サービサー評価 - エム・ユー・フロンティア債権回収株式会社

ストラクチャード・ファイナンス
サービサー評価
エム・ユー・フロンティア債権回収株式会社
アナリスト
住宅ローン
・ スペシャル
・ サービサー
(日本)
住宅ローン・
スペシャル・
サービサー(
村上和聡
東京
電話 03-4550-8673
フィナンシャルアナリスト
吉澤亮二
東京
電話 03-4550-8453
総合評価:
スタンダード&プアーズは 2005 年 11 月 2 日付で、エム・ユー・
フロンティア債権回収株式会社(以下「MU フロンティアサー
能力が高い
ビサー」
)の住宅ローン・スペシャル・サービサーとしての総
合評価を「能力が高い」に据え置いた。MU フロンティアサービサーは、三菱東京 UFJ 銀行
株式会社(格付けは「A /安定的/ A-1」
)の連結子会社である。
評価は、主として以下の要因に基づいている。
住宅ローン・スペシャル・サービサーとして確固たる実績を積んでいる。
経営陣、担当者ともに、関連業務において豊富な経験を持っている。
離職率が極めて低い。
業務推進手順が綿密に規定されており、理解しやすくまとめられている。
内部監査が適切に実施されている。
情報セキュリティ・マネジメント・システム(ISMS)の認証を取得するなど、社内の情
報管理体制の整備が優れている。
社内教育および研修が充実している。
適切な災害復旧計画のもと、システム復旧テストを実施している。また、データのバッ
クアップ体制が整っている。
業務運営を効果的にサポートできるよう、コンピューターシステムが整備されている。
回収戦略の策定過程が適切である。
資金管理の方法が適切である。
委託者や投資家に対するリポーティング作成体制が整備されている。
業務を委託している第三者の管理方法が適切である。
アウトルック:
MU フロンティアサービサーは、現在 1,250 人以上の従業員を抱
える国内最大級のサービサーである。主要業務は、不良化する
おそれのある、もしくは不良化した住宅ローン債権や消費者金
融ローン債権の回収、破綻した法人向けローン債権の管理回収などである。経営陣は、法
安定的
2006 年 6 月
エム ・ ユー ・ フ ロ ン テ ィ ア 債 権 回 収 株 式 会 社
住宅ローン・スペシャル・サービサー(日本)
人および個人部門における広範なネットワークを通じてローン・ポートフォリオを拡大し、業績と利
益を向上させる一方で、業務過程の統合と再編により回収業務の費用効率と収益性の最大化、オリジ
ネーターの与信部門のリストラクチャリングの実現支援に注力している。同社はサービサー法の下で
サービシングが認可されるあらゆる種類のローン債権を扱う包括的なサービサーとなることをめざし
ていることから、経営陣のこの姿勢は、その計画を裏付けるものである。
M U フロンティアサービサーは、上述のように不良化するおそれのある、あるいは不良化した多様かつ
多額のローン債権を回収する、国内ではまれなタイプのサービサーである。スタンダード&プアーズ
は、同社の今後の業務展開を注意深く見守り、市場動向や投資家の期待、また事業環境の変化に対す
る同社の対応を注視していく。
プロフィール
MU フロンティアサービサーの前身は、1997 年 7 月に株式会社アプラスの 100%子会社として設立され
たアプラス債権回収株式会社(以下「アプラスサービサー」
)である。同年 1 2 月に旧三和銀行株式会
社、旧日本信販株式会社、旧東洋信託銀行株式会社、株式会社ジェーシービー(以下「J C B 」
)がアプ
ラスサービサーに出資する形で事業参画に同意し、2000 年 1 月にはフロンティア債権回収株式会社に
社名変更した。同社は、サービサー法に基づく業務を行うことを目的に、いわゆるサービサー法(1999
年 2 月施行)に基づく法務大臣の許可を 2000 年 2 月、わが国で 28 番目に取得した。2000 年 3 月にアプ
ラスの償却済割賦債権の回収を、2000 年に旧三和銀行グループや第三者の保有する不良化した個人向
けローン債権を、2001 年には法人向けローン債権を対象に、サービシング業務を開始した。2004 年 10
月にエヌ・エス債権回収株式会社と、2005 年 10 月には東京ダイヤモンド再生・債権回収株式会社と合
併し、現社名に変更した。
MU フロンティアサービサーの株式は 2006 年 1 月現在、三菱東京 UFJ 銀行が 64%、アプラスと UFJ ニコ
