世界情報社会サミット

政
策
調
査
室
だ
よ
り
Vol.32
執筆/対島洋平 (政策局)
形態とインターネット管理の問題」であっ
た。
途上国への資金援助の形態については、
途上国が各国から新規に拠出金を集める
「世界情報社会サミット」
デジタル連帯基金の創設を強く求めたのに
対し、先進諸国が新たな資金拠出を渋り、
世界銀行、国連開発計画などのこれまで
の枠組みを維持する構えを崩さず、意見
が対立していた。この問題は本会合でも決
着がつかず、継続審議というかたちで先送
りされることになった。
●
もう一方のインターネット管理の問題と
第2回世界情報社会サミットが11月16∼18日、チュニジアの首
都・チュニスで開かれ、176ヵ国、約 2 万3000人が参加した。これ
は国連が主催したもので、経済・社会活動に不可欠な情報インフラと
なったインターネットの将来像を中心に活発な議論が展開された。同
サミットには各国の首脳クラスが出席するというだけに、重要な会議
に位置づけられているのが特徴だ。本稿では同サミットのこれまでの
経緯とともに、その議論の内容や課題などについて言及する。
●
は、その管理がアメリカ1国で行われてい
るとして、中国やイランなどの国が反発し
ている問題を指す。
現在、IPアドレスの割り振り「.jp」や
「.org」
「 . c o m 」などのトップドメイン
(TLD)の承認や管理は、アメリカのNPO
であるICANNという機関が主体となって
行っている。ICANNはインターネットの
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デジタルデバイド
解消への行動を採択
デバイドの解消を訴えた。さらに情報社会
普及に伴い、その管理は民間主導が望ま
の鍵となる11原則として、①情報インフ
しいとして、1998年10月にアメリカ連
ラの整備②人材開発③セキュリティの確保
邦政府の行政機関である全米科学財団か
④メディアの重要性⑤インターネット管理
ら業務移管するかたちで誕生した機関であ
のあり方などの事項が盛り込まれた。
「行動計画」では2015年までに達成す
る目標として、世界の村々がネットワーク
口となる企業と、「レジストリ」と呼ばれ
でつながり、公共アクセスポイントを設置
るレジストラから申請を受け、データベー
することや、全世界の50%以上の人がネ
スの管理運用を行う企業の認定を行って
インターネットは1990年代後半、世
ットワークに接続できる環境を整えること
おり、また、IPアドレスの割り振りでは、
界規模で爆発的に普及しはじめ、その活
など、デジタルデバイドの解消に向けての
その最上位にあり、各地域別の組織へ配
用レベルが国際競争力に直結するまで影響
行動が定められたのである。
分している。各地別組織は、国別の組織
第1回情報社会サミット
などに割り振り、国別組織はレジストラを
力を強めてきた。1998年、ITU全権委
員会議でチュニジアがデジタルデバイドの
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指定するといった状態にあり、ICANNが
インターネット管理の根幹にあるといえる。
ない国際情報社会の実現を目的としたサ
ミットの開催を提案、そのあと国連決議
しかし、ICANNは法的にアメリカの民
を経て情報通信に関する初めてのサミット
間会社として、国内法とカリフォルニア州
が開催されることになった。
2003年12月、ジュネーブで開催され
米国が独占する
インターネット利権
準備委員会合の議論を踏まえ、「基本宣
法が適用され、アメリカ商務省の監督下
におかれている。新しいトップレベルドメ
インの承認にはICANNの認可が必要だが、
た第1回の情報社会サミットでは、前段の
持ち越された課題
アメリカ商務省のみがその拒否権を持って
おり、さらに世界に13台あるルートサー
言」と「行動計画」を採択した。
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る。ドメインの管理では、ICANNが、「レ
ジストラ」と呼ばれるドメイン名登録の窓
バーのうち10台はアメリカ国内にある。
「基本宣言」では、情報通信技術の活用
「基本宣言・行動計画」の採択に際して
は生産性を向上させ、経済成長を促す機
意見が対立したのは、「デジタルデバイド
