小学校音楽科における「読解力」 【音楽科の教科目標と「読解力」 】 音楽科において、 「読解力」という言葉は、なじまないのではないかという声も聞かれる。そこで、今一度学習 指導要領に立ち返り、音楽科教育の目指すものを確認し、それに沿って音楽科における「読解力」を考えてみる。 学習指導要領の教科の目標は、 「表現及び鑑賞の活動を通して,音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育て るとともに,音楽活動の基礎的な能力を培い,豊かな情操を養う。 」である。音楽科教育が児童にはぐくもうとし ている資質・能力をまとめてみると、次のようになる。 ○ 音楽活動への興味・関心、意欲・態度 ○ 曲想や音楽の諸要素を感じ取り、表現する力 ○ 音楽の諸要素の関係を理解し、音楽を鑑賞する力 ○ 歌唱法や奏法及び読譜に必要な知識を理解し、表現や鑑賞に生かす力 ○ 音楽を愛好し、音楽経験を自分の生活に生かす力 これらの資質・能力は、PISA 型「読解力」に共通する部分があり、音楽科における「読解力」という視点でま とめてみると、次のようになる。 ◎ 音楽の諸要素及びそれらの関連や楽曲全体との関連を感じ取り、知的に理解する力 ◎ 歌唱法や奏法及び読譜に必要な知識を理解する力 ◎ 生涯にわたり音楽を愛好し、自分の生活に生かす力 このように見ていくと、 「読解力」とは、すでにこれまでの音楽科教育が目指してきた力である。知覚し、感じ 取って、イメージを働かせて、解釈をして、自分の思いを音や言葉を使って外に表現していく。まさに、読解力 につながるものである。これらの力を身に付けることにより、音楽のおもしろさ、美しさ、素晴らしさを味わい、 感動を体験することができる。そして、多様な音楽に触れ、その音楽の諸要素を感じ取り、知的に理解して、音 楽に対する意欲や態度を形成することが、 自己意識の形成につながっていくのである。 幅広い音楽活動を通して、 豊かな人間性と感性を身に付けることは、 生活に潤いをもたせ、 社会に参加するために十分貢献することになる。 「読解力」育成に関して音楽科が取り組める学習内容は多様である。これは、新しい取組ではなく、従来の学 習に内在している「読解力育成の部分を明らかにする」ということである。つまり、今まで行ってきた学習活動 を振り返り、 「読解力」という視点を考えていけばよいのである。ただし、それを教師自身がどこまで意識して、 また児童にどこまで意識させていくかが重要になってくる。そのためには、学習活動が表面的な楽しさだけで終 わらないよう、 「学びのある楽しさ」 「喜びのある楽しさ」を追求していくことが必要である。 【音楽科における「テキスト」 】 音楽科における PISA 型「読解力」の「書かれたテキスト」とは、楽譜、図表、説明文などがある。特に、楽譜 は主たるテキストであり、歌唱曲については、歌詞もまた重要なテキストである。児童が自立した自己表現をし ていくためには、楽譜に関する知識・技能が必要となる。読譜のための音符・休符・記号などの知識を身に付け、 歌詞のイントネーション・韻・リフレインなどを理解し、楽譜と歌詞を対応させながら読み取っていくことが大 切である。これらの「書かれたテキスト」を基に演奏されるのが 音楽 である。しかし、 音楽 そのものは、 目に見えない姿形のないものである。 そこで、音楽科におけるテキストを「書かれたテキスト」だけに限定せず、鳴り響く 音 そのものを「書か れていないテキスト」としてとらえていくことが必要となってくる。そのように考えていくと、音楽科において は、むしろこの「書かれていないテキスト」の方がはるかに多く存在する。例えば、環境音、自然音を始めとし、 舞台芸術、郷土芸能の伝承音楽などは、 音 や 音楽 そのものを自身の中にインプットし、必要な情報を取り 出して解釈し、熟考・評価し、アウトプットして表現していくことになる。 「書かれたテキスト」が存在しない分、 更に研ぎ澄まされた感性が必要となるのである。 「書かれていないテキスト」もテキストとしてとらえることが音 楽科の特質であり、このテキストのとらえ方が、音楽科の目標達成において「読解力」育成を考えていく上では 大きな特徴であると言える。 【音楽科における学習指導案(例) 】 このような「テキスト」のとらえにより、音楽科における「読解力」をはぐくんでいくことが、児童の学びを より確かなものにしていく。そこで次に指導事例を示す。 参考文献:高須一 2006「音楽科における読解力の育成」 ( 『初等教育資料』6月号)東洋館出版 pp.26-33
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