PAQS会議の論文等に見るQSの役割

PAQS会議の論文等に見るQSの役割
専務理事
奥田 修一
1. はじめに
PAQS(The Pacific Association of Quantity Surveyors/太平洋QS協会)は、太平洋地域のQS
の職能を普及促進することを目的とした組織で、1997年にシンガポールで第1回大会が開催され、
毎年各国の持ち回りで大会が重ねられている。日本からは(公財)日本建築積算協会が代表組織
として参加している。コスト研は平成23年度(スリランカ)及び24年度(ブルネイ)の大会に参加した。
その目的はコスト研の業務と関係の深いQSの実態と動向を把握することにより、グローバルな動き
をつかんでコスト研の今後の展開に何らかの示唆を得ようというものである。
本稿では平成24年度のブルネイ大会での会議内容及び配布資料等から、PAQSの最近の動
き、QS/コストエンジニアの世界における状況及び提出論文にみるQSの役割と課題について紹
介する。
2. PAQSの最近の動き
PAQSでは2009-2013の5カ年間の戦略計画を作成しており、その役割、ビジョン、ミッション
を次のように明確にしている。
役割
QS職能の先導、広報、開発、促進、奨励
ビジョン
2013年までにQS職能推進の主要地域団体となり、国際活動を促進する。
ミッション
・地域でのQS実務の推進
・地域でのQSの「ベストプラクティス」の推進
・メンバー組織間での対話の推進
・QS実務の地域間協力の推進
・地域での建築実務のより良い理解のための研究の促進
・他のメンバー組織の国で活動するメンバー組織会員への援助
・研究、教育、基準、対話を通してアジア太平洋地域のQS実務の最高水準への
推進及び促進
そして、それを達成するためのビジネスプランを作成し、設定された6つのゴールに対して35の
実施項目を定め、人材、予算、実施、結果の管理をしている。
また、今後のグローバルなコスト管理に影響を及ぼすと考えられるのが2009年のクアラルンプー
ル大会で採択されたKL Pact (協定)の動きである。これは、世界の主なQS関連6組織PAQS、I
CEC(The International Cost Engineering Council)、RICS(The Royal Institution of Chartered
Surveyors) 、 E C C E (The European Council for Construction Economics) 、 A A Q S (African
Association of Quantity Survey)、FIG(International Federation of Surveyors)が一堂に会し、QS
職能の発展のために協力するというものである。
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2011年コロンボ大会で以下の3項目について推進することが申し合わされた。
A 国連及びWTOにQS及びコストエンジニアの職能をCPC分類に位置づけることを要請す
る。
B 世界のQSやCEが使用可能なツールとしてLCCを含むコスト管理ツールをISO基準として
適用する。
C BIM対応の新国際SMM(Standard Method of Measurement of Building Works)をすべての
人が使えるようにISO文書として位置づける。
メンバーはこの3項目について可能な方法で支援することになっている。
AのCPCについては、867(建築、土木及び他の技術サービス)の8675(関連の科学技術コン
サルタントサービス)の86753(測量サービス)の中の一項目としてQS(CE)サービスを位置づけよ
うとしている。当面は2国間あるいは地域間のFTAにおいてQS(CE)サービスを付加することが推
奨されている。
BのISO基準については今後最も大きな影響を与えるもとであると考えられるが、現在入手して
いる情報では詳細はつかめていない。KL Pact メンバーのICECのペーパーによればISO21500
プロジェクトマネジメント基準の下に品質管理、リスク管理、調達管理とともにコスト管理基準を位置
づける方向が示されている。なお、プロジェクトマネジメントのISO基準は9月に策定されている。
3.QS/コストエンジニアの世界的な概観