ス株式会社(旧日本信販)が 15.6%ずつ、JCB とプロミス株式会社が 1.6%ずつ、地銀 1 行と保険会社
1 社が 0.8%ずつ保有している。
MU フロンティアサービサーは前述のとおり国内最大級のサービサーであり、取り扱い債権も、住宅ロー
ン債権から、商業用ローン債権、リース料債権、個人向け債権などの金銭債権まで多岐に渡っている。
東京都中野区に本社を置き、都内半蔵門、大阪、名古屋に事業所を、また全国 23 カ所に支店などを構
えている。
住宅ローンのスペシャル・サービシングの対象債権は、1)旧フロンティア債権回収が取り扱っていた、
主として UFJ 信用保証株式会社(現三菱 UFJ 住宅ローン株式会社)からの委託債権と、一部の第三者オ
リジネートのローン、2)旧エヌ・エス債権回収が取り扱っていた日本信販(現 UFJ ニコス)からの委
託債権である。1 )については、東京、大阪、名古屋のローン管理部が、2 )についてはエヌ・エス統
括部下の全国の支店が管理回収に当たっている。
不良化のおそれのある延滞債権の管理回収は、旧フロンティア債権回収が受託した債権については上
記 3 拠点のローン管理部で、旧エヌ・エス債権回収が受託した債権についてはエヌ・エス統括部下の
支店で、スペシャル・サービシング対象債権同様、それぞれ行われている。
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Standard & Poor’s ス ト ラクチャ ード ・フ ァイナ ン ス
2006 年 6 月
表 2 :エヌ
・エス統括部 * 2 の人数および債権数
の人数および債権数:
エヌ・
:
(単位:人)
月末時点(
2 0 0 5 年 3 月末時点
表 1 :ローン管理部 * 1 の人数および債権数
:
の人数および債権数:
2 0 0 5 年 3 月末時点
( 単 位 : 人)
管理職
本社(東京) 名古屋事業所
4
2
大阪事業所
2
管理職
全国 21 支店
21
正社員
嘱託
31
6
正社員
嘱託
9
6
2
0
10
6
パートタイム
派遣社員
0
4
1
4
2
1
債権数(件)
1,710
391
1,641
* 1 旧フロンティア債権回収受託債権の取り扱い部署
( 単 位 : 人)
パートタイム
派遣社員
債権数
0
0
5,462
* 2 旧エヌ・エス債権回収受託債権の取り扱い部署
組織と経営 : 能力が高い
回収実績
ローン管理部のスペシャル・サービシング・ポートフォリオの大半は、旧 UFJ 銀行によりオリジネート
されたもので、同グループの保証会社である U F J 信用保証の保証が付された債権である。
M U フロンティアサービサーの場合、抵当権実行による回収総額に占める任意売却による回収額の比率
は、UFJ 信用保証からサービシング業務を受託する前は約 50%だったが、2005 年 3 月には約 69%へと
上昇した。スタンダード&プアーズは、一般に回収率の高い任意売却の割合が増加している点を評価し
ている。同社データによれば、任意売却では、第三者の鑑定による住宅の市場価格に対する回収比率は
100%だが、競売では平均 80%の回収率にとどまっている。
スタンダード&プアーズは、M U フロンティアサービサーが、第三者によりオリジネートされた、より小
規模のスペシャル・サービシング・ポートフォリオでも同様の実績を上げていることを確認した。
管理職、
担当者の業務経験
管理職、担当者の業務経験
MU フロンティアサービサーの強みのひとつは、業務経験豊富な担当者を多数擁していることである。同
社では管理職、担当者とも、住宅ローンのサービシングにおいて豊富な経験を有している。東京本社、
大阪および名古屋事業所のローン管理部は、計 8 人の管理職と 32 人のスペシャル・サービシングの専
担者で構成されている。
ローン管理部の管理職は平均 2 2 年の業界経験を有する。
ローン管理部のスペシャル・サービシング専担者は平均 2 0 年超の業界経験を有する。
またエヌ・エス統括部で住宅ローンのスペシャル・サービシングおよび延滞債権の管理回収に当たってい
る管理職と担当者は平均 20 年以上の勤務経験を有し、関連業務については平均 8 年超の経験を持っている。
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住宅ローン・スペシャル・サービサー(日本)
