自動車の熱管理技術と課題

1
自動車の熱管理技術と課題
トヨタ自動車(株)
車両基盤企画部 車両統合技術開発室
松野 孝充
TOYOTA
2
都市環境
排気ガス
自動車と環境
地球環境
CO2
エネルギー需給
リサイクル
TOYOTA
3
究極の環境対応車をめざして
究極の環境対応車
Gate3
エネルギーセキュリティ
Gate2
CO2削減
THSⅡ FCHV
THS
合成燃料
バイオ燃料 ハイブリッド技術 PHV
ディーゼル HV
DPNR
Gate1
排ガスクリーン化
CNG
代替燃料
エンジン
コモンレール
ディーゼル
エンジン
D-4
リーンバーン
VVT-i
ガソリン
エンジン
EV
電気
エネルギー車
TOYOTA
4
CO2排出量規制
出典:Y.Matsuda:Toyota’s Powertrain Strategy・・・
32.International Wiener Motorsymposium 2011
TOYOTA
熱マネージメントの目的
5
暖機完了後のエネルギーフロー
車速
(km/h)
燃料Q
燃料Qf
エンジン
回転数
(rpm)
100%
エ
ン
ジ
E/
ン
G
エンジン
冷却水
温(℃)
冷却水受
熱量
Qw 35%
排気損失
Qex26%
エスティマHV
HV化で効率向上したものの
まだ60%は熱損失
→有効エネルギーへ変換(Recycle)
エンジン仕事量Le
エンジン仕事量Le
39%
更なる燃費向上
時間(sec)
時間(sec)
冬季コールドスタート時エネルギーフロー
エンジン暖機
Qm 11%
車速
(km/h)
燃料Qf
燃料Qf
エンジン
回転数
(rpm)
100%
エンジン
冷却水
温(℃)
時間(sec)
時間(sec)
エ
ン
ジ
ン
冷却水受
熱量
Qw 43%
ボデー放熱
Qb 13%
ヒータ放熱
Qh 24%
排気損失
Qex 33%
エンジン仕事量Le
エンジン仕事量Le
24%
その他
Qs 9%
換気損失
Qv 11%
初期熱需要により
燃料消費増し効率低下
→需要低減(Reduce)
蓄熱(Reuse)
排気熱利用(Reuse)
燃費と快適性の両立
出典:中川ら 排気熱再循環システムによる冬季実用燃費向上 自技会誌 Vol.61 No.7
TOYOTA
6
燃費の季節変動
乗用車の都道府県別・月別燃費
出典:中川ら 排気熱再循環システムによる冬季実用燃費向上 自技会誌 Vol.61 No.7
TOYOTA
次世代スモールハイブリッドコンセプト「FT-Bh」
7
欧州燃費測定方法:2.1L/100km
CO2排出量: 49g/km(現在のBセグメント車の1/2) →低油水温によるフリクション増
暖房時の室温低下が顕著化
車両仕様:空車重量786kg・Cd0.235・1000cc 2気筒アトキンソンサイクルエンジン
出典:トヨタ自動車 ニュースリリース2012.03.06
TOYOTA
9
熱管理技術
①熱供給量低下に対応した需要低減
需要低減:エンジン車室等のヒートマス、放熱ロス
エンジン・T/Mの低温効率改善
→ 需要低減
・低温フリクション低減
低温フリクション低減
・断熱材/
断熱材/遮熱ガラス
②熱需給のミスマッチ
・顕熱蓄熱
・潜熱、化学蓄熱
時間的なズレ:初期需要大、暖機後需要小
→ 蓄熱
空間的なズレ:排ガス、エンジン油水、駆動油、室内
→ 熱輸送
・排気熱回収
排気熱回収
・熱分配ループ
・熱分配ループ
→ 熱創出
・ヒートポンプ
③効率よく熱を創る
④熱供給過多:夏or高速走行etc.