ICECの事務局長でシドニー工科大学のピーター・スミス教授がQS/コストエンジニア(CE)の
世界での全体像についてブルネイ大会で論文を提出している。以下に概要を示す。
3.1 はじめに
QSは英国に源を発し英連邦各国に普及している。一方、CEという言葉は南北アメリカ、中国と
ヨーロッパの一部で使用されている。他の地域ではPMのような他の職能の一部として認識されて
いる。QSとCEの機能はかなり重なっているが、QSが建設分野なのに対してCEはエンジニアリン
グやプロセスもカバーしている。プロジェクトマネージャー(PM)もQSやCEの業務もカバーしてい
るが、全体としては異なる職能である。
3.2 グローバルなコストオーバーラン問題
建設分野でのコストオーバーランは先進国、途上国問わず問題になっており、5大陸20カ国で
調査によれば平均コスト増加率は鉄道で45%、トンネル橋梁で34%、道路で20%となっている。
公共工事の調査結果では例えばインドの道路プロジェクトでは半数以上が25%以上のコストオー
バーランで、ユーロトンネルは80%、スエズ運河は当初見積もりの20倍、シドニーのオペラハウス
は15倍になっている。
しかし、2008年の世界金融危機からは予算や投資が制限され、予算と工期に合わせることが
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厳しく求められている。これにより、高度なコスト管理(Project Cost Management)が求められるよう
になりその職能が注目されるとともにそれに応えるのも大変になっている。大型プロジェクトが国際
競争にされるようになり、国際的なコスト管理基準や能力、教育、資格登録などが注目されるように
なっている。
3.3 コスト管理職能のグローバル化
グローバル/地域の職能団体
コスト管理職能が世界的に注目され、建設プロジェクトの国際化が進む中で国際的な活動を行
う職能団体や会員が増加しており、また、職能に対する需要も供給をはるかに上回っている。今や
多くのコスト管理に関するグローバル/地域の職能団体があるが、その中でキーとなる団体を以下
に紹介する。
(1) ICEC-The International Cost Engineering Council
1976年に国際的なコスト管理職能の推進のために設立された組織で、傘下にコストエンジニア、
QS、PMの団体をかかえる。確実に成長を続け現在40カ国の団体で10万人のコスト管理職能が
120カ国で活躍している。役割は基準作成等により国際的なコスト管理分野での情報や知識を共
有する中心的な推進役となることである。特に途上国ではコスト管理は初歩的段階にあり、先進国
との開きが大きいのでICECのようなNPOが職能の中央プラットフォームの役割を果たし、傘下の
団体のサポートをする意味は大きい。
(2) RICS-Royal Institution of Chartered Surveyors
1868年に設立され、146カ国に10万人以上の資格者と3万4千人の学生会員を擁する。国際
化を進め今や英国中心というよりは国際組織であり、資産、土地、建設関係の16職能グループが
ある。コスト管理に関しては QSとPMグループがあり、QSは4万人以上を擁する。アメリカ、アジア、
ヨーロッパ、中東アフリカ、オセアニア及び英国の6地域からなる。
(3) AACEInternational-Association for the Advancement of Cost Engineering International
1956年に設立され、前身はアメリカコストエンジニアリング協会で国内中心だったが、世界で活
動するコスト管理職能の認識から会員を広げた。PM、積算、リスク管理、賠償などの分野で世界
で7千5百人の会員を擁する。87カ国に会員がおり、カナダ、中国、エジプト、インド、日本、韓国、
マレーシア、ノルウェイ、パキスタン、ロシア、サウジアラビア、シンガポール、南アフリカなどに支部
がある。
(4) IPMA-International Project Management Association
1965年に設立されたプロジェクト、プログラム、ポートフォリオマネジメント職能を代表する国際
団体。各国を代表するプロジェクトマネジメント団体等により構成される。コスト管理はPMのコア業
