アカデミック・ライティング B 第8回 髙橋 勇 2007 年 6 月 5 日 小論文② 比較・対照する/議論する Ⅰ.比較と対照 二つ以上の事柄を並べて検討する際には、他のすべての議論と同様、「何のために並置 するのか」、すなわちそれによって効果的になる論点があるのかをまず考えなくてはならな い。例えば二つの作品が似ているから並べてみたからといって、それにより得られるポイント が論文の本筋と無関係であれば、単なる「似ているものの事例列挙」に終わる(列挙が目的 である場合はまた別であるが)。 二つ以上の事柄を並置するときは、その類似点、または相違点の指摘が目的となる。通 常は前者を比較、後者を対照と呼ぶが、通常は双方を同時に行なうことになる。 ただし、すべての点が正反対であるとか、違うようにみえて実はすべての点で類似してい る、などという場合には、比較か対照のいずれかのみを扱うことになる。しかし前者の場合に は「すべての点」、つまり比較のポイントを共有しているという類似が存在するし、後者であれ ば「違うようにみえて」いること、つまり前提としての相違が存在するので、じっさいには双方 が同時に行なわれている。 Ⅱ.比較と対照——ポイント列挙方式 比較・対照を行なって論じる方法には、大きく分けてポイント列挙方式とブロック方式があ る。 ポイント列挙方式では、比較・対照のポイントごとに、それぞれの対象を考察することにな る。例えば、二つの製品を比較するなら、「値段」「性能」「デザイン」といったものが比較のポ イントとなり、それぞれについて二製品を比較する。具体的には、例えば以下のような構成 になる。 I. 序論 II. 本論 A. 値段 B. 性能 C. デザイン III. 結論 Ⅲ.比較と対照——ブロック方式 前回も扱ったブロック方式の場合、(上記の二製品比較を例に取れば)各製品をそれぞ れ検討するといったやり方も考えられるが、これは結局のところ理解が困難になる。むしろ比 較・対照であれば、「類似点」と「相違点」をまとめて列挙するやり方が本来の目的に適った ものといえる。具体的には、例えば以下のような構成になる。 I. 序論 II. 本論 A. 類似点 1. 値段 B. 相違点 1. 性能 2. デザイン III. 結論 Ⅳ.議論する 議論とは、ある論題について自分が肯定否定いずれの立場をとるか明言し、読み手/聞 き手がその立場に賛同できるよう説得するためのものである。序論で述べたように、もちろん 読み手の感情を制御するための誇張や言葉遣いなども重要ではあるが、根幹となるのは理 屈である。 ある論題について賛否を明らかにして論ずる際には、自分の意見についての補強・裏づ けだけをしていてはならない。必ず反対の意見が存在するからである。この反対意見を論駁 し、二つ(あるいはそれ以上)の選択肢のうち、なぜある一つがよりよいものであるのかを示 す必要がある。 Ⅴ.議論する——ポイント列挙方式とブロック方式 論ずるべきポイントをいくつか抽出し、その長短を論ずるという形式は、前述の比較・対照 の論法に近い。この場合、ポイントは主として自陣営の意見と反対陣営の意見の対立点とい うことになる。 ポイント列挙方式では、反対陣営の意見をいくつかに分類し、それぞれについて反論お よび対抗意見を述べる。以下はその一例である。 I. 序論:問題の概観、反対陣営の意見、thesis statement II. 本論 A. 反対陣営の意見その① ならびにそれへの反論・対抗意見 B. 反対陣営の意見その② ならびにそれへの反論・対抗意見 C. 反対陣営の意見その③ ならびにそれへの反論・対抗意見 III. 結論:自陣営の意見の総括 ブロック方式では、反対陣営の意見と自陣営の意見をそれぞれ一つのまとまりとする。 I. 序論:問題の概観、thesis statement II. 本論 A. 反対陣営の意見 1. 反対陣営の意見概観 2. 反論その① 3. 反論その② 4. 反論その③ B. 自陣営の意見 1. 対抗意見その① 2. 対抗意見その② 3. 対抗意見その③ III. 結論 Ⅵ.議論する——序論の構成 その論においてはいったい何が問題点であるのか、書き手は序論で必ず示さなくてはな らない。その最後に、論題の言明として書き手の意見を明示する。この thesis statement は 「∼という意見にもかかわらず、∼である」など、反対陣営の意見にも触れることが多い。 しかし、この問題点整理の前に、興味深いデータやエピソードなど、読み手の注意を引く ための導入をおくこともある。この場合、本当の序論は次の段落から始まることになる。 Ⅶ.課題 「大学での文学教育は必要ない」という議論について、あなたの意見を述べなさい。
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