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将来債権譲渡に関する総合的考察

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将来債権譲渡に関する総合的考察
平成19年判決の残した課題―
―
青木 志穂
瀬戸宗一郎
前表 和宏
(片山研究会 3 年)
序 論―将来債権譲渡の問題―
Ⅰ 債権の発生時期
1 始めに
2 賃料債権の発生時期
3 請負報酬債権の発生時期
4 両判例の違い
5 フランスの判例法
6 本章のまとめ
Ⅱ 将来債権の移転時期
1 始めに
2 移転時期に関する判例および学説
3 債権契約時移転説
4 債権発生時移転説
5 平成19年判決のあてはめ
6 本章のまとめ
Ⅲ 将来債権の取立権
1 始めに
2 類型論によるアプローチ
3 平成19年判決における取立権の考察
4 本章のまとめ
結 論
162 法律学研究51号(2014)
序 論―将来債権譲渡の問題―
将来債権譲渡担保の行く末を左右する重要な判例が出た。最判平成19・ 2 ・15
(民集61巻 1 号243頁、以下、平成19年判決と総称する)
、倒産手続と将来債権譲渡の
優劣を争った事例である。原審はこれについて倒産手続が優先すると判示したが、
最高裁はこれを覆し、将来債権譲渡が倒産手続に優先するとした。これは将来債
権の実務における有益性が保護されたということで大きな役割を果たしたといえ、
将来債権譲渡に関する様々な問題に対する解決策を示した非常に意義ある判例と
いえるだろう。しかし、この判例は、将来債権が抱える様々な問題に対して明ら
かに有力といえる答えを出したと本当にいえるのであろうか。
本論では、将来債権の発生時期、移転時期、取立権の 3 つについての検討を行
うことで、平成19年判決はこの 3 つについて明らかに有力である正しい答えを出
し、これらの問題を解決できたのかを検討していく。まず、将来債権の発生時期、
特に賃貸借契約、請負契約などの契約類型における債権の発生時期については十
分な議論がなされていないため、これを考察し、平成19年判決における考えを検
討する。次に将来債権譲渡の目的債権の移転時期については、契約時説と債権発
生時説の 2 つが対立しているが、前記判例は目的債権の移転時期について明示し
ていないため、これについて論じていく。さらに、近時盛んに議論されている将
来債権譲渡の目的債権における取立権の帰属について、実務に即した類型化を試
みることによってアプローチの余地があるため、これについても論じることにす
る。
Ⅰ 債権の発生時期
1 始めに
平成19年判決は、将来債権譲渡と倒産手続の優劣関係について、将来債権譲渡
が優先するとした判決である。これは、将来債権譲渡の目的債権の移転時期につ
いて、契約時に将来債権が債権者に移転すると考える、契約時説に整合的である
といわれている。しかしながら契約時説は譲渡担保権者をあまりに利するもので
あり、学説では債権発生時に目的債権が移転し、倒産手続開始後に発生した債権
は倒産手続に服するとする、発生時説1)も根強く主張されている。しかし、わが
163
国では将来債権は包括的に譲渡できるとされているため、債権自体の発生時期に
ついて十分な議論がされているとはいえず、判例の集積もない。このような状況
で発生時説を判例がとることはためらわれる状況であるといえるだろう。そこで、
本稿では、フランスの判例法上問題となり、わが国では十分な議論がなされてい
ない賃貸借契約などの債権発生時期について明らかにすることで、債権の発生時
期がわが国においてはいつなのか、そのうえで発生時説をとった場合債権者と倒
産手続の優劣を判断する時点はいつなのか、明らかにできるような環境を作りた
いと思う。
2 賃料債権の発生時期
賃料債権の発生時期について、大正期の 2 つの判例が賃料債権発生の構造を明
らかにしている。まず、①大判大正 2 ・ 6 ・19は、賃料の滞納を理由に賃貸人が
契約を解除した事案であり、契約成立時点の法規によれば債務者の住所が弁済の
場所となるが、使用収益当時の法規によれば債権者の住所となるため、賃料債権
の発生時期が問題となった事案であった。これについて大審院は、「賃貸借の場
合においては、賃料を一定の時一定の場所において支払いを受くべき旨の基本た
る権利と、毎弁済期に賃料の支払いを受くべき個々の権利とを生じ、その中で
個々の権利は契約当時ただちに発生するものにあらず、賃貸借の目的たる物の使
用に応じしかる後順次に発生するものなるも、基本たる権利は契約と同時に発生
するものにして、これにより既に将来発生すべき個々の権利の弁済の場所も定ま
る」と判示した。また②大判大正 4 ・12・11は、水車の賃貸借に基づいて賃貸人
が賃料支払いを求めたが、洪水により水車の運転が不可能になったため、賃借人
が賃貸人に修繕義務の履行を求め、その履行がなされるまで賃料の支払いを拒絶
した事案である。賃貸人は、契約が終了し目的物の返還をするまでは賃借人は賃
料支払いの義務を負うのであり、賃貸人の修繕義務の不履行は、これとは別に損
害賠償請求権を賃借人に与えるにすぎないと主張した。これについて大審院は、
「賃貸人が賃借人をして使用収益をなさしむる義務は賃貸借の期間継続して時々
刻々にこれを履行すべく、賃料なるものはそのすでになさしめたる使用収益に対
しこれを支払う義務あるものなることは、賃貸借が使用収益の継続給付を目的と
するものなることの性質ことに賃料の支払い時期に関する民法614条の規定に照
らし疑いを容れざる所なれば、賃貸人が修繕義務を履行せざるため目的物が使用
収益に適する状態を回復せざる間は、賃借人は賃料支払いの義務なきもの」とし
164 法律学研究51号(2014)
て、賃貸人の請求を棄却した。判例によると、賃料債権は 2 つの側面を有すると
される2)。すなわち、「賃料を一定の時一定の場所において支払いを受くべき旨
の基本たる権利」と「毎弁済期に賃料の支払いを受くべき個々の権利」の 2 つで
あり、学説ではこの 2 つをそれぞれ「基本的賃料債権」と「支分的賃料債権」と
呼んでいる3)。また、判例①によると、基本的賃料債権は、発生時も賃貸借契約
締結時であるのに対し、支分的賃料債権は将来の使用収益を待って発生するもの
とされており、判例②によれば、その発生根拠も賃借人による賃貸目的物の使用
収益であるとされている。これと対比して、基本的賃料債権の発生根拠は、契約
の締結自体に求められることになる。判例を支持する学説は以下のような点をそ
の論拠とする。まず、法律関係を複雑化させないということが挙げられる4)。使
用不能のときに賃料債権が発生するとすると、賃料債権と損害賠償債権が対立す
ることになるので、端的に賃料債権が発生しないとすべきということである。し
かしながら、判例に反対する学説が述べるように、これは契約の締結時に債権が
発生するという双務契約に関する民法の原則に反するものであり、こう考える明
確な論拠が示されていない。また、使用収益ができないのに賃料債務が発生する
のはおかしいという常識感覚もその論拠に挙げられるが、これも単なる感覚論と
いわれればそれまでである。しかしながら、両方の理由は妥当な結論や感覚論を
導くものであり、無理に理論的な説明を求めることは、不当な結論を導くことに