務であるためコスト管理職能団体と協力しており、例えばICECとIPMAはコスト管理職能開発に
ついての覚書を交わしている。IPMAはヨーロッパを中心に54の会員協会を擁しており、その内訳
はヨーロッパ33、アフリカ4、アメリカ9、アジア7、オセアニア1である。
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(5) FIG-International Federation of Surveyors
1878年にフランスで設立された世界の調査職能を代表する主要団体である。会員は調査職能
団体、関連団体、企業会員及び学術会員からなる。88カ国の106団体からなり120カ国のサーベ
イヤーを代表している。10の技術委員会があり、第10委員会は比較的小規模だがQS、コスト管
理、PMなどを対象としておりコスト管理職能の世界での重要な役割を担っている。
(6) AAQS-African Association of Quantity Surveyors
1999年に設立されたアフリカの地域QS協会。QS職能団体から構成されるが最近は企業にも
開放された。現在15カ国から16会員。
(7) CEEC-European Council of Construction Economists
1980年代初期に設立されヨーロッパの建設エコノミスト(コスト管理を含む)職能を代表する団
体。基本的に各国の職能団体からなり、英、仏、スペインなど9カ国が参加。
3.4 各国の職能団体と地域での違い
ここでは、各国の職能団体を見て、地域によるそのタイプの違いなどを概観する。
(1) アメリカ
多数のコスト管理職能団体が米国、カナダ、メキシコ、ブラジルなどの南北アメリカ各国で設立さ
れている。コストエンジニアという言葉は独立したコスト管理職能の役割を表すものとして浸透して
いる。米国およびカナダでは1956年からのAACEの活動でこの職能が確立されており、カナダで
は旧英連邦国としてQSがこの職能を代表している。
南アメリカではコストエンジニアという言葉は広く使われてはいるが、まだこの職能自体が確立認
知されるには至っていない。ブラジルコスト管理協会(IBEC)はコスト管理認証システムを開発する
など力をつけており、南アメリカのこの職能の先導役になることを希望している。RICSとAACEはこ
の地域の支部を通じで職能振興のサポートをしている。
(2) ヨーロッパ
ヨーロッパでは、言葉、文化、生産方式、法体系の違いなどから、コスト管理やPMの範囲が国、
地域によりさまざまであり、明確な定義が困難である。したがって、他の地域より職能のアイデンティ
ティーを確立する努力が必要である。ただし、英国だけは他のヨーロッパと異なりQSとコストエンジ
ニアの職能は強力である。職能の相互流通ができないことがヨーロッパの他地域での業務を困難
にしているということも問題視されている。ヨーロッパでは一般にPM職能が強力であり、多くの国で
はコスト管理はPMの領域とみなされている。
(3) 中東
中東でのコスト管理職能協会はヨルダン、クウェイト、レバノン、オマーン、カタール、サウジアラビ
ア、アラブ首長国連邦に見られるが、これらはすべてAACEとRICSの支部であり、当地域がAAC
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EとRICSの影響下に置かれてきたことを表している。オーストラリアQS協会(AIQS)とスリランカQ
S協会(IQSSL)会員が成長する当地域のQS需要に対応するために多数働いており認知されて
いる。地域の成長は当地域の職能開発を促しているが、教育や認証など取り組むべき課題は多い
(4) アフリカ
アフリカではAACEの影響下の国がいくつかあるが、AAQSの存在が示すようにQSがコスト管
理において強力な地域である。
(5) アジア太平洋
この地域ではQSが強いが、中国だけはコストエンジニアの用語が使われている。中国でのコスト
エンジニアリングの出現は過去20年の世界でのもっとも重大な変化である。中国の建設需要の急
激な伸びはコストエンジニアリング部門での職能を要求し、120万人がこの分野で働き、10万人の
資格者を擁し、5千のコストコンサルタントがある。この世界最多人口国の短期間での職能の増大
が世界の職能増大の一例である。