もう 1 つの強みは、住宅ローンの処分の際、債務者の審査においてローン業務部のサポートが受けられ
ることである。各債務者の特性を効果的に分析することで、ローン管理部が住宅ローンを競売ではなく
任意売却できる可能性が高まり、その結果、抵当権の実行における回収額の向上につながっている。
ローン業務部の 7 人の管理職は平均 1 5 年の業界経験を有する。
ローン業務部の専担者は平均 1 8 年の業界経験を有する。
サービサー業務開始以来、正社員およびスペシャル・サービシング専担者については、離職率が極めて
低く抑えられている。一方、同社は実質的に三菱 UFJ フィナンシャル・グループの 1 部門であることか
ら、経験を積んだ管理職やスタッフがグループの他部署へ異動する可能性がある。ただし、同社は質の
高い人材の育成・確保を事業方針に掲げており、重要なポジションにはすべて住宅ローンのスペシャル・
サービシング経験を持つ人材が充てられると思われる。スタンダード&プアーズは、同社の事業方針に
鑑み、今後も住宅ローンのスペシャル・サービシングにおいて安定的な環境が維持されると考えている。
業務展開計画
MU フロンティアサービサーは、前述のとおり、旧フロンティア債権回収、旧エヌ・エス債権回収、旧東京ダ
イヤモンド再生・債権回収の 3 社が合併して設立された国内最大級のサービサーである。
「金融のアンバン
ドリングをリードする No.1 サービサー」を経営目標に掲げ、住宅ローンのみならず、様々な個人向けロー
ン、不動産担保付商業用ローン、無担保商業用ローンなどのスペシャル・サービシングを行うとともに、こ
れらの延滞債権および正常債権についても幅広くサービシングを実施している。今後は、合併各社同士の経
営統合を推進しつつ、グループ外ビジネス、証券化関連ビジネスのさらなる拡充を図っていく方針である。
スタンダード&プアーズは、大規模なサービシング・ポートフォリオにおいては、効率的なサービシン
グ業務を維持・発展させていくことが重要であるとみている。また、同社の 計画の今後の展開とともに、
新会社が事業の拡大に伴い、どのように組織を構築していくのかについても注意深く見守っていく。
業務推進手順
M U フロンティアサービサーでは、住宅ローンのスペシャル・サービシング部門向けに綿密かつ明確な方針と
手続きを定めている。ローン管理部ではスペシャル・サービシング用に、
「有担保債権回収事務マニュアル」
、
「事務マニュアル(総則編)
」
、
「書式集」
、
「スタッフ向け研修マニュアル」
、会社の方針と従業員が遵守すべき規
則を定めた「コンプライアンス・マニュアル」の 5 種類のマニュアルが使用されている。また、エヌ・エス統
括部においてもスペシャル・サービシングのために、
「住宅ローン債権管理基本マニュアル」
、
「住宅ローン債
権管理マニュアル・書式集」
、
「住宅融資保証業務・督促マニュアル」
、
「架電マニュアル」が用意されている。
方針と手順に関するマニュアルは同社イントラネットに掲示され、数に限りがあるが、ハードコピー
も存在する。従業員が常に定められた手順に従うことができるよう、全スタッフが最新の業務関連
マニュアルを閲覧することができる。
マニュアルは継続的に改訂され、変更点はすべて関連部署の執行役員により承認される。見直しの
一環として、各従業員は担当する特定分野における変更を提案することができる。変更は社内のイ
ントラネットに掲示される。
スタンダード&プアーズは、各担当者が業務手順の意味について理解を深める上で、これらのマニュア
ルが有用であると判断しており、マニュアルの改訂をイントラネットで公表することは、従業員に最新
の事業方針と理念を知らせる優れた方法だと考えている。
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2006 年 6 月
内部監査体制
規則に則った業務の徹底のため、効果的な自主検査と内部監査の制度を持つ。
部門別自主検査
社内の検査規則に基づき、業務特有の事業リスク、業務リスクや社内共通のコンプライアンス・
リスクを部門ごとに検査する。毎月数名のスタッフが任命され、各部門の事務処理や内部管理の
正確性、厳格性、社内規定の順守状況などを確認、チェックする。検査結果は各部門より事務企
画室に翌月 5 日までに報告する。事務企画室は全社分の検査結果をとりまとめ、社長に報告す
る。検査が行われた部門で改善すべき点があれば、それも報告される。改善策の実施状況は、内
部監査部がチェックする。