→ エネルギ変換
・スターリングサイクル
・ランキンサイクル
・熱電発電
・廃熱冷房
TOYOTA
10
熱需要の削減 Reduce
TOYOTA
11
エンジン暖機需要熱の低減
Reduce
・大雑把に言えば130kJ/K
・基本:冷却水等熱マス低減
・次に熱を拡散させない
冷却水循環
潤滑オイル循環
部材伝熱
エンジン
燃焼熱
冷却水
オイル
エンジン冷却用電動ウォータポンプ(エンジン装着状態)
蓄熱の利用:必要熱量の削減とセットで。
出典:アイシン精機ニュースリリース2009.05.21
TOYOTA
12
暖房時の熱エネルギーフロー
7.5%
ガラス放熱
エンジン表面放熱
冷却
11%
25%
75%
暖房
熱負
荷
水熱
量Q
w
Reduce
ボデー放熱
換気熱量
8.5%
車室内部品蓄熱
48%
外気温 ‒20℃
20℃ Coldスタート
Coldスタート
GoGo-Stop走行
Stop走行 30分後
30分後
TOYOTA
Reduce 13
換気損失低減;内外気2層HVACユニット
低温環境での湿度コントロールが今後重要
出典:宮嶋ら 内外気2層エアコンユニット デンソーテクニカルレビューvol.2 No.4
TOYOTA
Reduce 14
ボディ熱損失低減(主に冷房視点);断熱材配置・熱線吸収ガラス
ルーフ断熱:シンサレート(1.5m2)追加
シンサレート貼付部位(
シンサレート貼付部位(平面視)
ルーフ断熱(スラブウレタン)
高熱線吸収ガラス
フロア断熱(RSPP)
高熱線吸収ガラス
1st.Gen.Prius
新たな付加物ではコスト・重量が課題
1st.Gen.EstimaHV
出典:トヨタ自動車 新型車 解説書
TOYOTA
15
ウォームアップ時内装材の熱損失
Reduce
ドア(外気への放熱がある部位)
0.25
1
0.25
熱流Q=
(Tr−To)+ΣmCp(Ti-To)
(Σd/λ+Σ1/α)
A 貫流損失分
蓄熱分
λ:熱伝導率を下げる
d:断熱材の板厚を上げる
0.15
m:質量低減
Cp:比熱低減
0.1
0.15
0.1
0.05
0.05
貫流損失分
0
0
0
600
1200
1800
乗車時間(sec)
2400
m:質量低減
Cp:比熱低減
33分
33分
蓄熱分
熱流Q= ΣmCp(Ti-To)
蓄熱分
0.2
熱流(KJ/s)
0.2
熱 流 ( K J / s)
インパネ(外気と接していない部位)
3000
3600
0
蓄熱分
600
1200
1800
2400
乗車時間(sec)
3000
3600
・内装トリム材の低ヒートマス、低熱伝導率化をコスト、見栄え等と両立の必要有り。
・外断熱は効果小
TOYOTA
16
空間・時間的需給調整 Reuse
TOYOTA
17
蓄エネルギー密度
Reuse
化学エネルギー
体積エネルギー密度 [kJ/L]
100000
化学蓄熱
10000
1000
フライホイール
(5500rpm@NR)
燃焼エネルギー
100
2次電池
圧縮空気
(20atm)
10
1
0.1
揚水
(落差500m)
10
潜熱蓄熱材
1000
100000
0.1
重量エネルギー密度 [kJ/kg]
エネルギー容器としてはLi電池以上のポテンシャルが必要
TOYOTA
18
蓄熱システムの可能性
形態
蓄熱材
Reuse
は車両で採用実績有り.
