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科学技術振興調整費 第Ⅰ期成果報告書

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科学技術振興調整費
第Ⅰ期成果報告書
総合研究
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの
構築を基盤とする超機能性材料の
創製と評価に関する研究
研究期間:平成11年度~13年度
平成 14 年 6 月
文部科学省
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
研究計画の概要
p.1
研究成果の概要
p.9
研究成果の詳細報告
1. ケミカルライブラリー設計技術に関する研究
1.1. 固相反応場の精密設計に関する研究
1.1.1. 精密反応性高分子の開発とこれに基づく固相反応場の制御
p.23
1.1.2. 機能性高分子担体の精密合成と固相反応場の構築
p.39
1.2. 固相精密反応場の最適化と固相合成の設計に関する研究
p.50
1.3. 高分子・超分子系超機能性材料設計に関する研究
p.69
2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
2.1. 固相合成法を活用した機能性分子ライブラリー創製に関する研究
2.1.1. 固相合成法の開発と機能性分子ライブラリーの構築
p.85
2.1.2. 生体機能性分子を目指した固相における炭素-炭素結合形成反応の開発
p.97
2.1.3. 高度機能性糖鎖・ヘテロ環ライブラリーの構築
p.115
2.1.4. フラーレンを基本骨格とする機能性分子の固相合成
p.135
2.1.5. 液晶化合物を目指した固相合成反応の開発
p.145
2.2. 自動合成システムを活用した機能性材料ライブラリー創製に関する研究
2.2.1. 自動合成用戦略的合成反応の開発
p.155
2.2.2. 自動合成用センサシステムの開発
p.171
2.2.3. 自動合成装置システム化を目指した装置の改良・改善
p.180
3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
3.1. 超機能評価法の開発
3.1.1. コンビナトリアル化学を用いたセンシングシステムの開発
p.200
3.1.2. ライブラリーの光学的評価法の確立と高分子及びペプチド系材料開発への応用
p.212
3.1.3. 非天然アミノ酸を含む人工タンパク質機能高効率評価法の開発
p.217
3.1.4. 電気的評価法の開発:固体触媒機能評価法の開発
p.230
3.1.5. 電気的評価法の開発
p.237
3.2. 超機能材料におけるライブラリー評価
3.2.1. ケミカルライブラリー評価法の調査
p.248
3.2.2. 金属の関与する核酸標的分子の高効率的スクリーニング系の開発
p.250
3.3. 超機能材料創製のための最適設計手法の確立
3.3.1. オリゴ糖エリシターの機能性評価に関する研究
p.260
3.3.2. ペプチドの in silico 評価法の開発
p.274
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
研究計画の概要
調査研究の趣旨
有機分子は特異な機能の発現等の無限の可能性を秘めており、材料科学に基づく広範な分野におい
て重要な研究対象であることは周知の事実である。しかしながら、有機化合物の構造には天文学的な
多様性があり、既存のフラスコを用いる液相法では可能な分子構造を全て網羅した合成を行い、その
機能性を評価することは殆ど不可能である。天然アミノ酸を連結させたペプチド、および限られた範
囲の有機化合物の合成においては、官能基化高分子をベースとして、その官能基(リンカー)を介し
てアミノ酸等を精密に順次連結させていく固相法が注目され、百万種以上の有機化合物からなるケミ
カルライブラリー(コンビナトリアルライブラリー)を合理的に構築し、スクリーニングする方法と
して現在展開されつつある。しかしながら、今後のコンビナトリアル化学の発展の上で極めて重要で
あると考えられる機能性有機分子、非天然ペプチド(ペプチドミミックス)、オリゴ糖などのライブラ
リー化は未開拓の分野といえる。
分子設計の段階において完全に決定できない流動的な分子構造を全て網羅した化合物群(ライブラ
リー)を一度に合成できる固相精密合成法に立脚したコンビナトリアルケミストリーの概念を一般性
高く展開できる基盤技術を構築できればこの様な問題を一挙に解決でき、合理的に短期間で目的の機
能をもつ材料の創製を実現できる新しい物質・材料系科学技術として合成化学に立脚したファインケ
ミカルなどの基礎研究、および応用研究に飛躍的な進展をもたらすものと確信される。即ち、各種の
電子材料、センサーなどに関連した超機能性分子素子や触媒(酵素)などの超分子構造の開発を飛躍
的に促進し、生体材料、高分子新素材に代表される超機能性新材料にも急展開をもたらすことが期待
できる。
以上のような観点から、固相合成法による超機能性材料のケミカルライブラリーの構築技術の確立
を目指し、ケミカルライブラリーの設計技術、創製技術および機能性評価技術に関する調査研究を実
施し、さらに本基盤技術による電子材料、触媒、センサー、生体材料、医薬などに関連する超機能性
材料の創製に向けた研究を実施する。
調査研究の項目
「固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関
する研究」は「ケミカルライブラリー設計技術に関する研究」、「ケミカルライブラリー創製技術に関
する研究」および「ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究」の3分野の研究をそれぞ
れ分担して展開し、総合的にこれらの研究領域を連携づける体系により円滑な推進を図る。
2.1. ケミカルライブラリー設計技術に関する研究
多彩なコンビナトリアル合成を展開できる固相精密反応場を高機能性高分子材料の抜本的な設計、
開発に基づき構築し、ライブラリー合成技術の確立を促進する。さらに超機能性材料の創製に向けて
特に高分子、超分子系ライブラリーの設計指針を確立する。
1
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2.1.1. 固相反応場の精密設計に関する研究
2.1.1.1. 精密反応性高分子の開発とこれに基づく固相反応場の制御
固相合成法による機能性材料のケミカルライブラリーを構築することを目指し、精密反応性高分子
を合成し、これをスペーサーとして有する固相反応場の設計と開発を目的とする。
2.1.1.2. 機能性高分子担体の精密合成と固相反応場の構築
多彩なコンビナトリアル合成を展開できる固相精密反応場を高機能性高分子材料の抜本的な設計、
開発に基づき構築し、ライブラリー合成技術の確立を促進する。
2.1.2. 固相精密反応場の最適化と固相合成の設計に関する研究
固相反応場の分子構造、分子運動性の評価を固体 NMR などの手法を駆使して行い、高分子支持体の
構造や反応条件などの最適化を促進する。さらに固相反応場でライブラリー化の可能な機能性分子の
設計法についても併せて検討する。
2.1.3. 高分子・超分子系超機能性材料設計に関する研究
超機能性の発現が期待できる高分子、超分子系ケミカルライブラリーを設計し、それを具体的に合
成する方法を開発し、これを基に超機能性材料への可能性を探る。具体的には、人工光活性制限酵素
作用をもつポルフィリン枷型DNAの合成とその応用、および、ナノ炭素材料の固相界面合成法の研
究に焦点を置き、ライブラリー化を視野に入れた合成法と機能の発現とその具体的な応用をはかる。
2.2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
固相合成法でケミカルライブラリーを構築するためには、高効率の有機合成手法の開拓が不可
欠
である。有機小分子、有機高分子、糖鎖、およびペプチドなどの有機分子をターゲットとして固相精
密合成法に応用可能な有機合成手法の開拓と体系化に関する研究を行い、超機能性材料の開発におけ
る基盤技術を確立し、さらにこれらを自動化に向けてシステム化する研究を展開する。
2.2.1. 固相合成法の開発と機能性分子ライブラリー創製に関する研究
固相上における有機合成反応を開発し、機能性分子を創製するための化合物ライブラリーを構築す
る基盤技術を開発する。
2.2.1.1 固相合成法の開発と機能性分子ライブラリーの構築
固相合成に重要なポリマー、リンカーの組合わせを選定し、化合物ライブラリーを合成するための
技術を開発し、機能性分子を固相上にライブラリー化する。
2.2.1.2. 生体機能分子を目指した固相における炭素—炭素結合形成反応の開発
化合物ライブラリー構築に不可欠な新規固相合成反応を開発し、汎用性のある合成法の開発を行う。
2.2.1.3. 高度機能性糖鎖・ヘテロ環ライブラリーの構築
糖鎖・ヘテロ環化合物など機能の解明が急がれる化合物をライブラリー化することにより、機能発
2
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
現の詳細を明らかにし、新たな機能性分子設計に応用する。
2.2.1.4. 機能性材料ライブラリー創製を目的とした固相精密合成法の開発
フラーレン、液晶などの機能性材料をライブラリー化する技術を開発し、新規機能性材料を探索す
る。
2.2.2. 自動合成システムを活用した機能性材料ライブラリー創製に関する研究
これまで人に頼っていたラボサイズの実験を自動化するために必要な技術を開発する。
2.2.2.1. 自動合成用戦略的合成反応の開発
自動合成を意識した合成戦略、合成反応を創出し、より簡便な作業で多種多様な化合物が合成でき
るルート、合成反応を確立する。
2.2.2.2. 自動合成用センサーシステムの開発
これまで人間に頼っていたラボサイズの実験を自動化するために必要な、有機合成反応のモニタリ
ングシステムや化学センサーを開発し、自動合成用センサーシステムを構築する。
2.2.2.3. 自動合成装置システム化を目指した装置の改良・改善
個々の合成装置をシステム化・自動化することにより機能性材料ライブラリー創製の基盤技術を確
立する。具体的には固相合成装置、固相合成に用いるフラグメント合成のための液相合成装置、自動
合成装置で合成した化合物の機能性材料としての評価装置などをシステム化し、数多くの機能性材料
の候補化合物の合成と評価を迅速に行えるシステムを構築することである。
2.3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
ライブラリーから目的とする超機能材料を効率よく取り出すためには、効率のよいライブラリーの
設計、創製技術の達成と共に、目的とする個々の超機能を合理的に評価する方法を確立する必要があ
る。そこで材料の機能や生理活性などの作用機構の理論的解明に基づき、有機系、無機系の各種のラ
イブラリーから目的とする超機能を合理的に検定できる高効率機能性評価技術を開発する。また、設
計手法の指針を得るために、コンピューターと実験系の組み合わせによる最適評価システムを確立す
る。
2.3.1 超機能評価法の開発
光学的手法をはじめ低次元ライブラリーの高効率・迅速な評価が行える評価手法の開発を行う。ま
た、評価手法に適したライブラリー調整法を開発し、高効率な評価系を確立する。
2.3.2 超機能材料におけるライブラリーの評価
超機能性材料に関する評価手法を開発し、ライブラリーの評価を実施する。
2.3.2.1 ケミカルライブラリーの評価方法の調査
3
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
文献調査および訪問調査によりケミカルライブラリーの生物学的機能、化学的機能および物理的機
能等の評価方法について調査することによって、機能別に評価方法を整理する。
2.3.2.2 超機能材料におけるライブラリーの評価
超機能材料に関する評価手法を開発し、ライブラリーの評価を実施する。
2.3.3 超機能材料創製のための最適設計手法の確立
機能予測とスクリーニングのための評価システムを確立し、実験系と複合化した超機能創出のため
の評価手法を確立するとともにライブラリー評価を行う。
2.4. 研究推進
本課題は、「ケミカルライブラリー設計技術に関する研究」、「ケミカルライブラリー創製技術に関
する研究」および「ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究」の3分野がそれぞれ展開
を計画している「固相精密反応場の設計」、「適応可能な固相有機合成手法の体系化」および「適切な
機能性評価法の確立」を基にこれらを総合的に推進するすることにより初めて達成される。即ち、3
分野の研究成果は互いの研究指針にも大きく影響すると考えられることから、3分科会を組織し、定
期的な会議を通した情報の分科会内および分科会相互間の交換、連携体制を整え、研究成果の分科会
内および他の分科会へのフィードバックの円滑化を目指す。
(添付図参照)
2.4.1 分科会の開催
4
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
調査研究の計画
5
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
調査研究実施体制
調 査 研 究 項
目
担 当
機 関
研究担当者
1.ケミカルライブラリー設計技術に関す
る研究
1.1 固相反応場の精密設計に関する研究
1.1.1 精密反応性高分子の開発とこれに基
山形大学工学部
遠藤
剛
名古屋大学大学院工学研究科
岡本 佳男
東京工業大学大学院理工学研究科
黒木 重樹
づく固相反応場の制御
1.1.2 機能性高分子担体の精密合成と固相
反応場の構築
1.2 固相精密反応場の最適化と固相合成
の設計に関する研究
1.3 高分子・超分子系超機能性材料設計に関 (株)関西新技術研究所
清水 剛夫
する研究
2.ケミカルライブラリー創製技術に関す
る研究
2.1 固相合成法を活用した機能性分子ラ
イブラリー創製に関する研究
2.1.1 固相合成法の開発と機能性分子ライ
東京工業大学大学院理工学研究科
高橋 孝志
理化学研究所有機合成化学教室
中田 忠
大阪大学大学院理学研究科
楠本 正一
名古屋市立大学薬学部
宮田 直樹
岡崎国立共同研究機構分子科学研
魚住 泰広
ブラリーの構築
2.1.2 生体機能分子を目指した固相にお
ける炭素—炭素結合形成反応の開発
2.1.3 高度機能性糖鎖・ヘテロ環ライブラ
リーの構築
2.1.4 機能性材料ライブラリー創製を目
的とした固相精密合成法の開発
2.2 自動合成システムを活用した機能性
材料ライブラリー創製に関する研究
2.2.1 自動合成用戦略的合成反応の開発
究所
6
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2.2.2 自動合成用センサーシステムの開発
東京工業大学大学院情報理工学
清水 優史
研究科
2.2.3 自動合成装置システム化を目指した
京都大学大学院工学研究科
吉田 潤一
京都大学エネルギー理工学研究所
吉川
暹
(社)日本化学会企画部
田巻
博
京都大学化学研究所
杉浦 幸雄
農業生物資源研究所生体高分子研究
渋谷 直人
装置の改良・改善
3.ケミカルライブラリーの機能性評価技
術に関する研究
3.1 超機能評価法の開発
3.2 超機能材料におけるライブラリーの
評価
3.2.1 ケミカルライブラリーの評価方法の
調査
3.2.2 超機能性材料におけるライブラリー
の評価
3.3 超機能材料創製のための最適設計手
法の確立
G
4.研究推進
4.1 分科会の開催
(社)日本化学会企画部
田巻
博
(添付図)
7
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
研究推進体制
研究推進委員会
研究リーダー
遠藤 剛
第一分科会
主査 遠藤 剛
第二分科会
第三分科会
主査 高橋 孝志
主査 吉川 ケミカルライブラリー設計技術に
関する研究
ケミカルライブラリー創製技術
に関する研究
ケミカルライブラリーの機能
性評価技術に関する研究
2.1 固相合成法を活用した機能性分子
ライブラリー創製に関する研究
2.2 自動合成システムを活用した機能
性材料ライブラリー創製に関する研究
3.1 超機能評価法の開発
3.2 超機能材料におけるライブラ
リーの評価
3.3 超機能材料創製のための
最適設計手法の確立
1.1
固相反応場の精密設計に関する研究
1.2
固相精密反応場の最適化と固相合成
の設計に関する研究
1.3
高分子・超分子系超機能性材料設計
暹
に関する研究
研究推進委員会
委
◎園田
員
所
昇
属
関西大学工学部応用化学科
教授
井上 祥平
東京理科大学工学部工業化学科
教授
井口 洋夫
分子科学研究所
顧問
舘
鐘淵化学株式会社
相談役
本多 健一
東京工芸大学
理事・学長
米光
宰
岡山理科大学理学部化学科
教授
○遠藤
剛
山形大学工学部機能高分子工学科
教授
○高橋 孝志
東京工業大学大学院理工学研究科
教授
○吉川
京都大学エネルギー理工学研究所
教授
東京工業大学大学院情報理工学研究科
教授
糾
暹
○清水 優史
(注:◎は研究推進委員長、○は課題実施者)
8
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
研究成果の概要
総
括
【研究目標の概要】
有機材料の構造には天文学的な多様性があり、既存の液相合成法では目的とする機能を有する分子
の合成と評価には膨大な試行錯誤を要する。最近ではペプチド・核酸などの生理活性物質の合成にお
いては固相合成法が注目されている。この手法は反応基質を不溶性高分子(固相)に担持した後に目
的とする反応を行うものであり,生成物は固相上に担持されているため過剰の試薬等を濾過のみで除
去することができるため合成の自動化が容易であり,百万種類以上の有機化合物からなるケミカルラ
イブラリー(コンビナトリアルライブラリー)の合理的な構築が可能となりつつある。
一方,今後の産業創出の上で極めて重要と考えられる機能性材料の開発においては,固相合成に基
づくケミカルライブラリーの構築と評価は全く未開拓の分野である。その理由として1.固相そのも
のの構造の設計と制御技術が未熟なために機能性材料の固相合成に対応しきれないこと,2.機能性
材料の開発には多様な化合物を組み合わせて合成反応に用いることが必要であるにもかかわらず,こ
れまでの対象物質はペプチドや核酸に限られてきたこと,さらに自動合成装置もこれら限られた物質
のみに適応していること,3.新たに開発される機能性材料の物性を精密かつ迅速に評価する手法が
無いこと,の3つが挙げられる。これら問題点が解決されれば,膨大な数の新規物質ライブラリーの
迅速な自動合成と評価が実現し,超機能性材料の創製によって広範な産業の飛躍的進展を促すことが
可能となる。そこで,本研究では上記3つの問題点に対し1.固相精密反応場の設計を行うための「ケ
ミカルライブラリー設計技術に関する研究」2.広範な物質に適応可能な固相有機合成手法の体系化
と自動合成化を目指す「ケミカルライブラリー創製技術に関する研究」
,ならびに3.機能性材料の機
能性評価法の確立を目指す「ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究」
,の3つのサブテ
ーマを提起し,これらの遂行と3研究の相互交流により固相精密合成を用いたケミカルライブラリー
構築による超機能性材料の創製の基盤技術確立を目的とする。
【研究成果の概要】
設定された3つのサブテーマにおいてそれぞれ以下の成果を得た。
1. 「ケミカルライブラリー設計技術に関する研究」
反応性置換基を有するモノマーの開発とこれらのリビング配位・アニオン・ラジカル重合に成功,
分子量・末端構造が制御された反応性高分子の精密合成を実現した。また,ポリスチレンゲル上での
重合により,構造制御された固相担体を精密合成することに成功した。これらの固相担体の構造と反
応効率を 1H パルス NMR 分光器を駆使することにより解析することに成功した。
さらに上記固相設計の指針を得ることを目的に,具体的な合成対象物質として光 DNA 切断機能を有
する材料をえらび,その開発に成功した。
2. 「ケミカルライブラリー創製技術に関する研究」
固相合成では固相と反応基質を結合させるための「リンカー」が必要不可欠である。本研究ではシ
9
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
リルおよびスルホンリンカーの開発に成功した。さらに,反応の効率的進行に不可欠な脱離基として
蛍光検出可能なダンシル基の利用や,選択的合成に不可欠な保護基の設計・選択指針の確立に成功し
た。これらの成功をふまえ高選択的・高効率の固相有機合成を用い,これまで開発例のない糖鎖分子
やヘテロ環化合物,さらには C60 を含む機能性分子合成法の基盤技術を確立した。
さらに,自動合成システムに適した合成法の開発を目的に,新規固相担持型不斉パラジウム触媒の
開発や電解酸化反応を利用した炭素カチオン種の発生法(カチオンプール法)の開発に成功した。さ
らに,自動合成された化合物を自動精製するための多チャンネルカラムクロマトグラフィー用のモニ
タリングシステムの開発に成功した。
3. 「ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究」
表面プラズモン共鳴を利用した材料の厚さおよび屈折率変化の定量分析・DNA との相互作用を利用し
た非天然アミノ酸から成る人工ペプチド材料の結合配列の解明・水晶振動子センサーを用いた分子認
識能評価法・ペルチェ効果を利用した熱電変換材料の評価法・ガスセンサを利用した触媒性能評価法
など,従来用いられることの無かった物理的手法を評価法に発展利用することにより,多岐にわたる
新規物質群に対して対応可能な評価法の数々を開発することに成功した。
また,生理活性物質の迅速評価を目的に,細胞の利用を検討した。その結果,生理活性物質の細胞
膜透過性を飛躍的に高めるキャリアペプチドの開発や,エリシター誘導により発生した活性酸素の測
定による機能性オリゴ糖の高効率評価法の開発に成功した。
さらにこれまで開発されてきた生物学的機能評価および化学的機能評価法について広範な文献調査
を行い,方法論の体系化を行った。これは今後評価法の迅速な検索手法に発展すると思われる。
最後に機能の予測を可能とすることも視野に入れ,ペプチドの生理活性部位のコンピューターによ
る予測を検討した。その結果,95%の予測精度を達成した。
その他
これら3つのサブテーマ間では物質提供や情報の交換が行われ,その中から第二期の具体的な超機能
材料の開発に向けた指針を示す予備的成果が得られた。サブテーマ1では,サブテーマ2で開発され
たリンカーや保護基の設計に基づき「固相上での高分子材料の精密合成」に成功し,さらには2にお
ける自動合成システム化の情報をうけ「高分子材料の自動合成システム化」の設計段階に入っている。
サブテーマ2ではこのような1との交流のほかにもサブテーマ3への糖鎖ライブラリーの提供を行い
における生理活性評価法開発に貢献し,かつ改めて糖鎖ライブラリーの重要性を明らかにした。
サブテーマ毎、個別項目毎の概要
2.1. ケミカルライブラリー設計技術に関する研究
2.1.1. 固相反応場の精密設計に関する研究
2.1.1.1. 精密反応性高分子の開発とこれに基づく固相反応場の制御
①反応性置換基を有するモノマーの合成:水酸基・アミノ基・シロキシ基・オレフィンといった種々
の反応性置換基を有するアレン系およびアクリル系モノマーの設計と合成に成功した。さらに糖
誘導体などの光学活性置換基を有するモノマーの合成にも成功した。
10
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
②これらのモノマーのリビング重合の開発による反応性高分子の精密合成:具体的にはニッケル触
媒を用いた配位重合,サマリウム開始剤を用いるアニオン重合においてリビング重合系を確立し,
種々の反応性置換基を有する高分子(反応性高分子)の精密合成(分子量制御・末端構造制御・
ブロック共重合)に成功した。
③精密反応性高分子の固相への担持とそれらの反応性の評価:上記のニッケル触媒を用いた配位重
合において,種々のモノマーの重合に続くシロキシ基を有するモノマーのブロック共重合によっ
てガラス表面に化学結合を有する反応性高分子の合成に成功した。このポリマーのシロキシ基は
効率よくガラス表面と反応し,その表面を修飾することにより新規固相の合成に成功した。さら
にサマリウム系開始剤をポリスチレンビーズ上に担持し,これを用いたアクリル系モノマーのリ
ビングアニオン重合により,種々の反応性側鎖を有する高分子によって修飾されたポリスチレン
ビーズを得ることに成功した。
④精密反応性高分子担持型の固相反応場での反応効率および反応選択性評価:上記で得られた固相
上の反応性置換基はアセタール化・エステル化・アミド化・ジオール化をはじめとするさまざま
な固相反応に適用できることが明らかとなったことから一部を達成,現在詳細な評価を遂行中で
ある。
2.1.1.2. 機能性高分子担体の精密合成と固相反応場の構築
ラジカル重合及びリビングラジカル重合法を利用し、ポリスチレン誘導体、ポリメタクリル酸誘
導体、多糖誘導体等、様々な高分子鎖を、別途、設計・調製したポリスチレンゲルあるいは大孔径シ
リカゲル上にラジカル重合開始剤部位・重合反応性リンカー等を有する反応性ゲルを用いることによ
り、分子量や末端・ブロック構造等が制御された構造を有するポリマー鎖をゲル上に簡便かつ効果的
に固定化できることを明らかにした。さらに、本手法により得られた高分子ゲルの詳細な表面構造等
について検討した結果、ゲル構造のより精密な制御が可能であることがわかった。また、得られたゲ
ルの不斉分子認識場等としての機能について評価・検討を行なった結果、これまでにない分子認識機
能等を有することが確認された。以上のことから、本手法が新規機能性高分子ゲル構築法として極め
て有効であることが示された。
①リビングラジカル重合法等を利用した機能性高分子ゲルの開発
市販のクロロメチル化ポリスチレンゲル(Merrifield's peptide resin, 1% cross-linked, 200– 400 mesh)にリビング
ラジカル重合用開始剤を導入し、これを用いて Cu 錯体存在下、スチレン等、種々のビニルモノマーの原子移動ラ
ジカル重合を行うことにより、分子量や末端・ブロック構造等が制御された様々なビニルポリマー鎖をポリスチ
レンゲル上に簡便に導入できることを明らかにした。また、アニオン重合開始剤として機能する反応性部位を導
入した反応性ポリスチレンゲルを用い、立体特異性アニオン重合を行うことにより、立体構造の異なる種々のポ
リアクリル酸誘導体をゲル上に固定化することが可能であることを見いだした。以上により、ゲル上に重合開始
剤を導入し、重合を行う本手法が、様々に構造制御された高分子鎖を効果的に固定化する簡便な手法として極め
て有効であることが示された。
さらに、この手法をシリカゲル上へのポリマー鎖の固定化による構造制御型ゲルの構築に応用した。市販の大
孔径シリカゲル(Daisogel SP-1000, 粒径 7 ・ m, 平均細孔径 1000Å)を出発物質としてリビングラジカル重合用
ゲル開始剤を調製し、原子移動ラジカル重合を行った。その結果、種々のビニルポリマー鎖のシリカゲル上への
効果的な固定化が可能であることがわかった。また、本重合系では、固定化するポリマー鎖の分子量等を制御す
ることにより、シリカゲルの表面積や細孔径等の構造を自在に制御することが可能であることを明らかにした。
11
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
②多糖誘導体のシリカゲル上への固定化による新規不斉分子認識場の開発
セルロース誘導体のシリカゲル上へのより簡便かつ効率よい固定化とその不斉分子認識場等とし
ての機能について検討・評価を行った。
セルロースの側鎖の一部にビニル基を導入した誘導体を合成し、これをアミノプロピル化したシリ
カゲル、もしくは反応性官能基としてビニル基を導入した反応性シリカゲルに対して適度な割合で担
持し、これにさらに、種々のビニルモノマー及びラジカル開始剤を添加し、ラジカル共重合を行うこ
とにより、多糖誘導体のシリカゲル上への固定化を行った。さらに得られたゲルを HPLC 用カラムに
パッキングし、固相不斉分子認識場としての機能を評価した。その結果、本手法により非常に効率良
く多糖誘導体をシリカゲル上に固定化することが可能であることがわかった。さらに HPLC 用固定相
として、溶離液にクロロホルムを添加した系でも用いることが可能であるなど、従来の固定相に比べ、
溶媒に対する著しい耐久性の向上が実現されたばかりでなく、不斉識別能の向上も認められた。以上
により、本手法がこれまでにない分子認識機能・性能を有する新規機能性高分子ゲルの簡便かつ効果
的な合成手法として極めて有用であることが示された。
2.1.2 固相反応場の最適化と固相合成の設計に関する研究
「固相反応場の分子構造の解析」
に関して、固体 NMR 法を用いて固相反応場を構成する各々の要素、
高分子支持体/溶媒/反応基質の構造とダイナミックスをマトリックス高分子の溶媒膨潤による主鎖
および官能基のついた側鎖の構造とダイナミックスの変化の解析評価することにより、固相における
精密反応に最適な条件(マトリックス高分子と溶媒、他のグループで開発した新規マトリックス高分
子や新たに主鎖の立体規則性を制御した組み合わせ、溶媒による膨潤度、反応温度など)を得た。
「固相反応場の溶媒分子の分子運動性の解析」に関して、本年度購入した1H パルス NMR 分光器を
用いて、固相反応場中における溶媒分子、反応基質の分子運動性を議論し、固相における精密反応に
最適な条件(マトリックス高分子と溶媒の他のグループで開発した新規マトリックス高分子や新たに
主鎖の立体規則性を制御した組み合わせ、溶媒による膨潤度、反応温度など)を得た。
固相反応場を最適化するためには、固相反応場について詳細に理解する必要がある。固相反応場は、
高分子支持体、反応活性点(マトリックス高分子中の官能基のついた側鎖)、反応基質及び溶媒で構成
されている。固相反応の反応速度は、固相反応場中の反応活性点、反応基質及び溶媒の運動性と密接
な関係にあると考えられる。本研究では、Merrifield のペプチド固相反応場を選び、①固相反応場中の
溶媒分子の拡散過程の解析、②固相反応場中の反応基質の拡散過程の解析、③固相反応の反応速度の
決定を行った。解析手段としては、1H PFGSE NMR 法によりプローブ分子の自己拡散係数を測定した。
①では、高分子支持体としてクロロメチル化 PS ビーズ、溶媒として DMF 及び THF を選んだ。溶媒で
膨潤させた PS ゲル中の溶媒の拡散係数を、体積膨潤度及び温度を変化させて測定した。また、アレニ
ウスプロットをすることにより自己拡散の活性化エネルギーも決定した。PS ゲル中の溶媒の拡散係数
の体積膨潤度依存性は、体積膨潤度が 4 より小さい領域において大きく変化し、4 より大きい領域にお
いてはその変化が小さかった。実際の固相反応では体積膨潤度が 4 より小さい領域なので、体積膨潤
度は溶媒の拡散係数に大きく影響を与え、固相反応の反応速度に大きく影響すると考えられる。また、
DMF と THF の体積膨潤度依存性は非常に良く類似していた。温度に対してはどの体積膨潤度において
も拡散係数の変化は大きく、また、体積膨潤度が 1.8 より小さい領域においては、自己拡散の活性化エ
ネルギーが大きいことが確認された。以上より、体積膨潤度と温度は固相反応場の溶媒の拡散過程に
大きく影響する因子であることが示された。さらに、PS 鎖と溶媒との間に特別な相互作用が認められ
ない場合は、純溶媒の拡散係数を測定することにより、任意の体積膨潤度の自己拡散係数から見積も
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
ることができることがわかった。
②では、①の系に反応基質を加え、PS ゲル中の反応基質の拡散係数を同様の方法で測定した。反応
基質としてアミノ基を保護した Boc-Gly 及び Boc-Phe を選んだ。そこで、体積膨潤度が 2.5 程度の PS
ゲル中では反応基質の拡散成分が多成分存在することがわかった。60%の遅い拡散成分と 40%の比較
的速い拡散成分とである。これは、PS ゲル中の反応基質は、PS 鎖近傍に存在し PS 鎖と相互作用して
いる分子と PS 鎖遠方に存在し比較的速く拡散する分子とが存在するためと考えられる。一方、体積膨
潤度が 1.5 程度の PS ゲル中の反応基質の場合は、拡散成分は 1 成分でほとんどの分子が PS 鎖近傍に
存在し PS 鎖と強い相互作用をしているものと考えられる。この拡散成分の割合は温度変化によっては
変化せず、体積膨潤度を変化させた時のみ変化した。また、①と同様に、拡散係数の体積膨潤度依存
性を調べるために、PS 鎖と相互作用している分子を反映していると考えられる遅い拡散係数について、
体積膨潤度依存性を調べた。体積膨潤度を大きくしても、溶媒ほどの拡散係数の上昇は見られなかっ
た。PS 鎖近傍に存在する反応基質は PS 鎖と強い相互作用しているために、ネットワークが広がって
も、強く束縛されていると考えられる。③では、①及び②で得られた情報が反応速度にどのように影
響するのかを探るために、固相反応の反応速度を決定する手法を考え、実際に三つの異なる条件下で、
反応速度の決定を試みた。反応率は、未反応の反応基質の量を NMR スペクトルから見積もることによ
り求めた。また、反応速度は、反応率の時間変化を測定することにより求めた。これにより、PS ゲル
の体積膨潤度、温度が反応速度に大きく影響することが確認された。今後、様々な反応条件下におけ
る反応速度を決定することにより、溶媒及び反応基質の拡散過程との関係を見出すことができる。
2.1.3 高分子・超分子系超機能性材料設計に関する研究
①リン(V)テトラフェニルポルフィリン誘導体の合成法
出発原料であるジクロロリン(V)テトラフェニルポルフィリンの化学的性質を明らかにし、そ
れぞれシーケンスの異なるテトラフェニルポルフィリン枷型オリゴヌクレオチド誘導体の自動合成器
による合成ルートを検討して、固相自動合成法の有用性も同時に示した。
合成したシーケンスの異なる数種のテトラフェニルポルフィリン枷型オリゴヌクレオチドがそれ
ぞれ相補的なシーケンスをもつ DNA 分子とハイブリドを形成することを明らかにした。さらに、それ
らのハイブリドが可視光線照射によって、DNA が標的性の高い光分解を受けることを示した。
②ナノ炭素材料の固体界面合成法
カーボンナノチューブの合成は、三重結合を含む炭素材料の調整と、その加熱下での電子線照射
より行うもので、本方法によるカーボンナノチューブの成長は非常に大きく、以下の2ステップから
なることが見出された。
ステップ1:空洞のないカーボンロッドの形成(速い反応)
ステップ2:カーボンナノロッド内での空洞の形成(遅い反応)
MBE 装置の組み立てについては、Kセルを購入済の真空排気装置に設置した。取付作業は終了し
ているものの、電源関係がまだ当初設計通りに動作せず、現在調整中である。
2.2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
2.2.1. 固相合成法を活用した機能性分子ライブラリー創製に関する研究
2.2.1.1. 固相合成法の開発と機能性分子ライブラリーの構築
固相上に化合物を担持するためのリンカーの開発、固相上の合成反応の開発、ライブラリー構
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
築のための合成戦略の開発を研究し、それらすべてにおいて下記の成果を得た。
①活性エステルを有するトリアルキルヒドロシランのヒドロシリル化反応を検討し、トリアルキル
シリルエーテルをリンカーとし、糖の6位を固相上に担持する手法を開発した。このリンカーは、
続く糖鎖上のチオアセタートの導入、アシル基の還元条件下での脱保護、マスクしたエンジイン
とのS− アルキル化に安定で、かつ弱酸により切断でき、不安定で両親媒性のエンジイン化合物
の固相合成に有用であることを明らかにした。さらに本手法の反応条件の最適化を行い、実際に
DNA切断活性を有するオリゴ糖— エンジインハイブリッド分子のライブラリー構築に成功し
た。
②固相担持触媒を用いた触媒的不斉ストレッカー型反応を検討し、芳香族置換イミンと・・– 不飽
和イミンに対して高活性,高エナンチオ選択的な固相担持型ルイス酸− ルイス塩基多点認識不斉
触媒の創製に成功した。この触媒はリサイクル可能なルイス酸触媒として他の反応にも拡張でき
ると期待できる。
③固相に担持したアルコール、アミン、アミノ酸に対し、ハロゲン化アリールとパラジウム触媒を
用いたカルボニル化を検討し、相当するエステル、アミドを高収率、高選択的に得る条件を見出
した。これまで報告例のなかった固相上での気相反応を開発し、さらに種々のハロゲン化アリー
ルとアルコール、アミンの組み合わせで一挙にライブラリーを構築することに成功し、ライブラ
リー構築の基盤技術として確立した。さらにペプチド合成に本反応を適用し、その有用性を明ら
かにした。現在液晶分子の一般合成法への応用を検討している。
2.2.1.2. 生体機能分子を目指した固相における炭素− 炭素結合形成反応の開発
トレースを残さない新規高分子固定化アミン(BOBA 樹脂)を用い,イミンの還元的アミノ化反応を行
った.本手法はイミンを単離することにより,従来問題とされてきたジアルキル化体の副生を伴うこ
となく良好な収率でモノアルキル化体を得ることができる.また単量体では通常不安定で取り扱いが
困難なグリオキシル酸エステルを高分子上に固定化することにより安定化を計り,固相上において
様々な有機合成反応を行った.グリオキシル酸エステル前駆体を Merrifield 樹脂に固定化し,固相上
で変換を行い,次いでルイス酸触媒を用いて固相上で炭素—炭素結合生成反応を行った.さらにイミ
ンを鍵中間体として含窒素化合物の合成を行った.その結果,いずれの場合も反応は固相上で円滑に
進行し,目的とする生成物を高収率で得ることができた.
有色の保護基,脱離基に利用できる色素の探索を行ったところ一般にアミノ基などの蛍光検出薬と
して用いられているダンシル基が化学的安定性,反応性,物性などに優れていることを見出した.こ
れを用いて固相上での脱離反応の追跡を行い,簡便に固相上の反応の追跡ができることを明らかにし
た.さらに,固相上での脱離反応の定量的な検討を行い,従来にない高感度な検出法であることを明
らかとした.また,ダンシル基を修飾することにより水酸基の保護基としても利用可能なタイプの誘
導体を新たに開発した.
2.2.1.3. 高度機能性糖鎖・ヘテロ環化合物ライブラリーの構築
独自に見出した新しい水酸基の保護基ならびに立体選択的グリコシル化反応を活用し、糖鎖の固相
合成に成功した。多孔質ポリスチレンを担体に用いることで液相合成に用いられる全ての溶媒が使用
できることを示し、液相系での糖鎖合成手法が固相合成に適用できることを示した。糖鎖固相合成で
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
は担体上の場の反応性が不均一であるために反応が部分的にしか進行せず混合物を与えることが問題
であったが、これを2つの方法によって解決した。ひとつはケミカルタグを持つ目的化合物のみを特
異的な相互作用により固相担持試薬に結合させる Chemical Fishing と名付けた手法である。もう一つ
は固相担体上の反応性の高い場のみを選択して固相合成を行わせる方法である。これらの手法を用い
ることで一般的な糖鎖の固相合成法の基礎を築いた。
一方固相担持リガンドを特異的に認識する分子を糖鎖に組み込み、その相互作用を利用して目的糖
鎖だけを単離するという、固相と液相のハイブリッド法も開発した。この方法を用いて免疫増強活性
複合糖質リピド A のライブラリーの構築に成功した。
一方高度機能性ヘテロ環化合物ライブラリーの創製を目指し、新規な効率的ヘテロ環構築法として
アゾメチンイミンとジメチルアセチレンジカルボキシレート (DMDA) との新規 1,3-双極子環化付加反
応を見出し、この反応を利用してピラゾール誘導体の固相合成に成功した。さらに含酸素系 1,3-双極
子であるシラカルボニルイリドの発生法とそのシクロ付加反応を世界に先駆けて明らかにした。
高圧固相合成反応という新ジャンルを開拓した。上記のピラゾ− ル合成では、過剰の反応試剤を用
いるため、過剰反応が進行する。固相合成が一般に避けることのできない過剰量の試剤の使用という
欠点を克服するために、高圧反応という新しい手法によって等モル反応を可能にし、固相反応のグリ
ーン化にも新しい道を拓くことに成功した。
2.2.1.4. 機能性材料ライブラリー創製を目的とした固相精密合成法の開発
機能性分子としてフラーレン(C60 など)を取り上げた.フラーレンの構造と生物作用機能を解析す
ることを目的として,水溶性を高めた一置換フラーレン類を合成し,それらがより強いグルタチオン
Sトランスフェラーゼ酵素阻害活性を有することを明らかにした.この結果は,フラーレンをファー
マコフォアとする GST 阻害薬の開発(分子設計)に役立つ有意義である.また,フラーレン誘導体の
固相合成法の開発のための基礎実験として,フラーレンを固定するための固相(ポリマー)の修飾反
応,フラーレンと固相との結合反応,官能基を有するフラーレン誘導体の合成実験を行い,効率的な
固相結合反応法を見いだすべく,条件検討を行った.当初の予定では,Dields-Alder 反応および逆
Dields-Alder 反応を用いてフラーレンと固相との結合/離脱反応を行うことを計画し,固相(ポリマー)
の修飾反応,およびフラーレンと固相との結合反応を行ったが,満足できる結果を得ることはできな
かった.そこで,C60 とアゾメチンイリドとの間で惹起される 1, 3-双極子環化反応を用いた C60 誘導
体化法を確立し,それを用いてフラーレンと固相とを結合させることとした.その結果,三種のビル
ディングブロック(フレロプロリン誘導体,および,フレロピロリジン誘導体)の合成に成功,つい
で,これらのビルディングブロックを用いて固相への結合反応を検討し,COOH 側での固相への結合,
NH 側での固相への結合を達成した.これらの研究成果により,固相合成による機能性フラーレン分子
ライブラリー構築の道筋が完成した.今後は,これらの固相合成を用いたフラーレン誘導体の合成を
行い,機能性フラーレン誘導体ライブラリーの構築を目指す.
2.2.2. 自動合成システムを活用した機能性材料ライブラリー創製に関する研究
2.2.2.1. 自動合成用戦略的合成反応の開発
①高分子固相ゲル上にホスフィン構造を導入した.
②同ホスフィンを足掛かりとした遷移金属錯体形成が速やか且つ定量的に進行することを見いだ
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
した.特にパラジウム錯体触媒を形成した.
③調製した固相担持錯体が幾つかの代表的有機変換工程を効率よく触媒することを見いだした.
④固相として両親媒性ゲルを利用することで,上述の触媒工程のほぼ全てが水中で進行することを
見いだした.
⑤高分子固相ゲル上を利用した担持触媒形成手法を酸塩基触媒調製へと拡張しつつある.特に4級
アンモニウム塩の導入とPTC型反応への適用に成果をあげた.
⑥確立した手法に基づき,固相担持遷移金属錯体種のコンビナトリアル合成手法を確立しつつある
⑦水中での固相担持触媒による高立体選択的合成プロセスの実現を目指し検討を進め,世界に先駆
けて最高99/1以上の立体選択性を実現する水中機能性固定化不斉触媒の開発に成功した.
2.2.2.2. 自動合成用センサーシステムの開発
並列カラム用紫外線センサーシステムの開発においては、1つの放射状紫外線光源の周囲に、光学
検出セルとしてのガラス管を円筒状に多数並べる構成を考案した。このモニタリングシステムの構成
要素として、放射光源と1本のガラス管および、市販の紫外線センサーからなる実験系を試作し、そ
の特性を実験および数値計算による光幾何学的解析によって調査した。その結果、放射光がガラス管
および管内液体により集光されて、液体の紫外線吸収率および屈折率の違いが増幅されるため、安価
な市販センサーでもこれを検出することが可能であることが判明した。また、並列系の開発に先立ち、
この実験系と市販の紫外線(吸収型)分析器を直列に接続し、実際のカラムにおける有効性を調べた
ところ、ほとんどのケースで市販検出器と同様の出力を得たが、いくつかのケースで吸収率の変化よ
りも屈折率の変化の影響が大きいと思われる結果が得られた。そこで、吸収率と屈折率の両者の変化
に対応できるように1つのガラス管につき2つのセンサーを利用することとし、開発した光学解析プ
ログラムによりその位置やガラス管− 光源距離等の設計パラメータを検討した。以上の結果から、現
段階では生成物に関する定量的な情報をモニターするには至っていないが、20チャンネル程度の並
列カラムによる分離状態のモニターとして、フラクションコレクタの制御用に用いることのできる紫
外線センサーシステムが、現1チャンネル用の検出器と同程度以下の価格で製作できることが示され
た。
一方、合成反応の進行状態のモニタには溶液の定量分析を行う必要があるが、これを能動型匂いセ
ンサーにより行うことを考えた。このセンサーは対象臭と同じ匂いを、センサアレイの出力パターン
が一致するように複数の要素臭を調合して合成し、その要素の構成比として分析するものである。本
研究においては、能動型匂いセンサの構成要素として、コンピュータと複数のマスフローコントロー
ラを用いた要素臭ブレンダを構築した。水晶振動子を用いたセンサーアレイの出力パターンに基づく
要素臭の流量制御は、最適制御の手法を用いた。試作した能動型匂いセンサーを用い、果実フレーバ
ーの例として「りんご臭」の分析を行った。その結果、4成分を仮定した場合、1分以内で対象臭と
区別のつかない匂いを定量できることが示された。以上の結果から、能動型匂いセンサは適切な要素
臭データベース(ライブラリ)を用いれば、合成反応の定量モニターをとして利用できることが判明
した。
2.2.2.3. 自動合成装置システム化を目指した装置の改良・改善
①バッチ型自動合成装置のハードおよび制御系の両面から装置の改良改善
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
汎用型自動合成装置をベースとし、分注部および反応槽の改良・改善を行った。自動シリンジ
を用いて基質や反応剤などの溶液を反応槽に加える分注操作や反応温度の制御や撹拌などの問題
についての種々検討行い、装置の改良・改善を行った。蒸気圧の高い(揮発性の高い)有機溶媒
を正確に分注するために基質や反応剤などの溶液の入ったリザーバー自体を冷却することで分注
精度の向上を行うことができた。
②フロー型自動合成システムの開発
従来の液相合成には上記のようなバッチ型の自動合成装置が用いられてきたが、評価系などと
組み合わせたシステム化が容易なフロー型自動合成システムの開発も重要である。われわれはこ
のフロー系に電気化学的なレドックスシステムを組み込むことで、新しいフロー型自動合成シス
テムの開発をめざした。具体的には我々が最近開発した、低温電解装置を用いて有機化合物を電
解酸化することで発生させた炭素カチオン種の「プール」に炭素求核剤を作用させることで、炭
素− 炭素結合を生成させる新しい方法論「カチオンプール法」をフロー法(「カチオンフロー法」)
へと展開させた。本システムの心臓部であるフロー型マイクロ低温電解セルは我々独自で設計・
開発し、隔膜の種類、陰極の形状、電気量、溶液の流速、基質濃度など様々なファクターをチュ
ーニングすることで、このフローシステムの基本骨格を構築した。さらに、このシステムを用い
た各種カルバメートを基質とする酸化的炭素− 炭素形成が良好な収率で進行することを見出した。
③機能性材料ライブラリーの評価システムの構築
コンビナトリアル合成システムを構築する場合、合成された液晶物質が求められる性能を有す
るかを迅速にスクリーニングする評価システムの開発も重要である。さらに、スループットを向
上させるためには、評価システムも並行処理に対応していることが望まれる。本研究では、試料
設置部および相変化検出部のコンパクト化を考慮した液晶相の光散乱性を応用した、液晶物質の
評価システムを作製した。数種類の液晶物質を用いてこのシステムの評価を行った結果、液晶相
の存在を非常に感度良く検出することができた。このシステムは試料設置部や測定部がコンパク
トであることから、バッチ処理システム化移行に対しても比較的容易に対応できると考えられ、
液晶評価法の迅速化へ向けて、強力な手段を提供するものと考えられる。
2.3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
2.3.1. 超機能評価法の開発
有機系および無機系ライブラリー対象に従来より10~100倍、高効率に評価できるハイスループ
ットスクリーニング(HTS)手法を開発した。有機系では主に分子認識能の評価法を、無機系では
熱電変換特性評価法、ガスセンサーによる固体触媒評価法について研究開発を行い以下の成果を
得た。
①光学的評価法の開発
表面プラズモン共鳴(SPR)に基づき、基板上に作製した試料の微小な厚さまたは屈折率の変化
を2次元的に測定することのできる新しい手法を開発した。定量性に難点があった従来のSPR測定
法に対し、100以上の試料の同時・定量的な表面分析が可能となった。
②人工タンパク質機能評価法の開発
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
DNA認識作用を持った人工タンパク質を開発するために、PCR法を利用した新たな評価法を開発
するとともに、非天然アミノ酸を用いて作成したヘリックスを用いた異種二量体のDNA結合材料の
開発に成功した。
③分子認識材料評価法の開発
ペプチドのランダムライブラリーを作製し、ポルフィリンや、3,4-ジクロロアニリン等低分子
を認識する選択的ペプチド評価法を開発した。ポルフィリン結合ペプチドをモデルとして用い、
検出感度の検討を試みた結果、水晶振動子センサーによる直接検出で検出限界値は20・g/mlであ
ったが、ラテックスビーズによる質量増感を行った場合、10ng/mlまで感度上昇が可能となった。
また、ペプチドアレイによるパターニング評価についても検討した。
④電気的評価法の開発
ライブラリーの電気抵抗率を迅速に評価する方法として、各試料に電子線を照射した時の試料
電流を測定する方法、および試料を高周波場に置きその温度をモニターする方法を開発した。さ
らに熱電性能指数Z値の迅速評価のため、ペルチェ効果を利用した手法を開発した。これにより、
従来法で1週間程度かかっていた測定が5分程度で終了する。
⑤固体触媒評価法の開発
プロパン部分酸化反応に有効な触媒性能の評価を高効率で行うため、ガスセンサの利用を検討
した。アルデヒド・ケトン類の定量に半導体センサ、一酸化炭素、二酸化炭素の定量に、定電位
電解式センサ等を用いた。このシステムで行った生成物定量の結果はガスクロマトグラフを用い
た場合とほぼ一致しており、分析に要した時間は1/20以下となった。
2.3.2. 超機能材料におけるライブラリーの評価
2.3.2.1. ケミカルライブラリーの評価方法の調査
①生物学的機能
文献調査、訪問調査により、分光学的分析手法、放射化学的分析手法、及び電気化学的手法等
を利用したライブラリーの生物学的機能評価法の調査を行い、効率良くスクリーニングするため
の有効な方法を特定することができた。また生理機能に関して、特に循環器、中枢、免疫、炎症、
感染症、骨代謝および悪性新生物領域に関する評価法の調査を行い、高速評価が可能なスクリー
ニング方法として有効な手法を見出した。
②化学的機能
触媒機能、蛍光機能、電池機能、センサー機能等を評価するための手法として、分光学的分析
手法、放射化学分析手法、熱分析的手法、原子スペクトル分析手法、電気化学的手法、及び顕微
鏡観察手法等について文献調査、訪問調査を行った。各手法に用いられる多くの分析法について、
迅速性、定量性、サンプリングの容易さ等に関する特徴を比較検討した結果、分光学的分析手法
としては赤外サーモグラフ法および蛍光法が、熱分析的手法としては昇温脱離法および等温吸着
法が、原子スペクトル分析手法としてはEPMA法およびEDX法が、顕微鏡観察手法としてはSEM法が、
一般的ライブラリーの高速スクリーニング法として使用できることが明らかとなった。実際のラ
イブラリー評価のためには、これらの手法をライブラリーに合った形にモディファイすることで、
HTS法として活用することが有効である。
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2.3.2.2. 超機能材料におけるライブラリーの評価
①培養細胞を用いたケミカルライブラリーの高効率的評価手法の開発
ペプチドや糖などは生理活性物質の宝庫と考えられる。これらは一般的に高分子量、高親水性
であり、細胞膜透過性が低いことが、細胞系を用いる活性分子のスクリーニングにおける重要な
問題点の一つである。この問題の打開策として、我々は、種々のペプチドの膜透過性を検討し、
分子量3万程度の外来タンパク質を数分で細胞内に導入可能な、高い膜透過・キャリア能を有す
るペプチド(3種)を見いだした。次に、これらのキャリアペプチドを用いて、リウマチや免疫
系の調節、アポトーシス(細胞のプログラム死)に関与する転写因子NF-・Bの活性化抑制ペプチ
ドの細胞内導入と機能評価を試みた。この結果、いくつかのペプチドにNF-・B活性化抑制効果が
見られたものの、細胞周期などを含めた細胞の生育状態の違いなどにより、その活性にかなりの
差が生じ、再現性という観点から、実用化のためには、細胞の生育状態を制御するとともに、結
果を標準化することが課題となることが分かった。
②生化学的手法によるケミカルライブラリーの高効率的評価手法の開発
アガロースゲル電気泳動を用いて、糖鎖(DNA認識部位)とエンジイン(DNA切断部位)を併せ
持つ約50種からなるライブラリー分子のDNA切断活性の評価を行い、この方法がDNA切断活性評
価において実用的であることを確認した。また、DNA認識における金属の影響を検討し、より効果
的なDNA認識のためには糖鎖のデザインをさらに検討すべきであることが分かった。一方、新しい
DNA配列を認識や金属による転写スイッチ能を有する人工転写制御因子の創出のためのライブラ
リーデザインのプロトタイプとして、亜鉛フィンガー型転写因子の金属配位モチーフの連結、交
換、あるいはアミノ酸置換によるDNA認識様式の検討を行った。キャピラリー電気泳動やDNAシー
クエンサーがDNA結合・認識活性の効率的評価にも適用可能であることも分かった。
2.3.3. 超機能材料創製のための最適設計手法の確立
①オリゴ糖のエリシター活性評価
イネ培養細胞を材料として、植物の生体防御機構を活性化する作用(エリシター活性)を再現
性良く、かつ簡便に測定する方法を検討した。エリシターによって誘導される種々の細胞応答の
うち、測定の容易さ、ハイスループット化の可能性、生物的意義などから活性酸素生成誘導を指
標とすることとした。種々の培養細胞系を検討した結果、特定の品種由来の培養細胞と培養条件
を組み合わせることにより、再現性良く、また、効率的にエリシター誘導活性酸素生成を測定す
る方法を確立した。強いエリシター活性をもつキチン系列オリゴ糖を用いて検討した結果、その
他の指標を用いた場合とよく一致する結果が得られ、迅速・簡便で信頼性が高いことが示された。
本測定法により、植物病原菌細胞壁から単離した新規のエリシター活性グルコオリゴ糖とその類
縁合成オリゴ糖ライブラリーの評価を行った結果、天然物から単離精製・構造決定した活性オリ
ゴ糖と合成品で良く一致した結果が得られるとともに、受容体の認識特性を考える上で興味深い
構造・活性相関に関する結果が得られた。また、オリゴ糖ライブラリー評価と天然物からの単離・
特性解析を併用することにより、新規で高活性なエリシターを見出すことができつつある。一方、
エリシターのタイプによって活性酸素応答を指標とすることが適切でない場合も示唆されたため、
今後遺伝子発現その他を指標とする簡便で生物的意義の明確な測定法を開発する必要性も示され
た。
19
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
②ペプチドのin silico評価法の開発
生理活性ペプチドを中心に、ペプチド構造・機能情報データを整備した。アミノ酸配列情報か
ら機能部位を推計するためのアルゴリズムをプログラミングし、プロトタイプシステムを開発し
た。生理活性ペプチド20種を対象に、機能部位が正しく予測しうるかどうかの評価を行った結果、
95%という最高の予測精度が得られた。
2.4. 研究推進
2.4.1. 分科会の開催
第1分科会、第2分科会および第3分科会を設け、第1分科会には9月に、第2分科会は6月に、
第3分科会は7月に、また3分科会合同の分科会を1月にそれぞれ開催し、分科会内および分科会相
互間の情報・意見の相互交換を行うことにより、研究成果の分科会内および他の分科会へのフィード
バックを円滑に行うことができた。
波及効果、発展方向、改善点等
①「高分子担体の精密合成」「担体の設計」「超機能性材料の固相合成」という一連の技術が確立
されたことにより,有機無機の低分子・高分子・超分子,ならびにそれらのハイブリッド物質が
迅速かつ高効率に提供される基盤技術が確立されたと考えられ,これまでにない材料の出現は間
近である。その化学的価値は類を見ない。高分子担体の設計と精密合成を目指した結果,これま
で試行錯誤に頼ってきたモノマー設計・重合反応設計・低分子高分子相互作用の評価などがより
確固たる指針を元に行えるようになりつつあり,これは化学のみならず物理学や生命科学へ大き
な影響を及ぼすと考えられる。
② 固相合成用リンカーの開発、固相合成反応の開発、固相担持触媒の開発、自動合成用センサー
および自動合成用システムの開発においては、いずれもあらたな分野を開拓しているものであり、
その研究成果は世界的に学術的価値が高い。本研究成果による迅速な化合物ライブラリー構築法
は、新規機能性材料の探索法として新機軸となるもので波及効果は非常に大きい。
③ 開発した評価法はいずれも独創性の高いものであると共にその開発の中で、以下に示すいくつ
かの科学的価値の高い知見が得られている。2次元表面プラズモン共鳴法では従来達成されなか
った定量性をえることができた。オリゴペプチドでは結合力、認識能も低いが、小分子であるこ
とを利点とした複数分子の結合におるサンドイッチ結合が可能であることや、再生可能な結合素
子を形成可能であることが示された。特に再生可能であることは、グリーンテクノロジーの観点
から注目される。新規膜透過キャリアペプチドは従来のエンドサイトーシスとは異なる新しい細
胞内への物質取り込み経路の存在を強く示唆する。エリシター活性オリゴ糖の構造・活性相関を
明らかにすると共に、いくつかの新規活性オリゴ糖を発見した。本研究で開発した各評価手法は、
特定の機能の評価をターゲットにした手法が多いが、その原理を用いることで、広く細胞生物学
的研究、機能性分子の開発、新規医薬品材料の開発、DNAチップの評価、電気的機能材料開発
などに波及することが期待できる。また、いくつかの手法はコストの問題が解決すれば実用化さ
れる技術として期待される。
20
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
研究成果の発表状況
4.1. 研究発表件数
原著論文による発表
左記以外の誌上発表
口頭発表
合
計
国内
13 (2) 件
34 (3) 件
297 件
344 (5) 件
国外
134 (7) 件
12 (1) 件
111 件
257 (8) 件
合計
147 (9) 件
46 (4) 件
408 件
601 (13) 件
(注:既発表論文について記載し、投稿中の論文については括弧書きで記載のこと)
4.2. 特許等出願件数
第 I 期
15 件
(うち国内 15 件、国外 0 件)
4.3. 受賞等
第 I 期
16 件 (うち国内
14 件、国外 2 件)
・日本化学会賞(平成 12 年 3 月)名古屋大
岡本佳男
・日本化学会学術賞(平成 12 年 3 月)京都大 澤本 光男
・日本化学会学術賞 (平成 13 年3月) 京都大 吉田潤一
・有機合成化学奨励賞 (平成 13 年 2 月)
東工大 土井隆行
・平成 12 年度日本薬学会賞 (平成 12 年 3 月) 京都大 杉浦幸雄
・文部科学大臣賞(研究功績者) (平成 13 年 5 月) 農業生物資源研究所 渋谷直人
21
他
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
4.4. 主要雑誌への研究成果発表
Journal
Impact
サブテーマ
サブテーマ
サブテーマ
Factor
1
2
3
Plant Cell
9.579
Angew. Chem. Int. Ed.
8.184
J. Biol. Chem.
7.452
J. Am. Chem. Soc.
5.948
Biochemistry
合計
1
1
1
2
1
1
1
2
9
4.813
5
5
Nucleic Acids Res.
4.488
2
2
J. Org. Chem.
3.722
Macromolecules
3.331
10
10
Chem. Commun.
3.107
4
4
7
3
3
主要雑誌小計
15
11
11
37
発表論文合計
61
41
45
147
22
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
1. ケミカルライブラリー設計技術に関する研究
1.1. 固相反応場の精密設計に関する研究
1.1.1. 精密反応性高分子の開発とこれに基づく固相反応場の制御
山形大学工学部
遠藤
要
剛
約
1. 固相として架橋ポリスチレンビーズを用い、固相担持型サマリウムエノラートを開始剤として用いることに
より種々のメタクリル酸エステル類のビーズ上でのリビングアニオン重合に成功した。生成したポリマーの側鎖
変換も固相上で効率良く行うことができ、さらに固相とポリマーを連結するリンカー部位を選択的に切断するこ
とによりポリマーを単離することが出来た。さらに、アレン類のリビング配位重合法に基づき、固相への連結部
位、スペーサー部位、およびリンカー部位となる骨格を付与した三元ブロック共重合体を合成し、これを用いた
新しい固相の開発と応用を行った.
2. 有機ポリマー存在下でのアルキルシリケートのゾル-ゲル法による有機―無機ハイブリッド材料の合成にお
いて、共有結合や水素結合の他、π-π電子相互作用やイオン間相互作用などを新たに利用することにより、新し
いハイブリッド材料の合成法を開拓し、さらにパラレル合成手法を導入することにより新しい有機―無機ハイブ
リッド材料を効率的に合成することができた。
3. 人工糖脂質ライブラリー合成法としてモジュール法が有効であることを明らかにした。さらにライブラィー
の調製では固相反応を利用することにより高効率化を実現した。得られた人工糖脂質の水溶液中における会合体
形成挙動について検討した。
研究目的
架橋ポリスチレンビーズをはじめとする固相上での有機反応は、種々の有機化合物のライブラリーを得る上で
重要である。しかしながら今後これまでにない機能を有する材料を固相上で合成する際には、従来の固相だけで
は多様な反応に適用できないことがわかっている。本研究ではより高い効率が実現可能な固相の開発を目的に固
相上に精密反応性高分子を担持することを検討した。この主目的に加え、開発すべき具体的ターゲット化合物を
選定する際の予備的知見を得る目的で有機―無機ポリマーハイブリッド材料、および人工糖脂質ライブラリーの
開発を行った。
研究方法・研究成果ならびに考察
1. リビング重合による精密反応性高分子の開発と固相反応場への応用
1.1. 固相担持型サマリウムエノラートを用いたメタクリル酸エステル類の固相リビングアニオン重合
1.1.1. 固相担持型サマリウムエノラート
リビング重合法は定量的な開始反応と生長反応のみからなる重合法であり、これを用いることにより得られる
23
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
高分子の分子量を開始剤とモノマーの仕込み比によって制御することができる。また、得られる高分子の分子量
分布は狭く、長短さまざまな高分子鎖の混入がないため、その物性を予測・制御することが容易である。また、
モノマーが消費された後も重合末端は活性を保っており、再度モノマーを添加することにより重合が再開し、分
子量が増大する。一段階目と異なるモノマーを加えた場合にはブロック共重合体が得られ、また、適当な反応性
低分子を作用させることにより、末端に種々の官能基・機能団を導入すること(末端修飾)が可能である。これ
らのことから、リビング重合法は一つの分子鎖に多数の機能を有する高分子(多機能性高分子)の優れた合成法
であるといえる。このリビング重合を架橋高分子上で行なうことができれば,固相有機反応用の架橋高分子担体
に種々の機能(溶媒・反応剤分子との親和性など)を容易にかつ設計通りに付与することが可能になるだけでは
なく,機能性高分子材料のコンビナートリアル合成の基盤技術が構築されることが期待される(図 1)。
Living Polymerization from Solid Supported Initiator
*
*
Functional
monomer
Living Polymerization
Molecular Weight Control
Block Copolymerization
End-capping
Modification of Side Chain
Initiator on
Solid Support
Synthesis of Highly Functionallized Solid Support
Combinatorial Approach to Well-defined Materials
図1
一方、これまで我々はヨウ化サマリウム(II)の還元能を基盤とする種々の開始反応の開発、およびこれを用い
たリビング重合法を開発してきた。たとえばテトラヒドロフランのリビングカチオン重合末端に対してヨウ化サ
マリウムを加えるとカチオンがアニオンへと還元され、これはメタクリル酸エステルのアニオン重合を開始する。
重合はリビング的に進行するため、テトラヒドロフランおよびメタクリル酸エステルそれぞれのユニットの重合
度が制御されたブロック共重合体が得られる。また、2-ブロモカルボン酸エステルに対してヨウ化サマリウムを
加えた場合には、求電子的な結合である臭素-炭素結合が還元され、逆に求核的な活性種であるサマリウムエノ
ラートが生成する。このサマリウムエノラートはメタクリル酸エステル類のリビング重合を開始する(図 2)。
O
RO
Br
R'O
OSmX2
SmI2
O
O
OSmX2
RO
RO
OR'
R'O
O
living polymerization
図2
そこで本研究では,このサマリウムエノラートによるアニオン重合を固相上での重合へと展開し、高
分子材料の固相精密合成法の基盤技術確立を目指した。即ち,2-ブロモイソ酪酸エステルを架橋ポリス
チレンビーズ上に担持し,これを二価のヨウ化サマリウムによって還元することにより得られる固相担
24
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
持型サマリウムエノラートを用い,メタクリル酸エステルのリビングアニオン重合を行った (図3)。
OSmX2
O
O
linker
RO
SmI2
Br
linker
O
O
linker
O
OSmX2
O
OR
RO
O
図3
1.1.2. 固相担持型サマリウムエノラートによるメタクリル酸メチル(MMA)のリビング重合
サマリウムエノラート発生法として、ブロモイソ酪酸エステルのヨウ化サマリウムによる還元が有効である。
そこで、固相として水酸基化架橋ポリスチレンビーズを用い、その水酸基をエステル化することによりエノラー
ト前駆体を調製した。これに MMA の存在下、ヨウ化サマリウムを加えたところサマリウムエノラート発生と同時
に重合が進行した(図 4)。重合後、サマリウムの残存塩や添加剤等はビーズを適当な溶媒で洗浄することによっ
て容易に除去することができた。得られたビーズの IR 分析よりポリ MMA のエステルカルボニルに由来する吸収が
観測され、またビーズはモノマー添加量に見合った重量増加を示したことより、重合が定量的に進行したことが
分かった。
重合の経時変化を追ったところ、モノマーコンバージョンの一次プロットは直線となり、またコンバージョン
に対する単離ポリ MMA(単離方法については後述)の数平均分子量も直線関係を示したことから、本重合がリビング
的に進行していることが分かった。実際にモノマー再添加や末端の活性を利用したアルデヒドによる末端修飾に
よってもリビング性が確認できた。
ここで、生成したポリ MMA はベンジルエステルリンカーをトリフルオロ酢酸によって切断することにより定量
的に単離することが可能であった。側鎖のメチルエステルや末端修飾で生成したアルコール部位には全く影響が
無かった。
O
O
O
Br
MeO
O
OSmX2
O
SmI2, t-BuCONEt2
OMe
MeO
O
THF, -78°C
O
H
R1
O
R
1
O
OH
MeO
O
R1
O
CF3COOH
HO
OH
MeO
O
図4
1.1.3. ポリ(メタクリル酸アリル)の固相上での重合と固相上でのアリル基の化学変換
先に述べたとおり,固相上のサマリウムエノラートによって MMA の重合がリビング的に進行することが分かっ
た。そこで、モノマーとして類似構造を有し、かつ重合後に化学変換可能な置換基を有するモノマーとしてメタ
クリル酸アリル(AMA)を用いて重合を行った(図 5)。その結果、重合反応追跡やモノマー再添加実験により、こ
の場合にもリビング的に重合が進行したことが分かった。生成したポリマーはベンジルエステルリンカーをトリ
25
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
フルオロ酢酸によって切断することにより定量的に単離することができ、このとき側鎖のアリルエステルは影響
を受けなかった。
AMA のリビング重合性を利用し、MMA とのブロック共重合により A-B-A 型トリブロック共重合体を合成すること
に成功した。生成したブロック共重合体の側鎖アリル基のオレフィンはオスミウム酸化によって効率よくジオー
ルへと変換できた。用いた試薬等は樹脂を適宜洗浄することにより容易に除去することが出来た。最後に、リン
カーの切断を行い、用いたトリフルオロ酢酸を留去することにより、通常では再沈殿等での精製が困難な両親媒
性ブロックコポリマーが容易に得られた。このことは固相を用いる有用性を示す一例であり、これら機能性ポリ
マーのライブラリーを迅速に構築する上で重要な基盤技術になると思われる。
O
O
O
O
O
O AMA
Br
OSmX2
OMe
O
SmI2, t-BuCONEt2
O
THF, -78°C
O
AMA
MMA
H
+
H
O
O
OO
OO
Me
O
OsO4
NMO
O
O
H
MMA
O
CF3COOH
O
O
O
H
MMA
HO
O
O
O
O
HO
HO
HO
HO
HO
HO
HO
HO
O
図5
1.1.4. 保護水酸基を有するメタクリル酸エステルの固相重合とグラフト共重合
次に、保護水酸基を有するメタクリル酸エステルの固相担持型サマリウムエノラートによる重合を行った。モ
ノマーとしてトリメチルシリル保護されたヒドロキシエチルメタクリラート(TMS-HEMA)を用い、MMA や AMA と同
様の条件で重合を行った(図 6)。重合の経時変化やモノマー再添加実験により、この場合にも重合がリビング的
に進行することがわかった。重合を停止するために希塩酸を加えたところ、同時に側鎖のシロキシ基が加水分解
され、ポリ HEMA が担持されたビーズが得られた。この側鎖水酸基は、エステル化等による機能団導入に用いるこ
とが出来ると考えられる。
一方、これまで我々はアルコールを開始剤とする環状エステル類のリビング開環重合について報告している。
この場合モノマーの活性化剤として塩酸を用いることができ、きわめて簡便かつ適用範囲の広い重合法である。
そこで、前述のようにして得られた固相担持型ポリ HEMA の側鎖水酸基を開始剤として用いることにより、固相上
での環状ラクトン類の精密グラフト重合が可能ではないかと考えた。
環状ラクトンとしてε-カプロラクトンを用い重合を行った。その結果、現段階では転化率50%程度ではある
がグラフト共重合が進行した。ここで生成ポリマーの切り出しを行ったところグラフト鎖のポリエステルの分解
が見られたが、末端水酸基をアセチル化してから切り出すことにより分解が抑制された。得られたグラフトコポ
リマーは単峰性かつ狭い SEC プロファイルを示し、ラクトンの開環重合によるグラフト化において重合度が制御
26
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
されていることが明らかとなった。
O
O
O
Br
O
OTMS
1 M HCl aq
O AMA
H
O
O
SmI2, t-BuCONEt2
O
THF, -78°C
OH
O
O
O
O
H
O
O
O
H
HO
CF3COOH
O
O
HCl-ether
O
polyester
O
polyester
図6
1.1.5. アセタールリンカーの開発と応用
これまで述べてきた固相上での重合においてはベンジルエステル型リンカーを用いてきた。これは水酸基化ポ
リスチレンビーズをエステル化するだけで調整可能であること、また酸性条件で切断可能なため側鎖メチルエス
テル等の塩基性条件に弱い部位を損なうことがないこと、などの理由による。しかしながら、短時間かつ高効率
な切断のためには 50%トリフルオロ酢酸/ジクロロメタンといった比較的酸性度の高い試薬を用いることが必要
であり、今後さまざまな側鎖を有するポリマーの合成に展開する場合の制約となることが考えられる。そこで、
より弱い酸性条件で切断可能なリンカー構造として、水酸基の保護基として多用されているアセタール構造に着
目した。アセタールはアルコールとビニルエーテルから簡便に調製でき、なおかつ比較的弱い酸でも容易に切断
可能である。
まず、サマリウムエノラート前駆体であるブロモイソ酪酸構造のビーズへの担持方法として、ビニルエーテル
部位を有するブロモイソ酪酸エステルと水酸基化ポリスチレンビーズの反応を選択した。その結果、触媒量のパ
ラトルエンスルホン酸を用いることにより効率よく担持することが出来た(図 7)。得られたビーズを用い、これま
でのベンジルエステルリンカーを用いた場合と同様の条件でサマリウムエノラートの発生および MMA の重合を行
った。ここで、従来のベンジルエステルリンカーを用いた場合にはヨウ化サマリウムは2等量用いていたが、本
アセタールリンカーを用いた場合には開始効率が低く、過剰量(4等量)用いることによって高い開始効率が実
現できた。
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
O
OH
O (CH2)2 O
O
Br
O
Br
O (CH2)2 O
TsOH
O
MMA
MeOH
O
O (CH2)2 O
SmI2, t-BuCONEt2
H
MeO
O
weak acid
1% TFA, TsOH
PPTS, etc
THF, -78°C
poly(MMA)
図7
アセタールリンカーは予想通り弱酸性条件で切断することが出来た。たとえば、1%トリフルオロ酢酸を1時間
作用させることによってポリ MMA を定量的に切り出すことが出来た。この条件ではベンジルエステルリンカーは
6時間経っても全く切断されない。また、ベンジルエステルリンカーを切り出すことが出来ない条件、すなわち
トルエンスルホン酸(TsOH;0.1mol% ジクロロメタン溶液)やピリジニウムパラトルエンスルホネート(PPTS;
0.1mol% ジクロロメタン溶液)によっても切り出すことが出来た。
1.2. アレンのリビング重合に基づく精密反応性高分子の開発と新規固相反応場への応用
種々の官能基をもつ反応性高分子を精密な構造制御を伴いながら合成する方法の確立のために、アレン塁のリ
ビング配位重合に基づき、種々の置換基をもつモノマーの重合を行うと共に、重合触媒であるアリルニッケル錯
体の配位子、溶媒などの性質による重合の制御に関する研究を系統的に行った(図 8)。精密な固相反応場への展開
を行うために、一例としてシランカップリング部位、両親媒性のスペーサー部位、および反応点としてアミノ基
をもつ三元ブロック共重合体をリビング重合に基づき合成し、シリカゲルなどの表面に化学的に固定し、固相反
応場としての可能性を併せて評価した。また、従来にはない広範な官能基をカバーできるリビング重合法として
の位置づけを行うために固相反応場の反応点として展開が可能と考えられるアミノ基を脱保護により生成できる
イミド部位をもつモノマー、水酸基をもつモノマーなどのリビング重合法の確立を行った。例えば水酸基をもつ
モノマーの重合では、1級から3級アルコール部位をもつモノマーが保護を行うことなくリビング機構で重合で
き、効率よく対応する単分散性のポリマーが得られることが分かった。
各々のモノマーにおける重合法の精密な制御をアリルニッケル錯体の配位子、溶媒などの効果を系統的に評価
する方法で検討した結果、アリル位に置換基の導入された繰返し骨格をもつ 1,2− 重合部位とオレフィンに直接置
換基の導入された骨格をもつ 2,3-重合部位の割合を系統的に制御できることが示された。例えばアルコキシ基を
置換基とするアレン類の場合、1,2-重合:2,3-重合が 80:20 から 0:100 の広い範囲で制御できることが分かっ
た。また、ポリマーのミクロ構造の変化に伴い、溶解性や形状が変化することが分かった。
次に不斉部位をもった精密な反応性高分子については糖骨格やビナフチル骨格などを付与したモノマーのリビ
ング配位重合により合成した。いずれの場合にも効率よく単分散性のポリマーが得られたが、置換基を選べば側
鎖の不斉点とともに主鎖にもヘリカルな不斉環境が誘発されていることが旋光度、およびCDスペクトルなどの
測定結果から支持された。また、ポリマーの旋光度、およびCDスペクトルの分子量依存性を評価した結果、置
換基の嵩高さなどによって主鎖の不斉環境の安定性が異なることも示された。
28
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
R
[(η3-Allyl)NiX]2
•!
X
Ni
Ligands (L)
R
x
R
X; Carboxylates or Halides
L; Phosphines, Phosphites, etc.
L
y n
R
R ; Phenyl, Alkyl, -OR', -SR', -CO2R', -NR'COR'', etc.
•!
•!
O
O
O
O
NR'2
O
O
O
H
O
O
etc.
図8
R3'
R1'
OCOCF3
PPh3
(1 equiv)
R1
Ni
CH2Cl2, r.t.
L
R2
a
R1, R1' =
R3, R3' =
O
CH2 N
O
-Si(OEt)3 , -OMe
R2
-H,
or
R3
R3'
b n
p-1
OCOCF3
Ni
L
R3
-Si(OEt)3 , -OMe
O
-H, CH2 N
O
R3
CH2Cl2, r.t.