なりかねない。現に損害賠償債権と賃料債権の対立はあまりに無意味なものであ
り、このような結論は不当であるという価値判断は十分に尊重されるべきであろ
う。そして判例に賛成する学説が論拠に挙げるもう一つは、期間の定めのない賃
貸借の場合には、判例の見解によらなければ説明に窮するというものである。期
間の定めのない賃貸借の場合、契約の成立と同時に一括して全債権が発生すると
すると、いかなる時点までの賃料債権が発生しているのか説明に窮することにな
るということだ。これは賃貸借契約が継続的な使用収益を要素とする継続的契約
であるという本質を指摘したものであり、この本質を無視した反対説の解釈は不
当といわざるをえない。やはり将来の使用収益を待って賃料債権が発生するとす
る判例の見解をもって正当とすべきである。
3 請負報酬債権の発生時期
しかしながら、上記の判例と矛盾すると学説上で指摘されているのが、請負報
酬債権の発生時期に関する判例である。請負契約は契約締結時に契約の目的物が
165
存在するわけではなく、後の目的物の完成、引き渡し、それに対する報酬の支払
いを行うことを前提とした契約であり、賃貸借契約と同様の継続的契約である。
そのため請負報酬債権についても、賃料債権と同様に基本債権と支分債権の区別
を行い、前者は契約締結時に、後者は将来の仕事の完成を待って発生すると解す
る学説も有力に主張されている。しかしながら判例はそのような考え方をとって
いない。大判明治44・ 2 ・21は請負報酬債権を対象とする転付命令に関する事案
であったが、請負人 A の注文者 Y に対する報酬債権につき、まず B が転付命令
を得たが、その送達の時点で請負工事はまだ完成していなかった。続いて X が
工事完成後に転付命令を得たが、その送達後 Y は B に対して払渡しをしたため、
X が Y に対して自己の転付命令が優先するとして払渡しを求めた事案である。X
は報酬債権は仕事の目的物の引き渡しによってはじめて確定すると主張したが、
大審院は、「請負契約の成立した以上は請負人が報酬を受くるの債権発生し、唯
その行使の時期が仕事の完成後にあるにとどまれば、仕事の完成前なるの故を
もってその債権の成立不確定なりというを得ず。……債権にして成立せる以上は、
その性質上または法律上……その転付命令の有効なること」として、X の請求を
棄却した5)。このように判例は請負債権が契約締結時に発生することを明確に明
示している6)。もっともこの大審院判決は転付命令の競合に関する事案であった
ため、「早い者勝ち」という結論を導くために、報酬債権の発生時期が契約締結
時であるとひとまず述べたと解する余地もある。しかしながら、大審院がこのよ
うに報酬債権は契約締結時に発生すると明確に述べた以上は、これをもって判例
の見解というべきである。判例に賛成する学説は特段の理由を付さずに支持する
ものが多いが、双務契約における民法典の原則をその根拠に挙げるものもある。
また、注文者は請負人が仕事を完成することを停止条件として報酬支払義務を負
うわけではないということも挙げられる7)。仮に請負契約をこのような債務を負
う契約と考えると、仕事の完成を条件とする停止条件付贈与となってしまう。と
すると、民法典がわざわざ請負契約という独自の契約類型を認めた意義がなく
なってしまうということである。これは請負契約という契約類型に独自の意味を
もたせる解釈であり、相応の合理性を有すると思われる。このように、請負契約
単独で考えれば、判例の結論が正当であることに疑いはないように思われる。し
かし、判例に反対する学説、すなわち請負報酬債権は仕事完成時または目的物引
渡時に発生すると解する見解もあり、その論拠とするのが、賃貸借と請負の両判
決の整合性だ8)。請負代金債権といえども請負人の工事完成という反対給付にか
166 法律学研究51号(2014)
かるのであって、これが将来のものである以上、賃貸借契約に基づく賃料債権と
区別を設ける必要はない、ということである。また、賃貸借契約と同様の債権の
二重構造を前提とする見解もある9)。仕事の完成を目的とする請負においては、
仕事の完成に対する対価として報酬が支払われるのであって、仕事が完成しない
限り、約定の報酬を請求する具体的な権利は発生しない、ということである。ま
た、約定の額の報酬請求権は仕事の完成を待ってはじめて具体的なものとなるの
であり、いわばそれまでは不確定なものであるということも挙げられるだろう。
特に、請負契約では契約締結時に報酬の額が定められておらず、仕事の結果に応
じて額が定められる場合もあることからすれば、契約締結時に請負報酬債権が発
生すると考えるのは不当とも考えられる。債権額未定の債権を認めてしまう結果
となるからである。このように、請負報酬債権の発生時期については、契約締結
時とする判例がある一方で、賃料債権の発生時期を将来の使用収益時とする判例
との整合性などから、判例に批判的な見解もある。私見としても、請負契約を停
止条件付贈与とするような見解には賛成はしかねるが、それでも両方の契約類型
はいずれも将来の使用収益、仕事の完成を目的としている点、また契約締結時に
債権が未確定であるという共通性から、両判決の整合性にも疑問は残るというべ
きであり、一定の説明を要すると考える。
4 両判例の違い
では両判例は矛盾するのか。賃貸借契約も請負契約も契約締結時には債権は未
確定である。しかしその「未確定」の度合いには大きな差がある。賃貸借契約は
期間の経過を要素とし、賃貸借契約が存続する限りは、債権が生み出され続ける。
つまり、契約締結時には、債権の額のみならず、その発生期間や個数まで不明な
のである。このような契約類型の場合には、債権の二重構造を認め、契約の存続
に応じて債権の発生を認めたほうがよいであろう。対して請負契約は確かに契約
締結時にはどのような仕事が実際になされるか不明であり、債権額などは不明で
ある。しかしながら、期間の経過によって債権が生み出されるようなことはなく、
債権の発生期間や個数は明らかになっている。このような場合は、あらかじめ契
約締結時に債権額不明の債権を発生させるべきである。このように考えると、債
権額が未定の既発生債権を認めることになるが、解釈上集合将来債権の包括譲渡
も認められており、この場合債権の範囲を発生原因・上限額・第三債務者などで
特定していることからすると、債権額が未定であっても同じような事項によって
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いかなる債権であるか特定されているのであれば、問題がないであろう。以上か
らすると、賃貸借契約では債権の二重構造を認め、使用収益を待って支分債権を
発生させる一方、請負契約では契約締結時に全債権を発生させる構成をとるのは、
矛盾しないというべきである。また、以上のような構成をとれば、債権額は未定
であるが発生期間や個数は決まっている契約類型では契約締結時に全債権の発生
を認め、発生期間や個数まで未定の契約類型では契約締結時には債権を発生させ
ないという二類型に分けることができるだろう。これにより、その他の継続的な
契約においても債権の発生時期を明らかにすることができる。たとえば、業者同
士などの継続的な売買契約、業者と消費者の食品の売買契約、労働者と会社の雇
