抄録 - 第 134回北海道整形外科外傷研究会

第116回
北海道整形外科外傷研究会
抄
平成19年8月25日(土)
録
15:00~
於 : 札 幌 市 教 育 文 化 会 館
会長:札幌徳洲会病院 森 利光先生
共催:北 海 道 整 形 外 科 外 傷 研 究 会
大 日 本 住 友 製 薬 株 式 会 社
第116回北海道整形外科外傷研究会
症例検討
(1)四肢の鈍的損傷後ショックとなった1例
札幌徳洲会病院 北海道外傷マイクロサージャリーセンター
松本 哲先生
一般演題
(1)未固定標本を用いたモーション解剖アトラスによる手指機能解剖
札幌医科大学 保健医療学部 青木 光広先生
(2)不安定な肘脱臼骨折(terrible triad)の治療経験
市立札幌病院 整形外科 松井 裕帝先生
(3)広範囲母指皮膚欠損に対して段階的治療を行った1例
札幌徳洲会病院 北海道外傷マイクロサージャリーセンター
辻 英樹先生
(4)種々の問題を生じた骨盤骨折を伴う多発外傷の 1 例
札幌医科大学附属病院 高度救命救急センター 中山 央先生
(5)複数回の大腿骨骨折を発症した成人型大理石骨病の 1 例
手稲渓仁会病院 整形外科 安井 広彦先生
(6)大腿骨頚部骨折に対するハンソンピンによる骨接合術後に
転子下骨折を生じた 2 例
網走厚生病院 整形外科 新井 隆太先生
(7)血管損傷を伴う大腿骨骨折の検討
札幌医科大学附属病院 高度救命救急センター 高橋 信行先生
主
題:骨折治療のプライマリケア
(1)新鮮肩鎖関節脱臼に対する Bosworth 変法の治療成績
西岡第一病院 整形外科 小畠 昌規先生
(2)65 歳以上の高齢者上腕骨近位端骨折に対するプライマリケア
手稲前田整形外科病院 整形外科 畑中 渉先生
(3)指尖部損傷に対する創傷被覆剤(ソーブサン、ハイドロサイト)を
用いた保存療法の経験 -本法とアルミホイル法との比較-
札幌医科大学 整形外科 森谷 珠美先生
(4)骨粗鬆性椎体骨折のプライマリーケア
市立士別総合病院 整形外科 浜田 修先生
教育研修講演
『上肢の外傷に対するプライマリケア』
いしぐろ整形外科
院長
石黒 隆先生
症例検討(1)
四肢の鈍的損傷後ショックとなった1例
札幌徳洲会病院 北海道外傷マイクロサージャリーセンター
松本哲 熊谷明史 森利光 土田芳彦 磯貝哲 辻英樹 工藤道子
low energy 損傷とおもわれても高齢者にとっては high energy 損傷の形
態をとることがある。最近経験した1症例をもとに高齢者損傷の初期治療に
ついて考察した。症例は80代の男性で車の車庫いれを誘導していて車と接
触し受傷した。意識レベルの低下を認めたため脳神経外科へ搬入され、前額
部の創処置を受けたあと当院へ転院となった。両膝周囲に腫脹を認めたが下
肢の血行には問題なかった。ER で血圧40、SpO2 80%まで低下した。この
症例をもとに討論をお願いいたします。
一般演題(1)
未固定標本を用いたモーション解剖アトラスによる
手指機能解剖
札幌医科大学 保健医療学部 准教授
青木光広
現代の医療系教育機関では解剖を学習する際に、解剖学図譜が用いられて
いる。これは、教官が黒板に描く模式図と解剖学実習による基本的学習手段
を補佐し、知識の整理と記憶に重要な役割を担っている。本邦での代表的な
解剖学図譜に、森 於兎が著した解剖学がある。優れた著作であり、特に西
が描いた図譜は正確さと美しさで他の図譜の追随を許さない。一方、海外に
目を向けると、優れた解剖学図譜が出版されている。広く普及している図譜
のうち、Gray’s Anatomy は 1858 年、英国で出版され、詳細な内容が収録さ
れると共に、版を重ねて解剖学図譜の教本となっている。また、北米では