CH2Cl2, r.t. 10 h
R1 R1'
m
CuI
(1 equiv)
R2
L = Ligand (or none)
R2 = -OCH2CH2OCH2CH2OCH3
図9
さらに、上述の結果を基にしてリビング重合によりシランカップリング部位、両親媒性のスペーサー部位、お
よび反応点としてアミノ基の前駆体であるフタルイミド部位をもつ三元ブロック共重合体が高効率で合成できる
ことを明らかにした(図 9)。得られた三元ブロック共重合体を用いたガラスおよび多孔質シリカゲル粉末の表面へ
のポリマーの化学修飾についても検討した結果、例えばトリブロックコポリマーのベンゼン溶液(0.024 g/ml)に
より 60℃、5 時間の条件でガラス表面のカップリング処理を行った場合、SEM(走査型電子顕微鏡)による表面
測定などの結果から、200nm 程度の厚みで表面がポリマーによって均一に被覆されていることが示された。同様
に多孔質シリカゲル粉末の表面についても同一のポリマーで化学的に修飾することができ、シリカゲル上のポリ
マーのヒドラジン分解反応が 80 ℃、12 時間の条件で定量的に進行し、フタルイミド部位が1級アミノ基に変換
された固相反応場が良好に構築できることが赤外スペクトル測定の結果などから支持された。この様にして得ら
れたアミノ基をもつ固相反応場に対し、有機化合物をローディングできるかについても検討を行い、例えばアル
デヒド部位をもつ各種の化合物がイミノ基を介して容易に固相上に担持できることが示されている。
1.3. まとめ
固相担持型サマリウムエノラートを用いることによって種種のメタクリル酸エステル類が固相上でリビング重
合することがわかった。このことに基づき末端修飾やブロック共重合によって種々の組成を有する高分子材料が
合成可能となった。また、反応性側鎖を利用した種々の高分子反応が固相上でも効率よく進行することがわかっ
29
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
た。重合や側鎖変換に用いた余剰の試薬等はポリマービーズを適当な溶媒で洗浄することによって簡便に除去で
き、このことは自動合成装置の開発とそれによる高分子材料ライブラリーの迅速な構築のためのきわめて重要な
基盤技術となることが期待される。また、アレンのリビング重合を用いた系では、従来のリビング重合法では構
築が困難であった多様な官能基を精密に配置した反応性高分子が比較的容易に合成できることが示され、これを
基に新しい精密な固相反応場へと展開が期待できる高分子材料が設計できることが示された。
従来の固相反応場は様々な要因が絡み合った構造的に広い分布をもった高分子を用いて構築されているため、
どの様に高分子の構造を最適化すればよいかに関する指針を得にくかった訳であるが、本系で得られる構造の明
確な高分子鎖を基にして反応場を設計すれことにより、系統的に固相反応場に残された問題点を克服するための
データの蓄積を通じて、液相系と遜色なく種々の反応を達成できる反応場の開発が期待できる。
2. 有機-無機ハイブリッド材料のライブラリー化に関する研究
2.1. 有機-無機ハイブリッド材料の設計
本研究は、ゾル-ゲル法を用いた有機-無機ハイブリッド材料、特に有機成分として有機高分子を用いた「有機無機ポリマーハイブリッド」に対してコンビナトリアルケミストリーの考え方を適用した材料探索の方法論の調
査検討を行うものである。これまで報告された無機材料のライブラリーは、いずれもパラレル合成が適用されて
きた。特に有機-無機ポリマーハイブリッド材料は、均一溶液系でのゾル-ゲル反応が必須であるため、溶液系の
パラレル合成により、原理的には有機-無機ポリマーハイブリッド材料のライブラリー化が達成できる。しかしな
がら、ハイブリッド材料を作製するにあたっては、様々なパラメーターを変化させて最適な条件を探索する必要
がある。例えば、ある特定の有機高分子を対象としてシリカゲルとのポリマーハイブリッド化を達成しようとい
う場合、有機成分の濃度、触媒の種類と濃度、シリケートの種類、反応溶媒、反応温度など、様々なパラメータ
ーを変えてゾル-ゲル反応を行い、最適化をすることが必要である。従って、これらパラメーターを変化させる組
み合わせは無数に考えられるため、ライブラリー作製の指標となるものが存在しなければ、材料探索の効率が極
めて悪くなる。そこで本研究では、これまで行われた有機-無機ハイブリッド材料の合成法を評価、整理し、有機
-無機ハイブリッド材料のパラレル合成法を開発することを研究目的とした。
2.2. 研究方法と結果
本研究に適用した方法は以下のようにまとめられる(図 10)。
・有機高分子と無機マトリックスとの間の相互作用として、共有結合や水素結合の他、π-π電子相互作用やイオ
ン間相互作用を用いた、有機高分子存在下でのアルキルシリケートのゾル-ゲル反応。
・In-situ 重合法や In-situ 加水分解法などの新しい合成法の開発。
・無機マトリックスの成分として、シリカゲル以外のアルミナ、チタニア、ジルコニアなどについても、ハイブ
リッド材料の合成を検討。
・ゾル-ゲル反応の触媒を種々検討することにより、得られるハイブリッド材料の構造に与える影響を検討。
・上記の結果をふまえた、種々の有機高分子と無機成分との組み合わせによる有機-無機ハイブリッド材料のパラ
レル合成。
30
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
有機 成分
無機成分
OR
RO M OR
OR
OR
RO M R'
OR
OR
'R M R'
OR
N
H2O
M OH + HO M
M OR + HO M
n
n
M = Si, Al, Zr, Ti
M OR +
O
M OH
-H 2O
触媒
MO2
MO2
MO2
-ROH
-H 2O
有機-無機ハイブリッド材料
有機高分子
N
n
O
M O M
M O M
機能性化合物
図 10
前節記述の研究方法に従い、検討を行った。その結果、有機高分子と無機物をハイブリッド化させようとする場
合、有機高分子は多岐にわたっており、様々な合成手法、特に有機マトリックスと無機マトリックスの間の種々
の相互作用の設計が重要であることが明らかとなった。
(1)有機高分子と無機マトリックスの間の共有結合
有機高分子の末端にアルコキシシリル基を導入してゾル-ゲル反応に共存させることにより、共有結
合を介して有機高分子と無機マトリックスが分子レベルで混ざり合ったハイブリッド材料が合成でき
た。ポリオキサゾリンやナイロン-6とシリカゲルの組み合わせがその例である。
(2)水素結合による相互作用
有機高分子として、ポリオキサゾリンやポリビニルピロリドンなどのアミド結合を繰り返し単位と
するものを用いると、シリカゲルマトリックスのシラノール残基との間の強い水素結合相互作用によ
り、任意の組成で無色透明均一なハイブリッド材料が得られた。水素結合による相互作用は、FT-IR や
NMR の結果から確認することができた。
(3)π-π電子相互作用
フェニル基どうしのスタッキング、すなわちπ-π電子相互作用を利用することにより、有機-無機
ハイブリッド材料が合成できた。例えば、ポリスチレンとシリカゲルを任意の割合で混合することに
成功した。このような手法は、ポリ(ジアリルフタレート)やポリカーボネート、ポリ(エチレンテ
レフタレート)などにも適用することができ、それぞれシリカゲルとの均一透明なハイブリッドが得
られた。
(4)イオン間相互作用
カチオン-アニオン間の相互作用もハイブリッド合成に利用することができた。例えば、スルホン酸
を導入したポリスチレンとアミノ基を導入したシリカゲルを組み合わせると、イオン間相互作用によ
り、均一なハイブリッドが得られることがわかった。
(5)In-Situ 重合法
アルコキシシランのゾル-ゲル反応において、有機モノマーを共存させ、ラジカル重合を同時に行う
31
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
と、ポリマーを出発物質とした場合と比べて、より均一なハイブリッド材料が得られた。この手法を
用いて、有機マトリックスとして一官能性のモノマーと二官能性のモノマーの共重合を行うと、相互
侵入網目構造のIPNハイブリッドと呼ぶべき材料が得られ、優れた耐溶剤性を示した。
(6)In-Situ 加水分解法
ゾル-ゲル反応に用いる酸触媒がエステルの加水分解にも効果的であることを利用して、ポリ(酢酸
ビニル)を出発物質としてアルコキシシランのゾル-ゲル反応を行うと、結果として、ポリ(ビニルア
ルコール)とシリカゲルのハイブリッド材料を合成することができた。
(7)有機-無機ハイブリッド材料のパラレル合成
有機高分子として、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)
、ポリ(N-ビニルピロリドン)
、ポリ(ビニ
ルアルコール)、ポリスチレン、ポリ(オキシエチレン)の5種類を選び、ゾル-ゲル反応の出発物質
であるアルキルシリケートとして、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ブチルトリ
メトキシシラン、フェニルトリメトキシシランの4種類と組み合わせて、合計20通りのゾル-ゲル反
応を同時に行う、いわゆるパラレル合成を行った(図 11)。
その結果、先述した水素結合による相互作用やπ-π電子相互作用が効果的に働くと考えられる組み合わせにお
いてのみ、透明均一なハイブリッド材料が得られることが分かった。このようなパラレル合成の手法は、有機高
分子と無機成分の数多くの組み合わせを短時間で評価するのに適していると思われる。
M1 M
無機成分
2 M3 M
4 M5 M
6 M7
M8
O
O 1
O3 2
O
O 4
O6 5
O
O8 7
有機成分
図 11
3. 人工糖脂質ライブラリーの構築と機能の開発
3.1. 人工糖脂質ライブラリーの構築
糖脂質に関する研究は非常に活発になったにも関わらず、糖脂質の関与する生命現象の化学的な理解は未だあ
まりなされておらず、現象論の域を脱していない。このような背景から我々は多様な構造を有する人工糖脂質ラ
イブラリーが新規なヒドロゲルや表面加工剤などのバイオ高分子材料として有用な超分子機能材料となり、糖鎖
-レクチン、糖鎖-糖鎖の相互作用を検討するモデル化合物として、表面構造と機能との関係や、糖鎖と生体高
分子間の結合様式と糖脂質構造の相関関係を明確にできるのではないかと考えた。
そこで、人工糖脂質ライブラリー構築とその機能について検討を行った。その方法として、モジュール法を採
用した。すなわち人工糖脂質を3つのモジュール(糖鎖親水部・スペーサー・アルキル疎水部)に分割して、ま
ずそれぞれのモジュールを合成し、そのモジュールを組み合わせることでライブラリー化を行った。①糖鎖親水
部としてβ-グルコースやβ-ガラクトースなどの5,6種類の糖誘導体を原料として、②スペーサー部として、
32
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
二官能性または三官能性の化合物(コハク酸、マレアミドやアスパラギン酸など)を用い、③脂質部であるアル
キル鎖の鎖長を C12、C14、C16 の3種類を用いることで、数十種類の異なる分子構造をもつ人工糖脂質分子ライ
ブラリーを構築した。
さらに、このライブラリーの構築を当初は液相法によって行ってきたが、操作の簡便さとライブラリーの機能
化という観点から、固相合成の適用を検討した。とくに側鎖に官能基をもつアミノ酸(アスパラギン酸やグルタ
ミン酸)をスペーサーとして用いることで、従来のペプチド固相合成の数々の手法を用いることができることを
着想し、固相合成の検討を行った(図 12)。その結果、固相合成を導入することで効率化が図れ、液相法では合
成しにくい人工糖脂質も合成可能になった。
"module combination synthesis"
O
sugar head group
O
NH2
O
connector group
hydrophobic tail group
HO
artificial glycolipid library
OH
O
H 2N
"solid phase synthesis" based on module combination strategy
O
Cl
O
O
O
NO2
NH2
NO2
COOH
hydrophobic
tail
O
H
N
O
O
C OOH
NO 2
O
N
H
O
COOH
O
O
O
H
N
O
O
O
O
H
N
O
NO2
O
N
H
O
HN
O
cleavage
from resin
O
O
H
N
H
N
OO
OH
connector
O
sugar head
O
N
H
O
surface charge
図 12
3.2. 人工糖脂質ライブラリーを用いた機能開発
構築した人工糖脂質ライブラィーを用いて、種々の機能の探索を行った。特に生体における細胞膜表面での糖
の役割を明らかにするためのモデルとして、水中での人工糖脂質の会合挙動を検討した。ほとんどの人工糖脂質
が水溶液中で会合体を形成し、ヒドロゲルを形成した。さらに、これらの会合体の形態観察を電子顕微鏡により
行った。(表 1)
表 1. 人工糖脂質の水溶液会合体形成能の結果
人工糖脂質*1)
会合体形成能
電子顕微鏡による形態観察
Glc-suc-glu(C12)2
会合体を形成(安定な均一溶液)
linear rod → linear rod
bundle
Gal-suc-glu(C12)2
Man-suc-glu(C12)2
〃
*2)
〃
helical tape → tube
linear rod bundle, helical
tape, vesicle
GalNAc-suc-glu(C12)2
Cel-suc-glu(C12)2
〃
*3)
multihelical rope
〃
*2)
single helical rod → double
helical rod
33
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Mal-suc-glu(C12)2
〃
multilamellar vesicle
Maltri-suc-glu(C12)2
〃
multilamellar vesicle
Man-male-glu(C12)2
多少の沈殿を含むが会合体を形成
vesicle
Glc-suc-NH(C12)2
〃
vesicle
Man-suc-NH(C16)
沈殿として析出
linear rod → linear rod
bundle
Gal-asp(CO2H)-2C12
会合体を形成(安定な均一溶液)
helical tape → tube
Gal-asp(NH2)-2C12
〃
linear rod bundle, helical
tape, vesicle
Man-asp(NH2)-2C12
〃
multihelical rope
Glc-asp(NH2)-2C2
蒸留水に溶解する
vesicle
Glc-asp(NH2)-2C6
会合体を形成(安定な均一溶液)
vesicle
Glc-asp(NH2)-2C10
〃
vesicle
Glc-asp(NH2)-2C12
〃
no aggregate
Glc-asp(NH2)-2C14
Glc-asp(NH2)-2C16
Glc-asp(NH2)-2C18
〃
*2)
vesicle
〃
*2)
vesicle
沈殿として析出
vesicle + helical rod
*1) 人工糖脂質は糖鎖親水部・スペーサー・アルキル疎水部の鎖長・数を用いて符号化している。
*2) 室温でさらに静置すると徐々にゲル化を起こし始める。
*3) 室温で数時間静置するだけで、ゲル化を起こしてしまう。
その結果、糖鎖・スペーサー・疎水部と各々のモジュールに大きく依存して、会合体の形態が変化することが
判明した。特に糖鎖-suc-glu(C12)2 という脂質構造においては、糖鎖の構造の変化が直接会合体の構造に反映する
ことが明らかになった。これは以下の理由によるものと推測している。共通となる疎水部において複数のアミド
基が協同的に水素結合を形成し、ネットワーク化することで会合体が発達しやすいと考えられる。その結果、糖
鎖部分の水素結合能が集合体全体の構造に及ぼす影響が大きくなり、多くの形態をもつ会合体が形成されたもの
と考えられる。疎水部をグリタミン酸エステルからジアルキルアミンへ、また、スペーサーをコハク酸アミドか
らマレアミドへ置換すると、疎水部近傍の水素結合能は大きく減少してしまい、会合体が発達するために必要な
強固な水素結合ネットワークが形成できないため、ベシクル構造のみを形成したと考えられる。(図 13)
34
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
O
sugar
O
H
N
N
H
When hydrophobic tail was changed
O
O
O
OH
β-D-Glc
O
HO
HO
sugar
rod bundle
O
dialkylamine
glutamate
O
OH
OH
O
HO
HO
β-D-Gal
any sugar
helical tape, tube
O
spherical vesicle
HO OH
O
HO
O
β-D-GalNAc
When spacer was changed
rod, vesicle
HO
maleamide
succinamide
HO OH
HO
AcHN
O
O
rope
H
N
hydrogen bonding
sugar
O
O
sugar
N
O
HO
α-D-Man
O
H
N
NH
NH
N
H
O
O
O
O
O
O
O
O
O
any sugar
O
spherical vesicle
図 13
また、Glc-Asp(NH2)-2CX 系では、アルキル鎖長が 12 のときは、糖鎖の構造に依存せずにベシクル構造を形成する
が、アルキル鎖長を 14、16 と長くするとヘリカルなロッド状の会合体を形成することが明らかとなった。このヘ
リシティーがスペーサーのアミノ酸構造に由来するのか、それとも糖鎖の構造に由来するのかは現時点では明ら
かではない。しかしながら、アルキル鎖が長くなると疎水部におけるパッキング能が増加したためであると考え
ている。このことは疎水部で発達した水素結合ネットワークとアルキル鎖のもつパッキング能の両方が会合体の
安定化に寄与しており、これらが協同的に作用できる場合にのみ、様々な形態をもつ会合体が発達できると結論
づけられる。
3.3. まとめ
人工糖脂質ライブラリー合成法としてモジュール法が有効であることを明らかにした。さらにライブラィーの
調製では液相法の開発だけではなく、固相反応を利用することにより高効率化を実現した。得られた人工糖脂質
の機能開発として、水溶液中における会合体形成挙動について検討した結果、水溶液中において糖鎖の構造に直
接反映した様々な二分子膜会合体を形成する。また糖脂質が特定のアルキル鎖長の場合、糖鎖の構造に依存せず
ベシクル構造を形成することが判明した。これは人工糖脂質ライブラィーが単に細胞膜モデルとしての使用のみ
ではなく、ドラッグデリバリー材料などとしても有効であることを示唆する結果である。
考
察
本研究においては「固相合成法による機能性材料のケミカルライブラリーを構築する」ことを目指し,精密反応
性高分子を合成してこれをスペーサーとして有する固相反応場の設計と開発を目的とし、具体的には
①反応性
置換基を有するモノマーの合成,②それらのリビング重合法の開発による反応性高分子の精密合成,③精密反応
性高分子の固相への担持とそれらの反応性の評価,④精密反応性高分子担持型の固相反応場での反応効率および
反応選択性評価,を達成目標としてきた。その結果、種々の反応性置換基を有するアレン系およびアクリル系モ
ノマーや糖誘導体などの光学活性置換基を有するモノマーの合成に成功し、上記目的の①を達成した。また,こ
れらのモノマーのニッケル触媒を用いた配位重合,サマリウム開始剤を用いるアニオン重合においてリビング重
合系を確立し上記目的の②を達成した。また、ブロック共重合体によるガラス表面修飾や、ポリスチレンビーズ
35
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
上でのリビングアニオン重合により,上記目的の③を達成した。さらに、固相上の反応性置換基はさまざまな固
相反応に適用できることが明らかとなったことから上記目的の④を達成した。
これらに主目的達成に加え、研究過程において有機無機ハイブリッド材料・糖や脂質などを用いた高次構造形成
材料などの超高機能材料の設計指針が明らかとなった。このことから、得られた新規機能性高分子担体を用いた
これら具体的なターゲット分子の高高率な固相合成や、さらに機能性高分子と組み合わせることによる超高機能
材料の開発が期待される。
成果の発表
(主な物のみ抜粋)
1) 原著論文による発表
ア)国内誌
1. Masato Suzuki, Tomohiro Takao, Naoaki Sakamoto,Ikuyoshi Tomita, and Takeshi Endo: "Ni-Catalyzed
Living Coordination Polymerization of Allenes Having Si-Based Functional Groups", Polym. J.,
31[11/12], 1021-1024 (1999).
2. Yusuke Imai, Naoki Yoshida, Kensuke Naka, Yoshiki Chujo, "Thermoresponsive Organic-Inorganic
Polymer Hybrids from Poly(N-isopropylacrylamide)." Polym. J., 31, 258 (1999).
3. Influence of an Odd-Even Relationship on the Aggregation Modes of "Gemini-type"
Cholesterol-based Gelators and Their Transcription into Silica Gel Jong Hwa JUNG, Yoshiyuki ONO,
Seiji SHINKAI Chem. Lett., No. 6, pp. 636-637, June, 2000
4. Sugar-Integrated Supergelators Which Can Form Organogels with 0.03-0.05 % [g mL-1] Roman
LUBORADZKI, Oliver GRONWALD, Atsushi IKEDA, Seiji SHINKAI Chem. Lett., No. 10, pp. 1148-1149,
October, 2000
5. New Organogelators Bearing Both Sugar and Cholesterol Units: an Approach toward Molecular Design
of Universal Gelators Masato AMAIKE, Hideki KOBAYASHI, Seiji SHINKAI Bull. Chem. Soc., Jpn.,
Vol. 73, No. 11, pp. 2553-2558, November, 2000
イ)国外誌
1
Atsushi SUDO, Satoshi UCHINO, and T. ENDO:
Ethylphenylketene:
Development of a Living Anionic Polymerization of
A Novel Approach to Well-Defined Polyester Synthesis ; Macromolecules, 1999,
32(5), 1711-1713.
2
Bungo Ochiai, Ikuyoshi Tomita, and Takeshi Endo: "The Living Polymerization of Cunjugated Enyne
Derivative: Anionic Polymerization of 4-Phenyl-1-butene-3-yne", Macromolecules, 32[1], 238-240
(1999).
3
Masanori Taguchi, Ikuyoshi Tomita, Yasuhiko Yoshida, and Takeshi Endo: "Block Copolymerization
of Allene Derivatives with 1,3-Butadiene by the Living Coordination Polymerization with
p-Allylnickel Catalyst", J. Polym. Sci.: Part A: Polym. Chem., 37, 3916-3921 (1999).
4
Tomohisa Norisue, Mitsuhiro Shibayama, Ryo Tamaki, Yoshiki Chujo, "Time-Resolved Dynamic Light
Scattering Studies on Gelation Process of Organic-Inorganic Polymer Hybrids." Macromolecules.,
32, 1528 (1999).
5
Sugar-Integrated Gelators of Organic Solvents ~ Their Remarkable Diversity in Gelation Ability
and Aggregation Structure. K. Yoza, N. Amanokura, Y.Ono, T. Akao, H. Shinmori, M. Takeuchi,
S. Shinkai, D. Reinhoudt.
6
Chem. A.
Hamachi, S. Kiyonaka, S. Shinkai,
7
Eur. J. 5 (1999), 2722.
Solid Phase Lipid Synthesis (SPLS) for Construction of an Artificial Glycolipid Library,
Chem. Commun.,
1281-1282 (2000).
"Living Polymerization of Ethylphenylketene by Samarium Enolate."
Mamiko Narita, Ryoji Nomura,
Ikuyoshi Tomita, and Takeshi Endo Macromol. Rapid Commun., 2000, 21[9], 595-597.
36
I.
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
8
"Living Coordination Polymerization of Allene Derivatives Bearing Hydroxy Groups by Allylnickel
Catalyst."
Masanori Taguchi, Ikuyoshi Tomita, and Takeshi Endo Angew. Chem. Int. Ed. Engl.,
2000, 39[20], 3667-3669.
9
"Living Polymerization of Methyl Methacrylate by Novel Samarium-Based Trifunctional Initiator."
Mamiko Narita, Ryoji Nomura, Ikuyoshi Tomita, and Takeshi Endo Polym. Bull., 2000, 45, 231-236.
10
“Samarium Enolate on Crosslinked Polystyrene Beads: Anionic Initiator for Well-defined
Synthesis of Polymethacrylate on Solid Support”
Chem. Commun. 2000, 2503-2504.
and Takeshi Endo
11
Solid Phase Lipid Synthesis (SPLS) for Construction of an Artificial Glycolipid Library,
Hamachi, S. Kiyonaka, S. Shinkai,
12
Masayoshi Tanaka, Atsushi Sudo, Fumio Sanda,
Chem. Commun.,
I.
1281-1282 (2000).
"Synthesis of Well-defined Glycopolymers by ・-Allylnickel-Catalyzed Living Coordination
Wang Jia, Ikuyoshi Tomita, and Takeshi Endo Macromolecules, 2001, 34[13],
Polymerization."
4294-4295.
13
Tomoki Ogoshi, Hideaki Itoh, Kyung-Min Kim, Yoshiki Chujo, “Synthesis of Organic-Inorganic
Polymer Hybrids Having IPN Structure by Formation of Ruthenium-Bipyridyl Complex”,
Macromolecules, 35, 334 (2002).
14
Kyung-Min Kim, Kaoru Adachi, Yoshiki Chujo, “Polymer Hybrids of Functionalized Silsesquioxanes
and Organic Polymers Utilizing the Sol-Gel Reaction of Tetramethoxysilane”, Polymer, 43, 1171
(2002).
2) 原著論文以外による発表
ア)国内誌
剛、冨田育義, 化学工業, 51[2], 106 (2000).
1
“コンビナトリアル化学の材料科学への期待”, 遠藤
2
“アレン類のリビング配位重合の開拓と応用―極性・非極性モノマーに適応できる一般性の高いリビ
ング重合―”, 冨田育義, ポリマーフロンティア21シリーズ8
高分子科学と触媒化学とのキャッ
チボール 触媒が拓く高分子の新展開, 高分子学会編, NTS (2000).
3
分子集合体の糖質応答性
4
「コンビナトリアルケミストリーの新展開のための精密高分子材料を基盤とする新しい固相反応場の
開発」遠藤
木村太郎, 新海征治
高分子,第 49 巻第 9 号,pp 668-673, 2000 年 9 月
剛, 冨田育義, コンビナトリアルサイエンスの新展開, シーエムシー (2002).
3)口頭発表
ア) 招待講演
1
冨田育義:アレン類のリビング配位重合の開拓と応用
-極性、非極性モノマーに適応できる一般性の高
いリビング重合-、2000/6 ポリマーフロンティア、2001 年 3 月 16 日
2
Yoshiki Chujo, “New Preparative Methods for Sol-Gel Hybrid Materials”, (Polycondensation 2000
(Tokyo, Sep., 2000)
3
中條善樹「有機/無機ハイブリッドポリマー」第50回高分子学会年次大会(2001年5月、大阪)
イ)応募講演
1
田口順則、遠藤
剛、冨田育義: "π-アリルニッケル触媒によるリビング配位重合により合成される
アレン— ブタジエンブロック共重合体の高分子反応"、第48回高分子学会年次大会、1999 年 5 月 29
日
37
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2
田口順則、遠藤
剛、冨田育義: "アルコキシシリル基を有するアレンとイソニトリルとのブロック共
重合体を高分子シランカップラーとしたガラス表面の修飾"、第48回高分子学会年次大会、1999 年 5
月 29 日
3
成田麻美子、野村亮二、冨田育義、遠藤
剛:"サマリウム(II)の還元能を利用する多官能性アニオン
重合開始剤の合成とこれによるMMAの重合"、第48回高分子学会高分子討論会、1999 年 10 月 7 日
4
今井祐介、中建介、中條善樹「KAT 法を用いた有機-無機ポリマーハイブリッド内部の微視的極性環境
の評価」第48回高分子学会年次大会(1999年5月、京都)
5
伊東秀明、今井祐介、中建介、中條善樹「Diels-Alder 反応を用いた可逆的に IPN 構造を形成する有機
-無機ポリマーハイブリッドの合成」第48回高分子学会年次大会(1999年5月、京都)
6
足立馨、玉城亮、中條善樹「芳香族間の相互作用を利用したシルセスキオキサン-ポリスチレンハイブ
リッド」第48回高分子討論会(1999年10月、新潟)
7
固相合成法を用いた人工糖脂質ライブラリーの合成, 清中 茂樹, 浜地 格, 新海 征治, 第 77 回 日本
化学会秋季年会, 北海道, 1999 年 9 月
8
増田基城、冨田育義、遠藤
剛:πアリルニッケル触媒によるアレン誘導体のリビング配位重合を用い
た反応点を有するブロック共重合体の合成とその有機合成反応への応用、第49回高分子学会年次大会、
2000年5月30日
9
生越友樹、今井祐介、中建介、中條善樹「チミン基の光ニ量化反応を利用した光応答性有機-無機ポリ
マーハイブリッドの合成」第49回高分子学会年次大会(2000年5月、名古屋)
10
有機低分子ゲルの鋳型効果により誘起されたシリカのヘリカル構造
北條純一, 新海征治
11
小野善之, 中嶋和昭, 佐野正人,
日本化学会第 78 回春季年会, 2000 年 3 月
ライブラリ-構築を目指した人工糖脂質固相合成法の開発
清中茂樹, 浜地
格, 新海征治
日本化学
会第 78 回春季年会, 2000 年 3 月
12
須藤
篤・遠藤
剛 「固相担持型リチウムアルコキシドによるケテン類のリビングアニオン重合」第
79 回日本化学会春季年会(2001 年 3 月、於甲南大学、講演番号 1D105)
13
田中正剛、須藤 篤、三田文雄、遠藤 剛「固相上におけるリビング重合の開発-ヨウ化サマリウム(II)
の還元能を利用した固相担持型アニオン開始剤の発生法」第 78 回日本化学会春季年会(2000 年 3 月、
於千葉大学、講演番号 1B507)
14
田中正剛、須藤 篤、三田文雄、遠藤 剛 「固相担持されたポリ(メタクリル酸アリル)の側鎖官能基変
15
Gao Xin,須藤
換」第 79 回日本化学会春季年会(2001 年 3 月、於甲南大学、講演番号 1D103)
篤,遠藤
剛
「パラ位にテトラヒドロフラン骨格を有するスチレン誘導体のリビン
グラジカル重合と新規ネットワークポリマー合成への応用」 第 49 回高分子討論会(2000 年 9 月,於
東北大学,講演番号 IA 07)
16
増田基城、冨田育義、遠藤
剛:アレン誘導体のリビング配位重合によるアミノ基およびシランカップ
ラー部位を有するブロック共重合体の合成とシリカゲルへの化学修飾による固相反応場への応用、第5
0回高分子学会年次大会、2001年5月24日
17
生越友樹、中建介、中條善樹「ブロックポリマーを相溶化剤として利用した有機-無機ポリマーハイブ
リッドの合成」第50回高分子学会年次大会(2001年5月、大阪)
5)受賞等
1
伊東秀明、日本化学会「平成13年春季年会講演賞」(2001年4月)
2
中建介、高分子学会「平成12年度 Polymer Journal 論文賞」(2001年5月)
38
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
1. ケミカルライブラリー設計技術に関する研究
1.1. 固相反応場の精密設計に関する研究
1.1.2. 機能性高分子担体の精密合成と固相反応場の構築
名古屋大学大学院工学研究科機能高分子化学講座
岡本
要
佳男
約
(1) より簡便で有用な機能性高分子ゲル調製法の開発を目的として、ゲル開始剤を用いたリビングラジカル重合
による構造制御型ゲルの合成法、およびセルロースに代表される天然高分子誘導体のシリカゲル上への効率的な
固定化法について検討した。さらに、構築したゲルの機能、特に光学分割能等について検討・評価を行い、新規
機能性ゲルの開発を行った。その結果、市販のポリスチレンゲルあるいは大孔径シリカゲル上にラジカル重合開
始剤部位あるいは、反応性官能基等を導入した反応性ゲルを用いることにより、制御された構造を有するポリマ
ー鎖をゲル上に簡便かつ効果的に固定化できることを明らかにした。本手法を応用することによりゲル表面構造
の精密な制御が可能であることがわかった。また、得られたゲルが、不斉分子認識場等としてこれまでにない分
子認識機能を有することが明らかとなった。
(2) 固相反応・合成用の坦体樹脂は数多く市販されているが、その適用範囲や性能はまだ不十分であると言われ
ている。ケミカルライブラリーの構築に不可欠なこれらの機能性高分子坦体を合成するための基礎として、担当
者らが開発しつつある遷移金属錯体による精密制御(リビング)ラジカル重合を用い、高分子坦体に開始剤基を
導入し、鎖長と構造の規制されたスペーサー鎖を持つ坦体を合成した。また、固相反応場の構築の基礎として、
同様に遷移金属錯体によるリビングラジカル重合により機能性の星型高分子を合成し、これらを固相反応場のモ
デル化合物とすると、特定の機能性官能基をもつ有機低分化合物と選択的に相互作用し、ある種の分子認識を発
現することを明らかとした。
(3) 固相合成や高分子触媒の合成に有用な高分子反応剤として高分子担持型有機金属型試薬の新しい合成法を開
発した。架橋高分子上での不斉反応によるキラル分子ライブラリーを構築するために、①高分子に結合したキラ
ルイミンの不斉アリル化反応、②高分子に結合したキラルアリル化剤による不斉アリル化反応、③高分子に結合
したキラルオキサザボロリジン触媒による不斉還元反応を行った。その結果すべての場合において高収率、高立
体選択的に目的のキラルアミンまたはアルコールを合成することができた。
研究目的
コンビナトリアルケミストリーの分野において、数多くの高分子担体が開発・市販されているが、いまだ合成
反応への適応範囲や反応性等に関して、克服すべき様々な問題点を有している。従って、本分野の発展には、こ
れらの諸問題を解決し、よりすぐれた性能を有する新規機能性高分子担体の開発が必要不可欠である。本研究で
は、以下の諸点を検討することを目的とした。
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
(1) 近年急速に発展してきたリビングラジカル重合の手法[1—3]を中心とした精密構造制御重合法を用い、高分
子担体を精密な構造設計・制御に基づき構築することにより、これまでにない性能・機能を有する固相反応場・
分子認識場等の開発を行なう。
(2) 独自に開発した種々のリビング重合に基づいて、ケミカルライブラリー構築の基礎となる機能性高分子担体
を精密合成し、固相反応場の構築に向けて、制限された空間内での分子認識や反応をモデル高分子(星型高分子)
を用いて検討する。
(3) 架橋高分子担体上での不斉反応をより効率よく進行させるために必要な反応性架橋高分子の合成および架橋
高分子担体上でのキラルライブラリー合成のための基礎的知見を得ること、具体的には以下について検討するこ
とを目的とした。①反応性架橋高分子として重要な高分子担持型有機金属試薬の開発とその利用。②架橋高分子
への不斉反応用キラルリガンド分子の導入法の開発。③高分子担体上での不斉反応によるキラル分子の合成法の
確立。④高分子担体を用いる不斉反応と低分子キラルリガンドを用いた均一溶液系との比較。⑤高分子担持型キ
ラルリガンドのリサイクルについての検討。
研究方法
(1) 精密構造制御重合法等により、分子量や末端基、ブロック、立体構造等が、様々に制御された高分子鎖を別
途調製した反応性ゲル上に効果的に固定化し、構造の制御された新規機能性高分子ゲルを構築する。なお、反応
性ゲルは、新規高分子ゲルのより簡便で実用的な構築法を確立するため、市販の架橋高分子ゲルやシリカゲル等
を出発原料として用い、これらに様々な反応性官能基を導入し、調製する。本手法について、次の検討を行う。
① 構造制御型高分子ゲルのより効果的な合成法および構造制御手法の確立。② 得られたゲルの固相反応場・分
子認識場等としての機能評価。③ ①および②により得られる結果に基づく、新規機能性高分子ゲルの設計・開発
指針の確立。
(2) 主として遷移金属錯体触媒によるリビングラジカル重合を用いる。具体的には、以下の検討を行う。① 機能
性高分子担体精密合成:市販担体樹脂からの遷移金属錯体触媒によるリビングラジカル重合。② 固相反応場構築
のモデル反応:遷移金属錯体触媒リビングラジカル重合による機能性星型高分子の合成、および核磁気共鳴分光
法での緩和時間測定による低分子有機化合物との相互作用の検討。
(3) ① 架橋高分子は主にその不溶性のため、有機金属試薬の調製が難しく、これまで研究例が少ない[4]。そこ
で、新しい高分子担持型有機金属試薬の合成法として、共役二重結合に対するカルボメタレーションを利用する
方法を開発する(式(1), (2))。
② 架橋高分子担体上での不斉反応を検討するために、高分子担持型キラルリガンドを合成する。主な方法として
は、キラルリガンド構造を有するモノマーを合成し、これをスチレンなどのアキラルモノマーと架橋剤とを共重
合する方法を行う[5]。
③ 高分子担体上での不斉反応として、イミン、アルデヒドの不斉アリル化反応、オキシムエーテル、ケトンの不
斉還元反応を検討する[6](式(3)-(5))。
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
研究成果
(1) ラジカル重合及びリビングラジカル重合法を利用し、ポリスチレン誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、多糖
誘導体等、様々な高分子鎖を、別途、設計・調製したポリスチレンゲルあるいは大孔径シリカゲル上にラジカル
重合開始剤部位・重合反応性リンカー等を有する反応性ゲルを用いることにより、分子量や末端・ブロック構造
等が制御された構造を有するポリマー鎖をゲル上に簡便かつ効果的に固定化できることを明らかにした。さらに、
本手法により得られた高分子ゲルの詳細な表面構造等について検討した結果、ゲル構造のより精密な制御が可能
であることがわかった。また、得られたゲルの不斉分子認識場等としての機能について評価・検討を行なった結
果、これまでにない分子認識機能等を有することが確認された。以上のことから、本手法が新規機能性高分子ゲ
ル構築法として極めて有効であることが示された。
① リビングラジカル重合法等を利用した機能性高分子ゲルの開発
市販のクロロメチル化ポリスチレンゲル(Merrifield's peptide resin, 1% cross-linked, 200– 400 mesh)に
リビングラジカル重合用開始剤を導入し、これを用いて Cu 錯体存在下、スチレン等、種々のビニルモノマーの原
子移動ラジカル重合を行うことにより、分子量や末端・ブロック構造等が制御された様々なビニルポリマー鎖を
ポリスチレンゲル上に簡便に導入できることを明らかにした。また、アニオン重合開始剤として機能する反応性
部位を導入した反応性ポリスチレンゲルを用い、立体特異性アニオン重合を行うことにより、立体構造の異なる
種々のポリアクリル酸誘導体をゲル上に固定化することが可能であることを見いだした。以上により、ゲル上に
重合開始剤を導入し、重合を行う本手法が、様々に構造制御された高分子鎖を効果的に固定化する簡便な手法と
して極めて有効であることが示された。
さらに、この手法をシリカゲル上へのポリマー鎖の固定化による構造制御型ゲルの構築に応用した。市販の大
孔径シリカゲル(Daisogel SP-1000, 粒径 7µm, 平均細孔径 1000Å)を出発物質としてリビングラジカル重合用ゲ
ル開始剤を調製し、原子移動ラジカル重合を行った。その結果、ポリスチレンやポリメタクリル酸エステル等の
種々のビニルポリマー鎖のシリカゲル上への効果的な固定化が可能であることがわかった。また、本重合系では、
固定化するポリマー鎖の分子量等を制御することにより、シリカゲルの表面積や細孔径等の構造を自在に制御す
ることが可能であることを明らかにした。
② 多糖誘導体のシリカゲル上への固定化による新規不斉分子認識場の開発
セルロース誘導体のシリカゲル上へのより簡便かつ効率よい固定化とその不斉分子認識場等としての機能につ
いて検討・評価を行った。
セルロースの側鎖の一部にビニル基を導入した誘導体を合成し、これをアミノプロピル化したシリカゲル、も
しくは反応性官能基としてビニル基を導入した反応性シリカゲルに対して適度な割合で担持し、これにさらに、
種々のビニルモノマー及びラジカル開始剤を添加し、ラジカル共重合を行うことにより、多糖誘導体のシリカゲ
ル上への固定化を行った。さらに得られたゲルを HPLC 用カラムにパッキングし、固相不斉分子認識場としての機
能を評価した。その結果、本手法により非常に効率良く多糖誘導体をシリカゲル上に固定化することが可能であ
ることがわかった。さらに HPLC 用固定相として、溶離液にクロロホルムを添加した系でも用いることが可能であ
るなど、従来の固定相に比べ、溶媒に対する著しい耐久性の向上が実現されたばかりでなく、不斉識別能の向上
も認められた。さらに、超微量分析の分野で有効であり、有機溶媒の消費の少ない省資源、低環境負荷型のキャ
ピラリーカラムに本手法で得られたゲルを充填することで、HPLC 用カラムと同等の分離能と耐久性の向上を得た。
以上により、本手法がこれまでにない分子認識機能・性能を有する新規機能性高分子ゲルの簡便かつ効果的な合
成手法として極めて有用であることが示された。
41
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
(2) 機能性高分子坦体− リビング重合による精密合成
① 機能性高分子担体の精密合成
機能性高分子担体を合成するための基礎として、市販高分子担体に開始剤基を導入し、これらから研究担当者
らが開発しつつある遷移金属錯体触媒によるリビングラジカル重合 [3, 7] を行い、鎖長と構造の規制されたス
ペーサー鎖をもつ担体の精密合成を検討した。
すなわち、市販のポリスチレン担体 (Novabiochem; polystyrene-CH2OH; 1% DVB; 100-200 mesh; 0.68 mmol OH
/ g) に、塩素または臭素をもつリビングラジカル重合の開始剤を担体の水酸基とのエステル結合を介して結合さ
せ、固相多官能開始剤を合成した。これらの生成を確認後、ルテニウム錯体を触媒として、メタクリル酸メチル
を重合した。重合を加速するため、さらに金属アルコキシドまたは脂肪族アミンを添加剤として使用した。トル
エン溶媒中で、これらの固相開始剤系によりリビングラジカル重合が進行し、その速度は対応する均一系リビン
グラジカル重合とほぼ同様であることもわかった。
重合後、トリフルオロ酢酸で担体と開始剤部位とを加水分解により切断し、生成高分子を解析すると、担体か
ら切り離した高分子は、分子量が数万で分子量分布が比較的狭く、重合率とともにその数平均分子量が増加した。
これらから、固相多官能性開始剤系を用いても、ルテニウム錯体等によりリビングラジカル重合可能であること
を明らかとした。
② 固相反応場構築のモデル反応
固相反応場の構築の基礎として、モデル高分子における制限された環境での反応や相互作用を検討した。この
ために、まず遷移金属錯体によるリビングラジカル重合を用いて星型高分子を合成した。これらの星型高分子は、
二官能性モノマーのミクロゲルを核とし、その表面にリビング重合により生成した鎖長途構造の規制された数十
本から数百本の高分子鎖が放射状に結合した構造となっている。その意味で、これらは可溶性高分子ではあるが、
ミクロゲルを基礎とした固相反応場のミクロなモデルと見なすことができよう。
このような観点から、遷移金属錯体によるリビングラジカル重合を用いて、核に極性官能基を多数持つ機能性
星型高分子を合成した。たとえば、ミクロゲル核を構成する結合剤として、二官能性アクリルアミドを用いると、
分子量数十万から数百万、1分子あたりの枝分子数が数十から数百本、流体力学的半径が数十 nm の星型高分子が
合成可能なことを見いだした。これらのミクロゲル核には、数百のアミド基が狭い空間に存在し、ミクロな反応
場を形成していると考えられる。事実、これらの星型高分子に水素結合可能な官能基を持つ低分子有機化合物、
たとえば安息香酸、ベンジルアルコールなどを共存させると、これらのゲスト分子は星型高分子の核と水素結合
により相互作用し、分子的に捕捉されることが明らかとなった。一方、安息香酸のカルボン酸基をエステル化す
ると水素結合能が失われるが、それに伴って上記の相互作用や捕捉現象も消失し、さらに、安息香酸とそのメチ
ルエステルの等モル混合物を星型高分子と共存させると、安息香酸のみが選択的に分子認識されて捕捉されるこ
とも見いだした。
(3) 高分子担体(ポリマーサポート)を用いるキラル分子ライブラリー合成の基礎的研究
① ジビニルベンゼンの懸濁重合により架橋高分子中に固定化されたビニルフェニル基が得られる。この樹脂に
BuLi などのカルバニオンを作用させると樹脂中の残存ビニル基と容易に反応し、樹脂はベンジルアニオン特有の
濃赤色を呈する。このベンジルアニオンは反応性に富み、種々の親電子剤との反応を確認できた(式(1))。この
方法は簡便な高分子有機金属試薬の合成法として有用であるが、架橋度が高く、膨潤性に乏しく、残存ビニル基
含量のコントロールが難しいなどの欠点もあるため、もう一つの方法としてジフェニルエチレン構造を持つ架橋
高分子の合成をつぎに試みた。架橋高分子に結合したジフェニルエチレン構造の二重結合は BuLi と容易に反応し、
上記と同様に濃赤色のベンジルアニオン型樹脂を合成することに成功した。この方法では、ジフェニルエチレン
構造の導入率を正確に制御できるだけでなく、樹脂中での重合などの副反応の可能性も無く、設計どおりの高分
42
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
子有機金属試薬を合成できる方法である(式(2))。この高分子がたカルバニオンも高反応性を示し、種々の親電
子剤と反応することが確認され、この技術に関する特許を申請した。
② 架橋高分子を利用してキラル分子ライブラリーを合成するための基礎的知見を得るためにいくつかの不斉反
応を行った。高分子に担持したイミンに対するアリル有機金属試薬の不斉付加反応は高収率、高選択性で進行す
ることが分かった。スルホン酸エステル結合のリンカー構造はキラルアミン分子の切り出しに適切であり、キラ
ルアミンを高収率で合成できた(式(3))。
キラルアミノアルコール N-スルホンアミドがアリルホウ素試薬のキラルリガンドとして有効であることを見い
だしているので、この構造を架橋高分子上に実現した。この高分子不斉アリル化剤もアルデヒドや、N-シリルイ
ミンと速やかに反応し、高収率かつ、高選択的に対応する光学活性アリル化生成物を与えることが分かった(式
(4))。
キラルオキサザボロリジンがケトンやオキシムのボラン還元の触媒として極めて有効であることは、これまで
の研究ですでに明らかになっている。そこで新しいキラルリガンドとして、ピペラジンメタノールを用いた。こ
れを用いると、オキシムエーテルの不斉還元で、ほぼ完全な不斉選択性を示すことが分かったが、興味深いこと
に、高分子に担持しない低分子触媒より高い選択性が、高分子触媒によって可能になった(式(5))。この技術に
関しても特許を申請した。
考
察
(1) リビングラジカル重合法等を利用した高分子ゲルの合成は、特に最近、世界的にも様々な試みがなされてき
ており、極めて注目度の高い研究課題である。本研究で開発した構造制御された高分子ゲルの簡便かつ効果的な
構築法は、新規機能性高分子ゲルの創製の観点から極めて有効な手法であり、実際、新規性能・機能を有するゲ
ルの構築に成功した。
①
本手法による、ゲル表面の構造制御が可能であることが明らかになったことから、そのより精密な制御によ
る機能制御を達成することにより、新規機能性ゲル・材料の創製が可能であると考えられる。
②
多糖誘導体のシリカゲル上への効果的な固定化が可能となり、耐久性の飛躍的な向上とそれに伴う不斉識別
能力の向上が達成された。今後、手法のさらなる簡便化・効率化を図ることで、より高機能な高分子ゲルの調
製が可能であると考えられる。
(2) 機能性高分子坦体− リビング重合による精密合成
① 機能性高分子担体の精密合成:本研究により、固相多官能性開始剤系を用いてもリビングラジカル重合可能
であったが、生成する高分子は、従来の不均一系担持開始剤によるラジカル重合で得られた高分子より分子
量が精密に規制されてはいるものの、同一条件下での均一系重合での高分子に比較して分子量分布がやや広
いなどの課題が残されており、今後さらに重合条件と開始剤の設計を検討する必要があろう。
② 固相反応場構築のモデル反応:固相反応場のモデルとして、機能性基を持つ星型高分子が有効であることが
明らかとなったが、これらは可溶性高分子の一部が固相反応場のモデルとなっており、実際の不均一系での
反応、分子認識、触媒作用等にさらに一般化する必要がある。
(3) 高分子担体(ポリマーサポート)を用いるキラル分子ライブラリー合成の基礎的研究
① 有機金属試薬は有機合成において頻繁に使われる重要な反応剤であるが、高分子型有機金属試薬は限られた
例しか知られていない。本研究では、通常の有機金属試薬の調製法にはあまり使われないカルボメタレーシ
ョン反応に着目し、架橋高分子上に有機金属試薬を形成することに成功した。スチレン型ビニル基の生成法
は本研究では、その簡便さからジビニルベンゼンの重合による方法を採用したが、高分子反応を利用する方
43
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
法が種々利用できるので、架橋度や導入率も容易に制御できるはずである。
② 不斉アリル化反応に関しては、すでに低分子の均一溶液系で高選択性、高反応性を示す系を架橋高分子に応
用することで、不均一反応であっても高分子担体上で高立体選択的反応が再現できた。キラルオキサザボロ
リジン触媒の場合は、架橋高分子に担持された触媒を利用した場合の方が反応性、選択性が向上した。均一
溶液系で集合体を形成する可能性のある触媒が高分子に固定化されることにより、活性な触媒構造の保持が
起こっている可能性を示唆している。
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45
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Chiral Ligand”, Adv. Synth. Cat., 1, 89– 94 (2001).
[20] T. Kumagai and S. Itsuno: “Asymmetric allylation polymerization of bis(allylsilane) and dialdehyde”,
Macromol. Rapid Commun., 22, 31– 34 (2001).
[21] S. Itsuno and A. A. El-Shehawy: “Synthesis of Novel Chiral Monomers by Means of Umani-Ronchi –
Savoia Allylation and Their Polymerization”, Polym Adv. Tech., 12, 670– 679 (2001).
[22] T. Kumagai and S. Itsuno: “Asymmetric Allylation Polymerization of Bis(allylsilane) and Dialdehyde
Containing Si-Phenyl Linkage”, Tetrahedron: Asymmetry, 12, 2509– 2516 (2001).
[23] T. Kumagai and S. Itsuno: “Asymmetric Polymerization of Dialdehyde and Bis(allylsilane) in the
Presence of Chiral (Acyloxy)borane Catalyst”, Macromolecules, 34, 7624-7628 (2001).
[24] S. Itsuno, S. Tanaka, and A. Hirao: “Preparation of Polymer Supported Benzyllithium Reagents”,
Bioorg. Med. Chem. Lett., in press.
[25] K. Komura and S. Itsuno, “Asymmetric Aldol Polymerization: Synthesis of Optically Active Polymers
Based on Asymmetric Mukaiyama Aldol Reaction”, Macromol. Chem. Phys., in press.
[26] T. Kumagai and S. Itsuno: “Asymmetric Allylation Polymerization of Bis(allylsilane) and Dialdehyde
Containing Arylsilane Structure”, Macromolecules, in press.
[27] S. Itsuno and T. Kumagai: “Asymmetric Synthesis of Chiral Polymers by Means of Repetitive Addition
pf Allylsilane to Aldehyde”, Synthesis , in press.
7.2. 原著論文以外による発表(レビュー等)
7.2.1. 国内誌(国内英文誌を含む)
[1] 上垣外正己, 澤本光男:
「リビングラジカル重合− 生長種を休ませることによる反応制御− 」、現代化学, 363,
34-42 (2001).
[2] 大内誠, 上垣外正己, 澤本光男:「シクロペンタジエンの精密制御カチオン重合」、高分子加工, 50, 386-393
(2001).
[3] 安藤剛, 上垣外正己, 澤本光男:「遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の新展開:金属触媒の設計と
精密重合系の開発」、高分子論文集, 62, 199-211 (2002).
[4] 伊津野真一:「不斉触媒 • 配位子」、ラジカル重合ハンドブック〜基礎から新展開まで〜蒲池幹治(遠藤
剛監修、エヌティーエス)第4編、第2章、第2節 584-599 (1999).
[5] 小村賢一, 伊津野真一:「向山アルドール反応を利用する不斉重合
-光学活性高分子の新しい合成法-」、
高分子加工, 50, 68– 74 (2001).
[6] 伊津野真一, 熊谷逸裕:「キラルルイス酸触媒を用いる不斉重付加反応— 不斉Sakurai-Hosomiアリル化反応
を応用した新規キラル高分子の合成— 」、Jascoレポート, 43, 28-30 (2001).
7.2.2. 国外誌
[1] M. Kamigaito, T. Ando, and M. Sawamoto: “Metal-Catalyzed Living Radical Polymerization”, Chem.
Rev., 101, 3689-3745 (2001).
[2] M. Sawamoto and M. Kamigaito: “Living Radical and Cationic Polymerization in Water and Organic Media”,
Macromol. Symp., 177, 17-24 (2002).
46
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
[3] S. Itsuno: “Hydroboration of Carbonyl Groups” in “Comprehensive Asymmetric Catalysis”, E. N.
Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto, (Eds.), Springer, Vol. I, Ch. 6.4, pp. 289– 315 (1999).
[4] S. Itsuno: “Polymer Supported Metal Lewis Acids”, in Lewis Acids in Organic Synthesis, H. Yamamoto
(Ed.), Wiley-VCH, Vol. 2, Ch. 21, pp. 945-979 (2000).
7.3. 口頭発表
7.3.1. 招待講演
[1] Y. Okamoto: “Optically Active Polymers: Synthesis, Conformation, and Function”, Orlando, USA [13th
International Symposium on Chirality, July, 2001]
[2] Y. Okamoto: “Chromatographic Enantioseparation Using Polysaccharide Derivatives as Chiral
Sorbents”, Houffalize, Belgium [1st NIAF-MeRinOS Joint Meeting on Fundamental and Applied Aspects
of Synthesis, September, 2001]
[3] Y. Okamoto: ”Chromatographic Enantioseparation Using Polysaccharide Derivatives as Chiral
Stationary Phases”, Pusan, Korea [1st CSL Symposium on Chiral Separations, January, 2002]
[4] M. Sawamoto and M. Kamigaito: “Precision Synthesis of Functionalized Polymers by Metal-Catalyzed
Living Radical Polymerization”, San Diego, CA, USA [The 221st National Meeting of the American Chemical
Society, April 2001]
[5] M. Sawamoto and M. Kamigaito: “Transition Metal-Catalyzed Living Radical Polymerization: Scope,
Catlysts Design, and Precision Polymer Synthesis”, Orlando, FL, U. S. A. [The 223rd National Meeting
of the American Chemical Society, April 2002]
[6] S. Itsuno: ”Polymer Assisted Asymmetric Synthesis”, Haikou, China [9th International Symposium
on Fine Chemistry and Functional Polymers (FCFP-IX), November, 1999]
[7] S. Itsuno: ”Polymer Assisted Asymmetric Reactions”, Tianjin, China [IUPAC 9th International
Conference on Polymer Based Technology, May, 2000]
[8] 伊津野真一、熊谷逸裕:「キラルルイス酸触媒を用いる不斉重付加反応」、札幌[シンポジウム「キラル高
分子」、高分子学会北海道支部、2000年7月]
[9] S. Itsuno: “Asymmetric Reactions using Polymer-Support”, Zurich [INTERGRUPPEN SEMINAR at ETH,
September, 2001]
[10] 伊津野真一:「不斉C− C結合形成反応を利用する光学活性高分子の不斉合成」、岡崎[分子研研究会「2
1世紀の不斉分子科学」2001年3月]
[11] S. Itsuno: “Optically Active Polymer Synthesis using Asymmetric C-C Bond Forming Reactions”,
Castellon, Spain [Seminar on Asymmetric Synthesis, March, 2001]
[12] S. Itsuno: “Chiral Functional Polymer Synthesis by means of Asymmetric C-C Bond Forming Reactions”,
San Diego, USA
[221st Spring ACS National Meeting Symposium on Functional Polymers & Dendrimers,,
April, 2001]
[13] 伊津野真一:
「キラル高分子の合成と不斉反応への応用」、川崎[13th Conference on Combinatorial Chemistry,
Japan、2001年9月]
[14] 伊津野真一:「不斉合成とコンビナトリアルケミストリー」、蒲郡[技術交流会、2002年3月]
7.3.2. 応募・主催講演等
[1] 池島
理、幅上茂樹、岡本佳男:「リビングラジカル重合法を用いた構造制御型ポリスチレンゲルの構築」、
名古屋国際会議場[第49回高分子年次大会、2000年5月]
47
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
[2] 池島
理、幅上茂樹、岡本佳男:
「立体特異性アニオン重合法を用いた構造制御型ポリスチレンゲルの構築」、
名古屋国際会議場[第49回高分子年次大会、2000年5月]
[3] 草野敏也、笠島英治、山本智代、八島栄次、岡本佳男:「多糖フェニルカルバメート誘導体のシリカゲルへ
の固定化」、名古屋国際会議場[第49回高分子年次大会、2000年5月]
[4] 池島 理、幅上茂樹、岡本佳男:「リビングラジカル重合による構造制御された高分子ゲルの合成」、東北
大学[第49回高分子討論会、2000年9月]
[5] 幅上茂樹、池島
理、岡本佳男:「立体特異性アニオン重合による構造制御された高分子ゲルの合成」、東
北大学[第49回高分子討論会、2000年9月]
[6] 草野敏也、窪田隆輝、山本智代、八島栄次、岡本佳男:「多糖誘導体のシリカゲルへの固定化とその評価」、
東北大学[第49回高分子討論会、2000年9月]
[7] C. Yamamoto, T. Kusano, E. Yashima, and Y. Okamoto: “Immobilization of Cellulose Phenylcarbamate
Derivatives on Silica Gel”, Chamonix, France [International Symposium on Chiral Discrimination (ISCD
12), September 2000]
[8] 池島
理、幅上茂樹、岡本佳男:「リビングラジカル重合により構造制御されたポリマー鎖のゲル上への固
定化」、大阪国際会議場[第50回高分子年次大会、2001年5月]
[9] 窪田隆輝、草野敏也、山本智代、八島栄次、岡本佳男:「ビニル基を有する多糖誘導体のラジカル共重合に
よるシリカゲルへの固定化」、大阪国際会議場[第50回高分子年次大会、2001年5月]
[10] 脇田常希、B. Chankvetadze、山本智代、岡本佳男:「セルロース誘導体のキャピラリーカラムへの固定化
と光学分割への応用」、大阪国際会議場[第50回高分子年次大会、2001年5月]
[11] 脇田常希、B. Chankvetadze、窪田隆輝、山本智代、岡本佳男:「セルロース誘導体のシリカゲル上への固
定化とその応用」、早稲田大学[第50回高分子討論会、2001年9月]
[12] 窪田隆輝、山本智代、八島栄次、岡本佳男:「多糖誘導体のラジカル共重合によるシリカゲルへの固定化と
光学分割能の評価」、千葉大学[日本化学会第80回秋季年会、2001年9月]
[13] T. Kubota, T. Kusano, C. Yamamoto, E. Yashima, and Y. Okamoto: “Efficient Immobilization of
Polysaccharide Derivatives onto Silica Gel via Copolymerization with Vinyl Monomers and Evaluation
of Their Chiral Recognition Ability”, Orlando, FL, USA [Chirality 2001 (ISCD-13, 13th International
Symposium, Exhibit & Seminars on Chirality), July 2001]
[14] T. Kubota, T. Kusano, C. Yamamoto, E. Yashima, and Y. Okamoto: "Efficient Immobilization of Cellulose
Tris(3,5-dimethylphenylcarbamate) onto Silica Gel via Radical Copolymerization with Vinyl Monomers
and Evaluation of Their Chiral Recognition Ability", Kyoto, Japan [HPLC 2001, September 2001]
[15] C. Yamamoto, T. Kubota, T. Hayashi, C. Reuter, G. Pawlitzki, J. Recker, F. Vögtle, S. Okubo, T, Kato,
and Y. Okamoto: “Enantioseparation and CD Measurement of Chiral Dendrophanes, Dendrocatenanes,
Dendrotaxanes, Molecular Knots, and Fullerene C76”, Sendai, Japan [CD 2001 (8th International
Conference on Circular Dichroism), September 2001]
[16] 窪田隆輝、山本智代、岡本佳男:「次世代型キラルカラムの作製を目的とした多糖誘導体のシリカゲルへの
固定化」、横浜[ポリマー材料フォーラム、2002年5月]
[17] 網代広治、幅上茂樹、岡本佳男:「リビングラジカル重合による種々のビニルポリマー鎖のシリカゲル上へ
の固定化」、パシフィコ横浜[第51回高分子年次大会、2002年5月]
[18] 窪田隆輝、山本智代、岡本佳男:「セルロース誘導体のシリカゲルへの固定化とHPLC用キラル固定相への応
用」、パシフィコ横浜[第51回高分子年次大会、2002年5月]
[19] 脇田常希、窪田隆輝、Bezhan Chankvetadze、山本智代、岡本佳男:「セルロース誘導体の固定化とキラル
キャピラリーカラムへの応用」、パシフィコ横浜[第51回高分子年次大会、2002年5月]
48
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
[20] 窪田隆輝、山本智代、岡本佳男:「多糖誘導体のシリカゲルへの固定化とHPLC用キラル固定相への応用」、
熊本[シンポジウム「モレキュラー・キラリティー2002」、2002年6月]
[21] T. Kubota, C. Yamamoto, and Y. Okamoto: “Immobilization of Polysaccharide Derivatives on Silica
Gel and Application to CSPs for HPLC”, Hamburg, Germany [14th International Symposium on Chirality,
Hamburg, September 2002]
[22] K.-Y. Baek, M. Kamigaito, M. Sawamoto: “Synthesis of Star-Shaped Polymers with Divinyl Compounds
by Metal-Catalyzed Living Radical Polymerization”, New Orleans, LA, U. S. A. [The 218th National
Meeting of the American Chemical Society, August 1999]
[23] 白京烈, 上垣外正己, 澤本光男:「遷移金属錯体を用いたリビングラジカル重合による種々の官能基を持つ
星型ポリマーの合成」、京都国際会議場[第48回高分子学会年次大会, , 1999年5月]
[24] 白京烈, 上垣外正己, 澤本光男:「遷移金属錯体を用いたリビングラジカル重合による中心核に極性官能基
を持つ星型ポリマーの合成」、名古屋国際会議場[第49回高分子年次大会、2000年5月]
[25] 白京烈, 上垣外正己, 澤本光男:「遷移金属錯体を用いたリビングラジカル重合による中心核に官能基を持
つ星型ポリマーの合成と性質」、東北大学[第49回高分子討論会、2000年9月]
[26] 白京烈, 上垣外正己, 澤本光男:「遷移金属錯体を用いたリビングラジカル重合による枝や核に官能基を持
つ星型ポリマーの合成と機能」、大阪国際会議場[第50回高分子年次大会、2001年5月]
[27] 白京烈, 上垣外正己, 澤本光男:「官能性ミクロゲル核を持つ星型ポリマー:遷移金属錯体によるリビング
ラジカル重合による精密合成と機能評価」、早稲田大学[第50回高分子討論会、2001年9月]
7.4. 特許等出願等
[1] 2000年11月9日、「光学異性体分離剤及びその製造方法」、岡本佳男、八島栄次、山本智代、特願2000-341432
[2] 2001年4月27日、「新規な光学異性体分離用カラム、その製造法及びそれを用いた分離方法」、岡本佳男、
B. Chankvetadze、山本智代、特願2001-131869
[3] 2001年4月27日、「原子移動ラジカル重合開始剤及びそれを用いる重合体の製造方法」、岡本佳男、幅上茂
樹、特願2001-131944
[4] 2001年3月7日、「光学異性体用分離剤」、岡本佳男、山本智代、窪田隆輝、特願2001-63001
[5] 2001年5月24日、「分離用カラム」、岡本佳男、ベツアン・チャンクベターゼ、山本智代、脇田常希、特願
2001-155232
[6] 1999年3月30日、「光学活性ピペラジン誘導体、そのポリマー及び製造方法」、伊津野真一、特願平11-89109
[7] 2001年12月14日、「高分子形ベンジルリチウム試薬の製造方法」、伊津野真一、特願2001-382175
7.5. 受賞等
[1] 岡本佳男:「日本化学会賞(日本化学会)」、1999年3月29日
[2] 岡本佳男:「Molecular Chirality Award」、1999年5月18日
[3] 岡本佳男:「Chirality Medal Award」、2001年7月15日
[4] 澤本 光男:「日本化学会学術賞(遷移金属錯体によるリビングラジカル重合の開発)」、1999年3月29
日
[5] 澤本 光男, 上垣外正己:「Arthur K. Doolittle Award (The Division of Polymeric Materials: Science
and Engineering, The American Chemical Society), “Precision Synthesis of Functionalized Polymers
by Metal-Catalyzed Living Radical Polymerization」、2002年4月9日
49
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
1. ケミカルライブラリー設計技術に関する研究
1.2 固相精密反応場の最適化と固相合成の設計に関する研究
東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻
黒木
要
重樹、山根 祐治
約
固相反応場を最適化するためには、固相反応場について詳細に理解する必要がある。固相反応場は、高分子支
持体(ネットワークポリマー)、反応活性点(マトリックス高分子中の官能基のついた側鎖)、反応基質及び溶媒で
構成されている。固相反応の反応速度は、固相反応場中の反応活性点、反応基質及び溶媒の運動性と密接な関係
にあると考えられる。本研究では、(a)固相反応場中の溶媒分子拡散過程の解析、(b)固相反応場中の反応基質
拡散過程の解析、(c)固相反応の反応速度の決定を行った。解析手法としては主に、1H PFGSE NMR 法によるプロ
ーブ分子の自己拡散係数の測定を利用した。
(a)固相反応場中の溶媒分子拡散過程の解析
高分子支持体としてクロロメチル化 PS(ポリスチレン)ビーズおよび PS-PEG(ポリエチレングリコール)ビー
ズ、溶媒として DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、THF(テトラヒドロフラン)そして H2O(水)を選んだ。溶
媒で膨潤させた PS ゲル中の溶媒の拡散係数を、体積膨潤度及び温度を変化させて測定した。また、その結果をア
レニウスプロットをすることにより自己拡散の活性化エネルギーも決定した。PS ゲル中溶媒の拡散係数の体積膨
潤度依存性は、体積膨潤度 Q < 2.0 の領域において大きく変化し、Q >2.0 領域においてはその変化が小さかった。
また、DMF と THF のゲル体積膨潤度依存性は非常に良く類似していた。温度に対してはどの体積膨潤度においても
拡散係数の変化は大きく、また、体積膨潤度 Q < 2.0 の領域においては、溶媒の自己拡散活性化エネルギーが大き
いことがわかった。以上より、ゲルの体積膨潤度と温度は固相反応場中の溶媒の拡散過程に大きく影響する因子
であることがわかり、PS ゲル中の溶媒の拡散過程は、Q < 2.0 では、溶媒分子と PS 鎖との相互作用及び溶媒と PS
網目鎖との立体的障害が支配的であると結論づけた。更に網目鎖との間の支配的な相互作用が立体的障害である
場合、網目構造が均一な高分子ゲル内の溶媒の拡散係数を、自由体積によって説明した Fujita の修正自由体積理論
との比較も行った。また、PS-PEG ゲル中の溶媒(DMF、THF、H2O)の自己拡散係数を決定し、DMF 及び THF
については、PS ゲル中と同程度の自己拡散係数であることを確認したが、H2O については、PEG 鎖との相互作用
により多成分の拡散成分を持つことがわかった。さらに、PS ゲル中の DMF について自己拡散係数の観測時間依
存性について明らかにした。
(b)固相反応場中の反応基質拡散過程の解析
(a)の系に反応基質を加え、PS ゲル中の反応基質の拡散係数を同様の方法で測定した。反応基質としてアミノ
基を保護した t-ブトキシグリシン(Boc-Gly)、t-ブトキシ-L-フェニルアラニン(Boc-Phe)、t-ブトキシトリプトフ
ァン(Boc-Trp)、さらに 9-フルオレニルメトキシカルボニル-L-フェニルアラニン(Fmoc-Phe)を選んだ。その
結果、PS ゲル中の溶媒と同様に、Q < 2.0 において、PS 鎖とアミノ酸分子との相互作用が強くなることを示した。
また、PS ゲル中のアミノ酸は、測定のタイムスケールにおいて、多成分の拡散成分が存在し、拡散成分の割合は
50
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Q 及び観測時間に依存することを示した。測定のタイムスケールとなる2つの磁場勾配パルス間の間隔Δを 10 ms
とすることで、全てのアミノ酸分子の拡散成分が平均化されて1成分になることを明らかにした。また、溶液中、
DVB 1mol%架橋された PS ゲル中及び DVB 2mol%架橋された PS ゲル中の Boc-Phe の自己拡散係数について、Boc-Phe
の濃度依存性を明らかにした。さらに、溶媒として重水素化 DMF を用いた場合と重水素化 THF を用いた場合の PS
ゲル中の Boc-Phe の自己拡散係数を明らかにした。PS ゲル中の Boc-Gly、Boc-Phe、Boc-Trp 及び Fmoc-Phe の自己
拡散係数を比較した。PS ゲルの他に、PS-PEG ゲル及び PEG ゲルを用い、高分子ゲル中の Boc-Phe、Boc-Trp 及び
Fmoc-Phe の自己拡散係数を比較した。また、反応活性点とアミノ酸分子との衝突頻度を、ゲルの種類、アミノ酸
の種類及び温度に対して比較した。
(c)固相反応の反応速度の決定
固相反応が進行している状態で、固相反応場中の反応基質の自己拡散係数を決定した。また、固相反応を未反
応の反応基質の量をスピンエコーNMR スペクトルを観測することによりモニターし、架橋密度の高い PS ゲル中の
ほうが反応速度が遅いことおよび反応温度は 40℃より 50℃のほうが反応は速やかに進行するを明らかにした。
研究目的
ネットワークポリマーを利用した固相反応は、液相反応に比較して反応性が低く反応速度が遅いという問題点
がある。これは反応活性点(マトリックス高分子中の官能基のついた側鎖)及び反応基質の運動性が、液相反応
場に比較して固相反応場は大きく束縛されていることに起因すると考えられる。そこで、本研究では、反応速度
がポリマーネットワーク内の溶媒を介した反応基質の拡散過程と密接な関係にあることに着目し、固相反応場中
の溶媒分子と反応基質の運動性を分子レベルで評価することを目的としている。
研究方法
物質の拡散係数を測定する手法としては動的光散乱法、強制レイリー散乱法及び本研究で用いた NMR 法等があ
る。今回用いた方法は、核磁気的な励起状態に標識された分子が動く平均距離の時間変化を測定するので自己拡
散係数が求められる。この方法では、人工的標識を分子に付ける必要がなく、また溶媒の屈折率などの制限がな
く、不均一構造を持った不透明なゲル内の自己拡散係数を測定することが可能であり、固相反応場の物質拡散を
解析する際にも応用できる。NMR 測定は本研究室で開発した非常に強い磁場勾配(1300G/cm 程度)を発生できる
磁場勾配ユニットを付属した日本電子製 GSX-270NMR 分光器を用いた。関係式:ln{A(δ)/A(0)} = ‐γ2G2δ2D(Δ
‐δ/3)を用いてプローブ分子の拡散係数を決定した。また、2 成分の拡散成分がある場合には次式となる。
A(δ )
= f 1 exp(− D1 k ) + f 2 exp(− D2 k )
A(0)
ここで、k =γ2G2δ2 (Δ‐δ/3)とすし、拡散係数が D1 の核の分率をf1、拡散係数が D2 の核の分率をf2 とした。
ただし、f1+f2=1である。
高 分 子 ゲ ル と し て ペ プ チ ド 固 相 反 応 場 を 選 び 、 MPS ( Merrifield polystyrene network ) ゲ ル 、
PEG-PS(polyethylene glycol grafted polystyrene network)ゲル及び CLEAR(cross-linked ethoxylate acrylate)
ゲルを用いた。溶媒として DMF 及び THF、プローブ分子として Boc-Gly、Boc-Phe、Boc-Trp 及び Fmoc-Phe を選ん
だ。超高磁場勾配 NMR 装置を用い、1H パルス磁場勾配スピンエコー(pulsed-field-gradient spin-echo:PFGSE)NMR
法により、高分子ゲル中の溶媒及びアミノ酸分子の自己拡散係数を決定した。それぞれの拡散係数は、体積膨潤
度 Q、温度、アミノ酸濃度及び高分子ゲルの種類の影響について詳細に調べた。
51
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
研究成果
固相反応場中の溶媒の拡散過程
MPS ゲル中の溶媒(DMF 及び THF)の自己拡散係数 D と自己拡散の活性化エネルギーE について、体積膨潤度 Q
(=Vswollen/Vdry, Vswollen:膨潤ゲルの体積、Vdry:乾燥ゲルの体積)依存性及び温度依存性を明らかにした。Fig.1 に、
MPS ゲル中の DMF の D と E を Q に対してプロットした結果を示す。D が Q に対して増加していることから、網目サ
イズが小さくなるほど DMF 分子と PS 網目鎖間との衝突頻度が上がり、DMF 分子の並進拡散が抑制されることが理
解できる。また、DMF の E は Q > 2.0 においては Q にほとんど依存しないが、Q < 2.0 では、E は Q の減少ととも
に増加することから、編目サイズが小さいと PS 鎖と DMF 分子との分子間相互作用が無視できなくなることがわか
った。さらに、Q < 2.0 において、PS 側鎖のクロロメチル基置換率が MPS ゲル中の DMF の D に影響を及ぼすこと
がわかり、溶媒分子と MPS 鎖との相互作用を考慮する必要性があることが示唆される結果も得られた。
4.5
D of neat DMF
4.0
1.5
3.5
1.0
3.0
0.5
Activation energy / kcal mol-1
Diffusion coefficient / 10-5 cm2 s-1
2.0
2.5
E of neat DMF
2.0
0.0
1
2
3
4
5
Degree of volume swelling Q
Fig.1 Kuroki
Fig.1
Dependence of the diffusion coefficient of DMF in MPS gels (●) and the activation energy of self-diffusion
(□) on the degree of volume swelling Q at 50℃.
Fig.2 に、MPS ゲル中の DMF と THF について DQ/D0(DQ:Q の時の溶媒の D、D0:純溶媒の D)を Q に対してプロット
52
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
した結果を示す。DMF と THF の D について、DQ/D0 の Q 依存性が非常に類似していることがわかる。このことは、
PS 鎖と溶媒分子との相互作用よりも、PS 網目鎖と溶媒分子とのトポロジカルな相互作用が拡散過程に支配的であ
ることを示すものであり、D と Q の関係は溶媒の自由体積の変化と関連づけることができる。ここで、トポロジカ
ルな相互作用とは PS 編目鎖がプローブ分子の並進拡散を制限するという意味である。つまり、PS 鎖と溶媒分子と
の間に特別な相互作用がない場合は、純溶媒の D は既知であるので、Q を測ることによって固相反応場中の溶媒の
D を Fig.1 から簡単に見積もることができる。
1.0
0.8
DQ / D0
0.6
0.4
0.2
0.0
1
3
5
7
9
11
Degree of volume swelling Q
Fig.2 Kuroki
Fig.2
Ratio of solvent diffusion coefficient measured in the solvent in MPS gels, DQ, to the pure solvent, D0,
as a function of the degree of volume swelling Q for DMF(●) and THF(□) in MPS gels and for DMF (●) and
THF (■) in PEG-PS gels at 30℃.
さて、側鎖にポリエチレングリコール(PEG)基を有する PEG-PS ゲル中の水のDを観測時間を Δ = 10 ms、20 ms、
50 ms にして測定した。測定結果を Fig.7 に示す。Δ = 10 ms の時、プロットが曲線となり、水の拡散成分が2
成分以上あることがわかる。一方、PEG-PS ゲル中の DMF は 1 成分の D が得られた。これらの拡散成分は、疎水性
基である PS 鎖近傍と親水性の側鎖である PEG 基近傍とでは、水の拡散速度が異なることを反映したもので、水分
子は PEG 基と水素結合し、束縛されていると理解できる。また、Δ = 50 ms において拡散成分が単一成分となっ
て現われてくることがわかる。水分子が PS 鎖の近傍を拡散し、側鎖の PEG 基と相互作用し、PEG 基から離れ、再
び PS 鎖近傍を拡散するという過程を経ることにより、実験で観測される拡散過程が巨視的に見て 1 成分になるの
である。
53
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
γ2 g2 δ2 (Δ-δ/3) / 105 cm-2 s
0
1
2
3
4
0.0
ln{A(δ)/A(0)}
-1.0
-2.0
-3.0
-4.0
Fig.3 Kuroki
Fig.3
Diffusional spin-echo attenuation of H2O in PEG-PS gels by varying field gradient pulse duration
=10ms(●), 20ms(□), 50ms(◆)
at 30℃:
以上、固相反応場中の溶媒の拡散過程について明らかにした。利用頻度の高い Merrifield 固相反応場中の溶媒
の拡散速度は Q 及び温度に大きく依存し、Q によって固相反応場中の溶媒の拡散速度を決定することができるグラ
フの作成に成功した。また、DVB2mol%架橋させた Merrifield 固相反応場のように Q の小さい系中の溶媒について
は、PS 鎖と溶媒との特別な分子間相互作用の強さも考える必要があることを突き止めた。さらに、PEG-PS 固相反
応場中の有機溶媒の拡散過程は固相反応場中で一様であるが、水については PS 鎖近傍と反応活性点(PEG 側鎖)
付近での水の拡散速度が異なるという結果を得ることができた。
固相反応場中のアミの酸の拡散過程
MPS ゲル中のアミノ酸(反応基質)の拡散過程について同様に解析した。Fig.3 に MPS ゲル中の Boc-Phe につい
ての測定結果を示す。溶媒は DMF を用いた。このプロットの傾きが D となり、プロットが直線の場合は 1 成分の
拡散成分が存在することになる。MPS ゲル中のアミノ酸分子の拡散係数は測定のタイムスケールにおいて、多成分
の拡散成分が存在し、DVB1mol%架橋された MPS ゲル中では 60%、DVB2mol%架橋された MPS ゲル中では 80%の遅い
(平均化された)拡散成分が存在することがわかった。遅い拡散成分は、PS 鎖近傍を移動し、PS 鎖と相互作用を
54
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
している Boc-Phe 分子を反映し、その他の速い拡散成分は PS 鎖との距離の違いにより決まり、比較的束縛を受け
てない Boc-Phe 分子の拡散成分を反映したものと考えられる。また、拡散係数の分布は高分子ゲルの不均一性も
反映していると考えられる。Fig.4 に Q = 1.50 と Q = 2.45 の MPS ゲル中において、Boc-Gly の D と遅い拡散成
分の割合を温度に対してプロットした結果を示す。
γ2 g2 δ2 (Δ-δ/3) / 105 cm-2 s
0
10
20
30
40
0.0
ln{A(δ)/A(0)}
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
-3.0
-3.5
Fig.4 Kuroki
Fig.4
Diffusional spin-echo attenuation of 10 wt% Boc-Phe in MPS (DVB 1mol% cross-linked) gels(●) and MPS (DVB
2mol% cross-linked) gels (○) by varying field gradient pulse duration
at 40℃.
55
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
1.0
0.9
10
0.8
0.7
5
0.6
0
Fraction of the slow diffusion component
Diffusion coefficient / 10-7 cm2 s-1
15
0.5
25
30
35
40
45
50
55
Temperature / ℃
Fig.5 Kuroki
Fig.5
Temperature dependence of the diffusion coefficient of Boc-Gly 10wt%(solvent: DMF-d7) in MPS gel with Q
= 2.45 (●) and the fraction of the slow diffusion component(■), and Boc-Gly 10wt%(solvent: DMF-d7) in MPS
gel with Q = 1.50 (○) and the fraction of slow diffusion component (□).
PS 鎖とアミノ酸分子との特別な相互作用が拡散係数の分布を生み出すのであれば、温度依存性が現われてもよさ
そうであるが、これら拡散成分の割合は、温度依存性(30℃~50℃)が確認されなかった。やはり、高分子ゲル
の不均一性及び PS 鎖とアミノ酸分子との距離を反映して D の分布が現われたものであると考えられる。Boc-Trp、
Boc-Phe 及び Fmoc-Phe についても同様の実験を行ったが、遅い拡散成分の割合は、MPS ゲルの Q が同等の場合、
これらのアミノ酸で相違はなかった。ただし、遅い拡散成分の D 値の大きさについてはアミノ酸の種類に依存し
た。
さらに、アミノ酸の濃度の影響も明らかにされた。DMF-d7 溶液中の Boc-Phe について、Boc-Phe の D(40℃)と
E を、Boc-Phe の濃度 CBoc-Phe(4 wt% ~ 12 wt%)に対してプロットした結果を Fig.5 a) に示す。このグラフより、
Boc-Phe の D が CBoc-Phe の増加と共に増加していることがわかる。これは、CBoc-Phe の増加により、Boc-Phe 分子が DMF-d7
分子のみならず、Boc-Phe 分子同士とも相互作用する機会多くなったためで、Boc-Phe 分子が、この系の中で遅い
拡散分子である Boc-Phe 分子の近傍を通過する際は、DMF-d7 分子に囲まれた領域を拡散している時に比べて、拡
56
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
散速度は遅くなる。また、Boc-Phe の E は、CBoc-Phe 依存性は確認されず、3.10 kcal/mol で一定であった。これは、
Boc-Phe 分子と Boc-Phe 分子との相互作用と、Boc-Phe 分子と DMF-d7 分子との相互作用の強さが同等であることを
示唆している。
10.0
8.0
6.0
5.0
4.0
Activation energy / kcal mol-1
Diffusion coefficient / 10-6 cm2 s-1
7.5
2.0
2.5
0.0
0
5
10
15
Boc-Phe concentration / wt%
Fig.6 (a) Kuroki
Fig.6(a)
The plots of the diffusion coefficient of Boc-Phe in DMF-d7 solution ( ● ) and activation energy of
self-diffusion (□) against the concentration Camino acid at 40℃.