用契約などその契約態様は多種多様であるが、それぞれの契約につき一応契約期
間が決まっているか、個数は確定しているかなどを考慮し、債権が契約時に発生
するか、将来に発生するかを決することができるだろう。
5 フランスの判例法
日本においては、将来債権譲渡の効力が広範に認められ、さらには譲渡人の倒
産手続との関係でも将来債権譲渡が優先するとされ、あまりに過剰な債権者の保
護になっているのみならず、債務者の再生のための原資が枯渇するような状況に
もなっている。そこで、将来債権譲渡の移転時期を発生時とする見解をとること
も視野に入れつつ、その土台として民法の典型契約の債権発生時期を明らかにし
たわけであるが、最後に、この問題についてフランス法がどのように解決してい
るのかについて若干触れることにしたい。
フランスの最高裁にあたる破毀院の商事部2004年12月 7 日判決は、機械設備の
製造業者 A が、Y から受けた注文の代金債権を、X に譲渡した事案である10)。そ
の後 A が更生手続に入ったが、Y が未払い金を A に支払ったため、X がこの未
払い金の支払いを Y に請求した。この A・Y 間の契約は、機械設備の完成を目的
とする請負契約であると思われ、前述したように債権の発生時期について争いが
ある。しかし日本でこの事案が発生した場合、債権の移転時期を譲渡契約時と解
する以上、債権の発生時期についていかなる見解をとったとしても、債権譲渡は
更生手続の影響を受けないと思われる。しかし、フランスのこの事案においては、
原審と破毀院とで結論が異なった。原審では、被譲渡債権は更生手続開始後に行
われた注文品の製造・引渡時に発生したのであり、更生手続開始の判決が当該債
権に対する X の権利の障害になる、として X の請求を棄却した。一方破毀院は
168 法律学研究51号(2014)
「履行請求可能となる時期が未確定であっても債権は譲渡可能であり、譲渡人の
財産から逸出するので、譲受人に対する弁済は譲渡後の譲渡人に対する倒産手続
の開始によって影響を受けない」として原審を破棄した。つまり、債権の移転時
期について債権発生時説をとることを前提としたうえで、原審は請負報酬債権の
発生時期について引渡時をとり、破毀院は契約時をとったため結論が異なったの
である。このようなフランスにおける問題の解決方法は債権の発生の有無を通し
て、譲渡人の再生の要請と譲受人の保護との調整を図ることができ、わが国のよ
うに債権者保護に行き過ぎたものではない。また、フランスにおいて債権の発生
時期を明確にして発生時説がとられていることは、わが国でも債権の発生時期を
明確にすれば発生時説をとることができることを示唆するものである。
6 本章のまとめ
本章では、以下のような構成をとった。まず、賃貸借契約に基づく賃料債権の
発生時期に関する判例、請負契約に基づく報酬債権の発生時期に関する判例をそ
れぞれみた。その後、いずれも判例の見解をもって妥当としたうえで、両判決に
矛盾がないか、契約の性質の違いはなにかを検討し、それによりその他期間の経
過を要素とする契約に基づく債権の発生時期についての考察も行った。そして最
後にフランスの判例をみて、わが国の解釈論への示唆を得た。このような検討を
経て、わが国においても判例法上債権発生時説をとる余地があることを示したこ
とで、平成19年判決の重要性は相当程度小さくなるだろう。また、継続的な契約
の債権の発生時期についても、その期間や債権の個数などが確定しているかに
よって、契約時か将来かを判別することができ、発生時説をとることに問題はな
く、譲渡人の再生と譲受人の保護の調整を図ることができるだろう。そのうえで、
契約時説と発生時説のいずれが優れているかについての詳細な検討は、次章にゆ
だねることにしたい。
Ⅱ 将来債権の移転時期
1 始めに
将来債権譲渡において目的債権はいつ移転するのかという問題は未だ裁判所に
よって明言されていない。将来債権譲渡の契約時、それとも債権の具体的発生時、
それとも別のタイミングであろうか。仮に契約時に移転するとしたら、未だ発生
169
していない債権の移転というものをどのように解釈するのか。その解釈によって
第三者対抗要件の解釈も変わるのだろうか。また、将来債権譲渡の移転時期につ
いて考えることは、会社再建の実務において賛否両論ある会社更生手続および民
事再生手続における将来債権譲渡担保の有効性の問題解決にも繫がることと思う。
2 移転時期に関する判例および学説
まず、債権移転時期について平成19年判決(それに至るまでの経緯)を確認する。
最判平成13・11・22(民集55巻 6 号1056頁) は、いわゆる集合債権を内容とした
譲渡担保契約において同契約に関わる債権の譲渡を指名債権譲渡の対抗要件
(467条)の方法により第三者に対抗できると判示したものだ。
第一審では、本件契約は第三債務者に対する実行通知がされたときに本件目的
債権が譲渡人から譲受人に移転する契約であると解すべきとし、契約時にした本
件通知は債権譲渡の第三者に対する対抗要件にはならないとした。
原審では契約時に目的債権が移転したか否かに拘わらず、第三債務者は別途通
知を受けるまでは譲渡人に弁済するよう求められているのであるから、譲渡人に
債権が移転したと認めることはできないため、本件通知による対抗要件を否定し
た。
しかし、最高裁は、既に生じている、または将来発生すべき債権は、譲渡人か
ら譲受人に確定的に譲渡されており、ただ、正当な経営が続いている間は譲渡人
に取立権が留保するという内部的合意が付加されているにすぎないとし、本件通
知による対抗要件を認めた。
本判決では債権の移転時期は直接の争点とはならなかったが、最高裁では譲渡
契約時に債権が譲渡人に「確定的に譲渡」されるとあるので、第一審に比べると
契約時移転説に寄りつつある。
さいたま地判平成15・ 4 ・16(金法1803号85頁)(第一審)では、取立権限に関す
る内部的効果があることが、契約時に確定的に債権移転の効果があったと認定す
ることの妨げにはならないとし、基本的には平成13年判決の判旨に倣った。
東京高判平成16・ 7 ・21(金法1732号43頁)(原審)では将来債権譲渡担保におけ
る債権移転時期は、対象債権の発生時であるとし、契約時に第三債務者に対し確
定日付のある証書により通知して対抗要件を具備した場合であっても、譲渡担保
権者に国税徴収法24条の物的納税責任が認められた。
最判平成19・ 2 ・15(民集61巻 1 号243頁)は、当該債権は国税徴収法24条 6 項
170 法律学研究51号(2014)
にいう「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当する
として原審を覆した。債権移転時期については詳しく触れられてはいないが、平
成13年判決で用いた、当該債権が譲渡契約時に譲渡人から譲受人に「確定的に譲
渡」されているという表現を引用している。
近時の判例で将来譲渡担保債権の移転時期についてはっきりと答えを示したの
は債権発生時説に立ったものだとされる原審だ。しかし、平成13年判決や第一審、
そして平成19年判決は譲渡契約時に「確定的に譲渡」される、という解釈の仕方
に多少の余地を残す言い回しをしてはいるが、判決結果と照らし合わせると契約