1943 年に Grant’s Atlas of Anatomy が出版され、図譜の鮮明さと単純さが
特徴であり、それぞれの図譜に説明を加える形式で編集されている。さらに、
1953 年に米国の Netter は Clinical Smyposia を著し、その色彩豊かな図譜
と同時に描かれた神経、血管、筋肉、骨格が医療系学生に広くうけいれられ、
愛用されている。
近年の Kinesiology の発達、高速ビデオなどの記録媒体の進歩により、特
にスポーツなどの運動パフォーマンスが詳細に観察されている。それらによ
り明らかになった身体運動は、図譜と動画を用いて著わさている。この流れ
に従い、我々は解剖学図譜に身体器官の動きという機能的側面を加味し、そ
れぞれの器官の解剖学的意義をより詳細にかつ立体的に表現できるモーショ
ン解剖アトラスの作成している。その際に重要な点は、頭部や脊柱、胸郭、
内臓および四肢が全て温存され、物理特性が正常に近い未固定遺体標本を用
いる事である。
本書者の目的は、未固定解剖体を用いて躯幹および四肢を詳細に観察し、
ハイビジョン動画を用いて筋および腱、靱帯、関節包の動きを鮮明に表現す
る解剖アトラスを提供する事である。我々は 2006 年度より未固定新鮮解剖
体標本を用いて上肢・下肢関節、脊椎の最小侵襲手術手技解剖セミナーを開
催した。セミナーと平行して、我々は学部生・大学院生実習のみならず医学
部および保健医療学部の卒後研修を補完する教材として、モーション解剖ア
トラスの作製にとり組んできた。通常の解剖学図譜に、身体器官の動きとい
う動的側面を加味し、その動態を明らかにする事により個々の器官の機能的
側面を詳細に判りやすく表現することができる。このアトラスはいわゆる系
統解剖実習時のシミュレーションとして用いられ、更にはイメージトレーニ
ングを通して近い将来、臨床実習で行われる内視鏡検査を容易にする事がで
きると考えている。
一般演題(2)
不安定な肘脱臼骨折(terrible triad)の治療経験
市立札幌病院 整形外科
松井裕帝 本間信吾 佐久間隆 平地一彦 奥村潤一郎
東裕隆 内藤玲子 本間多恵子
【はじめに】
尺骨鉤状突起・橈骨頭骨折に、靭帯損傷を合併した肘関節脱臼は、
terrible triad と呼ばれ、不安定性が強く治療に難渋することが多い。今
回、我々は成人 2 例の治療を経験したので、若干の考察を含め報告する。
【症例】
症例1. 55 歳、男性。植木の剪定作業中 5~6m の高さより転落し受傷した。
入院時は多発外傷で意識障害を認めた。右肘脱臼骨折(腕尺関節後方脱臼、
尺骨鉤状突起骨折、橈骨頭骨折)と右橈骨遠位端粉砕骨折が存在した。受傷
5 日目に手術を施行した。肘に対して、脱臼整復、橈骨頭小骨片切除、外側
尺側々副靭帯(LUCL)縫合を施行した。手関節に対しては、橈骨遠位端プレ
ート固定に創外固定を併用した。しかし、翌日のレントゲンにて術後の肘関
節の再脱臼が判明した。追加検査の 3D-CT にて尺骨鉤状突起の粉砕骨折を認
め、同部位が肘不安定性の要因と考え、受傷 7 日目に腸骨を用いた尺骨鉤状
突起再建を行い、肘関節にも創外固定を併用した。術後 4 週にて創外固定抜
去。受傷後 1 年の現在、尺骨鉤状突起は骨癒合し、肘 ROM は-30°~130°
で肘関節の不安定性はない。しかし、橈骨遠位端骨折は遷延治癒となり、超
音波治療を施行中である。
症例2. 34 歳、男性。約 2m の階段より肘伸展位で受傷した。他院で脱臼
を整復され紹介されてきたが、当院レントゲンにて腕尺関節後方亜脱臼、尺
骨鉤状突起骨折、橈骨頭骨折を認めた。受傷 4 日目に骨接合(尺骨鉤状突起、
橈骨骨頭)