DVB 1mol%架橋された MPS ゲル中の Boc-Phe について、Boc-Phe の D(40℃)と E を、CBoc-Phe(4 wt% ~ 12 wt%)
に対してプロットした結果を Fig.5 b) に示す。上述した通り、MPS ゲル中の Boc-Phe は他成分の拡散成分が存在
するので、ここでは、遅い拡散成分の D 及び E について比較した。溶液中の場合と比較すると、全体的に CBoc-Phe
に対する Boc-Phe の D の減少の幅はかなり小さい。例えば、溶液中だと CBoc-Phe が 4 wt%から 12 wt%になると、Boc-Phe
自己拡散係数は 6.33×10-6 cm2/s から 5.04×10-7 cm2/s(差は 1.29×10-6 cm2/s)になるが、DVB 1mol%架橋された
MPS ゲル中だと 12.3×10-7 cm2/s から 5.43×10-7 cm2/s(差は 6.87×10-7 cm2/s)になる。これは、PS 網目鎖と Boc-Phe
分子が強く相互作用し、CBoc-Phe 依存性が小さくなったものと考えられる。Fig.5 b) を詳細に見ると、CBoc-Phe ≦ 10
wt%の時、Boc-Phe の D の CBoc-Phe 依存性は非常に小さいが、CBoc-Phe = 12 wt%の時、急激に Boc-Phe の自己拡散係数
が減少する。これらの結果から、MPS ゲル中の Boc-Phe 分子の拡散過程は、PS 鎖と Boc-Phe 分子との相互作用が
支配的であり、CBoc-Phe が大きいところでは、Boc-Phe 分子と Boc-Phe 分子との相互作用も影響を与える因子となる。
57
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
一方、MPS ゲル中の Boc-Phe の E は CBoc-Phe の増加と共に徐々に上昇し、溶液中とは異なった傾向を見せた。この E
の上昇は、CBoc-Phe の増加により、Q が減少し、PS 鎖と Boc-Phe 分子との相互作用が強くなったことが原因である。
4 wt% < CBoc-Phe < 10 wt%の時、Q = 2.4 ± 0.1 であったが、CBoc-Phe = 12 wt%の時、Q = 2.1 であった。これより、
E の CBoc-Phe 依存性は、CBoc-Phe による Q の変化に対応する。
10.0
8.0
Activation energy / kcal mol-1
Diffusion coefficient / 10-6 cm2 s-1
1.5
6.0
1.0
4.0
2.0
0.5
0.0
0
5
10
15
Boc-Phe concentration / wt%
Fig.6 (b) Kuroki
Fig.6(b)
The plots of the diffusion coefficient of Boc-Phe in MPS (DVB 1mol% cross-linked) gel
as solvent and activation energy of self-diffusion (□) against the concentration Camino
(●) with DMF-d7
at 40℃.
acid
Fig.5 c) に DVB 2mol%架橋された MPS ゲル中の Boc-Phe について、Boc-Phe の D(40℃)と E を、CBoc-Phe(4 wt%
~ 12 wt%)に対してプロットした結果を示す。ここでも、遅い拡散成分の D を比較した。また、Q は CBoc-Phe
4 wt%の時 Q = 1.7 であるのに対し、CBoc-Phe
=
= 12 wt%の時は、Q = 1.5 であった。DVB 1mol%架橋された MPS ゲ
ル中のように、Boc-Phe の D は CBoc-Phe の増加により減少し、E は、CBoc-Phe の増加により上昇した。また、Fig.5
b)と c)を比較すると、DVB 1mol%架橋された MPS ゲル中の Boc-Phe の D は、CBoc-Phe = 12 wt%の時、5.43×10-7 cm2/s
であり、DVB 2mol%架橋された MPS ゲル中の Boc-Phe の D は、CBoc-Phe
= 4 wt%の時 6.21×10-7 cm2/s、CBoc-Phe
= 4 wt%の時 5.82×10-7 cm2/s と非常に近い値となっている。また、DVB 1mol%架橋された MPS ゲル中の Boc-Phe
の遅い拡散成分の割合は 60%であるのに対し、DVB 2mol%架橋された PS ゲル中の Boc-Phe の遅い拡散成分の割合
58
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
は 80%であった。以上より、これらは、PS 鎖の近傍での拡散速度は同等であるが、拡散過程としては異なってい
ると言える。また、これら、濃度依存性の結果から、MPS ゲル中の Boc-Phe 分子の拡散過程は、Boc-Phe の濃度
1.0
10.0
0.8
8.0
0.6
6.0
0.4
4.0
0.2
2.0
0.0
Activation energy / kcal mol-1
Diffusion coefficient / 10-6 cm2 s-1
CBoc-Phe 及び Q に大きく左右されることが示せた。
0.0
0
5
10
15
Boc-Phe concentration / wt%
Fig.6 (c) Kuroki
Fig.6(c)
The plots of the diffusion coefficient of Boc-Phe in MPS (DVB 2mol% cross-linked) gel
as solvent and activation energy of self-diffusion (□) against the concentration Camino
(●) with DMF-d7
at 40℃.
acid
本測定においては、プローブ分子が A 地点にあり、Δ 時間後に B 地点に移動したとすると、A 地点から B 地点
までの距離がプローブ分子の D に反映される。A 地点から B 地点に到達するまでにどのような行程で、どのような
速度で拡散したかは問題とはならない。これまでの実験では、観測時間 Δ を 10 ms で固定して測定を行ってきた。
しかし、高分子ゲルのように、プローブ分子の拡散を疎外するような障壁が系内に存在する場合、観測時間内に
分子が壁に衝突し、跳ね返されることにより起こる制限拡散が引き起こされる。つまり、このような現象がある
系においては、観測される D は観測時間とともに小さくなる。
今回得られた結果は、MPS ゲル中の Boc-Gly の遅い拡散成分の割合が、磁場勾配パルスの間隔 ∆ に依存するこ
とである。MPS ゲル中の Boc-Gly 分子は、PS 鎖間で、PS 鎖に接している状態や溶媒に囲まれた状態等、Boc-Gly
分子が MPS ゲル中を拡散することによって Boc-Gly 分子の外部環境は常に変化している。このような場合、拡散
59
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
時間をコントロールすることによって、異なった D 値及び D の分布を得ることになる。∆ が大きい時、つまり拡
散時間が長い場合、プローブ分子は観測時間内に長い行程を通るため、異なった外部環境を通り抜け、得られる
自己拡散係数はより平均化されたものとなる。このような背景から、MPS ゲル中の Boc-Gly の遅い拡散成分の割合
は、拡散時間 ∆ に依存する。Fig.6 に 30℃において、遅い拡散成分の割合を ∆ に対してプロットした結果を示す。
Fraction of the slow diffusion component
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
10
20
30
40
50
60
Gradient pulse interval Δ / ms
Fig7 Kuroki
Fig.7
Dependence of the fraction of slow diffusion component for Boc-Gly 10 wt% (solvent: DMF-d7) in MPS gel with
Q = 2.45 on the gradient pulse interval
at 30℃.
このグラフから、遅い拡散成分の割合が ∆ の増加とともに、増加していく様子がみてとれる。∆ = 5 ms の時、遅
い拡散成分の割合はほぼ 0 である。このタイムスケールでは、MPS ゲル中のほとんどの Boc-Gly 分子が、観測時間
内に移動する距離が異なっている。∆ = 10 ms の時、遅い拡散成分の割合は 60%である。このタイムスケールで
は、MPS ゲル中の約 60%の Boc-Gly 分子は、観測時間内に移動する距離が等しいが、残りの 40%はより長い距離
を移動していることになる。∆ = 30 ms では、MPS ゲル中の 80%の Boc-Gly 分子は、観測時間内に移動する距離
が等しいが、残りの 20%はより長い距離を移動している。∆ = 50 ms になると、拡散成分は 1 成分となり、MPS
ゲル中のほとんど全ての Boc-Gly 分子が観測時間内に移動する距離が等しくなる。これらの結果は、高分子ゲル
の不均一性を反映したものであると考えられる。
プローブ分子を t 時間拡散させて測定した自己拡散係数 D と拡散距離 z との関係は次式のようになる。
60
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
z 2 = 2 Dt
(9)
<z2>は t 時間後の z 方向への自乗平均拡散距離である。今回の測定において t は Δ となる。MPS ゲル(Q = 2.45)
中の Boc-Gly について、Δ = 5 ms、10 ms、30 ms、50 ms の時、<z2>= 0.86 ・m2、1.63 ・m2、4.58 ・m2、7.32
・m2 であった。また、平均拡散距離<z>は次式のように表すことができる。
z =2
D∆
π
(10)
この関係式から Δ = 5 ms の時、拡散距離<z>= 0.74 ・m が、Δ = 50 ms の時、拡散距離<z>= 2.16 ・m を
導くことができる。<z>は測定時間内に拡散した距離であるので、言い換えれば、分解能にもなる。式(10)よ
り求めた<z>は DVB 1mol%架橋された PS ゲルのネットワークサイズ数十 nm より大きいが、MPS ゲルビーズの直
径 100 ・m ~ 200 ・m より小さい。自乗平均拡散距離の計算をすることは、得られた D がどの程度の大きさのド
メインサイズを反映したものなのかを理解するうえで非常に重要なことであり、Merrifield 樹脂は 7.32 ・m2 の
範囲で均一な反応場であると言える。
固相反応場中の溶媒
溶媒についてだが、拡散という立場から考えて、固相反応場においての溶媒の役割は、反応基質及び生成物を
運ぶ役割と、次の反応工程に移る際に、未反応物及び不純物を取り除くという役割がある。固相反応は反応活性
点が固定されているため、反応段階において、溶媒は反応基質を反応活性点まで運ばなければならない。また、
反応終了後、次の反応工程に進む際に、MPS ゲル内から溶媒以外の分子を完全に取り除かなければならない。さら
に、全反応工程終了後に、生成物を MPS ゲル内から MPS ゲルの外に運び出してこなければならない。反応基質は
溶媒を介して拡散するため、反応基質の自己拡散係数は溶媒の拡散性に依存する。溶媒は、膨潤性能、反応基質
の溶解性、溶媒和等の反応活性点との相互作用、耐反応温度等要求が厳しいため、選択の幅はそれ程大きくはな
い。そこで、本項では DMF 及び THF について、反応条件と溶媒の拡散性について考察した。
溶媒で MPS ゲル内の不純物を取り除く際には、溶媒が MPS ゲルビーズの間を通過する時間が洗浄時間に関係し
てくる。乾燥時に直径 150 ・m の MPS ビーズを用いて固相反応を行った際に、溶媒が MPS ゲルビーズ内を通過す
るのに要する時間を、体積膨潤度、温度について比較した。Fig.8 に、DMF 及び THF が MPS ゲルビーズを通過する
のに要する時間を体積膨潤度 Q に対してプロットした結果を示す。乾燥時が直径 150 ・m であるから、Q = 2.0 で
は MPS ゲルビーズの直径は 189 ・m、Q = 3.0 では 216 ・m である。Q が大きいと、長い距離を拡散しなければな
らないが、拡散速度は速い。そのため、自己拡散係数と Q とのバランスで通過時間は決まってくる。30℃での DMF
のデータに注目すると、Q が小さくなるにつれて、通過時間が急激に長くなっていることが観察できる。また、Q >
3.0 では、通過時間が Q に依存していない。グラフには、50℃での DMF のデータも示した。Q 依存性は 30℃の時と
同じであるが、30℃と比較して通過時間が短縮されていることがわかる。また、THF の場合は、Q > 2.0 では Q 依
存性がない。これら、通過時間という立場からは、単に体積膨潤度を上げれば、MPS ゲル内の洗浄時間を短縮でき
るわけではないことがわかった。ただ、温度に関しては、高い方がより MPS ゲル中の通過時間が短くてすむこと
もわかった。
61
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Time / min.
3
2
1
0
1
2
3
4
5
6
Degree of volume swelling
Fig.8 Kuroki
Fig.8
Dependence of the required time which solvents in PS gel diffuse between dswollen on the degree of volume swelling
Q. DMF at 30℃(●) and 50℃(○)and THF at 30℃(□).
固相反応場中の反応基質と反応活性点の衝突頻度
最後に、D を用いて、固相反応場中の反応基質と反応活性点の衝突頻度について温度及びゲルの編目鎖密度の影
響について調査した研究例を紹介する。厳密に衝突頻度を決定するのは困難だが、衝突頻度を、反応基質が隣り
合う反応活性点間を移動するのに要する時間と置き換えることによって、間接的に比較できる。まず、乾燥状態
で、樹脂ビーズ中の隣り合う反応活性点間の距離が a であるとする。乾燥樹脂ビーズの直径が ddry の樹脂ビーズが
膨潤して膨潤ゲルビーズの直径が dswollen になったとすると隣り合う反応活性点間の距離 l は次式で表される。
l = a×
d swollen
d dry
(11)
また、Q を用いると
l = a×3 Q
62
(12)
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
と表すことができる。(11)式で a と ddry は用いる樹脂ビーズによって決まるので、同種のビーズを用いた場合、
l は dswollen に比例する。これより、衝突頻度を比較するのに、距離 dswollen を移動するのにかかる時間 t を
比較してよい。t は(12)式より次式のように表せる。
t = (d swollen ) ×
2
π
4D
(13)
また、dswollen は(11)及び(12)式より次式のように表せる。
d swollen = d dry × 3 Q
(14)
MPS ゲル中の Boc-Phe について、DVB 1mol%架橋された MPS ビーズと DVB 2mol%架橋された MPS ビーズを用いた場
合の MPS ビーズを通過する時間を比較する。どちらのビーズも ddry = 150 ・m とした時、DVB 1mol%架橋された MPS
ゲルビーズは dswollen = 202 ・ m、DVB 2mol%架橋された MPS ゲルビーズは dswollen = 172 ・ m であった。Fig.8 に
MPS ゲル中の Boc-Phe が距離 dswollen を移動するのに要する時間を、温度に対してプロットした結果を示す。DVB
1mol%架橋された MPS ゲル中と DVB 2mol%架橋された MPS ゲル中とでは、どの温度でも、DVB 2mol%架橋された MPS
ゲル中の Boc-Phe の方が、1 つの MPS ゲルビーズを通過するのに長い時間を要することがわかる。長い時間を要す
るということは衝突頻度が低いということを意味する。また、温度依存性は、DVB 2mol%架橋した PS ゲル中の方
が大きいこともわかる。このことから、MPS ゲルの架橋密度で比較すると、DVB 1mol%架橋された MPS ゲルを用い
た方が反応活性点と Boc-Phe 分子との衝突頻度が高い。また、温度依存性は、DVB 2mol%の MPS ゲルの方が大きく、
温度を上昇させることによって飛躍的に衝突頻度を上げることができる。これらの傾向は固相反応の反応速度の
傾向に一致する。
63
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
20
Time / min.
15
10
5
0
20
30
40
50
60
Temperature /℃
Fig.9 Kuroki
Fig.9
Temperature dependence of the required time which Boc-Phe (solvent :DMF-d7) in MPS (with 1% cross-linking
by DVB) gels(□) and MPS (with 2% cross-linking by DVB) gels(●) temperature range from 30 to 50℃.
このようなアプローチでいくつかの固相反応場の解析をおこなった。MPS ゲル、PEG-PS ゲル、CLEAR ゲル中のアミ
ノ酸ついて同様な比較を行った。まず、乾燥時における隣り合う反応活性点間の距離 l が MPS 樹脂、PEG-PS 樹脂、
CLEAR 樹脂で同等であると仮定し、ddry = 150
m とした時の距離 dswollen を移動するのにかかる時間 t を比較
した。温度は 30℃とした。MPS ゲルは DVB 1mool%(MPS1)及び 2 mol%(MPS2)架橋されたものを用い、溶媒は DMF
及び THF、アミノ酸は Boc-Phe、Boc-Trp、Fmoc-Phe を用いた。PEG-PS ゲル及び CLEAR ゲルは、溶媒として DMF、
アミノ酸として Boc-Phe、Boc-Trp、Fmoc-Phe を用いた。これらのアミノ酸の t を Fig.10 に示す。t が小さいほど、
衝突頻度が高いことになる。Boc-Phe については、溶媒 THF を用いた時が最も衝突頻度が高く、溶媒が DMF の時は
CLEAR 樹脂を用いた時が最も衝突頻度が高い。また、PEG-PS 樹脂と DVB 1mol%架橋された MPS 樹脂については同程
度であることが確認された。また、DVB 2mol%架橋された MPS 樹脂については、衝突頻度が以上に低いことがわか
った。Boc-Trp 及び Fmoc-Phe についても同様な傾向が見られ、CLEAR 樹脂を用いた時が最も衝突頻度が高く、DVB
2mol%架橋された MPS 樹脂については、衝突頻度が以上に低いことがわかった。
64
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
PS2(THF)
2
PEG
3
4
PS-PEG
5
PS1(THF)
6
7
PS2(DMF)
8
3
10
Boc-Phe
11
12
13
17
18
19
20 (Min.)
18
19
20 (Min.)
18
19
20 (Min.)
P S1(DMF )
PEG
2
9
Boc-Trp
4
5
6
PS-PEG
7
8
9
P S2(DMF )
10
11
12
13
17
P S1(DMF )
PEG
2
Fmoc-Phe
3
4
5
6
7
PS-PEG
8
9
10
11
PS2(DMF)
12
13
17
PS1(DMF)
Fig.10 Kuroki Fig.5-6
Required time which amino acids in gel diffuse between dswollen at 30℃
Fig.10
Required time which amino acids in gel diffuse between dswollen at 30℃.
Fig.11 に反応率を時間に対してプロットした結果を示す。反応温度は 40℃及び 50℃で行い、MPS 樹脂は DVB 1mol%
架橋された樹脂及び DVB 2mol%架橋された MPS 樹脂を用いた。Fig.11 から、架橋密度や温度によって反応速度が
大きく異なることがわかる。DVB2mol%架橋された MPS 樹脂を用いると、反応速度が著しく遅く、Fig.8 及び 9 の衝
突頻度を比較した結果と一致する。
65
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
100
Conversation / %
80
60
40
20
0
0
5
10
15
20
25
Time / hr.
Fig.11 Kuroki
Fig.11
Conversation vs Time. solid-phase reaction field in DVB 1mol% crosslinked beads at 40℃(●) and at 50℃
(○), in DVB 2mol% crosslinked beads at 50℃(□).
成果の発表
1)原著論文による発表
国外誌
1.J.Nakano, S.Kuroki, I.Ando, T.Kameda, H.Kurosu, T.Ozaki, A.Shoji: A study of conformational stability of polyglycine
and poly(L-alanine), and polyglycine/poly(L-alanine) blends in the solid state by
13
C cross-polarization/magic angle
spinning NMR; Biopolymers, 54, 81-88 (2000)
2.C.Zhao, S.Kuroki, I.Ando: Diffusional Behavior of n-Alkanes in Polypeptide Gel Sytem with Highly Oriented Chains As
Studied by Pulses Field Gradient Spin Echo 1H NMR Method; Macromolecules, 33, 4486-4489 (2000)
3.K.Yamauchi, S.Kuroki, K.Fujii, I.Ando: The amide proton NMR chemical shift and hydrogen-bonded structure of peptides
and polypeptides in the solid state as studied by high-resolution solid-state 1H NMR; Chem.Phys.Lett. 324, 435-439 (2000)
4.Y.Yin, C.Zhao, S.Kuroki, I.Ando: Diffusional behavior of polypeptides in the thermotropic liquid crystalline state as
studied by the pulse field-gradient spin-echo 1H nuclear magnetic resonance method; J.Chem.Phys. 113(17),
7635-7639(2000)
66
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
5.Y.Machida, S.Kuroki, M.Kanekiyo, M.Kobayashi, I.Ando, S.Amiya: A structural study of water in a poly(vinyl alcohol)
gel by 17O NMR spectroscopy; J.Mol.Struct. 554(1), 81-90(2000)
6.Y.Yamane, M. Kobayashi, S. Kuroki, I.Ando: Diffusional Behavior of Solvents and Amino Acids in Network Polystyrene
Gels As Studied by 1H Pulsed-Field-Gradient Spin-Echo NMR Method; Macromolecules, 34(17),
5961-5967(2001).
7.Y.Yin, C.Zhao, S.Kuroki, I.Ando, Diffusion of Rodlike Polypeptides with Different Main-Chain Lengths in the
Thermotropic Liquid Crystalline State As Studied by the Field-Gradient 1H NMR Method; Macromolecules , 35(6),
2335-2338(2002).
8.Y.Yamane, M.Kobayashi, H.Kimura, S.Kuroki, I. Ando: Diffusional behavior of amino acids in solid-phase reaction field
as studied by 1H pulsed-field-gradient spin-echo NMR method; Polymer,
43(6),
1767-1772(2002).
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.“NMRから見た高分子ゲルの構造とダイナミックス”安藤勲、趙晨華、小林将俊、黒木重樹、ネットワー
クポリマー、20(3)122-129(1999)
イ) 国外誌
Experimental Methods in Polymer Science Edited by T.Tanaka, “Chaper 4 NMR Spectroscopy in Polymer
1.
Science”, I.Ando, M.Kobayashi, M.Kanekiyo, S.Kuroki, S.Ando, S.Matsukawa, H.Kurosu, H.Yasunaga,
S.Amiya, 2000, Academic Press.
2.
I.Ando, M.Kobayashi, S.Kuroki, S.Ando, S.Matsukawa, H.Kurosu, H.Yasunaga, S.Amiya: NMR Spectroscopy in
Polymer Science; T.Tanaka Eds. Experimental Methods in Polymer Science, pp261-493. Academic Press, San Diego,
2000.
3.
I.Ando, S.Kuroki, M.Kobayashi, C.Zhao, S.Matsukawa:
elucidated by nuclear magnetic resonance spectroscopy.
Structural and dynamic behavior of polymer gels as
Polymer Gels and Networks , 235-307(2002).
3)口頭発表
ア)
招待講演
1. I.Ando, C.Zhao, Y.Yin, H.Yamakawa, Y.Yamane, S.Matsukawa, S.Kuroki, H.Kurosu: ”Diffusional
elucidation of polymer systems by field-gradient NMR spectroscopy; International Symposium on NMR
Methodologies, Oct.22-24, Wuhan, Chaina
I.Ando, C.Zhao, S,Matsukawa, Y.Yamane, S.Kuroki: “Structure and dynamics of polyme gels by NMR
2.
spectroscopy”, 7th Pacific Polymer Conference, Dec.3-8, 2001, Oxaca, Mexico
3. I.Ando, “Recent Advance of NMR in Polymer Scienc”, IUPAC Assenbly: One day symposium on polymer
characterization, July 1, 2001, Brisbane Univ. of Tech. Brisbane, Austrlia
イ)
1.
応募・主催講演等
野原敦、黒木重樹、安藤勲、
:
“磁場勾配 1H
NMR法によるタンパク質と水との相互作用の研究”第 49
回高分子年次大会、2000 年 5 月、名古屋
2.
尹一戈、趙晨華、黒木重樹、安藤勲、
:
“磁場勾配1H
NMR法による高分子・モデル化合物液晶の拡散
挙動の研究”第 49 回高分子年次大会、2000 年 5 月、名古屋
3.
山根祐治、小林将俊、黒木重樹、安藤勲、
:
“1H
PGSE
NMR法による固相反応場ネットワークポ
リスチレン中の溶媒の拡散についての研究”第 49 回高分子年次大会、2000 年 5 月、名古
67
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
4.
野原敦、黒木重樹、安藤勲:
“磁場勾配 1HNMR 法によるタンパク質と水との相互作用の研究”第 49 回高分
子年次大会、2000 年5月。
5.
野原敦、安藤勲、黒木重樹:
“PFGSE1H 及び 17ONMR 法によるタンパク質と水との相互作用の研究”第 49 回
高分子討論会、2000 年 10 月。
6.
山根祐治、小林将俊、黒木重樹、安藤勲:“1H PGSE NMR 法による固相反応場ネットワークポリスチレン
中の溶媒の拡散についての研究”、第 49 回高分子学会年次大会、2000 年 5 月。
7.
山根祐治、黒木重樹、安藤勲:“1H PGSE NMR 法による固相反応場ネットワークポリスチレン中の物質拡
散についての研究”、第 49 回高分子討論会、2000 年 9 月 28 日。
8.
山根祐治、黒木重樹、安藤勲:“1H PGSE NMR 法による固相反応場ネットワークポリスチレン中の物質
拡散についての研究”、第 50 回ネットワークポリマー講演討論会、2000 年 10 月 26 日。
9.
I. Ando, C. Zhao, S. Matsukawa, Y. Yin, Y. Yamane and S. Kuroki
"Diffusional behavior of soft
polymers as studied by field-gradient NMR spectroscopy” TIT-KAIST Joint-Symposium on Polymer
Science, Jan. 30 , 2001, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, Japan
10. I.Ando and S. Matsukawa "Diffusional behavior of polymer gels as studied by NMR spectroscopy"
IUPAC World Polymer Congress, July 12 , 2000, Warsaw, Poland
11. Y. Yamane, S. Kuroki, I. Ando
"Diffusional behavior of solvents and amino acids in Merrifield
network polystyrene gels systems as studied by 1H pulsed-field-gradient spin-echo NMR method"
International Beijing Conference and Exhibition on Instrumental Analysis, Oct. 17-20, 2001,
Beijing, China
12. Y. Yin, C. Zhao, S. Kuroki and I. Ando "Diffusional behavior of polypeptides in thermotropic
liquid crystalline state"
International Beijing Conference and Exhibition on Instrumental
Analysis, Oct. 17-20, 2001, Beijing, China
13. 山根祐治、小林将俊、黒木重樹、安藤勲:1H PFGSE NMR 法による固相反応場ネットワークポリスチレン
中の物質拡散に関する研究[Ⅱ]、第 50 回高分子年次大会
14. 尹 一戈、趙 晨華、黒木重樹、安藤勲、磁場勾配1H
2001 年 5 月 24 日、大阪国際会議場、大阪
NMR 法による高分子液晶の拡散挙動の研究、第50
回高分子年次大会、大阪国際会議場、2001 年 5 月 24 日、大阪
15. 尹 一戈、趙 晨華、黒木重樹、安藤勲、磁場勾配1H
NMR 法によるサーモトロピック液晶状態における
ポリペプチドの拡散過程の研究、第50 回高分子討論会、2001年 9 月、早稲田大学、東京
16. 山根祐治、小林将俊、黒木重樹、安藤勲:1H PFGSE NMR 法による固相反応場ネットワークポリスチレン
中の物質拡散に関する研究、第 40 回 NMR 討論会
京都パークホテル、2001 年 11 月 14 日、京都
17. 上口憲陽、黒木重樹、安藤勲、石津浩二、磁場勾配 NMR 法を用いたネットワークポリスチレン中におけ
るポリスチレンスターポリマーの拡散過程の研究、第 51 回ネットワークポリマー講演討論会、2001 年
10 月 26 日、東京工業大学すずかけ台キャンパス、横浜
18. 尹 一戈、趙 晨華、黒木重樹、安藤勲、磁場勾配1H
NMR 法による液晶状態におけるポリペプチドの拡
散過程の研究、第51回高分子年次大会、2002 年 5 月 30 日、パシフィコ横浜、横浜
19. 山根祐治、磁場勾配 NMR 法によるペプチド固相反応場中の物質拡散に関する研究;02-1NMR 研究会、2002
年 5 月 16 日、東京工業大学百周年記念館、東京
20. 山根祐治、小林将俊、黒木重樹、安藤勲、1H
PFGSE
NMR 法による固相反応場ネットワークポリスチレ
ン中の物質拡散に関する研究[IV]、第51回高分子年次大会、2002 年 5 月 30 日、パシフィコ横浜、横浜
21. 尹 一戈、趙 晨華、黒木重樹、安藤勲、磁場勾配1H
NMR 法による液晶状態におけるポリペプチドの拡
散過程の研究、第51回高分子年次大会、2002 年 5 月 30 日、パシフィコ横浜、横浜
68
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
1. ケミカルライブラリー設計技術に関する研究
1.3. 高分子・超分子系超機能性材料設計に関する研究
株式会社関西新技術研究所
清水
剛夫、安田 歩、杉村 厚、品川 留美
1. ポルフィリン枷型 DNA の合成とその光活性人工制限酵素としての応用
要
約
光励起電子移動を可能にするポルフィリンを DNA リン酸ジエステル部分に枷型に嵌め込んだ DNA 誘導体の固相
合成に成功し、それが相補的 DNA とハイブリッドを形成すること、また、これが光照射によって、ポルフィリン
の光酸化触媒作用による標的 DNA のポルフィリンによる選択的酸化切断が行われることを明らかにした。
研究目的
DNA の選択的切断は DNA 科学・技術において基本的重要研究課題である。本研究の目的は、DNA の任意のシーケ
ンス部位を光切断する人工制限酵素ともいうべき、ポルフィリンを DNA のリン酸ジエステル結合部位に嵌め込ん
だ各種シーケンスをもつ DNA 誘導体の合成を固相法で行い、その誘導体を用いて相補的シーケンスをもつ DNA の
標的性の高い選択的光切断を in vitro で行うことを第 I 期の目的とした。
69
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図1
本研究のポルフィリン枷型 DNA は、図 2 に示した構造のオリゴヌクレオチド誘導体で、光活性基のポルフィリ
ンがホスホジエステル結合部に枷型にはまり、シーケンスをもつオリゴヌクレオチド部がアンチセンスとして、
ハイブリッドを形成して切断対象となる DNA を認識する。その DNA の光切断は図 3 に示すように、光によって励
起したポルフィリンへの直接電子移動によって標的性の高い選択的な酸化切断が行われる。
70
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図2
71
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図3
研究方法と研究成果
当該分子、ポルフィリン枷型 DNA の合成には数多くの方法が考えられるが、設計の自由度が大きく、比較的容
易な合成法として図 4 に示す方法を確立した。
この方法は、光活性基であるリン(V)ポルフィリンの軸方向ヌクレオシド置換体(図 4 右上の分子)をキー分
子として、固相法によって自動合成される。この方法によって任意のシーケンスをもったポルフィリン枷型オリ
ゴヌクレオチド(DNA)が合成される。
72
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
表 1 は、いくつかの非修飾オリゴヌクレオチドとポルフィリン枷型オリゴヌクレオチドのハイブリッド融解温
度を示したものである。ポルフィリンの枷型修飾により、またシーケンスの相補性の不完全さにより、融解温度
は低下して、ハイブリッドは不安定となるが、いづれも明白な融解現象を示しており、程度に差はあるがいづれ
もハイブリッドの形成を示すものである。また、これらのハイブリッドにおいて、ポルフィリンが近接の核酸塩
基と相互作用していることが CD によって示された。
図 4. ポルフィリン枷型 DNA の自動合成
73
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
表 1. 非修飾オリゴヌクレオチドと
ポルフィリン枷型オリゴヌクレオチドのハイブリッドの融点
Oligomer
Tm/℃
TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT
48
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
TTTTTTTTTTpTTTTTTTTTT
33
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
T T T T T T T T T ‐p ‐T T T T T T T T T
33
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
TTTTTTTTT—TTTTTTTTT
33
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
T T T T T T T T T ‐p ‐T T T T T T T T T
33
・・AAAAAAAAAAAAAAAAAAAA・・ (polyA)
T T T T T T T T T ‐p ‐T T T T T T T T T
22
AAAAAAAAAA
TTATAAATTTTTTAAATATT
41
AATATTTAAAAAATTTATAA
TTATAAATTTpTTTAAATATT
29
AATATTTAAAAAATTTATATAA
TTATAAATT‐p ‐TTAAATATT
20
AATATTTAAAAAATTTATATAA
TTATAACCCTpTCCCAATATT
37
AATATTGGGGGGGGTTATAA
TTATAACCCTpTCCCAATATT
31
AATATTGGGAAGGGTTATAA
74
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
表 2. シーケンスをもったポルフィリン枷型オリゴヌクレオチドによる DNA の光切断
duplex
1.
yield / %
5’-TTATAAATTTpTTTAAATATT-3’
0
3’-AATATTTAAAAAATTTATAA-5’
2.
5’-TTATAAATTTpTTTAAATATT-3’
64
3’-AATATTTAAGAAATTTATAA-5’
3.
5’-TTATAAATTTpTTTAAATATT-3’
90
3’-AATATTTAAGGAATTTATAA-5’
4.
5’-TTATAACCCTpTCCCAATATT-3’
100
3’-AATATTGGGGGGGGTTATAA-5’
5.
5’-TTATAACCCTpTCCCAATATT-3’
43
3’-AATATTGGGAAGGGTTATAA-5’
0℃、ハイブリッド濃度(0.3mM)
、
リン酸ナトリウム緩衝液(10mM、pH7.2)
、
食塩(150mM)
、500W Xe lump 5hr 照射
表 2 に、合成したポルフィリン枷型オリゴヌクレオチド(DNA)による相補的 DNA の選択的光切断反応の結果
を示した。光切断反応条件は、全濃度 0.3mM: 150mM NaCl を含む 10mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.2):
500W Xe ランプ5時間照射である。表1の結果は標的である相補的オリゴヌクレオチドの光分解量から産出した
ものである。この場合、切断反応の効率はハイブリッドの安定性に加えて核酸塩基の酸化還元電位にも大きく依
存した。すなわち、酸化しやすいGが標的成分である場合に大きい分解収量を示した。
図 5(A)、5(B)、5(C) に標的 DNA のシーケンスとして、G(グアノシン)含量が異なる3つの系の光切断結
果を液体クロマトグラフィーで示した、上段は光照射後、下段はそれをピぺリジン処理をしたものである。ハイ
ブリッドにおいてポルフィリン DNA のポルフィリン基に近いところにG含量が大きいと光切断反応量が大きいが、
一方、反応生成物、すなわち切断フラグメントの数も大きくなり、切断の標的性が少し低下している。しかし図 5
(C)のように標的 DNA のGが1個の場合には、分解生成物の成分は2つであり、標的性の極めて高い光切断が
行われている。
これは、標的オリゴヌクレオチドに G1個を内在する3’-AATATTTAAGAAATTTATAA-5’を、一方ポルフィ
リン枷型オリゴヌクレオチド(DNA)として、5’-TTATAAATTTPTTTAAATATT-3’を選び、本方法による DNA
の光切断を行った場合、光切断は効率よく行われ、光切断生成物は2種類のみであり、3’-
AATATTTAAGAAATTTATAA-5’のG部分で切断された左半分の3’-AATATTTAAp と右半分の pAAATTTATAA
75
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
-5’の2つになったことで結論できる。
5’-TTATAACCCPTCCCAATATT-3’
ハイブリッドの光切断
3’-AATATTGGGGGGGGTTATAA-5’
図 5(A)
76
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
5’-TTATAAATTTPTTTAAATATT-3’
ハイブリッドの光切断
3’-AATATTTAAGGAATTTATAA -5’
図 5(B)
77
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
5’-TTATAAATTTPTTTAAATATT-3’
ハイブリッドの光切断
3’-AATATTTAAGAAATTTATAA -5’
図 5(C)
この結果は基本的にみて光切断は期待通りの位置、すなわち切断は一ヶ所で行われ、ポルフィリンの接触する
位置で正確に起ったことを示すものである。これは光誘起直接電子移動が起ったことによるものである。水溶液
中であるにもかかわらず、通常生化学的酸化反応に見られる酸化活性分子のマイグレーションが見られず、この
ようにな標的性の高い酸化反応のみが起っていることは、注目に価するものである。
78
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
以上の結果は、任意のシーケンスのオリゴヌクレオチドの任意の位置にポルフィリンを枷型に嵌め込んだ DNA
誘導体の容易な合成が可能であり、またこれら誘導体が光活性人工制限酵素として機能することを示唆するもの
である。
考
察
本研究における DNA の選択的光切断は DNA の切断切り出しのみならず、本研究計画において述べた、図3に示
すような各種の欠陥試験動物の育種と育成、さらには光治療薬への応用が考えられる。
文
献
[1]T. Shimidzu, “Approaches to Ultimate Functional Polymers:
Quantum Functional Material and Molecular
Engineering Materials”, Macromolecular Symposia, 175 (2001).
[2]T. Shimidzu, A. Nomura, H. Segawa, M. Morimoto, K. Fukui,“Synthesis and Properties of Oligonucleotides
Shackled with Tetraphanylporphyrin”, in preparation.
2.ナノ炭素材料の固体界面合成
要 約
ポリテトラフルオロエチレンを還元した三重結合を含む固体炭素材料ならびにグラファイト化部を含む真空蒸
着用カーボンを固体炭素材料として、加熱下電子線照射することによって固体界面においてカーボンナノチュー
ブの生成を電子顕微鏡下、その場観察できることを示し、その成長の制御の可能性を示した。カーボンナノチュ
ーブの生成は、カーボンナノロッドの生成と、それに続く空洞の生成の2つのステップからなることを示した。
研究目的
カーボンナノチューブをはじめ、カーボンナノ材料は、その化学的構造的性質から機能分子固定あるいは吸蔵
のマトリックスとして、一方においては、導体、半導体、さらにバリスティックな電子用誘導体として、ナノデ
バイス、ナノ配線材料への応用に期待が寄せられている。しかしカーボンナノ材料におけるナノ操作の困難は依
然として大きい。
本研究は、とくにカーボンナノチューブのデバイス化に向けて基板上に直接カーボンナノチューブを形成させ
る方法の創案を目的としている。このため、固相のプリカーサー界面において加熱下電子線によって固相界面で
カーボンナノチューブを形成させる方法の開発を目的とした[1]。
この方法は、汚染物となる触媒金属を含まないのみならず、カーボン材料のカイラリティの制御の可能性も含
み、新たな分子スイッチへの展開が期待される広がりの大きい研究となるものである。
研究方法と研究成果
三重結合を含む炭素材料は加熱化電子照射の条件によってカーボンナノチューブが生成する。本方法は一種の
固体界面合成と考えられるもので、このプロセスを電子顕微鏡下で行えることが1つの特徴で、その場観察によ
る生成反応の制御が期待される。
79
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
三重結合を含む炭素材料の調整は、ポリテトラフルオロエチレンをアルゴン気流下、0℃で、2電極法で電解
還元した(陽極:ステンレススチール、陰極:マグネシウム)。テトラフルオロエチレンフィルム(10mm x 10mm)
を支持塩を含む溶媒(テトラヒドロフラン:30ml、LiCl:0.8g、FeCl2:0.48g)中に仕込み、40Vの直流電
圧を印加し、10時間反応させた。還元後、反応物をテトラヒドロフロン中で洗浄し、真空乾燥した。
上記のように調整した三重結合を含む炭素材料をエポキシ樹脂に包埋し、ミクロトームで切断し、超薄切片(1
00nm 厚さ)を準備した。超薄切片を透過電顕(TEM:H7100、Hitachi; Heating stage: H8101H + H2102P、
Hitachi)中で加熱し(600-800℃)電子線照射(Accelerating voltage: 100kV)して、観察した。
この方法によるカーボンナノチューブの成長は非常に大きく、成長過程を観察するには、適度に成長速度の制
御が必要であったが。それは温度の制御によって可能であった。カーボンナノチューブの生成は以下の2ステッ
プからなることが示された(図 6)。
ステップ1:空洞のないカーボンロッドの形成(速い反応)
ステップ2:カーボンナノロッド内での空洞の形成(遅い反応)
カーボンナノチューブに電子線照射を開始後1秒で、カーボンナノロッドを形成(A)。その後、20から30
秒を経て内部の空洞が形成された(A・D)。空洞は根元から先端へ(a)、先端から根元へ、あるいは両端から中
央へ(b)成長した。
700℃では、ステップ1は1秒で終了した。この段階では、ナノチューブ中での空洞は形成されておらず、
また先端は閉じている。この段階で形成されたカーボンロッドの直径、長さは、これ以降変化することはない。
ステップ2は、20から30秒で終了する反応で、カーボンロッド内の空洞が形成され、カーボンナノチューブ
の形成が終了する。ステップ2の初期においては、ゆるくグラファイト化した表面層と溶融したアモルファスカ
ーボンからなる内部層からなっており、時間の経過とともに、内部層が表面層、あるいはカーボンロッドの先端
を通じて、揮発することが示された。
80
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 6. カーボンナノチューブの成長過程
本研究によって、カーボンナノチューブは、内部の空洞を伴わない外形だけの形成と、それに続く、空洞の形
成の2ステップからなることが示された。
81
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
次に、固体界面合成の1つとしてグラファイト化したアモルファスカーボンの集合体と考えられる真空蒸着用
カーボン(日進 EMI)をプリカーサーとするカーボンナノチューブの生成を試みた。
図 7 に蒸着用カーボン膜を加熱下電子線照射し得られたカーボンナノチューブを示す。
蒸着用カーボン膜は特に反応性がなく、電子ビームによる物理的効果だけでのナノチューブ形成であり、形成
を確認したが、収率は推定1%以下であった。図 7(A)のカーボンナノチューブは、長さが約 100nm の比較的短
い多層カーボンナノチューブである。グラフィン構造は写真でもはっきり見える。現在 300kV 以上の TEM がカー
ボンナノチューブの観察には主に用いられているが、本研究で用いた 100kV TEM では、グラフィンは見えないこ
ともあることを考慮すると、かなりグラファイト化が進行したカーボンナノチューブであるといえる。また、図 7
(B)のカーボンナノチューブは、長さが200nm を超えるカーボンナノチューブである。グラフィンは必ずしも
充分に見えていないが、高加速電圧の TEM で観察できるものと思われる。
本研究において、反応性の低い蒸着用カーボン(一部グラファイト化したアモルファスの集合体と考えられる)
をプリカーサーに用いても、加熱下電子線照射することによりカーボンナノチューブの形成が観察され、手法と
しての固相合成法の有用性は示されたと考える。
82
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 7. アモルファスカーボンをプリカーサーとし、加熱下電子線照射により形成されたカーボンナノチューブ
以上のプリカーサーは、いずれもその構造が明確ではないので、構造の明確な分子をプリカーサーに用いて、
同様の手法でカーボンナノチューブの無触媒での合成を試みた。用いたプリカーサーは、1,4-diphenylacetylene
(Aldrich), trans, trans-1,4-diphenyl-1,3-butadiene (Aldrich), 1,4-diphenylbutane (Aldrich)である。
これらを透過電顕用 Cu mesh 上に K セル(K セル、KCP-40N、日本真空;真空排気装置、MUE-ECO-M、日本
83
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
真空)に用いて蒸着し、そのまま、透過電顕内(透過電子顕微鏡、H7100、日立)で加熱、電子線照射し、観察
した。
Kセル温度100℃でプリカーサーを Cu Mesh 上に蒸着した。蒸着時の圧力は、常に 1.0 x 10-4 Torr 以
下とした。蒸着は3分以内で終了し、その膜厚は、断面の SEM 観察によれば、約 0.1μm であった。蒸着は、本
来 MBE のテクニックを使って、蒸着膜内部の分子の配向、痩躯像をコントロールするものであるが、今回は基板
の温度制御が充分行えず、いわゆる蒸着のレベルに終わった。これについては課題を残す。
予備検討において、電子線照射条件700℃では急速に蒸発してしまい、300℃でも、蒸発が顕著で、更に
低温での最適な温度を選ぶ必要があることがわかった。
考
察
固体炭素材料をプレカーサーとした、固体界面での加熱下電子線照射は in situ のナノ炭素材料(とくにカーボ
ンナノチューブ)の合成に、制御性の点で興味ある方法であることが明らかになった。一方、プレカーサーとし
て構造の明白な低分子を用いたが、今回用いたプレカーサーでは蒸気圧が高く、蒸散のため成功しなかった。今
後に問題を残す。
文
献
[1]N. Kawase, A. Yasuda, and T. Matsui, “In-situ observaton of growth of the carbon nanoscale tubules”,
Carbon 36, 1864-65, (1998).
[2]A. Yasuda, N. Kawase, F. Banhart, W. Mizutani, T. Shimidzu, and H. Tokumoto, “Formation Mechanism
of Carbon-Nanocapsules and -Nanoparticles Based on the In-SItu Observation”, Journal of Physical
Chemistry B 106, 1247-1251, (2002).
[3]A. Yasuda, N. Kawase, F. Banhart, W. Mizutani, T. Shimidzu, and H. Tokumoto, “Graphitizaton Mechanism
during the Carbon-Nanotube Formation Based on the In-Situ HRTEM Observation”, Journal of Physical
Chemistry B 106, 1849-1852, (2002).
84
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
2.1. 固相合成法を活用した機能性分子ライブラリー創製に関する研究
2.1.1. 固相合成法の開発と機能性分子ライブラリーの構築
東京工業大学大学院理工学研究科教授
高橋
要
孝志
約
(1)本研究ではこれまでに活性エステルを有するトリアルキルヒドロシランのヒドロシリル化反応を検討し、ト
リアルキルシリルエーテルをリンカーとし、糖の6位を固相上に担持する手法を開発した。このリンカーは、
続く糖鎖上のチオアセタートの導入、アシル基の還元条件下での脱保護、マスクしたエンジインとのS− ア
ルキル化に安定で、かつ弱酸により切断でき、不安定で両親媒性のエンジイン化合物の固相合成に有用であ
ることを明らかにした。さらに本手法の反応条件の最適化を行い、実際にDNA切断活性を有するオリゴ糖
— エンジインハイブリッド分子のライブラリー構築に成功した。
(2)これまで研究開発してきた多点制御型多機能複合金属不斉錯体の固相への担持を検討した。固相担持型酸素
含有連結BINOLの合成を行い、ランタン錯体によるマイケル反応へと適用し、 66%の不斉収率にて生成物を得
ることに成功した、さらにランタン-亜鉛錯体の開発に成功し、選択性を維持したまま大幅な反応性の向上を
達成した。またルイス酸-ルイス塩基型不斉触媒の固相担持に関する研究に関しても検討を行った。ルイス酸
としてアルミニウムを用いる触媒系に関して種々検討を重ねた結果、膨潤性に優れたJandaJELTMの適用により、
ストレッカー型反応およびライセルト型反応において高い反応性と選択性を実現した。これらの反応は光学
活性な医薬候補化合物群の効率的な供給法となりうるものである。固相担持触媒を用いた触媒的不斉ストレ
ッカー型反応を検討し、芳香族置換イミンとα,β– 不飽和イミンに対して高活性,高エナンチオ選択的な固相
担持型ルイス酸− ルイス塩基多点認識不斉触媒の創製に成功した。この触媒はリサイクル可能なルイス酸触
媒として他の反応にも拡張できると期待できる。
(3)固相に担持したアルコール、アミン、アミノ酸に対し、ハロゲン化アリールとパラジウム触媒を用いたカル
ボニル化を検討し、相当するエステル、アミドを高収率、高選択的に得る条件を見出した。これまで報告例
のなかった固相上での気相反応を開発し、さらに種々のハロゲン化アリールとアルコール、アミンの組み合
わせで一挙にライブラリーを構築することに成功し、ライブラリー構築の基盤技術として確立した。さらに
ペプチド合成に本反応を適用し、その有用性を明らかにした。現在液晶分子の一般合成法への応用を検討し
ている。
(4)カリックスアレン類を用いた機能性小分子の人工レセプターの開発を目指し、カリックス[5]アレンを人工
レセプターとし、種々の化合物の包接実験を行う基盤技術を開発している。今回固相に担持したジケトピペ
ラジンが人工レセプターと結合することを明らかにし、固相合成で構築できる小分子化合物ライブラリーの
機能を簡便に見いだせる手法を開発することに成功した。
85
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
目
的
従来の合成ではほしいものだけを作る、高選択的な合成法の開発を中心に研究されてきた。これに対し、近年、
高機能性材料あるいは生体制御物質の探索の目的で、数多くの分子を純粋に得る技術が求められている。従来の
合成法では立体選択的にある基本分子を合成することは可能なものの、その周辺化合物をもれなく自在に合成で
きる合成戦略、合成手法はほとんど研究されていない。したがって合成計画の段階からこれら両面を意識し、い
ままでにないライブラリー合成用の新たな合成計画を立てることにより、飛躍的な数の化合物合成が実現できる
と考えた。特に固相合成法は従来の液相法に比べ、操作の簡便さ、自動合成化に有利な点で、非常に期待できる
ものの、まだまだ基本反応・技術不足の点から機能性分子の合成を達成できる水準には至っていない。本研究で
は数多くの化合物を合成できる合成戦略をたて、それに必要な固相上の合成反応を各段階において確立し、機能
性分子固相合成を行う。
研究方法と成果
2.1.1.3.1. 糖— エンジインハイブリッド分子ライブラリーの構築
本研究では、糖鎖の有するDNA認識能に着目し、糖鎖・9員環DNA切断分子のライブラリーの構築につい
て検討している(図 1)。これまでに9員環DNA切断分子への糖鎖の導入法の確立し、固相合成に適用すること
により2糖や3糖を9員環DNA切断分子へ導入できる手法を開発したことを報告している。今回、すでに合成
した糖鎖ライブラリーを用い、これらオリゴ糖鎖と9員環DNA切断分子をカップリングさせ糖鎖− エンジンハ
イブリッド分子のパラレル合成を行い、機能性分子ライブラリーの構築の基盤技術を確立した。
Polymer
HO
HO
HO
HO
HO
HO
O
O
OH
HO
HO
O O
OH
HO
HO
HO
O O
OH
HO
HO
O O
O O
O O
OH
S
S
O
O
O
HO
HO OH
O
HO
O
HO
OH
O
HO
O
HO
OH
HO
O
O O
HO
HO
O
HO
SH
OH
O O
HO
SH
HO
O O
HO
HO
SH
OH
86
O
O
S
O O
O
図1
O
O
Br
O
HO
O
O
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
ライブラリー構築を行う上で重要なことは、「いかに簡便に化合物を取り扱うか」である。例えば糖鎖ライブ
ラリーの構築において、マニュアル合成装置を用いてワンポットグリコシル化を簡便に行えることをすでに報告
している。このように、合成装置を適材適所で利用することは合成の簡便化、効率化に非常に重要であると考え
られる。そこで、本ライブラリー構築においては、合成装置および種々の化合物ライブラリー構築のための技術
を利用し、効率よく機能性分子ライブラリーを構築しようと計画した。特に以下の2点を重視した。
1)液相のパラレル合成に自動合成装置を利用する。
2)固相合成法で合成する化合物をエンコードする。
液相で行う糖鎖の脱保護およびシリルリンカーの導入は、自動合成装置を用いる。特に、シリルリンカーの導
入においては、共通の化合物を作用させるので反応条件も同じである。そこで、分注操作や反応の温度制御が可
能で複数の反応容器を持つ、液相の自動合成装置を用い、1回の実験操作で多種類の糖鎖にシリルリンカーを導
入を試みた。
固相合成においては、クラウン上へ担持した糖鎖を識別するためトランステムを取り付けることを計画した。
このトランステムは、クラウンに取り付け可能なステムに、ラジオ波で情報を読むことができる ROM(Read Only
Memory)が内包されており、タグを用いた場合と同様、固相上の化合物を識別することができる。固相上での反
応は、脱保護、9員環ブロモアセテートとのチオエーテル化であるため、同じ試薬、同じ条件で行える。トラン
ステムを用いてクラウン上の化合物を識別可能とすれば、これらの反応を1つの反応容器で行うことができ、し
かも固相上から切り出しを行う際には、固相上の化合物を区別して混ぜることなく取り出せると考えた。
最後に、固相担体から目的化合物の切り出した後に必要に応じて簡易的なカラム精製(濾過)を行うことも計
画した。
実際の流れは、以下のようになる(図 2)。まず、糖の脱保護(Reaction A)及びシリルリンカーを導入(Reaction
B)する液相での反応は、自動及びマニュアル合成装置を用いてパラレルに行う。続いて、クラウンへ固定化後、
固相上での反応(Reaction C)は、トランスステムを用いて全てのクラウンをまとめて(ミックスして)行う。
最後に、固相上から化合物を切り出す際は(Reaction D)、トランスステムの情報をもとにスプリットして別々
の容器で行う。
87
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
RO
OR'
O O
RO
O O
脱保護
液相合成
RO
マニュアル合成装置
RO
Et
O O
H Si
ON
Et
Rh Cl(PPh 3)O
3
自動合成装置
H2 N
固相合成
トランステム
OH
O O
O O
O O
Reaction A
O O
HO
Br
Reaction B
RO
Et
O Si
O OEt
RO
O O
O
O
ON
O
O O
S-アセチル化
脱保護
O
Br
O
Br
Br
Reaction C
OBz
HO
切り出し HO
精製
Et
O Si
O OEt
O O
HO
OH
O O
HO
O O
O
N
H
O O
S O
O
HO
Reaction D
O O
S
O
O
HO
図2
糖鎖としては、9員環分子の不安定さとDNA切断試験を行うことを考慮し、以下に示す14種類の単糖、2糖、
3糖 1〜14 を選んだ(図 3)。1− 6、1− 6結合を持つ3糖については、グルコース、ガラクトース、マンノー
スを組み合わせた糖 6〜12 を選択した。また、アミノ糖類としては単糖 13 と2糖 14 を選択した。
88
OBz
OBz
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
OH
MBzO
MBzO
O
BzO
BzO
O
OBz
Br
OClAc
O
O
MBzO
BzO
BzO
1 Glc
MBzO
MBzO
OClAc
O
O
MBzO
BzO
BzO
MBzO
O
O
BzO
O
OBz
O
O
OBz
Br
MBzO
MBzO
OBz
O O
OBz
OClAc
O
O
OBz
MBzO
O
BzO
BzO
O
Br
ClAcO
MBzO
MBzO
OClAc
O
MBzO
O
MBzO
BzO
BzO
O
BzO
Br
OMBz
O
O
Br
OBz
O
O
Br
OClAc
O
O
Br
NHFmoc
13 GlcN
OClAc
O
OBz
BzO
BzO
5 Glc-Glc-(1-6)(1-3)Glc
O
BzO
BzO
BzO
BzO
BzO
O
BzO
BzO
Br
12 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Man
O
O O
OBz
O
BzO
MBzO
O
BzO
BzO
O
11 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Glc
8 Gal-(1-6)Man-(1-6)Glc
4 Glc-(1-6)Glc-(1-6)Glc
OClAc
O
MBzO
O
MBzO
MBzO
OBz
OBnOO
BzO
BzO
OBz
O
O
BzO
BzO
BzO
O
Br
O
BzO
OClAc
O
MBzO
O
OBz
MBzO
O
BzO
BzO
O O
OBz
Br
OClAc
O
O
MBzO
MBzO
BzO
MBzO
O
OBz
BzO
BzO
O
BzO
10 Man-(1-6)Gal-(1-6)Glc
BzO
7 Glc-(1-6)Man-(1-6)Gal
O
O
MBzO
BzO
3 Glc-(1-3)Glc
OClAc
O
MBzO
O
MBzO
MBzO
BzO
BzO
Br
O
BzO
Br
O
BzO
BzO
BzO
6 Glc-(1-6)Gal-(1-6)Man
O
O
BzO
O
OClAc
BnO
O
O
OMBz
O
MBzO
MBzO
BzO
BzO
BzO
2 Glc-(1-6)Glc
MBzO
MBzO
ClAcO
9 Man-(1-6)Glc-(1-6)Gal
図3
O
O
OBz
O
BzO
O
BzO
FmocHN
BzO
Br
BzO
O
O
Br
NHFmoc
14 GlcN-(1-6)GlcN
まず、シリルリンカーを導入するため、糖鎖の選択的な脱保護をマニュアル合成装置を用い、パラレルに行った
(図 4)。ベンジル基を持たない単糖、2糖、3糖 2、4、6〜14 のクロロアセチル基の除去は、メタノールとアセ
チルクロライドで塩酸ガスを発生させたメタノール溶液中に、糖鎖のトルエン溶液を作用させて行った。その結
果、6位遊離の水酸基を持つ糖 15〜25 を得た。反応終了後は、濃縮、トルエン共沸のみ行い次の反応に用いた。
なおこの反応では、揮発性の塩酸ガスを用いることにより濃縮後は遊離の水酸基を持つ糖とクロロ酢酸メチルエ
ステルしか残らない。クロロ酢酸メチルエステルは次の反応である脱水素シリル化条件に影響を及ぼさない。こ
のように、脱保護の条件を選ぶことにより、抽出操作、カラム精製の行程を省略できた。
89
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
MBzO
OClAc
O
O
OH
O
Ac Cl, MeOH
O
O
BzO
O
O
Toluene
O
BzO
MBzO
BzO
O
O
O
Br
BzO
O
Br
15~25
2,4,6~14
15 Glc-(1-6)Glc
21 Man-(1-6)Gal-(1-6)Glc
16 Glc-(1-6)Glc-(1-6)Glc
22 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Glc
17 Glc-(1-6)Gal-(1-6)Man
23 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Man
18 Glc-(1-6)Man-(1-6)Gal
24 GlcN
19 Gal-(1-6)Man-(1-6)Glc
25 GlcN-(1-6)GlcN
20 Man-(1-6)Glc-(1-6)Gal
図4
ベンジル基を持つ2糖 3、3糖 5 の脱保護は次のように行った(図 5)。まず、上記の条件でクロロアセチル基の
みを脱保護後、メチルベンゾイル化を行い、定量的にモノベンジル体 26、27 とした。次に、Adinolfi らの報告し
ている脱保護条件を用いてベンジル基の脱保護を行い、それぞれ収率65、60%でモノオール体 28、29 へと導
いた。
OClAc
O
MBzO
O n
MBzO
MBzO
Bz
O O
BnOO
O
O
Bz
BzO
OBz
O
OBz
3 (n = 0)
5 (n = 1)
OMBz
O
MBzO
O
MBzO
n
MBzO
BzO
O O
BnOO
2) MBzCl, Py. BzO
O
Br 2steps quant. BzO
OBz
OBz
1) AcCl, MeOH
toluene
26 (n = 0)
27 (n = 1)
OMBz
O
MBzO
O
MBzO
NaBrO 3, Na2S2O4
MBzO
BzO
Ethylacetate, H 2O
O HOO
BzO
BzO
OBz
28 (n = 0)
29 (n = 1)
Br
n
O O
OBz
Br
図5
糖 1、15〜25、28、29 に対するシリルリンカー30 の導入を行った。シリルリンカー30 の導入には、自動合成装置
を用い検討した(図 6)。この自動合成装置は、温度制御が可能で、スターラー撹拌できる反応容器を40個もち、
プログラムを実行させることで、指定した反応容器への試薬の分注、スターラー撹拌、温度、反応時間を制御す
ることができる。また、反応容器は密閉性が高く簡易的な封管として用いることができる。シリルリンカー30 の
導入条件が溶媒の沸点以上の反応温度を必要とするため、この装置を用いた。
90
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
試薬分注用ニードル
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ÅB
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ǙDZÇÃÉsÉNÉ`ÉÉǾå©ÇÈÇ…ÇÕïKóvÇ-Ç ÅB
試薬ラック
スターラーチップ
反応容器
図6
実際の操作は、次のように行った(図 7)。別々の反応容器に脱保護した糖 1、15〜25、28、29 と Wilkinson 触媒
をトルエン溶液として用意しておき、シリルリンカー30 のトルエン溶液を試薬用の容器にセットし、プログラム
を実行させる。プログラムに基づき、シリルリンカー30 を自動的に各反応容器に分注し、140℃で10時間ス
ターラー撹拌させた。反応終了後、反応溶液をそのままカラムクロマトグラフィーで精製を行った。その結果、
1回の実験操作で単糖、2糖、3糖に収率55〜85%でシリルリンカー30 を導入した糖 31〜44 を得ることがで
きた。
91
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
OH
O
Et
H Si
Et
O
MBzO
O
BzO
O
O
3O N
30 O
MBzO
5 mol% RhCl(PPh 3)3
O
toluene, 140 °C, 10 h
O
BzO
Et
Si
O
O Et
O
O
O
3 O N
O
O
BzO
O
O
O
Br
O
BzO
Br
31~44
1, 15~25, 28, 29
試薬ラック
反応層
糖(1, 15~25, 28, 29)
RhCl(PPh 3)3
Et
H Si
Et
トルエン溶液
O
O
3O N
30
O
トルエン溶液
31 Glc : 75%
36 Glc-(1-6)Gal-(1-6)Man : 85%
41 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Glc : 83%
32 Glc-(1-6)Glc : 72%
37 Glc-(1-6)Man-(1-6)Gal : 60%
42 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Man : 72%
33 Glc-(1-3)Glc : 62%
38 Gal-(1-6)Man-(1-6)Glc : 71%
43 GlcN : 70%
34 Glc-(1-6)Glc-(1-6)Glc : 70% 39 Man-(1-6)Glc-(1-6)Gal : 74%
44 GlcN-(1-6)GlcN : 55%
35 Glc-Glc-(1-6)(1-3)Glc : 60% 40 Man-(1-6)Gal-(1-6)Glc : 75%
図7
次にシリルリンカーを有する糖 31〜44 のアミノメチルクラウン 45 への担持を行った(図 8)。単糖については、
0.1M の DMF 溶液、2糖は 0.15M の DMF 溶液、3糖は 0.2M の DMF 溶液を調製し、少量のジイソプロピルエチルアミ
ンを添加し24時間作用させて行った。反応終了後は、DMF と塩化メチレンで洗浄し、乾燥後、THF:酢酸:水=
6:6:1、60℃、6時間の条件でそれぞれクラウン 46〜59 を1本づつ切り出ことにより担持量を求めた。そ
の結果、それぞれの糖が50%〜定量的にクラウン上に担持されていることを確認した。
92
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
MBzO
O
O
Et
Si
O
O Et
O
H 2N
3 O N
45
O
O
BzO
MBzO
0.1~0.2 M Substrate
COOH
O
O
BzO
O
Et
Si
O
O Et
O
O
3 N
H
O
BzO
O
O
BzO
Br
31~44
O
Br
46~59
46 Glc : quant.
51 Glc-(1-6)Gal-(1-6)Man : quant. 56 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Glc : quant.
47 Glc-(1-6)Glc : qunat.
52 Glc-(1-6)Man-(1-6)Gal : quant. 57 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Man : quant.
48 Glc-(1-3)Glc : 70%
53 Gal-(1-6)Man-(1-6)Glc : quant. 58 GlcN : quant.
49 Glc-(1-6)Glc-(1-6)Glc : quant. 54 Man-(1-6)Glc-(1-6)Gal : quant. 59 GlcN-(1-6)GlcN : quant.
50 Glc-Glc-(1-6)(1-3)Glc : 50%
55 Man-(1-6)Gal-(1-6)Glc : quant.
図8
固相上での反応について検討した。
反応を行う前に、クラウン上の化合物を識別するため、それぞれのクラウン 46〜59 にトランステムを取り付け、
クラウン上の化合物をコンピューターに登録した(図 9)。トランステムは、ラジオ波で読みとれる ROM(Read Only
Memory)を内包しておりタグと同じ役目を果たす。また、トランステムはクラウンに取り付けるだけなので、固
相担体を傷つけずクラウン上の化合物の識別が可能である。さらに、ライブラリー合成時に膨大となる化合物の
情報管理もそのままコンピューターで行うことができる。トランステムを取り付けた14種類のクラウン 46〜59
を1つの反応容器に混ぜ、チオアセチル化を行った(図 10)。0.1M のチオ酢酸カリウム DMF 溶液で6時間超音波
を作用させ、チオアセチル体 60〜73 を得た。反応終了後は、反応と同様1つの容器で DMF、塩化メチレンを用い
て洗浄し、乾燥させた。
図9
93
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
MBzO
O
Et
O Si
O Et
O
3 N
H
1 M AcSK in DMF MBzO
O
sonication, 6 h
O
BzO
Et
O Si
O Et
O
O
3N
H
O
BzO
O O
BzO
Br
O
O O
BzO
46~59
SAc
60~73
60 Glc
65 Glc-(1-6)Gal-(1-6)Man 70 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Glc
61 Glc-(1-6)Glc
62 Glc-(1-3)Glc
66 Glc-(1-6)Man-(1-6)Gal 71 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Man
67 Gal-(1-6)Man-(1-6)Glc 72 GlcN
63Glc-(1-6)Glc-(1-6)Glc
68 Man-(1-6)Glc-(1-6)Gal 73 GlcN-(1-6)GlcN
64 Glc-Glc-(1-6)(1-3)Glc
69 Man-(1-6)Gal-(1-6)Glc
図 10
アミノ糖を有するクラウン 72 と 73 は、トランステムの情報をもとに選択的に取り出し、20%ピペリジン DMF
溶液で20分間作用させ Fmoc 基の脱保護を行いアミン 74、75 とした(図 11)。反応後は、DMF、塩化メチレンで
洗浄し、乾燥させた。
O
Et
Si
O
O Et
O
MBzO
FmocHN
3 N
H
20% piperidine
DMF
O
BzO
O
NHFmoc
MBzO
Et
Si
O
O Et
O
NH2
O
3 N
H
O
SAc
BzO
O
NH2
SH
74 GlcN
75 GlcN-(1-6)GlcN
72,73
図 11
再度、クラウン 60〜71、74、75 を1つの反応容器に導入し、1M の LiBH4 のエーテル溶液中、超音波条件下、6時
間作用させベンゾイル基の除去を行った。反応終了後は、酢酸・THF、THF、ジイソプロピルエチルアミン・THF で
洗浄した後、乾燥を行わず直ちに、0.15M の9員環ブロモアセテート 76 の THF 溶液に浸し、12時間チオエーテ
ル化反応を行いカップリング体 77〜90 とした。反応終了後、THF、THF・水、THF、塩化メチレンで洗浄し、乾燥
を行った(図 12)。
94
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Et
O Si
O Et
O
MBzO
O
3 N
H
1 M LiBH4, Et 2O
O
BzO
HO
O
O
O
O
HO
SAc
Et
O Si
O Et
O
OBz
HO
76
0.15 M in THF
3 N
H
O
sonication, 6 h
O
BzO
60~71, 74, 75
Br
HO
O
Et
O Si
O Et
O
O
HO
O O
SAc
O
3 N
H
O
O
HO
O O
HO
O
S
77~90
O
HO
OBz
77 Glc
82 Glc-(1-6)Gal-(1-6)Man
87 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Glc
78 Glc-(1-6)Glc
83 Glc-(1-6)Man-(1-6)Gal
88 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Man
79 Glc-(1-3)Glc
84 Gal-(1-6)Man-(1-6)Glc
89 GlcN
80 Glc-(1-6)Glc-(1-6)Glc
85 Man-(1-6)Glc-(1-6)Gal
90 GlcN-(1-6)GlcN
81 Glc-Glc-(1-6)(1-3)Glc
86 Man-(1-6)Gal-(1-6)Glc
図 12
トランステムの情報をもとに、それぞれのクラウン 77〜90 を切り出し用の容器に分け入れ、THF:酢酸:水=6:
6:1、室温、24時間でクラウン上から化合物の切り出しを行った(図 13)。
切り出し後、濃縮は遠心エバポレーターを用いて低温ですべて同時に行った。その結果、異なった糖を有する9
員環エンジイン分子 91〜104 をそれぞれ独立にクラウン上への糖の導入量より通算収率57〜80%で得ること
ができた。
95
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
OH
O
HO
O
O
HO
O
O
HO
O
O
S
91~104
O
HO
OBz
91 Glc : 80%
96 Glc-(1-6)Gal-(1-6)Man : 61%
101 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Glc : 67%
92 Glc-(1-6)Glc : 75%
97 Glc-(1-6)Man-(1-6)Gal : 62%
102 Gal-(1-6)Gal-(1-6)Man : 57%
93 Glc-(1-3)Glc : 66%
98 Gal-(1-6)Man-(1-6)Glc : 67%
103 GlcN : 75%
94 Glc-(1-6)Glc-(1-6)Glc : 62%
99 Man-(1-6)Glc-(1-6)Gal : 67%
104 GlcN-(1-6)GlcN : 74%
95 Glc-Glc-(1-6)(1-3)Glc : 59%
100 Man-(1-6)Gal-(1-6)Glc : 74%
図 13
それぞれをMSスペクトルにより分析し、9員環骨格を損なうことなくすべての化合物 91〜104 が得られている
ことを確認した。また、若干、固相由来と思われる不純物が見られたため、DNA切断試験を考慮し、その純度
を上げるため簡易的なカラム精製を行った(図 14)。精製には、C18ODS シリカゲルが1mm つまったディスポーザ
ブルカラムを用いた。これらを並列に並べ、水を用いて化合物をシリカ上に担持し、次にメタノールを用いて溶
出、メタノール成分のみを回収した.
カラム
手順
1、水で化合物を
担持する。
2、メタノールで
化合物を溶出する。
C18 ODS
シリカゲル
図 14
得られた化合物 91〜104 については、MS スペクトルを測定し、化合物が分解してないこと、および不純物が取り
除けていることを確認した。このうち 91、92、94、103 については 1H NMR を測定しその構造を確認した。その結
果、糖鎖・9員環DNA切断分子 91〜104 をほぼ単一な化合物として、0.7〜1.5mgを得ることに成功した。
以上、糖鎖・9員環DNA切断分子のライブラリー構築法について検討した。ライブラリー構築に、固相合成法
を用いることにより、最終的に固相に糖を導入してから3日で14種類の不安定な糖鎖・9員環DNA切断分子
を一挙に合成することに成功した。また、自動合成装置やトランステムなど様々な装置や技術を可能な限り取り
入れることによりライブラリー構築を効率よく行えるシステムを構築することができた。天然には、有益な活性
を持つ配糖体分子が数多く存在する。それらの誘導体合成に今回開発したライブラリー構築手法を応用すれば、
短期間に機能性誘導体のライブラリーを構築し、新規機能性分子を見出すことが可能となるであろう。
96
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
2.1. 固相合成法を活用した機能性分子ライブラリー創製に関する研究
2.1.2. 生体機能性分子を目指した固相における炭素− 炭素結合形成反応の開発
理化学研究所有機合成化学研究室
中田
要
忠、末永 俊朗
約
我々はライブラリー構築のための新しい方法論の開発の必要性に着目し,新規高分子固定化反応剤の開発を行
った.また当研究室で開発した「マイクロカプセル化法」を用いて新規高分子固定化遷移金属錯体の開発を行っ
た.
有色の保護基,脱離基に利用できる色素の探索を行い蛍光検出薬として用いられているダンシル基を見出し,
脱離反応の追跡や保護基への転換により固相上の種々の炭素炭素結合形成反応を簡便に追跡できることを見出し
た.
目
的
ライブラリー構築を目的とした固相上での低分子化合物の合成研究は端緒についたばかりである.我々は固相
反応の問題としてあげられる低い反応性や構造解析の問題に取り組み,有機合成反応の基本となる固相上での炭
素-炭素結合生成反応の開発を行う.また,多成分反応を用いる効率的なライブラリー構築のための新手法の開発
を目指す.
一方,固相反応においては反応の進行の追跡や多段階反応を行った後の比較的純度の低い生成物の精製も大き
な問題点である.本研究ではこれまで未開拓の有色の脱離基や保護基などを開発することにより汎用性の高い手
法の確立を目指すと共に機能性分子ライブラリーの構築への応用を図る.
研究方法
まず新規高分子固定化反応剤の開発を行い,それを固相上での炭素− 炭素結合生成反応,特にルイス酸触媒に
よる活性化を鍵とする反応に用いる.高分子の構造はこれまでの分析手法である赤外吸収スペクトル測定に加え,
固体 NMR(SR-MAS)測定を行なうことにより決定する.
次に当研究室で見出した「マイクロカプセル化法」により,有機合成化学において有用な遷移金属錯体の固定
化を行う.合成した触媒を様々な合成反応に用い,その性能を調べる.また高分子触媒の構造解明も行う.
種々の有機化学反応に安定で分離精製の容易な小分子量色素の探索・開発を行う.続いて有色脱離基や有色保
護基への転換について検討し,最終的に固相上で脱離反応,保護・脱保護反応の追跡について検討する.
研究成果
97
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
我々のグループは合成容易な新たなトレースレスリンカーとして p-Benzyloxybenzylamine(BOBA)樹脂の合成を
計画した.BOBA 樹脂より得られる含窒素化合物は窒素元素上にベンジルオキシ基を有するため,酸性条件で容易
に窒素− 炭素結合を切断することができる.さらにベンジルオキシ基は酸性条件だけでなく,酸化剤を用いるこ
とにより中性条件下でも切断でき,より温和な条件でトレースを残さない生成物の切り出しが可能となるものと
期待される.
まず,我々は樹脂の合成について検討を行った.種々条件検討の結果,市販の Merrifield 樹脂より,二段階と
いう短工程で目的とする BOBA 樹脂を得た(図 1).本合成検討において,これまでの分析手法である赤外吸収ス
ペクトル測定に加え,固体 NMR(SR-MAS)測定を行なうことにより,より確実に構造決定が行えるようになった.
図 1. BOBA 樹脂の合成
そこで次に合成した BOBA 樹脂を用い,固相上でのイミンの還元的アミノ化反応について検討を行なった.その
結果,いずれの芳香族アルデヒドを用いてもイミン樹脂が調製されていることが NMR スペクトルより明らかとな
った.一方,脂肪族アルデヒドの場合イミン調製の反応時間を短縮することで目的とするイミン樹脂が単一化合
物として得られることを明らかにした.
引き続いて還元条件の検討を行った.還元剤として NaBH4,NaBH(OAc)3,NaBH3CN,ボラン− ピリジン錯体さらに
はトリクロロシランなどを用いて検討を行った.その結果,NaBH4 が最も良好な結果を与えた.その後,カルボン
酸と縮合剤により2級アミンをアシル化し,硝酸ニアンモニウムセリウム(CAN)によって樹脂から切り出すこと
により,良好な収率で目的とする N-アルキルアミドを得た.
このようにして得られた最適条件を元に,種々のアルデヒドとカルボン酸あるいはアミノ酸を用いて N-アルキ
ルアミドライブラリーを構築を行った(図 2).
図 2. BOAB 樹脂を用いる還元的アミノ化
98
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
その結果,いずれの場合も良好な収率をもって対応する N-アルキルアミドが得られ,本樹脂がイミンの還元的
アミノ化反応に対して有効であることを明らかにした.
一方,グリオキシル酸エステルやα-イミノ酢酸エステルはα-ヒドロキシカルボン酸,α-アミノ酸,β-アミ
ノアルコールなどの生理活性化合物の合成前駆体として有用な化合物である.しかしながら,グリオキシル酸エ
ステルは室温では非常に不安定であり,容易に分解,重合などを起こすことが知られている.そのため,ほとん
どは使用直前に合成,あるいは精製してそのまま反応に用いる必要がある.
一方,反応剤を高分子上へ固定化することで,通常不安定で取扱いが困難な化合物を安定化することが期待さ
れ,実際に筆者らのグループは液相において不安定なシリルエノールエーテルを高分子上へ固定化することによ
り安定化し,種々の反応に用いている.
そこで筆者らは,高分子上へグリオキシル酸エステルを導入することを計画し,種々検討した結果,酒石酸の
固相上への導入,引き続くジオールの酸化的開裂を行うことにより合成できることを見出した(図 3).得られた樹
脂の詳細な構造解析を行ったところ,実際の化合物はグリオキシル酸樹脂では無く,一水和物であることが確認
された.そこで様々な脱水条件下,アルデヒド体への変換を試みたが,原料の分解が見られ,アルデヒド体はほ
とんど得られなかった.
図3
グリオキシル酸樹脂の合成
そこで次に合成したグリオキシル酸樹脂を用いて Ene 反応の条件検討を行った.検討の結果,イッテルビウム
トリフラート(Yb(OTf)3)を用いた場合にもっとも良好な結果が得られた(図 4).本触媒は水中でもルイス酸触媒
として有効に働くことがすでに筆者らのグループによって明らかにされており,また本触媒は反応終了後,洗浄
するのみで容易に樹脂との分離が可能であるという利点を有している.一方,他の一般的なルイス酸触媒として
知られているトリメチルシリルトリフラート(TMSOTf)や四塩化スズ,四塩化チタンを用いた場合,反応は全く
進行しなかった.これは反応基質が水和物であるために,水によって触媒が失活してしまったためと考えられる.
そこで最適条件を用いて,基質一般性について検討を行った(図 5).なお,高分子からの切り出しは還元条件で
はなく,塩基性条件で行いメチルエステルとした.
図 4. Ene 反応の条件検討
図 5. α-ヒドロキシル酢酸誘導体の合成
99
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
次に筆者らは,先に合成したグリオキシル酸エステル樹脂を出発原料としてα-イミノ酢酸エステル樹脂の調製
を試みた.アルデヒドからイミンへの誘導は多用されている常法であるが,収率の面で必ずしも満足のいく結果
が得られなかった.
そこで,より効率的な合成ルートの検討を行った.まず,クロロメチル樹脂にジエトキシ酢酸のナトリウム塩
を作用させジエトキシ酢酸樹脂を得た後,活性なグリオキシル酸エステル等価体である 2-クロロ-2-エトキシ酢酸
への変換を塩酸を用いて行った.本反応は,アセチルクロリドを添加することにより収率よく進行することがわ
かった.2-クロロ-2-エトキシ酢酸樹脂は活性であることが期待され,実際,アニリン誘導体を DMF 中室温下にて
混合することにより,容易にα-イミノ酢酸エステル樹脂が得られた(図 6).
図 6. α-イミノ酢酸樹脂の合成
こうして合成された高分子固定化α-イミノ酢酸エステルは安定であり,室温でも保存可能であるこ
とが明らかとなった一方,以下に示すように Sc(OTf)3 で活性化すると高い反応性を示すこともわかっ
た.(図 7)
.
図 7. α-アミノ酸誘導体の合成
さらに本樹脂を用いるとアザ Diels— Alder 反応も円滑に進行することも明らかとなった(図 8).
100
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図8
テトラヒドロキノリンライブラリーの構築
以上のように筆者らは,通常液相では不安定で取り扱いが困難なグリオキシル酸およびα-イミノ酢酸を高分子
上に固定化した.また,本樹脂が触媒量のルイス酸触媒存在下,効果的に活性化され,固相上で様々な炭素— 炭
素結合生成反応が行えることも明らかとした.
次に筆者らは高分子固定化触媒の開発に着手した.パラジウム− ホスフィン錯体は様々な炭素− 炭素結合生成
反応を温和な条件下,触媒することから,有機合成化学上最も有用な触媒の一つであると考えられているが,こ
れら有用性の反面,試薬が高価であること,また錯体が一般に酸素に敏感で反応終了後の触媒の回収が困難であ
るなどの問題点を有している.一方,高分子固定化パラジウム触媒の使用は,これらの問題点を解決できると考
えられ,これまでにいくつかのグループによってその開発研究が行われている.しかしながら,現在までに回収,
再使用に関して成功した例は多くなく,多くの改善の余地を残している.
ごく最近,筆者らのグループは金属の高分子上への新しい固定化法として「マイクロカプセル化法」を開発し,
マイクロカプセル化スカンジウムトリフルオロメタンスルホネートおよびマイクロカプセル化四酸化オスミウム
を開発している.このマイクロカプセル化という手法は,触媒を高分子皮膜で包み込むのと同時に高分子担体で
あるポリスチレンのベンゼン環のπ電子と触媒の金属の空軌道との電子的な相互作用により触媒を高分子上に固
定化するという新しい手法である.そこで本手法を高分子固定化パラジウム触媒の開発に適用することにした.
まずポリスチレンを高分子担体として用い,テトラキストリフェニルホスフィンパラジウムをマイクロカプセ
ル化したところ,ろ液からトリフェニルホスフィン(PPh3)が 3 当量回収された.また,得られた触媒カプセルの
リン原子の SR-MAS NMR の測定を行ったところ,パラジウムに配位したリン原子のピークが一種類のみ観測され,
これらの結果より得られた触媒においてパラジウムはトリフェニルホスフィンが一つ配位した形でマイクロカプ
セル化されたことが明らかとなった.マイクロカプセル化パラジウムトリフェニルホスフィン(MC Pd(PPh3))
次に,合成したマイクロカプセル化パラジウムトリフェニルホスフィン(MC Pd(PPh3))を用い,アリル炭酸メ
チル(1)とフェニルマロン酸ジメチル(2)とのアリル位置換反応を行った(表 1).20 mol %の MC Pd(PPh3)存
在下,1 に 2 をアセトニトリル溶媒中,室温下で 12 時間作用させたが,目的のアリル位置換反応は全く進行しな
かった.そこでより詳細に調べたところ,PPh3 を添加することによって反応が初めて進行し,その量についてさ
らに検討したところ,触媒と当モル量の配位子を添加した時に対応するアリル化体が最も良好な収率で得られた.
本触媒は反応終了後定量的に回収でき,回収した触媒を再度反応に用いたところ,触媒活性の低下は見られなか
った.
そこで本条件を用いて基質一般性について検討を行った(図 9).求核剤としてはジエステルだけで無くケトエ
ステルでも反応が円滑に進行し,求電子剤としては,アリル炭酸エステルだけで無く置換基を有するアリル炭酸
エステルでも良好な結果を与えた.また何れの場合においても,触媒の回収,再使用が可能であることが明らか
となった.