時説に寄り添った判断であると言える。では、債権発生時説に立つ平成16年判決
は特殊な見解・立場なのであろうか。従来の判例を確認してみたい。
大判昭和 9 ・12・28(民集13巻2261頁)は将来債権の譲渡契約について、「将来
ノ債権ニ付テモ譲渡契約ハ有効ニ之ヲ為シ得ヘク此ノ場合ニハ後日債権カ譲渡人
ニ付成立シタルトキ何等ノ行為ヲ要セスシテ譲渡人ニ移転スルモノトス」と判示
し、将来債権譲渡も有効であり、また、対象債権が債権の発生時に移転すること
を明らかにしている。
破産者が破産前に行った債権譲渡について対抗要件否認が問題となった最判昭
和48・ 4 ・ 6 (民集27巻 3 号483頁)では、
右一五日の期間は、当事者間における権利移転の効果を生じた日から起算す
べきものであつて、権利移転の原因たる行為がなされた日から一五日を経過
したのちであっても、権利移転の日から一五日以内に、対抗要件を具備する
行為がなされた場合には、右規定に基づいてこれを否認することはできない
ものと解するのが相当である
と、旧破産法74条 1 項は所定の期間の起算日については権利移転の効果が発生し
た時からだと判示した。この「権利移転の効果を生じた日」というのは当該債権
発生時と解せる。ただ、本件では、一定の条件が成就した場合に債権譲渡通知を
発し、担保権の実行としての債権の取立てを行うという内部的合意があったから
こそこの判決に至ったともいえるが、それでも将来債権譲渡における債権の移転
時期が債権の発生時であるとの理解は読み取れる。
さらに、大阪高判平成 7 ・12・ 6 (判時1564号31頁)は、
171
将来の期間の賃料債権を譲り受けた場合、譲渡契約時点では賃貸借当事者間
においても未だ発生していないものであるから、支分債権である賃料債権が
移転する時期は、期間経過により支分債権である賃料債権が賃貸人に対し現
実に発生するのと同時に、債権発生後改めて譲渡手続きを経ることを要せず、
譲受人に移転すると解すべきである
と、昭和 9 年判決と基本的に同一の判示をしている11)。また、最判平成11・ 1 ・29
(民集53巻 1 号151頁)も同様に昭和 9 年判決を基に解していると読める。
このように、従来の判例は将来債権譲渡における債権の移転時期は、譲渡契約
時ではなく対象債権が発生した時点と解釈しており、平成16年判決はそれに沿っ
たものといえる。
3 債権契約時移転説
これに対し、近時の有力説とされるのが将来債権譲渡の移転時期を債権発生時
だとする考え方を批判する説であり、以下がその論拠である12)。
権利移転なしに「権利移転の公示」である対抗要件が先行して効力を生じてい
るというのは論理矛盾だ。ところで、平成11年判決において将来債権譲渡の確定
日付通知の第三者対抗要件としての効力を通知時から認めていると解されるとこ
ろ、対抗要件が「権利移転の公示」を意味するものであるのだから、権利移転の
効力は債権譲渡契約の時点で生じていなければならない。
仮に「取得していない権利についての対抗要件」なるものを認めるならば、そ
れは不動産物権変動における仮登記のように順位保全効のみを認める対抗要件と
なるが、債権譲渡の対抗要件の法理においてそのような概念は存在しない。
最判平成13・11・27(民集55巻 6 号1090頁)(平成13年「予約」判決と略記) では
債権譲渡の予約について行われた確定日付通知または確定日付承諾では、債務者
は将来当該債権の帰属が変更される可能性を了知するにとどまり、当該債権の帰
属に変更が生じたことを認識するものではないとし、右予約の完結による債権譲
渡の効力についての第三者対抗要件の具備にはならないと判示している。つまり、
最高裁が考える対抗要件とは権利帰属を公示するものであり、先ほど述べたよう
な権利帰属に変更のない「権利保全的対抗要件」の発想を認めるのは困難ではな
いか。
平成16年判決では平成13年判決で用いられた「確定的に譲渡されて」いる旨の
172 法律学研究51号(2014)
文言を、譲渡当事者間における債権譲渡の意思が不確定ではなく、これが確定し
ている趣旨のものと解した。しかし、債権譲渡は権利の帰属を変更する処分行為、
すなわち準物権行為である。平成19年判決では「債権譲渡の効果の発生」という
文言が使われており、判文を素直に読むと「債権譲渡の効果の発生を留保する特
段の付款のない限り、」譲渡担保契約によって「債権譲渡の効果が発生」(=目的
債権が物権的に移転し、権利の帰属が変更)するのであり、したがって、目的債権
は譲渡担保契約によって「確定的に譲渡」される趣旨を述べたものだといえる13)。
第三者対抗要件を備えた将来債権の譲受人は当該債権を第三者に譲渡すること
ができる。有体物と異なり、債権を有するということは、債権者であるというこ
とと同じであり、譲渡等ができればそれは十分債権者といえるはずである。もち
ろん債務者に債権の行使として弁済を求めていくことはできないが、それは内部
的合意があるだけのことにすぎず、譲受人が債権者であることを否定することに
はならない14)。
将来債権譲渡における確定日付通知・承諾が常に「権利移転の公示」でなけれ
ばならないと考えるならば、通知に先立つ債権譲渡契約時において、債権移転の
効力が生じていなければならないという結論が導かれる。でははたして「取得し
ていない権利の対抗要件」・「権利保全的対抗要件」というのは認められないもの
なのだろうか。
4 債権発生時移転説
この「取得していない権利の対抗要件」・「権利保全的対抗要件」を認める余地
もあると考える。
例えば第三者が第一譲受人から債権を譲り受けたいと考えたときに、譲渡人と
なる人が本当に当該債権を有しているかを第三者債務者に問い合わせる。そのと
き、事前に通知があれば第三債務者は将来において債権が発生すれば第一譲受人
のもとに移転するという認識があり、そのような回答を期待できる。いわば、第
三債務者には、インフォメーションセンターとしての役割が期待されていると考
えうる。であるから、将来債権において債権が未だ発生していないために移転し
ていなくても、了承しているのだから通知時に第三者対抗力を認めることは可能
である15)。
判例・学説の中に将来債権は譲渡契約時に権利が移転するから、権利移転の公
示である確定日付通知・承諾の効力は通知・承諾時に発生すると明示したものは
173
ない。将来債権譲渡の機能と有用性の保護のために、債権移転については明示し
ないで通知・承諾時に第三者対抗力を認めている。そこから第三債務者=イン
フォメーションセンターとしての役割を前提としていることがうかがえる。よっ
て、これらの学説と判例の積み重ねによって「取得していない権利の対抗要件」
・
「権利保全的対抗要件」という概念が債権譲渡の対抗要件の法理において観念さ
れたといえるのではないか16)。
上記に述べた見地から、平成13年判決と平成13年「予約」判決の違いは、権利
帰属が既に変更しているか否かではなく、
「取得していない権利の対抗要件」
・
「権
利保全的対抗要件」という概念を認めつつも、債権譲渡予約では予約完結権行使
などの要件が備わっているかなどが第三債務者にとって自明ではなく、第三債務
者にインフォメーションセンターとして過大な責任を負わせることになってしま
うから、第三者対抗力の成立を認めなかったといえる17)。