内部監査
内部監査は、詳細な運営規定に基づき、適時に実施されている。内部監査部は、10 - 14 日間で割り
当てられた部門、もしくは課の内部管理をチェックし、社内の事業全般においてリスク要因を特定
する。内部監査は、監査の内容を定めた年間計画に従ってほぼ毎月行われる。監査後 1 - 2 週間以
内にリスクの度合いを「高、中、低」に分類した詳細な報告書が、社長、社内監査役、経営企画部、
事務企画室、システム企画室、および被監査部門に提出される。被監査部門は、報告書を受け取っ
てから 2 週間以内に、報告書で指摘された問題点の解決策を作成しなければならない。内部監査部
は、その後必要な措置がとられたかどうかを確認する。さらに 2005 年度からは、専門業者に委託し
て、システム監査も実施している。システム監査は、年に 1 度程度の頻度で実施される予定である。
スタンダード&プアーズは、過去 1 年間に各部署で実施された監査において、重要と判断される不備事
項がないことを確認した。
監査や検査は、内部統制の機能を点検する上で包括的かつ十分なものと判断できる。
上記の監査に加え、同社は以下の外部監査を受けることになっている。
サービサー法に基づき法務省が行うサービサー会社に対する検査
監査法人による会計監査
個人情報保護法および情報漏洩防止対策
MU フロンティアサービサーは、2005 年 8 月に情報セキュリティ・マネジメント・システム(ISMS)の
認証を取得するなど、個人情報に関するセキュリティ管理体制の構築に注力している。社内および債務
者の重要な情報が外部へ漏洩するのを防ぐために適切な措置と手順が、以下のとおり定められている。
文書管理保管台帳の管理方法の規定整備
郵便、社内メール、電子メール送付手続きの制定
法定帳簿の保管ルールの制定
FAX 発信ルール手続きの厳正化
書庫整理の定例化
フロッピーディスク、CD-R による文書管理方法の規制
デスク、F A X 、コピー機、プリンターまわりの点検強化
文書などの廃棄業者の定期的な見直し
社内情報管理関連研修を通じた、社員への情報保護策の周知徹底
自主検査、内部監査による情報管理体制の点検
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住宅ローン・スペシャル・サービサー(日本)
M U フロンティアサービサーは情報保護施策の一環として、情報漏洩に備えて 3 億円まで損害が保証さ
れる保険に加入している。
社内研修
M U フロンティアサービサーは、高度な専門性を備えた人材の育成に注力しており、充実した社内研修
を実施している。全社的な研修プログラムの企画およびコーディネートは経営企画部コンプライアンス
担当部長が担当している。研修の講師は主に、サービシングにおける特定の問題について専門知識を持
つ管理職や社内外の弁護士である。研修内容は、以下のとおり。
入社研修:正社員、嘱託、パート、派遣社員全員を対象とした入社時に行われる研修。人事、事務、
システム、コンプライアンス、内部監査などが主な研修内容。
情報管理研修:個人情報保護を含む会社の情報管理・セキュリティ維持についての研修。入社研修
と同様に全員を対象として実施される。
人権研修:人権啓発についての研修。全員を対象に実施される。
法務勉強会:希望者を対象にした、サービサー業務関連の法律についての研修。社外の弁護士が講
師を務め、2 時間のクラスが月 2 回開かれる。
部門別業務研修:部署ごとに設定される研修。アセット・マネジャーとスタッフを対象に、事例研
究などが実施されている。サービサー業務における法律面、実務面の様々な知識の向上を目的に、経
験豊富な管理職と担当者が実例を用いて、1 時間の講義を月 1 回程度実施。
本部主催研修:経営企画部が必要と判断した際に実施される研修。これまでに、重要事務手続きの
徹底、不動産登記法の改正などについての研修が実施されている。
各研修で使用される資料はよくまとまっており、理解しやすい。研修では DVD を用いることもあり、社員は
十分な研修機会を与えられている。また、サービサー事業に関連する社外研修への参加が奨励されている。
社員 1 人当たりの研修時間は年間 50 - 60 時間程度である。スタンダード&プアーズは、研修プログラ
ムがサービサー事業における重要なスキルや知識の向上に役立っていると認識している。また、M U フ
ロンティアサービサーがこれまでに実施してきた研修の効果を継続して分析することによって、研修を
