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書評 『美女の骨格 名画に隠された秘密』

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技術と経済 2009.9
♣書評
美女の骨格
−名画に隠された秘密−
評者 大谷 卓史
どんな美人も一皮向けばみな同じ−よく言
われることだが、本書によれば、この俚言は
誤りである。私たちの容貌の個性や他人に与
える印象は、皮膚よりも、その下にある骨格
によって大きく左右されるという。
「美女の骨
格」という少々意外なタイトルの心である。
本書の著者は、美術解剖学の専門家。美術
解剖学とは、ルネサンス期にその基盤が確立
した学問で、解剖によって人体の構造を学び、
その知識を美術の制作に生かそうとするもの
だ。絵画の歴史を見ると、顔の表面にあるパー
ツを重視する見方が長く続き(日本画の伝統
もこちらに属するようだ)
、ルネサンス期にお
いて、内側にある骨格に注目して、陰影のあ
る立体的なものとして、顔を把握する見方が
成立した。この背景理論が美術解剖学なのだ。
本書は、この美術解剖学の知見を駆使して、
美女の顔の歴史的な変遷・進化を捉えようと
する。絵画や彫刻などの美術作品に現れた美
女の姿を読み解くだけではない。美術解剖学
は、遺体の骨格から顔貌を復元する「復顔」
にも応用される。この技術を活用し、歴史上
の人物たちの容貌も考察される。
絵画に描かれた美女たちは普遍的な美を謳
うように微笑むものの、美女の基準は時代と
ともに揺れ動いているという。本書によると、
環境の変化によって、人類の顔は進化したが、
この進化を先取りするように美の理想が登場
するそうだ。現代人は、食べ物がやわらかく
歯やあごを使わなくても食べやすくなるのに
つれて、あごが細く小さくなっている。この
進化の流れを先取りするように、やはり現代
では小顔美人がもてはやされているようだ。
ところで、本書によると、骨格は完全に固
定したものではなく、頬杖をつき続けると、
まさにこぶしの当たっていた頬の部分が細く
なるなどの変化が起きえるという。鼻が低け
ればつまんでおけば高くなるという俗諺もう
青春出版社
2009 年 5 月 15 日発行
188 頁/本体価格 930 円+税
著者 宮永 美知代
そではないのだ。
自分の顔が好きになれない読者を気遣うこ
とばには、著者の優しい人柄が見える。頬杖
の例のように美女をつくる骨格は変わりうる
し、時代の中で容貌の美の基準は変転する。
いわばはかないものだ。むしろ、表情が顔の
魅力を引き出す大きな要素で、心の持ちよう
が表情を輝かせるという意見は至言だろう。
絵画や歴史の楽しいエピソードを追いなが
ら、美術解剖学の歴史やその考え方のエッセ
ンスを理解できることで、本書はきわめて優
れた教養書である。学問的な基礎をしっかり
と置きながら、記述はきわめて平易で、わか
りやすい。絵画に描かれた美女の流行や顔貌
の進化という人の世の有為転変を見つめる一
方で、美を求める人々の心情という普遍的な
ものが本書から見えてくるはずだ。これから
の季節、読書の秋にふさわしい、さわやかな
読後感が得られるだろう。
(おおたに たくし / 吉備国際大学
政策マネジメント学部 准教授)
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