平成19年判決における上告人上告理由は債権移転時期を重要な争点としておら
ず、移転の有無に拘わらず移転時期通知・承諾時に国税徴収法24条 6 項の「国税
の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものといえ、第三者対抗力が
あると言えさえすればよいと考えている。それは債権移転がなくても第三者対抗
を認めることは可能だとした上記の説と矛盾しない。また、平成19年判決の最高
裁判所調査官解説は、「確定的に譲渡」との判示につき、
「譲渡当事者間における
債権譲渡の意思は確定的なものであるから、将来発生すべき債権の移転時期はと
もかくとしても、債権譲渡は確定的にされている」ことを述べたものであると債
権移転時期に関する判断を留保しており、やはり将来債権が契約時移転するとい
う強い論拠とはなりえない。
物権は目的物を直接に支配できる権利であるから当然その目的物が現存するこ
とが必要だが、債権譲渡は債権移転の効果を生じさせる行為である。よって物権
(有体物)と債権(無体物)との違いを強調することによって債権譲渡ではその現
存なしに移転の効力が発生するという論は成り立ちえる。しかし、債権譲渡とい
う準物権行為と呼ばれる法律行為は物権行為の性質とそう遠くないはずだ。今日
では債権という無体財産が経済市場において大きな役割を果たしており、債権を
担保に資金を調達するなど、他から独立した財産と見なされるに至っている。つ
まり、債権に物権的所有権に似たものが観念できる。債権についての所有権は認
められてはいないが、目的債権を他の財産と独立して法律行為をする場合、債権
のうえに物権に準じた一定の支配が成立している必要がある。であるとすれば、
174 法律学研究51号(2014)
未だ存在していない債権についてはおよそ支配というものは観念できず、当然債
権移転の効果の発生も認められないのである。
また、債権に物権に匹敵する財産価値が認識されているからこそ将来債権譲渡
担保という非典型担保に物権的効力を広く認めつつあるのに、一方で物権と債権
の違いを強調するのは全体の整合性を欠いている。
ここまでの検討から、「将来債権の移転時期はいつか」という問いに対し、
「債
権発生時」と答えるのが相当と思う。その根幹は、やはり契約時移転説では、
「未
発生である目的債権について、なぜ契約時に、債権的な合意の効果にとどまらず、
物権的な権利移転の効果まで発生しうるのか」という疑問を払拭できないからで
ある。
5 平成19年判決のあてはめ
上記の検討により将来債権譲渡による債権移転時は債権発生時の方が望ましい
という結論に達した。次はこれを平成19年判決にあてはめると結果が変わるのか
否かを考えてみたい。
確認すると、平成19年判決は、将来債権は契約時に確定的に譲渡され、通知・
承諾時に対抗要件を備えるとした。対抗要件具備の時期については、大阪高判平
成 7 ・12・ 6 (判時1564号31頁) に対し、対抗力発生時期を債権発生時とすると債
権発生前に二重譲渡や差し押さえがなされ、かつ債権発生前に確定日付・通知ま
たは差し押さえ命令があると、譲受人・差し押さえ権者の対抗要件が同時に生ず
ることとなってしまい、将来債権の存在が不安定なものとなり、財産的価値が損
なわれてしまう、という批判があった18)。それを踏まえると、対抗要件の具備に
ついては平成19年判決と同じく、通知・承諾時が適切だ。
将来債権譲渡の移転時期を債権発生時としつつ通知・承諾時に対抗力を認める。
その解釈は、既に述べたように、第三債務者=インフォメーションセンターとし
て位置付ければ可能である。通知によって第三債務者はその債権の現状を認識し
ており、第三者に対してもそのように回答することを期待できるから、現実に債
権移転がなくても通知・承諾時に対抗力が認められる。
債権移転時期は債権発生時としつつも、第三者対抗は通知・承諾時に具備でき
るとすると、判決結果は平成19年判決と同じく、将来債権譲渡担保が国税債権に
優ることとなる。
175
6 本章のまとめ
将来政権譲渡担保における債権移転時期は目的債権発生時が適切である。であ
るが、債権が移転していなくても対抗要件を具備することは可能と考えるから、
結果的に平成19年判決に順ずる。平成19年判決における結果は変わらないとして
も、その論だてが変わったことで会社再建の実務においてなど、将来債権譲渡に
関する解釈は新たな展開をみせていくであろう。
Ⅲ 将来債権の取立権
1 始めに
これまで、第Ⅰ章では将来債権の発生時期、第Ⅱ章では将来債権の移転時期と、
平成19年判決が残した課題といえる将来債権譲渡に関わる 2 点について検討して
きた。この 2 点は、将来債権譲渡を考えるうえで、非常に重要なものであり、基
本であるといえるだろう。しかし、この 2 点以外にも将来債権譲渡および将来債
権自体における問題として注目すべきことはある。
本章では、第Ⅰ章、第Ⅱ章に続き、平成19年判決後も議論されている将来債権
譲渡に関わる問題を検討していく。将来債権譲渡についての議論は多くあるが、
その中でも、本章では将来債権の取立権について注目する。この問題は、実務に
即した類型化を行うことで、解決できるものではないかと考える。そこで、以下
に、将来債権の取立権を考えるうえで有効といえる類型論を示し、その上で、平
成19年判決では、取立権についてどう考えられていたのかを検討していき、それ
らを踏まえ、以下に示す類型論にあてはめて、平成19年判決を論評する。
2 類型論によるアプローチ
( 1 ) 類型論の概要
将来債権の取立権および処分権限について、様々な議論はあるが、明らかに有
力または正解であるといえる説はほとんどないといえよう。本節では、そういっ
た説の中でも比較的有力であると思われる「担保価値維持型」と「将来キャッ
シュフロー依存型(収益価値依存型)」に分ける類型論19)を示していこうと思う。
この「担保価値維持型」と「将来キャッシュフロー依存型(収益価値依存型)」
の 2 つに分ける類型論は、問題となる将来債権がその事例において、どういった
176 法律学研究51号(2014)
取引および目的で設定されたのかという実務に基づいた基準を用いた考え方であ
る。
「担保価値維持型」は、その名の通り、将来債権の担保的な価値に中心をお
いた取引であり、その目的は、期限の利益喪失時における、目的債権である将来
債権の優先的な確保である。一方で、「将来キャッシュフロー依存型(収益価値依
存型)」は、将来債権の担保設定者が収益として得られる価値に注目し、将来債
権で担保設定者の管理および回金による被担保債権の回収が平常時から行われる
取引であり、常時回収された将来債権の確保を目的とした類型である。以下で、
取立権のことも踏まえ、それぞれの類型について詳しくみていこう。
( 2 ) 担保価値維持型
まず、上述の通り、
「担保価値維持型」は、その将来債権の担保的価値に注目し、
期限の利益喪失時の将来債権の優先的確保を目的とする類型である。そのため、
この類型は、既発生の譲渡対象債権の元本残高(以下、「既発生債権元本残高」と
総称する)を基準にし、その範囲内で実質的与信金額
20)
が決定される。つまり、
担保とする将来債権の金額(または、将来において予想できる金額)がいくらであ
