「末梢神経障害に対するソロモン諸島産植物抽出エキスのスクリーニング

「末梢神経障害に対するソロモン諸島産植物抽出エキスのスクリーニング」
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中島明日香
大腸がんは平均寿命の高齢化や食生活の欧米化(高脂肪、低繊維食)等により死亡率・
罹患率が増加している。2013 年のがん死亡者数は男性では第 3 位であり、女性では第
1 位である。全体では大腸がんが第 3 位である。今後も高齢化に伴い、大腸がん患者の
増加が懸念されている。大腸がんの治療には主に外科的療法、放射線療法、化学療法が
行われている。化学療法では切除不能転移・再発大腸がんの標準療法として FOLFOX
療法や FOLFIRI 療法、XELOX 療法等が用いられており、いずれにもオキサリプラチ
ン(L-OHP)が使用されている。L-OHP はがん細胞の DNA と結合して架橋形成するこ
とで抗腫瘍活性を発揮するが、一方で副作用である末梢神経障害が深刻な問題になって
いる。末梢神経障害は L-OHP 以外にも様々な抗がん剤(タキサン系、ビンカアルカロイ
ド系、ボルテゾミブ等)による化学療法に伴い発生するが、患者の QOL を低下させるだ
けでなく、治療の継続も困難にする深刻な有害事象のひとつである。発生機序としては
未だ明らかにされておらず、そのため有効な予防法や治療法も現時点では存在しない。
現在、行われている対症療法の一つとして牛車腎気丸・芍薬甘草湯等の漢方製剤の投与
がされており、和漢生薬を始めとする天然植物の効果が期待されている。
そこで当研究室では末梢神経障害の予防及び改善薬となりうるリード化合物の探索
を目指して、天然植物を用いた末梢神経障害克服物質のスクリーニングを試みることと
した。その天然植物源として今回はソロモン諸島産植物に着目した。本研究では、未知
の化合物を多数含む可能性のあるソロモン諸島産植物抽出エキス(以下、ソロモンエキ
ス)を用いて探索を行った。
強化緑色蛍光タンパク質 (EGFP)を導入したラット副腎褐色細胞腫 (PC-12)細胞を
7 日間培養した後、ソロモンエキスを添加し、10 日目に細胞数及び神経の長さを測定・
評価を行った。L-OHP 非存在下で行った測定では神経伸長作用を観察し、L-OHP 存在
下で行った測定では神経保護作用を観察した。
ソロモンエキス 30 検体中 6 検体に細胞数を減少させることなく、神経伸長作用が認
められた。しかしながら、神経伸長作用が認められた 6 検体と L-OHP との併用時では
control と差が認められなかったことから神経保護作用が弱いと考えられた。神経伸長
作用が認められた 6 検体のうち 4 検体にテルペン類やイリドイド配糖体が含有され、
PC12 細胞に対して神経誘導作用がある化合物が報告されている。
今後は神経伸長作用を示したソロモンエキスが含有する成分を特定し、その効果につ
いて確認し、神経突起誘導作用がある化合物との比較する必要があると考えられる。ま
た、さらに神経障害の発生機序の解明にも努めていきたい。そして将来的に本研究が末
梢神経障害の予防及び改善薬の開発に寄与することを期待していきたい。