中国とともに世界の人口の3分の1を擁するインドでは1990年代半ばからQSが独立した専門
職能として認知されてきている。旧英連邦でありながら、インドではコスト管理はPMやエンジニアの
業務の一部として行われてきたためQSの認知度が低かった。
3.5 職能の世界でのイニシアチブ
(1) 世界での職能の認知 -国連
国連経済社会理事会(ECOSOC)は経済社会分野での政策担当組織でNGOとの連携を図る
こともその役割である。コスト管理分野では現在ICEC、FIG、RICSの3組織が諮問組織として登
録されている。このことは職能に強固な足場を与え、特にICECは国連に影響力を与える立場にな
った。従ってICECメンバーは国連主催の会議で政策立案に助言を与え、国連活動に関与する機
会を得ることになった。
(2) 世界での職能の認知 -中央生産分類(CPC)
ICEC、PAQS、RICS他の組織はQS/CEの認知を得るべく協力して活動している。CPCは
国際環境での製品やサービスを分類しているがQS/CEはまだ認知されていない。CPCに位置
づけられることは国際的な職能の認知に重要な意味を持つため、今後とも活動は継続される。
(3) 世界での職能の認知 -ISOコスト管理基準
ICEC、PAQS、RICS他の組織はISOのコスト管理基準を確立するため協力して活動している。
国際基準化は職能の認知とともに、相互の共通認識に基づく業務の水準を形作る基盤となる。世
界のPM界はISOのPM基準開発を2007年にスタートさせ、ISO21500PM基準ガイドが委員会
として完了した。(実際は9月に公表された)5年間の開発は簡単ではなかったが、まずはポートフォ
リオ、プログラム、そしてプロジェクトマネジメント基準の第一段階として行った。コスト管理職能はこ
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のPMの基準開発に多くを学ぶべきである。実際多くのコスト管理専門家がISOの委員会に関わり
原案作成をしている。ICEC、PAQS、RICS他の組織は国際PM協会(IPMA)に協力関係を広
げ、実際的で手間のかからない方法としてコスト管理基準をPM基準のサブセットとして位置づける
方針である。
3.6 結論
コスト管理職能は世界的にその認知度を増してきている。それがQS、CE、PMその他どの名称
のもとで行われたにしろ基本は共通である。職能によるサービスはトータルコストマネジメントやプロ
ジェクトコントロールという形で更にその範囲を広げている。世界の人口の1/3を占める中国とイン
ドでは、これまでコスト管理が独立した職能として認知されていなかったので、今後の職能の増大
は最大の未来図である。
今後、世界で職能の確立を推進するためには職能協会間の協力がカギとなる。多くの協会、個
人、企業が職能確立を支える中でICECはNPOとして、他協会との競合関係になくそれらを束ね
る存在として先導役を務める。
4 論文に見るQSの役割と課題
今年度のPAQSに提出された論文は表-1に示す41題でQS、PMあるいは契約調達に関する
ものが半数以上の26件を数える。このうち、コスト管理職能の今後を動向について示唆するものと
して6題を取り上げその概要を示す。なお、19番についてはQS/CE職能を世界的に概観したも
のであり前章で詳述している。
4.1 中国建設業における経済改革 コストマネジメントの実態
6番は中国の建設業の経済改革及びコストマネジメントの改革について文献調査及び大規模プ
ロジェクトの関係者へのインタビューによりまとめたものである。
中国は1949年の共和国建国以来中央集権の計画経済で、建設についても国営で価格も国定
であり生産性向上のインセンティブも乏しかった。しかし、1978年の改革開放政策により市場原理
を導入してからは、外国との貿易、投資、JVの促進でその成長は目覚ましいものがある。現在も中
央政府の強い指導下にあるが、建設業は中国の主要産業として経済を先導している。
建設コストに関しては、改革開放以来競争入札の導入、公定価格から市場価格への移行、西
洋式BQの導入、西洋式のコスト管理の導入などにより変革が進んでいる。コスト管理の職能につ
いては建設市場の伸びにより需要は増大していたが、認知されるのは1990年に中国エンジニアリ
ングコスト協会(CECA)が設立されてからである。建設部門のコストエンジニアは建設部への登録