、LUCL 断裂に対し靭帯縫合施行した。術後 3 週現在、ROM-50°~
120°であり、リハビリ中である。
【考察】
肘関節 terrible triadは、1996年にHotchkissにより唱えられた比較的新し
い概念である。肘不安定性は骨性および軟部要素の両面の損傷を把握し、両
要素を修復し、早期のROM訓練を行うことが良好な治療成績を得るポイント
である。
一般演題(3)
広範囲母指皮膚欠損に対して段階的治療を行った 1 例
札幌徳洲会病院 北海道外傷マイクロサージャリーセンター
◯辻 英樹、土田芳彦、森 利光、磯貝 哲、熊谷明史、村上弘子、
工藤道子、松 本 哲
【症例】
25 歳男性
主訴:左母指皮膚剥脱創
現病歴:平成 17 年 12 月 7 日、フォークリフトの車輪に左手を巻き込まれ受
傷。左母指皮膚剥脱創、左第 2 指尺側皮膚挫創と診断され、同日札幌医大高
度救命救急センターに搬入された。
既往歴・家族歴:特記すべきことなし
現症:左母指は MP 関節レベル以遠の背側、掌側におよぶ広範囲の皮膚剥脱
創であった。伸筋腱、屈筋腱、および各腱鞘は残存しており MP, IP 関節の
自動可動性は温存されていた。爪母・爪床は一部残存しているものの欠損し
ていた。
再建術は段階的に行うこととし、まず同年 12 月 7 日逆行性橈側前腕皮弁を
施行し、平成 18 年 5 月 30 日左母趾からの遊離血管柄付爪甲移植術を施行し
た。レシピエント動脈は逆行性橈側前腕皮弁の栄養血管である橈骨動脈を逆
行性で使用した。皮弁は問題なく生着し、術後 1 年の現在機能的、整容的に
も満足できる母指が再建されている。
【ポイント】
外傷性の母指欠損に対しては様々な治療法がある。本症例では骨、伸筋腱、
屈筋腱は温存された剥脱創であったが、皮膚欠損は背側、掌側におよび広範
囲であった。足趾からの移植は広範囲であると donor site の問題を多く生
じやすい。そのため手術は段階的に行うこととしたが、2 回目の手術では逆
行性橈側前腕皮弁の栄養血管である橈骨動脈を逆行性でレシピエント動脈と
して利用することが可能であった。
一般演題(4)
種々の問題を生じた骨盤骨折を伴う多発外傷の 1 例
札幌医科大学附属病院 高度救命救急センター
中山 央 入船秀仁 高橋信行 吉本正太 村田憲治
種々の合併症を伴い治療に難渋した多発外傷の一例を経験したので報告する。
【症例】
22 歳、女性。170cm、93kg。既往歴として広汎性発達遅滞あり。高所より墜
落し受傷し当センターへ搬入。搬入時、意識レベル GCS8(E2V2M4)、血圧
86/60mmHg、脈拍 120/分とショック状態であり、左下肢の変形、下腿部の出
血を認めた。単純 X 線で不安定型骨盤骨折(AO 分類:typeC2)を認めた。輸
液と骨盤の簡易固定を行い、secondary survey の結果、両肺挫傷、右血胸、
右第 5 肋骨骨折、第 2 腰椎脱臼骨折、第 3,4 腰椎破裂骨折、左大腿骨骨折、
左脛骨腓骨骨折、右踵骨骨折及び後腹膜での extravasation が確認されたた
め、TAE にて両内腸骨動脈を塞栓し、その後 DCO として骨盤、左大腿、下腿
に創外固定を施行した。第 3 病日より臀部、右足部の色調変化が出現した。
第 7 病日骨盤、腰椎内固定施行。術中、殿部皮下に大量の凝血塊を認めた。
第 11 病日左大腿骨・左脛骨・左腓骨・右踵骨骨接合術施行。第 22 病日背部
創の離開を生じ皮下ポケットの形成および右前足部壊死を確認。第 24 病日
右足部切断、背部創のデブリードマン施行。背部は開放創とし洗浄開始。第
45 病日局所皮弁による創閉鎖を施行するも、第 50 病日創離開したため、第
