第56号

vol.56
2010年8月31日
APPROACH
編集責任者:総務部長 大嶋 巖
http://www.jodc.or.jp/approach/
▲バックナンバーが閲覧できます。
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軍司 明徳 専門家(インドネシア)
御手洗 浩一 専門家(インドネシア)
清水 靖考 専門家(インドネシア)
渡部 貢市 専門家(中華人民共和国)
APPROACHは、海外各国で専門家として活
躍されている方々の指導現場での貴重な体験
談を掲載しております。
基本に「P・D・C・A」を徹底的に繰り返して作業員と常時
軍司 明徳専門家
Mr. Akinori Gunji
インドネシア スラバヤ
派遣期間: 2010/5~2010/12
指導内容: ソフトシェルクラブの品質・生産管理及び原料
調達仕入れに関する技術指導
ソフトシェルクラブ
コミュニケーションを取ってOJTで指導しています。
また、地球環境を考慮して海老や魚の養殖などでマ
ングローブの群生林が破壊された養殖池跡にソフトシェ
ルクラブの養殖池を作り、小さな太陽光パネルや小型風
力発電機を設置し、マングローブ林や蟹を保護するため
にマングローブの植林もしています。
爪や足、甲羅まで、殻がついたまま丸ごと全て食べら
れる蟹、「ソフトシェルクラブ」って御存知ですか?
インドネシアの原住民が直接的な収入を得る手段が
この「ソフトシェルクラブ」、実は脱皮直後の「ノコギリガ
中々ないため、ソフトシェルクラブの養殖を利用したマン
ザミ」のことで、身をほぐすのが嫌いで面倒くさがりやの
グローブ林と蟹の保護と再生は、継続性(サスティナビリ
多い米国人にキトサン・カルシウム・たんぱく質などが多
ティ)と原住民の経済自発性(イニシアティブ)の点でも大
く含まれた蟹を沢山食べてもらうために、養殖が始まった
変効果があり、インドネシアの地域の特産品にもなって地
ものです。ソフトシェルクラブは養殖して冷凍加工してい
域社会貢献に繋がるまさに「日本の民間ベースの国際協
ます。
力」になっています。
インドネシアの海辺のマングローブ林の中にある汽水
の養殖池で、専用の籠にマングローブ蟹(ノコギリガザミ)
の稚蟹を一匹ずつ入れて、新鮮な小魚の切り身を餌にし
て飼育をして脱皮するまで気長に待ちます。
脱皮して数時間以上経つとまた殻が硬くなってしまうの
で管理が非常に難しく、日中夜問わず灼熱であろうが豪
雤であろうが数時間おきに専用の籠の中を一籠ずつ蟹
が脱皮しているかをチェックして捕獲します。脱皮したソフ
トシェルクラブの殻が硬くなる前に冷凍水産加工場へ搬
送します。加工場に搬入されたソフトシェルクラブは消
毒、殺菌して氷で活き〆してから加工されます。
日本に輸出される際には、数々の工程を経て厳重な品
質管理がなされ、爪が折れていたり、甲羅が破れていな
▲ソフトシェルクラブの生産者たちと
い厳選された上質で安全なソフトシェルクラブだけをパッ
(右から3番目が軍司専門家)
キングして出荷しています。毎日の生産管理では「5S」+
「2S」=「7S」(整理、整頓、清掃、清潔、躾、消毒、殺菌)を
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インドネシアの印象的な習慣や文化、宗教
8月11日から、いよいよ2010年のイスラム教の断食の月
「プアサ」が始まりました。
産物の収穫に影響がでてきているので、原材料の生産
や調達方法も環境問題を考慮しながら、「暑さにも負けず
雤にも負けず」元気で指導に励んでいます。
人口の90%以上を、イスラム教徒が占めるインドネシア
では、この約1ヵ月の断食「プアサ」と断食明けの大祭
「イドゥルフィトゥリ」 は、日本でいうとお盆とお正月が一
御手洗 浩一専門家
Mr. Koichi Mitarai
緒に来たような大イベントになります。
イスラム教徒は断食「プアサ」が始まると、明け方4時半
インドネシア ジャカルタ
頃の日の出から夕方6時半頃の日の入り時刻まで飲食料
派遣期間: 2010/4 ~2011/2
や嗜好品等を一切口にすることが出来ません。この期間
指導内容: 木工製品部品の機械加工における生産性
は、体力も消耗し集中力も低下し、生産量や品質が落ち
向上に関する技術指導
てくるので、生産計画と管理をしっかりしないとクレーム
インドネシア尐林寺拳法の儀式
や事故の原因になります。
また、この断食「プアサ」の期間中はイスラム教徒にとっ
ては神聖な月なので現地スタッフをむやみに怒ったりす
ると大変なことになることもあるため、気を遣いながら指
導しています。
インドネシアとの付き合いは約10年になります。現在、
ジャカルタの家具工場で機械加工部門の生産工程管理
方法を指導しています。