が義務付けられており、2000年の制度スタートから10年少しで1万1千人が登録されている。もう
一方の職能増大の起爆剤となったのは登録コストエンジニアがサインした入札前見積もりが入札
法により求められることになったことである。コストコンサルタントはクラスAとクラスBに分類されクラス
Aはプロジェクトの地域や金額の制限がない。5600のコストエンジニア企業が登録され、Aは160
0、Bは4000である。企業はまず5千万人民元以下のプロジェクトに制限されたBに登録され、3年
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表-1 PAQS論文分析
題名
提出者(代表)
国
職業
ジャンル
1 南アフリカのQS会社の戦略的経営と生き残り
DJ・ホフマン
南ア
大学講師
QS
2 DEAモデルによる中国建設産業のエンジニアリング費用の効率性に関する研究
ヘ・リ
中国
大学院生
建設業
3 統合コンサルの視点による全プロセスコストコンサルビジネスの実施に関する研究
ジンチン・ヤン
中国
大学院生
PM
4 ステークホルダー論による統合都市交通プロジェクトの機能要請に関する研究
シャオリー・チャン
中国
大学院生
PM
5 日本の建設会社のマイクロデータによる収益性の分析
岩松準
日本
研究員
建設業
6 中国建設業における経済改革 コストマネジメントの実施
ピーター・スミス
豪
大学教授
建設業
7 中国式のBQにおけるマネジメント報酬に関する研究
トン・スン
中国
大学院生
契約調達
8 ファジー理論に基づく複合ユニットプライスのリスク評価に関する研究
アナ・ダイ
中国
大学院生
契約調達
9 プロジェクト設計初期におけるBIMによるコンカレントエンジニアリングの活用
佐藤隆良
日本
コンサル
PM
10 多組織が関与する建設プロジェクト及びコストの異なる管理方法
エレン・ラウ
香港
大学教授
PM
11 異なる契約におけるQSの役割のレビュー
エレン・ラウ
香港
大学教授
QS
12 持続的発展を達成するためのエネルギーパフォーマンス契約の枠組み
パトリック・T・I・ラム
香港
大学教授
環境
13 オーストラリアにおけるオフサイト製造工程の基本モデル
ラッセル・ケンリー
豪
大学教授
PM
14 非民間の都市インフラ建設のためのプロジェクトマネジメント方式の選択に関する研究
スン・シン
中国
大学院生
契約調達
15 標準建設入札書類の評価基準の適用に関する研究
シンゴン・ヘ
中国
大学院生
契約調達
16 東日本大震災と日本の建設産業の現況について
楠山登喜雄
日本
大学講師
建設業
17 南アフリカ東ケープ県の新興建築業者のビジネススキルについて
DJ・ホフマン
南ア
大学講師
建設業
18 FM機能分野における主な制約のリスク分析:豪及びニュージーランドの大学での検討
ミザツル・アイシャ・カマラザリ ニュージーランド 大学講師
PM
19 QS/コストエンジニア職能の世界的な高まり
ピーター・スミス
大学教授
QS
20 マレーシアにおけるBQの維持の難しさに関する理解
シャムスルハリ・バンディ マレーシア
大学教授
QS
21 プロジェクト調達方式選定のための影響要素インデックス方式の研究
フヤン・ツォウ
中国
大学院生
契約調達
22 香港の大手建設会社におけるイノベーション
イザベル・Y・S・チャン
香港
大学教授
建設業
23 スリランカの学生へのQS訓練における教官と訓練生の知識移転
L・D・インドゥニ
スリランカ
大学教授
QS
24 大学での学習と産業界での業務との同時進行 豪の経験
アンソニー・ミルズ
豪
大学教授
QS
25 異常な価格変動による固定価格契約におけるプロジェクトの価格調整に関する研究
ソン・ヤン
中国
大学院生
契約調達
26 イノベーション要素と業績指標:システム的なレビュー法
シニング・リャン
香港
大学教授
建設業
27 BIMの適用に当たりQSが検討すべき分野-優先順位と影響度のバランス
クエク・ジン・ケイト
マレーシア
大学教授
QS
28 拡大強化するコストコンサルタントの先端的サービス市場の機会と挑戦への行動的対応
タン・イーウェン
中国
コンサル
PM
29 統合交通ハブプロジェクトの紛争調整に関する調査
チーチャオ・フー
中国
大学院生
PM