実施例
水
コンクリート
顕熱蓄熱
レンガ
低
Ritter Fahrzeug Technik
温水蓄熱
Denso→Toyota
温水蓄熱
水和塩
有機塩
潜熱蓄熱
パラフィン
無機塩
無機塩
金属水素化合物
化学蓄熱
アンモニア化合物
有機物
材料の蓄
熱密度
中
Modine & merck→BMW
LiNO3/Mg(NO3)2・6H2O
NREL
相変化材料
Shtuz→VW
水酸化バリウム八水和物
高
Ergenics,USA
水素吸蔵合金
TOYOTA
19
顕熱蓄熱システム
Reuse
’03 プリウス
動機:スタート初期の排気エミッション改善
全体システムはやや複雑
出典:H.Kobayashi et al. Toyota’s Heat Management system
25.International Wiener Motorensymposium 2004
TOYOTA
20
Reuse
燃費にも効果有り
タンク内での温水・冷水混合回避
TOYOTA
21
排気熱回収システム
構造動作等
Reuse
エンジン暖気性向上
ヒータ熱量確保
エンジンストップの早期化
エンジンストップの頻度増
冬季燃費向上
出典:中川ら 排気熱再循環システムによる冬季実用燃費向上 自技会誌 Vol.61 No.7
TOYOTA
22
Reuse
ベース.csv
排気熱回収器ON.csv
100
温 度
(℃)
車速
(km/h) 50
60
0
4000
エ ン シ ゙ン水
温
ヒータ吹出温
度
排気熱回収
器有り
40
排気熱回収
器無し
20
0
500
時間(sec)
時間(sec)
1000
エンジンストップの早期化
エンジン 3000
回転数2000
(rpm)
1000
0
80
70
エンジン 60
水温 50
(℃) 40
30
20
10
0
-10
0
排気熱回収あり
排気熱回収無し
200
400
600
800
1000
1200
1400
時間(sec
)
時間(sec)
快適性:ヒータ吹出温約7℃の効果
燃費:8%冬季燃費向上
出典:中川ら 排気熱再循環システムによる冬季実用燃費向上 自技会誌 Vol.61 No.7
TOYOTA
23
エネルギー変換
Recycle
TOYOTA
ブレイトンサイクル
熱エネルギー変換
Recycle
圧縮機
膨張機
熱交換器
T
C
100
理論最大変換効率
カルノーサイクル
80
スターリングサイクル
60
冷却
ランキンサイクル
動力
ブレイトンサイクル
40
タービン
凝縮器
蒸発器
サイクル効率 (%)
25
熱
20
ランキンサイクル
0
0
200
冷却水
400
600
P
800
1000
1200
サイクルの最高温度 (℃)
スターリングサイクル
排気ガス
廃熱
蓄熱
廃熱源
膨張ピストン
動力
放熱
圧縮ピストン
TOYOTA
26
冷却水熱源ランキンサイクル
Recycle
1993年 検討
Working Fluid(Vapor) HCFC123
Glass
Torque Meter
Max112℃
Working
Fluid
(Liquid)
1
Engine
(Evaporative
Cooling)
Expander
カローラ1.5L
Powder Brake
圧力
P
PH
4
Pump
2
3
Fan
QW(エンジン冷却熱量)
4
4’
LP
(ポンプ動力)
PL
3
1’
1
LT
(エキスパンダ出力)
2
QC (コンデンサ放熱量)
Condenser
エンタルピh
Receiver Tank
・エンジンを冷媒で沸騰冷却、エキスパンダーで動力回収
出典:S.Ogino et al. Waste Heat Recovery of Passenger Car・・・
SAE Technical Paper 930880
TOYOTA
27
Recycle
実験結果
ENERGY RECOVERY (W)
500
Qw=12.5kW
400
40km/h
8.3kW
300
200
6.4kW
アイドル
100
0
0
1000
2000
3000
EXPANDER SPEED(RPM)
FUEL ECONOMY
IMPROVEMENT RATE (%)
AMBIENT
TEMPERATURE=25℃
TEMPERATURE=25℃
6
4
2
0 10
20
30
40
AMBIENT TEMPERATURE(℃)