休日は、前回の赴任地スラバヤでも練習していた尐林
寺拳法を、ジャカルタ ブルンガン道場へ毎週木曜日(有
段者)と日曜日(級拳士、子供等)に練習に行っていま
す。日本人は、2人です。日本では練習を厳しくすると来
なくなりやめる子供が多いようですが、 この道場での練
習は日本より厳しいのではないでしょうか。日本の尐林寺
拳法人口は減っていますが、インドネシアでは増えてい
るとのことです。
インドネシア尐林寺拳法の変わった儀式を紹介しま
す。昇級、昇段試験後、子供を除く男性の合格者は道着
(上着)を脱ぎ上半身裸になり、先輩諸氏が帯で手加減な
▲スラバヤの街
く叩き回ります。全員上半身に真っ赤に帯の跡がくっきり
ついています。それから、仰向けに寝た合格者の腹の上
2010年の「プアサ」が明けるのは9月10日頃になりま
す。「プアサ」が明けた瞬間は、街中にラッパの音が「プ~
♪~プ~♪~」と鳴り響きお祭り騒ぎになります。
「プアサ」が明ける1週間前ごろから、帰省ラッシュがはじ
まり、断食明け大祭「イドゥルフィトゥリ」の休暇が、9月19
日頃まで10日間程続きます。
この期間は、ほとんどの会社や公共機関が閉まってしま
い、交通機関にも影響が出ます。コンテナトレーラーなど
の大型車両は、通行規制がしかれるところもありますの
で、せっかく生産した製品が出荷出来なくなり納期遅延な
んてこともあるので要注意です。
この断食の月が終わると、通常10月頃から雤期が始ま
るのですが、昨今の地球温暖化の影響による異常気象
で乾期と雤期の境がずれてきています。乾期でゲリラ雤
を踏んでいきます。また、大理石の床を前回りで道場の
端から端まで転んでいきます。遅れると容赦なく帯の鞭
が飛びます。女性も仰向けになり、顔に汗臭い道着をか
ぶせ、くすぐります。笑うのを我慢させるそうです。他にも
ありますが、この儀式を初めてスラバヤで見た時は、驚き
ました。拳法の練習よりきつい(痛い、臭い)のではない
かと思うのですが皆楽しそうで、父兄も楽しそうに携帯で
写真をとっています。なぜ、この儀式があるのかは、はっ
きりわかりませんが、合格の喜びを感謝すると言ってい
ました。
私も大学で拳法修行時、先輩に鍛えられました。さす
がに帯で叩かれたことはありませんが、やり方が似てい
ます。今の日本ではシゴキ、体罰、イジメなどと言われ大
問題になるでしょう。インドネシアでの尐林寺拳法の修行
が降ったり、雤期に雤が降らず干ばつになったりで農水
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は、古き良き時代(40年前)の日本の尐林寺拳法を思い
ださせてくれる場所になっています。
清水 靖考専門家
Mr.Yasutaka Shimizu
インドネシア チカラン
派遣期間: 2010/3 ~2011/2
指導内容: 複合ニット素材の染色加工及び品質管理に
関する技術指導
イスラム教徒の宗教儀式
外国で指導を円滑に行う上で相手を理解することは重
要で、言葉だけでなく宗教や文化を知ることも相手を知る
上で大切だと思います。
私自身はお盆の墓参りぐらいしか宗教的なことと関わ
ることはないのですが、インドネシアの人々には宗教が
▲ジャカルタ ブルンガン道場の仲間たちと
生活の一部となっています。人口の90%近くがイスラム教
(一番左が御手洗専門家)
を信仰していて、世界でもっともイスラム教徒が多い国家
です。街中にもムスジット(礼拝堂)が所々にあり、ソラット
ジャカルタの交通事情
(礼拝)の時間になるとムスジットから歌のような独特な祈
りが聞こえてきますし、スカーフ等で頭を覆った女性を多
話には聞いていたのですが、ジャカルタの渋滞には驚
く見かけ、日本との違いを感じます。日常生活では、左手
きました。スラバヤにいた時も雤の日、通勤時渋滞になる
は宗教上、不浄の手とされているので、物の受け渡しは
ことはありましたが、これほどひどいとは思いませんでし
必ず右手で行うなど気をつけることがあります。
た。幸い、工場が都心と反対方向なので出勤時はそれほ
ど込みませんが夕方は渋滞してきます。この時間帯に都
心に向かうと到着時間が全く読めません。都心での約束
は時間帯を考えて予定しないといけないようです。
都心の一部の道路では1台に3人以上乗っていないと、
罰金300万ルピア(約3万円)をとられます。この制度は、
都心への車の乗り入れを規制し渋滞を緩和するために
始まったそうです。2人の場合は、途中で1人探して乗せ
ていきます。ジョキと呼ばれる車同乗屋がおり、距離によ
って違いますが手間賃1万ルピア(約100円)を降車時に
支払います。そのため効果がなく、廃止するような話が出
ています。
また、交通渋滞になるところには、頼んでもいないのに
交通整理をし小銭を稼いでいる人もいますが、警官の交
▲礼拝風景
通整理より円滑に車が流れていくようです。