30 スリランカ建設業者の財務リスク管理ツールとしてのヘッジング
フェルナンド・W・C・K
スリランカ
大学教授
建設業
31 建設ー移転プロジェクトにおけるリスク分担に関する研究
ハイロン・タン
中国
大学院生
契約調達
32 リスクを減らす:現場ベースでの小ステップ出来高払いと下請支払プロセスの自動化
ラッセル・ケンリー
豪
大学教授
PM
33 BT方式の都市鉄道プロジェクトのエンジニアリング管理の研究-深玔地下鉄のケース
ゴンジー・アオ
カナダ
大学院生
PM
34 エンジニアリング費用に基づくエンジニアリング保険率の算定方法に関する研究
ツェンヤン・チャン
中国
大学院生
契約調達
35 全身体感温度に対する部分体感温度の影響
深川健太
日本
大学教授
環境
36 夏場の日常生活の行動に関する熱環境
時場国人
日本
大学教授
環境
37 FMの建築的側面と高齢者の生活の質(満足度)との関係
リューン・M・Y
香港
大学教授
環境
38 冬場の寒冷環境での段階的変化の心理的反応への影響
安藤由香
日本
大学教授
環境
39 戸建て住宅の断熱効率と暖冷房の省エネ効率
蔵澄義人
日本
大学教授
環境
40 近代的日本住宅の実生活状態に基づく衣服の断熱効果の測定
大和義明
日本
大学教授
環境
41 持続可能性設計の発展へのQSの貢献
シースー・ミンエネ
シンガポール コンサル
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豪
QS
後に無制限のAに変更できる。なお、Bは最低6名のコストエンジニア、Aは10名のコストエンジア
を必要としている。
中国建設投資の短期間での急成長はコスト管理職能にとって国内外ともに大きな機会ではある
が、業務の質を伴わせるのも重要であり、大学でコストエンジニアコースが初めて出来てからまだ1
0年も経過していない中国の現状では、主要な役割を演じるCECAや香港調査士協会(HKIS)
に対するRICS、ICEC、PAQSなどの協力が重要である。
4.2 プロジェクト設計初期におけるBIMによるコンカレントエンジニアリングの活用
9番は設計初期段階でのBIMを活用したコンカレントエンジニアリングの可能性について論じて
いる。日本の建設分野での生産性の課題は、建設にかかわるプレーヤーが細分化され、段階を踏
んでのシーケンシャルな業務の進め方にある。コンカレントエンジニアリングを活用し、プレーヤー
がチームで協力して同時並行で作業を進めれば時間のエロスをなくし、プロジェクトの最適化を図
ることができる。そのための強力なツールとなるのがBIMであり、情報の共有と代替案比較を容易
にできるため、意思決定をサポートできる。コスト管理についていえば初期段階ではBIMによる概
算数量と、建築要素ごとのコスト情報を組み合わせることによりリアルタイムでの比較検討が可能で
ある。今後、BIMの急速な進展により、QSも初期段階でのより効率的なコストプランが可能となる。
4.3 異なる契約によるQSの役割のレビュー
11番は種々の契約におけるQSの役割についてレビューしている。
独立したQSの役割は、お金に関する意思決定において中立的な立場であることを特徴としている
が、問題はいかにそのことが手続き上疑いなく保証されているかどうかである。本論文はアンケート、
インタビュー及び通常用いられている契約書の内容を調査し、契約において公 正、中立、倫理が
守られているか検討している。その結果、明確でない契約条項や、エンジニアを通じての(下請の
形での)契約で中立性が守りにくい場合などが報告されている。プロジェクトが大規模化、複雑化し
ている中ではQSの役割も他のプレーヤーと共同・連携する必要があるし、QS業務の範囲も広げる
必要が出ている。
4.4 マレーシアにおけるBQの維持の難しさに関する理解
20番はマレーシアにおけるBQの課題を文献調査により分析している。マレーシアではBQの作
成はQSの主な収入源であり、QSは従来型のこの業務にすがっているが、このままの形でBQが生
き延びられるか疑問を持たれている。しかし、BQは別の見方をすれば情報の宝の山であり、そのポ
テンシャルを幅広く活用できれば大きな可能性があるし、BIMとBQのノウハウが橋渡しできればQ
Sも最後尾でびくびくすることなく産業最先端の仕事ができる。