・変換効率は約3%
・エキスパンダー効率改善、高温熱源(排ガス)の利用
・ランキン用熱媒体開発が必要
TOYOTA
29
エンジン横置き形スターリング機関
Recycle
∼’10 検討例
Flow loss 83w
Exhaust Heat
Loss 19w
Indicated Power
0.82kw
Target Heat Input
3kw
Loss 19w
Heat Loss
1.7kw
Net Power 710w
Input
2.3kw
Indicated Power
0.82kw
Fig 9 Heat balance
Net Power
0.71kw
= 4.6%
Ex.Heat Input
15.3kw
出典:矢口ら 排気熱回収スターリングエンジンの研究
自技会 学術講演会前刷集 No.45-10
TOYOTA
30
熱電発電効率と材料特性
理論変換効率
Th-Tc
1 + ZT - 1
ηmax =
´
Th
1 + ZT + Tc/Th
ZT:素子性能指数
【%】
Recycle
60
理論変換効率
ηmax
カルノー効率
50
ZT=8
40
ZT=4
Qin
高温側
Th(K)
p型素子
低温側
Tc(K)
P
30
N
n型素子
ラジエータ
Qout
ZT=2
ZT=1
20
10
冷却水
0
1
2
3
発電量:P=Qin×η
Tc=60℃時
(Th=400℃
Th=730℃
Th/Tc
4
Th=1000℃)
TOYOTA
32
廃熱回収による冷熱・温熱生成
長所:省電力消費 短所:体格大(搭載性難)
TOPMACS was part of the EU 6th framework
program (STREP) research. <2005 – 2009>
Dimensions:
900 x 400 x 500 <180L>
Weight :
85 kg
Average Cooling Power:
900W on board
2500W on Lab test
•
出展 :http://www.ecn.nl/docs/library/report/2010/m10002.pdf
TOYOTA
33
技術開発支援の例
TOYOTA
34
【欧州】 エコイノベーションクレジット
(EC)No725/2011
・ECモードテストでは効果が表れない先進CO2低減技術の効果を評価し、認められれば
最大 7g/km のCO2排出クレジットの付与。
技術事例(未確定)
LED exterior lighting (LEDライト)
Battery charging solar roof (ソーラー充電)
Efficient alternator (高効率オルタネータ)
Engine heat storage (エンジン保温・蓄熱)
除外規定
すでに130g/km規制で補完的措置10g/km分として認定されたもの
高効率エアコンシステム、低転がり抵抗タイヤ、ギヤシフトインジケータ、バイオ燃料の使用
TOYOTA
35
【米国】 オフサイクル技術クレジット
RIN 2060-AQ54
17MY-25MY CAFÉ/GHG規制値に対して、FTPサイクル、Hwyサイクルテストに効果が表れない
燃費向上アイテムに燃費クレジットを付与
高効率ライト
高効率ライト
エンジン排熱回収
エンジン排熱回収
ソーラールーフパネル
可変エアロパーツ
可変エアロパーツ
エンジン Start&Stop
電動ヒータウォータポンプ
電動ヒータウォータポンプ
アクティヴトランスミッション暖機
アクティヴトランスミッション暖機
アクティヴエンジン暖機
アクティヴエンジン暖機
日射熱抑制(
日射熱抑制(ガラス、塗料)
ガラス、塗料)
TOYOTA
36
まとめに代えて
自動車における熱エネルギーの有効利用に関して現状と課題をまとめた。
今後、下記についての研究開発が重要と思われる。
<冷暖房熱負荷低減>
軽量・低コストの内装トリム材料 熱反射ガラスの低コスト化 車室内湿度制御
<ヒートポンプシステム>
低温作動 高効率維持 着霜対策 システムの簡素化
<蓄熱システム>
材料探索、特性改善 システム化 モジュール化
<エネルギー変換技術>
高ZT材料開発、特性改善 熱交換器合理化 まずは熱→冷熱利用か?
TOYOTA
37
笑顔のために、期待を超えて
ご清聴ありがとうございました。
TOYOTA