段
として、人を現在の生活環境から離脱させて、自己または第三者
の実力支配内に移す行為を内容とする犯罪である。
4.1.保護法益
(a)被拐取者の自由(木村亀二・佐伯千仭・香川達夫・内田文昭・前田雅英)
:
もっぱら略取または誘拐される者、すなわち被拐取者の自
由を侵害することである。
(b)被拐取者の自由+保護環境における安全(井田良)
:
被拐取者の自由に加えて、保護された環境における安全も
含まれる。
(c)人的保護関係の侵害(小野清一郎)
:
自由の侵害を伴うが、より基本的なのは人的保護関係の侵
害である。
(d)被拐取者の自由及び親権者等の保護監督権(判例・通説:
団藤重光・藤木英雄・平野龍一・川端博)
:
被拐取者の自由が保護法益であるが、被拐取者が未成年
者・精神病者である場合には、親権者等の保護監督権(監
護権)も法益に含まれる(大判明治 43 年 9 月 30 日・刑録
16 輯 1569 頁)
。
4.2.略取・誘拐の意義
略取および誘拐は、いずれも、他人を現在の保護されている生
活環境から不法に離脱させて、行為者または第三者の実力的支配
内におく行為である。略取と誘拐は手段を異にする。
略取:暴行・脅迫を手段とする。
誘拐:欺罔・誘惑を手段とする。
参考文献(より詳しく学びたい人の為に)
□松原芳博「(ロー・クラス 刑法各論の考え方 6)自由に対する罪(1)」『法学セミナー』57 巻 4 号(2012.04)148-154 頁。
□松原芳博「(ロー・クラス 刑法各論の考え方 7)自由に対する罪(2)」『法学セミナー』57 巻 5 号(2012.05)110-116 頁。
□佐伯仁志「(刑法各論の考え方・楽しみ方 6)逮捕・監禁罪」『法学教室』360 号(2010.09)100-108 頁。
□山口厚「自由に対する罪(犯罪各論の基礎 4)」『月刊法学教室』203 号(1997.08)74-81 頁。
□山中敬一「行動(精神)の自由に対する罪(リレー連載・刑法各論 5)」『法学セミナー』37 巻 10 号(1992.10)98-103 頁。