より効果的なものにしていくことを期待している。
システムのバックアップおよび災害復旧計画
ローン管理部は、スペシャル・サービシング業務遂行と、委託者および法務省向けの報告書作成のため
に、下記の 2 種類のサービシング・システムを利用している。
UFJ クレジットリミテッド(UCL)
:システム開発会社の株式会社ユーフィットが開発したシステム。
旧 UFJ 銀行がオリジネートし、UFJ 信用保証が保証している住宅ローンを対象に利用されている。
トータルコレクションシステム(TCS):株式会社アイティフォーにより開発されたサービサー業務用
システム。第三者がオリジネートした住宅ローンおよび UFJ 信用保証が保証を付していない旧 UFJ 銀
行グループ会社によりオリジネートされた住宅ローンを対象として利用されている。
エヌ・エス統括部では、延滞債権については、UFJ ニコスから受託した債権を別の所在地に設定されて
いる TCS で管理している。求償権を含む、スペシャル・サービシング対象債権については、UFJ ニコス
が管理しているデータを直接参照している。
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2006 年 6 月
社内には、IT 専門スタッフが東京に 19 人、大阪と名古屋 1 人ずつ常駐し、問題が起きた際の処理に当
たる。比較的重大なシステムトラブルが発生した場合は、社外の開発業者に対応を依頼することになっ
ており、連絡後概ね 4 0 分以内に担当者が来社する。
ローン管理部で管理しているデータは東京、大阪、名古屋の各拠点のサーバーにリアルタイムで記録さ
れるとともに、千葉県にある親銀行のコンピューターセンターのバックアップ・サーバーでも日次で保
存されている。さらに毎日 2 本のデジタル・リニア・テープ(DLT)に記録し、1 本は各拠点で保管され、
もう 1 本は別の拠点に送られる。東京本社の DLT は大阪に送られ、大阪と名古屋の DLT は東京に送られる。
エヌ・エス統括部で管理しているデータについては、日次で 2 本の DLT に保存され、1 本は東京に、も
う 1 本は専門業者により高度の安全性が確保されている別の場所に保管される。
2002 年 12 月に作成された包括的な IT 災害復旧マニュアルは、2003 年 12 月、2005 年 5 月の 2 回の改訂
を経て整備されている。I T 災害の程度に応じて責任者が任命されている。システム企画室の幹部と社
員は災害マニュアルを自宅でも保管している。ローン管理部のサービシング・システムの IT 災害復旧
テストが、2004 年 1 月と 12 月に東京で実施された。その結果、親銀行のコンピューターセンターに設
置しているバックアップ・サーバーを活用することによって、システム中断後 5 時間以内にデータを復
旧できることが確認された。
2000 年 12 月に一般災害復旧マニュアルが作成され、災害発生時に各社員がとるべき行動の基本手順が
制定された。各社員は、災害時にとるべき行動をまとめた「心得」の所持が求められている。
「心得」に
は、災害時にかけるべき電話番号、とるべき行動に関する情報入手のためにアクセスするホームページ
のアドレスなどが記載されている。
スタンダード&プアーズは、I T 災害が伴った場合でも、比較的短時間で業務再開できると予想してい
る。今後の課題として、エヌ・エス統括部管理のデータについても、自然災害発生を仮定した包括的な
復旧テストを行うことが挙げられる。また、各拠点のローン管理部においても、災害発生を仮定して、
データの復旧テストを 1 2 - 18 カ月ごとに実施することを推奨する。
社員への報酬
各社員に対して 6 カ月ごとに、回収実績および会社への定性的な貢献面で業績評価がなされ、評価に応
じて年 2 回支払われるボーナスの金額が決定される。ボーナスの額は、基準に対し 80 - 120%の差がつ
く。同社の報酬制度は、日本の会社としては標準であると考えられる。
保険
5 0 億円以下の現金、および証券の盗難や紛失は保険で補償される。これは、国内のサービサー会社と
しては典型的な保険契約であるが、前上述のように別途、情報漏洩に備えた 3 億円までの損害をカバー
する保険にも加入している。
訴訟関連
現在、M U フロンティアサービサー自身が被告となる訴訟はない。