101
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
表 1. 反応条件の検討
図 9. アリル位置間反応の基質一般性
さらに求電子剤としては酢酸アリルも用いることができ,触媒の回収,再使用も可能である.
本触媒の有用性を示すべく,他の反応への応用について検討を行ったところ,本触媒が鈴木カップリングの触
媒としても有効であることが明らかとなった.すなわち,20 mol %のマイクロカプセル化触媒と等モル量のトリ
オルトトリルホスフィン存在下,アリールホウ酸と臭化物とをアセトニトリル溶媒中,6 時間加熱環流したところ,
何れも良好な収率で対応するカップリング体が得られた(図 10).
図 10. 鈴木カップリング
反応のモニタに関しては,古典的な樹脂から切断後の TLC 分析,生成物や原料の官能基に特異的な呈色反応と
いった方法に加えて近年赤外分光,固体核磁気共鳴,質量分析,X線など最新の分析機器,分析技術を駆使する
102
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
分析方法が開発されているが,いずれも簡便とは言い難い.そこで有色の脱離基,保護基を利用して反応の進行
状況を固相の色の変化としてリアルタイムに追跡するという新しい概念に基づき,炭素-炭素結合形成反応におい
ても利用可能な汎用性の高い固相反応の簡便迅速なモニタリング手法を確立を目指すこととした.
本手法を用いれば,有色の脱離基,保護基を樹脂に結合する反応(着色過程)においては最初無色の樹脂が反
応の経過とともに着色し,反応溶液の色が次第に薄くなる様子が観察されるはずである.目視による観察では反
応の終点が明確にはわからない可能性が高いが,おおまかな反応の進行状況を捉えることは容易であると考えら
れる.一方,置換反応や脱保護によって樹脂の色が消えていく反応(脱色過程)では樹脂の色が反応の進行とと
もに次第に薄くなり,同時に反応溶液の色が次第に濃くなる様子が観察されるはずである.反応の終点では樹脂
の色は無色となるため,反応の終点の判定は容易かつ明確に行えると期待できる(図 11).
図 11. 有色脱離基,保護基による反応進行の追跡
色素は多岐にわたり日常生活いたる所で使用されている.代表的な色素の基本構造を図4に示したが,有機化
学的には既存の色素の大部分はイオン性の化合物であったりカルボニル基や二重結合を持つなど比較的不安定な
化合物が多い.そこで本研究ではまず既知の化合物の中から種々の有機化学反応に安定で分離精製の容易な小分
子量色素または色素前駆体を幅広く探索するとともに,目的に沿った新規骨格の色素の設計開発も視野に入れて
研究を開始した.
図 12. 代表的な色素およびその基本骨格
まず,比較的入手容易な黄色,橙色系の色素では固相上での色の変化がわかりづらく副生成物や試薬などによ
って樹脂自体が黄色系に着色するケースもあるので除外し,赤,青,緑系統の色素を探索した.構造式を目安に
103
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
いくつかの色素を購入し種々の観点から検討したところ,色素,染料として販売されている化合物は当然のこと
ながら溶媒に難溶なものが多く,化学的な使用が考慮されていないため化学的純度が低いものが多いことがわか
った.それらの中で,アゾ色素系の Diperse Red 1 やキノン系色素 Disperse Blue 3 などが比較的低分子量で脱
離基保護基への変換の足がかりとなる修飾可能な官能基(水酸基)をもつため,化学的安定性および反応性を調
べる実験を行った.その結果トシル化などのように温和な条件で進行する反応については定量的に進行するが,
アルキル化反応では種々の条件を検討したものの色素母核部分に影響があり目的のアルキル化体は得られず,こ
れらの色素母核は脱離基,保護基としての基本的な化学的安定性に欠けることが判明した.また先に述べたよう
に有機溶媒や水への溶解性が悪いため固相上で使用した場合,洗浄しても固相上に色が残る可能性がありこれら
の色素の使用を断念した.
市販の色素,染料に有望な化合物がないので新規骨格の色素の設計開発の可能性について調査した.色素によ
る発色は白色光を吸収することによって起こり,その化合物のもつ吸収極大の波長と吸収強度がそれぞれ色と色
の濃さを決める主要因となる.400nm付近に吸収極大があるものは黄色から橙色,500nm付近では赤,
600nm付近では青,700nm付近では緑となる.したがって本研究の目的のためには吸収極大が450n
mより長波長で黄色,橙色系以外の発色をするような化合物が望ましい.分子構造と発色の関係については古く
から研究がなされ経験則も数多く提出されている.表 2 にベンゼンの204nm吸収帯の置換基による移動の算
出式を示した.アセトアミド基が置換すると+38.5nm,ニトロ基が置換すると+65nm 深色移動するこ
とがわかる.しかしながらジニトロベンゼンでも計算上の吸収極大は334nmでしかなく,化学的安定性を保
ちながら置換基の組み合わせで吸収極大を200nm以上深色移動させるのは困難であるのでベンゼンよりも長
波長側に吸収帯を持つナフタレン(286nm)やアントラセン(375nm)などを母核とするのが適当であ
ると考えられる.これらの骨格をベースにして発色はもとより,分子の化学的安定性,誘導体の作りやすさ,分
子の大きさ,溶解度などの要素を考慮に入れて新規骨格の色素をデザインする必要があるが,発色に関しては単
純な経験則で吸収極大や吸収強度を予測するのは不可能であるので量子化学計算ソフトウェアを利用して計算す
る必要があり今後の検討課題とする.
表 2. 置換ベンゼン類の主要吸収帯の計算値(基準値:203.5 nm)
これまで狭い意味での色素についてのみ述べてきたが,蛍光色素と言われる化合物群が知られている.これら
は化学的には特定の官能基の高感度の検出マーカーとして用いられることが多く,目的により数多くの試薬が市
販されている.図 13 に代表的な蛍光団を示したが,上述した色素のケースと同様に化学的安定性,溶解性,分子
量などの面からみると本研究の目的を満たすものは多くない.
104
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 13. 代表的な蛍光団
その中で,5-Dimethylamino-1-naphthalenesulfonyl 基(Dansyl 基) に着目した.ダンシル基はアミノ基,水酸
基の検出のために用いられる蛍光団であるが,図 14 に示したようにナフタレンを母核とする比較的少分子量の化
合物であること,スルホニル基とジメチルアミノ基を置換基として有しているが化学的な安定性は比較的高いと
考えられること,ダンシルクロリドとして市販されており入手が容易なことから有望な化合物であると考えた.
更に,ダンシルクロリドがスルホニルクロリド基を有することは,本研究の目的である脱離基,保護基としての
活用に際しても好都合である.つまり,有機脱離基としては p-トルエンスルホニル基,メタンスルホニル基など
が一般的であり,ダンシル基がこれらと同等の脱離能を示せば,トシルクロリド,メタンスルホニルクロリドの
代替として幅広く使用できると期待される.一方保護基となりうる官能基は数多く存在し単一の色素母核からの
直接的な官能基変換のみでは効率良く合成できないので保護基部分と色素部分を適当な長さのメチレン鎖(=ス
ペーサー)を用いて結合すれば色素部分の構造に影響を与えることなく様々な種類の保護基へと容易に変換でき
ると期待される.スルホン酸アミド結合は幅広い反応条件で安定であるのでダンシル基をスペーサーを介して保
護基に変換するには都合が良い(図 15).
図 14. Dansyl Cl
図 15. ダンシル基の保護基への変換
ダンシル基の脱離基としての利用はこれまで報告されていなかったため,まずトシル基との比較実験を液相中
で行いダンシル基の脱離基としての反応性を確認することとした.フェニルプロパノールとダンシルクロリド,
トシルクロリドとのスルホニル化および p-メトキシフェニルプロパノールを基質としてトシルクロリド 3 当量,
ダンシルクロリド 3 当量の混合物でスルホニル化を行なった.その結果,トシルクロリドの反応性が若干高いこ
とが判明した(図 16).
105
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 16. ダンシルクロリドとトシルクロリドの一級水酸基との反応性の比較
トシルクロリドにおいては立体障害のある二級水酸基との反応性は立体障害のない一級水酸基との反応性に比
較して低下することが知られているが,トシルクロリドより嵩高いダンシルクロリドは,トシルクロリド以上に
二級水酸基との反応性が低下することが懸念された.1-フェニル-2-プロパノールとの反応性を比較したところト
シルクロリドでは 21 時間で反応が完結したのに対し,ダンシルクロリドでは約 2 倍の 49 時間を要し,一級水酸
基との反応より反応性の差が大きいことが判明した.しかしながら,この程度の反応性の違いは反応時間の延長
などで十分対応でき実用上支障がないと考えられ二級水酸基のスルホニル化においてもダンシルクロリドはトシ
ルクロリドの代替として利用できることが明らかとなった(図 17).
図 17. ダンシルクロリドとトシルクロリドの二級水酸基との反応性の比較
続いて,得られた二級のダンシレートとトシレートの脱離反応の検討を行なった.一級のスルホネートではダ
ンシレート,トシレートで反応性にほとんど差が見られなかったが,二級のスルホネートについても 表 3 に示し
たようにダンシレートとトシレートの反応性に大差は認められなかった.従ってダンシル基は一級のみならず二
級のアルコールの脱離基としてもトシル基の代替として利用できることがわかった.
106
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
表 3. ダンシレートとトシレートの反応性の比較
そこでダンシル基の脱離反応を固相上で行い期待通りに反応の進行をモニタできるかどうか検討してみた.基
質としてはオクタンジオールモノダンシレートをコハク酸をリンカーとして固相に担持したものを用いた.合成
に際しては分離精製装置を用いた.基質を固相に担持するとき,少量の樹脂を反応容器から取り出して洗浄後3
65nmの紫外光を照射すると樹脂に蛍光があるのが観察され,反応が進行していることが明確にわかった.た
だし,ある程度反応が進行すると樹脂の蛍光強度の差が明確でなくなるため反応終点を検出するには適していな
いこともわかった.ダンシル基のついた樹脂の蛍光は十分に強く,周りが暗い状態で紫外光を照射すれば自ら発
光するためダンシル基が樹脂に結合していることは明確にわかると考えられる.また樹脂自体に着色があっても
問題なく検出できると考えられるため,当初考えていた通常の色素(染料)を利用する方法よりも利点がある.
また通常の色素では2色以上を同時に使用すると色のある無しではなく色調の変化で判断することになるため終
点の判断が困難になると考えられるが,蛍光色素と一般の色素の同時使用は可能である.また蛍光色素には固有
の励起波長があるため励起波長が異なる複数の蛍光団を用いることができれば複数の蛍光保護基,脱離基を同時
使用することも可能であろう.
得られた基質を用いてアジド化を行った.図 18 に反応容器から時間の経過を追って取り出した樹脂を洗浄後紫
外光を照射して撮影した写真を示した.それによると反応開始前は一つ一つの樹脂が鮮明に見えているが,時間
とともに蛍光が弱くなりついには樹脂が見えなくなり,反応が終了したことが示唆された.一方,反応容器に直
接紫外光を照射すると,時間とともに反応溶液の蛍光が強くなって樹脂の蛍光が弱くなっていく様子が観察され
た.残念ながら反応液中では樹脂から完全に蛍光が消えたことを判定することは難しいため反応の終点を厳密に
見極めることはできないが,反応が進行しているかどうかのおおまかな判断は十分可能であった.確認のため,
得られたアジド体を固相から切り出してみたところ,カラムクロマトグラフィーで精製後3工程50%の収率で
目的のアジドアルコールが得られた.収率に検討の余地が残されているが,粗生成物中にダンシル基が混入して
くるようなこともなく,反応の進行を色の変化としてモニタするという目的は十分果たせたと考えられる.
107
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 18. ダンシル基による固相反応のモニター
図 18 に示した以外にもいくつか反応を検討しているが,特筆すべきは,現在条件検討中の Bu2CuLi によるアル
キル化反応である.この反応は空気中の酸素,水分などに非常に敏感でサンプリングのため反応途中で樹脂を取
りだすような操作は避けるべき反応であるが,試薬の調製次第で反応溶液の色が黒色となるケースがあり,自然
光の元では樹脂の存在が見えないこともある.ところが反応容器に紫外光を照射すると未反応の樹脂が明瞭に見
え,反応が進行していないことが明確にわかった.他の分析方法では反応条件の微妙な反応で樹脂を取り出すこ
となく簡単に反応の進行を判断できる例はなく,この手法の優れた一面を示したと言える.
次に固相上でのダンシル基の検出限界について検討を行った.ダンシレート 13 のトシレート 14 に対する割
合が 50%, 10%, 1%, 0.1%, 0.01%, 0.001% の混合物を手動合成装置を使用してアミノ基置換率 0.26 mmol/g の
TentaGel にロードした.その結果 0.1 % すなわち 0.26 μmol/g の置換率までは蛍光を十分に検出できること
がわかった.ペプチド合成で標準となっているフリーのアミノ基検出法である Kaiser test (ninhydrin test) の
検出限界が 5 μmol/g 程度と報告されているので本手法はそれより一桁高感度であることになる(図 19).
図 19. ダンシル基の置換率と蛍光
108
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
次に,ダンシル基の保護基への転換について検討を行った.まず,水酸基の保護基としてエステル型の保護基
を開発することとし,ダンシル基にスペーサーを介してカルボキシル基の導入を試みた.スペーサーのメチレン
基が一つすなわちグリシンの導入はグリシンエチルエステル(15)およびグリシンベンジルエステル(16)を用いて
行なった.エチルエステルは加水分解の収率が悪く,ベンジルエステルの接触水素還元により目的のカルボン酸
17 を好収率で得ることができた.固相上の水酸基との反応は固相合成装置を用いて種々検討した結果,水酸基を
トリクロロアセトニトリルで活性化することにより達成された.得られたエステルはメタノール中炭酸カリウム
または THF-メタノール中ナトリウムメトキシドにより加水分解することができた.固相上での加水分解(脱保護)
は問題なく進行したが,液相中での加水分解の収率が悪く,保護基として活用する際に問題になる可能性がある
ため,スペーサーのメチレン基が二つすなわちβ-アラニンタイプについても検討し,液相中での保護,脱保護と
もまずまずの収率を得られることが判明した(図 20).
図 20. エステル型保護基への変換
テトラヒドロピラン型の保護基への変換も行なった.6-アミノヘキサノール,3-アミノプロパノールをダンシ
ル化,ヨウ素化して得られたヨウ化物とヒドロキシメチルジヒドロピランのカップリング反応においては環化反
応が優先した.スルホンアミド部位の反応性が高いものと考えアミノ基を一旦カルバメート系の保護基(Alloc)
で保護しカップリング検討した.アリルオキシカルボニルアミノヘキサノールとヨードメチルジヒドロピランと
のカップリングはカップリング成績体を与えなかったが,アリルオキシカルボニルヨウ化ヘキシルとヒドロキシ
メチルジヒドロピランによりカップリング成績体を得ることが出来た.アリルオキシカルボニル基の脱保護は
種々検討の結果,アセトニトリル-水中で Pd(OAc)2, Et2NH, TPPTS を使用する方法が優れていることがわかった.
得られたアミンをダンシル化して目的のジヒドロピラン誘導体を得ることが出来た.
得られたジヒドロピラン体によるアルコールの保護は TsOH, CSA で速やかに進行したが,PPTS では2時間後目
的物を確認できなかった.LaCl3 や DDQ では室温2日でも反応の進行は認められなかった.CAN では原料の分解が
認められた.脱保護も TsOH では速やかに進行しアルコールを与えた.80 % AcOH では1日,PPTS では2日ほどか
かるがいずれもアルコールを与え,テトラヒドロピラン型のアルコールの保護基として使用可能であることがわ
かった.続いて固相上での保護,脱保護を検討した.保護反応は CSA, TsOH で問題なく進行したが,脱保護は
TsOH/MeOH, CSA/MeOH, AcOH(aq)など液相の条件では全く進行しなかった.極性溶媒中での樹脂の膨潤度に問題が
109
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
あると思われたので保護に用いた塩化メチレンを溶媒として酸触媒を作用させたところ脱保護が進行し原料のア
ルコール樹脂を回収することができた(図 21).
図 21. テトラヒドロピラン型保護基への変換
考
察
これまでに他のグループによって様々な高分子固定化アミンが開発されてきたが,これらのほとんどは高分子
より化合物を切り出した際,高分子と化合物との結合に由来する跡(トレース)が残るものが多く,分子多様性
を求めるライブラリー構築という観点からトレースを残さない樹脂の開発が強く求められてきた.一方,我々の
グループが開発した BOBA 樹脂は合成が容易であり,酸化的条件下というより温和な条件で樹脂から生成物を切り
出すことができるので酸性条件に不安定な官能基を有する基質に対しても有効であるなどの利点を有する.さら
に本樹脂はイミンの還元的アミノ化反応をに適用可能である.これまでにイミンを系中で調製して行なう還元的
アミノ化は固相上でも幾つか報告されている.しかし従来の手法では還元された2級アミンがさらにイミニウム
塩を形成するため,ジアルキル化体の副生を伴うという問題点を有していた.本手法によればジアルキル化体の
副生を伴うことなく良好な収率でモノアルキル化体を得ることができる.また従来液相において不安定で単離が
困難な脂肪族アルデヒド由来のイミンも高分子上に固定化することにより,その安定性が向上する.
一方,グリオキシル酸エステル類は,有機合成上有用な化合物であるが,通常単量体では重合などを起こし易
いため不安定で取り扱いが困難なことが知られている.我々が開発したグリオキシル酸樹脂は一水和物であるも
のの,室温下,安定に取り扱うことが出来き,重合などは起こさずに安定で取り扱い易く,合成シントンとして
有用であることが期待される.実際,触媒量のランタノイドトリフラート存在下,固相上で Ene 反応が円滑に進
行する.
またこれらの知見をもとに含窒素化合物合成への展開を試みた.活性中間体 2-クロロ-2-エトキシ酢酸樹脂より
調製したα-イミノ酢酸樹脂は固体 NMR(SR-MAS NMR)によって単一化合物であることが確認され,固相上で副反
応を伴うことなく合成できることを明らかとした.また,本α-イミノ酢酸樹脂に触媒量のランタノイドトリフラ
ート存在下,Mannich 型反応やアザ Diels— Alder 反応が固相上で円滑に進行することも明らかにした.
一方で,高分子固定化触媒を用いる反応は,反応終了後ろ過するだけで触媒と生成物を分離でき,回収,再使
用が容易であること,自動合成が可能であること,等の利点を有している.しかしながら一般に触媒を高分子上
に固定化するのには共有結合で結びつける手法を用いるため,触媒が溶解しないうえに高分子担体の立体的な嵩
高さよってモノマーの触媒と比較して触媒活性の低下が見られる場合が多い.そこで筆者らのグループではこの
ような問題点を解決するような新しい触媒の高分子上への固定化の手法として,マイクロカプセル化法の開発を
行ってきた.
パラジウム− ホスフィン錯体は,有機合成において非常に有用な触媒であるが,酸素に敏感で反応終了後に回
収が困難であるなどの問題点を有している.筆者らが開発したマイクロカプセル化パラジウムトリフェニルホス
110
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
フィンはアリル位置換反応や鈴木カップリングなどを触媒し,触媒の回収,再使用も可能であることから,これ
らの問題点を解決できると考えられる.
マイクロカプセル化触媒の構造については現在,図 22 に示すようなものを推測している.まずテトラキストリ
フェニルホスフィンパラジウムを用いてマイクロカプセル化を行うと,3当量のトリフェニルホスフィンが回収
されることから,マイクロカプセル化触媒合成時にホスフィンと高分子との間で配位子交換がおこり,高分子上
のベンゼン環のπ電子の配位によってパラジウムが高分子上に固定化されていると考えられる.本触媒のみをア
リル位置換反応に用いた場合,このような構造は電子的に飽和状態であるために触媒活性が無く,配位子を新た
に添加することによって活性な触媒が生成し,反応が進行したと考えられる.またこれらの平衡は触媒の回収,
再使用が可能であることから,ほぼ左側に片寄っていると思われる.
今後は本触媒の他の反応への応用や,他の遷移金属錯体の高分子上への固定化への展開が期待される.
図 22. 触媒構造の推定
固相反応を行ううえでの障害の一つとなっている固相反応の進行のモニタという問題に対する解決法として最
近各種の分析機器を駆使する方法が開発され成果をあげてきているが,手軽さという観点からは液相反応で使わ
れる薄層クロマトグラフィーなどに比べると手間がかかるのは否めず,同時に数十,数百の反応を行うことがあ
る固相コンビナトリアル合成における反応のモニタ法として簡便な方法が求められていた.我々は固相反応の特
徴を利用することで簡便に反応の進行をモニタできないかと考え,有色の保護基,脱離基により炭素-炭素結合形
成反応においても利用可能な汎用性の高い固相反応の簡便迅速なモニタリング手法を確立を目指すこととした.
当初通常の色素の利用を念頭に市販の色素を探索し,いくつかの色素については実際に反応性,安定性などを
検討してみたが,いずれも脱離基,保護基としての基本的な化学的安定性に欠け,有機溶媒への溶解性,純度,
修飾性などに問題が多く満足な結果が得られなかった.探索の範囲を蛍光色素まで広げてみたところダンシルク
ロリドが有望な化合物として見出された.これまで脱離基として使用された例がなかったのでまずその反応性を
トシル基と比較検討した.一級のアルコールに対するスルホニル化の反応速度はダンシルクロリド,トシルクロ
リドの競争反応を行い明らかにトシル化が速いことを確認できた.二級のアルコールとの反応ではダンシル化は
トシル化の2倍の時間を要するが,脱離反応においてはダンシレートの反応がトシレートの反応より若干速いこ
とが明らかになった.いずれも2倍以内の範囲に収まっており,実用上はダンシルとトシルはほぼ同じ反応性を
もつと考えてよい.これを用いて固相反応のモニタを行ったところ,着色していく過程の終点を判定するのは難
しいものの,脱色していく過程の終点の判定は期待通り容易かつ明確に行うことが出来た.検出感度を推定する
ために 50%〜0.001%のダンシル置換率のビーズを合成し,蛍光の確認を行なった.その結果 0.1 % すなわち 0.26
μmol/g の置換率までは蛍光を十分に検出できることがわかった.ペプチド合成で標準となっているフリーのア
ミノ基検出法である Kaiser test の検出限界が 5 μmol/g 程度と報告されているので本手法はそれより一桁高
感度である.実用上は 100 分の 1 程度の感度でも充分であるので,ダンシル基とトシル基の反応性に大きな差が
ないことを利用してダンシル基の使用量の低減を実現することもできた.
ダンシル基を有する保護基への転換を図り,エステル型およびテトラヒドロピラン型の水酸基保護基を開発し,
111
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
液相,固相において,保護脱保護が可能であることを示した.
ダンシル基のついた樹脂の蛍光は十分に強く,周りが暗い状態で紫外光を照射すれば自ら発光するためダンシ
ル基が樹脂に結合していることは明確にわかる.また樹脂自体に着色があっても問題なく検出できると考えられ
るため,当初考えていた通常の色素(染料)を利用する方法よりも利点があることがわかった.また通常の色素
では2色以上を同時に使用すると色のある無しではなく色調の変化で判断することになるため終点の判断が困難
になると考えられるが,蛍光色素と一般の色素の同時使用は可能である.また蛍光色素には固有の励起波長があ
るため励起波長が異なる複数の蛍光団を用いることができれば複数の蛍光保護基,脱離基を同時使用することも
可能であろう.
引用文献
(1) S. Kobayashi and Y. Aoki, “p-Benzyloxybenzylamine (BOBA) Resin. A New Polymer-Supported Amine Used
in Solid-Phase Organic Synthesis”, Tetrahedron Lett., 39, 7345 (1998).
(2) (a) S. Kobayashi, I. Hachiya, S. Suzuki and M. Moriwaki, “Polymer-Supported Silyl Enol Ethers.
Synthesis and Reactions with Imines for the Preparation of an Amino Alcohol Library”, Tetrahedron
Lett. 37, 2808 (1996). (b) S. Kobayashi, I. Hachiya and M. Yasuda, “Aldol Reactions on Solid Phase.
Sc(OTf)3-Catalyzed Aldol Reactions of Polymer-Supported Silyl Enol Ethers with Aldehydes Providing
Convenient Methods for the Preparation of 1,3-Diol, ・-Hydroxy Carboxylic Acid, and ・-Hydroxy Aldehyde
Libraries”, Tetrahedron Lett. 37, 5569 (1996).
(c) S. Kobayashi, M. Moriwaki, R. Akiyama, S. Suzuki
and I. Hachiya, “Parallel Synthesis Using Mannich-type Three-Component Reactions and "Field Synthesis"
for the Construction of an Amino Alcohol Library”, Tetrahedron Lett. 37, 7783 (1996).
(d) S. Kobayashi,
R. Akiyama, T. Furuta and M. Moriwaki, “Michael and Acetal Aldol-Type Reactions on Solid-Phase. Use
of the Swollen-Resin Magic Angle Spinning (SR-MAS) NMR Technique for the Development of the Solid-Phase
Organic Reactions”, Molecules Online 2, 35 (1998).
(e) S. Kobayashi, T. Wakabayashi and M. Yashuda,
“Efficient Synthesis of Diverse Monosaccharide Derivatives in the Solid Phase”, J. Org. Chem. 63,
4868 (1998).
(3) (a) S. Kobayashi and S. Nagayama, “A Microencapsulated Lewis Acid. A New Type of Polymer-Supported
Lewis Acid Catalyst of Wide Utility in Organic Synthesis”, J. Am. Chem. Soc., 120, 2985 (1998).
(b)
S. Nagayama, M. Endo, and S. Kobayashi, “Microencapsulated Osmium Tetraoxide. A New Recoverable and
Reusable Polymer-Supported Osmium Catalyst for Dihydroxylation of Olefins”, J. Org. Chem., 63, 6094
(1998).
(c) S. Nagayama, M. Endo, and S. Kobayashi, “Catalytic Asymmetric Dihydroxylation of Olefins
Using a Recoverable and Reusable Polymer-Supported Osmium Catalyst”, J. Am. Chem. Soc., 121, 11229
(1999).
成果の発表:
1)原著論文による発表
国外誌
Y. Aoki and S. Kobayashi, “Development of a Reductive Alkylation Method Using p-Benzyloxybenzylamine
(BOBA) Resin for the Synthesis of N-Alkylated Amides”, J. Comb. Chem., 1, 371 (1999).
S. Kobayashi, R. Akiyama and H. Kitagawa, “Polymer-Supported α-Imino Acetates. Versatile Reagents
112
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
for the Synthesis of α-Amino Acid Libraries”, J. Comb. Chem., 2, 438 (2000).
S. Kobayashi, R. Akiyama and H. Kitagawa, “Polymer-Supported Glyoxylate and α-Imino Acetates.
Versatile Reagents for the Synthesis of α-Hydroxycarboxylic Acid and α-Amino Acid Libraries”, J. Comb.
Chem., 3, 196 (2001).
S.
Kobayashi,
T.
Ishida
and
R.
Akiyama,
“Catalytic
Asymmetric
Dihydroxylation
Using
Phenoxyethoxymethyl-polystyrene (PEM)-Based Novel Microencapsulated Osmium Tetroxide (PEM-MC OsO4)”, Org.
Lett., 3, 2649 (2001).
R. Akiyama, S.Kobayashi, “Microencapsulated Palladium Catalysts: Allylic Substitution and Suzuki
Coupling Using a Recoverable and Reusable Polymer-Supported Palladium Catalyst”, Angew. Chem. Int. Ed.
Engl., 40, 3469 (2001).
2)原著論文以外による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
末永 俊朗,”コンビナトリアル合成における分析法”, 有機合成化学協会誌,60, 454 (2002).
3)口頭発表
ア)招待講演
小林
修,「Organic Synthesis for Library Construction」1999年7月8日,Gordon Conference on
Combinatorial Chemistry
小林
(ニューハンプシャー,アメリカ)
修,「ライブラリー構築のための有機合成」1999年11月17日,第 19 回メデイシナルケミスト
リーシンポジウム(東京)
小林
修,「New Methods for the Synthesis of compound Libraries」2000年4月10日,Combinatorial
Chemistry: 21st Century Chemical Synthesis (アリゾナ,アメリカ)
小林
修,「High Throughput Synthesis のための方法論」2000年7月25日,ロボット研究会第4回公
開講演会(大阪)
小林
修,「Organic Synthesis and New Methods for High-throughput Synthesis」2001月1年31日,
LabAutomation 2001 (カリフォルニア,アメリカ)
小林
修,「New Types of Polymer-Supported Catalysts Used in Organic Synthesis」2001年4月1
日,ACS 221st National Meeting (サンジエゴ,アメリカ)
小林
修,「New Methods for High-Throughput Synthesis」2001年7月3日,38th IUPAC Congress (World
Chemistry Congress) (ブリスベン,オーストラリア)
小林
修,「New Methodologies for High-Throughput Synthesis2001月11年7日,Combinatorial
Chemistry: Applying the Technology (チューリッヒ,スイス)
イ)応募・主催講演等
末永 俊朗,Schutz Caroline, 中田 忠「Development of a real time monitoring method of the progress
of the solid phase reaction using stained leaving and protective group」2001年7月5日,
38th IUPAC Congress (World Chemistry Congress) (ブリスベン,オーストラリア)
末永 俊朗,Schutz Caroline, 中田 忠「Real-time monitoring method using stained compound for the solid
phase reaction 」 20 0 0年 1 2 月5日, International Chemical Congress of Pacific Basin
Societies (PACIFICHEM 2000)(ホノルル,アメリカ)
113
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
5)受賞等
Merck-SFC Lectureship (1999) 小林
修
Wyeth-Ayerst Lectureship (1999) 小林
修
Novartis Chemistry Lectureship (2000) 小林
修
MIT Lectureship (2000) 小林 修
Nagoya Lectureship (2000) 小林
Roche Lectureship (2001) 小林
修
修
NPS Distinguished Lecturer (2001) 小林
修
114
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
2.1. 固相合成法を活用した機能性分子ライブラリー創製に関する研究
2.1.3. 高度機能性糖鎖・ヘテロ環ライブラリーの構築
大阪大学大学院理学研究科天然物有機化学研究室
楠本
要
正一
約
糖鎖固相合成においてはポリマーの不均一性のために反応が均一には進行せず、不完全な化合物が蓄積するこ
とが問題であったが、官能基特異的な反応を利用して目的の糖鎖のみを釣り上げる方法と、固相上の反応性の高
い部位を選択することで定量的に反応を進行させる方法を開発し、糖鎖固相合成を行う上での最も基本的な問題
を解決した。新規な糖鎖の迅速合成法として、化合物にタグ分子を結合させ、タグと固相担体との Affinity を利
用して目的化合物を迅速に単離する手法を開発した。第 14 族典型金属とヘテロ原子との親和性に基づく 1,3-双極
子の発生法を確立し、1,3-双極子シクロ付加反応に基づくヘテロ5員環化合物の固相合成法を開発した。
研究目的
糖鎖は発生の過程や免疫細胞の移動、細菌やウイルスの感染などの認識過程に重要な役割を果たしており、糖
関連化合物は抗炎症薬、抗感染薬、癌転移抑制あるいは免疫増強剤のリード化合物として注目されているだけで
なくウイルス、バクテリア、あるいは有害物質の吸着材料、人工臓器用素材などにおいて、地球環境負荷が少な
い新たな材料として有望視されている。天然糖鎖の機能を解明し、さらには新規機能を有する糖鎖を見出すため
には、糖鎖ライブラリーの構築とその利用が望まれる。そのためには糖鎖の効率的な合成法をまず確立しなけれ
ばならない。固相合成では、濾過によって過剰の反応剤と副反応生成物を除去できるために、反応後の操作を非
常に省力化できるので、多数の化合物の迅速合成が可能である。そこで我々は糖鎖の効率的かつ簡便な合成を達
成するために、糖鎖の一般的な固相合成法を確立することを目指して本研究を行った。
しかしながら固相合成には、液相では成功しても固相合成に適用できない反応があること、固相上での反応は
溶液反応に比べて速度が遅く、そのため一般に固相担持化合物に対して過剰の反応剤を用いる必要があること、
TLC や HPLC などの簡便な方法で反応をモニターできないことなどの問題点が存在する。そのため糖鎖の中でも複
雑な構造を有する複合糖質の固相合成は極めて困難である。そこでこれらの化合物のライブラリー構築を可能に
するために、分離が容易であるという固相法の利点と、均一系で反応を行うことができるという液相法の利点を
かね合わせた固相-液相ハイブリッド法を確立させることを目的とした。
ヘテロ環はヘテロ原子と環の電子的・立体的特性の相乗効果により、様々な機能を発現する基本骨格として重
要であり、高度な機能性材料の創製には効率的かつ新規なヘテロ環構築法の開発が必須である。しかし、従来の
液相系ヘテロ環構築法を駆使しても入手できる化合物数は少なく、多種多様な高機能性材料の供給という社会的
要請に応じ得なかった。このような観点から、本研究では機能発現を標的とした新規ヘテロ環化合物群の液相系
合成反応の開発と、その固相系への応用を展開し、ヘテロ環ライブラリー構築を効率的に行うためのモデル型研
究を行う。本研究により、ヘテロ環化合物の固相精密合成技術を確立し、高機能ヘテロ環化合物を迅速かつ効率
115
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
的に供給し得る手法を確立することを目的とした。
研究方法
高度機能性糖鎖ライブラリーの構築
まず固相法による糖鎖の迅速合成について検討した。糖鎖固相合成によく用いられる担体はゲル状のポリスチ
レン樹脂で次いでポリエチレングリコール-ポリスチレン樹脂である。溶媒としては CH2Cl2, THF, DMF などの樹脂
を膨潤させるものが用いられ、エーテルやメタノールなどの膨潤性の悪い溶媒は使用できない。この溶媒に関す
る制限は固相合成の欠点の一つであった。多孔質ポリスチレンは架橋度が高いため膨潤性は低いが、内孔に溶媒
が浸入してポリマー表面上で反応が進行する。そのためエーテルやメタノールでも反応溶媒に用いることができ
る。そこで多孔質ポリスチレンを担体にした糖鎖固相合成について検討しエーテル中でも反応が進行することを
見出した。
このように多孔質担体を用いることで、溶媒に関する制限を解決したが、ポリマーの不均一性のためにグリコ
シル化反応が均一には進行しないという問題に直面した。これは多孔質担体に限らず全ての固相担体に共通する
問題点である。そこで、二つの方法論でこの問題の解決を図った。
まず未反応の受容体を含む混合物から目的の糖鎖のみを単離する方法として、ホスフィンを担持した固相樹脂
を用いてアジド基を持つ化合物のみを釣り出す方法 (Chemical Fishing 法)を開発し、オリゴ糖エリシターの固相
合成に適用した。
第二の解決策は反応性の高い部位を選択する方法である。新規アルキン型のリンカーを考案し、薗頭反応によ
り基質を固相に導入することで、固相上の反応性の高い場の選択が可能であることを見出した。反応部位の選択
により固相上でも定量的に反応が進行することを見出し、糖鎖固相合成を行う上での最も基本的な問題を解決し
た。
次に我々は液相系で反応させるが、固相合成と同様に速やかに目的化合物を単離するという固相-液相ハイブリ
ッド法について検討した。その結果化合物にタグ分子を結合させ、タグと固相担体との Affinity を利用して目的
化合物を迅速に単離する手法を見出し、Synthesis based on affinity separation (SAS: Affinity 分離を利用し
た合成手法)と名付けた。
機能性ヘテロ環化合物のライブラリー創製
我々は既に液相系において、第 14 族典型金属とヘテロ原子との親和性に基づく 1,3-双極子の発生法を明らかに
し、様々なヘテロ環の合成に成功している。この双極子発生法は中性条件下で添加剤を必要としない特長を有し
ており、官能基が逐次蓄積されていく固相合成に適した方法論である。1,3-双極子シクロ付加反応は、ヘテロ5
員環骨格を一段階で形成するだけでなく、協奏反応であるため立体選択性が高く、機能性物質に要求される厳密
な立体化学の達成が期待できる。そこで本研究では、我々が開発しつつある 14 族典型金属の特性を活用する新規
な 1,3-双極子発生法を固相ヘテロ環合成に展開させる。この反応系を選定する大きな理由の一つは、固相にリン
カーを介して結合した状態の反応生成物(切り出しが必要)を得るだけでなく、反応終了時に生成物が固相から
離脱する(切り出し不要)という特性を活かすこともできる点にある。さらに、反応性の低下や過剰量の試剤の
使用という、一般に固相合成に不可避の欠点を克服するために、高圧反応という新しい試みによって、単に反応
を加速するだけでなく、固相反応のグリーン化についても研究を進めた。
研究成果
高度機能性糖鎖ライブラリーの構築
4-1. 糖鎖の固相合成
116
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
糖鎖の固相合成は Fréchet 、Schuerch により 1970 年代初頭にすでに報告されていたが、当時の合成技術では実用的な
ものとはならなかった。盛んに研究されるようになったのは Danishefsky がグリカールから導かれる 1,2-アンヒドロ糖を糖供与
体に用いた糖鎖固相合成を 1993 年に発表してからであり、Schmidt, Seeberger, 伊藤, 高橋, 蟹江, Nicolaou らによって精
力的に研究されてきている。近年目覚ましい発展を遂げてはいるものの、立体制御が困難な糖鎖の固相合成はなされてい
ないなど、糖鎖の固相合成はまだまだ完成には到っているとは言えない。そこで我々は糖鎖の一般的な固相合成法の確
立を目指して以下の検討を行った。
4-1-1. 多孔質ポリスチレンを担体に用いる糖鎖の固相合成:4-アジド-3-クロロベンジル基の利用
すでに述べたように固相合成を行う上でまず考慮しなければならないのが固相担体の選択であり、我々は多孔
質ポリスチレンに着目した。多孔質ポリスチレンとしては市販の ArgoPoreTM を用いた。
さてグリコシル化反応は酸性条件で行われることが多く、糖鎖の固相合成を行うためには耐酸性に優れた保護
基が必要であった。我々は以前から耐酸性にすぐれしかも酸化的に切断可能な p 位窒素置換ベンジル基の開発を
続けており、p-ニトロベンジル基、p-アシルアミノベンジル基、p-アジドベンジル基を報告した。p-ニトロベンジ
ル基はニトロ基を還元してアミノ基に変換した後、電解酸化によって除去されるが、これらの条件は固相合成に
は適用し難い。p-アシルアミノベンジル基は p-メトキシベンジル(MPM)基と同様に DDQ 酸化で切断され、しか
も MPM 基よりもはるかに耐酸性に優れている。p-アジドベンジル基は直接の DDQ 酸化でもゆっくりと除去され
るが、PPh3 を作用させてイミノホスホラン中間体に変換後 DDQ 酸化することで速やかに除去される。しかし糖鎖
固相合成に適用するには耐酸性が十分ではなかったのでその点を改良した 4-アジド-3-クロロベンジル (ClAzb)
基を開発した 1)。ClAzb 基は DDQ 酸化に安定であるが、アジドベンジル基と同様の条件で固相上でも速やかにか
つ定量的に除去される。
この保護基を用いて糖鎖の固相合成を行った(図 1)2)。α-グリコシル化にはベンジル化チオグリコシドを糖供
与体に用い、われわれが以前に見出していた NBS-LiNO3 という組み合わせを活性化剤として作用させエーテル中
で反応を行うことで、高い選択性(α:β = 96:4)でグリコシル化を達成した。なおこの条件では通常のポリス
チレン担体を用いた場合、全くグリコシル化は進行しない。続いて PPh3 を作用させてアジド基をイミノホスホラ
ンに変換後、過剰の PPh3 を除き、DDQ 酸化を行って ClAzb 基を除去した。遊離となった水酸基にグリコシル化を
行って三糖に導いた後、同様の操作を行って四糖とした。最後に固相からエステル交換によって糖鎖を切り出し、
精製後保護四糖を 10 数%の全収率(各段階約70%)で得た。β-グリコシド合成にはベンゾイル化チオグリコシ
ドを糖供与体に用い、活性化剤として NBS-Sn(OTf)2 を用いることで保護四糖を同程度の収率で得た。
117
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 1. 4-アジド-3-クロロベンジル基を用いた糖鎖固相合成
このように固相上でのグリコシル化の立体制御に成功したが、グリコシル化の収率は満足行くものではなかっ
た。これは多孔質ポリスチレンの内部孔の表面は不均一であり、導入された糖受容体の反応性が相当に不均一で
あることに起因する。ArgoPoreTM は乾燥状態で平均直径 90Åの細孔を有するが、10Å以下の極めて小さな細孔も
存在する。このような場所に導入された糖受容体はポリスチレン担体自身の立体障害により反応性が大きく低下
する。このため大過剰の糖供与体を作用させても、未反応の糖受容体が残存することになる。ポリマーの不均一
性に由来するこの問題は多孔質ポリスチレンでは顕著であるが、全ての固相担体に共通する大きな問題である。
そこで我々は以下に示す二つの方法論でこの問題点の解決を図った。一つは未反応の受容体(各段階で蓄積し
ていく)を含む混合物から目的の糖鎖を効率的に単離する方法である。もう一つは反応性の高い部位を選択して、
最初の糖受容体を導入する方法である。
4-1-2. 4-アジド-3-クロロベンジル基と固相担持トリフェニルホスフィンの相互作用を利用した
Chemical Fishing
アジド基とホスフィンの間での高い化学選択性を利用し、トリフェニルホスフィンを担持した固相樹脂を用い
て、混合物の中からアジド基を持つ化合物のみを釣り出す手法を確立した (Chemical Fishing 法)(図 2)3)。
図 2. 4-アジド-3-クロロベンジル基を用いた Chemical Fishing
118
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
続いてこの手法を用いて天然糖鎖の合成を行った(図 3)。エリシターは、高等植物の組織や培養細胞に生体防
御反応を誘導する物質で、オリゴ糖エリシターとしてはグルカンオリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、
オリゴガラクツロン酸などが知られている。イモチ病菌の細胞壁由来のβ-グルカンはイネに対してエリシター活
性を示し、渋谷らによって Glcβ1-3Glcβ1-3 (Glcβ1-6)Glcβ1-3Glc であると決定された。本研究ではこのオリ
ゴ糖エリシターの合成を行った。リンカーは還元末端側糖鎖のグリコシド位に導入し、アルカリで切断可能なも
のを用いた。β-グリコシド化には 2-O-ベンゾイル化チオグリコシドを糖供与体に用い、活性化剤として
NBS-Sn(OTf)2 を用いた。糖鎖を伸長させる部位の 3 位水酸基の保護には ClAzb 基を用いた。樹脂としては市販の
クロマトグラフィー用多孔質ポリスチレンである Daiaion HP-20 を官能基化したものを用いた。HP-20 は平均で
300Å の穴を有しており、大きな糖の合成には ArgoPoreTM より有利である。まず還元末端糖を樹脂に導入し、二糖
供与体とのグリコシル化を行った。続いて PPh3 を作用させてアジド基をイミノホスホランに変換後、過剰の PPh3
を除き、続いて DDQ 酸化を行って ClAzb 基を除去した。遊離となった水酸基に単糖供与体を導入して四糖に導い
た後、同様の操作を行って五糖とした。最後に固相からエステル交換によって糖鎖を切り出し、上記の Chemical
Fishing を行い、保護五糖を得た。最後に接触還元を行って、オリゴ糖エリシター五糖の固相合成に成功した。
図 3. エリシター糖鎖の固相合成
4-1-3. アシルアミノベンジルリンカーを用いた糖鎖固相合成:反応性の高い部位の選択
上記のように、混合物の中から目的の糖鎖を速やかに単離する方法論を確立したが、より汎用性の高い方法を
目指し、固相上でのグリコシル化を定量的に進行させる方法について検討したグリコシル化反応の反応中間体は
分子サイズが大きくイオン対を形成するので疎水性のポリマー鎖を浸透しにくく、固相上の反応性の低い部位(固
相担体による立体障害の大きい部位、運動性の低い部位など)で反応を完全に進行させるのは難しい。そこで、
我々は固相担体上の反応性の高い反応場を選択する方法について検討した。
我々は DDQ 酸化で切断される p-アシルアミノベンジルリンカーを見出しており、これを利用した糖鎖固相合成
も行った 4)。固相上でのグリコシル化の収率を上げるためには、反応性の低い部位に単糖を導入することを避けれ
ばよい。単糖の導入率をアミノ基に対して 30%にまでさげることで、アミド化反応により反応性の高い部位に優
先的に糖受容体を導入することが可能であり、収率の向上に成功した。この場合でも温和な条件でグリコシル化
を行うと、反応は完全には進行せずに未反応の受容体成分が残存した。アミド化反応は反応性の低い部位におい
ても比較的容易に進行するため、反応性の高い場を選択することが十分にはできないものと考えられる。
119
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
4-1-4. 新しいアルキン型リンカーと糖鎖固相合成への適用
そこで固相上の反応性の高い場を選択するための新しい方法論について検討したところ、薗頭反応により保護
糖を樹脂上の反応性の高い部位にのみ選択的に導入できることを見出した。
我々は水酸基ならびにアミノ基の新しい保護基としてプロパルギルオキシカルボニル (Proc) 基を、カルボン
酸の保護基としてプロパルギルエステルを報告した。これらの保護基はトリフルオロ酢酸 (TFA) に対して安定で
あるが、Co2(CO)8 と TFA を作用させるとアルキン− コバルト錯体を経て容易に切断される。ここでプロパルギル基
の末端アセチレンと固相上のハロゲン化アリールの間で薗頭カップリング反応を行うことにより、アルキン型リ
ンカーを介して糖を固相に導入できるものと考えた。
まずアルキングリコシド型リンカーについて検討した。4-ヨード安息香酸を固相担体へ導入した後、固相上で
薗頭反応を行って糖受容体を多孔質ポリスチレンに導入した。続いてトリクロロアセトイミデートを糖供与体に
用いてグリコシル化を行った。Co2(CO)8 を作用させた後、10% TFA/CH2Cl2 で処理することによって固相からの切
断を行い、二糖を高収率で得た。
プロパルギルグリコシド型リンカーを切断した後に得られるのは 1 位が遊離の糖であるために、生成物はα体
とβ体の混合物となる。複雑な糖鎖の場合は、アノマーの存在が精製を困難にするおそれがあるので、新しいア
ルキンエステル型のリンカーを考案した(図 4)。
図 4.薗頭反応を用いたアルキン型リンカーの構築
この場合も、プロパルギルエステルを有する単糖と固相担持ヨードベンゼンとの薗頭反応によって、固相上の
反応性の高い部位にのみ糖を導入することが可能であった。ここでは固相担体として SynPhaseTM Lantern-NH2 を
用いた。SynPhaseTM Lantern はポリスチレンのベースポリマーの表面にポリスチレン鎖をグラフト重合させたもの
で、表面加工されたポリスチレン樹脂上で反応を行う。プロパルギルエステルを有する糖を用いて固相上のハロ
ゲン化アリールとの間で薗頭カップリング反応を行い、糖を固相に導入した。これにメタノール中で CH3ONa を
作用させて固相からの切り出しを行うことにより、ハロゲン化アリールの 20%に単糖が導入されたことを確認し
た。次に固相グリコシル化を検討した(図 5)。糖供与体にはトリクロロアセトイミデートを用いることにした。
隣接基関与を利用したβ-選択的グリコシル化を行うために、供与体の 2 位水酸基はベンゾイル基で、4位水酸基
は Fmoc 基で保護した。受容体を導入した樹脂の Fmoc 基をピペリジンを用いて除去した後、トリクロロアセト
イミデート供与体と TMSOTf を用いてグリコシル化を行い、二糖に導いた。続いて Fmoc 基の脱保護、グリコシ
ル化反応を行って三糖が結合した樹脂を得た。最後に固相担体からの切り出しを行って、目的とする三糖を定量
的に得た。先にリンカー部を構築し、アミド結合形成反応で最初の糖受容体を固相に導入した場合は、定量的に
は反応が進行しないことから、以上の結果は薗頭カップリング反応によって固相担体の反応性の高い場が選択さ
120
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
れていたために効率的にグリコシル化反応が進行したことを示している。現在この方法を用いた天然型糖鎖の合
成について検討している。
図 5. アルキンエステルリンカーを用いた糖鎖固相合成
4-2. 固相合成と液相合成のハイブリッド法
固相合成では、液相では成功しても固相合成に適用できない反応がある、固相合成は液相合成に比べて反応速
度が遅いなどの欠点が存在する。そのため溶液中で反応を行い固相合成と同様に迅速に精製を行う固相合成と液
相合成のハイブリッド法として特異的な分子認識によるアフィニティー分離を利用した合成手法(SAS =
Synthesis based on Affinity Separation)を開発した。特定のタグを特異的に認識する分子を担持したカラム
を用意する。タグを結合させた基質を用いて液相反応を行い、反応溶液をこのカラムに通すとタグの結合した目
的物はカラム担体に特異的に吸着され、過剰の反応剤や反応剤由来の副生成物は除去される。次いで目的物を溶
出すると迅速な精製が達成される。
特異的な相互作用としてまず大環状クラウンエーテル (32-crown-10) によるアンモニウムイオンの認識に着目
した(図 6)5,6)。塩化メチレンやトルエンなどの非極性溶媒を溶出溶媒に用いると、クラウンエーテルを有する
目的物はアンモニウムイオン担持カラム(アミノメチル化ポリスチレン, TFA form)に特異的に保持され、不要
物は洗い流される。溶出溶媒をトリエチルアミンを含む塩化メチレンあるいは塩化メチレン-メタノール(1:1)
に変えると目的物が溶出される。この方法はペプチド合成、複素環化合物合成、糖鎖合成に適用できる。
121
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 6. クラウンエーテルとアンモニウムイオンの相互作用を利用した SAS
上記の方法では精製時に系が酸性になるのは避けられない。そこで中性条件で同様の概念に基づく分離法とし
てバルビツール酸とそれに対する人工受容体の間での多点間水素結合を利用した方法を開発した。人工受容体を
固相に担持させ、バルビツール酸の誘導体を化合物に結合させる。上記と同様の操作によって精製を行う。この
方法を用いて糖鎖合成、ペプチド合成、複素環化合物合成を行った 6,7)。なお固相合成では合成中間体の精製は不
可能であるが、SAS 法では他の精製法を併用することも可能である。
122
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 7. SAS によるリピド A のハイスループット合成経路1
SAS 法を用いることにより、固相合成では実現が困難な多段階の複合糖質の合成も可能である。例として免疫増
強活性複合糖質リピド A の合成を示す 8)。リポ多糖(内毒素)はグラム陰性菌の細胞表層の主成分であり、サイト
カイン、プロスタグランジンなど様々なメディエーターを産生させることで免疫系を活性化する。適量のリポ多
糖が作用した場合は有益な免疫応答が起こるが、感染症などによりリポ多糖が過剰に作用すると免疫系が暴走し、
致死的なショックが引き起こされる。リポ多糖は多糖部とリピド A と呼ばれる糖脂質部分から形成され、リピド A
123
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
が内毒素の活性本体であることが、芝、楠本による大腸菌リピド A (1) の全合成によって確定されている。リピ
ド A の基本構造は様々な細菌に共通しており、グルコサミンβ(1→6)二糖を基本骨格とし、2,3,2’,3’位がアシル化
された複雑な構造を有する。リピド A の活性発現には 1、4’位のリン酸基、並びにアシル基が重要である。
我々はリピドAの脂肪酸部が生物活性発現に果たす役割を明らかにするために、様々なアシル基を導入した多
種類の類縁体の効率的な合成を目指して、固相-液相ハイブリッド法によるハイスループット合成について検討し
た(図 7)。4’-リン酸化二糖の合成に際し、上記の p-アシルアミノベンジルリンカーを介してバルビツール酸部を
糖受容体の 4 位に結合させた。糖受容体 5 と糖供与体 6 を TMSOTf を用いて縮合し、二糖 7 を得た。続いてこの二
糖 7 の 2,3,2’,3’位を順次アシル化し、アシル基の全てそろった 8 を得た。続いて TFA を作用させて 8 のリンカー
の切断を行った後、1 位 Allyl 基を除去し 9 に導いた。9 の一位水酸基をリン酸化した後、接触還元によって全て
のベンジル型保護基を除去することで目的の大腸菌型リピドA1 の合成に成功した。従来の通常の液相合成では数
ヶ月を要していた合成が、固相-液相ハイブリッド法を適用することで2週間に短縮された。最近この方法を用い
ることで6種類のリピド A ライブラリーの合成にも成功した。今後さらに種々のリピド A ならびに類縁体を合成
し、ライブラリーの生物活性試験を行うことで、アシル基がリピド A の生物活性発現に及ぼす影響を明らかにし、
内毒素活性発現のための原理を明らかにしていきたいと考えている。
4-3-1. 新規 1,3-双極子発生法の開発と固相合成への応用
一種類の反応を固相に適用して、要切り出し型の生成物と切り出し不要型の両生成物を得るためには、脱離反
応過程を含むか、あるいは空気中の湿気で容易に加水分解するような系が考えられる。その格好の例として、我々
が開発中のケイ素の特性を活用する反応があり、得られた成果を以下に報告する。
4-3-1-1. 樹脂に担持した α-シリルニトロソアミンからの 1,3-双極子の発生とピラゾ− ル合成 —
traceless かつ recyclable な固相反応
我々が開発してきた液相でのヘテロ環合成反応の固相法への適用の一つとして、ケイ素の転位を活用したアゾ
メチンイミンの発生とそのシクロ付加によるピラゾール合成の、固相反応への展開を行った。
基礎となる液相反応
α-シリルニトロソアミドを親双極子剤の共存下、加熱すると速やかにシクロ付加が進行し、興味深いことに、
後処理をしなくとも窒素上のアシル基がシリルエステルとして脱離、芳香族化して N-無置換ピラゾールが収率よ
く得られる。
124
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Scheme 1
固相反応への展開
上記の液相反応の結果から、ニトロソアミドのアシル部位に樹脂を結合すれば、本反応の有用性がさらに向上
することが期待される。すなわち、目的のピラゾール誘導体は、反応後に自然に樹脂から脱離するために、樹脂
上のシリルエステルとは濾過操作のみで分離することができ、固相合成で通常行われる切り出し操作が不要にな
る。また、生成物には担持樹脂由来の官能基等が残存せず、traceless な固相反応となる。さらには、回収され
た樹脂のシリルエステル部位をフッ素イオンで処理することにより、再生・再利用が可能である。
この構想に基づき、Scheme 2 に従って樹脂に担持した α―シリルカルバマート誘導体 16 を合成した。樹脂上
1
での反応の進行は、FT-IR および H MAS NMR 測定により、樹脂からの切り出し操作を行うことなく直接確認でき
た。
Scheme 2
シクロ付加は、予期した通りに切り出し操作を必要とせず進行し、5段階にもかかわらずいずれのリンカーで
も高収率で目的のピラゾールが得られた。
先に述べたように、本系ではシクロ付加後に樹脂 18 が回収される。そこで、最も効率の良かったリンカーをも
125
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
つ樹脂 16b を用い、シクロ付加後の樹脂をフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)で樹脂 15b へと再生し、同
様の固相反応を行った。その結果、リサイクル一回目 71%、二回目 79%の収率でピラゾールが得られ、樹脂を容易
な操作で効率的に再生、再利用できることを明らかにした。
一方、固相合成における制約の一つとして、樹脂と反応させる試薬が過剰に必要であることが挙げられる。そ
こで、過剰の試剤の使用という問題点を克服するために、高圧下でのシクロ付加を検討した。常圧下、1当量の
DMAD を用いると収率は大幅に低下したが、高圧下で行うと化学量論量の試薬を用いても高収率でピラゾール誘導
体を合成することに成功した。この場合、これまで過剰の試薬と反応して生成した化合物 17 の収量が抑制でき、
窒素上が無置換のピラゾールが得られ、反応時間の短縮により生成物の選択性がさらに向上した。また、オレフ
ィン系の親双極子剤の場合、常圧では全く反応が進行しなかったが、加圧することにより高収率でシクロ付加体
が得られることも明らかにしている。
表 1. Cycloaddition of Resin 16c under High Pressure
以上のように、本固相合成は、traceless であると同時に、切り出し操作が不要で、しかも樹脂が recyclable
であるという特筆すべき反応である。従来の固相合成は当然のように過剰の試薬を要し、グリーンケミストリー
という観点とは相反する手法であるが、樹脂のリサイクルが可能であるまた高圧条件下で試薬量が軽減できると
いう本結果は、固相合成に新たな視点をもたらすものである。
4-3-1-2. 樹脂に担持した α-シリルイミンからの 1,3-双極子の発生とピロ− ル誘導体の合成
α―シリルイミンのシリル基が加熱条件下、窒素上に 1, 2-転位して 1, 3-双極子であるアゾメチンイリドが発
生すること、並びに、トリフルオロシランをイミン窒素の四級化剤、脱シリル化剤として作用させることにより、
温和な条件下でも同様の活性種が発生することを既に見い出している(Scheme 3)。そこで、本アゾメチンイリ
ド発生手法を固相反応に適用した。
126
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Scheme 3
基礎となる液相反応
α-シリルイミンを加熱あるいはトリフルオロシランで処理するとアゾメチンイリドが発生し、親双極子剤と
速やかにシクロ付加することによりピロール誘導体を与える。いずれの反応においても生成物の N-Si 結合は空
気中の水分で容易に加水分解を受け、N-無置換体が収率よく得られる。
固相反応への展開
α-シリルイミンを樹脂に担持するに当たり、図 8 の二つの部分を樹脂との結合部位として取り上げた。
図 8. α-シリルイミンの固相への結合位置
Approach (I) による固相合成
容易に入手できる Merrifield resin に担持した α―シリルイミン 21 を Scheme 4 に示す式に従って合成した。
得られた樹脂担持 α-シリルイミン 21 と例えば、N -フェニルマレイミドを、トリフルオロシラン共存下、トル
エン中、40 ℃で 48 時間撹拌を行い、樹脂をトリフルオロ酢酸(TFA)で処理することにより、対応するピロリジ
ンを 4 種の立体異性体の混合物ながら、4 段階での総収率 81%という良好な収率で得ることに成功した。このこと
から、トリフルオロシランが液相反応の場合と同様に、固相上でもイミン窒素の四級化剤、脱シリル化剤として
効率良く働くことが判明した。ライブラリー化に当たっては、アルデヒド、α-シリルアミン、親双極子剤の 3
種の部分に多様性を持たせることが可能である。事実、他のオレフィン系の親双極子剤やアセチレン系のものを
用いても同様に効率良くシクロ付加が進行し、種々のヘテロ環が合成できることを見出している。さらに、ここ
で得られた固相シクロ付加反応の立体選択性は類似の液相反応より高く、アゾメチンイリドが結合した樹脂近傍
の構造が、立体選択性に影響していることを示唆している。
127
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Scheme 4
本系は種々の特徴を有する興味ある固相ヘテロ環合成であるが、生成物に樹脂由来の官能基が残存する。そこ
で、この点を改良するために以下に示す Scheme 5 に従ってケイ素官能基をもつリンカー部位をデザインし、熱転
位によるアゾメチンイリド発生手法を活用した固相シクロ付加を行ったところ、traceless 反応を達成すること
ができた。
Scheme 5
Approach (II) による固相合成
つぎに、α-シリルイミンのシリル基に樹脂が結合した基質について検討した。出発基質である樹脂担持α-シリ
ルイミン 24 は、ジメチルシリルポリスチレン 22 から Scheme 6 に示した式に従って合成した。
例えば、N-フェニルマレイミドとのシクロ付加を行ったところ、高収率で反応が進行し、ピロリジン誘導体
を完全に立体選択的に合成することができた。また、切り出しの際に求電子剤を作用させることにより、窒素上
が水素あるいはベンゾイル基で置換されたピロリジンが容易に得られた。本系も加圧下では1当量のマレイミド
で効率良く反応が進行する。
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固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
本手法は、ピロリジン環の炭素の置換基に多様性をもたせることができるばかりでなく、切り出しの段階で窒
素上にも種々の置換基を容易にしかも自由自在に導入できるという特長を有しており、ライブラリーの構築に適
した固相合成法である。また、切り出し後の樹脂は、例えば塩化ベンゾイルを切り出しに用いると、樹脂 13 が再
生されるため、この場合も再利用が可能となる。
Scheme 6
考
察
当初計画通り、糖鎖固相合成を行う上で基本的な方法論を確立した。多孔質ポリスチレン担体を用いることに
より、従来の固相合成では使用できなかったエーテルなどの溶媒でも固相合成に適用できることを示し、溶媒に
関する制限がなくなった。混合物の中からでも目的の化合物のみを選択的に釣り上げる手法は、我々の研究と同
時期に理研の伊藤らなど他の研究グループからも報告されており、これから発展の期待される方法である。アル
キン型リンカーの研究の過程で、薗頭反応を用いることで固相上の反応性の高い部位を選択できることを見出し
た。これは予想以上の成果であり、固相合成でも最初の段階で反応性の高い部位を選択することにより、その後
の反応を定量的に進行させるという基本的な方法論を確立することができた。今後は実際のライブラリー合成へ
の展開が待たれており、同時に合成したライブラリーの機能評価を行うための方法論を確立させたい。
一方、アフィニティー精製を利用した合成法も、大きな発展を遂げた。タグとしてポリフッ素化アルキル基を
用いるフルオラス合成やタグとしてポリエチレングリコールを用いる合成法が同様の手法として発展してきてい
るが、リピド A の迅速合成は本方法でなければ成し得なかった。これにより従来は困難であった複雑構造を有す
る化合物でもコンビナトリアルケミストリーの対象とすることが可能になったと言えよう。
また機能性ヘテロ環ライブラリー構築に向けて基礎的な研究を予定どおり展開し、各年度で残された課題は逐
次解決できたといえる。とくに、固相ピラゾール合成における樹脂の効率的な再生・再利用は、リンカー部位の
単純な修飾で副反応を制御し達成することができた。さらに特筆すべきは、生成物が過剰に存在する親双極子剤
とさらに反応し、目的とする化合物を得るためには過剰反応により導入された部分を除去するという余分な一工
程が増えるという問題を、高圧固相合成という新しい試みによって解決した。本高圧法は、単に過剰反応を抑制
できたということではなく、液相と同様の等モル反応を加圧加速したことによって、多量の反応試剤を用いて反
129
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
応させ、過剰の試薬を洗浄によって除去するというこれまでの固相反応の常識を覆し、グリーン化に道を拓くも
のである。また、ライブラリー構築の観点からも、本研究で明らかにした固相ヘテロ環合成法は、様々な合成段
階(例えば、1,3-双極子側と親双極子側など)で多様性をもたせることが可能であり、重要なポイントに関して
は反応例を示すことができ、機能性ヘテロ環の化合物群合成に新たな知見を提供した。これらの新しく見出した
方法論および概念を基盤とし、今後さらに新たな固相反応を開拓していきたい。
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成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌
1. S.-Q. Zhang, K. Fukase, and S. Kusumoto:「New Affinity Purification Methods Based on Specific Molecular
Recognition and Their Application to High Throughput Solution-phase Synthesis」, Peptide Science 1999
ed by N. Fujii, The Japanese Peptide Society, p151 (2000).
2. Minoru Izumi, Koichi Fukase, and Shoichi Kusumoto:「TMSCl as a Mild and Effective Source of Acidic
Catalysis in Fischer Glycosidation and Use of Propargyl Glycoside for Anomeric Protection」, Biosci.
Biotechnol. Biochem., 66, 211 (2002)
イ)国外誌
130
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
1. K. Fukase, Y. Nakai, K. Egusa, J.A. Porco Jr., and S. Kusumoto:「A Novel Oxidatively Removable Linker
and Its Application to ・-Selective Solid-phase Oligosaccharide Synthesis on a Macroporous Polystyrene
Support」, Synlett, 1999, 1074 (1999).
2. S.-Q. Zhang, K. Fukase, and S. Kusumoto:「New Methodology for High Throughput Solution-phase Synthesis:
Affinity Purification by Using Crown Ether and Ammonium Ion Interaction」, Tetrahedron Lett., 40, 7479
(1999).
3. K. Egusa, K. Fukase, Y. Nakai, and S. Kusumoto:「Stereoselective Glycosylation and Oligosaccharide
Synthesis on Solid Support Using a 4-Azido-3-chlorobenzyl Group for Temporary Protection」, Synlett,
2000, 27 (2000).
4. S.-Q. Zhang, K. Fukase, M. Izumi, Y. Fukase, and S. Kusumoto:「Synthesis Based on Affinity Separation
(SAS): Separation of Products Having Barbituric Acid Tag from Untagged Compounds by Using Hydrogen Bond
Interaction」, Synlett, 2001, 590.
5. K. Egusa, S. Kusumoto, and K. Fukase:「A New Catch-and-release Purification Method Using a
4-Azido-3-chlorobenzyl Group」, Synlett, 2001, 777.
6. Y. Fukase, S.-Q. Zhang, K. Iseki, M. Oikawa, K. Fukase, and S. Kusumoto:「New Efficient Route for Synthesis
of Lipid A by Using Affinity Separation」, Synlett, 2001, 1693.
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1. 楠本正一,「細菌表層複合糖質の生物機能と化学」、化学と技術の礎、(社)生産技術振興協会、p117 (1999).
2. 深瀬浩一、及川雅人、楠本正一:
「新しい手法によるリピド A の合成と立体構造解析」、エンドトキシン研究2、
菜根出版、p32 (1999).
3. K. Fukase:「Recent Progress of Combinatorial Chemistry」, J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., 47, 251 (1999).
4. 深瀬浩一:「コンビナトリアルケミストリーの現状」, Japan Chem. Program Exchange, 4, 277 (2000).
5. 深瀬浩一:「効率的な糖鎖合成を目指して」,有機合成化学協会誌, 59, 98 (2001).
6. 深瀬浩一、深瀬嘉之、江草健司、泉
実:「固相法ならびに固相− 液相ハイブリッド法を活用した糖鎖合成」、
コンビナトリアルサイエンスの新展開、高橋孝志、鯉沼秀臣、植田充美編、シーエムシー出版, p98 (2002).
7. 深瀬浩一:「コンビナトリアルケミストリー − 有機化学からのアプローチ− 」、生命化学のニューセントラル
ドグマ
テーラーメイド・バイオケミストリーの目指すもの、杉本直己編、化学同人, p192 (2002).
8. 深瀬浩一:「コンビナトリアル合成手法:液相合成と固相スプリット&ミックス合成について」,有機合成化学
協会誌, 60, 442 (2002).
9. 深瀬浩一:「固相-液相ハイブリッド法を活用した糖鎖合成」,有機合成化学協会誌, 60, 494 (2002).
イ)国外誌
1. S. Kusumoto and M. Oikawa:「Synthesis of glycolipids」, Glycoscience III, ed by B. Fraser-Reid, K.
Tatsuta, J. Thiem, Springer, p2107 (2001).
2. S. Kusumoto, K. Fukase, and M. Oikawa.,「The chemical synthesis of lipid A」"Endotoxin in Health and
Disease", ed by H. Brade, S. M. Opal, S. N. Vogel, and D. C. Morrison, Marcel Dekker, p243 (1999).
3. Koichi Fukase:「Combinatorial and Solid-Phase Methods in Oligosaccharide Synthesis」, Glycoscience
II, Chemistry and Chemical Biology, ed by B. Fraser-Reid, K. Tatsuta, J. Thiem, Springer, p1621 (2001).
3)口頭発表
131
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
ア)招待講演
1. S. Kusumoto:「Synthesis and functional study of bacterial lipopolysaccharide」、First Italian-Japanese
Symposium of Organic Chemistry - JISOC-1, Naples, Italy, 1999.6.
2. 楠本正一:「エンドトキシンの活性部位リピド A の構造と機能」、第46回毒素シンポジウム、盛岡、1999. 7.
3. 楠本正一:「糖を含む生物機能分子の合成化学」、有機合成夏期セミナー「明日の有機合成化学」、大阪、1999.
9.
4. 深瀬浩一:「糖鎖合成の新手法」、日本化学会第 77 秋季年会、札幌、1999. 9.
5. 深瀬浩一:
「コンビナトリアルケミストリーの現状と糖鎖化学への展開」、有機合成セミナー(主催
大阪工研
協会)「新世紀で翔く有機合成」− 光学活性体とその機能を中心として− 、大阪、1999. 10.
6. 楠本正一:
「細菌表層の複合糖質ーその化学と生物機能」、第19回東邦大学生命科学シンポジウム、1999. 12.
7. S. Kusumoto:「Chemical synthesis towards understanding the function of endotoxic entity of bacterial
lipopolysaccharide」, 20th International Carbohydrate Symposium, Hamburg, Germany, 2000.8.
8. K. Fukase and S. Kusumoto:「New methodologies for oligosaccharide synthesis, solid phase synthesis,
and hybrid synthesis based on affinity separation (SAS)」、The International Chemical Congress of Pacific
Basin Societies (Pacifichem 2000)、Honolulu、2000.12.
9. S. Kusumoto:「Chemical synthesis and functional study of bacterial lipopolysaccharides」、The
International Chemical Congress of Pacific Basin Societies (Pacifichem 2000)、Honolulu、2000.12.
10. 深瀬浩一:「糖鎖の効率合成に向けて:固相合成と固相— 液相ハイブリッド合成」白鷺セミナー
大阪府立大
学、大阪、2001.1.
11. 深瀬浩一:「固相合成と液相合成のハイブリッドを求めて」近化若手フォーラム [第5回] 」近畿化学協会、
大阪、2001.6.
12. 深瀬浩一:「糖鎖の新しい合成手法を目指して」天然物談話会、瀬戸市定光寺、2001.7.
13. S. Kusumoto:「Synthetic chemistry and function of bacterial cell surface glycoconjugates」、K. T. Wang
Bioorganic Chemistry Lectureship Symposium 2001 National Taiwan University, Taiwan, 2001.9.
14. 楠本正一:「われわれの身を護っているバクテリア表層の分子ー自然免疫の鍵物質ー」大阪大学 VBL 第5回公
開シンポジウム
大阪大学、2001.11.
15. 深瀬浩一:「固相法と固相ー液相ハイブリッド法を利用した有機合成:糖鎖合成を中心に」ロボット合成研究
会
第7回公開講演、東京、2001.12.
16. 深瀬浩一:「糖鎖合成の新展開:固相合成と固相-液相ハイブリッド法の開発とその応用」理研シンポジウム
「第4回マルチプローブの新展開」 東京、2002.2.
17. 深瀬浩一:「免疫増強活性を有する複合糖質の効率的な合成と機能解析」生物新機能と創薬をめざす生体内分
子科学
第2回シンポジウム 東京、2002.2.
イ)応募・主催講演等
1. K. Egusa, Y. Nakai, M. Izumi, K. Fukase, and S. Kusumoto:「Solid-phase synthesis of oligosaccharides
using 4-azido-3-chlorobenzyl group for temporary protection of hydroxy functions”」 XII International
Symposium on Glycoconjugates, Tokyo, Japan, 2aP#150, 1999.8.
2. Y. Fukase, N. Imai, K. Fukase, M. Oikawa, Y. Suda, and S. Kusumoto:「Divergent synthesis of novel lipid
A analogues that possess various type of acyl moieties」 XII International Symposium on Glycoconjugates,
Tokyo, Japan, 4pP#470, 1999.8.
3. 及川雅人、劉文驥、古田博規、新宅哲也、Sekljic Harald、福田直弘、深瀬嘉之、隅田泰生、深瀬浩一、楠本
正一、切替照雄:
「バクテリア複合糖質リピド A の標識化類縁体の合成と生物機能」、第41回天然有機化合物
132
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
討論会、名古屋、1999. 10.
4. 張三奇、深瀬浩一、楠本正一:「特異的な分子認識を利用したアフィニテイー精製とハイスループット液相合
成への適用」第 36 回ペプチド討論会、京都、1999.10.
5. K. Fukase, S.-Q. Zhang, and Shoichi Kusumoto:「Organic Synthesis Based on Affinity Separation」第 9
回 Combinatorial Chemistry 研究会、東京, 1999.11.
6. 深瀬浩一、張三奇、楠本正一:「アフィニティー分離によるハイスループット合成(1): クラウンエーテルとア
ンモニウムイオンの相互作用の利用」、日本化学会第 78 春季年会、船橋, 2000.3.
7. 深瀬浩一、張三奇、楠本正一:「アフィニティー分離によるハイスループット合成(2): 人工受容体によるバル
ビツール酸の認識の利用」、日本化学会第 78 春季年会、船橋, 2000.3.
8. 泉実、深瀬浩一、楠本正一:「新しいアルキン型リンカーと糖鎖固相合成への適用」、日本化学会第 78 春季年
会、船橋, 2000.3.
9. 深瀬嘉之、張三奇、深瀬浩一、楠本正一:
「アフィニティー精製法を用いる複合糖質のハイスループット合成」、
日本化学会第 78 春季年会、船橋, 2000.3.
10. Koichi Fukase, San-qi Zhang, Yoshiyuki Fukase, Minoru Izumi, Shoichi Kusumoto:「Organic Synthesis
Based on Affinity Separation」、The 8th International Kyoto Conference on New Aspect of Organic Chemistry
(IKCOC-8)、京都、2000.7.
11. Y. Fukase, K. Fukase, M. Oikawa, Y. Suda, W.-C. Liu, M. Hashimoto, M. Kataoka, N. Imai, K. Iseki,
K. Brandenburg, U. Syedel, Shoichi Kusumoto:「New Synthesis and Biological Activity of Lipid A and
Analogs」、 6th Conference of the International Endotoxin Society、Paris, France、2000.8.
12. Y. Fukase, K. Fukase, M. Oikawa, Y. Suda, W.-C. Liu, M. Hashimoto, M. Kataoka, N. Imai, K. Iseki,
K. Brandenburg, U. Seydel, S. Kusumoto:
「Divergent synthesis and biological activities of lipid A and
analogs」、Hamburg, Germany、2000.8.
13. K. Fukase, S.-Q. Zhang, Y. Fukase, M. Izumi, and S. Kusumoto:「New methodology for oligosaccharide
synthesis based on affinity separation」, 20th International Carbohydrate Symposium, Hamburg, Germany,
2000.8.
14. 深瀬浩一、張三奇、深瀬嘉之、泉実、楠本正一:「アフィニティー分離を利用した迅速合成」、有機合成シン
ポジウム、京都、2000.9.
15. 江草健司、深瀬浩一、楠本正一:「Oligosaccharide Synthesis Using Chloroazidobenzyl Group: Solid-phase
Synthesis and Chemical Fishing」第11回 Combinatorial Chemistry 研究会、川崎、2000.9.
16. Y. Fukase, S.-Q. Zhang, M. Oikawa, Y. Suda, K. Fukase, and S. Kusumoto:「High throughput synthesis
and biological activity of complex glycoconjugate lipid A and analogs」The International Chemical
Congress of Pacific Basin Societies (Pacifichem 2000)、Honolulu、2000.11.
17. 泉実、梅迫直美、中井康司、深瀬浩一、楠本正一:「新しいアルキンエステル型リンカーとその糖鎖固相合成
への適用」、日本化学会第 79 春季年会、神戸、2001.3.
18. 片岡美佳世、及川雅人、隅田泰生、深瀬浩一、楠本正一:「トリアシル型リピド A の合成と生物活性」、日本
化学会第 79 春季年会、神戸、2001.3.
19. 深瀬嘉之、張三奇、深瀬浩一、楠本正一:「アフィニティー分離法を用いる複合糖質リピド A とその類縁体の
ハイスループット合成」日本化学会第 79 春季年会、神戸、2001.3.
20. S. Kusumoto:「Toward understanding of molecular and supramolecular basis of endotoxic responses」
Lipid A: Past, Present and Future - Chemistry and Mechanism behind Endotoxic Action 、Osaka, 2001.3.
21. 深瀬嘉之、張三奇、及川雅人、隅田泰生、深瀬浩一、楠本正一:「ライブラリー構築を目指したアフィニティ
ー分離法による複合糖質リピド A の効率的な合成」、日本糖質学会年会、静岡、2001.7.
133
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
22. 泉実、江草健司、深瀬浩一、楠本正一:
「糖鎖固相合成の効率化:固相反応場の選択と新しい catch-and-release
精製法」日本糖質学会年会、静岡、2001.7.
23. K. Fukase, Y. Fukase, S.-Q. Zhang, M. Oikawa, Y. Suda, and S. Kusumoto:「Efficient Synthesis of Lipid
A by Affinity Separation」, The Carbohydrate Workshop 2002, Borstel, Germany, 2002.3.
24. 深瀬嘉之、及川雅人、隅田泰生、深瀬浩一、楠本正一:「アシル基に多様性を持つリピド A 類縁体の効率的な
合成と生物活性」、日本化学会第81回春季年会、早稲田大学、2002.3.
25. 梅迫直美、泉実、深瀬浩一、楠本正一:「アフィニティ分離による迅速合成とその糖鎖合成への適用:Triton
X-100 とアンモニウムイオンの相互作用の利用」、日本化学会第81回春季年会、早稲田大学、2002.3.
26. 赤松久、深瀬浩一、楠本正一:「新しい経路によるベンズイミダゾール誘導体の効率的な固相合成」、日本化
学会第81回春季年会、早稲田大学、2002.3.
134
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
2.1. 固相合成法を活用した機能性分子ライブラリー創製に関する研究
2.1.4. フラーレンを基本骨格とする機能性分子の固相合成
厚生労働省国立医薬品食品衛生研究所有機化学部(現職・名古屋市立大学大学院薬学研究科)
宮田
要
直樹
約
本研究では、医薬品などの機能性材料ライブラリー創製を目的とした固相精密合成法の研究として、フラーレ
ン(C60)を基本骨格とする機能性分子の構造—機能相関、ならびに、固相合成法によるフラーレン誘導体のライ
ブラリー構築研究を行った。
フラーレンを基本骨格とする機能性分子の構造—機能相関研究では、C60-ピロリジン誘導体が、C60 に優るグ
ルタチオン S-トランスフェラーゼ活性を有することを確認した。また、フラーレンは、その特異的な光増感作用
により生理的条件下スーパーオキシドを生成することを見いだし,反応機構,反応速度を解明を行った。
固相合成法によるフラーレン誘導体のライブラリー構築研究では、フレロプロリン誘導体を利用して固相合成
する方法を検討した。その結果,COOH 基には BOC 化による保護と塩酸/ジオキサン系による脱保護、また、NH 基
には Fmoc 化による保護と piperidine 処理による脱保護が有効であることを見い出だした。この知見をもとに Wang
Resin を用いた固相結合反応を検討し、N-Fmoc-フレロプロリン、および、O-t-ブチルフレロプロリンを用いた時、
固相との結合、ついでアミノ酸ユニットの導入、さらに固相からの切り出し反応が円滑に進行することを明らか
にした。本反応を利用することにより、機能性フラーレン誘導体のライブラリーの構築が可能となった.