これらに対し、中国、ブラジル、イラン
会を提供するものとしたうえで、デジタル
を解消するための途上国への資金援助の
からはアメリカがインターネットの利権を
REPORT 2005.12
ドメイン名管理の概念図
独占しているとして、ITUなど国際機関を
活用した管理を主張していた。これに対し
アメリカや日本は、ICANNによるこれま
アメリカ商務省
での運営を評価するとともに、
「 効率的運
監督
営のためには民間主導の運営が望ましい」
として、議論は平行線をたどり、決着は
ICANN
先送りとなった。
他にもメディアの表現の自由に関して
gTLDの割振り・認定
ccTLDの割振り・委任
や、知的財産権の保護などといったテーマ
があったにもかかわらず、各国が自国の法
制度を主張するにとどまり、新しい枠組み
の創設には至らなかった。インターネット
認
定
レジストリ
Verisign社など
JPRS
社会のあり方やデジタルデバイドの解消に
向けた国連の当初の目標は、各国の政治
申請
指定
契約
的主導権争いや、市場の促進といった題
レジストラ
レジストラ
目に押され、影が薄くなったとの批判の声
レジストラ
レジストラ
もあがったのである。
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J P R S:日本レジストリサービス社。日本でccTLDを管理するレジストリ。
国別に存在するが、管理の基準は異なる。レジストラを兼ねる国
もある。
g T L D :地域に関係のないトップレベルドメイン。
「.com」
「.net」など
c c T L D :国別に割り当てられるトップレベルドメイン。
「.jp」
「.uk」など
レジストラ:ドメイン名の登録申請を受け付ける組織
レジストリ:レジストラから申請のデータを受け、データベースの管理運営を
行う組織。原則としてトップレベルドメインごとに一つの組織が
認定される
加盟国の合意を得た
デジタル連帯基金
第2回情報社会サミット
持ち越された課題については、05年11
月のチュニス・サミットにむけての準備会
各国政府や民間団体が自由に参加できる
の論議は情報通信産業に大きく関わるも
合や作業部会において検討された。
国際フォーラム「Internet Governance
のであるため、今後のフォーラムなどの動
デジタル連帯基金は、本年2月の第2回
Forum」を設置し、継続協議することで
きにも注視していきたい。
準備会合で各国政府・自治体が自主的に
合意に至った。このフォーラムは ICANN
基金を拠出するというかたちで加盟国の合
などに対する監督権を持たないため、既存
意を得た。この基金は、昨年8月にセネガ
の枠組みが維持されたかたちになる。第1
ルのワッド大統領とジュネーブ市が提案し
回のフォーラムは、06年4∼6月にギリ
大会においてUNIが提起した項目である。
創設され、約120の自治体が基金拠出を
シャで開催される予定である。
1. 情報社会は機械の中の情報ではなく、人々
<参考>
以下は、本年8月にシカゴで行われた世界
約束しているもので、会合ではこれを承認
本会合ではこれらを含む宣言と行動計
したことになる。ITU事務局などは成果と
画を採択し、閉幕した。チュニス・サミッ
捉えているが、NGOからはあくまで自発
トでは、前回持ち越した課題に対し、一
的なものであり、既存のものを承認しただ
応の結論を出したかたちとなったが、今後
3. 情報社会は、情報を持つものと持たざる者
けで進展のない妥協策であるとの反論も出
これらの問題が再燃しないとは言い切れな
の新たなる不平等を作るのではなく、情報
ている。
い。
の力を開放するため使用されなくてはなら
一方、インターネット管理のあり方につ
サミットには情報労連が加盟する国際産
いては、決着がつかず調整が難航していた
業別組織であるUNIも決議文を提出する
が、サミット開催直前の準備会合で新たに
など、積極的に関わってきた。サミットで
の知識にもとづくものでなければならない。
2. 情報が人々を管理するために使われてはなら
ず、人々が情報を管理しなくてはならない。
ない。
4. 情報社会は人間性を蝕むのではなく、生活
を豊かにするべきものである。
REPORT 2005.12
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