53 病日有茎筋皮弁術施行。術後、皮弁周囲で一部創離開を来すも創は縮小
傾向にあり現在も治療継続中である。
【考察】
合併症を伴い治療に難渋した多発外傷を経験した。主な合併症は臀部壊死お
よび右足部壊死であり初期治療時の TAE が関与していた可能性が高い。骨盤
骨折の治療に関して、本来であれば後方要素の強固な固定を目的とした後方
プレート固定が望ましいが、臀部壊死により治療方法の変更をせざるを得な
かった。出血性ショックを伴った骨盤外傷における TAE の有用性は確立され
ているが合併症の報告もあり、近年ペルビックパッキング等の有用性も報告
されている。初期治療段階より外傷治療に精通した整形外科医が積極的に介
入し、後の再建方法も考慮した治療戦略が必要である。
一般演題(5)
複数回の大腿骨骨折を発症した成人型大理石骨病の 1 例
手稲渓仁会病院 整形外科
安井広彦 察栄浩 宮田康史 辻野淳
【はじめに】
大理石骨病は骨のリモデリングが障害されびまん性の骨硬化像及び易骨折性
を生ずる疾患である。今回我々は比較的短期間に同側の大腿骨に複数回の骨
折を生じた成人型大理石骨病の症例を経験したので報告する。
【症例】
66 歳男性
【既往歴】
15 歳頃:左大腿骨骨幹部骨折、40 歳頃:北大歯学部で大理石骨病の診断を
受けた、53 歳:クモ膜下出血 64 歳:右脛骨後十字靭帯付着部剥離骨折
【合併症】
糖尿病、高血圧、労作性狭心症
【家族歴】
特になし
【現病歴および治療経過】
平成 16 年 7 月(63 歳時)自転車で転倒し右大腿骨骨幹部近位 1/3 での骨
折を来たし当院入院、Ender 釘で観血的整復固定術を施行し骨癒合を得た。
平成 18 年 12 月(65 歳時)室内で転倒し、右大腿骨骨幹部中央での骨折と
なり、再び Ender 釘を入れ替えて骨接合術を施行した。その後少しずつ骨癒
合は得られていたが、平成 19 年 4 月(66 歳時)に自転車で転倒し右大腿骨
顆上骨折を来した。大腿骨遠位から刺入した Ender 釘を抜去し、アナトミカ
ルプレートにて骨接合を行った。術後 3 ケ月の現在片松葉杖で全荷重歩行し
ている。
【考察】
生命予後が良好である成人型大理石骨病は、易骨折性と脳神経圧迫症状以外
には症状に乏しく、偶然発見されることが多い。本症例では脊椎での骨硬化
像は存在せず、典型的な大理石骨病ではないと思われるが、両大腿骨では骨
硬化、髄腔狭小化があり、易骨折性もあるため本症と判断した。初回及び2
回目のエンダー釘は、2本しか入らず良好な固定性は得られなかった。また
易骨折性のため、遠位ピン刺入部にて再び骨折を生じてしまった。患者さん
はクモ膜下出血を起こして以来転倒しやすく、今後も新たな骨折の発生が危
倶される。
一般演題(6)
大腿骨頚部骨折に対するハンソンピンによる
骨接合術後に転子下骨折を生じた 2 例
網走厚生病院 整形外科
新井隆太 加藤竜男 西池修
北海道大学 医学研究科人工関節・再生医学講座
眞島任史
【緒言】
大腿骨頚部骨折に対しハンソンピンを用いた骨接合術の良好な成績が報告さ
れているが、合併症の一つに遠位ピン刺入部での転子下骨折が報告されてい
る.本発表では,術後経過中に転子下骨折を生じた 2 例を経験したので報告
する.
【症例 1】
74 才女性.転倒により受傷.単純 X-p にて Garden 分類 stage Ⅱ,受傷 2 日
後にハンソンピンによる骨接合術を行った.術後 7 日に転倒し,単純 X-p に
て遠位ピン刺入部での転子下骨折を認めた.ハンソンピンを抜去し Ender 釘
による骨接合術を施行し,良好な骨癒合が得られたため,術後 10 か月で
Ender 釘を抜去した.現在,独歩可能である.