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住宅ローン・スペシャル・サービサー(日本)
スペシャル
・ サービシング
: 能力が高い
スペシャル・
サービシング:
回収戦略
執行役員兼ローン管理部長がローン管理部を、エヌ・エス統括部長がエヌ・エス統括部を統括している。
スペシャル・サービシングの住宅ローン債権の額は、それぞれ約 1,196 億円、約 667 億円である。ロー
ン管理部については大阪と名古屋に部長が 1 人ずつおり、各事業所の業務と業績の責任を負っている。
エヌ・エス統括部は、全国の 2 1 拠点におけるサービシングを管轄している。経営陣の主な責務は、不
良債権化した住宅ローンを扱う他のサービサー同様、任意売却の推進により回収額の最大化と回収期間
の短期化を図ることである。M U フロンティアサービサーのスペシャル・サービシング・ポートフォリ
オの約 7 6 %が国内の三大都市圏およびその周辺に集中しており、地方に比べると経済不況の影響を比
較的受けにくくなっていると考えられる。
業務サポート
・ システム
業務サポート・
ローン管理部ではサービシング・システムとして、UFJ 信用保証から回収委託を受けているローン債権
向けに UCL を、第三者がオリジネートしたローンを含むその他のローン債権向けに TCS を、それぞれ利
用している。エヌ・エス統括部では、延滞債権については、委託者のホストコンピューターからダウン
ロードしたデータを TCS で活用している。これらのシステムを通じて、同社は全ポートフォリオの不動
産の詳細情報、債務者情報、支払い履歴を管理している。システムには、リポーティング用のデータ
ベース機能が備わっており、投資家など第三者向けリポートの作成が可能である。システムの操作は平
易で、包括的かつわかりやすいマニュアルが用意されている。担当者が必要な情報に迅速にアクセスで
きることから、業務の効率的な遂行に役立っていると考えられる。
ただし、エヌ・エス統括部のスペシャル・サービシング対象債権については、直接委託者である UFJ ニ
コスのシステムを参照している。債権情報のうち、債務者との交渉記録については、サービシング・シ
ステムでは把握されていない。スタンダード&プアーズは、効率的なサービシング、社内での円滑な意
思疎通、ならびにデータ保存の安全性の観点から、債務者との交渉記録についてもサービシング・シス
テムでの管理体制の構築を推奨する。
スペシャル
・ サービシング担当者へのローンの割り当て
スペシャル・
担当ローンは、スペシャル・サービシング担当者の業務経験、専門知識、業務量などを考慮のうえ、東
京、大阪、名古屋のそれぞれのローン管理部長、およびエヌ・エス統括部の各拠点の責任者によって割
り当てられる。担当者は 1 人当たり平均 90 - 130 件のローンを受け持っているが、国内市場において
は適切な数であると思われる。割り当ての見直しは部長、拠点の責任者により毎年行われる。
スペシャル・サービシングの担当者は豊富な業務経験を有する。担当者の目標は、競売に至る前に、債
務者に任意売却を実施させることによって、各ローンからの回収額を最大化することである。ローン管
理部においては、サービシング業務開始以来、抵当権実行による回収総額に占める任意売却による回収
額の割合は増加している。
回収戦略の策定
スペシャル・サービシング担当者は、物件と債務者について得られるすべての情報に基づいて新規に割
り当てられたローンを分析し、ローン債権の回収戦略を策定する。担当者とその上司はローン債権引き
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受け後概ね 3 0 日以内に債権の回収計画を策定することが求められる。当初の計画による債権回収が困
難と判断された場合は、ローン管理部管理債権については 3 カ月ごとに、エヌ・エス統括部管理債権に
ついては 6 カ月ごとに、回収計画の見直しが行われる。
回収計画の策定プロセス、計画の見直しについては適切であると考えられる。
ローンのシステムへの入力およびチェック体制
ローン管理部において UCL を用いてサービサー業務が行われるローンについては、必要なデータが UFJ
信用保証から直接専用ラインを通じて送られる。これらの入力データは UFJ 信用保証側でチェック済み
である。サービシング・システムには、法務省への報告機能が付加されている。この追加機能は、ユー