るから、それを超えない金額を貸し、返してもらえなければ、その担保価値を手
に入れようという考えを基に取引が行われるタイプのものである。この類型の具
体的な例として、消費者向けローンやクレジットカード債権などが挙げられる。
消費者向けローンは、借入人のもっている資産に基づいてその貸付金が定められ、
将来返せなかった場合には、その担保となっている資産から回収される仕組みと
なっており、クレジットカード債権も、その消費者の資産から限度金額を設定す
る取引のため、担保価値維持型であるといえる21)。また、このような、回収まで
の期間が短い債権を引き当てとして、かかる期間より長期にわたる資金調達を可
能とする流動化取引や譲渡担保取引が担保価値維持型の典型的なものであると考
えられる。さらに、この類型は、実質的与信者22)の債権の残高を、実質的与信
金額の残高を支えるに足りる水準で維持すること、すなわち、実質的与信金額の
引き当てとして十分な既発生債権が、実質的与信金額を最終的に回収しようとす
る投下資本最終回収時を含む取引期間中常時存在するようにしておくことを目的
として、将来債権の譲渡がなされるといえるだろう。よって、実質的与信金額の
支払いの引き当てとなる債権の元本残高が、当初の譲渡時点(取引実行時点)に
おいて既に存在し、また、取引期間中においても、当初譲渡時点での既発生債権
の元本残高とほぼ同じ金額で存在することが、取引の前提となっているといえる。
177
次に、担保価値維持型における将来債権の取立権について検討していく。以上
のように、担保価値維持型は、将来債権の期限の利益喪失時における担保価値に
注目した取引であるなどその目的と取引の特徴から、期限の利益喪失時までは、
設定者に譲渡対象財産の取立権ないし処分権限があり、設定者の責任財産を構成
すると考えられる。これは、この類型の取引において、期限の利益喪失時におけ
る実質的与信金額の回収という担保的価値が目的であり、その実質的与信金額の
引き当てとなる債権の元本残高が必要とされているだけであるため、その譲渡対
象財産の処分権限は、期限の利益喪失時までの期間においては、設定者側に実質
的には認められていると考えられるからである。さらに、設定者側に取立権ない
し処分権限が認められていると考えられるのであれば、その譲渡対象財産を実質
的に自由に利用できるのであるから、譲渡対象財産は、その設定者の責任財産を
構成するといえるだろう。このように、担保価値維持型の取引においては、一般
に、投下資本最終回収時までの一定期間内は、譲渡担保である将来債権の既発生
債権についての処分権限および取立権は、設定者側に認められ、期限の利益喪失
時である投下資本最終回収時に至った場合には、その譲渡対象財産の取立権およ
び処分権限は、譲受人に移ると考えられるだろう。さらに、その期限の利益喪失
時後に譲受人がもつ譲渡対象財産への取立権が及ぶ範囲としては、担保価値維持
型は既発生債権元本残高を基準にその金額を超えない程度の貸付を行う取引であ
るため、投下資本回収時までに、譲受人(実質的与信者)が引き当てとして把握
している債権についてのみ及ぶといえよう。言い換えれば、実質的預金金額の弁
済や回収の引き当てとなっていない範囲については、期限の利益喪失時でも、譲
受人は取立権や処分権限を行使できないと考えられる。
( 3 ) 将来キャッシュフロー依存型(収益価値依存型)
続いて、将来債権の類型論における「将来キャッシュフロー依存型(収益価値
依存型)
」のより詳しい内容とその取立権の帰属について述べていこうと思う。
「将来キャッシュフロー依存型(収益価値依存型)」は、担保設定者の管理およ
び回金による被担保債権の回収が平常時から行われることを前提にした取引であ
り、常時回収された将来債権の確保を目的とした類型である。つまりは、その名
の通り、担保設定者の収益価値に注目し、それを担保とする類型を指す。この将
来キャッシュフロー依存型(収益価値依存型) では、担保価値維持型と異なり、
既発生債権元本残高を上回る水準で実質的与信金額が決定される。具体例として
178 法律学研究51号(2014)
は、実質的受信者(担保設定者)が営む事業に基づき、将来の一定期間にわたっ
て発生する売掛債権を包括的に譲渡し、発生した債権を実質的与信者側の投下資
本の回収に漸次充当していくという取引が挙げられる。この例からもわかるよう
に、将来キャッシュフロー依存型(収益価値依存型)は、担保である将来債権が
発生する度に回収される金額を累積的に把握し、投下資本全額の回収を行うこと
を企図しているのである。また、担保価値維持型で前提となっていた実質的与信
金額の支払いの引き当てとなるような資産が常時および投下資本回収時にも存在
するということは、将来キャッシュフロー依存型(収益価値依存型)では前提と
なっておらず、実質的受信者23)(担保設定者)の将来の事業収益ないし、その担
保設定者が営む特定の事業から生じる将来キャッシュフローを前提として取引を
行っている。
このような将来キャッシュフロー依存型(収益価値依存型) の取引において、
既発生債権の回収金の全部を実質的与信金額の弁済に充ててしまうと、その事業
の運営資金が不足してしまったり、全くなくなってしまったりという可能性が高
くなる。そうなると、事業が立ち行かなくなり、貸付人(実質的与信者)が投下
資本を回収するために前提としている事業収益や将来キャッシュフローが少なく
なることやなくなってしまうことも高い確率で起こってくるだろう。そうなれば、
この類型の取引が成り立たなくなってしまう。よって、基本的には、この類型で
は、既発生債権の回収金の一部のみを弁済に充て、残りは事業運営に充てること
が必要となる。
このような取引および目的の特徴から、将来キャッシュフロー依存型(収益価
値依存型)における取立権の帰属については以下のように考えられる。この類型
では、担保になっている将来債権が、既発生債権元本残高ではなく、担保設定者
の事業運営等の将来キャッシュフローを前提としている点から、その担保の処分
権限ないし取立権については、期限の利益喪失時等は関係なく、常時、譲受人(実
質的与信者)に属すると考えられる。しかし、その譲渡対象財産の全てにおいて、
取立権や処分権限を認めるということになると、上述した通り、この類型の取引
が前提としている担保設定者の事業収益が減少またはなくなってしまう。よって、
譲受人(実質的与信者)に属すると考えられる譲渡対象財産の一部、特に事業運
営に必要な資金等の部分については、設定者(実質的受信者)に属するものであ
ると考えるべきだろう。その理由として、譲渡担保について、「債権担保のため
に目的物件の所有権を移転するものであるが、右所有権の移転効力は債権担保の
179
目的を達成するのに必要な範囲内において認められる」という判例法理が形成さ
れている24)ことから、この「担保目的を達成するのに必要な範囲」というのに、
事業運営に必要な財産は含まれないと考えるべきであることが挙げられる。さら
に、「集合動産譲渡担保契約において,譲渡担保設定者は,独自の判断において,
目的物たる商品を通常の営業の範囲内において第三者に売却する権限を留保して
25)
いると解すべき」
と判例に明記されていることから、この「通常の営業の範囲
内」には、事業運営に必要な財産を運用することが含まれると考えられ、その事