【症例 2】
42 才男性.転倒により受傷.単純 X-p にて Garden 分類 stage Ⅳ,受傷 7 日
後にハンソンピンによる骨接合術を行った.術後 4 週に独歩にて退院したが,
退院 18 日後にトイレでかがんだ際に右大腿部痛を生じ,単純 X-p にて遠位
ピン刺入部での転子下骨折を認めた.ハンソンピンを抜去し Ender 釘による
骨接合術を施行した.
【考察】
大腿骨頚部骨折に対して行ったハンソンピンによる骨接合術後に転子下骨折
が生じる原因として,強斜位刺入や骨脆弱性,ガイドピンの打ち直しやスク
リュー挿入時に生じる外側皮質骨の micro-fracture などが指摘されている.
症例 1 では骨脆弱性を基礎として,術中に生じたと考えられる microfracture 部に転倒による応力が集中して骨折が生じたと考えられる.一方,
症例 2 では股関節屈曲時に,腸腰筋収縮による応力や中殿筋収縮による張力,
大腿骨頭への圧迫力が外側皮質骨の micro-fracture 部に集中し,骨折が生
じ た と 推 察 さ れ る . ハ ン ソ ン ピ ン に よ る 骨 接 合 術 に お い て は , microfracture の原因となりうるガイドピンの打ち直しなどを可能な限り避ける
ことが必要であると考えられる.
一般演題(7)
血管損傷を伴う大腿骨骨折の検討
札幌医科大学附属病院 高度救命救急センター
高橋信行 入船秀仁 中山 央
札幌徳洲会病院 北海道外傷・マイクロサージャリーセンター
土田芳彦
【はじめに】
大腿骨骨折は高エネルギー外傷により生じ,まれに血管損傷を伴う場合があ
る.受傷早期は側副血行のために典型的な阻血症状に乏しい場合も多く,血
管損傷の診断は困難である.診断の遅れによる阻血時間の延長のために切断
を余儀なくされたり,たとえ患肢温存されても重篤な合併症や機能障害を残
存する結果となる.
今回,当センターに搬入された血管損傷を伴う大腿骨骨折について検討した
ので報告する.
【対象と方法】
過去 12 年間(1996 年 10 月~2007 年 3 月)に当センターで治療を行った大腿
骨骨折患者を対象とし,retrospective に調査を行った.
【結果】
大腿骨骨折 122 例中,血管損傷の合併例は 4 例.平均年齢 39.3 歳(23-55
歳).受傷機転はバイク事故 2 例,重量物による圧挫 2 例であった.
骨折型は,AO 33-A3,32-B1,B2,B3 それぞれ 1 例ずつ,開放骨折(Gustilo
IIIc)が 2 例で,血管損傷の確認は,3 例は血管造影を行い,1 例は活動性出
血から推定した.
初回手術では,いずれも創外固定を設置後に静脈移植(大腿静脈 2 例,大伏
在静脈 2 例)を施行.3 例は下腿の予防的筋膜切開を同時に施行した.平均
阻血時間は 7.8 時間(6.5-10 時間)(1 例は,創外固定を施行してから受傷 3
日目で動脈損傷が発見されたため除外)であった.
術後合併症は,感染 1 例,再潅流障害 3 例,下腿コンパートメント症候群 1
例.1 例は受傷 8 日で大腿切断.3 例は患肢温存され,平均 8.7 日(3-12 日)
で内固定に変更されたが,1 例は徐々に下腿の虚血性壊死が進み,5 ヶ月で
大腿切断となった.
患肢温存率 50%,追加手術回数 2.7 回(1-4 回),入院期間は平均 59.3 日(3199 日)であった.
【考察】
骨折・脱臼に伴う血管損傷の頻度は 0.6~3%と報告されている.受傷早期は
典型的な阻血症状が乏しいものが 72.7%あるとの報告もあり,見逃される可
能性がある.診断の遅れから阻血時間が延長し,たとえ血行再建に成功して
も,重篤な合併症や機能障害を残したり切断に至る場合も多い.阻血の
golden time は 6 時間とされているが,自験例ではいずれもこれを超過して
いた.高エネルギーでの四肢外傷では常に血管損傷の存在を疑い,阻血時間
の短縮に努めることが重要である.