研究目的
有用な機能性分子を効率良く開発するためには、固相精密合成法を用いるケミカルライブラリーの構築が重要
である。本研究では、医薬品などの機能性材料ライブラリー創製を目的とした固相精密合成法の研究を行った。
具体的な機能性分子としてフラーレン(C60)を取り上げた。フラーレン分子は、(1)電子欠損型光増感性を有
しガンの光線力学療法剤や抗ウイルス・抗菌作用物質として[1, 3, 7]、(2)表面のπ電子系と酵素とが相互作
用し新しいタイプの酵素阻害剤として[5, 6]、(3)ラジカル消去特性特に活性酸素ラジカル消去作用によりラジ
カルによる生体損傷の阻害剤として、有用なファーマコフォアと考えられる[4]。しかし、溶解性が低く誘導体合
成が難しい。フラーレン誘導体の固相精密合成法が確立できれば、効率良くフラーレンライブラリーが構築でき
ることが期待できる。第I期(平成 11 年〜13 年)では、フラーレンの構造と機能との相関の解析に基づいて、フ
ラーレンを基本骨格とする機能性分子の分子設計、および、固相合成に利用可能な有機合成法の開発研究を行い、
フラーレンライブラリー構築法の確立を目指した[2]。
135
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
フラーレン(C60, C70 etc.)の構造と機能
C60
◎物理化学的性質
超伝導,電子伝達,光増感,ラジカル捕捉,
複合体形成
◎機能
生物作用:ガンの光線力学療法剤,
抗ウイルス・抗菌作用,
酵素阻害(H IV プロテアーゼ,G S T),
ラジカル消去(抗炎症,抗酸化)
C7 0
研究方法と成果
フラーレン構造を持つ機能性化合物のライブラリー構築を目的として、固相合成を利用したフラーレンの誘導
体化反応の開発を行った。まず最初に、フラーレンを基本骨格とする機能性分子の構造—機能相関研究では、水
溶性を高めた一置換フラーレン類(フレロピロリジン誘導体)の生物作用を検討した。我々はすでにC60 がグル
タチオン S-トランスフェラーゼ(GST)活性を有することを明らかにしているが、今回合成したより水溶性の高い
これらの化合物(Fig. 1)について、精製した組換えヒトGST(GST P1-1)を用いて阻害実験を行った。Type II
の基質であるエタクリン酸をもちいた実験によりこれらの化合物はすべて濃度依存的に GST 活性を阻害すること
が明らかになった。IC50 値はμM レベル濃度であり、これらの化合物は非常に活性の高い阻害剤である。無置換
のフラーレンと比較したときには 50 倍程度活性が上昇している。これらの結果は、フラーレンの水溶性一置換誘
導体が。よりよい阻害剤のファーマコフォアとして有用であることを示した。
R1
C60
N R2
O O
H
R1
R2
H
-COOH
H
H
H
-CH2COOH
-CH2N(CH2COOH)2
-CH2COOH
-COOH
-(CH2)2N(CH2COOH)2
Fig.1. グルタチオン S-トランスフェラーゼ活性を示すフラーレン誘導体
また、フラーレンは電子欠損性の優れた光増感剤である。生理的条件下(水溶液中還元剤存在下)光照射によ
りフラーレンがスーパーオキシドを発生することをすでに見いだしている。今回、反応機構ならびに反応速度を
解明するための実験を行い、スーパーオキシド生成に関与する活性種の生成反応速度、ならびに、反応中間体の
検出に成功した(Fig. 2, 3)
。これらの結果は、フラーレンをファーマコフォアとすることにより、GST 阻害薬や
ガンの光線力学療法剤の開発(分子設計)の有効性を示す知見である。
136
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
DNA Damage
O2 • –
C60 /γ-CyD
•OH
ket = 8.8 × 106 M –1 s –1
e–
hν
1
O2
C60 */γ-CyD
C60• –/γ -CyD
1
ISC
e–
E0red = –0.42 V
E0 ox = –0.56 V
/2 NAD+
kq = 9.7 × 107 M–1 s–1
3
C60*/γ-CyD
1
/ 2NADH
Fig.2. 活性中間体の生成反応速度
137
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
1
quench
NaN3
3
/2 NADH
C 60
• –
/γ -CyD
O2
C 60*/ γ -CyD
O2
1
hν
O2
C 60
C 60 /γ -CyD
O2• –
×2
enhance
SO D
O2
H2O2
quench
Catalase
Metal
OH –
•OH
quench
MeOH, EtO H
DNA Damage
Fig.3. 生理的条件下光照射によるフラーレンからの活性酸素の発生
つぎに、固相合成法によるフラーレン誘導体のライブラリー構築研究を行った。フラーレンは溶解性が低く、
また、フラーレン骨格はアルカリ性条件に不安定である。固相合成の課題として、フラーレン骨格を損傷するこ
となく固相と結合させ、誘導体化後、最後に効率良く固相から切り出す反応ルートの確立が重要である。まず最初
にフラーレンを Diels-Alder 反応により固相に固定することを検討した。モデル化合物を用いた実験では、フラーレン及び
フラーレン誘導体とジエン類との付加反応は比較的高収率で進行した。しかし、ジエンを結合させたポリマーとフラーレンと
の付加反応では、満足できる収率を得ることが出来なかった。また、Diels-Alder 反応により固相に結合したフラーレンを、
熱的な逆 Diels-Alder 反応で固相から切り出す反応においても、望ましい結果を得ることが出来なかった(Fig.4)。
Diels-Alder 反応をフラーレン誘導体の固相合成に利用するには、さらに検討が必要である。
138
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
C60
O
O
O
O
R.T., 2 days
in decaline
<5%
(recovered C60 : ~ 95 %)
O
O
O
O
O
180 oC
in decaline
40 %
Fig.4. フラーレンの固相への結合および切り出し反応
ついで、フレロプロリン誘導体を利用して固相合成する方法を検討した。目的とするフレロプロリン誘導体は
常法に従い合成しこれらを固相合成のシントンとして利用した。フレロプロリン誘導体を、「固相への結合反応」
「官能基修飾反応」さらに「固相からの切り出し反応」に対応させるため NH 基および COOH 基の保護/脱保護反応
を検討した。その結果、COOH 基には BOC 化による保護と塩酸/ジオキサン系による脱保護、また、NH 基には Fmoc
化による保護と piperidine 処理による脱保護が有効であることを見い出だした(Fig. 5)。これらの知見をもと
に Wang Resin を用いた固相結合反応を検討した。N-Fmoc-フレロプロリン、を用いた時、固相との結合、ついで
アミノ酸ユニットの導入、さらに固相からの切り出し反応が円滑に進行することが明らかになった(Fig. 6, 7)。本
法を活用することにより、フレロプロリンの NH 部位でのペプチド鎖の伸張が可能である。次に、COOH 部位でのペプチド鎖
の伸張を達成するために、O-t-Boc-フレロプロリンを用いた、固相合成を検討した。その結果、下に示す方法で合成した
O-t-Boc-フレロプロリンをビルディングブロックとして用いることにより、固相との結合、ついでアミノ酸ユニットの導入、さら
に固相からの切り出し反応が円滑に進行することが明らかになった(Fig. 8, 9)。本法を活用することにより、フレロプロリンの
COOH 部位でのペプチド鎖の伸張が可能である。
139
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
OMe
C60
+
OMe
N
C60
C O MOM 1, 2 - dichlorobenzene
O
180°C
2hr
NH2 + CF3 COO-
C 60
N
O O
MOM
Yield ~ 70%
TFA
75°C
10hr
O O Yield ~ 80%
H
Fmoc-OSu, Et 3 N, toluene
50°C, 7hr
Yield ~ 50%
C 60
N Fmoc
O
H
O
Yield ~90%
CH2 Cl2
TFA
RT
8hr
C60
+
H2 N
H
+
O O
(
H
C60
O )n
toluene
110°C
2hr
C60
NH
O O
CH2 Cl 2
FmocCl
NMM
RT
8hr
Yield ~ 30%
N Fmoc
O O
Yield ~90%
Fig.5. N-Fmoc-フレロプロリンの合成
Resinへの結合反応
C60
C60
N Fmoc
HOBt
DCC
toluene
RT
1 hr
O O
H
C60
N Fmoc
O O
NN
N
N Fmoc
O O
Wang-Resin
14hr
Wang-Resin
Resinから の切り 出し 反応
C60
N Fmoc
O O
Wang-Resin
C60
HCl/dioxane
100 C
24 hr
N Fmoc
O O
H
recovery ~60 %
Fig. 6. N-Fmoc-フレロプロリンの固相への結合および切り出し反応
140
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
C60
C60
NH
C60
N Fmoc
CH2 Cl2
piperidine
RT
Wang-Resin
6hr
O O
O O
O O
NH
Wang-Resin
1
N-DiMe-Gly
C60
CH 2 Cl2
NMM
DCC
RT
10hr
NMe2
N
O O
O
Wang-Resin
C60
HCl / dioxane
80°C
5hr
NMe2
N
O O
C60
O
H
Yield 30.6% (from 1)
NMe2
N
O
O O
Me
Cs2 CO3
MeI
toluene
5hr
Yield 19.1% (from 1)
Fig. 7. 固相上での NH 基修飾と固相からの切り出し反応
O -t -Boc-フ レ ロ プ ロ リ ン の合成
C60
+
H2 N
+
O O
(
H
H
C60
O )n
toluene
110°C
2hr
NH
O O
O O
Yield ~ 30%
Resinへの結合
C60
NH
N
C60
O-Mes-Wang Resin
NMM
toluene
20hr
Wang-Resin
O O
C60
N Wang-Resin
O O
HCl / dioxane
toluene
RT
5hr
H
Fig. 8 O-t-Boc-フレロプロリンの合成と Wang Resin への結合
C60
N Fmoc
O O
H
C60
N
Wang-Resin
O O
H
C60
N H
O
O
Me
1) MeI, Cs2 CO3 , DMF
2) TFA
1
Gly-Me-ester
CH 2 Cl2
NMM
DCC
RT
10hr
C60
N
HN O
MeOOC
Wang-Resin
1) TFA
80°C
12hr
C60
N Fmoc
HN O
2) NMM
FmocCl MeOOC
6hr
Yield 17.3% (from 1)
Fig. 9 固相上での COOH 基修飾と固相からの切り出し反応
141
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
考
察
以上、Wang Resin に O-t-Boc-フレロプロリンおよび、N-Fmoc-フレロプロリンを結合させることにより、固相上
でのフラーレン誘導体の系統的合成が可能になった。本反応系は、ケミカルライブラリーの構築に有用であり、
本法を利用することにより、広範な生理活性フラーレン誘導体が固相合成できると考える。以上,「機能性材料ラ
イブラリー創製を目的とした固相精密合成法の開発」の今期の目標である「フラーレン誘導体のケミカルライブ
ラリー構築」に関して,当初の目的どうりの基本ルートが確立できた.本ルートは,フラーレンの化学の今後の
進展に大きく寄与すると考える.今後も引き続き,本ルートの更なる汎用性を明らかにするための研究を展開し
ていきたい.
引用文献
[1] Yoko Nakajima Yamakoshi, Takeshi Yagami, Kiyoshi Fukuhara, Shoko Sueyoshi, and Naoki Miyata,
Solubilization of Fullerenes into Water with Polyvinylpyrrolidone Applicable to Biological Tests,
J. Chem. Soc., Chem. Commun., (4), 517-518(1994).
[2] Toshie Tsuchiya, Yoko Nakajima Yamakoshi, and Naoki Miyata,
A Novel Promoting Action of Fullerene
C60 on the chondrogenesis in rat embryonic limb bud cell culture system, Biochem. Biophys. Res. Comm.,
206, 885-894(1995).
[3] Yoko Nakajima Yamakoshi, Takeshi Yagami, Shoko Sueyoshi, and Naoki Miyata, Acridine adduct of
[60]fullerene with enhanced DNA-cleaving activity, J. Org. Chem., 61(21), 7236-7237(1996).
[4] Naoki Miyata and Yoko Yamakoshi, Biological action of [60]fullerene under photoirradiation, in
"Fullerenes: Recent Advances in the Chemistry and Physics of Fullerenes and Related Materials, Volume
5", eds K. M. Kadish and R. S. Ruoff, The Electrochemical Society, Pennington, pp. 345-357 (1997).
[5] Nobuhisa Iwata, Toshiji Mukai, Yoko Yamakoshi, Shuichi Hara, Takeshi Yanase, Munesuke Shoji, Takahiko
Endo, and Naoki Miyata, Effects of C60 a fullerene on the activities of glutathione S-transferase
and glutathione-releted enzymes in rodents and human livers, Fullerene Science and Technology,
6(2),213-226(1998).
[6] Naoki Miyata, Yoko Yamakoshi, Hideshi Inoue, Masaki Kojima, Kenji Takahashi, Nobuhisa Iwata,
Mechanistic study of the inhibition of glutathione S-transferase by C60, in " Fullerenes: Recent
Advances in the Chemistry and Physics of Fullerenes and Related Materials, Volume 6", eds K. M. Kadish
and R. S. Ruoff, The Electrochemical Society, Pennington, pp.1227-1235 (1998).
[7] Yoko Yamakoshi, Shoko Sueyoshi, Kiyoshi Fukuhara, Naoki Miyata, Toshiki Masumizu, and Masahiro Kohno,
• OH and O2• - Generation in Aqueous C60 and C70 Solutions by Photoirradiation - An EPR Study, J.
Am. Chem. Soc., 120(47) 12363-12364 (1998).
成果の発表
6.1. 研究発表
[1] A. Sakai, Y. Yamakoshi, and N. Miyata, Visible light irradiation of [60]fullerene causes killing
and
initiation
of
transformation
in
BALB/3T3
cells,
Fullerene
Science
and
Technology,
7(5),743-756(1999).
[2] Yoko Yamakoshi, Shoko Sueyoshi and Naoki Miyata, Biological activity of Photoexcited Fullerene,(in Japanese)Bull.
142
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Natl. Inst. Health Sci., 117, 50-62 (1999).
[3] Naoki Miyata, Yoko Yamakoshi, Shoko Sueyoshi, Toshiki Masumizu, Masahiro Kohno, Akemi Ryu, Kumi Arakane,
Naoki Umezawa, and Tetsuo Nagano, Active Oxygen Species Responsible for the Biological Action of Photoexcited
Fullerenes,(in Japanese)Magnetic Resonance in Medicine, 11, 9-12, (2000).
[3] Ikuo Nakanishi, Yoko Yamakoshi, Kei Ohkubo, Shunsuke Fujita, Mamoru Fujitsuka, Osamu Ito, Shunichi
Fukuzumi and Naoki Miyata, Superoxide Generation in C60-Photosensitized oxidation of NADH and an
Analogue by Oxygen, in " Fullerenes: Recent Advances in the Chemistry and Physics of Fullerenes and
Related Materials, Volume 8", eds K. M. Kadish and R. S. Ruoff, The Electrochemical Society, Pennington,
pp.242-255 (2000).
[4] Naoki Miyata, Yoko Yamakoshi, and Ikuo Nakanishi, Reactive Species responsible for Biological Actions
of Photoexcited Fullerenes, (in Japanese)Yakugaku Zasshi, 120(10) 1007-1016 (2000).
[5] Ikuo Nakanishi, Shunichi Fukuzumi, Toshifumi Konishi, Kei Ohkubo, Mamoru Fujitsuka, Osamu Ito, and Naoki
Miyata,DNA
Cleavage
via
Electron
Transfer
from
NADH
to
Molecular
Oxygen
Photoinduced
by
g-Cyclodextrin-Bicapped C60 "Fullerenes 2001 Volume 11: Electrochemistry and Photochemistry," ed by S.
Fukuzumi, F. D'Souza, and D. M. Guldi, The Electrochemical Society, Pennington, NJ (2001), pp. 138-151.
[6] Ikuo Nakanishi, Shunichi Fukuzumi, Toshifumi Konishi, kei Ohkubo, Mamoru Fujitsuka, Osamu Ito and Naoki Miyata,
DNA
Cleavage
via
Superoxide
Anion
Formed
in
Photoinduced
Electron
Transfer
from
NADH
to
gamma-Cyclodextrin-Bicapped C60 in an Oxygen-Saturated Aqueous Solituion, J. Pys. Chem. 106, 2372-2380
(2002).
6.2. 学会発表(国際学会での発表のみを記載した)
[1] Naoki Miyata, Mechanisms of DNA-damage and Enzyme-inhibition by Fullerenes, Organic Chemistry
Semminor, ETH April 19, 1999, Switzerland
[2] Y. Yamakoshi, S. Sueyoshi, N. Miyata, Reduced oxygen species (superoxide and hydroxyl radical) are
responsible for the biological actions of photoexcited fullerenes, The 195th Electrochemical Society
Meeting, May 2-6, 1999, Seatle, USA.
[3] Y. Yamakoshi, N. Umezawa, T. Nagano, A. Ryu. K. Arakane, T. Masumizu, M. Kohno, S. Sueyoshi, N. Miyata,
Oxyl radicals responsible for DNA cleavage by photoexcited fullerene, Fullerene '99 August 29September 2, 1999, Castera-Verduzan, France
[4] N. Miyata, Y. Yamakoshi, M. Kojima, H. Inoue, K. Takahashi, L. Gan, Inhibitory action of fullerene
derivatives
against
glutatione
S-transferase
Fullerene '99, August 9-September 2, 1999,
Castera-Verduzan, France
[5] N. Miyata, Y. Yamakoshi, Fullerene: A photosensitizer effectively generates oxyl radicals to cause
DNA cleavage, Oxygen '99
Nov. 18-22, 1999, New Orleanse, LA, USA
[6] Miyata, N., Yamakoshi, Y. Photoexcited
fullerene effectively generates oxyl radicals in the
physiological conditions to cause DNA-damages, The 2nd Seminar on Science and Technology : Fullerenes
Jan. 11-12, 2000, Okazaki, Japan.
[7] Inoue, H., Komazawa, Y., Kojima, M., Takahashi, K., Gan, L., Yamakoshi, Y., Miyata, N. How does
fullerene C60 inhibit glutathione S-transferase? The 2nd Seminar on Science and Technology :
Fullerenes , Jan. 11-12, 2000, Okazaki, Japan.
[8] Miyata, N., Yamakoshi, Y., Nakanishi, I., Fukuhara, K., Mechanistic Evidences for the Generation
of Superoxide and Hydroxyl Radical by an Aqueous Fullerene/hv/O2/Reductant System, The 197th Meeting
143
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
of The Electrochemical Society, May 14-18, 2000, Toronto, Canada.
[9] Nakanishi, I., Yamakoshi, Y., Miyata, N., Predominant Generation of Reduced Oxygen Species in the
Photochemical Reaction of C60 with Reductants in
Non-Aqueous Polar Solvents, The 197th Meeting of
The Electrochemical Society, May 14-18, 2000, Toronto, Canada.
[10] Naoki Miyata, Ikuo Nakanishi, Yoko Yamakoshi, Kei Ohkubo, Shunichi Fukuzumi, Direct observation of
the ESR spectrum of superoxide anion in an aqueous C60/PVP/NADH/O2 system under irradiation, 10th
Biennial Meeting of the Society for Free Radical Research International, Oct. 16-20, 2000, Kyoto,
Japan.
[12] Naoki Miyata, Active Oxygen Species Generated from Photoexcited Fullerene in an aqueous media, Footes
Symposium, Pacifichem 2000, Dec. 14-19, 2000, Honolulu, USA.
[13] Ikuo Nakanishi, Yoko Yamakoshi, K. ohkubo, S. Fukuzumi, Naoki Miyata, O2 Generation in
C60-photosensitized Oxidation of NADH and analogs by Oxygen, Pacifichem 2000, Dec. 14-19, 2000,
Honolulu, USA.
[14]
Naoki
Miyata
and
Ikuo
Nakanishi,
Electron
Transfer
from
Photochemically
Reduced
C60
(ganmma-cyclodextrin-bicapped C60) to Molecular Oxygen., The 4th Taiwan-Japan Cooperative Meeting
of Fullerene Science and Technology, Sec. 21-23, 2000, Miaoli, Taiwan.
[15] I. Nakanishi, T. Konishi, K. ohkubo, M. Fujitsuka, O. Ito, S. Fukuzumi, N. Miyata, DNA cleavage via
electron transfer from NADH to molecular Oxygen Photosensitized by gamma-cyclodextrin-bicapped C60
The 199th Meeting of The Electrochemical Society, March 25-30, 2001, Washington D.C., USA.
144
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
2.1. 固相合成法を活用した機能性分子ライブラリー創製に関する研究
2.1.5. 液晶化合物を目指した固相合成反応の開発
京都大学大学院工学研究科材料化学専攻
檜山
要
爲次郎
約
種々のビアリール化合物を、固相担持ハロゲン化アリールと種々のアリールハロシランとのカップリング反応
によって高効率かつ高収率で合成する方法をみつけた。また不斉ヒドロホルミル化反応に有効な
(R,S)-BINAPHOS-Rh 錯体をポリスチレンに担持した固体触媒による無溶媒不斉ヒドロホルミル化を達成し、流通
系反応装置を用いて異なるアルケンを連続的に反応させて種々の光学活性アルデヒドライブラリーの構築を実現
した。
研究目的
液晶化合物にはビアリール構造をコアにもつものが多い。固相ビアリールカップリング反応を開発すれば、多
様な液晶化合物を効率的に合成することができる。本研究では種々の有機金属化合物の中で特に有機ケイ素化合
物を選び、ハロゲン化アリールとの固相クロスカップリング反応によるビアリール化合物のライブラリー構築を
目指した。有機ケイ素化合物は空気中の酸素や水に対して安定で取り扱いが容易であるうえ、カップリング反応
の選択性が高く、他の官能基の保護・脱保護が不要である [1]。
ま た こ れ ま で に キ ラ ル な ホ ス フ ィ ン ホ ス フ ァ イ ト 配 位 子 (R,S)-BINAPHOS を 開 発 し 、 そ の ロ ジ ウ ム 錯 体 ( 以 下
BINAPHOS-Rh と略称)がベンゼン溶液中でオレフィン類の均一系不斉ヒドロホルミル化触媒として極めて有効であること
[2]、さらにこのキラルロジウム触媒をポリスチレンに担持した触媒(以下 PS-BINAPHOS-Rh と略称)を用いても触媒活性
および選択性がほとんど低下せずにヒドロホルミル化が進行することを明らかにしている [3]。PS-BINAPHOS-Rh では錯
体周辺がポリスチレン担体のベンゼン環で覆われているが、これはベンゼン溶媒中と同等の環境と見なせるので、これを用
いれば無溶媒省資源型の高効率不斉触媒反応が可能になると期待した。本研究ではこの PS-BINAPHOS-Rh を用いる
流通系無溶媒不斉ヒドロホルミル化の開発とこれを利用した光学活性アルデヒドライブラリーの構築を目指した。
研究方法と成果
3. 1.固相クロスカップリング反応によるビフェニル骨格の効率的構築法の開発
Advanced Chemtech 社の Wang 樹脂 (1.1 mmol/g, 1% DVB, 100-200 mesh) に 4-ヨード安息香酸を脱水縮合によ
り担持した(1)。ここに、パラジウム触媒(Pd(PPh3)4)およびフッ化物イオン源(Bu4NF)存在下、ハロゲン化ア
リールに対してアリール(シクロヘキシル)ジフルオロシラン 2 5モルを作用させた。THF 中、80 度で 25− 30
時間反応させたのち、得られた resin を TFA で加水分解、または NaOMe/MeOH で加メタノール分解し、ビアリール
カルボン酸またはビアリールエステルを得た。有機ケイ素化合物 2 のシクロへキシル基はカップリング反応に関
145
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
与せず、望みのアリールカップリング体 3 のみが収率よく得られた。実験条件を検討した結果、担体上のハロゲ
ン化アリールに対して有機ケイ素反応剤 10 モルを使用すると、種々の置換基をもつ場合いずれも定量的にクロス
カップリング体が得られた(表1)。電子不足のアリール基をもつ 2g の場合には反応性が低かったが、反応時間
を延長すると収率を向上させることができた。
Table 1. Cross-coupling of aryl(cyclohexyl)(difluoro)silanes with Wang resin-tethered 4-iodobenzoic acid.
O
O
O
1
R
Cy
cat. Pd(PPh3)4
+ F Si
F
TBAF / THF
Cy
=
cyclohexyl
I
2
e: R = o-Me
a: R = p-Bu
m-Me
p-MeO f:
b:
p-F
H
g:
c:
p-Me
d:
TFA
R
O
CH2Cl2 HO
3a-g
entry
silane
eq. silane
eq. TBAF
time/h
% conva (3, %yield)b
1
2a
5
5
30
> 99 (3a, quant.)
2
2b
5
5
30
> 99 (3b, quant.)
3
2c
10
10
48
> 99 (3c, 96)
4
2d
10
10
48
> 99 (3d, 94)
5
2e
10
10
48
> 99 (3e, 93)
6
2f
10
10
48
> 98 (3f, 94)
10
10
48
< 40
10
10
72
> 94 (3g, 91)
7
8
2g
All reactions were run at 80 oC in THF with 5 mol% Pd(PPh3)4. aConversion based on 1H
NMR and HPLC. bIsolated yield based on the incorporation of 4-iodobenzoic acid on the
resin.
146
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
ジフルオロシラン 2 は対応するジクロロシラン 4 の塩素原子をフッ化物イオンで置換して合成している。そこ
で次に、ジクロロシラン 4 を系中でフッ素化し、そのまま次のカップリング反応に用いた。ジフルオロシランの
場合と同様の条件では反応はほとんど進行しなかったが、有機ケイ素化合物中のダミー配位子をシクロへキシル
基からエチル基に代え、また、パラジウム触媒として Pd(OAc)2/P(2-furyl)3、フッ化物イオン源として KF を用い
て DMF 中反応をおこなうことによって、アリールカップリング体 3 を収率よく得た(表 2)。
Table 2. Cross-coupling of aryl(ethyl)(dichloro)silanes with Wang resin-tethered 4-iodobenzoic acid
O
O
O
1
Et
+ Cl Si
Cl
I
4a-g
silane
eq silane
1
4a
3
2
4b
3
R
cat. Pd(OAc)2
/P(2-furyl)3
KF / DMF
TFA
R
O
CH2Cl2 HO
3a-g
product, % conv b
Pd / Fu3 P(mol%)
time / h
15
5
44
3a, 100
3
15
5
44
3b, 83
4b
3
15
10
44
3b, 100
4
4c
3
15
10
44
3c, 83
5
4c
3
15
10
72
3c, 90
6
4d
3
15
10
44
3c, 82
7
4e
3
15
10
44
3e, 82
8
4f
3
15
5
44
3f, 94
9
4g
3
15
10
44
3g, 76
10
4g
5
25
5
44
3g, 91
entry
a All
eq KF
the reactions were carried out with KF (15 eq) in DMF (1 ml), Pd(OAc)2 (5 or 10 mol%) and Fu3P
(5 or 10 mol%) at 120 oC. b Conversion was estimated by 1H NMR of each freed coupled product.
この固相カップリングでは、アリール基として種々の置換基をもつフェニル基に加え、硫黄原子や窒素原子を
含むヘテロアリール基を用いることもできる(表 3、run 1–3)。なお、この反応でフッ化物イオン源として KF に
代えて THF 中で Bu4NF を用いると、アリール基ではなく、通常はカップリングしにくいエチル基が優先してカッ
プリングした(run 4)。
147
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Table 3. Cross-coupling of heteroaryl(ethyl)(dihalo)silanes with Wang resin-tethered 4-iodobenzoic acid
O
+ X2EtSi Ar
O
I
1) Pd cat. F source
80-120 ¡C
2) TFA/CH2 Cl2
O
HO
5 eq.
1
O
or HO
Ar
3
Et
5
Yield (%)
run
X
1
F
Ar
F source
Pd cat. (mol%)
KF 5 eq.
Pd(PPh3)4
3
Cl
N
Me
Cl
48
78 (3)
Pd(OAc)2/P(2-furyl) 3 DMF
72
50 (3)
DMF
84
81 (3)
THF
44
72 (5)
(5)
KF 25 eq.
(10)
KF 25 eq.
PdCl2(PPh3)2
N
4
F
S
(product)
DMF
S
2
solvent Time (h)
(10)
Pd(PPh3)4
Bu4NF 5 eq.
(5)
3.2. PS-BINAPHOS-Rh 触媒を用いるオレフィンのヒドロホルミル化による光学活性アルデヒドの効率的合成法の
開発
ま ずビ ニ ル 基 置 換 (R, S)-BINAPHOS を エチルベン ゼン、 ジ ビニルベン ゼン 共 存下 に重合させたのち、
Rh(acac)(CO)2 と反応させて PS-BINAPHOS-Rh を調製した(スキーム 1)。
148
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Scheme 1
PPh 2
O
O
+
V-65
toluene
80 °C
+
Et
P
Et
O
O
O
V-65 :
Rh(acac)(CO)
(C H3) 2 CHCH2
CH3
C N N
C CH2 CH(CH3 ) 2
CN
CN
0.03
2
Et
O
O
O
PPh 2
P
Rh(acac)
O
O
PPh 2
P
O
0.0075
(PS-BINAPHOS)–Rh
スキーム 1
149
0.53
P
O
CH3
0.44
PPh 2
0.0225
0.44
0.53
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
PS-BINAPHOS-Rh および BINAPHOS-Rh を種々のバッチ式および流通系反応装置を用いた 3,3,3-トリフルオロプロ
ペンのヒドロホルミル化に用いた結果を次に示す(スキーム 2、表 1)。
BINAPHOS-Rh を用いた無溶媒反応では錯体がほとんど溶解せず反応容器の底に付着するため活性が激減するが
(プロセス A)、 PS-BINAPHOS-Rh では良好な活性および選択性を示した(プロセス B)。また
PS-BINAPHOS-Rh
を気相部分に固定して反応を行った場合にも同等の結果が得られた(プロセス C)。これを流通系反応に適用し
たところ、活性の低下が見られたものの高い選択性を示した(プロセス D)。
Scheme 2
+ H2 + CO
F3C
Process A
CHO
Rh cat.
Process B
F3C
+
R
Process C
CHO
Process D
H2/CO
F3C
window
H2/CO
F3C
F3C
CHO
F3C
L*-Rh
H2/CO
H2/CO
F3C
F3C
PS-L*-Rh
F3C
CHO
F3C
CHO
F3C
pressure
regulator
PS-L*-Rh
CHO
F3C
F3C
Table 1
Process A
B
C
D
TOF (h -1)
1.9
156
114
9.0
iso/normal
85/15
%ee of iso
81
91/ 9
93/ 7
96/ 4
88
90
90
スキーム 2、表 1
150
H2/CO
F3C
cold
trap
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
流通系ではスチレンを一定量断続的に6回繰り返してヒドロホルミル化することができる。ここでは蒸気圧の
低いスチレンを効率よく輸送するために補助媒体として超臨界二酸化炭素を共存させた。その結果各ステップで
TOF のバラつきはあるものの毎回ほぼ一定の選択性で光学活性アルデヒドが得られた(スキーム 3、図 1)。
Scheme 3
Ph
/H2/CO
scCO2
95 atm
CO 2
PS-Cat
Rh 80 µmol
H2
+
CO
CHO
pressure
regulator
Ph
Ph
/H2/CO
scCO2
1.0 mL/min
pump
60 °C
0 °C
injection
Ph
One Cycle
0.5 mL
Step 1 Incubation: H 2/CO, total 88 atm, 15 min
Step 2 Reaction: H 2, CO, CO 2 total 88 atm
injection of styrene, 30 min
Step 3 Sweeping: scCO 2 120 atm, 15 min
スキーム 3
151
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Fig. 1
TOF (h-1)
140
120
i/n (%) 100
% ee
TOF
80
iso/normal
60
%ee
40
20
0
1
2
3
4
5
6
cycles
図 1
さらに連続流通系を用いると、オレフィンライブラリーを光学活性アルデヒドライブラリーに変換できる。同
様の形式で毎回異なるオレフィンを導入しても、各ステップにおいて対応する光学活性アルデヒドを他のアルデ
ヒドと混合することなく回収できた(スキーム 4)。
Scheme 4
CHO
CHO
F
9% conv.
i/n =77/23, 70% ee
F
cycle 1
AcO
cycle 2
Bu
cycle 3
cycle 5
CF3(CF2)5
CF3(CF2) 5
AcO
scCO2
36% conv
i/n =81/19, 82% ee
CHO
Bu
Hex
cycle 7
70% conv.
i/n =84/16,23% ee
CHO
PS-Rh Cat
32% conv
i/n =32/68, 61% ee
CHO
cycle 4
CHO
CHO
H2/CO
cycle 6
Hex
65% conv.
i/n =84/16, 57% ee
100% conv.
i/n =22/78,70% ee
CHO
cycle 8
37% conv.
i/n =81/19, 70% ee
152
41% conv.
i/n =72/28,66% ee
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
考
察
以上、Wang 樹脂に 4-ヨード安息香酸を脱水縮合により担持させ、種々のアリールケイ素化合物との固相クロスカップリ
ングによりビアリールエステルの定量的合成に成功した。今後担持する側の官能基について適用範囲の拡大を検討する。
また PS-BINAPHOS-Rh を用いて、流通系無溶媒ヒドロホルミル化による光学活性アルデヒドライブラリーの構築を
実現した。ここではポリスチレン担体のベンゼン環が擬似溶媒として働き、アルケン・一酸化炭素・水素を効率
よくロジウム近傍に取り込むことができたと考えている。一部に活性や選択性の低下が見られるが、現段階では
水素/一酸化炭素の混合ガスの流量の制御ができておらず、その点が影響していると考えている。今後は流通系
反応装置に改良を加え、活性選択性の改善、および連続反応への発展を目指す。
引用文献
[1] T. Hiyama, in “Metal-Catalyzed Cross-Coupling Reactions” ed. by F. Diederich and P. J. Stang,
Wiley-VCH, Weinheim (1998), Chapter 4.
[2] K. Nozaki and T. Hiyama “Enantioselective Hydroformylatlion of Olefins Catalyzed by Rhodium(I)
Complexes of Chiral Phosphine-phosphite Ligands“ Top. in Cat., 4, 175– 185 (1998).
[3] (a) K. Nozaki, Y. Itoi, F. Shibahara, E. Shirakawa, T. Ohta, H. Takaya and T. Hiyama “Asymmetric Hydroformylation
of Olefins in a Highly Cross-Linked Polymer Matrix” J. Am. Chem. Soc., 120, 4051–4052 (1998).
(b) K. Nozaki, F.
Shibahara, Y. Itoi, E. Shirakawa, T. Ohta, H. Takaya and T. Hiyama “Asymmetric Hydroformylation of Olefins in
Highly Crosslinked Polymer Matrixes” Bull. Chem. Soc. Jpn., 72, 1911–1918 (1999).
研究成果の発表
6. 1. 原著論文による発表
[1] F. Homsi, K. Nozaki and T. Hiyama, “Solid-Phase Cross-Coupling Reaction of Aryl(fluoro)silanes with
4-Iodobenzoic acid”, Tetrahedron Lett., 41, 5869– 5872 (2000).
[2] K. Nozaki, F. Shibahara, and T. Hiyama, “Vapor-phase Asymmetric Hydroformylation” , Chem. Lett.,
694, (2000) .
[3] F. Shibahara, K. Nozaki, T. Matsuo and T. Hiyama “Asymmetric Hydroformylation with Highly Crosslinked
Polystyrene-Supported (R,S)-BINAPHOS– Rh(I) Complexes:
The Effect of Immobilization Position”
Bioorg. Med. Chem. Lett. in press
[4] F. Homsi, K. Hosoi, K. Nozaki and T. Hiyama “Solid-Phase Cross-Coupling Reaction of Aryl(halo)silanes
with 4-Iodobenzoic acid” J. Organomet. Chem., 624, 208– 216 (2001).
6. 2. 学会発表
[1] 野崎京子、芝原文利、檜山爲次郎、高分子担持 (R,S)-BINAPHOS– Rh(I) を触媒とする無溶媒系不斉ヒドロ
ホルミル化、日本化学会第 76 春季年会、1999 年 3 月、横浜
[2] 野崎京子、芝原文利、檜山爲次郎、Asymmetric Hydroformylation in Solvent-Free Systems、第 46 回有
機金属討論会、1999 年 9 月、大阪
153
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
[3] Fadi Homsi、野崎京子、檜山爲次郎、Solid Phase Cross-Coupling Reaction of Aryl(fluoro)silanes with
Aryl Iodides、日本化学会第 78 春季年会、2000 年 3 月、千葉
[4] 芝原文利、野崎京子、檜山爲次郎、Solvent Free Systems for Asymmetric Hydroformylation of Olefins
Catalyzed by a Polymer Supported (R,S)-BINAPHOS– Rh Complex、4th International Symposium on SUPPORTED
REAGENTS AND CATALYSTS IN CHEMISTRY, 2000 年 7 月、 University of St Andrews, Scotland, UK
[5] 芝原文利、野崎京子、檜山爲次郎、Asymmetric Hydroformylation of Olefins Using Polymer Supported
Rh– (R,S)-BINAPHOS Complexes、第 47 回有機金属討論会、2000 年 10 月、名古屋
[6] 芝原文利、野崎京子、檜山爲次郎、Vapor-Phase Asymmetric Hydroformylation of Olefins Catalyzed by a
Polymer Supported (R,S)-BINAPHOS-Rh Complex、2000 International Chemical Congress of Pacific Basin
Societies, 2000 年 12 月、Honolulu, Hawaii
[7] 芝原文利、野崎京子、檜山爲次郎、Asymmetric Hydroformylation of Olefins Catalyzed by Polymer-Supported
Rh-(R,S)-BINAPHOS、International Symposium on Catalysis and Fine Chemicals, 2001 年 3 月、東京
[8] 野崎京子、細井和志、Fadi Homsi、檜山爲次郎、アリール(ジクロロ)シランと 4-ヨード安息香酸との固
相クロスカップリング反応、日本化学会第 79 春季年会、2001 年 3 月、神戸
[9] 芝原文利、野崎京子、檜山爲次郎、高分子担持 (R,S)-BINAPHOS– Rh 錯体を用いるオレフィン類の環境調和
型不斉ヒドロホルミル化反応、日本化学会第 80 秋季年会、2001 年 9 月、千葉
[10] 芝原文利、野崎京子、檜山爲次郎、高分子担持 (R,S)-BINAPHOS– Rh 錯体を用いる不斉ヒドロホルミル化
における置換基効果、日本化学会第 81 春季年会、2002 年 3 月、東京
154
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
2.2. 自動合成システムを活用した機能性材料ライブラリー創製に関する研究
2.2.1. 自動合成用戦略的合成反応の開発
分子科学研究所錯体触媒研究部門
魚住
泰広
徳島文理大学薬学部
日置
要
英彰
約
自動合成手法に柔軟に適用可能な汎用性の高い合成手法として,試薬,特に触媒の固定化を中心課題として取り
上げた.中でも高分子固相担持遷移金属錯体触媒(パラジウム,ロジウム錯体)の創製に成果をあげ,これら金
属錯体が触媒する代表的な有機変換工程の固定化触媒による高効率実施を確立した.その際,用いる高分子担体
の物性を利用し両親媒性固定化錯体触媒へと展開することで,触媒工程の完全水系メディア中での実施を可能と
した.このことは合成装置の無人による自動運転の上で,根本原理的な引火性・爆発性の回避を意味しており,
本手法の大きな優位点である.また固相担持酸塩基触媒の創製に関しても両親媒性高分子利用の概念を適用し完
全水系メディア中で機能する塩基触媒結合形成反応開発に成果をあげた.加えて固相合成法を利用して,基質選
択的な化学センサーの開発を目指し,カリックスアレーンを基盤としたホストライブラリーを構築した.構築し
たライブラリーメンバーから,ペプチド誘導体に結合して蛍光スペクトルを大きく変化させる,化学センサーと
なりうる化合物を見いだすことができた.
研究目的
機能性化合物の探索において,短時間で従来の1000〜100000倍近い候補化合物ライブラリーとして利
用する手法の有用性は言を待たない.そのライブラリー調製を古典的な手作業によるフラスコ反応に依存するこ
とは非現実的であり,自ずと自動合成装置でのライブラリー構築が強く望まれている.メイリフィールドによる
ペプチド自動合成手法の開発がタンパク工学の新地平を切り拓いたがごとく,有機合成における汎用手法の自動
化は次世代科学の礎ともなろう.
有機金属化学,特に遷移金属錯体を利用した触媒的有機変換工程は現代有機化学に欠くべからざる手法であると
ともに,グリーンケミストリーへの社会的要請を考慮するならば試薬由来の廃棄物の発生を抑止する触媒工程は
次世代化学工程において必須要件である.すなわち,自動合成に適用可能な汎用性に富む触媒的合成手法の確立
が急務である.さらには,枯渇性資源である石油由来の有機溶剤の使用を回避し,できれば「水」を反応媒体と
する.このことは省資源化とともに,爆発性,引火性を根本原理から回避することに直接繋がる.無人自動での
終夜連続運転はまさに自動合成の大きな利点であるが,そのためには無人運転時の安全確保が重要であり,引火
性,毒性,腐食性のない水は最も安全な反応媒体と考えられる.
また自動合成においては,その後処理の簡便さを考慮し,固相合成手法が優位である.このメリットは先述のメ
155
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
リフィールドのペプチド合成においても既に実証されている.このことから,固相合成手法の導入も考慮される
べきである.
以上まとめると,「固相担持型遷移金属錯体による水中での触媒的分子変換工程」こそが,本課題の到達すべき理
想手法と位置づけることができる.
同時に,その周辺化学として,固相担持酸塩基触媒の開発,化学ライブラリーを利用したセンサーの開発を行な
うことも目的とする.
研究方法・成果
(3).1. 固相担持型遷移金属錯体による水中での触媒的分子変換工程
近年の固相有機合成の著しい発展とともに多様な特性を備えた高分子固相担体が開発され入手容易となっている.
我々はポリスチレン− ポリエチレングリコール共重合高分子レジンの両親媒性に着目し,同レジン上での遷移金
属錯体の調製,固定化を行い,その水中での触媒活性探索から研究をスタートした.
(3).1.1. 両親媒レジン上へのパラジウム− ホスフィン錯体の固定化
上に述べた研究のアウトラインに沿って,図 1 に示した末端にアミノ残基を有するポリスチレン− ポリエチレン
グリコール共重合高分子レジン上に,遷移金属錯体の配位子として最も一般性に富むトリアリールホスフィンを
固定化し,そのホスフィノ基を起点としての遷移金属錯体形成を試みることとした.アミノレジンとホスフィノ
安息香酸を,ペプチド類の固相合成において汎用される縮合条件を用いて反応させ,固定化ホスフィン1を定量
的に得た.1の gel-phase
31
P NMR を観測すると,1は水はもちろん有機溶媒にも不溶であり不均一試料となる
にもかかわらず,その NMR チャートは同様に不均一なポリスチレン担持ホスフィン3よりも,むしろ均一試料で
ある PEG 担持ホスフィン2に類似して鋭い1重線として観測された(図 2).このことは試料全体としては不均一
ではあるものの,観測核種である末端リン官能基はむしろ溶液系に近い運動性を持っていることを示唆しており,
その高い反応性が期待された.実際に1とπ− アリル塩化パラジウムとの反応は極めて円滑に進行し錯体4を与
える.同様の手法で5も調製した(図 3).これら固定化錯体の構造は
どにより確認されている(文献1).
図 1. PS-PEG 担持配位子の調製
156
31
P,
13
C NMR および ICP 発光元素分析な
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 2. 種々のホスフィン配位子のクロロホルム中(C)および水中(W)での 31P NMR の挙動
図 3. 固定化錯体の調製
(3).1.2.. 水中でのアリル位置換反応
調製した固定化錯体4,5を用い,パラジウム錯体触媒の最も代表的な反応の一つであるアリルエステル類のア
リル位求核置換反応を水中で実施した.その結果を 図 4 にまとめる.図示した反応では一般に5と比較して錯体
4の活性が高いことが明らかとなった.4を用いた反応では,かなり広範な適用範囲をもって活性メチレン(あ
るいはメチン)化合物を求核剤とした目的反応は完全水系で進行し,対応するアリル位置換生成物を与えた.さ
157
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
らに有機溶媒中ではその難溶性のために実施が困難なアミノ酸,アジ化ナトリウム,スルフィン酸ナトリウム,
なども水中では効率よく求核剤として働き,対応するアリル位アミン,アジド,スルフォン置換体を高収率で与
えた.また,触媒が固定化されていることの大きな優位性である回収再利用も容易であった(図 5)(文献1,2,
3).
図 4. 固定化触媒による水中アリル位置換反応
図 5. 固定化触媒の回収再利用実験
PS-PEG に担持された錯体触媒4は,PS 担持錯体である Pd/3 に比較して水中での触媒特性に優れていることは
いうまでもない.さらに4は,同様に両親媒性であり,水系で均一な反応混合物を与える Pd/2 との比較におい
ても有意に高い活性を示した.一般に不均一系触媒反応は,反応後の触媒の除去・回収に利点はあるものの,均
一系での同等反応との比較では低い活性を与えることが常である.
反応に供される有機基質は疎水性に富むいわば「油」である.水中において油は容易に均一には溶解せず,おの
ずと疎水性の場であるポリスチレンマトリクス内に拡散していく.このように疎水性に立脚して自発的に構築さ
れた高密度な反応場において,イオン性反応剤(塩基など)と両親媒性ポリエチレングリコール部位を通して接
158
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
触することで水中有機変換が進行すると考えている.すなわち,水,ポリスチレン,ポリエチレングリコール,
有機基質などがおのおのの役割を果たした結果が上述の高い反応性に繋がっているのだろう(図 6).
図 6. 水中触媒機能発現の原理概念図
(3).1.3. 水中での挿入反応
パラジウム触媒の代表的有機変換工程として,一酸化炭素,アルケンなどとアリールハライドとの反応がある.
我々が開発した水中機能性固定化錯体触媒4は水中での一酸化炭素挿入反応を効率よく触媒し,例えばヨードベ
ンゼンを常圧・常温で定量的に安息香酸に変換する(図 7)(文献4).我々はこの手法は 4-Phase Protocol と呼
んでいる.C1試剤である一酸化炭素は気相,基質は有機物,反応メディアは水,そして触媒は固相である.安
息香酸合成反応が進行するとともに生成した酸は塩基性水相に抽出されている.反応後は開放により CO を,濾
過により触媒を除き,水相を酸性にすれば目的安息香酸誘導体が,芳香族置換基によっては固体として析出して
与えられる.完全に有機溶媒ゼロの工程である(図 8).触媒の再利用も容易であり,30回の連続再利用実験に
おいて活性の低下は見られない.
アルケニルハライドへの一酸化炭素挿入反応によるカルボン酸合成およびアリールハライドと不飽和アルケンと
のヘック反応(アルケン挿入)も同様に進行する(図 9).
図 7. 一酸化炭素化反応
159
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 8. 一酸化炭素化反応(回収再利用実験)
図 9. ヘック反応
(3).1.4. 鈴木− 宮浦反応
交差カップリングはすでに述べたアリル位置換反応,挿入反応と並んで低原子価パラジウムが触媒する代表的有
機変換工程である.鈴木− 宮浦反応は,アリールハライドなどとアリールほう酸との間での交差カップリング反
応で,パラジウムによって良く触媒される.図 10 に図示したように,我々の固相担持触媒4はこの変換工程にも
有効に働く(文献5).特にアリルエステル 25 を基質としたアリル位のアリール化反応は従来知られているパラ
ジウム触媒では十分な活性が見られない反応系である(図 11).また熱的な反応条件によって低活性を補おうとし
ても,アリル位エステル基がβ水素脱離をおこして共役ジエン(例えば 25b → 27)となる複反応が優先してし
まい目的物は得られない.すなわち触媒自身の活性向上により室温付近での反応進行を促さなければ実現しえな
い工程である.前述のように我々の固定化錯体触媒4では有機基質が高分子マトリクス内に自発的に集合し高い
反応活性を与える.これにより本変換工程が実現されている.図 12 では反応の立体化学とそこから類推される反
応経路を示している.
160
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 10. 鈴木− 宮浦カップリング
図 11. アリル位交差カップリング反応
図 12. アリル位カップリングの立体化学
(3).2. 固相担持酸塩基触媒
PS-PEG 上への塩基触媒導入を検討した.具体的には両親媒性固相ゲルである PS_PEG 樹脂の末端にハロゲノ基を
有する担体を用意しそこに3級アミン類を反応させる工程を詳細に検討し4級塩の生成調製手法を確立している.
例えば Wang Cl 型の PS-PEG ゲルにトリエチルアミン,トリヘキシルアミン,ビシクロ3級アミン類などをジオ
キサン還留などの熱的条件下で反応させることで目的物を得た.得られた4級アンモニウム塩はマイケル付加や
161
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
アルドール縮合などの基本的塩基触媒有機変換を促進した(文献6).より高度な特化した目的反応を設定し,そ
れに適合するいわゆるテーラーメード試薬を開発する試みは今後の課題である.
(3).3. 有機分子に応答する化学センサーの開発
広範な有機分子に応答する化学センサーの開発を目指し,機能性素子として潜在能力の高いカリックスアレーン
を基盤としたホストライブラリーの構築とその機能評価を行った.はじめに15種類アミノ酸をビルディングブ
ロックとしたライブラリー33 を構築し(図 13),このライブラリーメンバーから,ペプチド誘導体と結合する数
種のホストを見いだすことができた(文献7).次に結合情報を光学的特性に変化させることを目的として,ペプ
チドの N 末端にピレニル基をつなげた,3375 種類からなるライブラリー34 と 35 を合成した.34 あるいは 35 とモ
デルペプチド 36 の結合実験によって見いだされた 34a,35a に 36 を添加すると蛍光スペクトルが大きく変化した
(図 14,15).変化の挙動は異なるものの,両者ともペプチド誘導体の化学センサーとして十分機能することが明
らかとなった.
図 13. カリックス[4]アレーンを基盤としたペプチドライブラリー
162
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 14. 36 の添加による 34a の蛍光スペクトルの変化
図 15. 36 の添加による 35a の蛍光スペクトルの変化
163
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
考
察
ここまで,我々が最近開発した完全水系メディア中でのパラジウム触媒有機変換工程とそれを実現する両親媒性
固相担持遷移金属錯体触媒を中心とし,その周辺化学領域での成果もあわせて紹介した.詳細については末尾に
上げる我々の幾つかの報文とこれら報文内の引用文献を参照されたい.
特に中心課題である「固相担持型遷移金属錯体による水中での触媒的分子変換工程」においては,有機合成化学
において最も汎用されるパラジウム錯体触媒に関してほぼ所期の目的を達成し,自動化に最適の触媒固定化およ
び反応実施を可能とすることができたと考えている.
引用文献
[1]Yasuhiro Uozumi, Hiroshi Danjo, Daiki Tanaka, and Tamio Hayashi
"Allylic Substitution in Water Catalyzed by Amphiphilic Resin-Supported Palladium-Phosphine
Complexes" Tetrahedron, 55, 14341-14352 (1999).
[2]Yasuhiro Uozumi, Hiroshi Danjo, and Tamio Hayashi
"New Amphiphilic Palladium-Phosphine Complexes Bound to Solid Supports: Preparation and Use for
Pd-Catalyzed Allylic Substitution in Aqueous Media"
Tetrahedron Lett., 38, 3557-3560
(1997).
[3]Yasuhiro Uozumi, Hiroshi Danjo, and Tamio Hayashi
"Palladium-Catalyzed Asymmetric Allylic Substitution in Aqueous Media Using
Amphiphilic
Resin-Supported MOP Ligands"Tetrahedron Lett., 39, 8303-8306 (1998).
[4]Yasuhiro Uozumi and Toshihiro Watanabe
"Green Catalysis: Hydroxycarbonylation of Aryl Halides in Water Catalyzed by Amphiphilic
Resin-Supported Palladium-Phosphine Complexes" J. Org. Chem., 64, 6921-6923 (1999).
[5]Yasuhiro Uozumi, Hiroshi Danjo, and Tamio Hayashi
"Cross-Coupling of Aryl Halides and Allyl Acetates with Arylboron Reagents in Water Using an
Amphiphilic Resin-Supported Palladium Catalyst" J. Org. Chem., 64, 3384-3388 (1999).
[6]Kazutaka Shibatomi, Toshiyuki Nakahashi, Yasuhiro Uozumi
"Michael Reactions in Water Using Amphiphilic Resin-Supported Quaternary Ammonium Hydroxides"
Synlett, 11, 1643-1645 (2000).
[7]Hideaki Hioki, Tomoko Yamada, Chikako Fujioka, and Mitsuaki Kodama
"Peptide Library Based on calix[4]arene" Tetrahedron Lett., 40, 6821-6825 (1999).
成果の発表
1
原著論文
164
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Yasuhiro Uozumi, Kazutaka Shibatomi
"Catalytic Asymmetric Allylic Alkylation in Water with a Recyclable Amphiphilic Resin-Supported
P,N-Chelating Palladium Complex"
J. Am. Chem. Soc., 123, 2919-2920 (2001).
Tamio Hayashi, Seiji Hirate, Kenji Kitayama, Hayato Tsuji, Akira Torii, and Yasuhiro Uozumi
"Asymmetric Hydrosilylation of Styrenes Catalyzed by Palladium-MOP Complexes: Ligand Modification and
Mechanistic Studies"
J. Org. Chem., 66, 1441-1449 (2001).
Yasuhiro Uozumi, Kayo Yasoshima, Takamasa Miyachi, Shin-ichi Nagai
"Enantioselective
desymmetrization
of
meso-cyclic
hexahydro-1H-pyrrolo[1,2-c]imidazolones"
anhydrides
catalyzed
by
Tetrahedron Lett., 42, 411-414 (2001).
Yasuhiro Uozumi, Kanako Mizutani, Shin-ichi Nagai
"A parallel preparation of a bicyclic N-chiral amine library and its use for chiral catalyst screening"
Tetrahedron Lett., 42, 407-410 (2001).
Tamio Hayashi, Seiji Hirate, Kenji Kitayama, Hayato Tsuji, Akira Torii, Yasuhiro Uozumi
"Modification of Chiral Monodentate Phosphine (MOP) Ligands for Palladium-Catalyzed Asymmetric
Hydrosilylation of Styrenes"
Chem. Lett., 1272-1273 (2000).
Kazutaka Shibatomi, Toshiyuki Nakahashi, Yasuhiro Uozumi
"Michael Reactions in Water Using Amphiphilic Resin-Supported Quaternary Ammonium Hydroxides"
Synlett, 11, 1643-1645 (2000).
Motoi Kawatsura, Yasuhiro Uozumi, Masamichi Ogasawara, Tamio Hayashi
"Palladium-Catalyzed Asymmetric Reduction of Racemic Allylic Esters with Formic Acid: Effects of
Phosphine Ligands on Isomerization of Ɍ -Allylpalladium Intermediates and Enantioselectivity"
Tetrahedron, 56, 2247-2257 (2000).
Yasuhiro Uozumi, Hiroshi Danjo, Daiki Tanaka, and Tamio Hayashi
"Allylic Substitution in Water Catalyzed by Amphiphilic Resin-Supported Palladium-Phosphine Complexes"
Tetrahedron, 55, 14341-14352 (1999).
Yasuhiro Uozumi and Toshihiro Watanabe
"Green Catalysis: Hydroxycarbonylation of Aryl Halides in Water Catalyzed by Amphiphilic
Resin-Supported Palladium-Phosphine Complexes"
J. Org. Chem., 64, 6921-6923 (1999).
Yasuhiro Uozumi, Hiroshi Danjo, and Tamio Hayashi
"Cross-Coupling of Aryl Halides and Allyl Acetates with Arylboron Reagents in Water Using an Amphiphilic
Resin-Supported Palladium Catalyst"
J. Org. Chem., 64, 3384-3388 (1999).
Yasuhiro Uozumi, Hirokazu Kyota, Kazuhiko Kato, Masamichi Ogasawara, and Tamio Hayashi
"Design and Preparation of 3,3'-Disubstituted Boxax:
Asymmetric Wacker-Type Cyclization"
New Chiral Bis(oxazoline) Ligands for Catalytic
J. Org. Chem., 64, 1620-1625 (1999).
165
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Yasuhiro Uozumi, Hayato Tsuji, and Tamio Hayashi
"Cyclization of Ortho-Allylstyrene via Hydrosilylation:
Mechanistic Aspects of Hydrosilylation of
Strenes Catalyzed by Palladium-Phosphine Complexes"
J. Org. Chem., 63, 6137-6140 (1998).
Yasuhiro Uozumi, Hiroshi Danjo, and Tamio Hayashi
"Palladium-Catalyzed
Asymmetric
Allylic
Substitution
Resin-Supported MOP Ligands"
in
Aqueous
Media
Using
Amphiphilic
Tetrahedron Lett., 39, 8303-8306 (1998).
Motoi Kawatsura, Yasuhiro Uozumi, and Tamio Hayashi
"Regiocontrol in Palladium-Catalysed Allylic Alkylation by Addition of Lithium Iodide"
Chem. Commun., 217-218 (1998).
Tamio Hayashi, Motoi Kawatsura, and Yasuhiro Uozumi
"Retention of Regiochemistry of Allylic Esters in Palladium-Catalyzed Allylic Alkylation in the
Presence of a MOP Ligand"
J. Am. Chem. Soc., 120, 1681-1687 (1998).
Yasuhiro Uozumi, Kazuhiko Kato, and Tamio Hayashi
"Cationic Palladium-boxax Complexes for Catalytic Asymmetric Wacker-Type Cyclization"
J. Org. Chem., 63, 5071-5075 (1998).
Yasuhiro Uozumi, Kazuhiko Kato, and Tamio Hayashi
"Asymmetric aza-Claizen Rearrangement of Allyl Imidates Catalyzed by Homochiral Cationic Palladium(II)
Complexes"
Tetrahedron Asymmetry, 9, 1065-1072 (1998).
Hideaki Hioki, Tomoko Yamada, Chikako Fujioka, and Mitsuaki Kodama
"Peptide Library Based on calix[4]arene"
Tetrahedron Lett., 40, 6821-6825 (1999).
Hideaki Hioki, Rumi Nakaoka, Maruyama Aya and Mitsuaki Kodama
"Palladium-catalyzed Cyanation of Bromocalix[4]arenes at the Upper Rim"
J. Chem. Soc., Perkin Trans., 3265-3268 (2001).
2
総説・成書など
魚住 泰広
ハイスループット合成を目指したパラジウム触媒固相合成
コンビナトリアルサイエンスの新展開 5, 55-72 (2002)
Yasuhiro Uozumi, Tamio Hayashi
Solid-phase Palladium Catalysis for High-throughput Organic Synthesis
Combinatorial Chemistry-A Practical Handbook, Eds. Hanko, R; Gölitz, P; Nicolaou, K. C.
Wiley-VCH, Weinheim, Germany (in press)
166
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
魚住 泰広
科学と工業 75,540-545 (2001)
完全水系メディア中でのパラジウム触媒反応
魚住 泰広
触媒学会 43, 316-320 (2001)
分子性触媒開発へのコンビナトリアル・アプローチ
魚住 泰広
多元的反応圏での分子の能動的挙動に立脚した反応駆動・制御
有機合成化学 59, 434-435
(2001)
魚住 泰広
コンビナトリアル・ケミストリーにおける有機合成化学の役割
季刊 化学総説 47, 219-230 (2000)
魚住 泰広,佃 達哉
化学 56, 68-69 (2000)
金属ナノ粒子の調整と新機能
魚住 泰広
和光純薬時報 68, 6-8 (2000)
両親媒性固相担持パラジウム錯体触媒
魚住 泰広
均一系触媒開発におけるコンビナトリアルケミストリーの展開
化学工業 51, 59-65 (2000)
魚住 泰広, 青木 一真, 新開 一郎, 福山 透
ファルマシア 36, 597-602 (2000)
創薬に活躍する有機金属
魚住 泰広, 水野 哲孝
化学工学 64, 279-280 (2000)
コンビケム手法の触媒開発への応用
魚住泰広
ファインケミカル 28, 39-49 (1999)
触媒開発へのコンビナトリアルアプローチ
Yasuhiro Uozumi, Hiroshi Danjo
固相合成を利用した遷移金属触媒創製への新しいアプローチ
ファルマシア 35, 711-715 (1999)
3
口頭発表
【一般講演】魚住
泰広, M. Mimura, K. Yamasaki
Syn stereochemistry in Wacker-type cyclization catalyzed by a dicationic palladium(II)
complex
【一般講演】魚住
泰広, 柴富
Pacifichem 2000, 2000 年 12 月 15 日(Hawaii,Honolulu)
一孝
167
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Design,
preparation,
and
application
pyrroloimidazole moiety
【一般講演】魚住
of
novel
chiral
phosphine
ligands
bearing
Pacifichem 2000, 2000 年 12 月 15 日(Hawaii,Honolulu)
泰広
両親媒性高分子担持遷移金属錯体触媒による水中有機反応
RITE
平成 13 年度研究成果報告会
2001 年 11 月
【一般講演】水谷佳奈子・永井慎一・魚住泰広
N-キラルビシクロアミン触媒の開発(1)
:コンビナトリアル合成と触媒的不斉アルキル化への適
用
日本薬学会第 119 年会;30[PR]17-072.1999 年 3 月 30 日(徳島).
【一般講演】宮地孝昌・永井慎一・魚住泰広
N-キラルビシクロアミン触媒の開発(2):メソ型環状酸無水物の触媒的不斉モノエステル化
日本薬学会第 119 年会;30[PR]17-073.1999 年 3 月 30 日(徳島).
【一般講演】魚住泰広・檀上博史・林
民生
完全水系メディア中での Pd 触媒反応(1):Pd 触媒アリル位置換反応
日本薬学会第 119 年会;30[PR]17-074.1999 年 3 月 30 日(徳島).
【一般講演】渡部敏裕・魚住泰広
完全水系メディア中での Pd 触媒反応(2):Pd 触媒挿入反応
日本薬学会第 119 年会;30[PR]17-075.1999 年 3 月 30 日(徳島).
【一般講演】田中大喜・檀上博史・魚住泰広
完全水系メディア中での Pd 触媒反応(3):不斉アリル位置換反応"
日本薬学会第 119 年会;30[PR]17-076.1999 年 3 月 30 日(徳島).
【一般講演】魚住泰広,中根
哲,H. P. Nestler,R. Sherlock,R. Liu
軸不斉ホスフィン認識分子へのコンビナトリアル・アプローチ"
8th Conference on Combinatorial Chemistry, Japan1999 年 4 月 27 日(大阪)
【一般講演】柴富 一孝,田中 博隆,魚住 泰広
両親媒性固相担持 Pd 錯体を用いた水中での触媒的不斉アリル位置換反応
日本薬学会
第 27 回
反応と合成の進歩シンポジウム
2001 年 11 月 6 日(仙台),20-04
【一般講演】柴富 一孝, 魚住 泰広
Development of a Novel Chiral Amino-Phosphine Having a Pyrrolo[1,2-c]imidazolone Framework:
Design, Preparation, Immobilization, and Use for Asymmetric Catalysis in Water
13th Conference on Combinatorial Chemistry, Japan, 2001 年 9 月 26 日(川崎),O-1
【一般講演】柴富 一孝,田中 博隆,魚住 泰広
Catalytic
Asymmetric
Allylic
Alkylation
Resin-Supported Palladium Complex
in
Water
with
a
Recyclable
Amphiphilic
第 48 回有機金属討論会 2001 年 9 月 19 日(横浜), B209
【一般講演】魚住 泰広, 柴富 一孝
Catalytic
Asymmetric
Allylic
Alkylation
in
Water
Resin-Supported P,N-Chelating Palladium Complex
18th
with
a
Recyclable
Amphiphilic
ICHC 2001 年 7 月 30 日(横浜), 232
【一般講演】魚住 泰広, 柴富 一孝
Catalytic
Asymmetric
Allylic
Alkylation
in
Water
Resin-Supported P,N-Chelating Palladium Complex
with
a
Recyclable
Amphiphilic
OMCOS 11 2001 年 7 月 23 日(台北), 41
【招待講演】魚住泰広 完全水系メディア中での遷移金属触媒不斉合成反応開発へのコンビナトリアル・アプローチ日本化学会第76春季年
【招待講演】魚住泰広 新しい触媒機能へのへのコンビナトリアル・アプローチ
168
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
触媒学会シンポジウム「ファインケミカルズ合成のための触媒開発」1999 年 5 月 7 日(東京)
【招待講演】魚住泰広コンビナトリアル化学に向けた新しい有機合成
日本化学会CSJ大学院講座
1999 年 6 月 1 日(東京)
【招待講演】魚住泰広 完全水系メディア中での Pd 触媒反応:両親媒性固相担持錯体触媒の開発とその不斉化へのコン
ビナトリアル・アプローチ"
AIST講演会 1999 年 6 月 3 日(筑波)
【招待講演】魚住泰広 新しい触媒機能へのへのコンビナトリアル・アプローチ
東京工業大学フロンティア創造共同研究センターセミナー 1999 年 6 月 4 日(東京)
【招待講演】魚住泰広,"新しい触媒機能へのへのコンビナトリアル・アプローチ
日本化学会東海支部特別講演会 1999 年 6 月 23 日(静岡)
【 招 待 講 演 】 魚 住 泰 広 NOVEL IMMOBILIZED PHOSPHINE-PALLADIUM COMPLEXES FOR ASYMMETRIC CATALYSIS IN
WATER:
IDENTIFIED AND OPTIMIZED FROM PARALLEL SYNTHE TIC LIBRARIES.1999 年 7 月 23 日(米国
パサディナ)
【招待講演】魚住泰広 不斉ワッカー反応 日本化学会第77秋季年会 1999 年 9 月 22 日(札幌)
【招待講演】魚住泰広 新しい触媒機能へのへのコンビナトリアル・アプローチ
日本化学会第77秋季年会 1999 年 9 月 23 日(札幌)
【招待講演】魚住泰広
完全水系メディア中での遷移金属触媒反応
Organometallic Seminar XXI
【招待講演】魚住泰広
1999 年 10 月 15 日(東京)
完全水系メディア中での遷移金属触媒反応
TAKASAGO SYMPOSIUM 2000
【招待講演】魚住泰広
2000 年 5 月 24 日(東京)
完全水系メディア中での遷移金属触媒反応
Banyu 85th Anniversary Symposium
2000 年 6 月 10 日(仙台)
【招待講演】魚住泰広 Water-Based Catalyses by Using of Amphiphilic Resin-Supported Palladium-Phosphine
Complexes
【招待講演】魚住泰広
大阪工研協会 有機合成セミナー. 2000 年 10 月 24 日(大阪)
非有機溶媒中の高効率触媒的不斉合成
先端化学技術部会
【招待講演】魚住泰広
2000 年 11 月 28 日 (東京)
Palladium-catalyzed organic reactions in water by use of PEG-PS resin-supported
palladium-phosphine complexes
【招待講演】魚住泰広
先端化学講演会
Pacifichem 2000, 2000 年 12 月 14 日(Hawaii,Honolulu)
Novel immobilized palladium-phosphine complexes for asymmetric catalysis in water:
Identified and optimized from parallel synthetic libraries
Pacifichem 2000, 2000 年 12 月 15 日(Hawaii,Honolulu)
【招待講演】魚住泰広 多様化・集積化に立脚した新機能触媒開発:水中機能性錯体触媒へのコンビナトリアル・アプロー
チ 日本化学会第 15 回精密重合フォーラム討論会 2001 年 1 月 30 日(東京)
【招待講演】魚住泰広 多様化・集積化に立脚した新機能触媒開発:水中機能性錯体触媒へのコンビナトリアル・アプロー
チ
第5回 創薬ゲノム自動化展 2001 年2月 21 日(東京)
【招待講演】魚住泰広 Palladium Catalysis in Water
分子科学研究所 岡崎 COE シンポジウム 2001 年 10 月 3 日
【招待講演】魚住泰広
完全水系メディア中で機能する高分子担持遷移金属触媒
高分子学会
第 20 回無機高分子研究討論会
2001 年 11 月 15 日(東京)
【一般講演】山田朋子・日置英彰・藤岡智香子・児玉三明
カリックス[4]アレーンを基盤としたライブラリーとオリゴペプチドとのバインディングアッセ
イ
日本薬学会第 119 年会;30[PR]17-074.1999 年 3 月 30 日(徳島)
.
169
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
【一般講演】大西由見子・日置英彰・児玉三明
蛍光発色団を有するカリックス[4]アレーンの合成
日本薬学会第 120 年会;1[PA]17-074.1999 年 3 月 30 日(徳島).
【一般講演】大西由見子・日置英彰・児玉三明
カリックス[4]アレーンを基盤としたペプチドライブラリー
10th Conference on Combinatorial Chemistry, Japan; O-9.2000 年 4 月 25 日(大坂),
【一般講演】大西 由見子・日置 英彰・梨本 恵美・木下 幸紀・鮫島 美穂・児玉 三明
Upper rim を基質結合部位とするカリックス[4]アレーンライブラリーの合成研究
第39回日本薬学会中国四国支部学術大会;28A10-40.2000 年 10 月 28 日(岡山)
.
【一般講演】大西由見子・日置英彰・児玉三明
蛍光ラベル化したペプチドカリックス[4]アレーンライブラリーの合成
日本薬学会第 121 年会;29[PA]I-086.2001 年 3 月 29 日(札幌).
【一般講演】日置英彰
蛍光ラベル化したペプチドカリックス[4]アレーンライブラリーの合成
第 17 回若手化学者のための化学道場;若手講演1.2001 年 7 月 26 日(徳島).
【一般講演】日置英彰・大西由見子・梨本恵美・鮫島美穂・木下幸紀・児玉三明
蛍光ラベル化したペプチドカリックス[4]アレーンライブラリーの合成
第7回機能性ホスト− ゲスト化学研究会サマーセミナー; 2001 年 8 月 4 日(京都).
【一般講演】久保美和・吉田博子・坂東幹彦・日置英彰・児玉三明
ペプチド誘導体に応答する蛍光ラベル化したカリックス[4]アレーンの合成
日本薬学会第 122 年会;6【P】II-023.2002 年 3 月 26 日(千葉)
.