業運営に必要な財産に関しては、設定者に処分権限があるといえるのではないか
と思われることも理由として挙げられる。
また、この将来キャッシュフロー依存型(収益価値依存型)は、実質的与信金
額の完済に至るまでに発生しうる債権からの回収金に依存する形での弁済や回収
が考えられているため、仮に、担保設定者が再建型倒産手続に入った場合におい
ても、その再建型倒産手続開始後に発生した債権を、譲渡人(実質的与信者)へ
の優先弁済に充てることが認められるとも考えられるだろう。つまり、再建型倒
産手続開始後の設定者(実質的受信者)に必要不可欠な債権であるにも拘わらず、
その債権においても、譲渡対象財産であることを理由として、譲渡人(実質的与
信者)の取立権ないし処分権限が認められ、優先的に弁済に充てられてしまう可
能性があるといえる。この問題については、もちろん、そのときどきにおける事
情によって考えられるべきだが、基本的な考えとして、この類型における取立権
の帰属は、事業運営に必要な部分に関して担保設定者(実質的受信者)に認める
という考えを用いて、再建型倒産手続開始後の発生債権においても、事業の再建
および運営に必要不可欠な部分については、設定者の取立権ないし処分権限を認
め、譲受人(実質的与信者)への優先弁済には充てないようにすることを可能と
すべきであると考える。しかし、こうなると譲受人の貸付金(投下資本)が回収
できなくなるのではないかという不安が出てくる。そこで、投下資本が完済され
るまでは、設定者に債務を負わせ続けることを前提としたうえで、事業の再建や
運営に必要不可欠な部分についての債権の取立権ないし処分権限のみは設定者に
認め、それ以外については譲渡人に処分権限を認めていくのが良いのではないか
と思う。こうした場合、投下資本を全て回収するまでの期間が当初の契約より延
長してしまうことがほとんどであると考えられるため、その期間延長についても
認めていくのが良いだろう。
180 法律学研究51号(2014)
3 平成19年判決における取立権の考察
これまで、担保価値維持型と将来キャッシュフロー依存型(収益価値依存型)
の類型およびその類型における取立権の帰属について検討してきた。そこで、本
節では、平成19年判決において、取立権の帰属はどのように考えられていたのか
をみていき、また、その考えについての評価をしていこうと思う。
平成19年判決では、取立権について詳しく言及していると思われる部分は見当
たらないが、以下の部分から、取立権ないし処分権限についての最高裁の考えが
読み取れると思われる。
また、将来発生すべき債権を目的とする譲渡担保契約が締結された場合には、
債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない限り、譲渡担保の目的と
された債権は譲渡担保契約によって譲渡担保設定者から譲渡担保権者に確定
的に譲渡されているのであり、この場合において、譲渡担保の目的とされた
債権が将来発生したときには、譲渡担保権者は、譲渡担保設定者の特段の行
為を要することなく当然に、当該債権を担保の目的で取得することができる
ものである26)。
以上のように、譲渡担保契約が結ばれた時点で、譲渡対象財産は、設定者から
担保権者に移ることを明示しており、このことから、その担保に付随するであろ
う取立権ないし処分権限についても、譲渡担保契約時から、担保権者に属するも
のであると考えられる。また、本件第一審においては、処分権限について、明確
に説いているように見受けられる部分が以下のように存在する。
集合債権譲渡担保契約の場合、……債権譲渡の効力は、既発生のもののみな
らず将来生ずべきものについても契約時に確定的に発生しており、ただ、正
常な経営が続いている間は、担保権者は担保設定者に取立権限を内部的に許
容しているにすぎないと解するのが相当であり、このような取立権限に関す
る内部的合意があることが、契約時に確定的に債権移転の効果があったと認
定することの妨げとなるものではない27)。
このように、第一審では、原則として、将来債権ないし将来債権を含む集合債
181
権においては、譲渡担保権者に目的債権およびその取立権が帰属し、設定者の取
立権については、その譲渡担保者に帰属する一部において内部的合意に基づく債
権的な権利にとどまるものであると解されているといえよう。また、例外的に、
極端な過剰性や包括性に対する一般条項による制約があるなど、担保目的を逸脱
する場合には、担保権設定やその取立権の行使が否定されることがあるとするの
が妥当であろうと示していると考えられる。そして、最高裁もこの第一審を前提
としていると思われるので、この考えを平成19年判決での取立権についての考え
として採用しようと思う。
次に、平成19年判決を、前述の類型にあてはめ、この最高裁の考えとの比較お
よび検討をしていく。平成19年判決は、明らかにどちらの類型であるとはいえな
いが、担保設定者が 1 年間に取得する売掛代金債権および商品販売受託手数料を
譲渡対象財産としており、担保設定者の管理および回金による被担保債権の回収
が平常時から行われることを前提にした取引であると考えられるため、今回は将
来キャッシュフロー依存型(収益価値依存型)であるとして検討していきたいと
思う。この類型の取立権の所在は、基本的に譲渡担保権者に帰属し、その一部と
して事業運営に必要不可欠な部分については、設定者側に取立権が帰属している
と考えられる。よって、平成19年判決の基本的には譲渡担保権者に取立権が帰属
し、その一部が設定者に認められるという考えは、この章で示した類型論にも合
致しているといえ、その類型論の視点からも非常に適切なものであるといえよう。
一方で、本判決の考えと類型論で異なると思われる点がある。それは、本件判決
が、設定者がもつ一部の譲渡対象財産における取立権を内部的な合意に基づく債
権的な権利としているのに対し、類型論では、設定者にも債権的な権利にとどま
らず、譲渡対象財産の一部において取立権が明らかに認められていると考えられ
る点である。
また、平成19年判決の考えには疑問点がある。本件判決の考えでは、譲渡担保
権者に対して、会社更生手続等の再建型倒産手続後の発生債権についても、譲渡
担保であることから、優先的な弁済を認めるようにとらえられるが、これは明ら
かに正しいとはいえないであろう。なぜなら、前述の類型論から考えれば、将来
キャッシュフロー依存型(収益価値依存型)においては、事業の再建および運営
に必要不可欠な部分については、担保設定者にその取立権ないし処分権限が認め
られるべきであると考えられるため、再建手続開始後発生債権全てにおいて譲渡
担保権者にその処分権限を認めるべきではないといえるからである。本件は、国
182 法律学研究51号(2014)
税徴収との兼ね合いであったため、最高裁の判決が、前述の類型論から考えても
適切であったとはいえるが、これから出てくるであろう倒産手続との兼ね合いに
ついては、以上のように最高裁の取立権についての考えが必ずしも適切であると
はいえないだろう28)。その理由として、判例29)においては、譲渡担保権は更生担
保権として扱われている30)と考えられており、そのため、会社更生手続開始後は、
担保権者に譲渡対象財産の処分権限が移転していても、その譲渡対象財産は更生