主題(1)
新鮮肩鎖関節脱臼に対する Bosworth 変法の治療成績
西岡第一病院 整形外科
小畠昌規 瀧内敏朗 井上篤志 中野和彦 皆川裕樹 谷雅彦
【目的】
Tossy 分類 gradeⅢの肩鎖関節脱臼の新鮮例に対し、われわれは 2001 年以降、
Bosworth 変法(鎖骨烏口突起間スクリュー固定・烏口鎖骨靱帯縫合)を行
っている。今回その術後成績を報告する。
【対象と方法】
対象は術後 1 年以上経過した 22 例、22 肩で、男性 20 例、女性2例。利き
手側 13 肩。手術時平均年齢は 31 歳(19~58 歳)。受傷原因はスポーツ外傷
17 例(スノーボード6・サッカー3・ラグビー2・スキー2・その他)、交
通事故3例、転落2例であった。受傷から手術までの期間は平均 11 日(1~
34 日)。術後平均経過観察期間は 41 か月(12~72 か月)であった。
《術式》ビ
ーチチェア体位とし、肩鎖関節・烏口鎖骨靱帯を展開。円板を含め鎖骨遠位
端を 8mm 切除。烏口鎖骨靱帯(円錐靭帯・菱形靱帯)に予め非吸収糸を掛け
ておき、整復位で鎖骨烏口突起間を海綿骨スクリュー(Best medical 社・
φ6mm 中空)で固定後、非吸収糸を結紮。僧帽筋と三角筋をしっかりと再縫
着した。術後はショルダーブレースを 3 週間装着し、上肢の重みがかからぬ
ようにした。術翌日より下垂位での内外旋を許可し、3 週後より全方向の可
動域訓練を行った。術後 8 週で局麻下にスクリューを抜去した。コンタクト
スポーツへの復帰は術後 3 か月以降とした。術後評価は日本肩関節学会肩鎖
関節脱臼評価法(JSS-ACS)を用いて行った。仕事およびスポーツ復帰状況を
調査した。最終経過観察時のレントゲン所見も調べた。
【結果】
術後 JSS-ACS は平均 98.6 点(90~100 点)だった。仕事およびスポーツ(全
例非投球種目)には全例完全復帰していた。最終経過観察時のレントゲン所
見で 3 例に肩鎖関節の亜脱臼が認められ、4例に烏口鎖骨靱帯の骨化像が認
められた。
【結語】
新鮮肩鎖関節脱臼に対する Bosworth 変法の術後成績はおおむね良好だった。
主題(2)
65 歳以上の高齢者上腕骨近位端骨折に対する
プライマリケア
手稲前田整形外科病院 整形外科
畑中 渉
【はじめに】
高齢者の上腕骨近位端骨折に対しては、形態的修復より日常生活動作の維
持に治療目的を設定することが多く、一般的に保存的療法が選択されること
が多いが、その成績について検討した。
【対象と方法】
2003 年 11 月より 2007 年 7 月までの間に、演者が治療を行った 65 歳以上
の上腕骨近位端骨折 24 例のうち、手術治療を行った 9 例を除く 15 例を対象
とした。男 2 例、女 13 例、平均年齢 83.2 歳(69~101 歳)、利き手7例、非
利き手 8 例であった。骨折型は AO 分類で A1 が 3 例、A2 が 9 例、B1 が 3 例
であった。治療法は体幹固定法が 11 例、三角巾ないしショルダーブレイス
のみが 4 例であった。積極的可動域訓練(振り子運動)を 5 例に行い、それ
以外は本人の意思に任せた。
平均経過観察期間は、11.0 週であった。
【結果】
3 例が治療途中で中断した。入院を要した 3 例以外は、自宅ないし入所施
設で生活を続けた。骨癒合は治療途中中断の 1 例を除き、平均 7.5 週で完成
したが、3 例で変形癒合した。振り子運動開始は平均 23.4 日からであった。
肩痛の残存を 3 例に認めた。著しい可動域制限残存を 2 例に認めた。検診な
いし、電話チェックによると日常生活動作は片麻痺合併例 1 例を除き維持さ
れていた。
【まとめ】
保存的療法のうち、hanging cast 法は高齢者には過牽引になっているこ
とが多く、また患者と周囲の理解と協力がないと治療継続が難しいため、高