170
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
2.2. 自動合成システムを活用した機能性材料ライブラリー創製に関する研究
2.2.2 自動合成用センサーシステムの開発
東京工業大学大学院情報理工学研究科
清水優史
要
約
自動合成過程の内、分離、分析部の多チャンネル化に適したセンサシステムを開発する事を目的とした。多チ
ャンネル化を安価に実現するには、部品の共有によるシステム化が不可欠である。分離課程で共有が必要な部品
は、光源、駆動源、ポンプなどである。本研究においては、光源と駆動源の共有を目指した。試行錯誤の後、カ
ラムから分離されて出てくる溶質の、UV を使った検出には、円筒状光源とそれを囲むように配置されたガラス管
流路が適している事が明らかになった。ガラス管を使用する事により UV の吸収だけでなく屈折率も同時に計測で
きるシステムが開発できた。
研究目的
多種類の化合物を短時間に合成、分離、分析、評価を行うには、合成から分析までをシステム化することが不
可欠である[1]。システム化の中には自動化と並列化が含まれる。自動化については研究が進み一部使用されるよ
うになってきた。パラレル化も合成過程では行われるようになってきたが、分離、分析過程ではまだ行われてお
らず、ここが全体のシステムのネックになっており、全過程の時間短縮が難しくなっている。そこで、本研究で
は分離過程のパラレル化を目的に設定した。現在市販されている装置を使用してパラレル化すると、非常に高価
な装置になってしまい、現実的でない。現実的なパラレル化を実現するには、部品の共有を念頭においた新しい
システムの開発が必要である。ここでは、カラムによる分離過程に焦点をあて、自動多チャンネル分離システム
に必要な、センサシステムおよびフラクションコレクターを開発した。
研究方法
カラムから出て来る種々の溶液の検出には幾つかの方法がある[2]。その代表的なものは UV 光の吸収率測定で
ある。通常 UV 吸収率の測定に使用するフローセルは、できるだけ溶液屈折率の影響を受けないようにする工夫が
されており、そのために高価なものになている。しかしながら、全ての溶質が UV 吸収率の変化により検出できる
訳ではなく、其の場合には屈折率の変化を利用した検出も行われている。もし、一つのシステムで UV 吸収率と屈
折率の両方が計測できれば、検出できる物質の範囲が広がるので便利である。そこで、本研究では、UV 吸収率も
屈折率も測定できるシステムを考えた。通常のガラス管をフローセルとし、流れと直角に紫外線を当てれば、透
過光は UV 吸収率と屈折率の両方の影響を受けることから、この形式を採用する事とした。研究の初年度に行った
調査研究から、図 1 に示すような、円筒状の光源とそれを取り囲むように配置されたガラス管流路と光センサ、
の形式が有効であることが明らかになった。そこで、本システムの最適なパラメータ条件を明らかにするため、
171
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
一つのユニットによる実験とシミュレーションによる解析を行った。
図1
1 ユニットでの実験装置を図 2 に示す。紫外線光源は Spectronics 社製の 11SC-1、センサは紫外線のみ透過す
るフィルタが付けられた GaAsP(浜松ホトニクス G5842)で、大きさは 4x4x1.5mm、但し受光部は中心の 0.8x0.8mm
である。ガラス管流路の光源と反対側の空間における光度分布は、ガラス管内の液体の屈折率、UV 吸収係数の他
に、光源・ガラス管距離 Ls、ガラス管太さ D、ガラス管肉圧 h、ガラス管屈折率、などに影響される。本実験では、
ガラス管は市販のパイレックス管を使用することとし、Ls, D を変化させた時の、光源中央平面上での光度分布を
計測した。空間光度分布は、ガラス管流路に各種の流体を入れ、その都度 x、y テーブルに取り付けた光センサを
トラバースさせて計測した。光度および x、y、の値は計算機に取り込みデータ処理した。これらの結果を元に、
最適なガラス管と光源の配置条件、ガラス管流路内液体の屈折率、UV 光吸収率を計測する最適な方法を考案した。
さらに、このセンサシステムを使用して 10 チャンネルのカラム回路を形成したときを想定し、駆動用モータを
共通にした 10 チャンネルフラクションコレクタを設計し、一チャンネル分を試作した。本装置では省エネルギー
172
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
も考慮し、10 チャンネルのノズルを 1 つのモータで駆動するものとした。
図2
研究成果
(a)
UV 吸収率、屈折率計測センサシステム
図 3 にシミュレーションから得られたガラス管後方の光強度分布を 3 次元表示で示す。ガラス管後方光強度分
布は、レンズ後方のそれと似ている事が知られる。図 4(a)に Ls を一定にして D を変化させた時の x 軸上の光度分
布計測結果を示す。光度分布の最大値が見かけの焦点である。同図(b)には、y 軸方向の分布を示すが、焦点では
中心強度が強いが横への広がりは狭く、この前後では中心強度は減少し横への広がりが増大する。実験結果から、
ガラス管が細くなる程焦点位置はガラス管に近付くとともに、光強度は小さくなることが知られた。
D を一定に保ち Ls を変化させた時の光強度分布結果からは、Ls が大きくなると光強度は減少するが、焦点位置
は Ls が非常に小さい場合を除き、あまり変化しないことが知られた。
図 3. ガラス管後方空間での光強度分布シミュレーション結果
173
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 4. ガラス管外径を変化させた時の光強度分布
(a) x 軸上の分布, (b) x=5mm での y 方向分布
d=3 4 6 d = 3 6
x y (a) (b)
以上の結果からはガラス管の径は太いほうが、光量も大きく広い範囲にわたり、受光素子の設置などから考え
ると望ましいことが明らかになった。しかし、カラム出口に付けられる流路は、溶質の拡散を防ぐためにはでき
るだけ短いことが望ましい。また其の太さも流れの乱れ発生を防ぐためにできるだけ一様であることが臨まれる。
カラムとセンサは内径 1.9mm のテフロンチューブで接続することを考慮すると、ガラス管も内径 1.9mm のものが
理想的である。しかし、此の太さでは、光学的には大変条件が悪くなる。そこで、市販品として手に入れられる
外径 4mm、内径 2.3mm のガラス管を使用する事とした。
此の太さのガラス管では光量を上げるため Ls を小さくしようとすると光量分布に及ぼす屈折率の影響が複雑に
なる事が知られたので、Ls は 25mm を選択した。この条件で、屈折率の異なる液体をガラス管の中に入れた時の、
x 軸上の光強度分布と y 軸に沿った分布の結果を図 5(a)(b)に示す。液体の屈折率により分布形状が大幅に変化し
ていることが知られるであろう。しかし、振幅の変化は UV 吸収率の変化によっても生じるから、屈折率の変化と
吸収率の変化を分けて測るには分布形状の計測が必要となる。分布形状は x 軸上と x 軸から 2mm 離れた位置に受
光センサを置き、計測することにより求める事とした。
174
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 5(a)(b)
実験から得られた、X=5mm での2つのセンサの出力比および y=0 のセンサ出力と屈折率の関係を図 6 に示す。ど
ちらの出力も屈折率により変化しているが、y=0 のセンサ出力は uv 吸収率にも影響を受ける。一方2つのセンサ
の比は吸収率の影響を受けない事も確認された。屈折率が高くなると感度が落ちるのが見られるが、測定位置 x
175
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
を短くすれば、屈折率の高い所での感度はあげる事ができる。しかし、此の対策を取ると屈折率の低い所での感
度は低下する。
UV 吸収係数は一つのセンサの振幅変化により計測できる。図 7 に計測結果の一例を示す。計測条件は、溶媒、
ヘキサン 99%、酢酸エチル 1%、溶質、ヨードベンゼン 30mg/1ml である。上図が市販されている UV 吸収係数測
定機の出力、下が本研究で製作されたセンサの出力である。時間遅れはセンサの設定位置の間隔に対応している。
図6
176
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図7
(b)10 チャンエルフラクションコレクタの試作
図 8 に、試作した 10 チャンネルフラクションコレクタ(FC)の外観図および試験管配列を示す。1 チャンネル
あたり 100 本の試験管を 20 本 x5 列の形に並べた試験管ラックが横にふた組、縦に 5 組み並べてある。このよう
に配置する事により FC の占有面積を 450x300mm と小さくする事ができる。
試験管への溶液の供給は図 9 右図に見られるように 5 本のノズルとバルブを載せた腕の移動により行われる。
一列内の移動は腕の移動により、列が変わる時はノズルの切り替えにより対応する。腕の移動は左図に見るよう
に、2つのクラッチと常に同じ方向に回転するラダ− チェーンにより行われる。上クラッチを閉じると腕は右に
移動し、下クラッチを閉じると腕は左に移動する。このラダ− チェーンとクラッチシステムは全てのチャンネル
に付いているが、全てのチェーンは一つのモータにより駆動される。試験管の検出は試験管ラックに開けられて
いる穴に、腕に付けられたピンが落ち込む事により行われる。このような機構を使用する事により安価な 10chFC
が製作可能である。
177
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図8
図9
考
2-
察
分離システムを多チャンネル化するための安価なセンサシステムとして、UV 吸収率、屈折率が同時に計測
できるものを開発する事ができた。しかし、実用化の為には、さらに幾つかの問題点を解決する必要が有る。
それをは、
◎
溶媒を幾つか使用する場合、UV 吸収率、屈折率ともに連続的に変化し、その値は溶質に依存するもの
より大変大きいことが考えられるが、これをどのように消去するか。
◎
市販のガラス管の壁厚は均一でなく、眞円でもない。また、光源も 360 度均一に光を出す訳では無い。
従って、光源、ガラス管、受光素子を取り付けた後で、1チャンネルづつ校正する必要が有る。この
作業をいかにこなすか今後の問題である。
◎
10 チャンネルのシステムを動かすには、故障対策を含め、計算機の支援が不可欠である。今後ソフト
178
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
の開発が必要である。
3-
フラクションコレクターも 1 チャンネルの試作は行なえた。このシステムはあまり問題は無いように思える
が、計算機支援とソフトの開発が欠かせない。今後の問題である。
引用文献
(1) 菅原徹、David. G. Cork, 有機合成化学協会誌、55、51997、466/473
(2) 日本分析化学会間等支部、高速液体クロマグラフィーハンドブック、丸善、2000
成果の発表
現在準備中。これまでは発表はしていない。
179
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2. ケミカルライブラリー創製技術に関する研究
2.2. 自動合成システムを活用した機能性材料ライブラリー創製に関する研究
2.2.3. 自動合成装置システム化を目指した装置の改良・改善
京都大学大学院工学研究科
吉田
要
潤一
約
機能性材料ライブラリー創製の基盤技術ための合成装置をシステム化・自動化をめざし研究を行った。具体的
には、1.バッチ型自動合成装置の改良改善、2.フロー型自動合成システムの開発、3.機能性材料の迅速評
価法についての研究、を中心に研究を行い、とくに固相合成に用いるフラグラメント合成のための液相合自動合
成装置と液晶機能性材料の候補化合物の評価装置評価を迅速に行えるシステムが構築できた。
研究目的
本研究の目的は、個々の合成装置をシステム化して自動化することにより機能性材料ライブラリー創製の基盤
技術を確立することである。すなわち、固相合成装置、固相合成に用いるフラグラメント合成のための液相合成
装置、自動合成装置で合成した化合物の機能性材料としての評価装置などをシステム化し、数多くの機能性材料
の候補化合物の合成と評価を迅速に行えるシステムの構築を目的とする。
研究方法
本研究では以下の3つの項目に集約して研究を行った。
1. バッチ型自動合成装置の改良改善
バッチ型自動合成装置は昨今では市販のものも多数あり、かなり信頼性の高いものも出現しているが、有機溶
媒を扱う合成化学へ適用する場合、分注操作時における液もれや反応槽の温度制御や撹拌の問題などまだまだ改
良すべき点が多い。これらの問題についてハードウェアと制御系の両面から装置の改良改善を行う。
2. フロー型自動合成システムの開発
従来のコンビナトリアルケミストリーではバッチ型の自動合成装置が用いられてきたが、評価系などと組み合
わせたシステム化が容易なフロー型自動合成装置の開発も重要である。われわれはこのフロー系に電気化学的な
レドックスシステムを組み込むことで、新しいフロー型自動合成システムの開発をめざす。
3. 機能性材料の迅速評価法についての研究
機能性材料の迅速な評価を行うための評価系の構築も重要である。そのために、いくつかの液晶材料の機能性
材料の候補についてその迅速評価系の構築を行う。具体的な手法としては動的偏光顕微鏡観察と液晶の光散乱法
を応用した評価システムを構築する。
180
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
これら3つの基本テーマを図 1 に示すように結びつけ、機能性材料ライブラリー創製の基本技術確立をめざす。
バッチ型自動合成装置
評価系装置
自動合成装置の改良・改善
機能性材料
システム化
フロー型自動合成装置
基質
個々の合成装置をシステム化して
自動化することにより機能性材料
ライブラリー創製の基盤技術を確
立する
コンピュータ制御
反応曹
試薬A
装置の開発
反応曹
反応曹
試薬B
反応曹
試薬C
試薬D
図 1. 本研究の概要
研究成果
1. バッチ型自動合成装置の改良改善
分注操作は自動合成装置の中核部をしめるが、合成化学で汎用される有機溶媒を扱う場合には、その粘性の低さ
や蒸気圧の高さなどから液もれなどの単純なトラブルがしばしば問題点となる。また、反応槽についても温度制
御や撹拌の問題などまだまだ改良すべき点が多い。また、固相合成反応を用いたライブラリーの構築を行うため
には、基質や反応剤の多様性が重要となるが、市販の化合物だけでは必要な種類・多様性を満足させることはで
きない。そのため、これらは従来通りの液相反応で、「手作り(合成)」され供給されることが多い。一般に液相
反応の自動化は固相反応の自動化に比較して著しく遅れており、その自動化が強く望まれている。
われわれは、汎用型自動合成装置をベースとし、分注部および反応槽の改良・改善を行った。自動シリンジを用
いて基質や反応剤などの溶液を反応槽に加える分注操作や反応温度の制御や撹拌などの問題についての種々検討
行い、装置の改良・改善を行った。その結果、蒸気圧の高い(揮発性の高い)有機溶媒を正確に分注するために
基質や反応剤などの溶液の入ったリザーバー自体を冷却することで分注精度の向上を行うことができた。
一方、当研究室では最近、低温電解装置を用いて有機化合物を電解酸化することで発生させた炭素カチオン種の
「プール」に炭素求核剤を作用させることで、炭素-炭素結合を生成させる新しい方法論「カチオンプール法」
開発した(図 2)[1-5]。
C
C
電解酸化
CH
CH
CH
低温
C
C
C
C
C
C
C
C
C
低温
”カチオンプール”
図 2. カチオンプール法
181
C
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
例えば、窒素を含む化合物であるカルバメート類を-72 ℃で低温電解酸化することにより発生・蓄積させた「イ
ミニウムイオンのプール」に対して炭素求核剤を反応させることで、炭素-炭素結合を効率よく起こすことができ
る(図 3)。
炭素求核剤 (Nu
R2
R1
N
R2
電解酸化
R1
o
-72 C
CO2Me
)
R2
R2
R1
N
R1
N
低温
Nu
CO2Me
CO2Me
CO2Me
N
" イミニウムカチオンプール"
図 3. イミニウムカチオンのプールを用いた新規な炭素-炭素結合形成反応
われわれは、このようにして生成したカチオンのプールを図 4 の概念図に示すように自動合成装置を用いて分割
し、それぞれの画分に異なる求核剤を加えれば、液相パラレル合成が可能になるのではないかとなると考え、低
温電解で発生させた「イミニウムカチオンのプール」を利用して実際の反応を試みた。改良した自動合成装置(図
5 および 6)を用いてピロリジンのカルバメートより発生させた「イミニウムイオンのプール」を自動分注した後、
これに5種類の異なる炭素求核剤を同様に自動分注操作で加えると、炭素求核剤が効率的に付加し、ピロリジン
アルカロイドのパラレル自動合成を行うことに成功した(図 7)。収率はマニュアル操作で行った合成反応と遜色
のないものであり、本改良自動合成装置がカチオンプール法を自動化するための装置として十分であることを示
した。この「イミニウムイオンのプール」は非常に反応性に富み、各種求核剤と容易に反応するものの、室温に
まで温度を上げると短時間で分解してしまうので、溶液を 0 ℃程度まで冷却保存し、自動合成装置ですばやく分
注することが本法成功の鍵となった。その点においても、本研究課題である装置の改良が必要不可欠であること
は特筆すべき事項である。
S
S
+
S
+
+
S S + S
低温電解
S
S
S
S
1
2
Nu
1
S
Nu2
Nu3
Nu
Nu
+
S
S
5
4
Nu
+
S
Nu
S: 反応基質
Nu: 求核剤
3
Nu
+
S
S
+
+
+
S
S
Nu4
S
S
Nu5
図 4. カチオンプール法による液相パラレル合成の概念図
182
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 5. 汎用型液相自動合成装置を改良したもの
図 6. カチオンプール用液相自動合成装置(低温反応槽部)
-2e
N
o
-72 C
CO2Me
+
N
CO2Me
分割
OSiMe3
SiMe3
SiMe3
SiMe3
OAc
+
N
+
N
+
N
+
N
+
N
CO2Me
CO2Me
CO2Me
CO2Me
CO2Me
O
N
CO2Me
N
CO2Me
84%
(82)
93%
(84)
N
CO2Me
94%
(87)
N
CO2Me
49%
(84)
O
N
CO2Me
72%
(88)
*括弧内の収率はマニュアル操作によるもの
図 7. 自動合成装置を用いたピロリジンアルカロイドの液相パラレル合成
2. フロー型自動合成システムの開発
従来の液相合成には上記のようなバッチ型の自動合成装置が用いられてきたが、評価系などと組み合わせたシス
テム化が容易な、フロー型自動合成システムの開発も重要である。われわれはこのフロー系に電気化学的なレド
ックスシステムを組み込むことで、新しいフロー型自動合成システムの開発をめざした。
本研究では前記のカチオンプール法をフロー系へと展開することで、レドックスシステムをベースとした、新し
いフロー型自動合成システムができるのではないかと考えた。すなわち、フロー型マイクロ電解セルを用いて電
解酸化反応を行い、フローラインで生成したカチオンをすぐさま炭素求核剤との反応に用いようとする試みであ
る(カチオンフロー法)(図 8)[6]。この方法では、カチオンがセル内に滞留している時間が短いので、より不
183
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
安定なカチオンを生じる場合でも反応が可能になると考えられる。さらに、フロー系であることの特性を生かし、
複数の基質と複数の求核剤との組み合わせにより多種の生成物を一挙に得る液相コンビナトリアル合成を効率的
に行うことが可能になるはずである。
C
C H
C
フロー型
マイクロ
低温
電解セル
C
C
図 8. カチオンフロー法
カチオンフロー法の実現のためのシステムの概略を示す(図 9)。ここでは、基質にピロリジンのカルバメートを、
求核剤にアリルトリメチルシランを用いた例を示す。中央部のフロー型マイクロ低温電解セルの陽極側にピロリ
ジンのカルバメートを導入し、陽極酸化することで炭素カチオンを発生させる。この際,発生したカチオンが分
解しないように、セル全体を-72 ℃の低温バスに浸して電解を行い、また、発生したカチオンが陰極還元を受
けないように隔膜を使用する。支持電解質にはカチオンプール法で良好な結果を与えたテトラブチルアンモニウ
ムテトラフルオロボレートを用い、溶媒としてジクロロメタンを用いる。陰極側には還元されるものとして、プ
ロトン源としてのトリフルオロメタンスルホン酸を導入し、陰極還元により水素を発生させる。電解セルの陽極
部から出てきたカチオンに対しアリルトリメチルシランをすぐに作用させ、アリル化生成物を得ようというもの
である。
TfOH
Bu4NBF4/CH2Cl2
フロー型マイクロ低温電解セル
回収
陰極
隔膜
N
CO2Me
陽極
N
CO2Me
Bu4NBF4/CH2Cl2
N
CO2Me
SiMe3
図 9. カチオンフロー法のシステム概略
本システムの心臓部であるフロー型マイクロ低温電解セルは我々独自で設計・開発した(図 10)。図 10(左)の
セルの左側が陰極室、右側が陽極室であり、溶液は矢印のように両方の室に入り、出ていく構造となっている。
セル全体と電解部(図 10(右)の中央の黒い部分:大きさ7mm x 7 mm x 5 mm)を小型化することで、本反応の
鍵となる非常に効率のよい冷却が可能となっている。
フローシステムの構築には隔膜の種類、陰極の Pt 電極の形状、電気量、溶液の流速、基質濃度など様々なファク
ターをチューニングする必要があったが、基質にピロリジンのカルバメートを、求核剤にアリルトリメチルシラ
ンを用いてそれぞれの条件設定を変えて実験を行ったところ、最もよい条件が図 11 の四角で囲んだ条件であった。
184
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
直径10 µmの炭素繊維を
編み上げたもの
+
-
+
拡大
隔膜
mm
図 10. フロー型マイクロ低温電解セル:左)全体図、中央)セルの内部、右)拡大図
隔膜の種類
イオン交換樹脂膜
ポリエチレン膜
PTFE膜
陰極のPt電極の形状
Pt線コイル
電気量
2.5 F/mol
5 F/mol
10 F/mol
溶液の流速
2.1 ml/hr
3.0 ml/hr
6.0 ml/hr
基質濃度
0.0125 M
Pt板
0.025 M
Ptメッシュ
0.05 M
図 11. 反応条件のチューニング
次に上記条件にしたがい、カチオンフロー法を用いた酸化的炭素-炭素形成を行った。炭素求核剤としてアリル
トリメチルシラン、5 員環や 6 員環のアリルシラン、アセトンのエノールアセテートやアセトンのエノールシリル
エーテルを用いた場合も良好な収率で目的生成物が得られた。また、基質としてはピペリジンやジエチルアミン
のカルバメートやイソキノリンのカルバメートを用いた場合にも、各種炭素求核剤と収率良く反応が進行した。
カチオンフロー法ではフローラインから次々と反応活性な炭素カチオンを供給することができるため、シリアル
(連続的)なコンビナトリアル合成が可能となる。つまり、フローラインで複数のカチオン前駆体と複数の求核
剤を組み合わせた反応を連続的に行うことで、多種の生成物を一挙に得る液相コンビナトリアル合成を効率的に
行うことが可能になるはずである。たとえば、一つめのカチオン前駆体 S1 をマイクロフロー電解セルを用いて電
解酸化し、発生したカチオンと一つめの求核剤 Nu1 を反応させ、生成物 S1-Nu1 を得る。次にこのカチオンと二つ
めの求核剤 Nu2 とを反応させ S1-Nu2 を得る。このことを n 種類の求核剤に行うことで n 種類の生成物が得られて
くる。さらに、同様に別のカチオン前駆体 S2 に対して Nu1、Nu2、Nu3.
..の求核剤を作用させることで、上とは異
なる n 種類の生成物が得られてくる。これを繰り返すことによって、m 種類のカチオン前駆体と n 種類の求核剤を
シリアルに反応させ、m X n 種類の生成物を得ることができるはずである(図 12)。
185
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
-e
S1
マイクロフロー
電解セル
S2
S1
Nu1
Nu2
S1
Nu2
Nu3
S1
Nu3
Nu1
S1
S3
マイクロフロー
電解セル
S2
....
....
....
-e
S1
Nu1
S2
Nu2
S3
Nu1
S2
Nu2
S2
Nu3
....
....
....
Nu3
S2
-e
S1
マイクロフロー
電解セル
S2
Nu1
S3
Nu2
S3
Nu1
S3
Nu2
S3
Nu3
....
....
....
Nu3
S3
S カチオン前駆体(反応基質)
Nu 求核剤
S 炭素カチオン
図 12. カチオンフロー法による液相シリアル合成の概念図
SiMe3
-e
conversion
selectitivy
65%
82%
N
CO2Me
71%
86%
N
CO2Me
73%
86%
67%
81%
62%
85%
60%
65%
N
CO2Me
76%
84%
N
CO2Me
67%
67%
N
CO2Me
72%
86%
N
CO2Me
SiMe3
N
CO2Me
マイクロ
フロー
電解セル
N
CO2Me
SiMe3
SiMe3
-e
N
CO2Me
マイクロ
フロー
電解セル
N
CO2Me
SiMe3
N
CO2Me
N
CO2Me
SiMe3
N
CO2Me
SiMe3
-e
N
CO2Me
マイクロ
フロー
電解セル
SiMe3
N
CO2Me
SiMe3
図 13. カチオンフロー法を用いたピロリジンアルカロイドの液相シリアル合成
実際 3 種類のカチオン前駆体(ピロリジン、ピペリジン、ジエチルアミンのカルバメート)と 3 種類の求核剤(直
鎖、五員環、六員環のアリルシラン)を用いてシリアルコンビナトリアル合成を試みたところ、3 X 3 = 9 種類の
生成物を得ることに成功した(図 13)(Selectivity は「収率」割る「Conversion」で求められる値のことで、基
質がどの程度の割合で選択的に生成物になったかを示すものである。フローシステムを用いた反応ではこの値を
向上させることも重要なことである)
。この際、マイクロフロー電解セルは解体洗浄することなく連続的に使用す
ることができる。
液相パラレル合成は、コンビナトリアル化学において非常に重要な方法であるが、これをシリアルに行うこと
ができればより効率的である。今回、フロー系の特徴とカチオンフロー法で発生することのできる炭素カチオン
の高い反応活性を利用することで、シリアルコンビナトリアル合成が可能となった。本手法は、より短寿命な反
応活性種へと展開可能であり、液相コンビナトリアル合成における強力な手段となりうるものと考えている。
186
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
なお、この他に液相自動合成に不可欠な汎用的分離法として多機能フェイズタグ[7-9]の開発も行い、自動合
成装置への適用を行うべく検討をおこなっている。
3. 機能性材料の迅速評価法についての研究
現在、創薬の分野などで広く用いられているコンビナトリアル合成は多くの新規化合物を迅速に合成し、リード
化合物を効率良く探索する方法として定着している[10]。本研究では、液晶の分野にコンビナトリアル合成を導
入する時に、いかにして多くの化合物の性質を迅速に評価するかが大きな課題となるので、その物性評価システ
ムを構築することを目的にしている。
液晶物質の熱物性を評価する手段としては一般に、示差走査熱量計 (DSC) による熱量測定や偏光顕微鏡による組
織観察などが用いられている。しかし、DSC の場合、バッチ処理システムへ発展させるには困難が予想される。
ここでは、動的偏光顕微鏡観察と液晶の光散乱現象を利用して迅速に液晶性を評価するシステムを構築する。
前者の動的偏光顕微鏡観察では、従来の顕微鏡観察で用いられている昇温速度を速くし、相変化を CCD カメラで
測定して、短時間で中間相の有無を評価する方法である。一方、後者の光散乱現象を利用する方法では、分子集
団が流動的な運動をするため、液晶相では高い誘電率揺らぎを呈し、そのため液体状態に比べて大きな光散乱を
示すことを利用する。
既に、光散乱の原理を用いた液晶性の評価方法として、光子計数法を用いた散乱光解析[11-13]や熱-光分析法
(TOA)[14-17]が知られているが、これらの方法では、⑴ 測定に時間がかかる。⑵ 装置が複雑である。など、コ
ンビナトリアル合成システムに導入することを考慮した場合に問題となる点を抱えている。したがって、これら
の評価方法の利点を生かしながら、さらにコンパクトなシステムを構築することを目標とした。ここでは、光源
に小型の He-Ne レーザーを用い、試料を透過したレーザー光強度を小型のフォトダイオードで検出するシンプル
なシステムを用いた。システムの性能を確かめるために、既知試料の相変化を測定した結果とコンビナトリアル
合成で得られた新規トロポノイド化合物の測定結果について示すが、液晶、非液晶物質に対して非常に再現性良
く相変化を検出することができた。以下に、動的偏光顕微鏡観察と光散乱法を用いた液晶評価法について述べる。
3.1. 動的偏光顕微鏡観察による液晶評価法
3.1.1. 装置
オリンパス製偏光顕微鏡 model BHSP BH-2 に、Linkam 製ホットステージ TH-600RMS を取りつけ、標準物質
(Diphenyldiazene、 Azo、 mp 69 °C、N-phenylacetoamide、 mp 115 °C) を用いて温度を補正した。測定データは
CCD カメラ(JHT-9720、41 万画素) でパーソナルコンピュータ(Apple Power Macintosh 7600、画像取り込み用
ソフト:Apple ビデオプレーヤー) に取り込んだ。図 14 に評価システムを示し、図 15 には評価に用いた化合物
[18]を示す。
図 14. 動的偏光顕微鏡観察による評価システム
187
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
O
C4H9
C8H17O
O
N
OC9H19
OC5H11
LC 1
Cr · 58.0 · SC · 64.0 · SA · 66.0 · N · 85.0 · Iso
LC 5
Cr · 50.0 · SG · 67.0 · SF · 69.5 · SA · 82.0 · Iso
O
C4H9O
Azo Cr · 69.0 · Iso
N N
OH
LC 2 Cr · 147.5 · N · 161.0 · Iso
OC4H9
NC
OC4H9
OCnH2n+1
C4H9O
LC 3
LC 4
LC 6
n=4
n=6
n=8
Cr · 78.0 (· N · 75.5) · Iso
Cr · 57.0 · N · 75.5 · Iso
Cr · 54.5 · SA · 67.0 · N · 80.0 · Iso
C5H11O
Tr 1
Cr · 190 · Iso
O
O
O
NH2
LC 7
Cr · 89.0 · Dho · 146.0 · Iso
C4H9O
OC4H9
OC4H9
C8H17O
O
O
O
NH
O
Tr 2
Cr · 121 · SC · 190 · N · 207 · Iso
OC12H25
図 15. 評価に用いた化合物の構造と転移温度
3.1.2. 結果
LC 1 を 35 °C から 95 °C まで昇温速度 20 °C/min で加熱し、動画撮影条件 600 枚/分(30 KB/枚)で撮影した動画
撮影画像(3600 枚)のうち 8 枚を、図 16 に示す。図 16 の写真 b)と c)にスメクチック C (SC) 相に起因するシュ
リーレン組織、写真 d)にスメクチック A (SA) 相由来の扇(ファン)状組織、写真 e)から g)にネマチック (N) 相
に起因する斑状(マーブル状)組織が観測された。撮影時間は僅か3分であり、従来の液晶相判定の時間を大幅
に短縮することができた。また、3分間の撮影画像を保存するために必要な容量は、約 100 MB(フロッピー約 80
枚分)であったが、大容量の記憶媒体 (ZIP、 MO、 CD-R、 DVD) が開発された現在では問題ではない。
LC 2 を同様の方法で撮影したところ、図 17 の写真 b)に N 相に起因するシュリーレン模様が観測され、161 °C で
等方性液体になった。
以上の結果から、液晶分子を動的偏光顕微鏡を用いて観察組織を撮影することは、短時間の測定で、個人差のな
い正確な観察を可能とした。今後は、解像度の向上 (CCD 画素数の向上) と画像取り込み技術を改良することによ
り、液晶相判定の詳細な情報を得ることができるであろう。
図 16. LC1 の偏光顕微鏡写真
188
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 17. LC2 の偏光顕微鏡写真
3.2. 光散乱法を応用した液晶材料評価システムの構築[19]
3.2.1. 光散乱測定装置
図 18 に光散乱法を用いた相転移温度評価システムの概略を示す。光源には He-Ne レーザー (Melles Griot LHP-111、
632.8 nm、 1 mJ) を用い、アパーチャーによりビーム径を 1 mm に調節した。試料はスライドグラスに挟み、偏
光顕微鏡用のホットステージ (Linkam TH-600RMS) に設置した。試料厚みは約 0.1 mm である。今回の測定では、
昇温、降温速度を 10 °C/min に設定した。試料を透過したレーザー光を高速 PIN フォトダイオード (Hamamatsu
S1722-02) で検出した。信号はロックインアンプで積算および増幅を行い、A/D コンバータを経由してパーソナル
コンピュータに取り込んだ。
図 18. 評価システムと装置ブロック図
3.2.2. 結果
図 19 に非液晶物質 Azo および液晶物質 LC 3 の測定結果を示す。試料を透過する光の強度は温度によって大きく
変化し、昇温、降温に対してヒステリシス曲線を描いた。これらの変化は試料の状態の変化によって光散乱の程
度が変化したことによると考えられる。Azo (図 19 上) では、降温曲線の 29 ℃以上および昇温曲線の 69 °C 以上
で透過光強度が一定になる領域がある。偏光顕微鏡観察で試料が透明なこと、本測定において透過光強度が最大
189
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
であることから、この領域は等方性液体相 (Iso) に帰属できる。降温曲線の 29 °C および昇温曲線の 69 °C におけ
る急激な変化は、Iso→結晶相 (Cry) および Cry→Iso 変化に対応している。69 °C における透過光の急激な減少と
増加は、相界面が観測領域を横切ることによって起こり、Cry 相では結晶粒による散乱によって透過光強度が減少
するためと考えられる。
図 19. 非液晶化合物 Azo と LC3 の測定結果
図 20. LC3 から LC7 の測定結果
190
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 19 下に示す LC 3 の降温曲線の 75 °C 以上および 32 °C 以下の領域は、図 19 上と同様に Iso 相および Cry 相に
対応する。LC 3 が Azo と大きく異なる点は、75 から 32 °C の間に Iso 相および Cry 相と透過光強度が異なる領域
が存在することで、この領域は相転移温度から液晶 (LC) 相に対応する。上記の領域で Iso 相に比べて透過光強
度が減少していることは、液晶状態では等方性液体状態に比べて大きく光散乱するためである。一方、昇温曲線
には 35 から 78 °C の間に緩やかな変化が観測されるが、これは主として Cry-Cry 相転移のためと解釈している。
この変化のために LC 相を明確に観測することはできないが、78 °C の変化は LC 相から Iso 相への融解に対応する
と考えられる。
次に、LC 3 を用いて同一測定点および異なる測定点で繰り返し測定し、測定の再現性を確認した後に、数種類の
液晶物質 (LC 3 から7) に対して評価を行った結果を LC 3 の結果と共に図 20 に示す。図 20 から透過光強度変
化曲線の形状と LC 相の種類との間にある程度の関係があることが見いだされた。LC 3 や LC 4 の N 相においては、
透過光強度曲線は波状の変化を示している。一方、LC 5 の S 相では曲線の形状は比較的フラットである。この傾
向は LC 6 でも顕著に示され、SA 相と N 相との相転移点を境に曲線の形状が変化している。偏光顕微鏡観察によっ
て明らかにされているように、S 相は N 相に比較して分子配列の秩序性が高く、流動性も低い。透過光強度曲線の
形状はこのような分子の秩序性、流動性に対応していることが推定される。今後、これらの関係を解析すること
は興味深い。
ここで、測定時間を短縮することを試みた。図 21 に、LC 3 の降温時における透過光強度の温度変化を降温速度
を 5 から 40 °C/min まで変化させて測定した結果を示す。縦軸のスケールは全て同一である。図中に点線で示す
ように、急激に強度が変化している温度 (75 °C) が等方相→液晶相 (N相) への相転移点である。降温速度を
40 °C/min まで上昇させた場合でも検出された相転移温度はほとんど変らず、DSC 測定値と一致した。また、透
過光強度の変化もほぼ一定となった。このような速い速度での測定が可能であることは、自動合成システムに組
み込む際に有効であると考えられる。これらのことは、検出している透過光強度の変化が分子レベルの速い運動
に基づいていることを示唆している。
図 21. 各降温速度で測定した液晶物質(LC3)の透過光強度の温度変化
最後に、コンビナトリアル合成で得られたトロポノイド化合物 (Tr 1、 Tr 2) の物性を光散乱法を用いて評価し、
図 22 に示す。図 22 左の Tr 1 では、Iso 相や Cr 相と透過光強度の異なる領域が存在するので、液晶相が存在する
と判断したが、図 22 左では、そのような中間領域が存在しないので、非液晶と判断した。Tr 2 について、偏光顕
191
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
微鏡写真と DSC 測定結果を図23に示す。比較として、従来行っている液相で Tr 2 を合成し、分離・精製した後
の偏光顕微鏡写真と DSC 測定結果を示す。両者の写真の組織からスメクチック C 相であることが判り、相転移温
度も許容範囲内に納まっている。
図 22. 光散乱法を用いたトロポノイド化合物(Tr 1、 Tr 2)の評価
図 23. トロポノイド化合物(Tr 2)の転移温度と光学顕微鏡写真
:a) 固相合成で得られた Tr 2 の 163 °C での組織. b) 液相で合成した Tr 2 の 160 °C での組織.
考
察
汎用型自動合成装置をベースとし、分注部および反応槽の改良・改善を行い、蒸気圧の高い(揮発性の高い)有
機溶媒を正確に分注するために、基質や反応剤などの溶液の入ったリザーバー自体を冷却することで分注精度の
向上を行うことができた。また、われわれの研究室で開発した高反応活性な炭素カチオン(カチオンプール)を
改良した自動合成装置を用いて分割利用することで、液相パラレル合成を行うことにも成功した。この反応に用
いた「イミニウムカチオンのプール」は 0 ℃以上では分解してしまい反応には使えない。低温リザーバーを持つ
自動合成装置ですばやく分注することが本法成功に必要不可欠であることは特筆すべき事項である。
さらに、バッチ型の自動合成装置よりも、評価系などと組み合わせたシステム化が容易なフロー型自動合成シス
テムの開発を試み、とくにレドックスシステムを付したまったく新しいフロー型自動合成システムの開発を装置
の基本骨格の構築に成功した。また、フロー法の利点を活かした効率的な液相コンビナトリアル合成への応用も
可能となった。今後はこの研究で得られた基礎データをもとに、マイクロチップ技術を用いたマイクロリアクタ
ーでの電解酸化反応システムへと展開し、より複雑な自動合成システムの構築も可能になるのではないかと考え
ている。
一方、動的偏光顕微鏡と光散乱法を用いた液晶の中間相評価システムにおいても様々な知見が得られた。顕微鏡
で組織観察する前者では、光学系などの特別の装置が必要ではなく、既存の偏光顕微鏡に CCD カメラを取り付け
ればよく、簡便である。また、液晶相の光散乱現象を応用した液晶物質の評価システムでは、数種類の液晶物質
を用いてシステムの評価を行った結果、液晶相の存在を非常に感度良く検出できた。コンビナトリアル合成で得
られた未知化合物についても適用できた。今回開発した評価システムは、いずれも単一試料についての測定では
あったが、動的偏光顕微鏡と光散乱法が有効な評価方法であることが分かった。今後、ホットステージにターン
192
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
テーブルを組み合わせたり、ガラス基板を改良することにより、ここで開発した評価システムの試料設置部や測
定部がコンパクトであることから、移行は比較的容易であると考えられる。
引用文献
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[4] S. Suga, S. Suzuki, J. Yoshida, J. Am. Chem. Soc., 124, 30 (2002).
[5] J. Yoshida, S. Suga, S, Chem. Eur. J., 8, 2650 (2002).
[6] S. Suga, M. Okajima, K. Fujiwara, J. Yoshida, J. Am. Chem. Soc., 123, 7941(2001).
[7] J. Yoshida, K. Itami, K. Mitsudo, S. Suga, Tetrahedron Lett., 40, 3403 (1999).
[8] K. Itami, K. Mitsudo, T. Kamei, T. Koike, T. Nokami, and J. Yoshida, J. Am. Chem. Soc., 122, 12013
(2000).
[9] J. Yoshida, K. Itami, J. Synth. Org. Chem. Jpn., 59, 1086-1094 (2001).
[10] G. Jung (Ed.), Combinatorial Peptide and Nonpeptide Libraries, VCH, Weinheim, 1996; R. E. Dolle,
J. Comb. Chem., 3, 1 (2001); F. Guiller, D. Orain, D. M. Bradley, Chem. Rev., 100, 2091 (2000).
[11] R. Akiyama, Y. Saito, A. Fukuda, E. Kuze, N. Goto, Jpn. J. Appl. Phys., 19, 1937 (1980).
[12] R. Akiyama, M. Hasegawa, A. Fukuda, E. Kuze, Jpn. J. Appl. Phys., 20, 2019 (1981).
[13] Y. Saito, C. Chou, K. Morita, H. Takezoe, A. Fukuda, H. Mori, M. Gokudan, Proc. SID, 32, 213 (1991).
[14] K. Soji, Y. Nakajima, E. Ueda, M. Takeda, Polym. J., 17, 811 (1985).
[15] K. Soji, Y. Nakajima, E. Ueda, M. Takeda, Polym. J., 17, 997 (1985).
[16] K. Soji, Y. Nakajima, E. Ueda, M. Takeda, Polym. J., 17,1029 (1985).
[17] K. Soji, Y. Nakajima, E. Ueda, M. Takeda, Kobunshi Ronbunshu, 42, 489 (1985).
[18] V. Vill (Ed.), LiqCryst 4.1-Database of Liquid Crystalline Compounds, Fujitsu Kyushu System
Engineering, Fukuoka, 2002.
[19]T. Tsuji, K. Kubo, A. Mori, Y. Nishimura, Talanta, 55, 485 (2001).
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌
なし
イ)国外誌
J. Yoshida, S. Suga, S. Suzuki, N. Kinomura, A. Yamamoto, and K. Fujiwara
"Direct Oxidative Carbon-Carbon Bond Formation Using the "Cation Pool" Method. 1. Generation of Iminium
Cation Pools and Their Reaction with Carbon Nucleophiles."
J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 9546-9549.
J. Yoshida, S. Suga, K. Fuke, and M. Watanabe
193
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
"2-(2-Pyridyl)ethylsilyl Groups as a New Class of Electroauxiliary. Fine Tuning of the Electron Transfer
Driven Reactions by the Dynamic Coordination to Silicon"
Chem. Lett. 1999, 251-252.
J. Yoshida, K. Itami, K. Mitsudo, and S. Suga
2-Pyridylsilyl Group as a Multifunctional “Phase Tag” for Solution Phase Synthesis
Tetrahedron Lett. 1999, 40, 3403-3406.
K. Itami, K. Mitsudo, T. Kamei, T. Koike, T. Nokami, and J. Yoshida
Highly Efficient Carbopalladation across Vinylsilane: Dual Role of 2-PyMe2Si Group as a Directing Group
and as a Phase Tag
J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 12013-12014.
S. Suga, S. Suzuki, A. Yamamoto, and J. Yoshida
Electrooxidative Generation and Accumulation of Alkoxycarbenium Ions and Their Reactions with Carbon
Nucleophiles
J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 10244-10245.
M. Watanabe, S. Suga, and J. Yoshida
"Intramolecular Assistance of Electron Transfer from Heteroatom Compounds. Electrochemical Oxidation of
2-(2-Pyridyl)ethyl-Substituted Ethers, Sulfides, and Selenides."
Bull. Chem. Soc. Jpn. 2000, 73, 243-247.
S. Suga, M. Okajima, and J. Yoshida
"Reaction of Electrogenerated "Iminium Cation Pool" with Organometallic Reagents. Direct Oxidative
・-Alkylation"
and -Arylation of Amine Derivatives"
Tetrahedron Lett. 2001, 42, 2173-2176.
J. Yoshida, M. Watanabe, H. Toshioka, M. Imagawa, and S. Suga,
"Selective Electrochemical Oxidation of Heteroatom Compounds Having Both Silicon and Tin on the Same Carbon
as Electroauxiliaries"
J. Electroanal. Chem. 2001, 507, 55-65.
S. Suga, M. Okajima, K. Fujiwara, J. Yoshida
"Cation Flow" Method. A New Approach to Conventional and Combinatorial Organic Syntheses Using
Electrochemical Micro Flow Systems.
J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 7941-7942.
S. Suga, S. Suzuki, J. Yoshida
Reduction of a “Cation Pool”. A New Approach to Radical Mediated C-C Bond Formation.
J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 30-31.
194
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
T. Tsuji, K. Kubo, A. Mori, Y. Nishimura
"Determination of phase transition temperatures of liquid crystals by a light scattering method"
Talanta, 2001, 55, 485.
2)原著論文以外による発表
ア)国内誌
吉田潤一, 菅
誠治 「電子移動場での有機反応」
季刊化学総説 No47. 「有機合成化学の新潮流」;日本化学会編;学会出版センター, 2000;pp 138-148.
吉田潤一, 菅
誠治, 鈴木新吉
「カチオンプール法 -不安定なカルボカチオンを蓄え、そして反応させる-」
現代化学 2001, 7 月号; pp 36-44.
吉田潤一, 菅
誠治, 伊丹健一郎
「有機合成の自動化とそのための新手法の開発」
化学工業 2002, vol. 53, 1 月号; pp 6-12.
吉田潤一, 菅
誠治, 港
晶雄
「マイクロリアクターの有機合成反応」
ファインケミカル 2002, vol. 31, No. 1; pp 32-41.
吉田潤一, 菅
誠治
チオンプール法およびカチオンフロー法を用いたコンビナトリアル合成」
「コンビナトリアルサイエンスの新展開」
;高橋孝志, 鯉沼秀臣, 植田充美編;シーエムシー出版, 2002, pp 17-28.
吉田潤一, 伊丹健一郎
“Pyridylsilyl Group as a Multifunctional Phase Tag for Solution-Phase Synthesis.”
有機合成化学協会誌 2001, 59, pp 1086-1094.
イ)国外誌
J. Yoshida, S. Suga
"Organoelemental Compounds"
In “Organic Electrochemistry” 4th Edition, Revised and Expanded, H. Lund and O. Hammerich Eds, Marcel
Dekker, New York, 2001, pp765-794.
J. Yoshida, S. Suga
“Basic Concepts of “Cation Pool” and “Cation Flow” Methods and Their Applications
in Conventional and Combinatorial Organic Synthesis.”
Chem. Eur. J. (concepts), 2002, 8, 2650-2658.
3)口頭発表
ア)招待講演
吉田潤一
「合成ロボットとマイクロリアクターの利用」
日本化学会第79春季年会、シンポジウム 有機合成の自動化、平成13年3月29日
吉田潤一
甲南大学
「マイクロリアクタ・テクノロジーの現状と今後の動向(JCII 調査研究結果を踏まえての世界と日本
の状況、これからの展開)」
「マイクロリアクタ・テクノロジーが拓く新しい化学プロセス・システム」化学工学会関西支部,平成13年4
195
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
月
大阪
吉田潤一
「カチオンプール法
-不安定なカルボカチオンを蓄え、そして反応させる-」
有機合成化学夏期セミナー,平成13年9月
吉田潤一
大阪
「軌道相互作用に基づく有機反応の分子内高度制御に関する研究」
日本化学会代 80 秋季年会,平成13年9月
吉田潤一
千葉 [受賞講演]
「液相合成のための多機能フェイズタグの開発」
有機合成北陸セミナー,平成13年10月
吉田潤一
石川
「有機合成の自動化を指向した新合成手法の開発」
精密有機合成セミナー,平成14年1月
J. Yoshida
札幌
" Internal and External Approaches to the Control of Electron Transfer Reactions"
EURESCO Conference, Organic Electrochemistry, April 14th, 2000. Tomar, Portuga
J. Yoshida, K. Itami, K. Mitsudo, and S. Suga
"2-Pyridylsilyl Group as a Multifunctional “Phase Tag”
for Solution Phase Synthesis "
IKCOC-8, July 14th, 2000. Kyoto, Japan
J. Yoshida
"2-Pyridylsilyl Group as a Multifunctional "Phase Tag" for Solution Phase Synthesis "
2000 Japan-Taiwan Joint Symposium on Organic Synthesis, October 24– 25, 2000, Siran Kaikan, Kyoto, JAPAN
J. Yoshida , S. Suzuki, and S. Suga
" Electrooxidative Generation of Oxycarbenium Ion Pools from
・-Silylethers and their Reaction with Carbon Nucleophiles "
2000 International Symposium on Organic Reactions , October 27th, 2000. Yokohama, JAPAN
S. Suga
" Direct Oxidative C-C bond Formation Using "Cation Pool" Method "
SINGAPORE INTERNATIONAL CHEMICAL CONFERENCE –
2, Dec 18th, 2001, Singapore
イ)応募・主催講演等
菅
誠治・鈴木新吉・山本淳史・吉田潤一
「電解酸化により蓄えたオキシカルベニウムイオンと炭素求核剤と
の反応」
第24回
菅
エレクトロオーガニックケミストリー討論会、平成12年10月2日
誠治・鈴木新吉・岡島正幸・吉田潤一
埼玉工業大学
「低温電解酸化により発生させた炭素カチオンプールを用いる新規
な炭素-炭素結合形成反応」
第33回
酸化反応討論会、平成12年11月6日
鈴木新吉・菅
金沢
誠治・吉田潤一 「α-シリルエーテルの電解酸化によるオキシカルベニウムイオンプールの発生
および炭素求核剤との反応」
196
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
第47回
菅
有機金属化学討論会、平成12年10月2日
誠治・岡島正幸・藤原一行・吉田潤一
「フロー型マイクロ電解システムにおける分析系の構築」
日本化学会第79春季年会、平成13年3月30日
菅
誠治・西田友明・吉田潤一
甲南大学
「カチオンプール法を用いた新規3成分カップリング反応」
日本化学会第79春季年会、平成13年3月30日
鈴木新吉・菅
誠治・吉田潤一
甲南大学
「イミニウムカチオンプールを用いた還元カップリング反応」
日本化学会第79春季年会、平成13年3月30日
岡島正幸・菅
名古屋大学
誠治・吉田潤一
甲南大学
「電解酸化により発生させたイミニウムカチオンプールと有機金属化合物との
反応」
第48回
有機金属討論会、平成13年9月
岡島正幸・菅
誠治・吉田潤一
横浜
「イミニウムカチオンプールと有機金属化合物との反応」
2001年電気化学会秋季大会、平成13年9月
岡島正幸・菅
誠治・吉田潤一
「フロー型マイクロ電解システムを用いた連続的酸化・還元反応」
日本化学会第81春季年会、平成14年3月
菅
東京
早稲田大学
誠治・景山泰久・岡島正幸・吉田潤一 「カチオンプール法を用いたベンジルエーテル類の酸化的炭素-炭素
結合形成反応」
日本化学会第81春季年会、平成14年3月
菅
誠治・西田友明・吉田潤一
早稲田大学
「カチオンプール法を用いたアシルイミニウムカチオンとヘテロ原子求核剤と
の反応」
日本化学会第81春季年会、平成14年3月
鈴木新吉・菅
誠治・吉田潤一
「カチオンプールを用いた還元カップリング反応におけるプロトンの効果」
日本化学会第81春季年会、平成14年3月
辻
早稲田大学
剛志・久保勘二・西村幸雄・森
章
早稲田大学
「光散乱法を利用した液晶分子の双転移温度の評価(1)」
2000年日本液晶学会討論会、平成12年10月25日
橋本雅司・森
松江
章・井上仁史・土井隆行・高橋孝志 「固相合成法を利用したトロポノイド液晶分子の合成研究 (1)」
日本化学会第79春季年会、平成13年3月29日
甲南大学
橋本雅司・井上仁史・土井隆行・高橋孝志・森 章 「固相合成法を利用したトロポノイド液晶分子の合成研究 (2)」
2001年日本液晶学会討論会、平成13年9月25日
辻
剛志・久保勘二・森
章
大宮
「光散乱法を利用した液晶分子の相転移温度の評価 (2)」
197
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2001年日本液晶学会討論会、平成13年9月25日
S. Suga, S. Suzuki, and J. Yoshida
大宮
" Cation Pool Method III. Generation of Oxonium Ion and Its Reactions
with Carbon Nucleophiles. "
The Electrochemical Society 197th Meeting, May 15th, 2000. Toronto, Canda
S. Suga, S. Suzuki, N. Kinomura, A. Yamamoto, K. Fujiwara and J. Yoshida
"Direct Oxidative Carbon-Carbon
Bond Formation Using “Cation Pool” Method"
IKCOC-8, July 14th, 2000. Kyoto, Japan
S. Suga, M. Okajima, K. Fujiwara, and J. Yoshida
"Direct Oxidative C-C Bond Formation Using Cation Flow
Method"
Pacifichem 2000 , Dec 14th, 2000, Honolulu, USA
S. Suzuki, S. Suga, and J. Yoshida
Efficient C-C Bond Formation Using Electrogenerated Oxycarbenium Ion Pool
Pacifichem 2000 , Dec 14th, 2000, Honolulu, USA
M. Okajima, S. Suga, and J. Yoshida
"Reaction of Grignard Reagents to Electrogenerated Iminium Cation
Pool "
Pacifichem 2000, Dec 14th, 2000, Honolulu, USA
J. Yoshida, S. Suga, S. Suzuki, N. Kinomura, K. Fujiwara, and M. Okajima
"Solution Phase Parallel Synthesis
based on the Cation Pool Method "
Pacifichem 2000, Dec 14th, 2000, Honolulu, USA
S. Suga, K. Fujiwara, S. Suzuki, and J. Yoshida
"Improvement of Automated Synthesizer for Solution Phase
Parallel Synthesis at Low Temperature"
Pacifichem 2000, Dec 14th, 2000, Honolulu, USA
J. Yoshida, S. Suga, S. Suzuki, N. Kinomura, M. Okajima, M. Watanabe, A. Yamamoto, and K. Fujiwara
""Cation
Pool" Method. Generation and Accumulation of Carbocations by Low Temperature Electrolysis and Their
Reactions with Carbon Nucleophiles "
The Electrochemical Society 199th Meeting
March 26th, 2001, Washington DC, USA
Masashi Hashimoto. Akira Mori, Hitoshi Inoue, Takayuki Doi, and Takashi Takahashi
"Preparation of New
Troponoid Liquid Crystals through Palladium(0)-catalyzed Carbonylation on Solid Support"
7th International Symposium on Metallomesogens, June 6th -9th, 2001. 6.6-6.9. Tateshina
4)特許等出願
なし
198
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
5)受賞等
吉田潤一:「日本化学会学術賞」平成13(2001)年3月
菅
誠治:「有機合成化学協会研究企画賞」平成12(2000)年2月
199
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
3.1. 超機能評価法の開発
3.1.1. コンビナトリアル化学を用いたセンシングシステムの開発
産業総合研究所ティッシュエンジニアリング研究センター動物実験代替システムチーム
中村
要
史、三宅 淳
約
環境汚染物質を検出するシステムの開発を目的とし、コンビナトリアル化学を用いて化学物質を認識・結合す
るペプチドの探索を行い、その結合能や選択性を評価し、分子検出システムの構築を行った。また、分子検出シ
ステムの構築を目標とした、センシングモデルの構築を行った。コンビナトリアルスクリーニングによって有害
物質の部分構造(3,4-ジクロロアニリン)を認識するペプチド配列の取得に成功した。また、種々のデバイスを
利用したセンシングモデルを構築し、ペプチドを結合素子として用いた検出デバイスの構築に成功した。
研究の目的
環境汚染物質として問題となる化学物質は多様であり、また新規物質による汚染はこれからも起こりうる。こ
のような事態に対応するために、バイオテクノロジーの手法で汚染物質を検出・除去する方法が期待されるが、
標的となる化学物質はおおむね低分子であり、免疫抗体を利用する従来の技術は適用が難しい。これに対し、コ
ンビナトリアル化学によるスクリーニングではこれら環境汚染物質を結合するペプチド分子を取得することは可
能であると考えられ、また、取得されたペプチドの工学的応用に関しても、検出材料として期待が出来る。本研
究ではコンビナトリアルスクリーニングより得られる特定の低分子化合物、ターゲット化合物に対する認識能を
持ったペプチドを取得する。また、取得したペプチドを結合素子とした分子検出システムの構築を目的とする。
研究方法
3.1. 3,4-ジクロロアニリン誘導体結合ペプチドの取得
本研究では、3,4-ジクロロアニリンをターゲット化合物として用いることとした。3,4-ジクロロアニリンは PCB、
ダイオキシン、ディウロン(DCMU、除草剤)などの化合物の部分構造と見なすことが出来る化合物であり、これ
を蛍光ラベル化剤である NBD-F によって標識した。ジクロロアニリンと NBD-F の間のスペーサーとして4-アミノ
-n-酪酸を用いた。続いてシステインを除く天然アミノ酸19種を用い4残基からなる固相ペプチドライブラリー
を合成した。この固相ライブラリーに対して、ジクロロアニリンの結合を NBD の蛍光を指標にスクリーニングし
た。NBD-ジクロロアニリンは 180nM の濃度で 100mM NaCl を含む 10mM リン酸緩衝液(pH7.0)に添加し、スクリー
ニングに用いた。(図 1)
200
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Cl
Cl
NH
F
Comboinatorial library synthesized by
the split synthesis method
O
N
O
N
NO2
A1
B1
A1
B2
A1
B3
A2
B1
A2
B2
A2
B3
A3
B1
A3
B2
A3
B3
NH
N
NBD-F
O
N
NO2
NBD-labelled dichloroaniline (NDA)
Mixing free
dichloroanilines
which compete
against NDA in
binding to beads
The first screening was pick up
fluorescent beads.
図 1.
The second screening was pick up
non-fluorescent beads.
3,4-ジクロロアニリン蛍光標識体とスクリーニング手法
3.2. センシングモデルの構築
3.2.1. 表面プラズモン共鳴(SPR)センサーの利用
本研究では、コンビナトリアルスクリーニングによって取得された既知のペプチドを結合素子として用い、表面
プラズモン共鳴(SPR)センサーを利用した低分子化合物検出のシステムを構築することを目的とした。このモデ
ルターゲットとしてポルフィリンの一種である H2TMpyP、ペプチドリガンドとして H2TMpyP を特異的に認識する 6
残基のペプチド、PSP2(HASYSC)を用いた。(図 2)
H2TMpyP
PSP2
His-Ala-Ser-Tyr -Ser-Cys (MW:666.7)
(MW:678.8)
CH 3
Porphyrin binding sequence
+
N
His
N
CH 2
NH
N
N
+
CH 3
CH 2OH
)l
N
HN
HO
CH 2
m
T yr
CH 2OH
g /
H 3C
CH 3
N
NH
+
CH 2S
+
N
CH 3
図 2.
標的のポルフィリンと使用したペプチド
201
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3.2.2. 水晶振動子センサーの利用
ペプチドを低分子化合物結合分子として用い、水晶振動子マイクロバランス(QCM)センサーを用いた低分子化
合物検出システムの開発を目的とした。上記同様、検出対象となる低分子化学物質として、ポルフィリン H2TMpyP
を用い、またこれを結合するペプチドに PSP2 を用いた。水晶振動子は AT カットで共振周波数9MHz、金電極型の
QA-A9M-AU(セイコーEG&G)を用い、水晶振動子の発振回路及び解析装置は QCA917(セイコーEG&G)を使用した。
水溶液中での測定のために、片側の電極面を同規格の裸の振動子板をシリコンボンドで接着・被覆し、用いた。
水晶振動子の表面に物質が結合することによって起こる質量増加は周波数の減少として検出される。9MHz の水晶
振動子では 1ng の物質の吸着は約 1 Hz の周波数減少として検出される。
研究成果
4.1. 3,4-ジクロロアニリン誘導体結合ペプチドの取得
約42万個のビーズのスクリーニングの結果、蛍光染色されるビーズが約 400 個得られた。そこからさらに分子
内のターゲットサイト(ジクロロアニリン)以外のドメインを認識するものを排除するために、ジクロロアニリ
ン溶液を添加し、これが競合的にビーズに結合し、NBD-ジクロロアニリンが表面から解離することによって蛍光
が消光するものを選択した。選択された5つのビーズのアミノ酸シークエンスを行った結果、得られた5つのペ
プチドの配列は全てN末端にアスパラギン酸を有し、それに続く3つのアミノ酸は主に無電荷のアミノ酸で構成
されていた。配列は、以下の通りである。
D1: Asp Thr Tyr Tyr
D2: Asp Phe Tyr Ala
D3: Asp Asn Ile Tyr
D4: Asp Val Ile Val
D5: Asp Gln Phe Leu
この結果から、アスパラギン酸とジクロロアニリンのアミンとの静電的相互作用と、ベンゼン骨格との疎水性
相互作用が結合に寄与しているものと推察された。
続いて、3,4-ジクロロアニリン誘導体である DCMU(除草剤)を利用し、表面プラズモン共鳴測定装置(SPR)、
BiacoreX(ビアコア社)を用いて、ペプチドの相互作用の評価を行った。ペプチド D1 (DTYY)の C 末端にシステイ
ンを導入したペプチドを合成し、これをカルボキシメチルデキストランを有するセンサーチップ CM 5 に固定化し、
測定を行った。測定には 100 mM NaCl、5 % (v/v) エタノールを含む 10 mM リン酸緩衝液(pH 7.0)を緩衝液と
して用いた。ペプチド D1 と DCMU との結合量を表す SPR シグナルは濃度依存的な増加を示し、その解離定数は
1.5x10-4 M であった。(図 3)
202
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
60
DCMU
SPR resp once( RU)
50
MCPP
40
30
20
10
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
Concentration of herbiside (mM)
図 3. ペプチド D1 と除草剤 DCMU の相互作用
また、N末端アミノ酸をグルタミン酸、アスパラギンに置換したペプチド E1、N1 を合成し、同様の試験を行っ
たところ、E1 では D1 と比較し DCMU との相互作用が若干小さくなり、N1 では全く相互作用が見られなくなった。
このことはN末端のアミノ酸の負電荷による相互作用への寄与が大きいことを示している。
4.2. センシングモデルの構築
4.2.1. 表面プラズモン共鳴(SPR)センサーの利用
PSP2 をセンサーチップに固定化した後、チップの表面に H2TMpyP 溶液を注入し、BiacoreX(ビアコア社)を用
いて SPR シグナルの変化を測定した結果、100 ng/ml 〜
100 µg/ml の濃度範囲において、シグナルと良い相関が
得られた。この領域おけるシグナルの誤差は2〜8%であった。(図 4)
10000
200
Porphyrin binding response (RU)
sensor chip 1
5 µg/ml
Resonance Units
150
2.5 µg/ml
100
1 µg/ml
50
0
0.5 µg/ml
5.8 µg/ml
(ethidium bromide)
1000
sensor chip 2
sensor chip 3
100
10
1
0.1
200 sec
- 50
0.001 0.01
0.1
1
10
100
1000
Co ncentration of H2TMpyP (µg/ml)
図 4. PSP2 固定化チップへのポルフィリン結合を示す SPR シグナルと検量線
またチップ間の誤差は 100 ng/ml 以上の範囲で8%以下であった。また、ポルフィリン認識の特異性を調べた
ところプロトポルフィリン IV では SPR シグナルはほとんど検出されなかった。これらの結果から、低分子化合物
に対するコンビナトリアルスクリーニングによって取得されたペプチドを低分子化合物検出のリガンド分子とし
て利用することが可能であることが示唆された。
203
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
4.2.2
水晶振動子センサーの利用
まず、水晶振動子金電極上にペプチドの自己集合膜(SAM 膜)を作製した。周波数変化が安定したところで PBS
緩衝液にて洗浄を行ったが、ペプチド自己集合膜は安定であり、顕著な脱離は見られなかった。続いて種々濃度
のポルフィリン溶液を添加し、周波数減少が安定するのを待ち周波数変化を測定した。この測定の結果、ポルフ
ィリンの直接結合を示す周波数の減少はポルフィリン濃度 17 µg/ml で 10 Hz 程度であり、検出限界は 20 µg/ml
程度と判断された。(図 5)
20
peptide solution
Frequency shift (Hz)
0
-20
porphyrin solution
wash
-40
-60
-80
-100
-120
0
50
100
150
200
250
300
350
Time (min)
図 5. ペプチド自己集合膜の形成とポルフィリンの結合を示す周波数変化
このように直接検出では十分な感度が得られず、対照として用いた臭化エチジウムでも同様の周波数変化が得
られることから、特異性にも問題があることが明らかであった。そこで、ペプチド固定化ラテックスビーズを用
い、金電極のペプチドとビーズ上のペプチドによるターゲット化合物のサンドイッチ結合によって、結合ビーズ
の質量分の増感を行う方法を考案した。ペプチドはターゲット化合物に対して2分子以上結合する必要がある。
図 6 にその原理を模式的に表した。
Peptide
Porphyrin
Quartz Crystal
Porphyrin binding
Mass-sensitization
図 6. ペプチド固定化ラテックスビーズによる質量増感の原理模式図
直接測定では検出されない濃度のポルフィリン 100 ng/ml に対して、ペプチド固定化ラテックスビーズ溶液を
順次 10μl ずつ添加した結果、ペプチド固定化ラテックスビーズ添加に伴い周波数減少が起こった。これに対し、
204
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
ペプチドを固定化しないラテックスビーズを添加した場合には周波数の減少は全く観察されず、サンドイッチ結
合によって質量増感が達成されているものと推察された。ペプチド固定化ラテックスビーズを用いた場合、10
ng/ml のポルフィリンを検出可能であり、本方法によって 2000 倍以上の検出感度の上昇が可能であった。(図 7)
200
AB
C
C
Frequency shift (Hz)
0
B
B
-200
B
B
B
-400
B
B
-600
B
B
D
-800
0
40
80
120
160
Time (min)
A: Porphyrin injection (final conc 100 ng/ml)
B: Peptide-immobilized latex beads injection (final conc 5 µg/ml for one injection)
C: Bare latex beads injection (final conc 5 µg/ml for one injection)
D: Wash
図 7. ラテックスビーズ添加による周波数変化の上昇
考
察
固相ライブラリーから 3,4-ジクロロアニリンを結合するペプチド配列を5種取得し、その中から最適配列 D1
(DTYYC)を同定した。SPR による評価の結果、D1 と 3,4-ジクロロアニリンの誘導体である除草剤 DCMU の結合定
数は 6.6×103 M-1 であり、D1 固定化 SPR チップによる DCMU の直接検出の限界値は、50 µg/ml であった。また、
その結合に構造的な特異性が認められた。
ペプチドを結合素子として用いた SPR センサー、QCM センサーを開発し、高感度なポルフィリンの検出に成功し
た。結合定数 105 M-1 のポルフィリン結合ペプチド人工抗体を利用した場合、SPR では、100 ng/ml〜100 µg/ml の
濃度範囲において直接検出が可能であった。QCM ではペプチド固定化ラテックスビーズを用いた質量増感法によっ
て 10 ng/ml まで検出することが可能であった。
これらの結果から4〜5アミノ酸からなるペプチドを低分子化合物の結合素子として利用することが可能であ
ると判断された。
成果の発表
7.1.1. 原著論文
国内誌
なし
205
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
7.1.2. 原著論文
1)
国外誌
Chikashi Nakamura, Miki Hasegawa, Yoshiaki Yasuda and Jun Miyake:「Self-Assembling Photosynthetic
Reaction Centers on Electrodes for Current Generation」, Applied Biochemistry and Biotechnology, 84-86,
401-408 (2000)
2)
Sang-Mok Chang, Hiroshi Muramatsu, Chikashi Nakamura and Jun Miyake:「The Principle and Applications
of Piezoelectric Crystal Sensors」, Material Science and Engineering C, 12, 111-123 (2000)
3)
Chikashi Nakamura, Miki Hasegawa, Kazumi Shimada, Makoto Shirai and Jun Miyake:「Direct Triazine Herbicide
Detection Using a Self-Assembled Photosynthetic Reaction Center from Purple Bacterium」, Biotechnology &
Bioprocess Engineering, 5, 413-417 (2000)
4)
Seong-Hun Song, Hong-Sig Cho, Jong-Won Park, Kwang Kim, Chikashi Nakamura, Qing Yang, Jun Miyake
and Sang-Mok Chang:「Analysis of Avidin-biotinylated Liposome Layers on Au Electrode by Quartz Crystal
Analyzer」, Korean J. Biotechnol. Bioeng. 15, 497-500 (2000)
5)
Dong-Jin Qian, Chikashi Nakamura and Jun Miyake:「Monolayers of a Series of Viologen Derivatives
and the Electrochemical Properties in Langmuir-Blodgett Films」, Thin Solid Films, 374, 125-133 (2000)
6)
Dong-Jin Qian, Chikashi Nakamura and Jun Miyake : 「 Multiporphyrin Array from Interfacial
Metal-mediated Assembly and Its Langmuir-Blodgett Films」, Langmuir, 16, 9615-9619 (2000)
7)
Chikashi Nakamura, Yasuhiro Inuyama, Katsuhisa Shirai, Syuichi Nakano, Naoki Sugimoto and Jun
Miyake:
「Analysis for Peptide Binding to Porphyrin Using Surface Plasmon Resonance」, Synthetic Metals,
117/1-3, 127-129 (2001)
8)
Masami Kageshima, Mark A. Lantz, Suzanne P. Jarvis, Hiroshi Tokumoto, Seiji Takeda, Arkadiusz Ptak,
Chikashi Nakamura and Jun Miyake:「Insight into Conformational changes of a single a-helix peptide
molecule through stiffness measurements」, Chem. Phys. Lett., 343, 77-82 (2001)
9)
Arkadiusz Ptak, Seiji Takeda, Chikashi Nakamura, Jun Miyake, Masami Kageshima, Suzanne P. Jarvis
and Hiroshi Tokumoto:「A Modified Atomic Force Microscope Applied to Estimate an Elastic Modulus
of a Single Peptide Molecule」, J. Appl. Phys., 90, 3095-3099 (2001) Sep 15
10)
Dong-Jin Qian, Chikashi Nakamura and Jun Miyake:「Spectroscopic Studies of the Multiporphyrin Arrays
at the Air-Water Interface and in Langmuir-Blodgett Films」, Thin solid films, 397, 266-275 (2001)
11)
Chikashi Nakamura, Yasuhiro Inuyama, Katsuhisa Shirai, Naoki Sugimoto and Jun Miyake:「Detection of Porphyrin
Using a Short Peptide Immobilized on a Surface Plasmon Resonance Sensor Chip」, Biosensors & Bioelectronics,
16, 1095-1100 (2001)
7.2.1. 原著論文以外による発表
1)
三宅
淳、中村
国内誌
史、三宅正人:「バイオエコモニタリングと環境ゲノム:環境化学物質に対するセンサと
遺伝子影響の評価方法の開発」、マテリアルインテグレーション13, 107-112 (2000).
2)
中村
史、旭井亮一、三宅
7.2.2. 原著論文以外による発表
1)
淳:「生体に学ぶバイオエコモニタリング」、エレクトロニクス, 46, 36 (2001).
国外誌
Dong-Jin Qian, Chikashi Nakamura, Jun Miyake:
「Well-defined, Rigid Mutiporphyrin Arrays: Interafacial
Synthesis and Optical Properties in Monolayer Assemblies」, Studies in Surface Science and Catalysis
132, Y. Iwasawa, N. Oyama and H. Kunieda (Eds.) Elsevier Science p.p.581-584 (2001)
2)
Seong-Hun Song, Chikashi Nakamura, Jun Miyake and Sang-Mok Chang:「QCM Analysis for the Formation
206
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
of A Self-Assembled Peptide Membrane and High Sensitivity Detection of Porphyrin」, Proceedings of
the 2001 1st IEEE Conference on Nanotechnology 450-453 (2001)
3)
Seiji Takeda, Arkadiusz Ptak, Chikashi Nakmura, Jun Miyake, Masami Kageshima, Suzanne P. Jarvis and
Hiroshi Tokumoto:「Investigation of the Peptide Conformation by Measuring Force Curve using AFM」,
Peptide Science 2001,(Ed.)H. Aoyagi, 261-262 (2002)
7.3.1. 口頭発表
1) 中村
招待講演
史:「SPRリガンドチップを用いた新規低分子検出システムの開発」、BIAforum1999、つくば研究
支援センター (平成11年5月)
2)
中村
史:「コンビナトリアルスクリーニングで取得された分子はセンサー素子として使えるか?」、平成
13年度日本生物工学会大会、山梨大学 (平成13年9月)
3)
中村
史:「化学物質とコンビナトリアルペプチドの微弱相互作用のセンシング」、第10回北陸先端科学技
術大学院大学材料科学研究科フォーラム、北陸先端科学技術大学院大学(平成14年3月)
7.3.2. 口頭発表
1)
応募講演
犬山康弘、中村
史、白井勝久、杉本直己、三宅
淳:「表面プラズモン共鳴を用いたペプチドリガンドに
よるポルフィリン類の検出」、平成11年度日本生物工学会大会、関西大学(平成11年9月)
2)
中村
史、犬山康弘、白井勝久、杉本直己、三宅
淳:「ペプチドリガンドによるポルフィリンの検出」、
第4回バイオテクノロジー部会シンポジウム、北海道大学(平成11年9月)
3)
犬山康弘、中村
史、白井勝久、杉本直己、三宅
淳:「ペプチド自己集合単分子膜を用いたポルフィリン
の検出」、日本化学会第78春季年会、日本大学理工学部船橋キャンパス(平成12年3月)
4)
M.A. Lantzs、P.Jarvis、徳本洋志、T.Martynski、楠見敏則、中村
史、三宅
淳::「AFMによる単分子操
作:1分子ペプチドのヘリックス内の水素結合の直接測定」日本化学会第78春季年会、日本大学理工学部船
橋キャンパス(平成12年3月)
5)
宋
晟薫、中村
史、犬山康弘、張
尚睦、黒澤
茂、杉本直己、三宅
淳:「水晶振動子上でのペプチド
自己集合膜の形成とポルフィリンの検出」日本化学会第78春季年会、日本大学理工学部船橋キャンパス(平
成12年3月)
6)
銭
東金、中村
史、三宅
淳:「ポルフィリン超分子構造体の界面合成とその特性」、日本化学会第78春
季年会、日本大学理工学部船橋キャンパス(平成12年3月)
7)
中村
史、犬山康弘、宋
晟薫、張
尚睦、白井勝久、杉本直己、三宅
淳:「自己集合ペプチドリガンド
を用いたポルフィリンの検出」電気化学会第67大会、名古屋大学工学部(平成12年4月)
8)
榎本秀幸、中村
史、犬山康弘、白井勝久、星野貴行、三宅
淳:「ジクロロアニリン認識テトラペプチド
のコンビナトリアルスクリーニング」、平成12年度日本生物工学会大会、北海道大学(平成12年8月)
9)
中村
史、小林輝章、小川剛司、三宅正人、白井
誠、三宅
淳:「ミクロシスチン結合DNAアプタマーの
in vitro selectionと解析」、平成12年度日本生物工学会大会、北海道大学(平成12年8月)
10) 榎本秀幸、中村
史、長谷川みき、犬山康弘、星野貴行、三宅
淳:「ジクロロアニリン認識テトラペプチ
ドのコンビナトリアルスクリーニング」、2000電気化学秋季大会、千葉工業大学津田沼キャンパス(平成12
年9月)
11) 伊藤美由紀、武田晴治、中村
史、関沢和子、杉本直己、三宅
淳:「AFMによるポルフィリンとオリゴペ
プチドの相互作用の測定」、第38回 日本生物物理学会年会、東北大学川内北キャンパス(平成12年9月)
12) 宋
晟薫、中村
史、犬山康弘、張
尚睦、銭
東金、杉本直己、三宅
淳:「ペプチド固定化ラテックス
ビーズと水晶振動子を用いた高感度検出法の開発」、日本化学会第79春季年会、甲南大学岡本キャンパス(平
207
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
成13年3月)
13) 銭
東金、中村
史、WENK Stephan、ZORIN Nikolay、石川
博、三宅
淳:「ヒドロゲナーゼ− ポリビオ
ロゲン複合薄膜による水素ガスセンサーの開発」、日本化学会第79春季年会、甲南大学岡本キャンパス(平
成13年3月)
14) 長谷川みき、中村
史、三宅
淳:「光合成反応中心蛋白質を用いた高感度除草剤センサーの開発」、日本
化学会第79春季年会、2001年
15) 榎本秀幸、中村
史、長谷川みき、犬山康弘、星野貴行、三宅 淳:「ペプチド自己集合膜と除草剤の相互
作用解析」、日本化学会第79春季年会、甲南大学岡本キャンパス(平成13年3月)
16) 篠原
梓、中村
史、三宅正人、白井
誠、三宅
淳:「ミクロシスチン結合 DNA アプタマーの取得とミ
クロシスチン検出法の開発」、日本化学会第79春季年会、甲南大学岡本キャンパス(平成13年3月)
17) 中村
史、伊藤美由紀、武田晴治、関澤和子、杉本直己、三宅
淳:「低分子化合物とペプチドの弱い相互
作用のAFMによる解析(1)」、日本化学会第79春季年会、甲南大学岡本キャンパス(平成13年3月)
18) 伊藤美由紀、武田晴治、中村
史、影島賢巳、関沢和子、三宅
淳:「低分子化合物とペプチドの弱い相互
作用のAFM による解析(2)」、日本化学会第79春季年会、甲南大学岡本キャンパス(平成13年3月)
19) 武田晴治、Ptak Arkadiusz、中村
史、影島賢巳、徳本洋志、三宅
淳:「AFMによるαヘリックス状ペプ
チドの変性過程の解析ミリモルレベルと1分子レベル」、日本化学会第79春季年会、甲南大学岡本キャンパ
ス(平成13年3月)
20) Ptak Arkadiusz、武田晴治、中村
史、影島賢巳、Jarvis Suzanne P.、徳本洋志、三宅
淳:「ナノサイ
ズのバネとして振る舞うα-ヘリックス構造のペプチド: AFMを用いたヤング率の測定」、日本化学会第79春
季年会、甲南大学岡本キャンパス(平成13年3月)
21) 榎本秀幸、中村
史、佐藤祐介、長谷川みき、中村徳幸、新井孝昭、星野貴行、三宅
淳:
「コンビナトリアルスクリーニングされたペプチドと除草剤の相互作用解析」、電気化学会68回大会、神戸大学
工学部(平成13年4月)
22) 中村
史、伊藤美由紀、武田晴治、影島賢巳、関沢和子、杉本直己、中村徳幸、徳本洋志、三宅
淳:「原
子間力顕微鏡による低分子化合物とペプチドの相互作用の解析電気化学会第68回大会、神戸大学工学部(平
成13年4月)
23) 武田晴治、Ptak Arkadiusz、中村 史、三宅
淳、影島賢巳、Jarvis Suzanne P.、徳本洋志:「AFMによる
ミリ秒レベルでの一分子αヘリックス解析」、日本蛋白質科学会第1回年会、大阪大学コンベンションセンタ
ー(平成13年6月)
24) 中村
史、榎本秀幸、犬山康弘、白井勝久、三宅
淳:「コンビナトリアル化学によって取得されたオリゴ
ペプチドによる分子検出」、第5回バイオテクノロジー部会シンポジウム、千葉大学西千葉キャンパス(平
成13年9月)
25) 長谷川みき、劉学けい、中村
史、楊
青、三宅
淳:「リポソームクロマトグラフィーを用いた競合法に
よるPCB検出」、第5回バイオテクノロジー部会シンポジウム、千葉大学西千葉キャンパス(平成13年9月)
26) 武田晴治、Ptak Arkadiusz, 中村
史、三宅
淳、影島賢巳、Jarvis. Suzanne P.、徳本洋志:「原子間力
顕微鏡を用いた一分子レベルでのペプチドの性質及び構造の解析、第5回バイオテクノロジー部会シンポジ
ウム、千葉大学西千葉キャンパス(平成13年9月)
27) 武田晴治、Ptak Arkadiusz, 中村 史、三宅
淳、影島賢巳、Jarvis. Suzanne P.、徳本洋志:
「The conformation
of the fixed single peptide molecule was investigated using atomic force microscopy」、第38回ペプ
チド討論会、長崎ブリックホール国際会議場(平成13年10月)
28) 武田晴治、中村
史、Ptak Arkadiusz、影島賢巳、Jarvis Suzanne P.、徳本洋志、三宅
淳:「原子間力
顕微鏡を用いた1分子レベルの酵素活性解析」、日本化学会第81春季年会、早稲田大学西早稲田キャンパス
208
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
(平成14年3月)
29) 長谷川みき、中村
史、劉学けい、中村徳幸、三宅
淳:「リポソームクロマトグラフィーを用いた競合法
によるPCB検出 (2)」、日本化学会第81春季年会、早稲田大学西早稲田キャンパス(平成14年3月)
30) 篠原
梓、中村
史、三宅正人、中村徳幸、白井
誠、三宅
淳:「SPRチップを利用したミクロシスチン
結合DNAアプタマーのSELEX」、日本化学会第81春季年会、早稲田大学西早稲田キャンパス(平成14年3月)
31) 伊藤美由紀、中村
史、武田晴治、榎本秀幸、影島賢巳、中村徳幸、関澤和子、三宅
淳:「原子間力顕微
鏡を用いたペプチドの相互作用解析」、日本化学会第81春季年会、早稲田大学西早稲田キャンパス(平成14
年3月)
32) C. Nakamura, Y. Inuyama, K. Shirai, S. Nakano, N. Sugimoto and J. Miyake:「Porphyrin detection by
using peptide ligand and SPR」, 10th Molecular Electronics and Devices Symposium (Taejeon, Korea,
May1999)
33) Chikashi Nakamura, Yasuhiro Inuyama, Katsuhisa Shirai, Naoki Sugimoto and Jun Miyake:「Determination
of porphyrin using a peptide ligand immobilized on SPR chip」, 1999 Joint International Meeting, 196th
Meeting of The Electrochemical Society, Inc., 1999 Fall Meeting of The Electrochemical Society of
Japan (Honolulu, Hawaii, Oct1999)
34) Y. Inuyama, C. Nakamura, S. Song, S. Chang, K. Shirai, N. Sugimoto and J, Miyake:「Determination
of porphyrin using a self-assembled peptide ligand」, Biosensors 2000 (San Diego, USA, May2000)
35) C. Nakamura, X. Liu, Q. Yang and J. Miyake:「PCB determination using a competitive immuno-reaction
method sensitized by phospholipase A2-catalyzed fluorescent-dye leakage from liposomes」, Biosensors
2000 (San Diego, USA, May2000)
36) Jun Miyake, Chikashi Nakamura:「Bio-Ecomonitoring: Usage of A DNA Aptamer as A Ligand Capturing
Target Chemicals」, The Joint Symposium of the 3rd Asian Symposium on Organized Molecular Films for
Electronics and Photonics and the 11th Molecular Electronics and Devices Symposium (Seoul, Jul2000)
37) Yasuhiro Inuyama, Chikashi Nakamura, Katsuhisa Shirai, Naoki Sugimoto and Jun Miyake:「Detection
of Porphyrin Using a Self-assembled Peptide Layer on SPR Chip」、Fifth International Symposium on
Environmental Biotechnology (ISEB2000) (Kyoto, Jul2000)
38) Chikashi Nakamura, Xue-Ying Liu, Qing Yang, Jun Miyake : 「 PCB Detection Using a Competitive
Immuno-reaction Sensitized by Phospholipase-catalyzed Dye Leakage from Liposomes 」 、 Fifth
International Symposium on Environmental Biotechnology (ISEB2000) (Kyoto, Jul2000)
39) Seong-Hun Song, Chikashi Nakamura, Yasuhiro Inuyama, Shigeru Kurosawa, Sang-Mok Chang, Katsuhisa
Shirai, Naoki Sugimoto, Jun Miyake:「High Sensitivity Detection of Porphyrin Using a Quartz Crystal
Analyzer」、Fifth International Symposium on Environmental Biotechnology (ISEB2000) (Kyoto, Jul2000)
40) Chikashi Nakamura, Seong-Hun Song, Shigeru Kurosawa, Sang-Mok Chang, Naoki Sugimoto, Jun Miyake:
「High Sensitivity Detection System Using Immobilized Peptides And Quartz Crystal Microbalance」、
The 7th Naples Workshop on Bioactive Peptides and the 2nd Peptide Engineering Meeting, (Capli, Italy,
Sep2000)
41) Hideyuki Enomoto, Chikashi Nakamura, Yasuhiro Inuyama, Takayuki Hoshino, Jun Miyake:「Combinatorial
screening of tetrapeptide binding dichloroaniline derivatives 」 、 2000 環 太 平 洋 国 際 化 学 会 議
PACIFICHEM 2000 (Honolulu, Hawaii, USA, Dec2000)
42) Seong-Hun Song, Chikashi Nakamura, Yasuhiro Inuyama, Shigeru Kurosawa, Sang-Mok Chang, Katsuhisa
Shirai, Naoki Sugimoto, Jun Miyake:「QCM analysis for the formation of a self-assembled peptide
membrane and high sensitivity detection of porphyrin」、2000環太平洋国際化学会議
209
PACIFICHEM 2000
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
(Honolulu, Hawaii, USA, Dec2000)
43) Chikashi Nakamura, Xue-Ying Liu, Qing Yang, Jun Miyake:「PCB detection by two-column chromatography
using a competitive immuno-reaction and sensitization by dye leakage from liposomes」、2000環太平
洋国際化学会議
PACIFICHEM 2000 (Honolulu, Hawaii, USA, Dec2000)
44) Chikashi Nakamura, Miyuki Itoh, Seiji Takeda, Masami Kageshima, Kazuko Sekizawa, Naoki Sugimoto,
Jun Miyake:「Analysis of a Weak Affinity Interaction by AFM 」、2001 JRCAT International Workshop
on Single-Molecular Technology (Tsukuba, Japan, Jan2001)
45) Jun Miyake, Arkadiusz Ptak, Seiji Takeda, Chikashi Nakamura, Masami Kageshima, Mark Lantz, Hiroshi
Tokumoto:「AFM for Characterization of Bio-Nanomachine Components」、2001 JRCAT International Workshop
on Single-Molecular Technology (Tsukuba, Japan, Jan2001)
46) Arkadiusz Ptak, Seiji Takeda, Chikashi Nakamura, Jun Miyake: 「Elastic modulus of a single peptide
molecule estimated using AFM」、2001 JRCAT International Workshop on Single-Molecular Technology
(Tsukuba, Japan, Jan2001)
47) Seiji Takeda, Arkadiusz Ptak, Chikashi Nakamura, Jun Miyake, Masami Kageshima, Hiroshi Tokumoto:
「The effect of urea on rupturing process of single peptide molecule was investigated by AFM」、
2001 JRCAT International Workshop on Single-Molecular Technology (Tsukuba, Japan, Jan2001)
48) Chikashi Nakamura, Seiji Takeda, Miyuki Itoh, Kazuko Sekizawa, Jun Miyake:「High Sensitivity Molecular
Detection Using AFM Force Measurement」、The 12th Molecular Electronics and Devices Symposium (ME
&D12) (Busan, Korea, May2001)
49) Arkadiusz Ptak, Seiji Takeda, Chikashi Nakamura, Jun Miyake, Masami Kageshima, Suzanne P. Jarvis
and Hiroshi Tokumoto: 「Modified AFM System for Direct Investigation of Elastic Properties of Single
Molecules」、Tokyo-2001: Scanning Probe Microscopy, Sensors and Nanostructures (Chiba, Japan, May2001)
50) Seiji Takeda, Arkadiusz Ptak, Chikashi Nakamura, Jun Miyake, Masami Kageshima, Suzanne P. Jarvis,
Hiroshi Tokumoto: 「The conformation of an α helix in the scale of a single molecule in milliseconds
was investigated by Atomic Force Microscopy」、Tokyo-2001: Scanning Probe Microscopy, Sensors and
Nanostructures (Chiba, Japan, May2001)
51) Arkadiusz Ptak, Seiji Takeda, Chikashi Nakamura, Jun Miyake, Masami Kageshima, Suzanne P. Jarvis,
Hiroshi Tokumoto: 「Elastic properties of a single peptide molecule investigated by AFM」、11th
International Conference on Scanning Tunneling Microscopy/Spectroscopy and Related Techniques (STM
‘01) (Vancouver, Canada, Jul2001)
52) Seiji Takeda, Arkadiusz Ptak, Chikashi Nakamura, Jun Miyake, Masami Kageshima, Suzanne P. Jarvis,
Hiroshi Tokumoto: 「Conformation of α helical peptide molecule was measured directly by AFM」、11th
International Conference on Scanning Tunneling Microscopy/Spectroscopy and Related Techniques (STM
‘01) (Vancouver, Canada, Jul2001)
53) Arkadiusz Ptak, Seiji Takeda, Chikashi Nakamura, Jun Miyake, Masami Kageshima, Suzanne P. Jarvis,
Hiroshi Tokumoto: 「Modified AFM system applied for direct investigation of the elastic properties
of single bio-molecules」、 The 4th International Conference on Biological Physics (ICBP2001) (Kyoto,
Japan, Jul2001)
7.4. 特許出願
1) 特願2000− 200565
平成12年7月3日
「アミノ基を有する塩素化芳香族化合物の検出試薬、及びそれに用いられるペプチド」
210
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
発明者
三宅
淳、中村
史、星野貴行、榎本秀幸
2) 特願2000− 261373
平成12年9月14日
「溶液中の低分子化合物の検出方法」
発明者
三宅
淳、中村
3) 特願2001− 5131
史、宋
晟薫、張
尚睦、新井孝昭
平成13年1月12日
「定電位電解式水素センサ」
三宅
淳、中村
史、銭
東金、Nikolay Zorin、福井
清、中村俊一
4) New U.S. Utility Patent Application, filed on December 27, 2000
METHOD FOR DETECTING LOW MOLECULAR WEIGHT COMPOUND IN SOLUTION
Inventor, Jun Miyake, Chikashi Nakamura, Seong-Hun Song, Sang-Mok Chang, Takaaki Arai
211
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
3.1. 超機能評価法の開発
3.1.2. ライブラリーの光学的評価法の確立と高分子及びペプチド系材料開発への応用
産業技術総合研究所生活環境系特別研究体
大槻
要
荘一
約
ライブラリーの形態としては、1つ1つの担体に化合物がランダムに固定化されたものとして、古くから用い
られているビーズを担体に用いるものの他、最近ではファージや細胞を担体に用いるものがある。ただし、後の
2つは大規模なライブラリーの作製が可能であるが、非天然化合物を用いることができないという欠点がある。
また、分子進化法を用いることにより、さらに大規模なライブラリーの取り扱いが可能であるが、現状では対象
がほぼ核酸に限定されてしまうこと、非天然の塩基の導入が難しいなどの問題点を有している。一方、2次元の
配列を基本とする場所特異的なライブラリー(本稿では2次元ライブラリーと呼ぶ)として、マルチピン、担体
にろ紙や多孔質膜を用いるドットブロット、担体にガラス基板を用いアクリルアミドなどのゲルを化合物の固定
に用いるゲルパッドなどがある。これらに対し、担体としてガラスやポリプロピレンなど表面の平滑な基板を用
い、基板に直接化合物を固定化する形態がある(本稿ではマイクロアレイと呼ぶ)。これは、高密度化が容易、
画像による測定や解析が可能、ハイブリダイゼーションが速い、洗浄も容易など多くの利点を持っている。この
ため、DNA をマイクロアレイ化した DNA アレイが既に開発され、医療を中心とする幅広い分野で分析ツールとして
用途を拡大しつつあり、さらにタンパク質をマイクロアレイ化したプロテインアレイが次世代の分析ツールとし
て期待されている。そのため、本研究でもライブラリーの形態としてマイクロアレイを選び、高分子及びペプチ
ド系材料のマイクロアレイ化を研究課題とした。
一方、2次元ライブラリーの評価法として、放射性同位元素法が最も感度の高い方法であるが、安全性や取り
扱いにくさの点で問題が多い。そのため、同程度の感度が得られ取り扱いの簡便な蛍光法が現状では最もよく用
いられている。しかしながら、試料を蛍光色素で標識する必要があり、標識化に際する反応効率や色素の光分解
などの因子が関与するため、厳密な解析が困難であるという欠点を有している。このため、試料の標識化が不要
で高効率な分析法の開発が強く求められている。マススペクトル法(MALDI-TOF-MS)は、微量物質の同定が可能
という点で優れた方法であるが、現状では大型で高価な装置が必要なため、一般には普及しがたい。一方、表面
プラズモン共鳴法(SPR)、反射干渉分光法(RIfS)、エリプソメトリーなどの光学的手法は、装置の小型化、低
価格化が可能という点で最も有望と考えられる。
中でも、2次元 SPR 法(2DSPR)は 1980 年代の終わりにドイツのクノールらが始めた方法で、アメリカのコー
ンらが DNA アレイ分析法として盛んに研究を行うなど、注目されている。励起光に白色光を用い反射光の近赤外
部を狭帯域フィルターを介して CCD で検出することで、フリンジのない均一な画像と高い感度の両立が図られた。
また、SPR による反射光の減衰曲線の直線に近い部分を利用し、シミュレーションにより、反射光強度の変化が5%
以下の範囲では反射光強度の変化は屈折率の変化と直線関係があり、2次元で定量的な測定が可能であることが
示されたが、測定できる膜圧の範囲が狭いという欠点を有している。
本研究では、特に 2DSPR 法に注目し、その更なる改良を目指した。前述のように2DSPR 法はまだ問題を有して
212
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
いるため、実用化には遠いのが現状である。特に、単に試料からの光の反射率の変化を測定しているため、測定
波長や入射角によって、反射率が増加したり減少したりする等、定量性に難点があるとともに、測定条件の設定
が熟練を要した。そのため、表面プラズモン共鳴に基づき画像の各点で共鳴波長を計算し画像を再構成する新し
い手法を開発した。
研究目的
本研究では、超機能材料を高効率で探索することが可能なライブラリーの評価法を開発するため、特に2次元
ライブラリーの評価に有効と考えられる光学的検出技術を開発し、さらに評価手法に適したライブラリー調製法
を開発することにより、高効率な評価系を確立する。
研究方法
1)装置
装置の概略を図1に示す。1mm厚BK7ガラス板上に、50 nm厚銀薄膜を真空蒸着により作製し、これを基板とし
試料を作製した。裸のガラス側を60°三角プリズムにマッチング液により密着させた。ハロゲンランプから分光器
を通した単色光を、2枚の凸レンズとピンホールからなるコリメーターによって平行光とし、プリズムを介して
試料に照射した。試料からの反射光は偏光子と凸レンズを通してCCDカメラのセンサ面に投影した。カメラからの
ビデオ信号は画像取り込みボードを通して、デジタル化しパソコンに送った。取り込んだ画像はサイズが640 × 512
で、精度は8ビットとした。
基板
試料
金属膜
ピンホール
偏光子
ライトガイド
ピンホール
プリズム
CCDカメラ
ランプ +
モノクロメータ
図1. 2DSPR装置の概要
2)測定方法
システムの波長依存性を補正するため、入射角を測定波長範囲で共鳴の起こらない 40°程度の角度とし、400~
800 nm 程度の間で 5~10 nm 程度の一定間隔おきに波長を変化させて試料からの反射光像を測定した。それぞれの
波長で測定した画像の平均の明るさを算出し、最も明るい画像の値で規格化し、バックグラウンドデータとした。
次に、入射角を共鳴の起こる 45°程度の角度とし、同様の測定を行い、得られた反射光像の明るさをバックグラウ
ンドデータで算術的に除することにより、波長に関して補正を行った。次に、波長を変化させて測定した一連の
画像の対応する各画素において、波長を独立変数とし明るさを従属変数として2次多項式でフィッテングを行う
ことにより、明るさが最も小さくなる波長(SPR 波長)を決定した。
213
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3)データ解析
測定によって得られた試料の2次元的な SPR 波長分布は、シミュレーションによって得た換算式によって試料
の膜厚分布に変換した。まず、一定間隔ごとに試料の膜厚を変化させ、反射強度の波長依存性をフレネルの式に
よる理論計算でシミュレートし、その極小値から SPR 波長を求めた。計算に用いた条件は、以下の通りである。
まず、試料の屈折率を 1.45 程度で波長に依存しないものと考えた。BK7 ガラスおよび銀の屈折率は波長に依存す
ると考え、文献値を用いた。なお、これらの条件は実験の際に実際に用いた条件と同一であった。図 2 に、試料
の厚さとシミュレートした SPR 波長の間の関係を示す。SPR 波長を試料の厚さに換算する式は、シミュレートした
Sample thickness / nm
データを二次多項式で近似することにより得た。多項式の係数と決定係数を図 2 中に示す。
20
Simulated value
Fitted curve
d = a + bx + cx2
a = – 85.7
b = 0.246
c = –1.246 × 10–4
R2 = 0.9999
10
0
450
500
550
600
650
SPR wavelength / nm
図2
研究成果結果と考察
いくつかの種類のタンパク質の水溶液を作製し、銀を蒸着した基板上に、その体積 0.5 µL の液滴を付着させた。
タンパク質の濃度は 0.1%、0.02%、0.004%、0.0008%および 0.00016%と5種類に変化させた。空気中で自然乾燥さ
せたところ、約 1 mm 径のスポットが得られた。これを予備的な測定試料として用いた。
波長 470 nm、入射角 45.0°で測定した上記試料(タンパク質はアルブミン)の反射光像を図 3(a)に示す。ただ
し、見やすくするために、明るさを2倍に増強している。この画像は反射光のコントラストの変化のみによる従
来型の2次元 SPR 測定の結果に相当する。スポットは用いた水溶液の濃度が右から順に高くなるように、2 mm 間
隔で配列している。高濃度の水溶液から作製した2つのスポットが基底部よりも明るく、それよりも低濃度の溶
液から作製した3つのスポットが暗く表示されている。そこで、共鳴は基底部では起こっておらず、3つの暗い
スポットの近くで起こっており、2つの明るいスポットは共鳴位置から遠く離れているといえる。しかし、この
結果からだけでは、スポットは互いに膜厚が異なるということがわかるのみで、どのスポットの厚さが最も大き
いのかといった単純な判断さえ困難である。それを知るためには、フレネルの式に基づく理論計算から得たシミ
ュレーション結果と比較する必要がある。このように、従来の 2DSPR 法は、全く定性的な結果を与えるのみであ
ることがわかる。
次に、同じ試料を用い、入射角 45.0°で波長を 400 nm~670 nm の範囲で 10 nm 毎に変化させて測定を行い、得
られた SPR 波長分布を前述の変換式で厚さ分布に変換した画像を図 3(b)に示す。画像は厚さが大きくなるほど明
るくなるように表示している。図 3(b)中の直線に沿って描いた試料の直線プロフィールを図 3(c)に、表面プロフ
ィールを図 3(d)に示す。試料の SPR 波長分布を測定し厚さに変換することにより、データを様々な形態に加工し
て解析することが可能となる。基底部はほとんど平坦で、明らかなノイズは認められない。基底部がシミュレー
214
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
ションによる厚さゼロ点からわずかにずれているが、これは光学系の調整ミスによる入射角のずれに起因すると
考えられる。
考
察
新しく開発した 2DSPR 法による測定結果の正しさを確認するため、測定に用いた試料の厚さを触針式膜厚計で調
べた。その結果、濃度 0.1%に対応するスポットが 25−30 nm。濃度 0.02%が 4−10 nm と測定された。この結果は 2DSPR
によるものとおおよそ一致する。しかし、それより低濃度に対応するスポットの厚さは触針式膜厚計では測定で
きなかった。さらに、高濃度に対応する2つのスポットの触針式膜厚計による結果はかなりばらつきがあった。
実際、試料表面のプロフィールを触針式膜厚計で測定してみると、周期約 0.5 mm で高さ約± 10 nm のうねりと、
周期の短い高さ約± 2 nm の凹凸が認められた。これが、触針式膜厚計を用いて nm スケールで試料の厚さを測定す
る際の困難であった。また、これはある程度ガラス表面の実際の形状を反映しているものとも考えられる。一方、
2DSPR では、同じ濃度に対応するスポットの場合は、基板上の位置が異なっていても、再現性よく測定できた。
基板の凹凸に関わりなく、表面に付着している試料の実効的な厚さを測定できたものと考えられる。
2次元表面プラズモン共鳴(2DSPR)法を検討し、空気中で複数の薄膜状スポットの厚さを同時に nm スケール
で測定することができることを確認した。本手法は基板上に作製した多くの種類の化合物を一度に評価するハイ
スループットスクリーニングの手段として期待される。
引用文献
なし
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌
二次元表面プラズモン共鳴法の新方法開発-生命科学の研究進展に貢献,大槻荘一,日経先端技術、(8),
2 (2002).