担保権の対象として扱われ、担保権の実行の中止命令が認められる31)と考えら
れることが挙げられる。さらに、このことは、集合債権譲渡担保が、事業の再生
に必要不可欠であることを理由に、民事再生法31条 1 項の規定する担保権に該当
し、中止命令を発する対象として認められた事例32)も実際に存在することから
も確認できる。
4 本章のまとめ
この章では、将来債権を担保価値維持型と将来キャッシュフロー依存型(収益
価値依存型)に分ける類型論を示し、それぞれの類型における取引や目的の特徴
をみてきた。それらを踏まえ、それぞれの類型における取立権の帰属について検
討してきた。そして、平成19年判決における取立権への考えを示し、類型論から
みて、事案としては適切な考えではあったが、その考えでは、課題が残ることを
示した。
もちろん、全ての事案が示した類型にあてはまるとはいえず、また、その類型
論に基づいて考えるのが適切でない場合もあるだろう。しかし、この類型論を示
すことで、将来債権、特に将来債権譲渡における取立権について検討がしやすく
なると考えられ、これらを解決していくうえでの指針の一つとしては非常に有効
なものであるといえるのではないだろうか。
結 論
本論において、まず、将来債権の発生時期について、賃料債権と請負債権の判
例を挙げて、その両判例の整合性について論じることで、平成19年判決とは逆の
考えも可能であることを示した。次に、目的債権である将来債権の移転時期につ
いて、平成19年判決とは異なる債権発生時が妥当であるという答えを出したが、
一方でその移転時期に左右されるであろう対抗要件の具備に関しては、平成19年
183
判決通り通知承諾時に具備すれば良いのではないかと思われる。そして、取立権
においては、担保価値維持型と将来キャッシュフロー型の 2 つの類型に分け、そ
の帰属について論じ、それらを踏まえて平成19年判決についても考察を行うこと
で、平成19年判決の考えには課題が残されていると考えた。以上のように、将来
債権の発生時期、移転時期、取立権の 3 点に関する考察を行い、平成19年判決が
出した答えが明らかに正しいといえるものではないと考えた。このことから、平
成19年判決は、一見将来債権の様々な問題を解決した非常に有意義な判例である
が、実際のところ、残した課題は多いといえるであろう。
しかし、これらの 3 点に関する考察は、網羅できていない部分があり、そのた
め、それぞれに課題が残っているといえるだろう。また、将来債権に関するこれ
らの点については、多くの議論が交わされている中で未だ明らかに正解であると
いわれているものはなく、この論文においてもその正解を見出したとはいえない
だろう。今後、その明らかな正解が見つかっていくことに期待したい。
1 ) 東京高判平成16・ 7 ・21(金法1732号43頁)はこの立場をとる。
2 ) 他に賃料債権の発生時期について述べた判例として、大判大正14・ 7 ・10、大
判昭和 5 ・ 2 ・ 5 など。
3 ) 白石大「債権の発生時期に関する一考察( 1 )」早法88巻 1 号(2013)104頁等。
4 ) 白石・前掲注 3 )「債権の発生時期」127頁。我妻栄「債権各論中巻一」岩波書
店(1957)469頁等。
5 ) 他に請負報酬債権の発生時期について述べた判例として、大判昭和 5 ・10・28。
6 ) 白石大「債権の発生時期に関する一考察( 2 )」早法88巻 2 号(2013)194頁。
7 ) 中村萬吉「債権法各論」第三版、早稲田法政学会(1922)372頁等。
8 ) 白石・前掲注 6 )「債権の発生時期」199頁以下。
9 ) 星野英一「民法概論Ⅳ(契約)」良書普及会(1991)262頁。
10) 白石大「フランスにおける将来債権譲渡と譲渡人の倒産手続との関係」比較法
学43巻 2 号(2009)94頁。
11) ただし、上告審である最判平成10・ 2 ・ 10(判時1628号 3 頁)では、将来債権
譲渡における債権の移転時期についての判断はされなかった。
12) 池田真朗「将来債権譲渡担保における債権移転時期と、譲渡担保権者の国税徴
収法24条による物的納税責任」金法1736号(2005) 8 頁。
13) 粟田口太郎「動産・債券譲渡担保の最新判例分析と法的問題点」事業再生研究
機構編『ABL の理論と実践』商事法務(2007)163頁以下。
14) 道垣内弘人「将来債権譲渡担保における債権移転時期と、国税徴収法24条によ
る譲渡担保権者の物的納税責任」金法1748号(2005)30頁、江口直明「将来債権
184 法律学研究51号(2014)
譲渡担保に対する国税徴収法24条の物的納税責任の優先―東京高判平16・ 7 ・21
キャッシュフローファイナンスの危機―」金法1739号(2005) 9 頁。
15) 高木多喜男「集合債権譲渡担保の有効性と対抗要件(下)」NBL235号(1981)
25頁。
16) 倒産法部「会社更生手続・民事再生手続開始後に発生する将来債権の譲渡担保
の効力 ― 将来債権譲渡担保における債権の移転時期の検討を中心として ―」
(2007)78頁。
17) 倒産法部・前掲注16︶「会社更生手続」79頁。
18) 秦光昭「将来債権の譲渡と抵当権に基づく物上代位との優劣」金法1455号
(1996) 4 頁、小林明彦「将来の賃料債権の包括譲渡物上代位に基づく差押えの
優劣」金法1456号(1996) 6 頁。
19) 佐藤正謙ほか「第 2 回 債権譲渡―倒産手続開始後に発生した債権に対する将
来債権の効力―」NBL922号(2012)49頁。片山直也「残された課題―将来債権
譲渡担保における『担保目的に必要な範囲』とは?―」NBL854号(2007)29頁
の「甲類型」「乙類型」を参考。
20) 将来債権譲渡担保型の取引においては、貸付金額等を指す。佐藤ほか・前掲注
19︶「債権譲渡」49-51頁参照。
21) 佐藤ほか・前掲注19︶「債権譲渡」49頁参照。
22) 将来債権譲渡担保型の取引においては貸付人を指す。
23) 将来債権譲渡担保型の取引においては借入人を指す。
24) 最判昭和41・ 4 ・28(民集20巻 4 号900頁)、最判昭和57・ 9 ・28(判時1062号
81頁)、最判平成 7 ・11・10(民集49巻 9 号2953頁)など。
25) 最判平成18・ 7 ・20(民集60巻 6 号2499頁)。
26) 最判平成19・ 2 ・15(民集61巻 1 号243頁)。
27) さいたま地判平成15・ 4 ・16(金法1803号85頁)。
28) 山本慶子「再建型倒産手続きにおける将来取得財産に対する担保権の処遇―事
業収益型担保の処遇を中心に―」金融研究29巻 2 号(2010)159頁以下において
もこの問題は指摘されており、再建型倒産手続における将来債権譲渡担保の取り
扱いについて類型に分けて詳細に検討されている。
29) 最判昭和41・ 4 ・28(民集20巻 4 号900頁)。
30) 山本・前掲注28︶「再建型倒産手続き」183頁。
31) 山本・前掲注28︶「再建型倒産手続き」182-183頁。
32) 東京地判平成16・ 2 ・27(金法1722号92頁)。
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