齢者には向かない。また zero-position 法は同一姿勢で長期間臥床すること
が高齢者には不適である。体幹固定法と可及的に振り子運動を始めることに
より、疼痛の軽減と日常生活動作の維持が可能なことにより、合併症を抱え
ることの多い高齢者に対して、有用な方法である。
主題(3)
指尖部損傷に対する創傷被覆剤(ソーブサン、ハイド
ロサイト)を用いた保存療法の経験
―本法とアルミホイル法との比較―
札幌医科大学 整形外科
森谷珠美 入船秀仁
小樽掖済会病院 整形外科
西 雅子
小樽協会病院 整形外科
三名木泰彦
南郷通り整形外科
杉本禎志
【抄録】
外傷性指尖部損傷に対する治療には、再接着術、composite graft、皮弁形
成術、断端形成術とアルミホイルなどに代表される occulsive dressing 法
などが報告されている。
アルミホイル法は現在 occulsive dressing 法の代表的なもので、この方
法は低コストであり、治療に特別な技術を必要とせず、しかも安定した良好
な成績を得られるものである。しかし、アルミホイルに覆われた皮膚全体の
浸軟化や、消毒薬類を使用することによる処置時の疼痛や組織障害性の指摘、
ドレッシング材が厚くなることによる可動域制限、水に濡らせないことが問
題である。今回我々は、これらの問題を解決するために創傷被覆剤を用いた
occulsive dressing 法を施行したので、その治療結果を報告する。
対象は 10 例 12 指(趾)で全例男性、受傷時平均年齢は 48 歳であった。処
置時に消毒薬類は一切使用せず、創傷被覆剤を用いて密封し、その後入浴お
よび自動運動を許可した。平均 44 日間で上皮化が得られた。最終経過観察
時での爪の高度変形は、zoneⅡ中枢 1/3 レベルの損傷で 43%に、爪甲基部レ
ベルでは 100%にみられたが、自覚的に満足度は高かった。アルミホイル法
と較べて上皮化までの日数に有意な差はないが、処置時の疼痛が少なく、関
節可動域が良好であり、入浴可能である点が優れている。
主題(4)
骨粗鬆性椎体骨折のプライマリーケア
市立士別総合病院 整形外科
浜田 修 伊藤雄人 本間俊一
骨粗鬆症椎体骨折は椎体圧潰や偽関節,遅発性神経障害など,骨癒合不全
が生じた場合の手術療法ばかりが注目されている。しかし,それらの難治性
病態を回避するためにどのような保存療法が行なわれるべきかという点は疎
かにされてきた。実際に本骨折の保存療法は施設によってまちまちであり,
スタンダードな治療法は確立されていない。当科でも入院が必要な椎体骨折
に対する保存療法には変遷があり,積極的に体幹ギプス治療を行なっていた
時期,入院後できるだけ早期にコルセットを作成していた時期,既成の腰椎
ベルトのみで自然経過に任せていた時期などを経て,現在は再び積極的に体
幹ギプス固定を行なうようにしている。
本骨折の三態撮影(臥位と座位での X 線撮影法)を行なうと,受傷直後か
ら骨折を生じた椎体に不安定性がみられる。自然経過を追った結果,経過と
ともに疼痛は軽減していくものの,3 ヶ月経っても骨折部の不安定性は消失
せず,1 年経っても骨癒合が得られていないことが少なくなかった。本骨折
の初診時における症状は,安静時痛ではなく,骨折部の運動痛(寝返りや,
寝起きの疼痛)である。したがって初期治療として最も重要なのは,安静で
も,薬物療法でもなく,骨折部を安定させる外固定であろう。
本骨折は、たとえ骨癒合が得られても,初診時には予想もしなかったほど
高度の楔状変形に至る場合があり,後彎変形という不良姿勢とそれに伴う腰
背部鈍痛がその後の ADL、QOL を低下させてしまう。このような後遺症状を
残さないためには、骨折治療の原点である骨折部の外固定を必要な期間行な
い、変形治癒ではない骨癒合(できれば楔状変形 15°以内)を目指すべき
と考えている。当院で行なっている体幹ギプス固定療法の実際、その適応と
不適応について報告する。