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4.5 BIMの適用にあたりQSが検討すべき分野 優先順位と影響度のバランス
27番はBIMの適用に当たりマレーシアのQSが研究すべき分野について、インタビュー(アンケ
ート)及び公開討論により検討している。10の研究分野について優先度と影 響度についてまとめて
いるが、優先度については「BIMツールとしての見積もり、コストプラン及びコストモデル」と「効率的
なプロジェクト実施のための設計・調達の統合」が評価され、影響度については「BIMツールとして
の見積もり、コストプラン及びコストモデル」と「標準化されたプロトコルとコードを通じての高度な建
築コスト情報管理」が評価されている。マレーシアでは2011年12月に王立調査士協会(RISM)
がBIM技術委員会を立ち上げたばかりであり建設産業のBIMの展開にQSもついていく必要があ
るとしている。
4.6 拡大強化するコストコンサルタントの先端的サービス市場の機会と挑戦への行動的対応
28番は中国におけるエンジニアリングコストコンサルタントのハイエンドサービス市場への対応に
ついてコンサルタントの立場から述べている。
中国では建設市場が急拡大する中で2種類のコンサルタント市場が拡大している。一つは全プ
ロセスコストコンサルサービスである。中国では経済成長とともに建設プロジェクトの大規模化が進
み、建設サイクルも継続的に圧縮され、投資速度も増大している。こうした中で発注者は従来は分
割委託してたコストコンサルを、プロジェクト企画からプロジェクト投資の最終会計まで一貫した全プ
ロセスコンサルとして委託するようになった。ただし、発注者の理解やコンサルの能力を含めてまだ
十分に市場の拡大に対応しているとは言えないので、関係者の共通理解を進める必要がある。ま
た、プロジェクトのトータルの投資管理のためには全プロセスコストコンサルが不可欠であるが、それ
を担うためにはこれまで以上の幅広い知識と能力が求められる。
二つ目は新型産業でのコストコンサルである。産業構造の転換と高度化に伴い新産業の建設プ
ロジェクトが増えているが、これらは規模が大きいこととカバーする専門分野が多いことが特徴とな
っている。例えば交通インフラ、水開発、石炭産業、化学産業などであり、投資判断や資産運用な
どに対応できることでコストコンサルはこの市場に参入できる。当社は石炭化学プロジェクトに関与
したが、オーナーと買収側が合意し、建設プロジェクトの投資判断について両者から委託された。
作成されたデータは買収交渉のベースとなり、以降当社は石炭化学産業から多くのコンサル業務
を獲得することができた。このタイプのコンサルは多くの専門知識が必要であり、多専門チームを成
功に導く人間関係、規律、柔軟性などの高度なスキルが必要である。
これらの高度な新需要に対応するためには、コストコンサルは過去の経験を蓄積し、サービスの
品質管理を確立して強固な基盤の上に統一的な手続きと基準で業務を行う必要がある。また、高
度な要求に迅速に対応できる情報システムの確立も重要である。
5 コスト研としての取組みへの示唆
コスト管理の職能については各国で差異があるが、共通する部分も多くグローバルなトレンドは
いくつかに集約できるものと思われる。
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A リーマンショック以降の厳しい世界経済状況により、コストに対する要求が増大しており、これ
に伴いコスト管理の重要性が増している。
B プロジェクトの大型化、複雑化、時間的制約、調達方式の多様化などに伴い川上から川下ま
で、すなわち企画から運用までの一貫したコスト管理が求められている。
C FTAの導入等により建設市場の国際化が進み、国際的な基準の重要性が増している。
D BIMの導入によるコスト管理の手法の開発及び実施が求められている。
E コスト管理においてコストのみでなくバリューの視点も求められている。
これらに対応して、コスト研としては関係機関と協力・分担のもと、以下の取組みが必要と思われ
る。
A 川上から川下まで一貫したコスト管理に向けての検討。
B コスト管理についての国際的な基準に関する情報の収集と提供。
C BIMの導入によるコスト管理の手法の検討。
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