フィットが開発・メンテナンスを担当している。ローン管理部が追加したデータについては、ローン管
理部のスタッフと役職者により 2 回チェックされる。
第三者がオリジネートしたローンを含むその他のローンのデータについては、TCS に自動入力できるよ
う、エクセル形式で受け取る。入力されたデータは、サービシング契約とその他の関係書類を参照しな
がら、照合される。照合は、システム企画室員とローン管理部員による二重管理体制のもと行われる。
関連書類が適宜提供されれば、入力データの二重チェックは通常、数時間以内に終了する。
エヌ・エス統括部は、スペシャル・サービシング対象債権については、委託者である UFJ ニコスのシス
テムを参照している。
スタンダード&プアーズは、ローンデータの入力およびチェック体制は十分に合理化されていると判断
し、評価に織り込んでいる。
資金管理
債務者から入金があった場合は、確認とリコンサイルが当日中に実行される。
UFJ 信用保証向けに回収を行うローンについては、債務者は UFJ 信用保証の口座に直接支払う。実際
に支払われた金額が回収予定額と異なる場合は、スペシャル・サービシングの担当者が債務者に連
絡をとり、リコンサイルに努める。
債務者が物件売却による支払いを行う場合には、2 人のスペシャル・サービシング担当者が物件の購
入者に同行し、銀行で支払い手続きを完了した後、指示された口座に回収金を送金する。
回収金がサービサーの口座に振り込まれ、それを顧客口座に振り込む必要がある場合、ローン管理
部員はマネジャーの承認を得た後、経営企画部(経理班)に支払い指示書を提出する。同部署では、
部員と管理職により支払い指示書が 2 回チェックされ、管理職がオペレーションの担当者に対し顧
客への支払いを承認する。
エヌ・エス統括部管理のスペシャル・サービシング対象債権については、債務者から直接、委託者
の口座に資金が振り込まれる。出張決済が必要な場合は、担当者立会いのもと、回収金は受領後た
だちに委託者の口座に振り込まれる。
スタンダード&プアーズは、損失リスクを最小限にするために適切な資金管理が行われていると判断し
ている。
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投資家
・ 委託者向けリポート
投資家・
ローン管理部では、投資家向けのリポートは、UCL と ITFOR TCS を用いて作成される。これらのシステム
は、債務者との過去の交渉、回収記録など、物件とローンに関する必要な情報をすべて管理しており、ス
タッフは報告書作成に必要な情報をすべて入手することができる。リポートは、委託者と M U フロンティ
アサービサーとの間で合意したフォーマットに従って作成される。典型的な月次の報告書には、1 ページ
目に指定された期間(通常 1 カ月)の回収概要が、2 ページ目以降に物件ごと、ローンごとの詳細な回収
内容と回収方法が記されている。このリポートはローン管理部員が作成し、提出する前に所属部署の執行
役員から承認を受ける必要がある。現在までに英文リポートは作成されていないが、作成は可能である。
エヌ・エス統括部では、委託者と合意したフォーマットでリポーティングを行っている。
不動産仲介業者の利用
M U フロンティアサービサーは各地域の不動産仲介業者の幅広いネットワークを持っており、各拠点の
担当者はそれを利用して住宅と土地の適正な市場価格を入手できる。ネットワークに属する不動産仲介
業者の数は 600 社を上回る。
スタンダード & プアーズは、このネットワークを利用することで業務効率が向上していると判断してい
る。同時に、1 )これらの不動産仲買業者から得たデータを蓄積し、システム内でデータベース化して、
業務の一層の発展と効率化を図ること、2 )不動産仲介業者の効率的な管理、が今後の課題となろう。
法律事務所の利用
MU フロンティアサービサーは、同社の業務を熟知している複数の弁護士事務所と親密な関係を維持して
いる。必要に応じて社員が適切な弁護士と連絡がとれる体制になっており、業務遂行に役立っている。
財務的信用力
: 懸念なし
財務的信用力:
スタンダード&プアーズは、M U フロンティアサービサーの財務状況について、現在のところ特に重大
な懸念はないと判断している。
エム
・ユー
・フロンティア
債権回収株式会社
エム・
ユー・
フロンティア債権回収株式会社
英文名
所在地
MU Frontier Servicer Co., Ltd.