イ)国外誌
Development of a Two-Dimensional Evaluation Method for Thin Layers using Surface Plasmon Resonance,
Soichi Otsuki, Kensuke Murai, and Susumu Yoshikawa, Chem. Lett., (12), 1312 (2001).
2)原著論文以外による発表
なし
3)口頭発表
ア)招待講演
なし
イ)応募・主催講演等
大槻荘一,村井健介,吉川暹:表面プラズモン共鳴を用いた薄膜の2次元評価法の開発,第49回高分子
討論会(仙台,2000. 9).
215
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
大槻荘一,村井健介,吉川暹:2次元表面プラズモン共鳴法による表面形態観察,日本化学会第79春
季年会(神戸,2001.3).
4)特許等出願等
大槻荘一、村井健介、吉川暹、「表面分析法」特願2000-266516
216
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
3.1 超機能評価法の開発
3.1.3. 非天然アミノ酸を含む人工タンパク質機能高効率評価法の開発
京都大学エネルギー理工学研究所
森井
要
孝、牧野 圭祐
約
我々は、塩基配列選択的にDNAと結合する二量体ペプチドに注目し、DNA結合ドメインとして天然のタン
パク質のDNA結合ドメイン由来のペプチドを、二量化部位として・-シクロデキストリン(Cd)とそのゲスト分
子からなるホストゲスト包接化合物を有した人工 DNA 結合タンパク質の合成に成功している。ホストゲスト相互
作用により、二量体を形成するペプチドは、天然のタンパク質とは異なり、2つのドメインが完全に独立してい
るので、非天然アミノ酸を含む人工タンパク質の構築には非常に適している。
これまでの研究で、ある値以上の二量体安定性があれば、効率よくペプチド二量体− DNA複合体形成は進行
することが明かとなり、本手法が新しい機能性ペプチドをスクリーニングするための有効な手法となり得ること
が示唆された。この機能性ドメインの作成法を用いて、DNA 結合タンパク質を創製できると考えられる。固相合成
法を用いて短鎖オリゴペプチドのライブラリーを合成した後、高効率かつ高選択的な修飾反応を組み合わせて短
鎖オリゴペプチドを安定化できるようなタンパク質ドメイン(セカンドサブユニット)を短鎖ペプチドに導入し、
全体として安定な折り畳み構造を形成させることによって、機能を発揮することが可能なスモールプロテインラ
イブラリーへと進化させる。
また、細胞内で機能を発揮するペプチド探索のために、昨年度までに明らかになった手法を発展させ、非天然
アミノ酸を含むDNA結合部位および生理条件下でも機能する新しいフォールディングドメインの作製を試みた。
現在までにファージディスプレイ法を用いて、特定のタンパク質モジュールをもとにしたDNA塩基配列認識
能をもつタンパク質の創製は報告されているが、DNA結合タンパク質の多くは塩基性アミノ酸に富んでおり、
ファージディスプレイ法に適さない場合が多い。また、非天然アミノ酸を用いた人工タンパク質を分子動力学計
算等により、新たにデザインすることも現在のところ不可能である。従って、ここに示す最小機能ドメインを有
するスモールプロテインライブラリーを用いた方法は、人工転写因子などの新しい設計方法になると考えられる。
目
的
固相合成法を用いて短鎖オリゴペプチドのライブラリーを合成した後、高効率かつ高選択的な修飾反応を組み
合わせて短鎖オリゴペプチドを安定化できるようなタンパク質ドメイン(セカンドサブユニット)それぞれのペ
プチドに導入し、全体として安定な折り畳み構造を形成させることによって、機能を発揮することが可能なスモ
ールプロテインライブラリーへと進化させる。
新しく設計したDNA結合ドメインに非天然ペプチドを導入したファーストサブユニットを固相合成法によっ
て作製してペプチドライブラリー化し、続いて天然型アミノ酸から成るセカンドサブユニットを導入して、生理
条件下でも DNA 結合能を発揮しうる最小機能ドメインを有するスモールプロテインライブラリーを作製する。
217
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
本研究では、固相合成法を用いて短鎖オリゴペプチドを合成した後、高効率かつ高選択的な修飾反応を組み合わ
せてセカンドサブユニットを導入し、30アミノ酸以下からなるペプチドライブラリーを、ドメインとして機能
を発揮することが可能なスモールプロテインライブラリーへと進化させる。これによって、現在は基質のスクリ
ーニングにとどまっているライブラリー法の応用範囲を飛躍的に拡大することが可能であるとともに、人工タン
パク質の創製に、究極の「合目的分子設計」を導入できる。この分野における我が国の優唖性維持のために、こ
の研究の緊急な実施が必要である。非天然アミノ酸を含むスモールプロテインのライブラリー化により、これま
では、比較的小分子に制限されていた分子探索法の応用範囲を機能をもった人工タンパク質探索へと飛躍的に拡
張することができる。これによって、高エネルギー効率や環境に即応した機能性材料、機能性反応素子の開発等
の実現に展望が開ける。
研究方法
ペプチド二量体の熱力学的安定性を変化させるために、ゲスト分子の種類の異なる5種類のプチド二量体を合
成した。DNA結合ドメインとして転写因子GCN4のDNA結合領域由来の24残基のペプチドを共通に用い、
そのC末端のシステインの側鎖に Cd、そしてアダマンタン(Ad)などの各種ゲスト分子を導入した。これらのペ
プチド二量体を用いて、GCN4が特異的に認識するDNA配列に対する結合をゲルシフトアッセイにより定量
的に評価したところ、二量体の安定性とペプチド二量体− DNA複合体の安定性は直線関係にはなく、ある値以
上の二量体安定性があれば、効率よくペプチド二量体− DNA複合体形成は進行することがわかった。
非天然アミノ酸を含むスモールプロテインライブラリーをこのホスト− ゲスト二量体形成部位を用いて作成し
た際に、効率よく結合 DNA 配列がスクリーニングできるかどうかを明らかにするため、まず、非天然アミノ酸を
用いて作成したヘリックスと、どのようなDNA塩基配列に適合するかが明らかになっているもう一つの認識ヘ
リックスによる異種二量体の DNA 結合について解析した。
DNA認識に関与する認識ヘリックス(23 アミノ酸)をD-アミノ酸を合成し、二量体形成を促進するために C
末端にシクロデキストリンを導入してファーストサブユニットを作成した。これに、すでにどのようなDNA塩
基配列に適合するかが明らかになっているも GCN4 の認識ヘリックス(L-アミノ酸、23 アミノ酸)のC末端をアダ
マンタンで修飾したセカンドサブユニットを導入することにより、異種二裏体としてDNA結合能を有すると考
えられる機能性スモールプロテインに変換した。
この異種二量体をDNAライブラリーに対してスクリーニングし、結合する塩基配列を探索したところ、3ラ
ウンドのスクリーニングで 5'-ATGAC-ACCAC-3', 5'-ATGAC-ACTTA-3' などの塩基配列が得られた。現在のところ、
まだはっきりしたコンセンサス配列は得られていないため、今後、スクリーニングの条件を高塩濃度・コンペテ
ィターDNA の添加という二点について適正化していく予定である。
研究成果
1. 機能性人工タンパク質の構築法の確立[1、2]
ペプチド二量体の熱力学的安定性を変化させるために、ゲスト分子の種類の異なる5種類のプチド二量体を合
成した。DNA結合ドメインとして転写因子GCN4のDNA結合領域由来の24残基のペプチドを共通に用い、
そのC末端のシステインの側鎖に Cd、そしてアダマンタン(Ad)などの各種ゲスト分子を導入した。これらのペ
プチド二量体を用いて、GCN4が特異的に認識するDNA配列に対する結合をゲルシフトアッセイにより定量
的に評価したところ、二量体の安定性とペプチド二量体− DNA複合体の安定性は直線関係にはなく、2.5
kcal/mol 以上の二量体安定性があれば、効率よくペプチド二量体− DNA複合体形成は進行することがわかった。
218
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図1 ホスト-ゲスト錯体形成によ
り、二量化したペプチドとDNAと
の複合体の予想図。
図1
非天然アミノ酸を含むスモールプロテインライブラリーをこのホスト− ゲスト二量体形成部位を用いて作成し
た際に、効率よく結合 DNA 配列がスクリーニングできるかどうかを明らかにするため、どのようなDNA塩基配
列に適合するかが明らかになっているGCN4認識ヘリックスと、認識機構が明らかになっていない転写因子に
由来するペプチドによる異種二量体の DNA 結合について解析した。
2. 非天然アミノ酸により合成したペプチドのDNA認識[3]
非天然アミノ酸を含むスモールプロテインライブラリーをホスト− ゲスト二量体形成部位を用いて作成した際
に、効率よく結合DNA配列がスクリーニングできるかどうかを明らかにするため、まず、非天然アミノ酸を用
いて作成したヘリックスと、どのようなDNA塩基配列に適合するかが明らかになっているもう一つの認識ヘリ
ックスによる異種二量体のDNA結合について解析した。DNA認識に関与する認識ヘリックス(23 アミノ酸)
をD-アミノ酸を合成し、二量体形成を促進するために C 末端にシクロデキストリンを導入してファーストサブユ
ニットを作成した。これに、すでにどのようなDNA塩基配列に適合するかが明らかになっているもGCN4の
認識ヘリックス(L-アミノ酸、23 アミノ酸)のC末端をアダマンタンで修飾したセカンドサブユニットを導入す
ることにより、異種二量体としてDNA結合能を有すると考えられる機能性スモールプロテインに変換した。
219
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
G 23/N ew Peptid e 異種二量体のゲルシフトアッセイ
二量体・DNA複合体
フリーDNA
DNAを単離
PC R
N e w P e p tid e 認識 配列 の決 定
図2
機能性スモールプロテインドメインを用いた SAAB 法によるペプチド認識塩基配列の決定
図2
この異種二量体のうち、天然のGCN4に由来するモノマーは 5'-ATGAC-3'というをDNA配列に結合することが
期待されるため、異種二量体は 5'-ATGAC-NNNNN-3'(N は A,T,G,C いずれかの塩基配列)に結合する。そこで、
5'-ATGAC-NNNNN-3'配列を有するDNAライブラリーを作製し、異種二量体に対してスクリーニングを行った。こ
の際、結合配列の選出が確実に行われるかどうかを判定するために、両サブユニット共にGCN4に由来する配
列を持ったペプチド二量体を用いてDNAライブラリーから結合配列を選出した。
G23Cd:L-アミノ酸で作製したペプチド
5’-GTCAT-3’を認識する
5’-NNNNN-3’に対して、5’-GTCAT-3’が選択される
ようなSAAB条件を探索する
図3
5’-ATGACNNNNN-3’を用いた L-アミノ酸で作製したGCN4ペプチドのDNA結合配列の決定
図3
結合サイトの半分を GCN4 由来のオリゴペプチドが認識する 5’-ATGAC-3’配列とし、残りの半分をランダム化
220
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
した配列 (5’-ATGACN1N2N3N4N5-3’) の N5-3 テンプレートに 32P でラベル化したプライマーをアニールさせた後、
Klenow Fragment により伸長反応を起こして二本鎖テンプレートのランダムプールを作製した。次に、このプール
に GCN4 由来のタンパク質の N 末端に Ad を導入した G23Ad と人工タンパク質の C 末端に Cd を導入した DG23Cd の
異種二量体、およびコントロールとして G23Ad と G23Cd からなる二量体タンパク質をそれぞれ 50nM、100nM、200nM
の濃度になるように加え、4℃で 30 分間結合実験を行い、氷上でのゲルシフトアッセイにより両者の複合体を分
取した。PCR 法 (94℃ 30 秒、52℃ 30 秒、73℃ 60 秒を 15 サイクル) により選択された配列を増幅させた後、そ
の増幅させた配列を再び結合実験に用いた。以上のような一連の結合、選択、増幅の操作を繰り返し、二量体タ
ンパク質と結合する配列の濃縮を行った。各結合・選択・増幅の操作ごとに特異的に結合する配列の濃縮を確認
後、選択された配列を 32Pでラベル化していないプライマーを用いて PCR 法により増幅させ、制限酵素 Bam HI お
よび Eco RI によりテンプレートを切断して、pUC19 にクローニングを行った。生成したコロニーを数十個ずつ選
び、異種二量体結合部位の塩基配列決定を行った。低塩濃度(4 mM KCl)の条件下で結合・濃縮実験を3回繰り
返して行った後、塩基配列を決定した結果からは、N1 の位置に G が選択される可能性が高いことは確認できたが、
選ばれてきた塩基配列の種類が多く、この結合条件では特定の塩基配列に収束しないことがわかった。そこで、
5回目の結合・濃縮実験以降、結合反応に dI-dC を添加し、結合・濃縮実験を更に3回繰り返したのち結合部位
の塩基配列を決定した。その結果を解析したところ、N1 の位置に G が選択される可能性は以前よりも高くなって
おり、また N1 の位置に G が選択された場合、N2 の位置には T が高確率で選択されるということがわかり、dI-dC
の添加による G23Ad と G23Cd からなる二量体と非特異的な塩基配列との結合の抑制が確認できた。8回目のサイ
クル以降は、更に非特異的な塩基配列の選択を抑制するため、高塩濃度(100 mM KCl)の条件下で結合・濃縮実
験を行い、11回目の結合・濃縮実験終了後に再び結合部位の塩基配列を決定した。その結果、選択性が低い N5
の位置のみ他の塩基が選択されて来ているのも含めて約 8 割の高確率で 5’-ATGACGTCAN-3’という配列を選択し
て収束していることがわかった。このことより、G23Ad と G23Cd のペプチド二量体の選択配列が収束する系を確立
することができ、回文配列を特異的に認識して結合することを確認できた。
G23Ad:5’-ATGAC-3’配列を認識
C23Cd:L-アミノ酸で作製したペプチド
図4 5’-ATGACNNNNN-3’を用いた異種二量体を形成したペプチドのDNA結合配列決定
図4
221
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
認識配列が未知の G23Ad と DG23Cd のタンパク質二量体についても G23Ad と G23Cd のタンパク質二量体の認識配
列が収束したのと同様な条件で結合、選択、増幅の操作を繰り返した。その結果、G23Ad と DG23Cd のタンパク質
二量体の結合配列は 5’-ATGACACANN-3’および 5’-ATGACACCNN-3’に収束した。
G23Ad:5’-ATGAC-3’配列を認識
DG23Cd:D-アミノ酸で作製したペプチド
3 回
図5
9 回
16回
5’-ATGACNNNNN-3’を用いた D-アミノ酸で作製したペプチドDNA結合配列の決定
図5
3. 生理条件下でもDNA結合能を有する新しいDNA結合モチーフの構築[4]
GCN4のDNA認識部位である23アミノ酸ペプチドは、生理条件下では満足なDNA結合能をもたないた
め、上記のスクリーニングは低温かつ低塩濃度で行う必要がある。そこでスクリーニングをより生理条件下に近
い環境でおこなえるように新しいDNA結合ドメインの設計を行った。GCN4の認識ヘリックス中、塩基配列
認識に必須のアミノ酸を熱的に安定なフォールディング構造を持つ villin(35アミノ酸)のαヘリックス中に
structure based design の手法を持って導入した。Villin の第3ヘリックスに GCN4 の塩基性領域を組み込み、
そのC末端にロイシンジッパー構造を付加したタンパク質 bVIL は、ゲルシフトアッセイを用いて DNA 結合能およ
び DNA 塩基配列認識能を測定したところ、予想通り二量体を形成して天然の GCN4 が認識する DNA 配列に結合する
ことがわかった。
222
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 6 Possible model for the interaction
between the bVIL-K71 DNA contacting region
(ribbon) and the AP1 DNA sequence (wire).
Only the DNA contacting region of a
monomeric bVIL-K71 is shown.
Coordinates
for DNA and the basic region are adopted
図6
作成した 2 種類の bVIL タンパク質は GCN4 由来の bZIP と同様の DNA との結合性を示したが、DNA 塩基配列選択性
は天然の GCN4 とは異なっていた。 GCN4 由来の bZIP が palindromic な DNA 塩基配列 5'-ATGACGTCAT-3' (CRE) に
比べて non-palindromic な DNA 塩基配列 5'-ATGACTCAT-3' (AP1) を強く認識するのに対し、bVIL タンパク質は
palindromic な CRE 配列をより強く認識した。また非特異的配列である HS; 5'-CGGATGACACTGCTTTTTTTC-3'および
MCK; 5'-GATCCCCCCAACACCTGCTGCCTGA-3'に対する結合能も同時に測定したところ、
認識配列に対してそれぞれ 1/20
倍、1/100 倍の結合能であり、bVIL タンパク質の DNA 配列認識能が維持されていることが示唆された。作製した 2
種類のタンパク質と GCN4 の熱安定性を 4-80℃ の温度区間において CD スペクトルを用いて測定したところ、
bVIL-K71 は GCN4 に比べ熱安定性の増加が認められた。
考
察
非天然ペプチドを用いたファーストサブユニットに、セカンドサブユニットをホスト− ゲスト二量体形成を用
いて導入して、最小機能ドメインを有するスモールプロテインが合成できる。DNAライブラリーを作製し、異
種二量体に対してスクリーニングを行ったところ、両サブユニット共にGCN4に由来する配列を持ったペプチ
ド二量体を用いてDNAライブラリーから結合配列を選出できた。認識配列が未知の機能性スモールドメインに
ついても結合、選択、増幅の操作を繰り返した結果、特定の配列を選出することが出来た。以上のことから本手
法は、今後新たに作製する非天然の DNA 結合部位がどのような DNA 塩基配列を認識するかを明らかにするための
一般的手法として拡張できると考えられる。
本年度作製した、生理条件下でも充分なDNA認識能を持つ新しいDNA認識ドメインをもとに、ライブラリ
ー化をはかることにより、充分な機能を持つ非天然アミノ酸を含む人工タンパク質を探索する。
引用文献
1. Comparison of the Sequence-Selective DNA Binding by Peptide Dimers with Covalent and Noncovalent
Dimerization Domains. Y. Aizawa, Y. Sugiura and T. Morii, Biochemistry 38, 1626-1632 (1999).
2. Stability of the Dimerization Domains Effects the Cooperative DNA Binding of Short Peptides. Y. Aizawa,
Y. Sugiura, M. Ueno, Y. Mori, K. Imoto, K. Makino and T. Morii, Biochemistry 38, 4008-4017 (1999).
3. A General Strategy to Determine a Target DNA Sequence of Short Peptide: Application to a D-Peptide.
223
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
T. Morii, T. Tanaka, S. Sato, M. Hagihara, Y. Aizawa and K. Makino, J. Am. Chem. Soc. 124, 180-181 (2002).
4. Structure-Based Design of a Leucine Zipper Protein with New DNA Contacting Region. T. Morii, S. Sato,
M. Hagihara, Y. Mori, K. Imoto and K. Makino, Biochemistry 41, 2177-2183 (2002).
成果の発表
7.1. 原著論文による発表
7.1.1. 国内誌
なし
7.1.2. 国外誌
Comparison of the Sequence-Selective DNA Binding by Peptide Dimers with Covalent and Noncovalent
Dimerization Domains.
Y. Aizawa, Y. Sugiura and T. Morii
Biochemistry 38, 1626-1632 (1999).
Stability of the Dimerization Domains Effects the Cooperative DNA Binding of Short Peptides.
Y. Aizawa, Y. Sugiura, M. Ueno, Y. Mori, K. Imoto, K. Makino and T. Morii
Biochemistry 38, 4008-4017 (1999).
Isolation and Characterization of Diazoate Intermediate upon Nitrous Acid and Nitric Oxide Treatment of
2'-Deoxycytidine.
T. Suzuki, T. Nakamura, M. Yamada, H. Ide, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii and K. Makino
Biochemistry, 38, 7151-7158 (1999).
Identification and characterization of a reaction product of 2’-deoxyoxanosine with glycine.
T. Suzuki, M. Yamada, H. Ide, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii, and K. Makino
Chem. Res. Toxicol., 13, 227-230 (2000).
Products of the reaction between a diazoate derivative of 2'-deoxycytidine and l-lysine and its implication
for DNA-nucleoprotein cross-linking by NO or HNO2.
T. Suzuki, M. Yamada, T. Nakamura, H. Ide, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii, and K. Makino
Chem. Res. Toxicol., 13, 1223-1227 (2000).
Effects of 6-formylpterin, a xanthine oxidase inhibitor and a superoxide scavenger, on production of nitric
oxide in RAW 264.7 macropharges.
Hiroko Mori, Toshiyuki Arai, Kiichi Hirota, Hisanari Ishii, Nobuyuki Endo, Keisuke Makino, Kazuhiko Fukuda
Biochim. Biophys. Acta, 1474, 93-99 (2000).
lnfluence of ring opening-closure equilibrium of oxanine, a novel damaged nucleobase, on migration behavior
in capillary electrophoresis.
224
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
T. Suzuki, M. Yamada, H. Ide, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii, and K. Makino
J. Chromatogr. A, 877, 225-232 (2000).
DNA binding of a basic leucine-zipper protein with novel folding domain.
S. Sato, K. Makino, and T. Morii
Nucleic Acids Res. Symp. Ser., 44, 13-14 (2000).
Preparation and enzymatic recognition of guanine lesions induced by nitrogen oxide.
A. Masaoka, H. Terato, A. Honsho, Y. Ohyama, T. Suzuki, M. Yamada, K. Makino, and H. Ide
Nucleic Acids Res. Symp. Ser., 44, 87-88 (2000).
NO induced novel DNA lesions: Formation mechanism.
M. Yamada, T. Suzuki, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii, and K. Makino
Nucleic Acids Res. Symp. Ser., 44, 273-274 (2000).
In vitro selection by using mutated GCN4-bZIP peptides for analysis of peptide-DNA interactions.
H. Furusawa, T. Morii and Y. Okahata
Nucleic Acids Res. Symp. Ser., 44, 245-246 (2000).
Formation of 2’-deoxyoxanosine from 2’-deoxyguanosine and nitrous acid: mechanism and intermediates.
T. Suzuki , H. Ide, M. Yamada, N. Endo, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii, and K. Makino
Nucleic Acids Res., 28, 544-551 (2000).
Multiple four-stranded conformation of human telomere sequence d(CCCTAA) in solution.
K. Kanaori, N. Shibayama, K. Gohda, K. Tajima, and K. Makino
Nucleic Acids Res., 29, 831-840 (2000).
6-Formylpterin, a xanthine oxidase inhibitor, intracellularly generates reactive oxygen species involved
in apoptosis and cell proliferation.
T. Arai, N. Endo, K. Yamashita, M. Sasada, H. Mori, H. Ishii, K. Makino, and K. Fukuda
Free Rad. Biol. Med., 30, 248-259 (2001).
Identification and Characterization of a Reaction Product of 2’-Deoxyoxanosine with Glycine.
T. Suzuki, M. Yamada, H. Ide, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii, and K. Makino
Chem. Res. Toxicol., 13, 227-230 (2000).
lnfluence of Ring Opening-Closure Equilibrium of Oxanine, a Novel Damaged Nucleobase, on Migration Behavior
in Capillary Electrophoresis.
T. Suzuki, M. Yamada, H. Ide, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii, and K. Makino
J. Chromatogr. A, 877, 225-232 (2000).
Products of the Reaction between a Diazoate Derivative of 2'-Deoxycytidine and L-Lysine and Its Implication
225
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
for DNA-Nucleoprotein Cross-Linking by NO or HNO2.
T. Suzuki, M. Yamada, T. Nakamura, H. Ide, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii, and K. Makino
Chem. Res. Toxicol., 13, 1223-1227 (2000).
DNA Binding of a Basic Leucine-Zipper Protein with Novel Folding Domain.
S. Sato, K. Makino, and T. Morii
Nucleic Acids Res. Symp. Ser., 44, 13-14 (2000).
NO Induced Novel DNA Lesions: Formation Mechanism.
M. Yamada, T. Suzuki, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii, and K. Makino
Nucleic Acids Res. Symp. Ser., 44, 273-274 (2000).
Design of Sequence Specific DNA Binding Peptide Dimers.
T. Morii
Protein Science, 9, 148 (2000).
Formation of 2-chloroinosine from guanosine by treatment of HNO2 in the presence of NaCl.
T. Suzuki, H. Ide, M. Yamada, T. Morii, and K. Makino,
Bioorg. & Med. Chem., 9, 2937-2941 (2001).
Recognition of small molecules by a ribonucleopeptide.
M. Hagihara, T. Morii and K. Makino
Nucleic Acids Res. Suppl., 1, 7-8 (2001).
A novel detection method for 2'-deoxyoxanosine.
M. Yamada, H. Honjo, T. Hasegawa, E. Morimoto, T. Suzuki, T. Morii and K. Makino
Nucleic Acids Res. Suppl., 1, 159-160 (2001).
Formation of a Fairly Stable Diazoate Intermediate of 5-Methyl-2'-deoxycytidine by HNO2 and NO, and Its
Implication to a Novel Mutation Mechanism in CpG Site.
T. Suzuki, M. Yamada, T. Nakamura, H. Ide, K. Kanaori, K. Tajima, T. Morii, and K. Makino
Bioorganic & Medicinal Chem. 10, 1063-1067 (2002).
A General Strategy to Determine a Target DNA Sequence of Short Peptide: Application to a D-Peptide.
T. Morii, T. Tanaka, S. Sato, M. Hagihara, Y. Aizawa and K. Makino
J. Am. Chem. Soc. 124, 180-181 (2002).
A New Fluorescent Biosensor for Inositol Trisphosphate.
T. Morii, K. Sugimoto, K. Makino, M. Otsuka, K. Imoto, and Y. Mori
J. Am. Chem. Soc. 124, 1139-1140 (2002).
Structure-Based Design of a Leucine Zipper Protein with New DNA Contacting Region.
226
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
T. Morii, S. Sato, M. Hagihara, Y. Mori, K. Imoto and K. Makino
Biochemistry 41, 2177-2183 (2002).
In Vitro Selection of ATP-binding Receptors Using a Ribonucleopeptide Complex.
T. Morii, M. Hagihara, S. Sato and K. Makino
J. Am. Chem. Soc. 124, 4617-4622 (2002).
7.2. 原著論文以外による発表
7.2.1. 国内誌
なし
7.2.2. 国外誌
なし
7.3. 口頭発表
7.3.1. 招待講演
なし
7.3.2. 応募・主催講演等
山田真希、鈴木利典、金折賢二、田嶋邦彦、森井 孝、牧野圭祐 “NO/O2 系で生成する新規 DNA 傷害 N2-ニトロ
デオキシグアノシン” 2000.5.13 生化学会近畿支部 大阪市立大学
森井 孝、○佐藤 慎一、牧野 圭祐、
“塩基性領域を新しいドメインに改変したロイシンジッパータンパク質に
よる DNA 認識”蛋白合同年会東京 2000 年6月
T. Morii、○S. Sato、K. Makino, DNA binding of a new basic leucine-zipper protein with a novel DNA contacting
domain.
山田真希、鈴木利典、金折賢二、田嶋邦彦、森井 孝、牧野圭祐 “一酸化窒素による DNA 傷害” 2000.6 磁気
共鳴医学会 東京(明治大学)
佐藤慎一・森井孝・牧野圭祐、
“新しい DNA 結合ドメインをもつロイシンジッパータンパク質による DNA 認識”第
15 回生体関連化学シンポジウム、2000.9
杉本健二、森井 孝、牧野圭祐、森 泰生、井本敬二、井上照彦、杉浦幸雄、大塚雅巳“生体内セカンドメッセン
ジャーに対する分子センサーの構築”第 15 回生体機能関連シンポジウム 200 年 9 月 奈良
萩原正規、森井孝、牧野圭祐 “RNA-ペプチド複合体による分子認識”第 15 回生体機能関連シンポジウム 200 年
9 月 奈良
Shin-ichi Sato, Takashi Morii and Keisuke Makino,"DNA binding of a basic leucine-zipper protein with novel
folding domain" 第 27 回核酸化学シンポジウム 2000.10
227
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Masaki Yamada, Toshinori Suzuki, Kenji Kanaori, Kunihiko Tajima, Takashi Morii, Keisuke Makino "NO induced
novel DNA lesions: formation mechanism" 2000.10 核酸化学シンポジウム 岡山県・三木ホール
S. Sato, T. Morii, and K. Makino, "DNA binding of a basic leucine-zipper protein with novel folding domain"
環太平洋国際化学会議 2000.12
M. Yamada1, T. Suzuki1, K. Kanaori2, K. Tajima2, T. Morii1, and K. Makino "N2-nitro-2’-deoxyguanosine,
a novel DNA lesion, from 2’-deoxyguanosine treated with NO/O2 mixture" 2000.12 PACIFICEM ハワイ・ホ
ノルル
M. Hagihara,T. Morii, K. Makino "In Vitro Selection of RNA Aptamers that Respond to a Small RNA-Binding
Ligand" 2000 環太平洋国際化学会議(PACIFICHEM 2000)2000 年 12 月 ホノルル)
田嶋邦彦、田邊佑輔、金折賢二、牧野圭祐“アセタール置換ジフェニルメタン誘導体ジカチオンラジカルの電子
状態”日本化学会 79 春季年会 神戸 2001 年 3 月 28 日
田嶋邦彦、磯部彰悟、近藤吉朗、和田啓男、牧野圭祐“超臨界メタノール中におけるフェノール誘導体のアルキ
ル化反応の機構”日本化学会 79 春季年会 神戸 2001 年 3 月 29 日
田嶋邦彦、山本真士、金折賢二、
、東長雄、牧野圭祐“芳香環ペンダントを有する環状アザクラウンエーテル Co(II)
錯体および酸素付加体の構造”日本化学会 79 春季年会 神戸 2001 年 3 月 29 日
杉本健二、森井孝、森泰生、井本敬二、大塚雅巳、牧野圭祐“イノシトール三リン酸に対する分子センサーの構
築”日本化学会 79 春季年会 神戸 2001 年 3 月 28 日
佐藤慎一、森井孝、牧野圭祐“Structure-based design による新しい DNA 結合ドメインの設計と DNA 認識機構
の解明”日本化学会 79 春季年会 神戸 2001 年 3 月 28 日
萩原正規、森井孝、牧野圭祐“リボヌクレオペプチドによる分子認識”日本化学会 79 春季年会 神戸 2001 年 3
月 28 日
山田真希、森本恵弥、鈴木利典、森井孝、牧野圭祐“デオキシオキザノシンと L-リシンの反応”日本化学会 79 春
季年会 神戸 2001 年 3 月 28 日
金折賢二、森山昭則、田嶋邦彦、牧野圭祐“テロメア配列が形成する DNA 構造の多形性”日本化学会 79 春季年会
神戸 2001 年 3 月 28 日
中嶋輝、遠藤伸之、田嶋邦彦、牧野圭祐“ニトロン系スピントラップ剤による金(III)の還元”日本化学会 79 春
季年会 神戸 2001 年 3 月 30 日
森井 孝、牧野圭祐“化学から見たタンパク質と DNA による超分子複合体生成”第 6 回機能性ホストゲスト化学
研究会 広島 2000 年 7 月 28 日
228
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Takashi Morii, Keisuke Makino, "Design of Sequence Specific DNA Binding Peptide Dimers." Fourteenth
Symposium of the Protein Society, San Diego, CA August 5-9, 2000.
萩原正規・森井孝・牧野圭祐“RNA-ペプチド複合体による分子認識”第16回生体機能関連化学シンポジウム 千
葉 2001 年 9 月 20 日
杉本健二・森井
孝・森
泰生・井本敬二・大塚雅巳・牧野圭祐“生体内セカンドメッセンジャーに対する分子
センサーの構築”第16回生体機能関連化学シンポジウム 千葉 2001 年 9 月 20 日
佐藤 慎一、何 冬蘭、森井 孝、牧野 圭祐“ロイシンジッパータンパク質による DNA 認識と構造転移の役割”
第16回生体機能関連化学シンポジウム 千葉 2001 年 9 月 20 日
萩原正規、森井孝、牧野圭祐“RNA・ペプチド複合体による人工リセプター(リボヌクレオペプチドリセプター)
の創製”第 74 回日本生化学会大会 京都 2001 年 10 月 25 日
杉本健二・森井
孝・森
泰生・井本敬二・大塚雅巳・牧野圭祐“イノシトール三リン酸に対する分子センサー
の構築”第 74 回日本生化学会大会 京都 2001 年 10 月 25 日
森井 孝、佐藤 慎一、牧野 圭祐“bZIP 構造による DNA 塩基配列特異的認識における構造転移の役割”第 74 回
日本生化学会大会 京都 2001 年 10 月 25 日
萩原正規・森井孝・牧野圭祐“リボヌクレオペプチドリセプターによる分子認識”第28回核酸化学シンポジウ
ム 横浜 2001 年 11 月 7 日
萩原正規、森井孝、牧野圭祐 “RNA・ペプチド複合体(リボヌクレオペプチド)による分子認識” 日本化学会
第 81 春季年会 東京 2002 年 3 月 26 日
杉本健二・森井
孝・森
泰生・井本敬二・大塚雅巳・牧野圭祐
“イノシトール三リン酸に対する分子センサ
ーの構築” 日本化学会第 81 春季年会 東京 2002 年 3 月 26 日
佐藤 慎一、田中 智久、萩原 正規、相沢 康則、森井 孝、牧野 圭祐 “短鎖ペプチドによる認識 DNA 塩
基配列決定法の確立” 日本化学会第 81 春季年会 東京 2002 年 3 月 26 日
7.4. 特許出願等
なし
7.5. 受賞等
なし
229
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
3.1. 超機能評価法の開発
3.1.4. 電気的評価法の開発:固体触媒機能評価法の開発
産業技術総合研究所生活環境系特別研究体
山田 裕介、上田 厚、小林 哲彦
要
約
固体触媒を用いた酸化反応(触媒燃焼、酸化的脱水素、含酸素化合物合成)の評価に適した迅速生成物分析法
として、ガスセンサの可能性を検討した。対象とした化合物は、主に酸化触媒反応生成物であった。種々のガス
センサを組み合わせることにより、多種類の生成物を含む選択酸化反応生成物の迅速分析も可能であることを明
らかとした。また、ハニカム上に成形された触媒担体に、粘性の高い金属石鹸を含浸溶媒として用いることによ
り、担持合金系触媒の迅速調製が可能となった。この調製法では多数の触媒を同時調製が可能であり、従来に比
べ 10 倍以上迅速調製が可能となった。その結果、触媒調製・評価ともに約 10 倍程度の迅速化が可能であり、ト
ータルで 10 倍程度のハイスループットが可能となった。当初の目的を達成したため、本研究は、I 期のみで終了
する。
研究目的
固体触媒開発へのコンビナトリアルケミストリの導入は 1996 年に始まり 1、1998 年になって、High Throughput
Screening(HTS)技術に関する報告が急速に増加したことで、注目されるようになった。2 図 1 に 2001 年 3 月時
点での米国・欧州・日本での取り組みの現状について示す。先行している米国では、NIST(National Institute of
Standards and Technology)が 1998 年から調査研究を行い、翌年からナショナルプロジェクトが開始されている。
ヨーロッパでも追随する形で独自のプロジェクトが 2000 年から開始されている。研究報告としては、米 UCLA、独
Max Plank 石炭研、独ベルリン応化研などの公的機関のものに加えて、Symyx technology 社(米 St。 Clara)や
hte 社(独 Heidelberg)等のベンチャー企業からのものもかなりの割合を占めており、新しいアイデアによる各
種の HTS 技術が提案されている。これまでのモデル反応を用いて HTS 技術の検証を行うという段階から、2000 年
になって実際に触媒の最適化を行った例も報告される段階になってきており、量的、時間的にも、かなりの迅速
化が見られる。3
230
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
publications
20
US A
No. of papers
Europe
10
Japan
others
0
1996
1997
USA
Venture capitals; Symyx(1994)
1998
NIST-ATP
fall meeting
1999
*NIST ATP
Program
2000
COMBI 2000
2001
year
56th ACS Northwest
Regional meeting
AIChE annual meeting
(starts combi cat from 1996)
Europe
hte (1999), Avantium (2000)
NATO ASI
symposium
Meetings etc.
*National project
Japan
No venture capital
Achema2000
Combi Europe
Combi Cat2000
COMBICAT
JCCF-10
Euro Combi-1
NATO ASI
symposium
CSJ
図 1. 固体触媒開発におけるコンビケム研究の現状
薬学・有機化学系研究に比べて、固体触媒へのコンビケムの導入が遅れた原因の一つは、触媒ライブラリ調製
段階において組成、結晶構造、微細形態などを再現性良く得るのが難しいことにある。さらに、触媒は「生きて
いる材料」と言われるように、反応条件を設定してはじめて物性が発現する場合が多く、さらに前処理や経時変
化の問題もある。そのため、一台の「総合コンビケム装置」で多くの触媒反応系に対応することは容易ではなく、
個々に必要技術を開発する必要があった。しかし、条件が合えば2〜3桁の実験効率の向上が可能な部分も多い。
固体触媒開発において、ハイスループットスクリーニングを実現するためには、触媒反応生成物の迅速定量な
らびに触媒の自動かつ迅速調製が必要である。触媒反応生成物の迅速定量にはこれまで、質量分析計を用いる方
法 4 や光イオン化法を用いる方法 5 等が報告されているが、それぞれ、一長一短があり、新たな評価手法の開発
が必要である。特に、今後、触媒ライブラリのミニチュア化が進むと考えられるため、高感度で、小型かつ安価
な評価手法が求められる。ガスセンサは、このような用件を満たす触媒反応生成物の迅速定量手法となる可能性
がある。そこで、ガスセンサを用いて、種々の酸化反応における生成物の分析を試みた。一方、固体触媒の自動
迅速調製法の開発にも新たな手法の開発が必要である。市販されている自動合成装置の多くは医薬品合成用に開
発されたものであるため、基本的に溶液を扱う仕様となっている。これまでに報告されている固体触媒の迅速・
ミニチュア合成では、液相合成法である sol-gel 法や析出沈殿法、あるいは、気相反応法である化学蒸着を用い
ている。しかし、一般に、固体触媒の多くは含浸法などの粉体をベースとした調製法で合成されている。このた
め、固体触媒の自動合成装置には粉体を自動で扱う技術が必要であるが、現時点では、形状、密度の大きく異な
る種々の粉体を自動合成装置で扱うのは、極めて困難である。そこで、自動合成装置でも扱いやすい、一定の強
度、形状を持つ、粉体を固めて得られる成形体あるいは焼結体の利用可能性を検討した。主に、コーディエライ
トをハニカム状に成形した担体への種々の遷移金属担持手法の検討を行った。
研究方法
プロパンの選択酸化反応における反応生成物の定量は、におい識別センサを用いて行った。ハニカム成形体を
231
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
担体に用いる触媒調製の際には、金属石けん溶液を用いた。
研究成果
4.1. ガスセンサを用いた触媒性能迅速評価 6
酸化反応には種々存在するが、その代表的なものは完全酸化反応、部分酸化反応、酸化的脱水素反応である。
我々はそれぞれのモデルとして、一酸化炭素完全酸化反応、プロパン部分酸化反応、エタン酸化的脱水素反応を
選び、ガスセンサでの触媒性能評価を行った。いずれも、従来法であるガスクロマトグラフを用いる方法と比較
して遜色のない触媒活性評価を短時間で出来ることが分かったが、ここでは、評価時間短縮に最も効果のあった
プロパン部分酸化反応に関して述べる。
プロパン部分酸化反応での生成物は大別すると、主目的生成物であるアルデヒド・ケトン類、副生成物である
一酸化炭素、二酸化炭素となる。主目的生成物であるアルデヒド・ケトン類は通常、特有の芳香を持つ。そこで、
ニオイ識別用に開発された半導体センサが定量に有効であると考えられた。また、副生成物である一酸化炭素、
二酸化炭素の定量は、活性炭フィルタ付き定電位電解式センサ、ならびに非分散式赤外吸収型センサを用いて行
った。このセンサシステムを用いて、アルカリ添加鉄シリカ触媒でのプロパン酸化反応での触媒活性評価を行っ
た。図 8 に、これらのガスセンサを用いて行った生成物定量の結果と、ガスクロマトグラフを用いて行った結果
を示す。定量値の絶対値に若干の差があるものの、活性序列は両者で一致しており、ガスセンサを用いて触媒性
能評価が可能であることが分かった。一つの触媒あたりに要した分析時間はガスセンサを用いた場合、約 2 分で
あったのに対し、ガスクロマトグラフを用いる場合は 40 分であり、ガスセンサを用いることで 20 倍早い触媒活
性評価が可能であることが分かった。
4.2. ハニカムを用いた固体触媒迅速調製法
有機合成用に開発された触媒自動調製装置を用いて、鉄錯体のアセトニトリル溶液の粉末シリカへの含浸操作
を行った。結果を図 9 に示す。溶液の量がシリカ表面積に比して少ない場合に必要となる強い撹拌が得られなか
ったため、溶液が担体全体に行き渡らず、金属成分の分布が不均一となった。このように、従来の自動合成装置
で粉体を扱うのには、限界がある。そこで、図 10 に示したようなコーディエライト製のハニカムを細かく切り出
したものを担体とし、触媒の調製を行った。しかし、ハニカム担体は焼結などの影響により、粉体に比べ、比表
面積が小さくなっている。そのため、通常の含浸法で用いられる金属硝酸塩水溶液などでは、担体表面に十分な
金属濃度を得ることが出来ない。そこで、金属濃度を上げるために、粘性が高く、金属イオン濃度も高い、金属
石鹸と呼ばれる長鎖アルキルカルボキシラートを配位子とする金属錯体の濃厚トルエン溶液を用いて触媒の調製
を行った。その結果、これらの溶液を用いれば、ハニカム担体を用いる場合でも、十分に金属濃度をあげること
が可能であることが分かった(図 2 左 Mn-Ni 担持、中 Fe-Ni 担持)。現在、コーディエライト以外のシリカ、
チタニア、アルミナなどの担体についても、その利用可能性について検討を行っている。
232
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 2. 自動合成装置による粉体への含浸(上部と下部が不均一)
4.3. 5チャンネル触媒活性評価用リアクタの試作
飛躍的に触媒活性評価時間を短縮するためには、上記技術の他に、多チャンネル触媒活性評価用リアクタが必
要である。そこで、ガスクロマトグラフ用のオーブンと 5 つの CO ガスセンサを備えたリアクタ装置の開発を行っ
た。CO 酸化触媒の活性評価は通常、200 度以下の低温で行われるが、固体触媒を用いる反応ではさらなる高温が
必要な場合もある。また、ガスセンサよりも市販のガス分析装置の方が有利である触媒系もある。そこで、図 3
に示すような電気炉を備えた 5 チャンネル型リアクタの設計・試作も行った。
このリアクタでは、5 つのリアクタの同時昇温が可能である。それぞれのリアクタからの触媒反応生成物を含む
ガスは、一定量の空気で希釈し、ガスセンサでの分析を可能とする取り出し口の他に、一定時間ごとに導入する
生成ガスを切り替えながら取り出せる取り出し口も備え付けており、ガスセンサ以外にも従来から利用されてい
るマイクロ GC や質量分析計の接続も可能としてある。現在、試験中ではあるが、従来の約 5-10 倍程度の速度で
の触媒活性評価が可能となっている。今後、設定条件の最適化により、さらなる分析時間の短縮も期待できる。
図 3. 金属石けんを用いて活性成分を担持したコーディエライトハニカム
233
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 4. 5ch リアクター装置(試作品)
結
論
プロパン選択酸化反応の評価に、ガスセンサを用いると、従来のガスクロマトグラフを用いる方法に比べて分
析時間が 1/20 以下となることを示した。また、大量の試料の自動合成を行う際に問題となると考えられる粉体の
取り扱いを容易にするため、ハニカム状に成形した担体を用いた。ハニカムへの金属担持の際に、高い粘性を持
ち、かつ、金属イオン濃度が高い金属石鹸溶液を用いることで、担体表面に高濃度の金属を固定化することが可
能となった。また、リアクタも様々な反応に対処できる装置が揃い、遺伝的アルゴリズムを用いた触媒探索が実
用的に可能となった。
(20-50 sample / day)
引用文献
(1)
Hill, C. L.; Gall, R. D. J. Mol. Cat. A: Chem. 1996, 114, 103-111.
(2)
Jandeleit, B.; Turner, H. W.; Uno, T.; vanBeek, J. A. M.; Weinberg, W. H. Cat. Tech 1998, 2, 101-123.
(3)
Senkan, S. Angew. Chem.-Int. Edit. 2001, 40, 312-329.
(4)
Cong, P.; Doolen, R. D.; Fan, Q.; Giaquinta, D. M.; Guan, S.; McFarland, E. W.; Poojary, D. M.; Self,
K.; Turner, H. W.; Weinberg, W. H. Angew. Chem. Int. Ed. 1999, 38, 483-488.
(5)
Senkan, S. M. Nature 1998, 394, 350.
(6)
Yamada, Y.; Ueda, A.; Zhao, Z.; Maekawa, T.; Suzuki, K.; Takada, T.; Kobayashi, T. Catal. Today 2001,
67, 379-387.
234
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
成果の発表
7.1. 原著論文による発表
7.1.1. 国外誌
・ “Combinatorial Catalysis and High Throughput Catalyst Design and Testing” Ed. E. G. Derouane, Y.
Yamada, M. Ando, A. Ueda, T. Kobayashi, K. Suzuki, T. Maekawa, T. Takada, NATO Science Series: C
Mathematics and Physical Sciences,560, Kluwer academic publishers, 415-421 (H12 年 10 月)
・
“Rapid evaluation of oxidation catalysis by gas sensor system: total oxidation, oxidative
dehydrogenation, selective oxidation over metal oxide catalysts “Y. Yamada, A. Ueda, Z. Zhao, T.
Maekawa, K. Suzuki, T. Takada, T. Kobayashi, Catal. Today 67(4), 379.
・ “Utilization of odor sensor system for high throughput catalysts”, Y. Yamada, A. Ueda, M. Ando, T.
Kobayashi, T. Maekawa, K. Suzuki, T. Takada, Proceedings of 196th meeting of the electrochemical society
"Chemical Sensors IV", 99(23), 143-148(H11 年 10 月)
・ “Optimization of Iron-Silica based Metal oxides as selective oxidation catalyst of propane with
combinatorial approach”, Y. Yamada, A. Ueda, K. Nakagawa, Y. Teng, T. Kobayashi, Chem. Res. Int.,
accepted
7.2. 原著論文以外による発表(レビュー等)
7.2.1. 国内誌(国内英文誌を含む)
・ 「固体触媒へのコンビナトリアルケミストリの導入と迅速ガス分析の必要性」,山田裕介、小林哲彦, 化
学センサ , 15(3) 100-108
(平成11年).
・「コンビナトリアルケミストリの固体触媒への展開」, 小林哲彦、山田裕介, 化学工業, 51(2),121-127
(平成12年).
・ 「固体触媒の開発」、小林哲彦、山田裕介、 機能材料 、21巻(1)、38-44. (平成12年12月)
・ 「コンビナトリアルケミストリにおける固体触媒パラレル調製と人工知能利用」、山田裕介、小林哲彦、水
野哲孝、触媒 43(5)、310-315 (平成 13 年)
・ 「コンビナトリアルケミストリーの固体触媒への適用」
、小林哲彦、山田裕介、PETROTECH, 24(10), 788 (平
成 13 年).
・ 「コンビナトリアルサイエンスの新展開」
、山田裕介、上田厚・小林哲彦、シーエムシー出版 (平成14年)
7.3. 口頭発表
7.3.1. 応募・主催講演等
・
Y. Yamada, A. Ueda, M. Ando, T. Kobayashi, T. Maekawa, K. Suzuki, T. Takada, 196 th meeting of
the electrochemical society(ハワイ、米国) , “Utilization of odor sensor system for high
throughput catalysts ” , 平成11年10月19日発表(口頭)
・
山田裕介、上田厚、桜井宏昭、前川亨、鈴木健吾、高田義、小林哲彦、第84回触媒討論会(秋田), “ニ
オイセンサによる触媒迅速評価 — 低級アルカン部分酸化のための金属酸化物触媒探索 ” , 4F06, 平成11
年10月2日発表(口頭)
・
山田裕介・上田厚・小林哲彦、 日本エネルギー学会関西支部第44回研究発表会 (大阪)”孤立鉄サイト
を有するシリカ触媒による低級アルカンの選択酸化反応”平成11年12月3日(口頭)
・
上田
厚、山田裕介、小林哲彦、Engineered Catalysis、「Combinatorial survey and optimiz ation
235
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
of new catalysts for selective oxidation of light alkanes」平成11年12月9日(ニューオリンズ、
米国)
・
山田裕介、趙
震、滕永紅、中川清晴、上田厚・鈴木俊光・小林哲彦、第3回高難度選択酸化反応シン
ポジウム (大阪)”コンビナトリアル触媒探索のための選択酸化反応迅速評価法の検討”平成11年12月
10日(ポスター)
山田裕介、上田厚、小林哲彦、環境技術研究総合推進会議 第4回合同研究発表会 (筑波)”環境調和型
・
触媒探索におけるコンビナトリアル手法導入の試み”平成12年1月28日(ポスター)
・
趙
震、山田裕介、上田厚、小林哲彦、環境技術研究総合推進会議 第4回合同研究発表会「天然ガス
・
山田裕介、上田
等のアルカン類転換のための選択酸化触媒の研究」平成 12 年 1 月 28 日
厚、 Zhao Zhen 、小林哲彦、 第 85 回触媒討論会 ( 千葉 )「低級アルカン選択酸化触媒探
索へのコンビナトリアルケミストリの導入」平成 12 年 3 月 27 日(口頭発表)
山田裕介、上田厚、桜井宏昭、小林哲彦、春田正毅、第 85 回触媒討論会 (千葉 )「ガスセンサ式パラレル
・
ディテクタを用いた常温酸化用貴金属触媒の迅速探索」平成 12 年 3 月 27 日(ポスター発表)
・ Yusuke Yamada, Zhen Zhao, Atsushi Ueda, Tetsuhiko Kobayashi, NATO Advanced Research Workshop,
“Selective oxidation of lower alkanes over isolated metal ions on silica” 平成 12 年 7 月 4 日- 7 日(プラハ、チ
ェコ共和国)
・
山田裕介、上田厚、小林哲彦、触媒学会若手会研究会、「コンビナトリアルケミストリを用いた選択
酸化触媒探索」
・
平成 12 年 10 月 6 日(大阪大学)
山田裕介、上田厚、小林哲彦、第 86 回触媒討論会、「金属酸化物上に担持した孤立金属イオンによる
メタン選択酸化反応」
平成 12 年 9 月 21 日(鳥取大学)
Yusuke Yamada, Atsushi Ueda, Zhen Zhao, Tetsuhiko Kobayashi, “ The Role of Isolated Iron on the Selective
・
Oxidation of Lower Alkanes” , Gordon Research Conferences, Hydrocarbon Resources, Ventura, CA USA
(平成 13 年 1 月 10 日)
・
Atsushi Ueda, Yusuke Yamada, T. Kobayashi, “
Ventura, CA USA
“, Gordon Research Conferences, Hydrocarbon Resources,
(平成 13 年 1 月 10 日)
Yusuke Yamada, Atsushi Ueda, Tetsuhiko Kobayashi, “ High throughput screening of oxidation catalysts with
・
gas sensors”, 221 st ACS, San Diego, CA, USA ( 平成 13 年4月1日、2日 )
・
Yusuke Yamada, Atsushi Ueda, Kiyoharu Nakagawa, Yonghong Teng, Tetsuhiko Kobayashi, “Optimization of
iron silica based metal oxides as selective oxidation catalyst of propane with combinatorial approach”, 8 th
Korean-Japan catalysis meeting, Osaka, Japan (平成 13 年 5 月 28 日 )
・
Yusuke YAMADA, Atsushi Ueda, Zhen Zhao, Tetsuhiko Kobayashi, “Preparation and Catalysis of isolated
metal ions on silica for selective oxidation of lower alkanes”, 4th World Congress on Oxidation Catalysis,
(II-199) ( 平成 13 年 9 月 18 日 )
7.4. 特許等出願等
平成 10 年 12 月 25 日、
「触媒性能評価装置」
、山田裕介・上田厚・小林哲彦、特願平 10-376723 号
7.5. 受賞等
山田裕介:第8回日韓触媒会議「ベストポスター賞」、(平成 13 年 5 月 30 日)
236
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
3.1. 超機能評価法の開発
3.1.3. 電気的評価法の開発
産業技術総合研究所生活環境系特別研究体
松原 一郎、舟橋 良次、鹿野 昌弘
要
約
溶液原料およびディップコーティング法を用いることを特徴とする熱電酸化物薄膜ライブラリーの合成方法を
開発した。ライブラリーの電気抵抗率を迅速に評価する方法として、各試料に電子線を照射した時の試料電流を
測定する方法、および試料を高周波場に置きその温度をモニターする方法を開発した。さらに熱電性能指数 Z 値
の迅速評価のため、ペルチェ効果を利用した迅速評価手法を開発した。これにより、従来法で1週間程度かかっ
ていた測定が5分程度で終了する。
研究目的
コンビナトリアルケミストリーは、これまで主にバイオ・製薬分野で用いられ発展してきた方法であり、対象
とする物質はペプチドや DNA も含め広く有機化合物であった。これらの分野では、コンビケム手法を用いること
は、現在もはや常識となりつつあり、特に製薬分野では一人の研究者が1日に 105 種類の化合物を合成し、その
薬理活性を調査できると言われている。一方、周期表のほとんど全ての元素を組み合わせて構成される無機化合
物、固体材料の多様性も有機化合物に勝るとも劣らない。特に高温超伝導に代表されるように、より高い機能を
有する材料開発は多成分で構造や合成法の複雑な系に志向し多様化しているため、コンビケム手法の有用性につ
いては疑問の余地はない。特に評価法の開発は大きな課題となっている。本研究ではケーススタディとして熱電
変換材料を取り上げ、その評価法の開発に取り組む。熱電特性は性能指数(Z=S2/・・、・:電気抵抗率、S:ゼ-
ベック係数、・: 熱伝導率)から決定される。その評価には、電気抵抗率、ゼ-ベック係数、 熱伝導率と3つの
物性値を測定する必要があると共に、これらが協調して初めて良好な熱電特性を発揮するという特徴があるため、
単一機能のみの評価では不十分であり、まさに典型的な超機能材料であると考えられる。またライブラリー合成
手法においても、評価法に適したライブラリーが必要となるが、有機材料分野に比べて無機材料分野では合成手
法のバリエーションが必ずしも豊富であるとは言えず、目的に合ったライブラリー合成法の開発も研究課題とな
る。現在までに報告されている典型的な手法は、多種類のターゲットとマスキングを駆使することを特徴とする
薄膜技術を応用したものであり、薄膜作製に係るノウハウとレーザーアブレーションシステム等の高価な装置を
必要とするものであった。
以上の様な背景の下、本研究では4探針法、高周波加熱法等による試料の抵抗率を指標とした手法、ゼ-ベッ
ク係数測定による熱電能を指標とした手法等を中心に、ライブラリ-評価に用いる電気的計測技術を開発すると
ともに、酸化物熱電変換材料等を対象として、評価手法に適したライブラリ-の調製法を開発する。さらに熱電
特性を始めとする材料の超機能の評価を高効率で行うことのできる電気的ライブラリ-評価法を開発することを
目的とする。
237
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
研究方法
1)ライブラリ-の調整
コンビケムでは評価法に適したライブラリーが必要となるが、無機物質分野では合成手法のバリエーションが
必ずしも豊富であるとは言えず、目的に合ったライブラリー合成法の開発が求められる。これまでに報告されて
いる典型的な手法は、薄膜蒸着法と溶液法に大別できる。前者では多種類のターゲットとマスキングを駆使する
ことを特徴とする薄膜技術を応用したものであり、一枚の基板上に数十から数万におよぶ組成比の異なる膜を作
製する[1-5]。さらに、各組成をピクセルに分けず、基板上で組成が連続的に変化した膜(compositional spread
法)の作製方法も開発されている[6]。一方溶液法においては、1)金属イオンを原子レベルで混合するこが可能で
ある、2)化学組成の制御が容易である、3)粉末原料に比べ反応時間が大幅に短縮される、4)高真空装置を必要と
しない、という特徴を持つ点、また自動化において溶液の取り扱いが容易な点から今後の発展が期待できる。す
でにインクジェット法によるライブラリー調整が報告されているが[7, 8]、我々は、大気中で操作可能な薄膜作
製の手法であるディップコーティング法を利用したライブラリー調整方法を開発した。基板を金属有機酸塩溶液
中にディップコ-ティングした後、これを適切な温度で熱処理することにより、基板上に酸化物薄膜を形成させ
る。複合酸化物の前駆溶液は自動分注装置を用いて調整する。さらに 25 試料を一度に成膜できるディップコ-テ
ィング装置も開発し、試料合成の高速化を試みた。これらの装置の概略図を図 1 に示す。自動分注装置では原料
溶液の重量減少をモニターすることで必要量を分取し、25 種類の混合溶液を作製するのに要する時間は約 30 分で
ある。当該グル-プが設計・試作した原料溶液を効率良く精密に混合する自動混合装置およびディップコ-ティ
ング装置を用い、熱電材料として注目されている(Ca1-x-ySrxBiy)3Co4O9 薄膜ライブラリ-を従来の固相合成法に比べ
て20倍以上迅速に合成する手法を開発した。
制御
重量減少
ポンプシ ステム
金属管
(5×5=25)
溶液瓶
原料溶液
天秤
天秤
天秤
ディップコーティング装置
自動溶液分注装置
図 1. 溶液自動分注装置およびディップコ-ティング装置の概略図
2)電気抵抗迅速評価
熱電特性は性能指数(Z=S2/ρκ、ρ:電気抵抗率、S:ゼ-ベック係数、κ: 熱伝導率)から決定されるが、電気抵
抗率の大きな材料は素子応用に適さない。即ち電気抵抗率の小さな(<~10mΩcm)材料をピックアップする事で、
熱電材料探索へ向けた一次スクリ-ニングとする事ができる。そこで四探針法、走査型電子顕微鏡(SEM)の試料電
238
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
流を測定する方法、および高周波加熱法でライブラリ-の電気抵抗の迅速評価を試みた。
3)サ-モグラフィ-法(TG 法)による熱電特性評価法の開発
熱電性能指数 Z 値を得るには、従来 S、 、 を個別に測定しており、通常一試料当たり数日~1週間を要する。
本手法では 値の迅速評価(2次スクリ-ニング)のため、ペルチェ効果に注目した。これは、熱電材料に直流電
流を流すとその両端部に温度差が生じる現象である。通電によりペルチェ効果で生じる温度差
想的に、
と

の関係は理
c  と記述される。ここで c は材料の低温側の温度であり、ペルチェ効果により生じた温度差
が大きいほど Z 値も大きくなることを示している。温度差は赤外線サ-モグラフィ-を用いることで視覚情報に
変換することが可能であり、材料の熱電特性の迅速評価が可能になる(サ-モグラフィ-法:TG 法)
。
研究成果
1)ライブラリ-の調整
上記自動混合装置およびディップコ-ティング装置を用い、(Ca1-x-yMxBiy)3Co4O9 (M= Mg, Sr, Ba)薄膜ライブラ
リ-を作製した。Ca3Co4O(349
相)は多元系複合酸化物であり、Ca,Co 及び O を構成元素とし岩塩型(rocksalt type)
9
構造を持つ絶縁層と、CoO2 から成る導電層が交互に積層した層状構造を有している(図 2)。この Ca3Co4O9 は熱電
材料として有望であり、特に Ca サイトを Bi および Sr で部分置換すると熱電特性が大きく向上することが知られ
ている。そこでこの物質系を取り上げ、Ca サイトへアルカリ土類金属および Bi を置換した一連の試料を合成し、
評価法開発のためのライブラリーとして供することとし、最適組成の決定を目指した。ここでは原料溶液に金属
ナフテン酸溶液を用いた。所定の金属比になるよう自動分注した混合溶液に MgO 単結晶あるいは石英ガラス基板
(15x5x1mm)をデップコ-トした後、空気中 400℃30 分加熱し、溶媒及び有機成分を分解した。全金属イオン濃
度が 0.4-0.5 M の溶液を用いており、焼成後の酸化物薄膜の膜厚はおよそ 500 オングストロ-ムである。膜厚を
厚くするためこの操作を5~6回繰り返した後、酸素気流中 800-850 ℃、2時間焼成した。現在、バッチ当たり
25種類試料を合成することができ、これに要した時間はほぼ半日であった。粉末原料を用いた従来の典型的な
固相合成法に較べ、試料合成に要する時間は 20 倍以上短縮することが可能となった。さらに使用する原料も従来
法の 1/30 であり、省原料化にも有効である。
CoO2 layer
Ca-O
Co-O
Ca-O
図 2. Ca3Co4O9 結晶構造
1バッチで合成した(Ca1-x-ySrxBiy)3Co4O9 系試料を図 3 に示す。ここでは Ca サイトを占める Sr および Bi 量を
Ca、Sr および Bi を頂点にとった三角図上でシステマティックに変化させた。なお(Ca+Sr+Bi)と Co の組成比は 3:4
に固定している。X線回折から求めた Ca サイトへの Bi および Sr、Mg、Ba の固溶範囲をそれぞれ図 4、図 5、図 6
に示す。黒丸で示す組成において単相試料が得られた。Ca サイトへ Sr または Mg のみを置換した場合の固溶範囲
はそれぞれ x<0.8 (M = Sr)、x<1.0 (M = Mg)であった。これに対し(M = Ba)の場合、BaCoO3 が生成し Ba は Ca サ
239
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
イトへ固溶しないことが明らかとなった。
一方 Ca サイトへ Bi のみを置換した場合の固溶範囲は、
y<0.4 であった。
上記自動混合装置およびディップコ-ティング装置を用い、(Ca1-x-yMxBiy)3Co4O9 (M= Mg, Sr, Ba)薄膜ライブラリ
-を作製した。
Ca
Ca
Sr
Bi
Sr
(Ca1-x-ySrxBiy)3Co4O9
図 3. (Ca1-x-ySrxBiy)3Co4O9 薄膜ライブラリ図3
Ca
Ca
Sr
Bi
Sr
(Ca 1-x-y Srx Biy )3 Co 4 O9
図4
(Ca1-x-ySrxBiy)3Co4O9 系の固溶範囲
図4
240
Bi
Bi
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Ca
Bi
Ca
Mg
Mg
Bi
(Ca 1-x- yMgx Biy )3 Co 4 O9
図5
(Ca1-x-yMgxBiy)3Co4O9 系の固溶範囲
図5
Ca
Bi
Ca
Ba
Ba
(Ca1-x- yBaxBiy )3 Co4 O9
Bi
図6(Ca1-x-yMgxBiy)3Co4O9 系の固溶範囲
図6
2)電気抵抗迅速評価
熱電特性は性能指数(Z=S2/ρκ、ρ:電気抵抗率、S:ゼ-ベック係数、κ: 熱伝導率)から決定されるが、電気抵
抗率の大きな材料は素子応用に適さない。即ち電気抵抗率の小さな(<~10mΩcm)材料をピックアップする事で、
熱電材料探索へ向けた一次スクリ-ニングとする事ができる。そこで四探針法、走査型電子顕微鏡(SEM)の試料電
流を測定する方法、および高周波加熱法でライブラリ-の電気抵抗の迅速評価を試みた。まず(Ca1-x-ySrxBiy)3Co4O9
薄膜ライブラリ-の電気抵抗率を四探針法で評価した。図 3 に示す試料を測定した結果を図 7 に示す。なお測定
は室温・空気中で行った。図 4 に示す単相領域、すなわち良好な熱電特性を示すと考えられる領域において低い
抵抗率が得られる傾向が明らかとなった。
241
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Ca
1
22 23 ~100Ω
2 24 3
25
6 100~150Ω
4
5
~100Ω
7
11
Sr
16
8
12
17
9
13
18
10
15
14
19
300Ω~
20
>300Ω
21 Bi
図7(Ca1-x-ySrxBiy)3Co4O9 の電気抵抗率
図7
電気抵抗率のさらなる迅速評価のために走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、各試料に電子線を照射した時の試料
電流を測定した。X線回折から判断して結晶相が同じで同程度の結晶性を示す試料を比較すると、四探針法で測
定した抵抗値の大きい試料ほど SEM 試料電流が小さくなる相関関係が得られた(図 8)。そこで同手法を用いて
SEM 試料電流測定に要する時間は一試料当たり30秒以内であることから、同法が電気抵抗の迅速評価法として有
効であることが明らかとなった。
抵抗値(logR( Ω))
5
4
3
2
1
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
SEM試料電流(10
-1 1
0.9
1
A)
図8 SEM 試料電流値と抵抗値の相関
図8
さらに電気抵抗率の迅速スクリーニング法として、高周波加熱法を試みた。これは電磁調理器と同じ原理であ
る。試料を高周波場に置いた場合、導電性の試料では誘導電流が流れ加熱するのに対し、絶縁性の試料では抵抗
値が大きいためほとんど誘導電流が発生せず、発熱しない。ここでは、絶縁性試料として酸化銅、導電性試料と
して Ca3Co4O9 のそれぞれ薄膜試料を用いた。これらの試料を高周波場に置き、表面温度を赤外線サ-モグラフィ-
で測定した。測定結果を図 9 に示す。高周波の出力を変化させ測定したが、どちらの場合も表面温度は導電性試
料の方が4~6℃程度高くなり、本手法が電気抵抗率の迅速評価法として有効であることが明らかとなった。電
気抵抗率の迅速評価のために走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、各試料に電子線を照射した時の試料電流を測定し
242
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
た。結晶相が同じで同程度の結晶性を示す試料を比較すると、抵抗値の大きい試料ほど SEM 試料電流が小さくな
る相関関係が得られた。さらに電気抵抗率の迅速評価法として、高周波加熱法を試みた。試料を高周波場に置い
た場合、導電性の試料では誘導電流が流れ加熱するのに対し、絶縁性の試料では抵抗値が大きいためほとんど誘
導電流が発生せず発熱しない。絶縁性試料と導電性試料を高周波場に置き、表面温度を赤外線温度計で測定した
結果、表面温度は導電性試料の方が数℃程度高くなり、本手法が電気抵抗率の迅速評価法として有効であること
が明らかとなった。
(200.0)
111. 4
79. 1
108. 4
77. 6
105. 4
76. 1
102. 4
74. 6
99. 4
73. 1
96. 4
71. 6
93. 4
70. 1
90. 4
68. 6
87. 4
(-50.0)
67. 1
(-50.0)
赤外線カメラ
CuO film
絶縁体
Ca-Co-O film
導電体
試料
高周波発生器
図9
高周波法による電気抵抗率評価
図9
3)熱電特性の迅速評価
熱電性能指数 Z 値を得るには、従来ゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導率を個別に測定しており、通常一試
料当たり数日~1週間を要する。本研究ではペルチェ効果を利用し、試料に通電した際の試料両端の温度差を赤
外線サーモグラフィーを用いて測定することで従来法に比べはるかに迅速に評価できる手法を開発した(サーモ
グラフィー法:TG法)。
TG 法の有効性を実証するため、二本の試料を直列に接続し直流電流(0.23 A)を流して温度差を測定した結果を
図 10 に示す。この試料は上から Ca2.5Bi0.5Co4O9 (p 型)と La4Ni3O10 (n 型)であり、従来法、即ち一試料当たり約一週
間かけて測定した Z の値は室温でそれぞれ 1.0x10-4 K-1 と 4.0x10-6K-1 であった。TG 法では試料に電流を流すため
の電極接続と温度測定のためのセンサー取り付けに手間と時間を要しては高効率・高速評価は実現できない。そ
こで、電流端子接続にはワニ口クリップを用い、試料を両端から挟むように固定した。図 10 から電流を流すこと
により試料両端で温度差が生じていることが分かる。また流す電流の方向を反転することで、低温部と高温部も
反転した。この結果は試料両端に生じた温度差が確かにペルチェ効果によるものであることを示している。サー
モグラフィーにより計測した温度差から Z を算出した結果、Ca2.5Bi0.5Co4O9(p 型)で 1.1x10-4 K-1、La4Ni3O10(n 型)
で 4.3x10-6 K-1 となり従来法で得た Z の値とほぼ一致した。また TG 法では試料の電流端子接続から Z 算出までに
要した時間は 3~5 分程度であった。以上のように TG 法は Z の高効率・高速評価に適した評価法であることが実
証できた。さらに、この評価法では、多数試料の温度差をサーモグラフィーにより一度に測定できるため、試料
243
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
数が増えても測定に要する時間が増加することはなく、反対に一試料当たりに要する時間を試料数を増加させる
ことによって短縮することが可能である。
(a)
(b)
図10 (a)サーモグラフィー法によるによる温度差の検出。 試料上:Ca2.5Bi0.5Co4O9 (p
型)、試料下:La4Ni3O10(n 型)。(b)電流を反転
図 10
考
察
これまでの研究結果では、試料合成と評価を含めれば、従来法に比べ既に 100 倍以上の高速化が達成されてい
る。今後は、インクジェット法等の導入で更なるライブラリー調整の高速化を図ると共に、電気的評価法を熱電
材料以外の様々な機能材料に応用し、実例をもってその有効性を実証していくことが必要である。
引用文献
[1] X. – D. Xiang, X. Sun, G. Briceno, Y. Lou, K. Wang, H. Chang, W. G. Wallance-Freedman, S. Chen, and
P. G. Schults, Science, 268, 1738 (1995).
[2] G. Briceno, H. Chang, X. Sun, P. G. Schults, and X. – D. Xiang, Science, 270, 273 (1995).