先日、大統領が官邸から私邸に帰る時に交通規制を
イスラム教徒の人々は、朝4時半、昼の12時、午後は3
するため渋滞を助長していると新聞で叩かれていまし
時半、6時、7時の1日5回のソラットを欠かしません。受入
た。今後この状態で車、オートバイが増えると道路の面積
企業では、持ち場を離れずにすむようにそれぞれの現場
より車、オートバイの方が多くなり、身動きがとれなくなる
に従業員みずから場所を設けていて、そこでソラットをし
とも言われています。魔の渋滞道路ジャカルタの5年後を
ています。毎日のソラットの中でも金曜日の昼12時におこ
見たいものです。
なうジュンアット(金曜礼拝)は特別で、受入企業でも一部
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を除いて機械が止まり、敶地内にあるムスジットに従業
員はもとより、近くの工場の従業員も集まりみんなでソラ
ットをおこないます。
中国での生活
現在の住居は工場から車で30分ほど離れた日本人が
多くいる場所なので、日本食の店、食材販売店があり、通
常の生活に困ることがないのが恵まれた点と思います。
宗教儀式で最も印象的なのはラマダン月です。イスラ
しかし、割高なので通常の食材は、休みの日にスーパ
ム教徒はこの1ヵ月は太陽が昇っている間は食事もせず
ーのカルフールでまとめ買いになります。買い物をしてレ
水も飲まないで過ごします。食事を取らないのはまだ可
ジに並ぶ時の現地の人のパワーに圧倒され、最初は立
能だと思いますが、暑いインドネシアで仕事をしながら昼
ち止まることもありましたが、最近は行列にも慣れ買い物
間に水を飲まないで過ごすのは大変だと思います。実際
ができるようになりました。
に日が落ちた後に水を飲んでいる従業員の顔を見ると水
の美味しさがこちらまで伝わってくるようです。
朝夕は受入企業の車での通勤になりますが、現在万
博開催で市外の車が特定時間に規制されているとのこと
で、以前より車が尐なくなっているように感じます。また、
マナーも以前より良くなり、割り込みが極端に減尐したよ
うに感じます。
渡部 貢市専門家
Mr.Koichi Watanabe
万博終了後に以前の状態に戻ることがないことを期待
したい今日この頃です。
中華人民共和国 上海市
派遣期間: 2010/7 ~2011/1
指導内容: プリント配線基板の品質向上に関する技術
専務理事からのエール
指導
~ガラパゴス現象~
コミュニケーションの難しさ
小林 哲郎
私が赴任して1ヵ月半が経ち、普段の生活にも慣れて
きました。受入企業には日本語の話せるスタッフがいる
ので、コミュニケーションはこのスタッフを通じて行ってい
ます。
「ガラパゴス現象」「ガラパゴス化」という言葉を最近よく
聞く。日本経済について言われることが多い。
語源は、南東太平洋(南米大陸の西約1000km)にガラ
しかし、四六時中付いている訳に行かないので、片言
パゴス諸島と呼ぶ島々があり、付近に陸地がなく、天敵
の単語で現場作業者に指導することになりますが、本な
がいない環境が長く続いたために、その島々の生物が外
どで覚えた標準語より、「上海語で話さないと現場作業者
敵に勝てない独自の進化を遂げたことに発している。(ダ
とは親近感が出てこない」と駐在の日本人に言われ、上
ーウィンが進化論を発見したきっかけとなったとのこと。)
海語で話すようにしています。
標準語より舌を巻く発音が尐ないため、上海語のほう
が楽かなとも思うこの頃です。
しかし単語の連発で筆談になることが主で、40代以上
の方は、漢字で大方の意味を理解してくれますが、20代
は同じ漢字でも分らない事があり困りました。
日本経済に関しては、我が国の産業が国内市場ニー
ズへの対応を重視するあまり、世界的な基準からかけ離
れた物・サービスを提供することが当たり前となってしま
った事を言う様だ。(パソコンや携帯電話などの情報機
器・サービスの分野が顕著であるとのこと。)
JODCは、我が国企業がもっともっと海外で活躍して欲
また、日本にいた時には感じなかったのですが、指導
しいと念じ、様々な支援をしている。国際的な市場で努力
に使う言葉には片仮名表記が多く、これを漢字に直すこ
することが、相手を知り、自分も成長できる。異文化交流
とも難しいと思いました。ノートとは別にメモ用紙に中国語
を積極的に進めることが今後の我が国経済の発展のカ
で書いてもらい、片仮名で発音を書き早く会話ができるよ
ギとなるのではないか。
うにしたいと思うと同時に、日本語の勉強も必要と感じま
した。
専門家の立場で考えれば、相手に物事を教えようとす
る事が自身への更なる勉強になるとも言える。この機会
を最大限活用されるように、ご活躍を期待している。
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