本社
〒164-0012
東京都中野区本町二丁目46番1号
中野坂上サンブライトツイン20階
連絡先:経営企画部 TEL 03-3373-5111
FAX 03-3373-5811
代表取締役
10
野々下
伊津巳
Standard & Poor’s ス ト ラクチャ ード ・フ ァイナ ン ス
2006 年 6 月
スタンダード&プアーズ
サービサー評価
サービサー評価とは、種々の債権の回収に従事するサービサーのサービシング能力の客観的かつ総合
的な評価です。この評価は当社の通常の格付けと同様、アナリストによる評価委員会が最終決定いたし
ます。サービサー市場のリーダーである当社は、米国において 1 0 年以上前からこのサービスを提供して
きており、全世界で約 3 0 0 社を評価しています。日本においても、1 9 9 9 年 1 0 月に、格付会社として初め
て評価を開始して以来、着実に実績を積み上げつつあります。
サービサーの対象
サービサー評価は、以下のような種類のサービサーを対象とします。各々のサービサーをスペシャル、
プライマリー、マスターに分類した上で評価します。
商業用不動産担保付債権を取り扱うサービサー
住宅ローン債権を取り扱うサービサー
金銭債権(無担保商業用ローン、個人向け債権)を取り扱うサービサー
評価のランキング
サービサー評価は、「能力が極めて高い」「能力が高い」「能力が十分である」「能力に不十分な点があ
る」「能力が不十分である」の 5 段階のいずれかの評価が与えられます。「能力が十分である」以上の評価
を取得したサービサーは、スタンダード&プアーズの「セレクト・サービサー」リストに加えられます。
サービサー評価のプロセス
1 .同意書締結
サービサーと当社との間で、評価の過程、期間、および費用などについて同意書を締結します。
2 .サービサーによる資料の提供、および実査
評価の対象となる、サービシング業務に係る詳細な資料、情報を提供して頂きます。また業務をより
正確に把握するため、サービサーを訪問し、実査を行います。さらに、必要に応じ、追加資料ならび
に情報の提供をお願いすることがあります。
3 .評価の決定
提出された資料・情報に基づき、当社のアナリストチームが分析を行います。評価委員会における討
議を経て、評価を決定します。
4 .分析結果の通知
サービサーにその結果と理由をお知らせします。評価結果をニュース・リリースすることも可能です。
5 .レポートの作成・公表
評価の根拠とともに、サービシング体制について詳細なレポートを日本語ならびに英語で、作成しま
す。ご希望により、そのレポートを公表いたします。
6 .毎年のレビュー
サービサーの能力の変遷を確認するために、毎年レビューを実施します。
スタンダード&プアーズ(ザ・マグロウヒル・カンパニーズの一部門)より発行 ©2 0 0 6 ザ・マグロウヒル・カンパニーズ
本誌の無断転写・複製を禁じます。ザ・マグロウヒル・カンパニーズ 会長兼社長-ハロルド・W・マグロウⅢ
本社- 1221 Avenue of the Americas, New York, NY 10020, U.S.A.
スタンダード&プアーズ:55 Water Street, New York, NY, 10041, U.S.A.
スタンダード&プアーズ東京:東京都千代田区丸の内 1 - 6 - 5 丸の内北口ビル 2 8 階
スタンダード&プアーズ・レーティング・サービシーズが提供する分析サービスは、 格付け意見の独立性と客観性を保つために、
他の機関から分離・独立して行われています。格付けは意見であり、事実を表明するものではなく、また、証券の取得・保持・売
却を推奨するものではありません。スタンダード&プアーズは、格付け作業の過程で入手する非公開情報の機密を保持するため
の方針と手続を確立しています。
Standard & Poor’s ス ト ラクチャ ード ・フ ァイナ ン ス
2006 年 6 月
11
サンティアゴ
サンパウロ
サンフランシスコ
シカゴ
シンガポール
ストックホルム
ダラス
東京
トロント
ニューヨーク
パリ
ブエノス・アイレス
フランクフルト
ボストン
香港
マドリッド
メキシコ・シティ
メルボルン
モスクワ
ロンドン
ワシントン D.C.
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