[3] E. Danielson, J. H. Golden, E. W. McFarland, C. M. Reaves, W. H. Weinberg, and X. D. Wu, Nature, 389,
944 (1997).
[4] H. Koinuma, Solid State Ionics, 108, 1 (1998).
[5] H. Koinuma, M. Kawasaki, T. Itoh, A.Ohtomo, M. Murakami, Z. Jin, and Y. Matsumoto, Physica C, 335,
245 (2000).
[6] R. B. Van Dover, L. F. Schneemeyer, R. M. Fleming, Nature, 392, 162 (1998).
[7] X. – D. Xiang and P. G. Schults, Physica C, 282-287, 428 (1997).
[8] X. Sun, K. A. Wang, Y. Yoo, W. G. Wallance-Freedman, C. Gao, X. – D. Xiang and P. G. Schults, Adv.
Mater. 9, 1046 (1997).
成果の発表
1)原著論文による発表
ア) 国内誌
244
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
イ) 国外誌
1.
Thermoelectric properties of layered Co-based oxides, R. Funahashi, I. Matsubara, S. Li, H. Yamada,
and K. Ueno, Proc. 18th International Conference on Thermoelectrics, pp. 153 (2000).
2.
High temperature thermoelectric properties of oxide Ca9Co12O28, S. Li, R. Funahashi, I. Matsubara, K.
Ueno, and H. Yamada, Proc. 18th International Conference on Thermoelectrics, pp. 581 (2000).
3.
Thermoelectric properties of Bi2Sr2Co2Ox polycrystalline materials, R. Funahashi, I. Matsubara, and
S. Sodeoka, Appl. Phys. Lett., 76, 2385 (2000).
4.
Thermoelectric properties of oxides Ca2Co2O5 with Bi substitution, S. Li, R. Funahashi, I. Matsubara,
5.
Synthesis and Thermoelectric Properties of the New Oxide Materials Ca3-xBixCo4O9+d (0.0<x<0.75), S. Li,
K. Ueno, S. Sodeoka, and H. Yamada, J. Mater. Sci. Lett., 19, 1339 (2000).
R. Funahashi, I. Matsubara, K. Ueno, S. Sodeoka, and H. Yamada, Chem. Mater., 12, 2424 (2000).
6.
High temperature thermoelectric properties of oxide Ca9Co12O28, S. Li, R. Funahashi, I. Matsubara, K.
Ueno, and H. Yamada, J. Mater. Chem., Vol. 9, 1659 (1999).
7.
Synthesis and thermoelectric properties of the new oxide ceramics Ca3-xSrxCo4O9+delta (x=0.0-1.0), S.
Li, R. Funahashi, I. Matsubara, H. Yamada, K. Ueno, and S. Sodeoka, Ceram. Int., 27, 321 (2001).
8.
Thermoelectric Properties of Bi2.2-xPbxSr2Co2Oy system, G. Xu, R. Funahashi, M. Shikano, I. Matsubara,
and Y. Zhou, J. Appl. Phys., 91, 4344 (2001).
9.
Effects of Cation Substitution on the Thermoelectric Properties in Ca-Co-O, I. Matsubara, R. Funahashi,
M. Shikano, K. Sasaki, and H. Enomoto, Proc. of Material Research Sociaty Fall Meeting, in press.
10. Cation Substituted (Ca2CoO3)xCoO2 films and Their Thermoelectric Properties, I. Matsubara, R. Funahashi,
M. Shikano, K. Sasaki, and H. Enomoto, Appl. Phys. Lett., in press.
2)原著論文以外による発表(レビュ-等)
ウ) 国内誌
1.
ラティスコンポジットによる熱電材料開発、松原一郎、舟橋良次, 李 思温, マテリアルインテグレーショ
ン、13, No7, 48 (2000).
2.
酸化物熱電材料の可能性、松原一郎、舟橋良次、セラミックス、36, No.8, 582 (2001).
3.
コンビケム手法による機能性酸化物の迅速合成、松原一郎、舟橋良次、バウンダリ-、17, No.8, 36 (2001).
4.
Influence of Mn-site doped by Ru upon high-temperature thermoelectric performance of CaMnO3-δ, Y.
Zhou, I. Matsubara, R. Funahashi, G. Xu, and M. Shikano, 熱電変換シンポジウム2001論文集、pp.76 (2001).
5.
コンビケム手法による(Ca1-x-yMxBiy)3Co4O9(M=Mg,Sr,Ba)の合成と熱電特性、松原一郎、舟橋良次、佐々木慶、
鹿野昌弘、熱電変換シンポジウム2001論文集、pp.86 (2001).
6.
High-temperature thermoelectric properties of (Bi2Sr2O4)x(CoO2), G. Xu, R. Funahashi, I. Matsubara,
M. Shikano, and Y. Zhou, 熱電変換シンポジウム2001論文集、pp.58 (2001).
7.
コンビナトリアルケミストリ-による材料開発動向、松原一郎、舟橋良次、鹿野昌弘、高圧ガス、39, No. 2,
44 (2002).
8.
コンビナトリアル・マテリアル・ディスカバリー、吉川 暹、松原一郎、コンビナトリアルサイエンスの新
展開 第I編第10章、
(高橋孝志/鯉沼秀臣/植田光美 編)
、シーエムシー出版、(2002) pp. 146-166.
9.
酸化物熱電材料の可能性、松原一郎、応用物理学会三元・多元機能性材料研究会平成13年度成果報告集、
p.5.(2002).
3)口頭発表
245
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
エ) 招待講演
1.
Bi を含む層状コバルト酸化物の熱電特性、舟橋良次、竹内恒博、生田博志、松原一郎、水谷宇一郎、袖岡 賢、
第 61 回応用物理学会学術講演会 (2000 年9月).
2.
酸化物熱電材料の可能性、松原一郎、応用物理学会三元多元機能性材料研究会講演会(2001年11月)
3.
酸化物熱電材料、松原一郎、岡山理科大学理学部研究会(2002年1月)
4.
Co系酸化物熱電材料の作製と特性、松原一郎、舟橋良次、鹿野昌弘、平成13年度第2回材料開発研究会(2002
年2月)
5.
高性能熱電酸化物の高効率探索、舟橋良次,応用物理学会第48回春季講演会(2002 年 3 月)
オ) 応募・主催講演等
1.
Ca3-xRExCo4O9(RE:Y, Nd, Sm, Eu, Gd, Dy, Er, Yb)多結晶体の熱電特性、舟橋良次、松原一郎、李 思温、袖
岡 賢、第 47 回応用物理学関係連合講演会 (2000 年3月).
2.
酸化物熱電変換材料の作製と特性、松原一郎、舟橋良次、李 思温、袖岡 賢、粉体粉末冶金協会 H12 春季
大会 (2000 年5月).
3.
Co-site substitution effects on the thermoelectric properties of Ca3Co4O9+δ , 李 思温、舟橋良次、
松原一郎、袖岡 賢、熱電変換研究会 2000 (2000 年8月).
4.
Co 系酸化物熱電材料の作製と特性、松原一郎、舟橋良次、竹内友成、李 思温、上野和夫、袖岡 賢、日本
セラミックス協会関西支部・中国四国支部連合学術講演会 (2000 年10月).
5.
コンビナトリアルアプローチによる(Ca, Bi, Sr)-Co-Oの合成と熱電特性、松原一郎、舟橋良次、佐々木慶、
袖岡賢、セラミックス協会春年会サテライトミーティング(2001年3月)
6.
コンビナトリアルアプローチによる酸化物熱電材料合成、松原一郎、舟橋良次、佐々木慶、袖岡賢、日本化
学会春年会 (2001年3月)
7.
コンビケム手法による機能性酸化物の迅速合成、松原一郎、21世紀の協会領域研究を考えるシンポジウム
(2001年5月)
8.
コンビケム手法による(Ca1-x-yMxBiy)3Co4O9(M=Mg,Sr,Ba)の合成と熱電特性、松原一郎、舟橋良次、佐々木慶、
鹿野昌弘、熱電変換研究会2001 (2001年8月).
9.
コンビケム手法によるCa-(Co,M)-O (M=Mn,Ni)の合成と熱電特性、松原一郎、舟橋良次、鹿野昌弘、第62回応
用物理学会学術講演会 (2001年9月)
10. (Ca2CoO3)xCoO2への元素置換効果、松原一郎、舟橋良次、鹿野昌弘、粉体粉末冶金協会平成13年度秋季大会
(2001年10月)
11. コンビナトリアル手法によるn型熱電酸化物の探索、舟橋良次,鹿野昌弘,松原一郎、応用物理学会第48回
春季講演会(2002年3月)
4)特許等出願等
1.
出願:2000 年 8 月 29 日、
「熱電材料の性能評価方法」舟橋良次, 松原一郎, 袖岡 賢, 特願 2000-258290
(2000).
2.
出願:2000 年 10 月 26 日、
「高いゼーベック係数と高い電気伝導度を有する複合酸化物」舟橋良次, 松原一
郎, 袖岡 賢, 特願 2000-326260 (2000).
3.
出願:2000 年 10 月 31 日、
「優れた熱電変換性能を有する複合酸化物」舟橋良次, 松原一郎, 袖岡 賢, 特
願 2000-331819 (2000).
4.
出願:2001 年 9 月 14 日、
「金属酸化物薄膜ライブラリーの製造方法および製造装置」松原一郎, 舟橋良次、
特願 2001-279617 (2001).
246
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
5.
出願:2001 年 9 月 27 日、
「金属酸化物多結晶体、熱電材料、熱電素子およびその製造方法」松原一郎, 舟橋
良次、竹内友成、特願 2001-295207 (2001).
6.
出願:2001 年 9 月 19 日、
「無機材料の製造方法」舟橋良次、松原一郎、鹿野昌弘、特願 2001-284241 (2001).
7.
出願:2001 年 11 月 13 日、
「高い熱電変換率を有する複合酸化物」舟橋良次、松原一郎、鹿野昌弘、特願
2001-346967 (2001).
5)受賞等
1. 舟橋良次:
「第 23 回応用物理学会論文賞(JJAP 論文奨励賞)
」
、2001 年 9 月 11 日
2. 舟橋良次:
「熱電変換研究会研究優秀賞」
、2001 年 8 月 11 日
247
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
3.2. 超機能材料におけるライブラリーの評価
3.2.1. ケミカルライブラリーの評価方法の調査
日本化学会
田巻 博
要
約
生物学的機能評価および化学的機能評価について文献調査、訪問調査を行い、コンビケム利用可能な方法を整
理した。生理機能に関して、特に循環器、中枢、免疫、炎症、感染症、骨代謝および悪性新生物領域に関する評
価法の調査を行い、高速評価が可能なスクリーニング方法として有効な手法を見出した。分光学的分析手法とし
ては赤外サーモグラフ法および蛍光法が、熱分析的手法としては昇温脱離法および等温吸着法が、原子スペクト
ル分析手法としては EPMA 法および EDX 法が、顕微鏡観察手法としては SEM 法が、一般的ライブラリーの高速スク
リーニング法として使用できることが明らかとなった。実際のライブラリー評価のためには、これらの手法をラ
イブラリーに合った形にモディファイすることで、HTS 法として活用することが有効である。
目
的
有機分子が持ち多くの可能性を開拓し、有機材料の超機能を実現するためには、分子構造を網羅した合成を行
い、その機能を評価することが求められている。このため、固相合成法の活用およびこれを利用したケミカルラ
イブラリーを合理的に構築し、スクリーニングする手法の確立が必要である。即ち、ライブラリーの機能性を最
大限に活用するためには、目的とする機能性を合理的に効率良く選択するための多種多様な手法、評価法を調査
し用意しておくこと、及び、新しい合理的、効率的な評価法の確立、構築が必要である。
研究方法
このため、文献調査および訪問調査によりライブラリーの生物学的機能、化学的機能及び物理的機能等の評価
方法について調査することによって機能別に評価方法を整理する。
研究成果
4.1. 生物学的機能
文献調査、訪問調査により、分光学的分析手法、放射化学的分析手法、及び電気化学的手法等を利用したライ
ブラリーの生物学的機能評価法の調査を行い、効率良くスクリーニングするための有効な方法を特定することが
できた。また生理機能に関して、特に循環器、中枢、免疫、炎症、感染症、骨代謝および悪性新生物領域に関す
る評価法の調査を行い、高速評価が可能なスクリーニング方法として有効な手法を見出した。
248
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
4.2. 化学的機能
触媒機能、蛍光機能、電池機能、センサー機能等を評価するための手法として、分光学的分析手法、放射化学分
析手法、熱分析的手法、原子スペクトル分析手法、電気化学的手法、及び顕微鏡観察手法等について文献調査、
訪問調査を行った。各手法に用いられる多くの分析法について、迅速性、定量性、サンプリングの容易さ等に関
する特徴を比較検討した結果、分光学的分析手法としては赤外サーモグラフ法および蛍光法が、熱分析的手法と
しては昇温脱離法および等温吸着法が、原子スペクトル分析手法としては EPMA 法および EDX 法が、顕微鏡観察手
法としては SEM 法が、一般的ライブラリーの高速スクリーニング法として使用できることが明らかとなった。実
際のライブラリー評価のためには、これらの手法をライブラリーに合った形にモディファイすることで、HTS 法と
して活用することが有効である。
考
察
約2年の研究期間の中で、物理学的機能に関する調査を除き、その他についてはすでに調査研究を終了している。
当初目標の6〜7割が達成されたと考えており、年次計画に沿いほぼ順調に進捗している。残された研究期間内
で、物理学的機能に関する調査およびこれまでに調査した手法の内、有効な手法の絞り込みを行いたい。これま
でに報告されている分析手法について、これまでライブラリーの高速評価という視点で統的・網羅的に調査研究
した例はなく、科学的価値は高い。
網羅的な調査研究から比較検討の上、生物学的機能、化学的機能及び物理
的機能と幅広いライブラリーに有効に適用できる手法を示しているため、本調査結果は広い分野にわたり有用な
ものとなる。今後データベースとして広く情報発信を行いたい。
249
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
3.2. 超機能材料におけるライブラリーの評価
3.2.2. 金属の関与する核酸標的分子の高効率的スクリーニング系の開発
京都大学化学研究所生体反応設計研究部門Ⅱ
杉浦 幸雄
要
約
1.1. 培養細胞を用いたケミカルライブラリーの高効率的評価手法の開発
ペプチドや糖などは生理活性物質の宝庫と考えられる。これらは一般的に高分子量、高親水性であり、細胞膜
透過性が低いことが、細胞系を用いる活性分子のスクリーニングにおける重要な問題点の一つである。この問題
の打開策として、我々は、種々のペプチドの膜透過性を検討し、分子量3万程度の外来タンパク質を数分で細胞
内に導入可能な、高い膜透過・キャリア能を有するペプチド(3種)を見いだした。
1.2. 生化学的手法によるケミカルライブラリーの高効率的評価手法の開発
アガロースゲル電気泳動を用いて、糖鎖(DNA 認識部位)とエンジイン(DNA 切断部位)を併せ持つ約50種か
らなるライブラリー分子の DNA 切断活性の評価を行い、この方法が DNA 切断活性評価において実用的であること
を確認した。一方、新しい DNA 配列を認識や金属による転写スイッチ能を有する人工転写制御因子の創出のため
のライブラリーデザインのプロトタイプとして、亜鉛フィンガー型転写因子の金属配位モチーフの連結、交換、
あるいはアミノ酸置換による DNA 認識様式の検討を行った。キャピラリー電気泳動や DNA シークエンサーが DNA
結合・認識活性の効率的評価にも適用可能であることも分かった。
目
的
生体内情報伝達系や遺伝情報発現系を調節しうる有用生理活性分子の構築を目指し、培養細胞系を用いたスク
リーニング系や生化学・分子生物学的手法を用いた試験管内スクリーニング系を構築し、各種ケミカルライブラ
リーの高効率的評価手法を開発する。
研究方法
3.1. 培養細胞を用いた手法
マウスマクロファージ由来 RAW264.7 細胞、およびヒト子宮癌由来 HeLa 細胞を用いて、培地中に蛍光ラベルし
たペプチドを添加し、培養後、洗浄、固定を行い、蛍光顕微鏡あるいはレーザー共焦点顕微鏡で観察した。ペプ
チドは Fmoc 固相法で合成し、蛍光ラベルした後、HPLC で精製した。
3.2. 生化学的手法
ゲル電気泳動装置として島津 DSQ シークエンサーを用いた。キャピラリー電気泳動は ABI PRISM 310 および
250
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Beckman Coulter P/ACE MDQ を用いた。
研究成果と考察
4.1. 培養細胞を用いたスクリーニング系の構築
ペプチドや糖などは生体内情報伝達や癌などの悪性疾患の発現を調節できるような生理活性物質の宝庫と考え
られるが、これらの物質は一般的に分子量が大きかったり、親水性が高いために、そのままでは細胞膜を透過す
ることが困難である。コンビナトリアル的手法により調製したこれらの物質の活性を培養細胞を用いてスクリー
ニングを行う際、超活性分子がライブラリー内に存在していても、これらの膜透過性が低い場合には、これらが
細胞内に入ることができず、活性を発現出来ないことが実用上の大きな問題となっている。これらの物質を細胞
内に効率的に導入する手法が確立すれば、より効率的・効果的に、活性物質をスクリーニングする事が可能とな
ると期待される(図 1)。
図1
我々は、 (i) 10残基程度のアルギニンに富む配列を持つペプチドが効率的に膜を透過すること、(ii)これら
とコンジュゲーションすることにより、ペプチド・タンパク質が効率的に細胞内に導入できることを確認し、3
0種あまりのアルギニンに富むペプチドを調製し、ヒトガン細胞由来の HeLa 細胞、およびマウスマクロファージ
由来の RAW264.7 細胞を用いて、これらのペプチドの細胞内移行活性に関しての検討を行い、高い移行活性を示す
3種のペプチド配列を得た(図 2)。さらに、これらを用いて、分子量3万程度の外来タンパク質を数分で細胞内
に導入可能であることが分かり、これらが極めて高い導入活性を有していることが明らかとなった[1,2]。
図2
251
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
上記のアプローチでは細胞内に導入するタンパク質や化合物と塩基性ペプチドが共有結合している必要がある。
誘導化の手間やこれによる活性の低下も危惧される。このため、コンビナトリアル合成した化合物のスクリーニ
ングには、これらの化合物と単に混合するだけで細胞内に導入できる系の開発が望まれる。これらに対する試み
の一つとして、アルギニンペプチドの末端にステアリン酸やコレステロールを導入した疎水化アルギニンペプチ
ドを取り上げた。我々は、すでにこれらの疎水化アルギニンペプチドが、市販の遺伝子導入剤として最も高い効
率を示すものの一つとされるリポフェクタミンにほぼ匹敵する遺伝子導入能を有することを見いだしている[3]。
我々は、化合物モデルとしてフルオレセインや緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein, GFP)と疎水化
アルギニンペプチドとを様々な割合で混合し、これらの細胞内導入を図ったが、残念ながら細胞内への導入はほ
とんど見られなかった。アルギニンペプチド間の静電的反発によりミセル用構造が形成されにくい可能性も考慮
し、他の脂質等との併用に関しても今後検討する予定である。
4.2. 生化学的手法によるスクリーニング系の選定
DNA と結合したり、これを配列特異的に切断する分子は、癌などに始まるさまざまな遺伝情報の発現調節や治療
に寄与できると考えられる。我々は、ゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動が、DNA に結合したり、これを切断す
る分子の迅速なスクリーニングに有用であることを確認した(図 3)。
図3
亜鉛フィンガー型転写因子は、転写因子の構造分類の中で最も多数を占めるものであり、その構造維持、機能
発現に亜鉛が重要な働きを行っている。ライブラリーの手法を用いて、これらの転写因子のアミノ酸構造、金属
配位様式をシャッフルすることにより、新しい DNA 配列を認識したり、金属の有無により転写をスイッチできる
ような人工転写制御因子の開発が期待できる。これらのライブラリーのデザインのプロトタイプとして、DNA 認識
モチーフである亜鉛フィンガー部位を連結したものや、2種の亜鉛フィンガータンパク質を適当なリンカーで結
合したもの、金属配位に関与するアミノ酸を変異させたものなどを遺伝子工学的手法で調製し、これらが新しい
DNA 配列認識分子として作用することを見いだした(図 4)[4-6]。
252
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図4
一方、DNA を特異的に結合する糖部分(認識部位)と DNA を効果的に切断するエンジイン部位(切断部位)を併
せ持つような分子は、たとえば、癌などの悪性疾患に関連する遺伝子を特異的に認識し、切断する事が期待され、
これらの分子のスクリーニングにより、新しいタイプの疾病治療薬が生まれることが期待される。この糖部分を
様々に変えた分子約50種の DNA 切断活性の検討を通して、アッセイ系の実用性の評価を行った(図 5)。切断活
性には化合物と処理したプラスミド DNA をアガロース電気泳動で判定する方法を用いて行い、分子数に応じた泳
動レーンを調製することにより、約30分で切断活性が評価できることが分かった。また、切断活性の強さは切
断されたバンドのパターンと相関することでも評価可能であり、切断分子が同一である場合は化合物と DNA との
親和性の迅速な評価にも用いることが期待できることが分かった。また、金属存在下においては、非存在下とは
異なる認識様式で糖が核酸を認識することも期待され、これらの影響についても今後検討していきたい。
253
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図5
引用文献
[1] S.Futaki , T.Suzuki, W.Ohashi, T.Yagami, S.Tanaka, K.Ueda, & Y.Sugiura, J. Biol. Chem., 276,
5836-5840 (2001).
[2] T.Suzuki, S.Futaki, M.Niwa, S.Tanaka, K.Ueda, & Y.Sugiura, J. Biol. Chem. 277, 2437-2443 (2002).
[3] S.Futaki, W.Ohashi, T.Suzuki, M.Niwa, S.Tanaka, K.Ueda, H.Harashima, & Y.Sugiura, Bioconjug. Chem.
12, 1005-1011 (2001).
[4] M.Nagaoka M, Nomura W, Shiraishi Y, Sugiura Y. Biochem. Biophys. Res. Commun., 282, 1001-1007 (2001).
[5] M.Nagaoka, T.Kaji, M.Imanishi, Y.Hori, W.Nomura, & Y.Sugiura, Biochemistry, 40, 2932-2941 (2001).
[6] Y.Uno, K.Matsushita, M.Nagaoka, &Y.Sugiura, Biochemistry, 40, 1787-1795 (2001).
成果の発表
6.1. 原著論文による発表
6.1.1. 国内誌
Application of arginine-rich RNA-binding peptides to gene deliver.
W.Ohashi, T.Suzuki, I.Nakase, S.Tanaka, K.Ueda, S.Futaki & Y.Sugiura,
254
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Peptide Science 2000, ed by T Shioiri, Protein Research Foundation, Minoh, pp. 241-244 (2001).
Stability and self-association of a model transmembrane helix in lipid bilayers.
Y.Yano, T.Takemoto, S.Kobayashi, W.Ohashi, M.Niwa, S.Futaki, Y.Sugiura & K.Matsuzaki,
Peptide Science 2000, ed by T Shioiri, Protein Research Foundation, Minoh, pp. 93-96 (2001).
Characteristics of membrane permeable arginine-rich peptides.
T.Suzuki, W.Ohashi, I.Nakase, S.Tanaka, K.Ueda, S.Futaki & Y.Sugiura,
Peptide Science 1999, ed by N Fujii, Protein Research Foundation, Minoh, pp. 89-92 (2001).
Intracellular delivery of synthetic peptides mediated by Tat-related peptides.
S.Futaki, T.Suzuki, W.Ohashi, T.Yagami, S.Tanaka, K.Ueda & Y.Sugiura,
Peptide Science 1999, ed by N Fujii, Protein Research Foundation, Minoh, pp. 241-244 (2000).
6.1.2. 国外誌
S.Futaki, I.Nakase, T.Suzuki, Y.Zhang, & Y.Sugiura, Translocation of Branched-chain Arginine
Peptides through Cell Membranes: Flexibility in the Spatial Disposition of Positive Charges in
Membrane-permeable Peptides.
Biochemistry, in press
T.Suzuki, S.Futaki, M.Niwa, S.Tanaka, K.Ueda & Y.Sugiura, Possible existence of common
internalization mechanisms among arginine-rich peptides.
J.Biol.Chem., 277, 2437-2443 (2002).
M.Imanishi & Y.Sugiura, Artificial DNA-bending six-zinc finger peptides with different charged
linkers: Distinct kinetic ptoperties of DNA bindings.
Biochemistry, 41, 1328-1334 (2002).
S.Futaki, W.Ohashi, T.Suzuki, M.Niwa, S.Tanaka, K.Ueda, H.Harashima & Y.Sugiura, Stearylated
arginine-rich peptides: A new class of transfection systems.
Bioconjugate Chem., 12, 1005-1011 (2001).
M.Nagaoka, Y.Shiraishi & Y.Sugiura, Selected base sequence outside the target binding site of zinc
finger protein Sp1.
Nucleic Acids Res., 29, 4920-4929 (2001).
S.Futaki, T.Suzuki, W.Ohashi, T.Yagami, S.Tanaka, K.Ueda & Y.Sugiura, Arginine-rich peptides.
J. Biol. Chem., 276, 5836-5840 (2001).
S.Kobayashi, S.Ashizawa, Y.Takahashi, Y.Sugiura, M.Nagaoka, M.J.Lear & M.Hirama, The first total
synthesis of N1999-A2: Absolute stereochemistry and stereochemical implication into DNA cleavage.
J. Am. Chem. Soc., 123, 11294-11295 (2001).
255
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
S.Kobayashi, R.S.Reddy, Y.Sugiura, D.Sasaki, N.Miyagawa & M.Hirama, Investigation of the total
synthesis of N1999-A2: Implication of stereochemistry.
J. Am. Chem. Soc., 123, 2887-2888 (2001).
M.Imanishi, Y.Hori, M.Nagaoka & Y.Sugiura, Design of novel zinc finger proteins: Towards artificial
control of specific gene expression.
Eur. J. Pharm. Sci., 13, 91-97 (2001).
K.Matsushita & Y.Sugiura, Effect of arginine mutation of alanine-556 on DNA recognition of zinc
finger protein Sp1.
Bioorg. Med. Chem., 9, 2259-2267 (2001).
S.Futaki, M.Araki, T.Kiwada, I.Nakase & Y.Sugiura, A 'Cassette' RNase: Site-selective Cleavage
of RNA by RNase S equipped with RNA-recognition segment.
Bioorg. Med. Chem.Lett., 11, 1165-1168 (2001).
M.Nagaoka, W.Nomura, Y.Shiraishi & Y.Sugiura, Significant effect of linker sequence on DNA
recognition by multi-zinc finger protein.
Biochem. Biophys. Res. Commun., 282, 1001-1007 (2001).
H.Kurosaki, R.K.Sharma, S.Aoki, T.Inoue, Y.Okamoto, Y.Sugiura, M.Doi, T.Ishida, M.Otsuka & M.Goto,
Synthesis, characterization, and spectroscopic properties of three novel pentadentate copper(II)
complexes related to the metal-chelating inhibitors against DNA binding with HIV-EP1.
J. Chem. Soc., Dalton Trans., 441-447 (2001).
M.Nagaoka, T.Kaji, M.Imanishi, Y.Hori, W.Nomura & Y.Sugiura, Multiconnection of identical zinc
finger: Implication for DNA binding affinity and unit modulation of the three zinc finger domain.
Biochemistry, 40, 2932-2941 (2001).
Y.Uno, K.Matsushita, M.Nagaoka & Y.Sugiura, Finger-positional change in three zinc finger protein
Sp1: Influence of terminal finger in DNA recognition.
Biochemistry, 40, 1787-1795 (2001).
M.Nagaoka & Y.Sugiura, Artificial zinc finger peptides: Creation, DNA recognition, and gene
regulation.
J. Inorg. Biochem., 82, 57-63 (2000).
Y.Hori, K.Suzuki, Y.Okuno, M.Nagaoka, S.Futaki & Y.Sugiura, Artificial zinc finger peptide
containing a novel His4 domain.
J. Am. Chem. Soc., 122, 7648-7653 (2000).
256
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Y.Okuno, T.Iwashita & Y.Sugiura, Structural basis for reaction mechanism and drug delivery system
of chromoprotein antitumor antibiotic C-1027.
J. Am. Chem. Soc., 122, 6848-6854 (2000).
M.Imanishi, Y.Hori, M.Nagaoka & Y.Sugiura, DNA-bending finger: Artificial design of 6-zinc finger
peptides with polyglycine linker and induction of DNA bending.
Biochemistry, 39, 4383-4390 (2000).
Y.Aizawa, Y.Sugiura & T.Morii, Comparison of the sequence-selective DNA binding by peptide dimers
with covalent and noncovalent dimerization domains.
Biochemisty, 38, 1626-1632 (1999).
Y.Aizawa, Y.Sugiura, M.Ueno, Y.Mori, K.Imoto, K.Makino & T.Morii, Stability of the dimerization
damain effects the cooperative DNA binding of short peptides.
Biochemistry, 38, 4008-4017 (1999).
T.Inoue, Y.Sugiura, J.Saitoh, T.Ishiguro &
M.Otsuka, Fluorescence property of oxazola
yellow-linked oligonucleotide. Triple helix formation and photocleavage of double-stranded DNA
in the presence of spermine.
Bioorg. Med. Chem., 7, 1207-1211 (1999).
6.2. 原著論文以外による発表
6.2.1. 国内誌
Y.Sugiura, Natural and artificial zinc finger proteins.
Riken Review, 35, 102-104 (2001).
Y.Sugiura, Molecular Mechanisms of DNA recognition and function by bioactive compounds.
Yakugaku Zasshi, 120, 1409-1418 (2000) (in Japanese).
Y.Sugiura & M.Nagaoka, Design and development of new reaction systems based on nucleic
acid recognition.
Kikan Kagaku Sosetsu, 47, 231-240 (2000) (in Japanese).
Y.Sugiura, Chemistry in biological and medical sciences.
Chemistry, 54, 20-21 (1999) (in Japanese).
6.3. 口頭発表
6.3.1. 招待講演
杉浦幸雄
(国際会議)
第 10 回国際生物無機化学会議
2001 年 9 月 フローレンス(イタリア)
257
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
第 4 回 AFMC 国際医薬化学会議
2001 年 7 月 ブリスベン(オーストラリア)
国際必須生元素ワークショップ
2000 年 10 月 上海(中国)
2000 年度英国薬学会
2000 年 9 月 バーミンガム(英国)
国際亜鉛蛋白質シンポジウム
2000 年 9 月 マンチェスター(英国)
第 3 回 AFMC 国際医薬化学会議
1999 年 9 月 北京(中国)
ヨーロッパ生物無機化学会議
1998 年 7 月 セビリア(スペイン)
生体金属分子科学に関する国際ワークショップ
1997 年 12 月 東京(日本)
DNA 認識に関する国際シンポジウム
1997 年 3 月 マンチェスター(英国)
(国内学会等)
第 12 回金属の関与する生体関連反応シンポジウム
2002 年 5 月 23 日(京都)
人工亜鉛フィンガー蛋白質の創製と機能
第 1 回神戸薬科大学ハイテク・リサーチ・シンポジウム
2001 年 5 月 26 日(神戸)
生物活性分子による DNA 認識と機能発現— エンジイン抗癌抗生物質と亜鉛フィンガー蛋白質を中心に
宇治キャンパス公開 2001 公開講演会(宇治市民大学自然科学コース提携)
2001 年 10 月 6 日(宇治)
癌と戦うケミ・ストーリー
日本薬学会九州支部特別講演会
2001 年 11 月 26 日(熊本)
遺伝子に指令を与える亜鉛タンパク質
258
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
第 120 年会日本薬学会
2000 年 3 月 29 日〜31 日(岐阜)
生物活性分子による DNA 認識と機能発現の分子機構
明治薬科大学特別学術講演会
2000 年 6 月 9 日(東京)
生物活性分子による DNA 認識と機能発現
海洋バイオテクノロジー研究所特別講演会
2000 年 7 月 27 日(清水)
遺伝子と金属
東京大学理学部化学科特別講演
2000 年 9 月 21 日(東京)
生物活性分子による DNA 認識と機能発現
「大学と科学」公開シンポジウム
2000 年 10 月 19 日〜20 日(東京)
遺伝子に指令を与える亜鉛タンパク質
信州大学機器分析センター開所記念学術講演会
2000 年 12 月 5 日(松本)
生物活性分子による DNA 認識と機能発現
二木 史朗
(国際会議)
ペプチド自己集合系ワークショップ
1999 年 7 月 クレタ(ギリシャ)
(国内学会等)
文部科学省科研費特定領域研究(A)「分子シンクロ材料」ミニシンポジウム
「細胞内トラフィックスト薬物ターゲッティングのシンクロナイゼーション」
2001 年 12 月 5 日〜6 日(京都)
新しい細胞内デリバリーペプチドのデザイン
東北大学未来科学技術共同センター特別講演
2001 年 11 月 6 日(仙台)
、
新しい細胞内デリバリーペプチドのデザイン
第17回日本 DDS 学会
2001 年 7 月 12 日〜13 日(吹田)
ワークショップ「体内動態制御の新展開」
259
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Arginine-rich ペプチドを用いた細胞内デリバリー
京都府立医大解剖学第一講座セミナー
2001 年 6 月 26 日(京都)
「細胞膜を透過する arginine-rich ペプチド」
北海道大学薬学部特別講演会「21世紀のゲノム創薬を語る:細胞選択的なデリバリーから遺伝子発現とそ
の制御まで」
2001 年 2 月 7 日(札幌)
Arginine-rich ペプチド:新しい細胞内タンパク質導入キャリアとしての可能性
第1回コンビナトリアル・バイオエンジニアリングシンポジウム− 新バイオ分子と機能の創出を目指して−
2001 年 1 月 26 日(東京)
細胞透過性ペプチドとコンビナトリアルバイオエンジニアリングの接点
徳島大学大学院医学研究科講義・分子酵素センターセミナー
2001 年 1 月 22 日(徳島)
高分子蛋白質の新しい細胞内導入法:Arginine-rich ペプチドの細胞膜透過と蛋白質細胞内導入キャリアと
しての可能性
理研シンポジウム「第4回生体分子の化学」
2000 年 11 月 30 日(和光)
膜・細胞と相互作用する機能性ペプチド
6.3.2. 応募、主催講演等
平成13年度 15 件
平成12年度 13 件
平成11年度 11 件
6.4. 特許出願等
なし
6.5. 受賞等
杉浦幸雄、平成12年3月28日
平成12年度日本薬学会賞
受賞題目「生物活性分子による DNA 認識と機能発現の分子機構」
260
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
3.3. 超機能材料創製のための最適設計手法の確立
3.3.1. オリゴ糖エリシターの機能性評価に関する研究
独立行政法人農業生物資源研究所
渋谷 直人
要
約
イネ培養細胞を材料として、植物の生体防御機構を活性化する作用(エリシター活性)を再現性良く、かつ簡
便に測定する方法を検討した。エリシターによって誘導される種々の細胞応答のうち、測定の容易さ、ハイスル
ープット化の可能性、生物的意義などからいくつかの方法について検討した。
エリシター誘導性の活性酸素生成については、特定の品種由来の培養細胞と培養条件を組み合わせることによ
り、再現性良く、また、効率的にエリシター誘導活性酸素生成を測定する方法を確立した。キチン系列オリゴ糖
についてはその他の指標を用いた場合とよく一致する結果が得られ、また迅速・簡便で信頼性が高いことが示さ
れた。本測定法により、植物病原菌細胞壁から単離した新規のエリシター活性グルコオリゴ糖とその類縁合成オ
リゴ糖ライブラリーの評価を行った。また、オリゴ糖ライブラリー評価と天然物からの単離・特性解析を併用す
ることにより、新規で高活性なエリシターを見出すことができつつある。一方、エリシターのタイプによって活
性酸素応答を指標とすることが適切でない場合も示唆されたため、より生物的意義が明確かつハイスループット
化の可能性が高い方法として、エリシター応答性遺伝子のプロモーターにレポーター遺伝子を結合したものを用
いるアッセイ法を検討し、その利用可能性を示した。
研究目的
病原菌細胞表層多糖に由来するオリゴ糖には、植物の生体防御反応を誘導する活性(エリシター活性)をもつ
ものが知られている[1,2]。また、こうしたエリシターの認識特性は植物間で異なることも分かり始めている[3]。
新規な生体機能調節剤としての機能性オリゴ糖やその機能を代替できる新規物質を合成するためには、その構造
と機能の関係を詳細に解析する必要がある。本課題では超機能としてこのエリシター作用を対象とし、この機能
を評価するための迅速・簡便なバイオアッセイ系を開発し、オリゴ糖を中心とする諸種のライブラリーの生物活
性を評価し、活性発現に必須な構造単位を明らかにする。これらにより、天然物の活性部位構造を模倣する超機
能人工材料を設計するための手法を開発する。
研究成果
3.1
強いエリシター活性を示すキチンオリゴ糖をモデルとして、エリシターによって誘導される種々の細胞応答を検
討し、①生物活性の指標として妥当なこと、②ハイスループットなアッセイ系として利用可能なこと、の 2 点か
ら検討した結果、エリシターによって誘導される活性酸素生成を選択し、必要に応じて抗菌性低分子物質である
261
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
ファイトアレキシンの合成誘導を併用することとした(図 1)
。
CH 2 OH
CH 2 O H
O
O
OH
CH2 OH
O
O
O
OH
O H, H
OH
OH
NH A c
N HA c
n
N H Ac
キチンオリゴ糖によってイネ培養
細胞に誘導される細胞応答
測定条件の確立
★ "遅延型活性酸素応答"部分の利用
★ 適切な細胞系の選択
★ 培養条件の検討
原形質膜の脱分極、イオンフラックス、
細胞質酸性化
★ 細胞量と応答性の関連の検討
活性酸素生成
蛋白質リン酸化
ジャスモン酸生成
抵抗性関連遺伝子の発現
天然/合成オリゴ糖ライブラリー
の活性評価
抗菌性二次代謝産物の合成
図 1. 研究の概要
3.2
測定感度に優れたルミノール反応を利用した化学発光法により、エリシターによる活性酸素誘導のタイムコース
を検討した結果、2 相性を示す活性酸素生成のうち、遅延型のものがエリシターのタイプによらず誘導され、生物
活性の指標として優れていることを見出した。
ア) それぞれの細胞応答を再現性良く測定するための細胞系について検討した結果、活性酸素生成の測定および
ファイトアレキシン合成誘導ともイネ品種 BL ー 1 由来の培養細胞を用いることとした。さらに、エリシター
処理に用いる細胞の培養条件について最適条件を設定した。
イ) 高濃度の培養細胞を用いた場合、エリシターにより誘導される活性酸素の量は抑制される傾向を示したため、
細胞量と活性酸素生成量がほぼ比例する濃度域を決定し、最適条件を定めた。
ウ) 活性酸素の生成量は実験毎に変動するため、相対活性表示を用いて検討した結果、それぞれの物質毎にほぼ
安定した結果が得られることを確認した。
エ) 活性酸素生成を指標として、キチン系のエリシターの評価を行った結果、その他の細胞応答と非常に良く相
関する結果が得られ、再現性、信頼性も高いことを確認した。
262
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 2. 活性酸素応答を利用したキチンオリゴ糖のエリシター活性評価
オ) イモチ病菌細胞壁βグルカンの限定酵素分解から得られたエリシター活性5糖およびその完全合成品につい
て活性酸素誘導能を調べたところ、よく対応する活性が認められた。これにより天然物から得たものの構造
解析、活性測定結果が合成的手法により確認された。
263
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 3. 天然物由来オリゴ糖エリシターと合成オリゴ糖の活性比較
カ) この手法により、種々の合成オリゴ糖の評価を行った結果、天然型のものと同一のもののみが高い活性を示
し、類似構造を持つものでも活性は低かった。このことから、植物細胞は天然型糖鎖の構造を厳密に認識し
ていることが示された。
キ) 一方、活性酸素誘導を指標として繰り返し実験を行った結果、同一標品についても活性の濃度依存性が変動
するなど、信頼性に問題があった。また、ファイトアレキシン誘導活性で評価するとほとんどエリシター活
性が認められない直鎖のラミナリオリゴ糖でもかなりの活性が認められるなどの問題点も明らかとなった。
これに関連して、エリシター受容体下流の細胞応答全体について検討を行ったところ、エリシターのタイプ
によりシグナル伝達系が異なる可能性があり、活性評価にもこれらを十分考慮する必要があることが明らか
となった。
ク) 活性酸素誘導を指標とすることの限界を踏まえ、新規で簡便なエリシター活性測定法として、エリシター応
答性遺伝子(PAL)のプロモーター下流にレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ)をつないだものをイネ細胞に
形質転換し、この細胞系を用いたアッセイ法を開発した。このアッセイ系は①エリシターで誘導され、生体
防御に関連することが確立している遺伝子の発現を調べるので生物的意義が明確である、②ルシフェラーゼ
による発光を利用するため高感度測定が可能、③high-throughput 化が可能、などの利点がある。この実験
系でエリシター評価を行ったところ、他のエリシター活性測定法とよく一致した評価結果が得られた。
図 4. ルシフェラーゼ導入イネ細胞を用いたエリシター活性と活性酸素応答の比較
ケ) これらの活性評価法を利用して、イモチ病菌細胞壁βグルカンの限定酵素分解物から新規なエリシター活性
5糖を単離精製した。このものの化学的構造解析ならびに合成オリゴ糖との比較から、このオリゴ糖が新規
なエリシター活性分岐グルコペンタオースであることを明らかにした。
264
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
図 5. エリシター活性グルコ 5 糖の単離・精製(B が新規活性5糖)
考
察
超機能として植物の生体防御機構活性化物質としての作用(エリシター活性)を取り上げ、この活性を再現性
良く、かつ簡便に測定する方法を検討した。特定の品種由来のイネ培養細胞を設定された最適条件下で培養し、
エリシターによって誘導される活性酸素生成を化学発光法で測定することにより、簡便で感度の高いバイオアッ
セイ系を確立することができた。キチンオリゴ糖を用いた検討では、この方法が従来から行われているファイト
アレキシンアッセイと良好な相関性を持つことが示された。
超機能としてのエリシター活性を評価する上で、培養細胞系における活性酸素誘導の測定は簡便かつ鋭敏なた
めすぐれた評価法となり得る。しかしながら、活性酸素応答はエリシターのタイプによって異なる様相を示すこ
とが明らかとなり、また、エリシター刺激以外の要因によっても誘導される可能性があるため、その利用には限
界があることも事実である。今回の検討において、この方法はキチン系エリシターの評価には十分な信頼性を持
つことが示されたが、グルカン系エリシターの構造活性相関の検討においてはファイトアレキシンアッセイとの
相関などに問題が見とめられた。こうした点から考えると、エリシターとしての機能評価にあたっては、用いる
材料をも勘案してアッセイ法を考える必要があることが示された。
エリシター評価のためには、生体防御機構を活性化するという明確な生物的指標であること、簡便かつ高感度
で high-throughput 化が可能であることなどが求められる。今回開発した、防御応答に関わると考えられる遺伝
子のプロモーターにレポーター遺伝子を結合したものを用いるアッセイ法は、こうした点から見て極めて有望な
評価手法になることが期待される。
エリシターのバイオアッセイを利用して単離された新規な生理活性オリゴ糖の構造解析を、化学的構造解析と
合成的手法を組み合わせて行う方法は、この分野に新たなアプローチを示したものとして波及効果が大きいもの
と考えられる。
引用文献
[1] T. Boller: Ann. Rev. Plant Physiol. Mol. Biol. 46:189-214 (1995) .
265
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
[2] N. Shibuya and E. Minami: Physiol. Mol. Plant Pathol., 59, 223-233 (2001).
[3] T. Yamaguchi, A. Yamada, N. Hong, T. Ogawa, T. Ishii and N. Shibuya: Plant Cell, 12, 817-826 (2000).
成果の発表
6.1. 原著論文による発表
6.1.1. 国内誌
M.
Okada
,
M.
Matsumura,
Y.
Ito
and
N.
Shibuya:
High-affinity
binding
proteins
for
N-acetylchitooligosaccharide elicitor in the plasma membranes from wheat, barley and carrot cells:
Conserved presence and correlation with the responsiveness to the elicitor. Plant Cell Physiol. in press.
6.1.2. 国外誌
T. Yamaguchi, A. Yamada, N. Hong, T. Ogawa, T. Ishii and N. Shibuya: Differences in the recognition of
glucan elicitor signals between rice and soybean: beta-glucan fragments from the rice blast disease fungus
Pyricularia oryzae that elicit phytoalexin biosynthesis in suspension-cultured rice cells. Plant Cell,
12, 817-826 (2000).
R. Takai, K. Hasegawa, H. Kaku, N. Shibuya and E. Minami: Isolation and analysis of expression mechanisms
of a rice gene, EL5, which shows structural similarity to ATL family from Arabidopsis, in response to
N-acetylchitooligosaccharide elicitor. Plant Sci., 160, 577-583 (2001).
M. Okada, M. Matsumura and N. Shibuya: Identification of a high-affinity binding protein for
N-acetylchitooligosaccharide elicitor in the plasma membrane from rice leaf and root cells. J. Plant
Physiol., 158, 121-124 (2001).
T. Amaya, H. Tanaka, T. Yamaguchi, N. Shibuya and T. Takahashi: The first synthesis of tetraglucosyl
glucitol having phytoalexin-elicitor activity in rice cells based on a sequential glycosylation strategy.
Tetrahedron Lett., 42, 9191-9194 (2001).
N. Nishimura, S. Tanabe, D-Y. He, T. Yokota, N. Shibuya, and E. Minami: (2001) Recognition of
N-acetylchitooligosaccharide elicitor by rice protoplasts. Plant Physiol. Biochem. 39, 1105-1110.
K. Tsukada; M. Ishizaka; Y. Fujisawa; Y. Iwasaki; T. Yamaguchi; E. Minam and N. Shibuya: Rice receptor
for chitin oligosaccharide elicitor does not couple to heterotrimeric G-protein: Elicitor responses of
suspension cultured rice cells from Daikoku dwarf (d1) mutants lacking a functional G-protein alpha-subunit.
Physiologia Plant. In press
T. Yamaguchi, Y. Maehara, O. Kodama, M. Okada, M. Matsumura and N. Shibuya: Two purified oligosaccharide
elicitors, N-acetylchitoheptaose and tetraglucosylglucitol, derived from Magnaporthe grisea cell walls,
synergistically activate biosynthesis of phytoalexin in suspension-cultured rice cells. J. Plant Physiol.
In press
266
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
6.2. 原著論文以外による発表
6.2.1. 国内誌
T. Yamaguchi, Y. Ito and N. Shibuya: Oligosaccharide elicitors and their receptors for plant defense
responses. Trends Glycosci. Glycotech., 12, 113-120 (2000).
山口武志、渋谷直人:植物の生体防御反応を誘導するオリゴ糖。バイオサイエンスとインダストリー、57, 607-610
(1999)
伊藤ユキ、渋谷直人:エリシター受容体。タンパク質・核酸・酵素、44、2322-2330 (1999)
6.2.2. 国外誌
N. Shibuya, T. Yamaguchi, E. Minami, H. Kaku, Y. Ito and M. Okada: Oligosaccharide elicitor signaling:
Perception and transduction of oligochitin/oligoglucan elicitors in rice. “Biology of Plant-Microbe
Interactions, vol.2”, edited by P. J. G. M. deWit, T. Bisseling and W. J. Stiekeman, IS-MPMI, 109-113
(2000).
G. Stacey, R. B. Day, P. M. Reddy, J. Cohn, S. Koh, N. Shibuya and J. K. Ladha: Chitin Perception in legumes
and rice: What distingushes a nodulating plant? “The Quest for Nitrogen Fixation in Rice”, edited by
J. K. Ladha and P. M. Reddy, IRRI, 273-289 (2000).
Y. Ito and N. Shibuya: Receptors for the microbial elicitors of plant defense responses. “Plant-Microbe
Interactions, vol.5”, edited by G. Stacey and N. Keen, APS-Press, 269-295 (2000).
N. Shibuya, T. Yamaguchi, Y. Ito, H. Kaku, M. Okada and Y. Maehara: Rice receptors for chitin and glucan
elicitors. “Perception and Delivery of Pathogen Signals in Plants”, edited by N. Keen, S. Mayama, J.
E. Leach and S. Tsuyumu, APS-Press, 46-52 (2001).
N. Shibuya and E. Minami: Oligosaccharide Signaling for Defense Responses in Plant, Physiol. Mol. Plant
Pathol., 59, 223-233 (2001).
6.3. 口頭発表
6.3.1. 招待講演
N. Shibuya, T. Yamaguchi, Y. Ito, H. Kaku, M. Okada and Y.Maehara: Chitin and glucan elicitors for rice
and their receptor、US-Japan Seminar
1999 年 6 月
N. Shibuya, T. Yamaguchi, E.i Minami, H. Kaku, Y. Ito and M. Okada: Oligosacharide elicitor signaling:
perception and transduction of oligochtin/ oligoglucan elicitor in rice
Molecular Plant-Microbe Interactions 9th international congress (Sp 22)
1999 年 7 月
N. Shibuya, T. Yamaguchi, Y. Ito, H. Kaku and E. Minami: Oligosaccharide elicitor signaling: perception
267
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
and transduction of oligosaccharide elicitor signals in rice cells
XVth International symposium on glycoconjugates (S25)
1999 年 8 月
N. Shibuya: Oligosaccharide elicitor signaling mediated by plasma membrane receptor in rice.
NIAR-COE/BRAIN/CREST joint international symposium "self-defense signaling pathways in plants"
2000 年 11 月
6.3.2. 応募・主催講演等
H. Kaku, and N. Shibuya
Purification of oligochitin elicitor-binding protein from plasma membrane of rice cells using an efficient
affinity matrix
13th John Innes Symposium "Attack & Dffence" in plant disease (105)
1999 年 7 月
Y. Ito, and N. Shibuya
Purification of an N-acetylchitooligosaccharide elicitor biinding protein from the plasma membrane of
susupension-cultured rice cells by avidin-biotin affinityy chromatography
Molecular Plant-Microbe Interactions 9th international congress (p.84)
1999 年 7 月
H. Kaku, and N. Shibuya
Purification of oligochitin elicitor-binding protein from plasma membrane of rice cells using an efficient
affinity matrix
Molecular Plant-Microbe Interactions 9th international congress (p.87)
1999 年 7 月
T. Yamaguchi, Y. Maehara, and N. Shibuya
Reguration of biphasic reactive oxygen generation induced by oligosaccharide elicitors inPurification
of an N-acetylchitooligosaccharide elicitors in susupension-cultured rice cells
Molecular Plant-Microbe Interactions 9th international congress (p.92)
1999 年 7 月
E. Minami, R. Takai, K. Yamada, H. Kaku, G. Fincher, Y. Nishizawa, and N. Shibuya
Isolation and analysis of expression of a b-1,3-glucanase gene in response to elicitor in
suspension-culures rice cells
XVth International symposium on glycoconjugates(S99)
1999 年 8 月
H Kaku, and N Shibuya
Purification of oligochitin elicitor-binding protein from plasma membrane of rice cells using an efficient
affinity matrix
268
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
XVth International symposium on glycoconjugates(S99)
1999 年 8 月
T. Akiyama, H. Kaku, and N. Shibuya
Purification of an endo-1,3:1,4-beta-glucanse from rice seeds (Olyza sativa) and determination of its
primary structure from a cDNA clone
XVth International symposium on glycoconjugates(S101)
1999 年 8 月
T.Yamaguchi, Y. Maehara, O. Kodama, T. Takahashi, H. Tanaka, T. Amaya, N. Shibuya
Structure-function relationships of glucooligosaccharide elicitor that can induce defense responses in
rice cells.
20th International carbohydrate symposium. Abstract p.321
2000 年 8 月
E. Minami, D-Y. He, Y. Yazaki, K. Sakano, R. Takai, Y. Nishizawa, H. Kaku, K. Yamada and N. Shibuya
Analysis of gene expression in response to N-acetylchitooligosaccharide elicitors in suspension-cultured
rice cells.
20th International carbohydrate symposium. Abstract p.304
2000 年 8 月
H Kaku and N. Shibuya
Solubilization and purification of a putative receptor molecule for oligochitin elicitor from plasma
membrane of suspension cultured rice cells.
20th International carbohydrate symposium. Abstract p.209
2000 年 8 月
Y. Ito, N. Shibuya: Purification of an N-acetylchitooligosaccharide elicitor binding protein from the
plasma membrane of suspension-cultured rice cells by avidin-biotin affinity chromatography.
NIAR-COE/BRAIN/CREST joint international symposium "self-defense signaling pathways in plants"abstract
P-1
2000 年 11 月
M. Okada, M. Matsumura, N. Shibuya
Correlation between the presence of high affinity binding proteins for
N-acetylchitooligosaccharide elicitor in the plasma membrane and the elicitor- responsiveness of plant
cells: evaluation of the in vivo function of the binding proteins :
NIAR-COE/BLAIN/ CREST Joint International Symposium 'Self-defence Signaling Pathways in Plants. Abstract
P-2.
2000 年 11 月
R. Takai, K. Hasegawa, N. Shibuya, E.i Minami
269
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
Isolation and analysis of expression mechanisms of a rice gene, EL5, which shows structural similarity
to ATL family from Arabidopsis, in response to N-acetylchitooligosaccharide elicitor
NIAR-COE/BRAIN/CRESTjoint international symposium "self-defense signaling pathways in plants" Abstract
p-5
2000 年 11 月
K. Tsukada, M. Ishizaka, Y. Fijisawa, Y. Iwasaki, E. Minami and N. Shibuya
Evidences against involvement of heterotrimeric G protein in rice defense
responses induced by N-acetylchitooligosaccharide elicitor
NIAR-COE/BRAIN/CREST joint international symposium "self-defense signaling pathways in plants" Abstract
P-3
2000 年 11 月
R. B. Day, S. Tanabe, C. Akimoto, J. Yazaki, K. Nakamura, S. Kikuchi, N. Shibuya , and E. Minami
Two members of the Oryza sativa scarecrow-like (SCL) gene family are rapidly induced in response to elicitor
perception in the rice-fungal pathogen defense reaction
NIAR-COE/BRAIN/CREST joint international symposium "self-defense signaling pathways in plants" Abstract
P-6
2000 年 11 月
T. Yamaguchi, Y. Maehara, N. Shibuya
Analysis of reactive oxygen generation induced by oligochitin elicitor in suspension-cultured rice cells.
NIAR-COE/BRAIN/CREST
Joint
International
"self-defense signaling pathways in plants"
NIAR-COE/BRAIN/CREST
joint
international
symposium
Abstract P-4
2000 年 11 月
H. Kaku, E. Minami and N. Shibuya
Purification of oligochitin elicitor-binding protein from plasma membrane of rice cells and survey of
its gene.
Presidential Meeting 2000, Plamt-Pathogen Interactions:
Understanding Mechanisms of Resistance and Pathogenicity for Disease Control, abstract p.33
2000 年 12 月
S. Tanabe, M. Okada, E. Minami and N. Shibuya
Expression of elicitor responsive genes in rice plant.
Presidential Meeting 2000, Plamt-Pathogen Interactions:
Understanding Mechanisms of Resistance and Pathogenicity for Disease Control, abstract p.46
2000 年 12 月
H. Kaku, E. Minami and N. Shibuya
Oligochitin elicitor-binding protein from plasma membrane of rice cells and survey of its gene.
Keystone Symposia
270
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2001 年 3 月
C. Akimoto, R. Takai, K. Hasegawa, E. Minami and N. Shibuya
Isolation and characterization of rice genes responsive to N-acetylchitooligosaccharide elicitor using
DNA microarray analysis
10th International Congress on Molecular Plant-Microbe Interactions(102)
2001 年 7 月
R. B. Day, N. Shibuya and E. Minami
Induction and regulation of two novel transcription factors from rice in response to chitin perception
and GA3 signaling: The involvlemnt of GA3 in the chitin-induced defense response in rice
10th International Congress on Molecular Plant-Microbe Interactions(114)
2001 年 7 月
E. Minami, Chiharu. Akimoto, R. Takai, K. Hasegawa and N. Shibuya
Isolation and characterization of rice genes responsive to N-acetylchitooligosaccharide elicitor by DNA
microarray
XVIth International Symposium on Glycoconjugates, Glyco. J., 18, 63(2001)
2001 年 8 月
H. Kaku, E. Minami and N. Shibuya
Oligochitin elicitor-binding protein from plasma membrane of rice cells
XVIth International Symposium on Glycoconjugates, Glyco. J., 18, 63(2001)
2001 年 8 月
賀来華江、渋谷直人
イネ培養細胞原形質膜画分からキチン系エリシター結合蛋白質の効率的精製方法の確立
日本植物学会第63回大会
1999 年 10 月
田部 茂、南 栄一、渋谷直人
イネ植物体におけるエリシター応答性遺伝子の発現
日本植物学会第63回大会
1999 年 10 月
田部茂,南栄一,渋谷直人
イネにおけるエリシター応答性遺伝子の組織・細胞特異的発現.
第 10 回植物微生物研究会交流会(p.141,142)
2000 年 11 月
田部茂,岡田光央,南栄一,渋谷直人
イネ植物体におけるエリシター応答性遺伝子の組織特異的及びシステミックな発現.
271
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
日本植物生理学会 2001 年度年会(p.161)
2001 年 3 月
秋本千春,塚田幸治,矢崎芳明,坂野勝啓,渋谷直人,南栄一
キチンオリゴマーがイネ培養細胞に誘導する初期応答の解析
日本植物生理学会2001年度年会(p.172)
2001 年 3 月
高井亮太、田部茂、南栄一、長谷川宏司、渋谷直人
イネの RING-H2 finger をコードする cDNA の単離、同定とその発現
日本植物生理学会2001年度年会(p.165)
2001 年 3 月
山口武志、前原有美子、渋谷直人
イネ培養細胞のキチン系エリシターによるの活性酸素生成の制御機構の解析
日本植物生理学会 2001 年度年会(p.173)
2001 年3月
岡田光央、伊藤ユキ、松村正利、渋谷直人
親和性標識を利用したキチンオリゴ糖エリシター結合タンパクの挙動の解析
日本植物生理学会2001年度年会(p.171)
2001 年3月
賀来華江、南栄一、渋谷直人
イネエリシターオリゴ糖エリシター結合蛋白質の単離及びその遺伝子の探索
日本植物生理学会2001年度年会(p.162)
2001 年3月
矢柄寿一、小松節子、渋谷直人、朽津和幸
イネ培養細胞におけるオリゴ糖エリシターにより活性化されるプロテインキナーゼの性質
日本植物生理学会2001年度年会(p.172)
2001 年3月
門田康弘、玉内亮介、中村衣里、渋谷直人、朽津和幸
キチンオリゴ糖エリシターにより誘導されるイネ培養細胞のイオンフラックスの分子機構の解析
日本植物生理学会2001年度年会(p.172)
2001 年3月
桐渕協子、武田正敬、杉森美帆、軸丸裕助、山口武志、秋本千春、南栄一、小野寺治子、宇垣正志、田中宥司、 渋
谷直人、小原直美、長谷川守文、児玉治、野尻秀昭、 大森俊雄、西山真、山根久和
イネにおけるジャスモン酸応答性遺伝子 RERJ1の機能解析
植物化学調節学会第36回大会
272
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
2001 年 10 月
高井 亮太、松田憲之、中野明彦、長谷川宏司、秋本千春、渋谷直人、南栄一
キチンエリシターにより誘導されるイネ由来ユビキチン結合酵素(E2)およびユビキチンリガーゼ(E3)の解析
日本分子生物学会 2001 年度年会
2001 年 12 月
高井 亮太、松田憲之、中野明彦、長谷川宏司、秋本千春、渋谷直人、南栄一
キチンエリシター応答性 RING finger タンパク質 EL5 はユビキチンリガーゼ(E3)である
日本植物生理学会 2001 年度年会発表予定
2002 年 3 月
傍島宏行、桐渕協子、武田正敬、杉森美帆、小橋信行、野尻秀昭、F. Schaller、E. W. Weiler、秋本千春、山口
武志、南栄一 、渋谷直人、吉原照彦、大森俊雄
イネ培養細胞におけるジャスモン酸応答性遺伝子 Os OPR1 の機能解析
日本農芸化学会 2002 年度大会講演予定
2002 年 3 月
伊藤ユキ、前原有美子、山口武志、渋谷直人
イネ培養細胞原形質膜に存在するラミナリオリゴ糖結合蛋白質の親和性標識による検出
日本植物生理学会2001年度年会講演予定
2002 年 3 月
ロバート デイ、腰岡政二、三ツ井敏明、上口− 田中 美弥子、松岡 信、渋谷直人、南栄一
N− アセチルキトオリゴ糖エリシター及びジベレリンによって発現が誘導されるイネGRASファミリー遺伝子
日本植物生理学会2001年度年会講演予定
2002 年 3 月
山口武志、南栄一、渋谷直人
イネ培養細胞のキチンエリシターにより誘導される防御反応における Phosphatidic Acid の役割について
日本植物生理学会 2001 年度年会発表予定
2002 年3月
田部 茂,R. B. Day,南 栄一,渋谷 直人
エリシター処理によるイネのイネいもち病菌に対する抵抗性の誘導
日本植物生理学会 2002 年度年会講演予定
2002 年 3 月
秋本千春,田中喜之,矢崎潤史,岸本直己,菊池尚志,渋谷直人,南栄一
DNA マイクロアレイシステムを用いたキチンオリゴマー応答性遺伝子の探索
日本植物生理学会 2002 年度年会講演予定
2002 年 3 月
273
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
3. ケミカルライブラリーの機能性評価技術に関する研究
3.3 超機能材料創製のための最適設計手法の確立
3.3.2. ペプチドのin silico評価法の開発
三井情報開発株式会社総合研究所
江口 至洋
要
約
生理活性ペプチドを中心に、ペプチド構造・機能情報データを整備した。アミノ酸配列情報から機能部位を推計
するためのアルゴリズムをプログラミングし、プロトタイプシステムを開発した。パイロキニン(残基数 16)
、PTHrp
(残基数 141)といった残基数 16 から 141 の生理活性ペプチド 20 種を対象に、機能部位が正しく予測しうるかど
うかの評価を行った結果、L=7 とし PAM250 行列を用いた場合に 95%という最高の予測精度が得られた。
研究目的
ペプチドライブラリに蓄積された個々のペプチドのアミノ酸配列情報からその生物機能(生理活性部位)を高精
度に予測するためのアルゴリズム(ペプチド分子の in silico 機能評価法)を開発する。そのため、以下の研究
を実施した。
(ⅰ)生理活性ペプチドを中心に、アミノ酸配列等の構造情報、および生物機能部位等の機能情報を文献や論文、
データベースから収集し、ペプチド構造・機能情報データを整備する。
(ⅱ)ペプチドの構造モチーフと機能、アミノ酸配列情報を整備する。
(ⅲ)ペプチドのアミノ酸配列情報から機能部位を推計するためのアルゴリズムを研究する。
研究方法
3.1. 生理活性ペプチドの構造・機能情報データの整備
生理活性ペプチドを中心に、アミノ酸配列、構造モチーフ等の構造情報、および生物機能部位等の機能情報を文
献や論文、データベース(PIR、PROSITE 等)から収集し、ペプチド構造・機能情報データを整備した。
3.2. 機能部位予測のプロトタイプシステムの開発
連続した L 残基フラグメントが全長ペプチド内で示す相同性を、Dayhoff らの PAM 行列や Henikoff らの Blosum 行
列等を用いて計算し、全長ペプチド内で最も相同性の低いフラグメントが生物機能部位であるとした予測法を
Perl 言語によりプログラミングし、先に収集した生理活性ペプチドの生物機能部位予測に容易に適用しうるプロ
トタイプ・システムを作成した(図 1)
。
3.3. アミノ酸間相同性行列の評価
パイロキニン(残基数 16)
、PTHrp(残基数 141)といった残基数 16 から 141 の生理活性ペプチド 20 種を対象に、
274
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
それらの機能部位が正しく予測しうるかどうかの評価を行った。例えば、コレシストキニン CCK33 の場合には「C
末端オクタペプチドが CCC33 の全生物活性を示す」とされているが、その C 末端部位をアミノ酸配列情報のみか
ら予測する。
アミノ酸間の相同性行列としては、Blosum30、45、62、80、PAM120、250、Gonnet、PET91、Johnson、STR、Risler
の 11 種類、フラグメント長 L については 3、5、7、9、11 の5ケースについて検討した。
その結果、L=7 とし PAM250 行列を用いた場合に 95%という最高の予測精度が得られた。正しく予測できなかった
ペプチドは残基数 36 の膵ポリペプチドであった。ついで、L=7 とし Gonnet 行列を用いた場合に予測精度 90%が
得られた。
図ではアミノ酸残基数 104 のチオレドキシンの予測結果を示している。チオレドキシンの酸化還元活性は 30 か
ら 35 位の部分配列 WCGPCK が担っている。左上の図が生物活性部位の予測結果を示すグラフであり、正しく 33
位近傍が生物活性部位と予測されている。左下の図は、参考としてハイドロパシー・プロットを描いている。
その下には予測された機能部位領域と、Prosite から収集されたモチーフ位置が表示されている。
研究成果
4.1. 生物機能部位予測法のプロトタイプ・システムの開発と短鎖ペプチドへの適用
主に残基数 100 以下の生理活性ペプチドを対象とし、生物活性を示す最小活性部位や受容体結合部位を生物機
能部位として、配列情報、モチーフ配列とともに収集、整理した。ついで、連続した L 残基フラグメントが全長
ペプチド内で示す相同性を、Dayhoff らの PAM 行列や Henikoff らの BLOSUM 行列等を用いて計算し、全長ペプチド
内で「最も相同性の低いフラグメントが生物活性部位である」とした予測法をプログラミングし、収集した生理
活性ペプチドの生物活性部位予測に適用しうるプロトタイプ・システムを作成した(図 1)。
図 1. ペプチドの生物機能部位予測のプロトタイプ・システム
図ではアミノ酸残基数 104 のチオレドキシンの予測結果を示している。チオレドキシンの酸化還元活性は 30 から
35 位の部分配列 WCGPCK が担っている。左上の図が生物活性部位の予測結果を示すグラフであり、正しく 33 位近傍が
275
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
生物活性部位と予測されている。左下の図は、参考としてハイドロパシー・プロットを描いている。その下には予測
された機能部位領域と、Prosite から収集されたモチーフ位置が表示されている。
鎖長16(パイロキニン:migratory locust)から141(PTH 関連ペプチド:human)の20種類のペプチドホ
ルモン(表1)を対象にしてプロトタイプ・システムの予測精度を評価した。アミノ酸間の相同性行列としては、
PAM120、250、Gonnet、PET91、Blosum30、45、62、80、STR、Johnson、Risler、Miyata の 12 種類、フラグメント
長 L については 3、5、7、9、11 の5ケースについて検討した。PAM、Gonnet、PET は近縁タンパク質のアミノ酸配
列の並置に基づく方法で相同性行列を求めている。その他、BLOSUM は相同ブロックの並置に基づく方法、STR、
Johnson、Risler は立体構造の並置に基づく方法、Miyata はアミノ酸の物理化学的性質の違いに基づく方法によ
り相同性行列を求めている。
表 1. 機能部位予測に用いたペプチドホルモン
20種類のペプチドホルモンを対象にした予測精度を、相同性行列とフラグメント長ごとに表示した図を示す
(図 2)。フラグメント長は L=3、5、7、9、11 としている。なお予測精度の評価はペプチド中の機能部位(表1
参照)の位置が両端2残基の範囲内で正しく予測されるかどうかでもって行った。
276
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
a)近縁タンパク質のアミノ酸配列の並置に基づく方法
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
3
5
7
9
フ ラ グメ ン ト長
P AM2 5 0
Go n n e t
P AM1 2 0
P ET9 1
11
b)相同ブロックの並置に基づく方法
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
3
5
7
9
フ ラ グメ ン ト長
Blo su m8 0
Blo su m6 2
Blo su m3 0
Blo su m4 5
11
c)立体構造の並置に基づく方法等
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
3
5
7
9
STR
Jo h n son
Miyata
Rsle r
11
フラグメント長
図 2. 相同性行列ごとの機能部位予測法の精度評価
縦軸は予測精度(%)を示す。
L=7 とし PAM250 行列を用いた場合に 95%という最高の予測精度が得られた。その場合に正しく予測できなかっ
たペプチドは残基数 36 の膵ポリペプチドであった。ついで、L=7 とし Gonnet 行列を用いた場合に予測精度 90%
277
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
が得られた。これら2つの方法は「近縁タンパク質のアミノ酸配列の並置に基づく方法」によって求められた相
同性行列である。ヒトチオレドキシン(鎖長104)について PDB に登録されている X 線結晶解析による立体構
造と機能部位のアミノ酸配列を図3に示す。チオレドキシンについては評価に用いた全ての相同性行列で正しく
その機能部位が予測されている。
W
C
GPC
図 3. ヒトチオレドキシン(PDB:1ERU)の立体構造と機能部位
評価に用いた生理活性物質は20種類であったが、例えば20種類に含められたガストリンの予測だけでなく
そのスーパーファミリーに属するコレシストキニン(評価の20種類には含まれていない)の予測も同じく正し
い結果を得ている。さらに、チオレドキシンの場合、ヒト・チオレドキシンと相同性 25%ほどの大腸菌チオレド
キシンをはじめ、13 種類のチオレドキシンを対象とした予測においても正しく生物機能部位を予測しえた。この
結果はある生理活性ペプチドだけでなく、そのスーパーファミリーをも同等に評価しうる評価法であることを示
している。
4.2. ペプチド前駆体への適用と評価
生理活性ペプチドのファミリーペプチドを対象に PIR-ALN データベースからペプチド前駆体(下記6ファミリ
ーペプチド、各種のかっこ内は残基数を示す)の配列情報を収集し、生物機能部位予測法の適用を行った。
予測法の評価はペプチド前駆体中の当該生理活性ペプチドの位置が両端2残基の範囲内で正しく予測されるか
どうかでもって行った。この基準は「3.1.」の評価基準と同じである。
4.2.1. ソマトスタチン前駆体
human(116),rat(116),bovine(116),mouse(116),chicken(116),catfish(114)の6種のソマトスタチン前駆体の
相互の相同性は 98%から 59%となっているが、前駆体内で最も低い相同性を示す領域がソマトスタチン領域(前
駆体の C 末端側に位置する)として予測された。他の生理活性ペプチドではシグナルペプチド領域とされる N 末
端側に低い相同性を示す領域が存在することが多いが、ソマトスタチン前駆体ではその領域の非相同性は特徴的
278
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
ではない。
4.2.2. ガストリン前駆体
dog(104),cat(104),pig(104)の3種類のガストリン前駆体の相互の相同性は 88%から 80%となっている。dog
と pig では、前駆体内で最も低い相同性を示す領域がガストリン領域として予測された。しかし、cat では、最も
低い相同性を示す領域は N 末端側7残基目の近傍であり、ガストリン領域は二番目に低い相同性を示す領域とし
て予測された。この傾向は他のペプチド前駆体においても見られ、N 末端側に位置する疎水性を特徴とするシグナ
ルペプチド領域が、生理活性ペプチドをコードしている領域と同程度に非相同性領域として特長付けられる。
フラグメント相同性
フラグメント相同性
シグナルペプチド領域
0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-1
-1.2
-1.4
-1.6
-1.8
-2
0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-1
-1.2
-1.4
-1.6
-1.8
-2
M
Q
R
L
C
V
Y
V
L
I
L
A
L
A
L
A
T
F
S
E
A
S W
K
P
R
S
R
L
Q
D
A
P
S
G
P
G
A
N
R
G
L
E
P
H
G
S
A
E
L
D Q
L
G
D Q
R
P
ガストリン領域 機能部位
A
S
H
H
R
R Q
L
G
L
Q
G
P
P Q
L
V
A
D
L
S
K
K
Q
G
P
W
M
E
E
E
E
A
A
Y
G W
M
D
F
G
R
R
E
G
P
図 4. ガストリン前駆体(104残基)の機能部位予測
青色:dog、桃色:cat、茶色:pig を示す。図中のアミノ酸配列は dog ガストリン前駆体を示す。
4.2.3. ガストリン放出ペプチド前駆体
humanIII(splice form III, 138),humanI(splice form I, 148),rat(147)の3種類のガストリン放出ペプチド
前駆体の相互の相同性は 89%から 62%である。ガストリン放出ペプチド領域は、シグナルペプチド領域である N
末端側 13 残基目の近傍とともに、二番目か三番目に低い相同性を示す領域として予測された。最も低い相同性を
示す領域は前駆体の 70 から 80 残基近傍に位置している。
4.2.4. 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)前駆体
dog(149),human(151),bovine(152),rat(152),mouse(152),rabbit(153),pig(149)の7種類の ANP 前駆体の相互
の相同性は 94%から 75%となっている。dog,human,pig では C 末端に位置する ANP 領域が最も低い相同性を示す
領域として予測されている。他の前駆体では、最も低い相同性を示す領域はシグナルペプチド領域である N 末端
側 15 残基目の近傍である。
279
固相精密合成法によるケミカルライブラリーの構築を基盤とする超機能性材料の創製と評価に関する研究
4.2.5. グルカゴン前駆体
bovine(180),human(180),hamster(180),rat(180),pig(180),degu(180)の6種類のグルカゴン前駆体の相互の
相同性は 93%から 86%である。グルカゴン前駆体は、N 末端側から、シグナルペプチド、グルカゴン、そして2
種類のグルカゴン様ペプチドを含んでいる。相同性指標のグラフではそれら4つの領域が、低いくぼみとなって
おり、最も低い相同性を示す領域となっている。
4.2.6. コレシストキニン(CCK)前駆体
pig(114),rat(115),human(115)の3種類の CCK 前駆体の相互の相同性は 83%から 75%である。pig と human で
は、C 末端側に位置する CCK 領域、特に CCK の全活性を担うとされる CCK8 の領域が最も相同性の低い領域として
予測されている。
4.2.7. まとめ
生理活性ペプチドのファミリーペプチドの前駆体を対象に、前駆体内の生理活性ペプチド領域の予測を行った。
低い相同性を示す領域として、シグナルペプチド領域と生理活性ペプチド領域の2つの領域が予測された。この
結果は、同一のファミリーペプチド前駆体間では共通した傾向となっている。
4.3. プロテアーゼ等への適用と評価
セリンプロテアーゼ(ウシ・トリプシン、229 残基)とシステインプロテアーゼ(パパイン、212 残基)の触媒
部位と基質結合部位の予測を試みた。
パパインでは触媒部位 Cys25 が最も相同性の低い領域として予測されたが、
トリプシンでは予測しえなかった。アスパラギン酸プロテアーゼ(ペニシロペプシンの2つのモジュール、176 残
基と 146 残基)の触媒部位についても予測しえなかった。
また、セリンプロテアーゼ・インヒビターの阻害反応部位の予測に適用したが、十全の結果は得られなかった。
考
察
プロトタイプシステムの開発は研究基盤の整備としての意義が高く、相同性行列、生理活性ペプチドデータを含
むプロトタイプシステムを配布することにより、研究成果の波及を図っていく。
最適な相同性行列の評価、検討を含め、鎖長 100 残基以下のペプチドホルモンの機能部位予測を支援しうるプロ
トタイプ・システムを作成することができた。しかし、酵素阻害剤等、ペプチドホルモン以外の生理活性ペプチ
ド、タンパク質の機能部位予測法の開発は成功していない。
Dayhoff らの PAM250 行列を用いて「全長ペプチド内で最も相同性の低いフラグメントが生物機能部位である」
とした予測法は、鎖長 100 以下の生理活性物質の機能部位や、鎖長 100 から 200 の生理活性ペプチド前駆体内の
生理活性ペプチド領域の予測には効果的である。しかし、鎖長 100 以下の阻害剤の阻害反応部位や、鎖長 100 以
上のプロテアーゼの触媒部位や基質結合部位の予測には直接には適用できていない。
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